カイドウがウィーネを娘にするのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
コツコツと石畳を音を鳴らしながら眷属の1人がやって来よった。
先日、イシュタルからの依頼を受けてオラリオへ出向き、ロキファミリアの連中にボコボコに打ちのめされたことでテルスキュラに帰還したばかりなのじゃが……。
「しばらくは面倒事は無しにして欲しいんじゃがのぉ……」
「神カーリー。オラリオから手紙が届いています。こちらを……」
「なんじゃ一体。オラリオからはほんの少し前に帰ってきたばかりなんじゃぞって……なんじゃとぉ!!?」
受け取った手紙を面倒そうに破いて中身を読み上げると、先程までの表情を一変させて玩具をプレゼントされた子供のような顔で椅子を蹴り飛ばして駆け回る。
「お前たち急いで支度せい! さっさとオラリオへ再び向かうのじゃ!!」
「なっ、今帰ってきたばかりですよ。戦士達も一時の休憩を求めるでしょうし、今すぐには……」
「なら、あの
これほどカーリーを興奮させる手紙の内容とは何だったのだろうかと疑問に覚えるが、あの
もし私の口より先に誰かがこの情報を耳にすればなぜもっと早く言いに来なかったと怒るだろうからだ。
「それにしても、ジャック様からのお呼び出し。ふふ……」
なにせ、ここテルスキュラの戦士でジャックに恋せぬ乙女はいないのだから。
そんな騒ぎはテルスキュラだけではなく、世界各地のオラリオ外のファミリアの一部。それもダンジョンに潜っていないにも関わらず、複数回のランクアップを果たした強者の所属するファミリアにも起こっていた。
そのいずれもがケルヌンノスファミリアの傘下にあたるファミリアだ。
何故オラリオ外にケルヌンノスファミリアの傘下のファミリアが複数存在するのかというと、カイドウ達は劇場版オリオンの矢でも出現したように、古代の時代から存在するモンスターを討つ為に度々オラリオを出てダンジョンではなく地上へと遠征を行っていた時期があったからだ。
何を隠そう、ケルヌンノスファミリアの飛び六胞であるエルマとウォーロンは元々はオラリオ外で生まれており、カイドウらの遠征によるモンスター退治がきっかけとなって仲間入りを果たしたのだ。
そんなファミリアの元に召集令状としての手紙が送りつけられ、闇派閥に対しての徹底的な殲滅作戦であるバスターコールへの参加を言い渡される。
どのファミリアもケルヌンノスファミリアには多大な恩と彼らの強さへの憧れや尊敬を持ち合わせており、世界を滅ぼすから手を貸せと言われても頷く連中ばかり。
故に、どのファミリアも手紙の内容を読み次第、続々とオラリオへと集結していく。
♦
突如としてオラリオを襲って来た謎の黒い竜巻に誰も彼もが被害を受けていた。
そんな中、冒険者である腕の立つ者は一般人を守らんと武器を持って黒い竜巻に立ち向かっている。
そこには今話題となっている新進気鋭のヘスティアファミリアの姿もあった。
「くそがっ! なんだコレは!? ふざけろってんだ!!」
「無駄口を叩いてる暇はありませんよ!」
襲い掛かってくる黒い竜巻を相手にヴェルフが剣を振るい、リリがその後ろで援護に走る。
だが、そんな抵抗は無意味だと言わんばかりに黒い竜巻は2人の攻撃を意にも介さず破壊を続けている。
「ファイアボルト!!!」
そんな黒い竜巻に唯一有効打を与えることが出来るのはヘスティアファミリア団長であるベル・クラネルだった。
「みんな大丈夫!?」
「ええ、リリ達は無事です。ベル様!」
「それにしても流石だな、ベル。あの竜巻を一発とはな!」
爆炎で黒い竜巻は動きを止め、段々と風が止んで中にいたモノの正体が露わになっていく。
