黒いゴライアスとかイシュタル編とかすっ飛ばすしかないと思ってたけど、どうにかプロットを練れた。このまま終わろうと思ってたのこれが理由である。
「彼等は仲間の為に身命を投げうち、この18階層に辿り着いた。仲良くしろとは言わないけれど、冒険者として欠片でもいいから敬意をもって接してくれ。……それじゃあ、仕切り直そう」
ダンジョン18階層。地上の太陽代わりに陽光に似た光を放っていた天井の水晶から輝きが薄れ、夜のような暗さに包まれていた。僕の看病をしてくれていたアイズさんに案内された先である野営地の中心部では、沢山の人が魔石灯を囲むように大きな輪を作って座っていた。
一方的にお世話になる申し訳なさと自分に突き刺さる興味の視線に委縮しながら人気のない所に座るとフィンさんが立ち上がり、僕達の紹介をしてくれた。雲の上の存在に等しい第一級冒険者で、自分とは比べ物にならないほど優れた団長としての彼の立ち振る舞いに目を奪われないと言えば嘘になるが、今の僕にはそれ以上に気になる……というか重要なことがあった。
「さぁベル。私に『あーん』をしながら食べさせてください」
「あ、あーん……」
大勢の人、それも想い人であるアイズさんもいるのにおねだりをしてくるリリのことである。隣に座るリリは普段身に付けている兜の代わりにただの布切れを目に巻いているせいで視界が閉じられており、誰かの手を借りなきゃいけない状態らしい。
いつも世話になりっぱなしだから手を貸すことに苦はないんだけど……同じく隣にいるアイズさんにまじまじと見られてすごく恥ずかしい。おまけに周囲からの視線が痛い。フィンさんとティオネさんに至っては怖い。特にフィンさんは顔がどの方向を向いていても目だけはこっちを見てる。
最初は移動する時に幼い子供が親にねだるように手を広げて「抱っこを所望します」なんて言ってきたけど、アイズさんがやろうかと名乗り出た途端に手を繋ぐくらいで良くなった。アイズさんは怪我人の僕に負担をかけないほうがいいと言ってくれたけど、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。
――ちなみにリリは視界が塞がれても日常動作に支障はない。戦闘も七割くらいの力でこなせる。視界を狭め、色覚を歪めるような兜を常日頃から被っているのだ。目を閉じても歩くくらい鼻歌混じりでもできる。ベルに甘えているのは
小振りな口を開いて待つリリに綿を蜂蜜に浸したかのような
「もしかしてベル、
「う、うん……あげる」
「あげる、ではありませんよ? あーん、です」
「ああ、ベル、任せろ。俺が全部食ってやる……ん、こりゃ確かに甘過ぎゃあああああ!?」
ヴェルフが悲鳴を上げた。僕の食べかけの
一瞬の早業にアイズさんもきょとんとしてる。僕も目が見えないなんて信じられないリリの
そんな在りし日の思い出に浸っていた僕を正気に戻したのは
ボグン! ガコン! コキュッ。
……ヴェルフは白目を剥いて横たわり、リリは何事もなかったかのように食事を再開してる。腕の関節を外した瞬間に嵌め直し、絶叫を散らしそうになったヴェルフの首を絞めて意識を落としたとは思えないほど静かに水を飲んでいる。
「ベル、あーんです」
「あ、あーん」
にこやかに微笑みながらスープを掬った匙を差し出してくるリリ。布で見えない瞳がどうなっているか想像するだけで恐ろしい。目が見えないんじゃないかと指摘することもできず、僕は震えないようにスープを飲むのが精いっぱいだった。
「アルゴノゥトくーん!」
誰なのかすぐわかる元気な声で僕のあだ名を呼びながらティオナさんが歩み寄ってきた。その後ろにはティオネさんもいて、双子のアマゾネスはこちらに近付いてきたかと思うと……僕の両隣に腰を下ろした。
揺れる大きな胸やくびれた腰など、非常に目のやり場に困るアマゾネス姉妹に真隣を占領された僕は真っ赤になった。リリが見るからに不機嫌になったことに気付いてないのか、右隣のティオナさんは笑みを絶やさず聞いてきた。
「どうやったら
大勢の前で【ステイタス】をバラされたことに顔が引きつったことがわかった。そんなことは僕だって知りたい。偶に神様に聞いても「成長期なんじゃないかなっ」と不機嫌そうに言われるだけなのだ。憧れの人を目指して頑張ってましたと言えば、じゃあ憧れの人って誰? と聞かれるだろう。すぐ傍で興味なさそうなふりして聞き耳を立ててる人が残酷な憧憬だ。
「私はアンタに聞きたいことがあったのよねぇ……アンタ、団長の、ナニ?」
それ以上に冷や汗が止まらないのが左でのやり取りだ。黒い
お願いだから喧嘩だけはやめてぇ……ダンジョンにいる僕の願いは天界の神様達には届かなかった。可愛らしく顎に指を当てて考える素振りを見せたリリは、大きな声で告げた。
「何と言われましても……強いて言うなら縁談や逢瀬の過程をすっ飛ばして
周りから飲み物を盛大に噴き出す音が響いた。僕も初めて聞く話に噴き出していた。フィンさんなんかは吐血して……あ、
「アァン!? 嘘抜かしてんじゃねーぞクソ女!!」
「嘘もなにも事実ですし……あ、もちろん断ったので安心してください」
「アァン!? 団長みてーな最高の男からの求婚を断るとか何様だテメェ!!」
「どう答えても怒るって理不尽じゃないですか? 貴方が慕う腹黒クソ勇者……団長に私は利用されたことがあります。いや、ムカつきますけど利用されたことは別にいいんです。単純に生理的に無理なんです」
「はぁ!?」
「考えてみてくださいよ。十歳にもなっていないのに三十代半ばの男性に求婚されることを。いくら見た目が整っていても絶対に子供が欲しいと宣言する幼女の身体目当てのスケベェなおっさんを」
「愛があれば年齢なんて関係ねぇ!!」
「確かにそうなのかもしれません。私は愛のあの字もなかったから無理だったんですけどね」
普通なら戯言だと切って捨てられ取り合われもしない発言。だが、【ロキ・ファミリア】はフィンが野望のためにどれだけ手段を選ばないか知っている。故に『うわぁ……』とドン引きした声が上がるのも当然だった。フィンはバーサーカーと化したティオネの顔面を直視しないように全力で明後日の方向を見ていた。なんなら足はいつでも逃げられるよう力が入っている。
ティオネがフィンに直撃しようとしたその時、
『――ぐぬあぁっ!?』
ダンジョンでは決して聞こえるはずのない幼女神の悲鳴が響いた。