ローカル役でしかあがれない   作:エゴイヒト

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一か月ぶりの投稿。箸休め回でお茶を濁す。
大筋のプロットはこの作品投稿した時から出来てますが、細部を詰めるのに苦労してます。


もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな

 阿知賀女子、控室。

 高鴨穏乃、新子憧、松実玄、そして監督の赤土晴絵が卓を囲んで麻雀を打っていた。

 

 玄はドラを集める能力を持っている。その対局ぶりから三尋木咏プロが阿知賀のドラゴンロードと呼んだことで、二つ名はすっかり定着した。

 

 準決勝にて前年度優勝校白糸台との激戦を繰り広げ見事決勝進出を果たした彼女達であったが、払った代償は大きかった。先鋒の宮永照の連続和了を止めるため、玄はドラを捨てざるをえなかった。

 ドラを捨てるとドラに嫌われる。今、玄はドラを集める能力を失っていた。今までもドラを捨てたことはあり、彼女の経験上、その時は何局か打つことで能力が復活する。そのための対局数消化に、こうして阿知賀女子の面々が付き合っているわけである。

 

「試合……終わったっぽい?」

 

 穏乃が、ふと手を止めて憧に尋ねる。

 

「えっ、またシズの直感?」

「いや、そろそろそんな時間かなって思って」

 

 チリッ、と。

 火花のようなそれが穏乃の元で弾けた。

 総毛立つような重圧。

 

「楽しみだな」

 

 ボボボ、と燃え上がる焔。

 その場にいた阿知賀女子の生徒達、そして監督さえもが穏乃が身に纏うそれを幻視した。

 放たれた圧は、会場中を駆け巡る。

 

「!?」

 

 ネリー・ヴィルサラーゼが、それを感じた。

 

「っ」

 

 宮永咲が、それを感じた。

 

「えっ、誰これ……」

 

 小鍛治健夜プロが、それを感じた。

 

「おお」

 

 天江衣が、それを感じた。

 

「これ、あの子だね」

「うん」

 

 宮永照と大星淡が、それを感じた。

 高鴨穏乃。放たれた圧を感じ取った何名かが、その主の名を口にしようとした時。

 

 

 ――五月蠅い

 

 

 圧力が、掻き消える。

 より強い圧力によってではない。それはさながら、スピーカーから流れだす大音量を消すために主電源のコードごと引っこ抜いたかのようであった。

 圧力の主を殺せばこうなるのではないかと、宮永照は思った。

 当然、そんな物騒なことは起きていない。しかしそれ以外でこんなことをできる者に、心当たりは一人しかいない。何より、脳裏に響くこの冷徹な声は聞き間違えようがない。

 

「小鳥谷さん。やっぱりこういうこともできるんだ」

 

 山を支配し、準決勝の大将戦では大星淡の能力を無効化してみせた穏乃。だが、その彼女の能力――オカルトの片鱗は藍の一言で搔き消された。盤外で、格の違いを思い知らされる。

 それでも。

 

「俄然、やる気出て来たぞぉ~!!」

 

 阿知賀女子一番の陽気は伊達じゃない。山は高ければ高いほど登り甲斐がある。

 

 

 


 

 

 

「次のニュースです。特殊詐欺の立件数が上半期で過去最高を記録しました。60代以上の高齢者の被害が増えており――」

 

 机の上に置かれたリモコンを手に取ったセーラがチャンネルを変える。変えた先も、また別のニュース番組だった。見出しには大きく『東京渋谷で起きた連続放火犯、容疑者は証拠不十分で不起訴』とある。

 被害者の遺族が涙ながらに不満を語っている。

 

「物騒だね」

「東京は怖いなあ」

 

 大阪も似たようなものだと思うが……。

 何度かチャンネルを変えるも、朝のニュースはどこもこんな感じだ。

 

「お」

 

 ボタンを押す手が、ある一つのチャンネルで止まる。

 『第71回全国高等学校麻雀選手権大会、本日決勝』。

 麻雀が国民的娯楽として浸透するこの世界では、高校生の麻雀大会一つとっても大々的にニュースになるらしい。この辺りは野球の甲子園と同じ扱いを受けていると思う。

 

「私が選ぶ決勝注目選手TOP3は、ずばり1位小鳥谷藍、2位宮永照、3位園城寺怜さんです!」

「おおーやはり小鳥谷藍選手は皆さんトップですね」

 

