カイドウがウィーネを娘にするのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
これからもこの小説をよろしくお願いいたします。
あと、サブタイトルで他にいいタイトル思いついたってひとは感想などで聞かせて。
突如として提案されたオラリオ最強の冒険者であるカイドウとの手合わせに、ベルの返事はNO寄りの戸惑いの言葉を口にする。
「えっと……僕とカイドウさんが戦うだなんて、無茶っていうか、無謀っていうか……」
もじもじと指をいじりながら断ろうとするベルにカイドウは怒るわけでも失望するわけでもなく、ただ冷淡なまでに冷たい声でベルの目指すものを問うた。
「なあ、テメェは何になりたいんだ? 臆病者か、それとも平凡なただの冒険者か?」
「へぇっ……?」
「勇敢と蛮勇は違うように、無茶と無謀の違いを知れ。英雄を目指すのなら挑戦し続けることだけを忘れるな……」
それだけ言って立ち去ろうとするカイドウにほっと息を吐いて安心するヘスティアファミリアの面々だったが、唯一ベルだけがカイドウの言葉を耳にして心の中で言いようもない不安、戸惑い、焦燥感といったものが胸に浮かんでいた。
そして気づいた時には立ち去ろうとするカイドウの背に向かって大声で待ったを掛けていた。
「……っ、待ってください!!」
「……ああ゛ぁん?」
ベルの掛け声に去ろうとしていたカイドウの足は止まり、後ろを振り向いて見ると、何やら覚悟と決意を決めた男の顔をしたベル・クラネルが立っていた。
「ちょっ!? なにしてるんだいベル君?」
「おい、ベル!? まさか下手な考えを浮かべてんじゃねぇよな!?」
「ベル殿! 流石に相手が悪すぎます!!」
「べ、ベル様! もしベル様の身に何かあれば春姫は……」
皆が心配してこれから先の言葉を口にしようとする僕を止めようとしてくる。
分かっている。僕とこの人とでは勝負にならないどころか、死ぬ危険だってあることくらいは……。
口の中がカラカラに乾く、次に続ける言葉が頭の中を行ったり来たりを繰り返している。
もう今すぐにでも全てを忘れて逃げ出したくなる衝動に駆られてしまう。
でも、ここで逃げてしまえば……。今この人の誘いから逃げて戦わなきゃ、英雄には……あの人、アイズ・ヴァレンシュタインの隣に立てなくなる。
そんな確証もない想いが心の底から湧き上がってくる。
だから、僕はここで逃げたくない! だから僕は今ここで、冒険するんだ!!
「カイドウさん! 僕と……戦ってください!!」
勇気を振り絞って出した声は震え上がり、手足は謎の寒さで震えるようにガクついている。
後ろで皆が騒ぎ立てているが、僕は振り返ることなくカイドウさんの返事を待つ。
「…………」
こうしてただ相手の返事を待つほんの数秒の間に、心臓が何度バクバクと鼓動を重ねたか分からない。
そうして待つこと数秒後、ようやくカイドウさんが口を開く。
「……撤回の言葉を出さねえってことは、咄嗟に出した答えって訳じゃないようだな?」
「──―っ!」
睨むような目で見つめてくるカイドウさんの視線に心臓が張り裂けそうなほどに跳ね上がる。
正直怖くて仕方がない。バクバクと鳴らす自分の心臓の音を聞ききながら、その恐怖心を必死に抑え込んで言葉を返す。
「はい、僕は本気です!」
「…………」
「…………」