「竜巻が晴れたぞ!! って、なんだありゃ!?」
黒い竜巻の中から現れたモンスターの姿にヴェルフが驚きの声を上げる。
「グオオオオオォォォォ!!!!」
その咆哮は心の弱い者ならば即座にくじけてしまいそうな迫力があった。
だが、この場にいるのは常日頃から死線をくぐり抜けている冒険者。未知のモンスターの出現に驚きこそあれど、恐怖して動けずにいる者は1人としていなかった。
「ぬわぁ~!? な、なんだいアレは!! た、助けてくれベル君~!!」
訂正、たまたまこの場に居合わせた神ヘスティアは腰を抜かしてベルに甘えた声でしがみついてきた。
「ちょっとヘスティア様!? こんな時に何どさくさに紛れてベル様に抱きついてるんですか!?」
「お前もこんな時に一々ヘスティア様に突っかかてる場合か!?」
「か、神様!? 危ないので少し離れて下さい!!」
そんなコント染みたやり取りをしていると、黒いモンスターが痺れを切らしたのか襲い掛かってきた。
「っ! ヴェルフ、神様をお願い!!」
「うわぁわぁぁ!!?」
「よっしゃ! 任せろベル!」
流石にこのままおふざけを続けていては流石に不味いと判断し、腰に引っ付いていた神様を無理矢理引っぺがしてヴェルフへと投げ渡した。
そして皆を守るためにヘスティアナイフで黒いモンスターの攻撃を真っ正面から受け止める。
「グオォッ!!?」
まさか自身の攻撃がこんな小さな人間に受け止められるとは思っていなかったとばかしに困惑したような声を上げる。
今のベルはアポロンファミリアやイシュタルファミリアとの抗争を経てレベル3上位の力を有しており、生半可な力だけの突進ではベルを吹き飛ばすことは出来ない。
「はぁっ!! ファイヤボルト!!」
お返しにとばかりに、今度はベルが力任せに黒いモンスターを吹き飛ばして魔法を当てる。
「ゴオオォォォ!!!」
その一撃で黒いモンスターは断末魔を上げて黒い灰へと姿を変えたのだった。
「すごいぞ! 流石はボクのベル君だ!!」
「お見事です! 流石はリリのベル様です!!」
「「ムムム……!!」」
「あっはっは……」
どちらのベルか取り合うように唸り声を上げながら睨み合いをするヘスティアとリリに苦笑いを返すベル。
誰か……、誰か助けて!
「……あれ? 今誰か助けてって言ってませんでしたか?」
「ん? そんな声聞こえたかいサポーター君?」
「いえ? ですがこんな状況ですし、助けを求める声があってもおかしくありません。それに、リリ達よりもステイタスの高いベル様だからこそ聞こえたのかもしれません!」
「なら早いとこ助けに向かおうぜ! ベル、その声ってどっちから聞こえた?」
「多分だけど、こっちから聞こえた気がした!」
声の聞こえた方に向かって駆けつけると、ローブで顔を隠した小さな子が数人の男達に追われている光景が目に映った。
「っ!? 待て! その子になにするつもりだ!?」
「っち! 冒険者か? どうする?」
「バカが! どうするもこうするも無い。あの化け物が追いかけて来る前に捕まえねば我らの目的が果たせんだろうが!」
突如現れたベル達に戸惑いの声が上がるが、連中のリーダー的存在が剣を抜いた事により、強行突破する決断に至った。
「え? え? ええぇぇ?」
「クソォ!? 何がどうなってやがる?」
「とにかく、今はあの子を助けよう!」
ベル達は黒いモンスター絡みの問題だと思って駆けつけたのに、まさかの誘拐現場に遭遇した事で若干パニックを起こしたが、ベルはあの子を救うと叫ぶ。
そして始まる開戦、敵のリーダーはレベル3と思わしき実力者であったが、ジャイアントキリングを果たし続けてきたベルにとって、同レベルの存在程度では負けることはなかった。