 バラエティー色の混じった朝の報道番組らしく、コメンテーター達が優勝予想や活躍選手についてフリップで熱く語る。

 

 ああ、やはり前言を撤回しよう。野球の甲子園とは違う。

 高校野球がニュースで取り上げられる時、普通は試合結果をハイライトで報道する。まだ結果が出てない内から今日の試合について見どころだのなんだの語ったりはしないだろう。オリンピックやW杯じゃあるまいし。

 地上波が生中継するなんて同じ系列の地方局がそれぞれといったところで、つまりチャンネルを変えても1局でしか見られない。たかが高校生の大会を異なる系列の地上波が2局も3局も取り上げたりしない。

 

 改めて、この世界は麻雀を中心に回っているんだなと実感する。

 

「期待されとんな、藍」

「去年とは違うね」

「初出場やったからなぁ。『二年で初出場、遅れてきた新星』とか言われとったか?」

 

 そんな風な呼ばれ方をされていたのか。去年は自分がテレビで紹介されているのを見るのが気恥ずかしくて、テレビどころかネット断ちまでしていた。個人戦で優勝した後は嫌でも耳に入ってくるようになったので、今はもう慣れたが。

 

「藍は、5決見るんか?」

 

 5位決定戦。

 決勝が行われる同日――つまり今日、前座……というと彼女達に失礼だが、学校のランキングに影響する大事な試合がある。

 ここでの成績は秋の大会に影響する。下級生のためにも、優勝叶わなかったからといってもう終わりではないのだ。それに、3年であってもコクマがまだ残っている。

 

「んー。今は気分じゃない」

「気分って、そういう問題か?」

 

 決勝に向けて追い込みがしたいとか、そういう意味じゃない。

 当日の今からできることなんて、対戦相手の牌譜を再度洗うくらいしかない。情報戦が全てのフナQは最後の最後までやるだろうけど。

 今は少し、考え事に耽っていたい。

 

「5決で注目の選手はおるんか?」

 

 見ないと言ったのに、その話題を振ってくる。ここにいる話し相手が私だけなのと、話題が他に無いからだが。

 5位決定戦では準決勝で敗退した新道寺女子、有珠山、臨海女子、永水女子の4校が争う。その中で、今気になっている選手はいない。

 だが気になっている()なら――

 

「獅子原さん……」

「えっ」

 

 セーラが声をあげた理由は至極簡単な論理だ。

 有珠山と臨海女子は準決勝で戦った相手。つまり目新しい要素は無い。向こう側のAブロックの高校に注目が集まるのが自然。

 

「いやいやいや、他にもっとおるやろ。ほら、白水哩とか」

「どうせもう決勝で戦うことはないし、強さに興味はないよ」

 

 5位決定戦にいるのは既に格付けが済んだ者達だ。

 どんなに強かろうと私より弱ければ興味は無い(・・・・・・・・・・・・)

 口を突いて出そうになったその言葉は吞み込んだ。

 

「にしたって、有珠山より臨海女子の方が見るもんあるやろ」

 

 こちら側のブロックの高校に注目するとしても、有珠山よりも臨海女子の方が注目選手となりうるようなメンバーが沢山いる。

 それに何より、因縁というか個人的な付き合いで考えれば。

 

「藍は絶対ネリー・ヴィルサラーゼやと思うてたわ」

「ああ、見ろとか何とか言ってた気がする」

 

 勿論見る義理はない。ので見ない。

 

「けど何で獅子原なんや? たしかカムイとか雲とかゆうのは使い切ったって藍が言うてなかったか?」

「麻雀は関係ないよ」

 

 獅子原さんは、麻雀外でも働く能力を持っている。

 その力を自覚したのはいつなのか、普段はどうしているのか、何故麻雀に使おうと思ったのか。色々と話をしたのだ。

 曰く。

 昔から、憑きモノに助けられることがよくあったそうな。やがて、その力であちこちに駆け付けて周りの人を助けるようになった。

 トラブルある所に獅子原あり。

 異常なまでの察しの良さや、方法や理由は不明なのにトラブルが解決する時は何故かいつも獅子原さんの影があることで、気味悪がられるようになった。

 それでも普通に接してくれた友達とだから、今こうして麻雀部をやっている。

 