2人の間に沈黙が流れる。皆の声や風の音も聞こえないほどの静寂が場を支配し、まるで時が止まったかのように感じたその時、カイドウが口を開いた。
「……実力が隔離した相手との戦いは肉体ではなく精神の闘いだ。テメェが出したその一言は賞賛されるべき勇気だと! そう口にする者もいるだろう……。だが! それは戦士の答えだ。賢者であればそれは無謀で蛮勇的な答えだと吐き捨てるだろう!!」
そう言い切った直後、カイドウさんは気づくと僕のすぐ前に立っていた。
「ッ!?」
その体格差から僕はカイドウさんから
その眼からは僕に期待? しているかのような意思を感じられた。
「だが! それら一切に耳を傾ける必要はねえ。それが戦士の称賛だろうと、賢者の苦言だろうと、例え英雄の言葉であったとしてもだ……。己の道1つ自分で決められねえ弱者じゃ大切なもの1つ守れねえからな!」
「は……はい……!?」
まさかのアドバイスについ上擦った声で返事を返してしまう。
そんな僕の反応が面白かったのか、カイドウさんは小さく笑って距離を取る。
「さて、つい無用なアドバイスを送っちまったな。そろそろお前の力を見せてもらおうか……!!」
「──―っ!!」
拳を握ったカイドウさんの雰囲気がガラリと変わる。
ただでさえ暴風が如き圧を放っていたというのに、手合わせを始めると言ったその瞬間、放たれる圧に無数の針を乗せて飛ばしてきているイメージが脳裏に浮かぶ程のプレッシャーが襲い掛かって来る。
「ウォロロロォォ! まあ、安心しろ。オレは武器も使わねえし力も半分以下で相手してやる。更にハンデとしてオレは一切お前には攻撃を直接当てたりはしねえ!」
確かに大きなハンデだが、それでも安心は出来ない。
当然だ、相手は都市最強の冒険者。
いかに武器を使わず半分の実力で攻撃を当てないと言っても怖いものは怖い。
だとしても……、
「それでも、僕はやるんだ……」
震える手足を押さえつけて自分が最も信頼している武器であるヘスティアナイフを構える。
スタートの合図はない。誰もが息を呑んだその時、最初に仕掛けてきたのはカイドウだった。
「──―えっ!?」
拳を握り締めたカイドウは限界ギリギリまで体を捻りあげ、砲丸投げのような体勢で固まる。
それは弓で矢を射る為の溜めに近しいような動作であると感じる。
明らかな無防備さに困惑の声を出してどうしていいのか分からずに固まるベル。
こんな状態の人を攻撃してしまっていいのかと良心で攻撃を躊躇してしまっていると、カイドウさんの攻撃準備が完了してしまう。
「いいのか? 絶好の攻撃チャンスを逃したぞ……」
本来の力を大幅に抑えた状態ながらも、極限まで溜めた拳の一撃をベル・クラネルのすぐ足元の地面に向けて叩きつける。
それは力という概念の爆弾とも言うべき一撃だった。
拳がぶつかった地面は水面に岩を投げ入れられたかのように大きな土の津波を起こし、呆然と立っていたベル・クラネルの目の前に土と衝撃波の壁を作り出した。
そして、次の瞬間にはベルの視界は闇で覆われ体中に痛みが走る。
「ぐっ、がぁぁぁ!!?」
叫んだ拍子に口の中に大量の土が入り込み、全身を丸ごと土に埋められた。
「べ……ベルくぅぅん!!!」
「おいおい、なんだありゃ……」
「きゅ~~~っ」
「は、春姫殿ぉ!!!」
離れて見ていたヘスティア達にはカイドウの一撃によって破裂した地面の土がまるで怪物のようにベルを襲い掛かったかのように見え、そのあまりの衝撃にその顔色を蒼白に変えて叫び出す。