「ぐうぅ!」
「もう止めてください。どんな事情があるかは知りませんが、こんな状況で小さな子を誘拐するだなんて!?」
「クソォ!こんなガキにこの俺が……!」
「いいぞ! ベル君!! ほら、君ももう安心だぞ!」
「──―っあ!」
ヘスティアは誘拐犯を倒したベルの活躍にピョンピョンと飛び跳ねながら助けた子に抱きつく。
それが不味かった。ヘスティアが遠慮なしに飛びついたせいで被っていたフードが脱げ、その隠していた素顔が露わとなった。
「んな!?」
「おいおい! なんでこんな街中にモンスターが!?」
「ふえ? ええぇぇ!?」
まさか助けた子がモンスターだとは思ってもおらず、ヘスティア達は驚愕の声を上げた。
それを見て好機と悟ったのか、誘拐犯のリーダーが声を大にして叫ぶ。
「見たか! 奴はモンスターだ! 俺達は奴を倒すために追っていたのだ。分かったらそこをどけ!!!」
まさに形勢逆転とばかしに、男達は余裕の態度を見せる。
「おい……、これって」
「ええ……、状況はよく理解出来ませんが、モンスターを庇い立てしたなんて事実が広まれば間違いなくリリ達は街中から白い目で見られるでしょうし……」
モンスターは古代の時代より人類の敵なのだ。それを庇い立てするということは人類に弓引く行為と同義である。
これにはリリもヴェルフも流石に尻込みして剣を下ろす。
「さあ、分かったならそのモンスターをこちらに渡して貰おうか!」
「…………っ!」
誘拐犯のリーダーはベルを押しのけてヘスティアの陰に隠れるウィーネを差し出せとばかしに近づいてくる。
「──―っ!」
「っ、大丈夫だよ。悪いけどこの子は君達に渡す訳にはいないね! ボクはこれでも竈の神でね、迷い子をみすみす悪党共の手に渡すようなことはしないのさ!!」
「っ神様!」
安心させるように背後に隠れるウィーネを撫でたあと、ビシッと誘拐犯のリーダーに指差して渡さないと言い切った。
そんな神様の姿勢にベルは曇ったような顔から晴れた顔へと変える。
「っく! 何を馬鹿なことを!?」
まさかモンスターを庇い立てされるとは思っておらず、苛立ったように声を荒げる。
「た、大変です! あの化け物が追ってきています!!」
「なに!? っち、ならあの御方が負けたということか……。仕方が無い、ここは一時撤退するぞ!!」
「「「っは!!!」」」
誘拐犯の仲間と思われる男が何やら伝令を持ってくると、リーダーは舌打ちを鳴らして撤退の指示を出し、それを受けた誘拐犯達はその場から素早く姿を消した。
「マジで一体何だったんだ?」
「さあ、ですが今は一刻も早くホームに戻りましょう。こんな厄ネタをいつまでもここに居させる訳にはいきません!」
「そうだね。えっと、君もボク達と一緒に来てくれるかい?」
「……いいの?」
「うん。さっきは迷わず助けられなくてごめんね。ボクの名前はベル・クラネル」
「ベル……。わ、私の名前はね! ウィーネ!! ウィーネって言うの!!!」
「そっか、ウィーネって言うんだね」
戸惑った顔を一変させ、今度は満面の笑みで自分の名前を告げるウィーネにベル達は心から助けることが出来て良かったと思えた。
「いや、あの……。ベル様、さっきからごく自然に会話しておられますが、モンスターって喋れましたっけ?」
「「「へっ……。ほ、本当だぁぁぁ!!!?」」」
「……?」
モンスターが喋っているという事実に遅まきながら気づいて絶叫するが、当の本人はキョトン? とした顔で首を傾げるのだった。
♦
「っと、此処までがウィーネがヘスティアファミリアに保護された経緯だ」
現在、ケルヌンノスファミリアのとある一室にて、ウラノスの私兵であるフェルズが行方不明になったウィーネの居場所とそこに至るまでの大まかな経緯をカイドウ達に説明していた。
