鬼強ブロッコリー先輩   作:忍者にんにく

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第9話:突如怪しく迫る影

 

 ガンッ!!

 

 乱暴に蹴り飛ばされたサッカーボールが橋の鉄柱に当たり、激しい音を立てる。巨大な質量と剛性を持つ柱は微動だにせず、跳ね返ったサッカーボールが天高い軌道を描いて後方300mは離れているであろうゴールへと入り込んだ。

 剣城京介は苛立っていた。フィフスセクターから受けた指令は「兄の足を治す手術費用を出す代わりに雷門中サッカー部を潰せ」というもの。シードの中でもトップクラスの実力を持つ自分にとっては、あまりにも容易い条件だと思っていた。

 

 しかし、蓋を開けてみればどうだ?

 雷門のゴール前には怪物が住み、怪物に感化された雷門イレブンはその強さを遺憾なく発揮し、協力者だった雷門中の理事長と校長はスキャンダルにより失脚させられ、雷門中の監督にはイナズマ伝説を作り上げた円堂守が就いたではないか。時間を掛ければ掛けるほど、フィフスセクターの指令を達成するどころか、達成が遠のいて行く。

 

「クソ……!!」

 

 エージェントである黒崎からはフィフスセクターからの支援の打ち切りを迫られたばかりだ。

 これは剣城にとってフィフスセクターからの除名宣告にも等しかった。恐らく、この先自分が何をどうしようと雷門を止める事は出来ないだろう。フィフスセクターからの支援打ち切りは確定事項だ。

 そうなれば、自分が今までサッカーをやって来た理由が消失する。今の剣城にとってサッカーをする理由は、兄にサッカーの出来る脚を返してやる事なのだから。

 

「はあ……どうすりゃ良いってんだよ」

 

「剣城京介だな。来てもらうぞ」

 

 突如として不気味な声が背後から聞こえたと思った時には遅かった。何者かに背後から組みつかれた剣城は抵抗する間もなく絞め落とされ、その意識を闇へと葬られた。

 

「実に容易い仕事だ。後はアイツの所へと連れて行けば完了だな、フハハハハ!!」

 

 剣城を絞め落とした男は深緑色の髪を掻き上げ、褐色の肌とは対照的な白い歯を覗かせて豪快に笑う。緋色の虹彩を宿すその目にはギラついた戦意が見え隠れしていた。

 その男はバイクの様なビークルに意識を失ったままの剣城を乗せ、自分も乗り込んでハッチを閉じる。一陣の風が吹いた次の瞬間、河川敷のグラウンドには初めから何も無かったかの様に、男もビークルも剣城京介もその姿を消していた。

 

 

 ⚡︎⚡︎⚡︎

 

 

「剣城が休む?」

 

「ええ、なんでも大事な用事があるとかで……ご家族の方から連絡があったんです。ただ、次の試合には間に合わないかもしれないと……」

 

「そう、か……」

 

 春奈の言葉に円堂は考え込む様子を見せる。二週間後に控えたホーリーロード地区大会準決勝、雷門中の次の対戦相手は帝国学園だ。

 昨年まで試合監督を務めていた人物が退職し、元イナズマジャパンのメンバーである佐久間次郎が今年から新しく試合監督の座に就いたと聞いている。

 元より強い帝国が、佐久間の指導によって更なる進化を遂げているのは想像に難くない。これに対抗する為、円堂は雷門イレブンにはチームとして強くなる事が必要だと考えていた。

 その為には剣城に真の意味で雷門イレブンの一員となってもらい、チーム全体の蟠りを解消する必要があった。チームメイトを信じ合いきれないチームはプレーに精彩を欠くからだ。

 だが、それが望めなくなった以上、別の手を考えねばならない。成長幅の不足分は方略で補う必要があるという考えに行き着いた。

 

「(正直、この手のやり方は苦手なんだけど……)春奈、帝国の選手のデータはあるか?」

 

「ある事にはありますが……帝国は本年度に入ってから一度も本気の試合を見せていません。誰がシードなのか、誰が化身使いなのかも不透明です。データは当てにならないと思います」

 

「だよなぁ……」

 

 柄にも無く選手のデータを集めて傾向と対策からどうにかしようと考えた円堂だが、春奈の言葉にその考えを振り払う。

 そもそも円堂はデータよりもチームメイトとの感覚で試合するタイプのプレーヤーであり、その手の作業は絶望的に向いていない。円堂は改めてそれを自覚し、ため息を吐いた。

 だが、春奈は円堂の落ち込みを自分の不甲斐なさと捉えてしまい、申し訳なさそうに目を伏せる。

 

「すいません、昔ほど情報を集められなくて。今の私はあの子達や円堂さんの役に立ててませんよね。こんな私が雷門サッカー部に居る意味なんて無いんじゃ……」

 

「そんな事はない!」

 

 自虐的な春奈の言葉を、円堂は力強く否定した。

 

「いいか、春奈。お前がサッカー部のマネージャーになってくれたのは、お前は情報収集能力に長けていたからか?