特に心の弱い春姫などはそのあまりの光景に気を失って倒れてしまう。
たったの一撃でこれだ。もし本格的に戦闘にでもなったらと思えば……。
全員の脳裏に最悪の事態が浮かび、みるみるうちに顔面蒼白になっていく。
皆が戦いを止めようと動き出したそのとき、土に埋もれたベルの腕が顔を見せ少しもがくと、続いてもう片方の腕も現れて、次の瞬間に引っこ抜かれた野菜のように、ベルが土中から姿を現した。
「うっ、ぺっぺっぺ! っまだ!! 僕はまだ戦えます!!」
体中を泥まみれにして口の中に入った土を吐き捨てながらも、その目の奥に秘める戦意は喪失しておらず、逆にカイドウの一撃を喰らう前よりも輝いて見えた。
「油断や慢心……ましてや俺を相手に戸惑いや躊躇なぞ自殺行為以外のなにものでもないぞ……」
「はい! すみませんでした!! だから、次からは全力でいきます!!!」
「目が覚めたんなら! さっきみたいな間抜けな姿を晒すなよ!!」
再びナイフを構えるベルに、カイドウは拳を鳴らして戦闘続行の意思を受け止める。
この戦いを止めに入ろうとしたヴェルフや命も2人の間に流れる戦意という名のプレッシャーに押されてしまい動きを止める。
「はああぁぁぁ!!!」
今度はベルの方から先に攻撃を仕掛ける。真っ正面から攻撃して決まるとは思っていない。
だから持ち前の敏捷性を生かして側面から攻撃に入る。
「…………」
カイドウは身動ぎ1つせず、それどころか側面に入ったベルの姿を目で追おうともせずに棒立ちのままの状態だ。
再びの無防備さ、だが今度は遠慮も躊躇もしない。走る勢いを殺さぬまま、ベルはカイドウの腕目掛けてナイフを振りかざした。
っが、その攻撃はカイドウに届くことは無かった。
「──なっ!!!」
たった指2本でナイフを受け止められた。それも、こっちをチラリとも見ずにっ!!?
「速さはいい。今度は躊躇しなかったのも褒めてやろう。だが、狙いは甘ちゃんだな。腕を斬りにかかったんだろうが、側面に入ったなら一撃で仕留めるように首や頭部、もしくは肺を狙っての刺突の一撃を決めるべきだろうが!!」
ベルの攻撃にダメ出ししながら掴んだナイフをベルごと乱暴に投げ飛ばす。
「うわぁぁぁぁ!!」
空中に放り出されたベルは悲鳴をあげながらも、地面に落ちた際にしっかりと受け身をとって立て直す。
そして見据える先に不動の構えを崩さぬカイドウの姿。
高すぎる壁の存在に心が折れそうになるも、その強さに憧れを抱いてしまう。
自身の憧憬は確かにアイズさんだ。それでも、あの強さに……あの堂々とした立ち振る舞いに焦がれ追い求めてしまう。
だからこそ、この戦いで何かを掴み取りたいとナイフを持つ手に力が入る。
「そうだ、それでいい。この戦いで成長してみせろ!!」
心が折れず抗おうとするベルに好戦的な笑みを浮かべ、拳を突き出す。
「指銃の応用技が1つ。拳による飛ぶ弾丸の一撃を見せてやる!」
ニヤリとほくそ笑むカイドウに嫌な予感がしたベルは即座に後ろに下がって距離をとった。
しかし、それだけでは甘かった。
カイドウは動きを見せると、その場から一歩たりとも動かずに拳を空に殴りつけた。
ただのパンチ一発だ。避ける必要もガードする意味もない。だが、そのパンチの危険性にベルだけが見るよりも先に感じ取り、更に後ろに下がったのと同時にナイフを盾にガードをとった。
「正解だ……」
パァン!!