「ヘスティアファミリアか……、これもまた運命か……」
「ん? どうかしたのか?」
「いや、テメェが気にする必要はねぇ。それで、こっちの必要な情報は貰った。その対価としてお前らは俺に何を要求する?」
「……今回の事件で現れた黒い謎のモンスター。あれの大元となるモノを討伐してもらいたい」
「なんだ? その程度の条件でいいのか?」
「ああ、こちらとしては今回の一件はケルヌンノスファミリアが積極的に討伐に躍り出てくれたおかげで都市が被った被害はそこまで大きくは無い。多少の建築物の崩壊はあるが人的被害はごく少数と聞いているからな。それらを考慮した結果のこの条件だ……」
なるほど、コッチとしてはウィーネの情報を対価に今回の事件の大元であるベヒーモスオルタナティブの討伐やらこちらの持つ秘匿している情報のいくらかを要求されるかと思ったが、アッチもそこまでがめつく要求して、今の関係に亀裂を入れたくないと判断したか。
まあ、俺も謙虚な姿勢を示す奴は嫌いじゃねえ。恩を笠に着て立場も考えずに行動するバカを見るとついぶっ殺しちまいたくなるからな。
「いいだろう。その条件を飲もうじゃねえか。元々、ベヒーモス討伐は俺達も動こうと考えていたからな」
「っ!? あのモンスターがベヒーモスだと! いや、確かに類似する点は色々とあるが、まさか……」
カイドウからの何気ない一言でブツブツと考え込むフェルズだったが、やがて自分1人で対処できる問題ではないと開き直ってウラノスに丸投げしようという考えに至った。
♦
今の時刻は陽が沈み切った真夜中、昼の事件の事もあり復興作業を終えた各ファミリアは念の為に拠点での待機をギルドから命じられていた。
「「すぅ、すぅ、すぅ」」
暖炉の前のソファーで子供用の英雄譚を読み聞かせていた春姫とその膝の上で聞いていたウィーネが2人して仲良く眠っている。
「こうして見てれば普通の子供と何も変わんねえな」
「うん、そうだね」
風邪をひくといけないと思い、寝室から毛布を持ってきたヴェルフとベルはぐっすり眠っているウィーネを見てとてもモンスターとは思えないと口にする。
「それにしても、本当に何者なんだろうな?」
「それはリリが今調べに行ってるけど、そろそろ戻ってくる頃じゃない?」
その言葉がきっかけとなったのか、玄関先でドタバタと慌ただしくこっちへ向かって走る音が聞こえてきた。
「べ、ベル様ぁぁぁぁ!!!」
「「し~~~!」」
「むぐっ!」
寝ている2人を起こさないように騒ぎ立てるリリをベルとヴェルフがし~っと口を手で塞いでくる。
幸いなことに2人は身動ぎしただけで目は覚まさなかったが、そんなこと知ったことかとばかりに、リリは2人の手をどけてさっき仕入れてきたトンデモない情報を話し出す。
「ップハ! こ、こんなことしてる暇ないですよ! 彼女、ウィーネの事を調べてたんですけども、大変なことが発覚しました!?」
「「大変なこと?」」
ベルとヴェルフが2人して首を傾げてリリの説明に耳を傾ける。
「ウィーネがどうやってダンジョンから地上へやって来たのか情報を探ってたのですが、どうやらとあるファミリアが関与していたようなんです!?」
とあるファミリア? モンスターを地上に運ぶファミリアと聞いてまず真っ先に思い付くのはテイマーが複数人所属しているガネーシャファミリアだが、リリの様子からして恐らく違うのだろう。
ベルが首を傾げて疑問に思っていると、リリがそのファミリアの名前を口にする。
「そのファミリアが最悪なことに! あ、あのケルヌンノスファミリアなんですよ!?」
「「……ええ~~!!?」」