 立派なことだ。人として尊敬する。

 

「誰かの助けに、か」

 

 テレビには、相変わらずコメンテーター達が私を持ち上げる番組が映っていた。

 

 

 


 

 

 

 熊倉トシは、モニターに映る対局を見ながら好物のカップ麺を啜る。

 彼女は宮守女子麻雀部の監督もしていたが、残念ながらチームは全国大会2回戦で敗退。

 そんな生徒達は、今彼女の近くにはいない。同じく敗退した姫松高校のレギュラーと、どこで知り合ったのか意気投合。今頃どこかで観戦でもしているのではないだろうか。

 

「熊倉さん。これ、甲信越の分です」

「ありがとう」

 

 彼女が背後からの声を受けて振り返ると、そこにいたのは藤田靖子。長野のプロ麻雀チーム、佐久フェレッターズに所属するプロ雀士である。

 箸を止め、渡された封筒に入った資料をちらと確認する。

 

「どうですか、5位決定戦」

「うーん、今年は番狂わせが多いわよねぇ」

 

 臨海女子と永水女子。シード校が2校。準決勝で敗退することが既に異常事態な面々である。

 今年はシードを勝ち取れなかったが、高校麻雀界の歴史の中ではシードを取っていた期間の方が長いくらいの姫松高校は準決勝に進むことすらなく、5位決定戦に参加すらしていない。

 

「やはり去年と同じく、辻垣内智葉は内定確実ですか」

 

 この場に相応しくないほどのカリスマを持つ彼女は、去年の世界ジュニアの日本代表に選抜されている。

 宮永照と合わせて前回出場の2枚は当然続投だろう。

 

「今年は荒川憩とダブル宮永がキーになる気がしてるわ」

 

 そこに千里山の園城寺、将来性や爆発力を見て姫松の2年生――上重漫も候補に入ってくる。

 他にも、清水谷竜華に江口セーラ。成績で見るのなら、千里山女子はほぼフルメンバーで名を連ねる。

 

「ただ、そうなると枠がきついですね」

 

 人材が豊富なのは嬉しいことだが、それだけに悩ましい。成績から測れる個の力は勿論だが、世界の要注意選手に対するメタとして機能する、または逆に対策がされにくい人材であるかが、検討材料としてのウェイトを大きく占めてくるだろう。

 そして何より、チームとしての戦略をどうするか。鍵となる選手を誰に据えるかで、起用方針も変わってくる。

 となると、語らずにはいられない者が一人。

 

「小鳥谷藍。あの子がいるかいないかで、選抜の内容を大きく変えることになりますね」

 

 思い出すのは、前年度のこと。彼女がいれば優勝もあり得ると日本中から期待されながら、世界ジュニア出場を辞退した少女。

 

 常勝無敗のキングでありながら、どんな盤面もひっくり返すジョーカー。間違いなく戦略の要となるだろう。

 個人戦で優勝した後、その圧倒的な試合内容からネットでは冗談交じりに『彼女一人いれば他は何でもいいのでは』などと他の選手に失礼な意見がSNS随所で言われていたものだが、本音を言えばプロの視点でも冗談と一笑に付すのは難しい。

 

 千里山女子の強化合宿に特別コーチとして招聘されたり、プロアマ交流大会で彼女と戦ったことのあるプロ雀士達は、彼女の底知れない実力を同卓して肌で感じ取っている。

 史上最年少でプロ八冠を達成、リオデジャネイロ東風フリースタイルで銀メダルを獲得。国内では無敗、永世七冠、元世界ランキング2位。恵比寿時代は毎年リーグMVPと、日本麻雀界歴代最強と名高い小鍛治健夜プロ。その全盛期ですら小鳥谷には遠く及ばないというのは、誰も公で口にはしないが界隈では根強い見解だ。

 小鳥谷は自分の実力の異常性を正確に自覚してはいるが、一人の選手としての価値・評価には疎い。本人が思っているよりも、実は周りの評価はもっと高いのだ。

 

「心配ねぇ」

「今年は出てくれればいいんですが」

「そっちじゃなくて」

 

 熊倉は完食したカップ麺の容器を机上に置く。ティッシュで口元を拭うと、続けた。

 

「随分と窮屈そうに麻雀を打ってるじゃない」

 

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