空気が爆ぜた。そして、それは砲弾となりて真っ直ぐにベルに襲い掛かる。
「っぐ!?」
「ウォロロロォォ!! どうだ、指ではなく拳で叩き込む指銃と鉄塊の応用技『
何もない空間を殴った筈なのに何かが弾ける音が聞こえ、それと同時に拳の当たらぬ離れた距離にいた筈のベルが何かに殴られたかのように吹き飛ばされたことに焦りと驚きの声を上げるヴェルフ達。
「おいおい! ふざけろってんだ!!! 一体何が起こりやがったんだ!!?」
驚愕に眉をひそめるヴェルフの隣で命は冷や汗で顔を濡らしながら、かつての武神が語ったことを今に思い出す。
「ま、まさか、……昔、タケミカヅチ様に聞いた覚えがあります。武芸を極めた達人の技は木の枝や水を武器に変えて戦うことができ、更に極めた超人ともなれば形なき空気すらも砲弾に変えて敵を穿つことすら可能となると……」
「それじゃ何か? ベルの奴はカイドウが殴りつけた空気の塊をぶつけられて吹っ飛んだっていうのか!? 現実味が無さすぎるぜおい!」
「自分もこの目で見ても正直信じられません! いっそ魔法やスキルの効果と言われた方がまだ理解出来ますが、先程のあの技の構え……。一寸のブレもなく、芯を穿つようなあの鋭さは何十何百ではない! 何万何億と積み重ねた修練の結晶だと思われます!」
自身の口から語っているというのに、命自身も半信半疑ながら今目の前で起こった事実に眩暈すら覚えている。
遠くから見ている自分達ですらこれなのだ、実際にカイドウの目線の先で立って戦っているベルは一体どんな気持ちでいるのか想像だに出来ないでいた。
「今ので終わりじゃねえぞ! もっと足搔いてオレを楽しませてみろ!!」
不敵な笑みを浮かべカイドウは続けて2発目を撃とうと構える。それを見た瞬間、ベルは考えるよりも先に前へと走り出していた。
「っく! このままじゃダメだ! 前に出なくちゃ!!」
カイドウからの再びの攻撃に距離を取るのは悪手だと察したベルは逆にカイドウに接近して近接戦闘に挑みかかる。
「ウォロロロォォ!! 俺を相手に近接戦闘か? いい度胸だと褒めてやるが、まともに動けるのか?」
確かに強者からの恐怖や圧は動きを曇らせ、思い通りの動きを出すことは難しくなる。
現に今もベルの手は若干ながら震えている。だが、こんな経験はレベル1だった頃にミノタウロスとの戦闘でとうに体験済みだ。
腹の底から声を吐き出し、震えるナイフを持つ手に力を籠めて攻めに入る。
「はああぁぁぁ!!!」
「ほぉ、臆せず向かってくるか!」
逃げずに真っ向から向かってくるベル・クラネルの姿にオレはニヤリと笑い、アイツの必死の特攻を攻撃の構えを解かずに、残っているもう片方の左腕で全て迎撃してみせた。
そして技を放てる程度に溜めが終わり、オレの攻撃の番に変わったというのに、アイツは距離を取るどころかオレの右手に逆に近づいてきやがった。
「面白れぇ! 直接攻撃は無しのハンデを逆手にとるとはな!! だが……!!」
「わっ!?」
距離が近くなったということは、わざわざ獣厳を放つ必要もなくなるということ。
そして、ご丁寧に手の届く距離に飛び込んできたベルの身体を掴んで投げ飛ばす。
「どおりゃああぁぁ!!」
「うっわわぁぁぁ!!?」
それにしても、いくらハンデで直接攻撃はしないと約束したとはいえ、桁外れの破壊力を持つ拳の前に飛び込むなんざ並みの心臓の持ち主じゃ絶対に選択しない行動に益々ベル・クラネルの評価が上がっていく。
だが、所詮は冒険者歴数ヶ月のルーキーだ。その胆力と行動力には目を見張るものがあるが、攻めや受けのノウハウはまだまだベテランの領域とは言い難い。
そんな、まだまだ未熟な部分を遠慮容赦なく攻めていき、ベルの荒い箇所を削っていく。
「っぐううぅぅ!!」
「ウォロロロォォ! どうした、
「っぐ! 違います!!」
まだまだぁ! と諦めずに攻撃の手を止まないベルの猛攻にカイドウはその全てを軽く受け流し捌いていった。
「うおおぉぉぉぉ!!!!」
本当に強い! ただレベルが高いだけじゃない!? この人は……カイドウさんは戦いが上手いんだ。
僕が攻めようとしている箇所を瞬時に見抜いて守り、時には逆に囮として受け止めて反撃仕返してくる。それもその場から1歩たりとも動かずに!?