このオラリオに住んでいて……否、冒険者を目指す者としてその存在を知らぬ者はいないとされるほどに有名なファミリアが関与しているという事実に驚きの声を上げるベルとヴェルフ。
まさに雲の上の存在ともいえるファミリアが連れて来たとは夢にも思わなかったベルはソファーで寝ているウィーネを見ながらどう対処すればいいのか頭を悩ませた。
だが、それ以上にこの情報を持って来たリリがあたふたと頭を搔きむしりながら混乱したようにブツブツと独り言を漏らし続けている。
「どうしたんだいベル君? 何か大声で叫んでたけども、ウィーネ君の事で少しでも進展があったのかい?」
ベルの大声を聞いて別室で休んでいたヘスティアが心配してやって来た。っと、その時だった。
「た、大変です! 皆様方ぁぁ!?」
バン! と扉を乱暴に開けて入ってくる命の声に何事かと全員の視線が集中し、寝ていた春姫とウィーネもそのあまりの騒がしさに目を覚ます。
「どうしたんだい命君? そんなに慌てて……」
「げ、げ、玄関先にケルヌンノスファミリアのカイドウが訊ねて来ました!!?」
「「「「……えええぇぇぇぇ!!!?」」」」
「っ! パパが迎えに来たの!?」
「「「「「パパ!!?」」」」」
ウィーネの発言に驚きつつも、カイドウをなるべく待たせまいと全員が玄関先に移動すると、玄関先の庭で酒をぐびぐびと飲んでいる巨漢の男が立っていた。
「パパ!!」
「おお! 無事だったか、ウィーネ。怪我も無さそうで安心したぞ!!」
笑顔で飛びついてくる娘を抱きかかえながら、その体に特に目立った傷跡もないことに心底安堵している様子だった。
「あれが都市最強の冒険者……」
「確かにスゲェが……」
「あわわわわ……」
「おっきいねぇ……」
「ウィーネ様も再び会えて嬉しそうで何よりです」
「これが、タケミカヅチ様も認める最強の男……」
それぞれがカイドウの姿を見て様々な言葉を漏らすが、ウォロロロォォ! と笑いながらグルグルと抱きかかえて回る様子は紛れもない親子の姿であった。
一通り満足するまで親子として触れ合ったカイドウは、そっと地面にウィーネを降ろして後ろに待機させてあったウォーロンにウィーネを連れ帰るように指示を出す。
「おい、ウィーネを鬼ヶ島まで連れ帰れ! 今度はヘマやって出し抜かれるんじゃねぇぞ!」
「はっ!」
「もう帰るの?」
「ああ、ウィーネもこいつらに世話になったなら挨拶ぐらいしておけ」
「うん! またね、皆バイバイ!!」
元気よく腕を振って別れの言葉を告げるウィーネにベル達はとりあえず手を振っておき、そのままウォーロンに手を繋がれて去っていくウィーネを見送ったあと、未だこの場に残り続けているカイドウに視線を戻す。
別に何か悪いことをしたわけでも、敵対行為を見せたわけでもないのだが、ただそこに存在しているというだけでとてつもないプレッシャーがベル達を襲う。
「さて、まずはお前らには礼を言っておかねぇとな。ウチの娘のウィーネが世話になった。感謝するぜ……」
「い、い、いえそんな! ボクらはただ当然のことをしたまでで……」
「「「うんうんうん……」」」
人形のようにかくついた動きで謙遜の言葉を口にするベルとそれに同調するヘスティア達はダラダラと冷や汗を垂れ流す。
「ウォロロロォォ!! そう緊張するな。お前らはウチの娘の恩人だ。別にとって食う真似なんかしねぇさ!!」
バンバン! とその巨大な手でベルの肩を叩くが、当の本人であるベルは攻撃されたと勘違いしてしまうほどの衝撃を肩に喰らっていた。
「それじゃ本題に入ろうか。今回の一件はウチとしても非常に大きな大恩だ。その褒美として俺からテメェらに1つ貸しを作ろう!」
「「「「「っ!!!??」」」」」