 違う!最初の帝国との試合で俺達のサッカーを見て、サッカーを好きになってくれたからだろ!」

 

「……っ!」

 

「お前がサッカー部に来てくれた時、俺達スッゲー嬉しかったんだぜ!

 俺達のサッカーを見てくれている人がいるんだって、ファンになってくれた人がいるんだって!

 俺達はお前が持って来てくれる情報を有り難いと思った事はあるけど、情報収集が出来ないと居る意味が無いなんて思った事はない!」

 

「円堂さん……」

 

「俺達にとっちゃ、春奈が雷門サッカー部に居てくれることに意味があったんだ。秋も夏未も冬っぺも同じさ!

 自信を持てよ。音無春奈は今の雷門中サッカー部に必要なんだ。雷門のサッカーを最後まで信じてやれる音無春奈が!」

 

 つー…と音無の頬を温かいモノが流れ落ちる。もう枯れたと思っていた涙腺から溢れ出したモノが。

 春奈は雷門サッカー部を見守りたいと思い、教員として雷門に戻って来た。そして念願のサッカー部の顧問となる事も出来たのだが、そこで彼女を待っていたのはフィフスセクターによる管理サッカーと心を摩耗した子供達。

 サッカーの試合結果を演出する為の駒としか子供達を見ていないフィフスセクターの管理サッカー。

 自由なサッカーをさせてくれ、と悲痛な叫び声を上げる子供達。

 学校上層部やフィフスセクターに抗議の声を上げるも、彼らは私の声を「馬鹿らしい」と鼻で笑って一蹴した。

 

 私は何の成果も得られず、無力感と罪悪感を募らせる日々を送った。

 幾度も悔し涙を流し、一年が経つ頃には涙が枯れると共に自分が雷門サッカー部に居る意味さえ見失ってしまった。

 

「ううっ……ぐすっ……」

 

「……今は泣け。俺も夏未も止めやしないから」

 

「呼んだかしら?」

 

「夏未!ちょうど良かった……春奈に胸を貸してやってくれないか?」

 

「ええ、勿論よ。……春奈さん」

 

「夏未さん!……うわああああん!!」

 

 偶々やって来た夏未が春奈を正面から抱き寄せ、春奈の背中を円堂が摩る。初めは感情を決壊させて大泣きしていたが、時間が経つにつれて段々落ち着きを取り戻していく。

 やがて春奈も泣き止み、部屋には再び真面目な空気が戻った。

 

「ご心配をお掛けしました。円堂さん、理事長」

 

「ええ、構わなくてよ。落ち着いたのなら、会議の続きを進めて頂戴。円堂君、帝国戦の作戦はあるのかしら?」

 

「あぁ。情報は少ないが、帝国のプレースタイルは規律の取れた多人数での攻守だ。地上を攻め上がるのは厳しいだろうから、高低差を使ったパスを使う。それでも攻めきるのが難しければ、必殺タクティクス【アルティメットサンダー】でゴール前にボールを運ぶと同時にスペースを作る」

 

「肝心の得点力はどうするのかしら?

 うちのチームにそんな決定力のある選手がいる様には思えないわ。強いて言うなら三国君だけど、彼はゴールキーパーなのでしょう?」

 

「そこなんですよねぇ……剣城君以外にも【化身】を出せる子がいれば、話は変わるんでしょうけど」

 

「いいや。俺も使えるから分かるが、【化身】は大きくスタミナを消費する。強い力を持っている分、頼り切ったプレーをするのは危険だ。

 いざという時の為に覚醒だけはさせておきたいが、それとは別に今までの雷門に無いワンプレーを修得する必要がある」

 

「つまり、新しい必殺技を身につけさせるという事ね。けれど、いずれにしても生半可な指導じゃ難しくてよ?」

 

「あぁ。だから今回は、必殺技も【化身】も俺が面倒を見る」

 

「え!それじゃあ、他の皆はどうするんです?

 円堂さん無しで練習なんて……」

 

「出来るさ。雷門サッカー部の指導者は俺だけじゃないからな。だから、春奈──」

 

 円堂は言葉を区切り、春奈と夏未をジッと見据える。

 

「暫くの間、サッカー部のコーチを任せる!