「ファイアボルト!!!」
「それがテメェの魔法か? そんなんじゃ、ロウソクに火を点ける程度しか役に立たねえぞ!?」
フゥー!
「なっ!?」
まさか、僕の魔法を尋常じゃない肺活量にモノ言わせた空気のブレスで搔き消してしまうなんて!?
遠くで見ていた神様たちがチートだろぉぉ!!! と叫んでいた。まあ、僕もファイアボルトをフゥー! っと息だけで消されたのは正直驚きよりも理不尽だ……って思うけども。
「驚いてる暇があるなら足を動かせ!!」
「うわっ!?」
またあの飛んでくる拳の技に足をやられる。咄嗟のこととはいえ攻撃される前に声をかけられたからギリギリのところでかする程度の傷で避けられたけど、当たった箇所がジンジンと痛みを訴えてくる。もし直撃していたらもう走れなかっただろう。
最悪な想像に寒気が走るが、ここで怖気づいて立ち止まる訳にはいかないと奮起して戦い続ける。
「ウォロロロォォ! もっとテメェの力を見せてみろ!」
「っく! せめて……せめて一歩くらいは……」
最初は勝てぬまでもせめて対等な勝負が出来ればという気持ちで挑んでいたが、もはやその次元の相手じゃないということに気づかされ、今はせめてどうにか足の1歩でも動かしてやろうという気持ちで挑んでいるが、こちらの攻撃は一切通じていない。
「あれ?」
これで本当に手加減しているのか? とも思ったが、戦っているウチに僕がカイドウさんの動きを目で追えていることに気付く。前に僕がアイズさんと修業しているときは、格上のアイズさんが時折手加減をミスして意味も分からずぶっ飛ばされるなんてことがよくあったが、今こうしてカイドウさんと戦っているなか、僕が倒されている原因が記憶を辿ればハッキリとよく分かる。
さっきのは魔法を息で搔き消された際に驚いて攻撃の手を止めて立ち止まった際に足を狙われたから……。その前のは攻撃がキマった瞬間の一瞬の気の緩みを突かれてしまったから……。
他にも記憶を遡れば全て僕の失敗を突かれて攻撃を当てられたり倒されたりしている。
こうして今もカイドウさんが攻撃してきている箇所も僕が意識していない部分だし、攻撃を受け止めるのも戦闘に支障が出ない浅い攻撃のみを判断して受け止めている。
戦っているうちにますます理解していくカイドウさんの強さに僕は思わず内心で歓喜してしまう。
凄い! これが都市最強の冒険者の実力なんだ……!!
「ウォロロロォォ! いい目をしてきたじゃねぇか。敵だろうが味方だろうが、こうして強い相手と戦うのならまずは学べ! どう動き、どう対処するのかを……」
「はい! わかりました!!」
右がダメなら左を……!? ダメだこっちも無理。後ろをとりにいっても近づく前にカイドウさんの回し蹴りが体に当たる直前の距離で放たれる。
360度全方位から攻めにいっても対処されてしまう。とはいえ、それで戸惑い足を止めれば即座に攻撃の手が飛んでくる。
状況は完全にこちらの圧倒的経験不足によって不利となっている。
なのになんでだろう? こうして戦うたびに自分に不足している部分が補われていく感触に高揚している僕がいる。
最初はただ痛かった攻撃が段々と「ここがダメだ!」「こっちにも意識を向けろ」「ほら、甘い攻撃は反撃されるぞ」とカイドウさんから指導を受けているように感じていく。
もう今の僕に怖いなんて恐怖心はなく、ただもっとこの人と戦いたい! もっとこの人に教わりたい! という気持ちが溢れていた。
「おい? ベルの奴、なんか戦う前よりも強くなってないか?」
「自分もそう思います。ベル殿の動きがあのカイドウとぶつかり合う度に洗練され高まっているような……」
「べル君……」
遠くでただ見ていることしかできないヴェルフ達がベルの動きが目に見えて良くなってきていることに驚いているなか、神・ヘスティアはかつて眷属たるベルが言ってきた言葉を思い出す。
『神様……、僕、強くなりたいです』
(ベル君、君がいま彼に立ち向かうのは、強くなって君の目指す英雄になりたいからなんだね。……だったらボクは何も言わないさ。だから君は精一杯戦って強くなるんだ!)