あのオラリオ最強冒険者であるカイドウが貸しを作ると言ってきた。
それはつまり、程度にもよるだろうが、カイドウへの命令権を1つ得たと言っても過言ではない。
この世界で誰も縛り付けることが出来ない理不尽の権化ともいえる存在への命令権など、一体いくらの金を積めば手に入るのか想像すらできない。
まさかの展開にあわあわと慌てるベルだが、それ以上に後ろでキュー! と悲鳴を上げて倒れる音とそれを心配して騒ぐみんなの声が聞こえるが、とても目の前の人の圧が気になり過ぎて後ろを振り向くことができない。
要件は済んだ筈、だというのに一向にカイドウはこの場を立ち去る気配もなく、視線を真っ直ぐに向けられ続けている。
「あ、あの、まだ何か御用で……?」
「…………1つ聞くが、ベル・クラネル。お前は何故冒険者を目指した?」
「っ、えっと、それは…………」
まさか名前を知られているとは思っていなかったベルは驚きに言葉を詰まらせるが、それ以上に自身の冒険者を目指した理由を問われて言葉を迷わす。
別にベルが冒険者となった理由は高潔なものでも誇れるものでもない。
祖父の教えで持ったハーレムという夢は人によっては下品だとかふざけていると言われても仕方のないことだと理解もしている。
だから別に本当のことじゃなく当たり障りない噓を語った方がいいとは思う。
だけど、今目の前に立つこの人に噓をつくのはマズいと本能的に感じ取り、ベルはゆっくりと自分が冒険者になった理由を口にする。
「僕は……英雄になって、お……女の子と出会いを求める為に冒険者になりました!」
「「「「──―っ!!!」」」」
後ろから声にならない悲鳴が聞こえるが、それよりもカイドウの反応の方が気になる。
ふざけているのかと怒るのか呆れるのか? 恐る恐るカイドウの顔色を窺うが、その表情は困惑であった。
「…………??」
まさかの理由にカイドウも? マークを脳内で発生させる。
カイドウが前世で読んでいた漫画やラノベの主人公は大抵女性関係は清く、夢や目標は青少年らしい熱いものを持っている。
だが、まさかこの世界の主人公であるこの少年、ベル・クラネルが女の子との出会いを求める為に冒険者になったと聞いて脳内が宇宙ネコに支配される。
「……そうか」
なんとか口に出せた言葉はそれだけだった。もし部下のクイーンやジャックからこの世界のタイトルを普段からダンまちと略称ではなく正式名称である『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?』と呼んで思い出せていたなら反応はもっと違っていただろう。
「えっと、あの……すみません。変な目的で冒険者になっちゃって」
「別に謝る必要はねぇだろ。テメェが決めた目標に高潔も低俗もねぇ、あるのはそれを叶えられるかどうかだけだ……」
「へっ……」
「「「「「…………」」」」」
まさかの肯定的な言葉に全員の口がポカーンと開いて閉じることがなかった。
噂で聞くカイドウはこの世で並び立つ存在がおらず、常に唯我独尊的で悪人という印象の強い強者。
だが、こうして向き合って対峙するカイドウからは噂ほど酷い人物とは思えなかった。
「さて、少し話しただけだがテメェの人となりは分かったつもりだ。……1つ提案だが、お前、俺と今から少し戦ってみるか?」
「えっ!?」
突然のカイドウからの手合わせの誘いにベルは困惑の声を上げる。
次話にはベル君とカイドウの一騎打ち!
もうやめて!カイドウ!とっくにベル君のライフはゼロよ!
次回の過去編はどれがいい?
-
リヴィラの街
-
ソーマファミリア
-
ヘファイストス&ゴブニュ
-
飛び六胞の誰か?
-
港町メレン
-
テルスキュラ