 夏未、出来る限りフォローしてやってくれないか?」

 

「……え? ええええええ!?」

 

「あら、誰にものを言っているのかしら。出来る限りと言わず、全面的にバックアップしてみせるわよ」

 

「な、夏未さんまで!?」

 

「音無先生、貴方はしばらくサッカーに集中すること。これは理事長としての言葉です。運営体制を改革してから業務も随分と圧縮されたと思うけど、どうかしら?」

 

「えっ、それは大丈夫だと思いますけど……サッカーをするのなんて大学以来ですし、真っ当な指導なんて出来るかどうか……」

 

「それなら心配いらないわ。これから毎日、貴方は私のチームのグラウンドで私達と特訓するもの。勿論、送迎はこちらで担当するわ。自分のサッカーに磨きをかけつつ、指導も学ぶのよ。一石二鳥でなくて?」

 

 円堂と夏未の言葉には厚みがあった。二人とも、春奈なら出来ると信じて疑っていないからだ。それは言葉にされずとも、春奈のハートにイナズマとなって走り抜ける。

 春奈の中にあった無力感や自己否定などと言った重くのしかかる何かが春の雪解けの様に消えていき、露わとなった大地から芽が出る様に春奈のサッカーへの情熱と信念が顔を出した。

 もう、音無春奈を遮るものは無い。

 

「お願い……します、夏未さん!」

 

「そう来てくれると思ったわ。試合の翌日だから今日はサッカー部も休みよね?」

 

「あぁ、皆サッカーが大好きだから集まって来るけどな。俺が見ておくから大丈夫だ、帝国戦に向けての練習は明日からやる。安心して行って来い!」

 

「結構です、じゃあ早速行くわよ。必要なものは向こうで用意するから安心して良くてよ?」

 

「はい!」

 

 その後、春奈は久しぶりの練習の負荷に耐えられず、3回ほど吐くことになる。

 更に、練習に身体が慣れきるまで、春奈は練習後にグロッキー状態となって帰れなくなる日々を送ることになる。雷門家に寝泊まりし、通勤には夏未専用のリムジンに相乗りする姿が目撃されたと言う。

 

 

 ⚡︎⚡︎⚡︎

 

 

「皆、今日の練習はここまでよ!」

 

『ありがとうございました!』

 

 どうも、三国太一です。遂にホーリーロード地区大会準決勝まで残り3日となった。

 ここ暫くは、円堂監督ではなく音無先生が俺達の練習を監督してくれている。しかもジャージとスパイクに着替えて練習に混ざるなどと、以外にもアグレッシブな一面を発揮してくれている。

 

 天才ゲームメーカー鬼道の妹である音無先生は、そこらの指導者よりもサッカーに精通している。それは指導やプレーを見てれば分かるし、何よりもサッカーに掛ける情熱から伝わって来る。最近はプレーも上手くなって来た……というより、元々鈍っていた感覚を取り戻している感じか?

 

 少なくとも、【スピニングカット】とか【イリュージョンボール】とか普通のサッカー部顧問が使えて良い技じゃない。発動パートナーになれる人間が居れば【デスゾーン2】とかも披露してくれたのだろうか?

 ホーリーロードが終わったら教えてくれるとは言っていたが、一体何がどうなっているんだ?

 最近は顔色も悪いし、心配だ。……っと、そうそう。心配と言えばもう一つ心配の種があったっけ。

 

「サッカー棟組はどうなったかな?」

 

 俺達とは別に円堂監督に呼ばれたメンバーがいる。フォワード組に加えて神童と天馬だ。彼らはサッカー棟の中で円堂監督と別メニューの特訓をやっているらしい。

 呼ばれたメンバーからして何をやらせようとしてるかは想像に難くない。彼らを別の場所で練習させているのも、出来るだけ外部からの刺激をシャットアウトする為だろう。ほぼ間違いなく、連携必殺技の修得と【化身】を出す練習だ。

 円堂監督はサッカーに関しては宇宙一のサッカー馬鹿の称号が付くほどのバカ真面目さと意外性を併せ持つ。オールウェイズ100点の練習メニューを提供しているに間違いない。

 

 南沢と倉間は二人ともパワー不足だが連携に安定感がある。個人のパワーで駄目なら力の掛け合わせを試そうとしているといったところか?

 

 天馬と神童に関しては【化身】でほぼ確定と言ってもいいだろう。彼らは既に兆しを見せている。後は刺激や覚悟といった、心の成長が伴えば顕現に至るはずだ。円堂監督は、自分の化身と呼応させて揺さぶりを掛ける事で起爆剤になろうとしているのだろう。

 

「【化身】か。なんで俺には出せないんだ?」

 

 俺は今まで化身を出せたことがない。

 だからこそ誰よりも体を鍛え、誰よりも基礎的なサッカープレーヤーとしての力を鍛え上げて来た。とは言え、ホーリーロードの先にある戦いまで勝ち抜くためには化身の力が欲しい。単純に化身がカッコいいからってのもあるけども。

 