何も出来ず見守ることしか出来ないヘスティアは、ただ静かに夢の為に強くならんとする最初の眷属であるベルの成長を祈りながら2人の戦いを静観する。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……」
「流石に息が途切れてきたようだな。だが足を止めないのはいいことだ。ここがダンジョンならば、悪意を持ってそういった冒険者の隙を狙ってくるからな!」
再びアドバイスを送るカイドウの言葉を聞きながら、ベルは更にその脚を速める。
もっと強く! もっと速く! この人に追いつきたい!! この人の背中を追いかけていたいんだ!!!
高まる心の熱さが背中を押して、さらにスピードを上げていく。
既に体はカイドウからの攻撃でボロボロになり、息も大きく乱れている。だが、それでもベルは止まらない。
今の彼は最強の冒険者を相手に冒険している。その経験は何ものにも代え難く貴重なものなのだから。
永遠に続けられそうな、そんな興奮感で走っていたベルの身体についに限界がおとずれる。
「なっ!!?」
走っていた脚が急に動きを一瞬止め、バランスを崩しそのままの勢いで地面に転げるベル。
その無防備となった隙をカイドウは狙い撃つことなく、静観してベルが立ち上がるのを待っている。
だが、数秒待てどもベルは立ち上がることはなかった。
ベルが転んで倒れ、大きく肺の中の空気を吐出した瞬間、体が呼吸することを思い出したかのように酸素を欲し「ぜひゅ~、ぜひゅ~」と口を開いて思い切り空気を吸い込む。
されど胸の苦しみは取れることはなく、逆に激しくなるばかりであり、今度は呼吸に続いて体に火が付いたように熱くなっていくように感じ、ポツポツと玉のような汗が体中から溢れ出てきた。
手足も動かし続けた影響で痛みを訴え始め、立ち上がろうとするベルの意思を無視して足は上がらず、腕は鉛を流し込まれたかのように重くなっていく。
そんな体の不調を頭の中で冷静に確かめていると、戦いの興奮で忘れていたカイドウさんからの攻撃で受けたダメージがここで悲鳴を上げる。痛くて苦しい感覚が、なおも戦い続けようとするベルの意思をだんだんとへし折って来る。
これは代価だ。限界以上に体を酷使した結果の後払い。だったら大人しく支払う他ないだろう。
「っかはぁ! はあっ……はあっ……はあっ!!」
「もうダメか? 限界を超えられずにそのまま地に伏していくつもりか……?」
倒れて呼吸困難に至り点滅する視界の隅でこちらを見つめるカイドウさんの姿が映り込む。ぼんやりとする意識のなか、自分の呼吸する音も遠く聞こえるのに、何故かカイドウさんの言葉だけがハッキリと耳に届いて離れない。
「諦めるのは簡単で容易いことだ。でもオレは期待してんだぜ、
誰が……? 僕に期待? こんな弱くて小さな僕に期待している? どうして?
理由が分からない。僕はただウィーネを助けただけでレベルだってカイドウさんの半分もいかないレベル3程度だ。
強すぎて高すぎる壁にぶつかり続け、体に引きずられ心まで弱ってきたベルの意識が弱音を吐出していく。
もう立てなくてもいい、ここで諦めて楽になってしまおう。
そんな弱い自分が耳元で囁いてくる。
「……っ?」
あれ? なんでだろう……。もうこのまま倒れてもいいって思ってたのに、僕の意思に反して体がまだ立ち上がろうとしている?
「っぐぐぐ……」
あんなに痛くて重かった手足が僕の中の悲鳴を無視して立ち上がろうと足搔き続ける。
なんでだろうと疑問に思っていたが、目を見開いて前を向けばその答えが立っていた。
この都市で一番強い人……カイドウさんが僕を見ていたからだ。
僕の憧憬は間違いなくアイズさんだ。でも、漢として憧れたのはこの人なんだ。
こうして戦ってみてよく分かった。時折他の冒険者が口にしていたあの話……、この都市で一番強いカイドウさんに憧れるという話を。
当然、冒険者なんだから強い人に憧れるのは当たり前なんだろうなってその時は気軽に考えていた。
でも違ったんだ、もっと単純にスゴいって……、強いことって男として憧れてしまう本能なんだって気づかされた。
そんな人に失望されたくない! 僕のことを例え過大評価だとしても期待していると言ってくれたあの人の言葉を裏切りたくないんだ!!
もうこれは僕の
「うっ──―おおおぉぉぉ!!!」
先程までは僕の意思じゃ起き上がれなかった手足は、ゆっくりとだが僕の重い体を立ち上がらせてくれる。
もう立つのもやっとなフラフラの状態でナイフを構えカイドウに向き合う。
「ウォロロロォォ!! いいぞ、よく根性を見せやがった!!」
「はぁ……はぁ……、ありがとうございます!」
カイドウさんは本当に嬉しそうに笑いながら僕を指差し、目を見開いて驚愕の一言を口にする。
「どうだ、
「「「「なっ……!!?」」」」
突然のカイドウの提案に驚きの声を上げる。それもまた仕方のないことだろう。
この都市で一番強いファミリアの団長直々のスカウトだ。例えるならば名の売れ出した野球部員が世界一のプロ野球チームのエースもしくは監督からスカウトされるようなものなのだから。
「なんなら今はまだテメェはヒヨッ子だが、将来性は充分にあるからな。次期幹部候補として迎え入れてもいいぜ?」
「「「「──―っ!!?」」」」
もう声も出せないくらいに驚いた。ケルヌンノスファミリアの幹部である飛び六胞といえば下手な中級上級ファミリアの団長以上の権力や地位を持っていると言っても過言ではない。
勿論、アポロンファミリア団長であったヒュアキントスなぞ歯牙にも掛けないレベルの待遇だ。
普通の上を目指そうとする冒険者であれば、この提案は即座に飛びつくような魅力的なモノだ。
ましてや英雄を目指すのならば、ケルヌンノスファミリアの幹部は最も英雄に近づける道といえよう。
……でも、違う。僕の目指していたのは確かに英雄だ。
けれども、このオラリオに来たのは出会いを求める為に……。女の子と出会いもそうだけど、一番欲しかった出会いは……。
『おーい、そこの君ぃ。路地裏は危ないから、行かない方がいいぜ?』
あの人が手を差し伸べてくれた手の暖かさ。家族の温もりを求めていた僕に出会ってくれた神様に恩返しをしたいから。
「すみません! 僕は……このヘスティアファミリアで強くなりたいんです。だから、その提案には乗れません!!」
頭を下げる僕にカイドウさんは何も答えないでただ黙っている。
何秒かの沈黙のあと、カイドウさんははぁ~ッとため息を吐いて口を開く。
「断られるのは何となく予想はしていた。いつものオレならそんな生意気な口を叩く野郎には金棒の1発でも喰らわせて問答無用で心をへし折ってやるところだ。だが、テメェはウチの娘の恩人だ。そんな真似をする訳にもいかねえ。なにより、テメェのその目は確固たる意思を感じられる。なんなら、さっき立ち上がった時以上に強い目をしてるぜ!」
「えっと……?」
何か物凄く物騒な発言が聞こえてきたが、下手に藪をつついて蛇どころか鬼超えて龍を出すこともないだろう。
「まあなんだ、野暮なことを聞いちまったなってことだ。詫びと言っちゃなんだが、次のテメェの一撃を真っ正面から喰らってやる。遠慮せずにドン! と撃ってきな!!」
そう言うとカイドウさんは両手を広げて無防備な姿で仁王立ちする。
この人と戦う前の僕だったら遠慮して攻撃なんてとてもじゃないけど出来なかっただろう。
でも、この人は僕なんかと違って本当に強い! 憧れてその背を追いかけたくなるほどに、だから信頼している。僕なんかの攻撃じゃ倒れないってことを……!!