「……まあ、ウンともスンとも言わない力を欲しがっても仕方がない。いつもの基礎トレに──」

 

「あの、三国先輩! 自主練をしたいんですけど、付き合って貰えませんか?」

 

「うん、いいよ」

 

「やった!お願いします!」

 

 さっさとトレーニングルームに入って筋トレでもしようかと考えていたところへ、影山がサッカーボールを持って声をかけて来た。

 彼はこのところ力を伸ばして来ている選手だ。入部してから半月と経っていないにも拘らず吸収が早く、成長の幅も大きい。基礎的なプレーは一通り形になって来ている。ここからが大事なところだ。

 俺の目標は最高のサッカー選手だが、後輩の伸び代を潰してまで自分が強くなろうとは思わない。強くなりたいと願う正しい人間に手を差し伸べてこその最高だ。

 

 

 ⚡︎⚡︎⚡︎

 

「もう一度だ。合わせろ、倉間!」

「はい、南沢さん!」

「「【イナズマ1号】!!」」

 

 倉間と南沢が同時に放ったツインシュートは蒼い雷を纏いながら無人のゴールネットに突き刺さる。威力、スピード、コントロール全てが完璧であり、【ソニックショット】や【サイドワインダー】よりも強い。

 久しく感じられていなかった成長への達成感が胸を満たしていく。南沢と倉間はニヤリと笑みを浮かべ、グータッチを交わした。

 

 そのセンターラインを挟んでフィールド反対側のゴール前では、円堂を相手に神童と天馬がシュート練習をしていた。

 10本を1セットとして9本はノーマルシュートや必殺技、残りの一本を化身で撃てれば成功なのだが、その数が累計10000本を超えて尚、彼らには未だ成功の気配がない。

 

「今だ!出してみろ!」

「うおおお……!!」

「はあああ……!!」

 

 円堂が気を集中させると、背後から影が溢れ出す。影はやがてヒトの形を成し、闇を切り裂いて偉大なる魔神が姿を現した。

 

「【魔神グレイト】!!」

 

 神童は追い詰められてはいなかった。先輩方もチームメイトも革命には積極的であり、安心して背中を預けられる存在がいる。故に、彼に足りなかったのは心の試練。

 極限の疲労と絶対的な壁を前に、彼はサッカープレイヤーとしての自分の矜持を思い出す。誰よりも前に立ち、ゲームメイカーとしてチームを引っ張って行く、その覚悟を。

 それが神童を一段階上のステージまで引き上げた。彼の背後から影が溢れ出し、四本の腕を持つ指揮者が闇を切り裂いて姿を現す。

 

「【奏者マエストロ】!!」

 

 松風天馬は心が躍っていた。入学式初日から雷門の一軍を圧倒する程の強さを持つサッカーチームを相手に無失点で抑えた力強い守護神に、荘厳かつ繊細な指揮とプレーでチームを牽引するキャプテン、彼らと共にサッカープレイヤーとして成長して来た雷門イレブン。

 そんな彼らと肩を並べて戦って行ける。戦いを制した先で、日本一という一つの頂上からの景色を見る事が出来る。

 だから、自分のサッカーと正面から向き合いたい。自分のサッカーに対する答えを持って前に進みたい。

 限界寸前の肉体と精神。初めて経験する極限状態の中、天馬はサッカーへの真っ直ぐな想いを再確認し、それに呼応して天馬の中に眠っていた力の結晶が覚醒する。

 天馬の背後から影が溢れ出したかと思えば、青白い光を帯びて爆散し、雷雨の嵐を翔ける魔神が顕現した。

 

「【魔神ペガサス】!!」

 

「来いっ!」

 

「【ハーモニクス】!!」

「うおおおおおおっ!!」

 

「おっと、良いシュートだ!!」

 

 神童から放たれた化身必殺シュートと、天馬から放たれた化身の力を乗せたノーマルシュート。

 二つのシュートを円堂は化身の力を乗せ、それぞれ片手で受け止めた。

 

「ハァッ……ハァッ……」

「ぜぇっ……ぜぇっ……」

 

「お疲れ!よく頑張ったな!!」

 

 神童と天馬は疲労困憊ゆえに座り込み、激しく息を切らして返事を声に出す余裕もない。

 それでも、彼らの顔には心からの笑顔が浮かんでいた。




 
 プロットを修正した結果、剣城と雷門イレブンの和解フラグが折れてしまったので急造しています。正直、帝国戦は剣城無しでも十分勝てるでしょう。

 イマイチ救われない感じの春奈を救済する太陽マンと夏美様。この二人がいるだけで大抵の問題が解決してしまうのだから頼も恐ろしい。

 次回、鬼いちゃん&帝国壊滅!
 鬼道!これが雷門のサッカーだ!(違う)

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