「いきます!!」
「こい!!」
意気込んだのはいいけど、どうすればいいんだろう? 技もパワーもスピードも手数も全て通じない。
圧倒的な力を持つカイドウさんに対して有効打となれる攻撃が僕には何1つ持ち合わせていない。
こういう時、魔法使いの人なんかは強力な魔法で格上のモンスターを倒したりするって話をよく聞く。僕のパーティーだったらヴェルフの魔剣なんかが……。
そうだ、魔剣だ……!! 僕の魔法とこの神様から貰ったナイフを組み合わせれば、あるいはカイドウさんに届くかもしれない。
たった今思いついた突拍子もないものだ、上手くいくかもまるで分からないが、やってみるだけの価値はある!
「ファイアボルト」
僕の魔法をカイドウさんにぶつける為にではなく、ヘスティアナイフに注ぎ込む為に発動させる。
やがてその炎は熱く燃え上がり、ナイフに纏って燃え続ける。
でも、これじゃまだ足りない!!
リン、リンと鈴の音が響き白い粒子が燃えるヘスティアナイフに収束していく。
僕のスキル【英雄願望】によるチャージは想いの強さで強くなっていく。
今の僕が思い浮かべる英雄は道化の英雄アルゴノゥトでも愚者の英雄エピメテウスでも大英雄アルバートでもない。
僕の目の前で泰然自若といった感じで
前々からあの人の偉業はよく耳にしていた。
曰く、7年前の暗黒期で敵の闇派閥を殲滅した功績者である。
曰く、未だオラリオの外で暴れる古代の時代のモンスターを倒し国を救った英雄である。
曰く、黄金を生み出す竜を倒したドラゴンスレイヤーである。
曰く、漆黒の獣のモンスターを叩き潰した豪傑である。
曰く、下界で産まれ墜ちた闘神の化身である。
そのどれもこれもが眉唾物に近い噂話であるが、その全てが真実だというのはこの都市に住む誰もが知る話だ。
まあ、最後のは流石に噓なのだろうけど、何故か信じられてしまう風格を感じてしまう。
「すぅ~、ふぅ~」
そんな誰よりも強い最強の英雄。そのイメージを武器に乗せてチャージしていく。
リン、リンという鈴の音が次第にゴォーン、ゴゥンと大鐘楼の音へと変化していく。
いつもよりも大きく、速く、雄大に聞こえるのは、きっとこの目で見て、この体で感じ、この心が強く揺れ動かされたからなのだろう。
いつも本で読んでいる英雄じゃない、こうして僕と向き合ってくれる英雄に自分を重ね合わせる。
深く息を吸って吐出し呼吸を整える。千載一遇のチャンスに心が……心臓がバクバクと音を鳴らしてうるさく聞こえる。
「この鐘の音? これがテメェのスキルか……」
「……はい! そしてこれが、今からあなたにぶつける僕の渾身の……いえ、
「ッ!? ウォロロロォォ!! このオレに向けて最強を口にするか!!」
クワッ! と眼を見開いたカイドウの顔はいつかダンジョンで見たブチギレたモンスターの顔を思い出させる程に怖かった。
でも、立ち向かう勇気は既に持っている。手足の震えは驚くほどなく、呼吸も平常心で行えている。
体は全身痛み疲れ果てているというのに、全てが理想的なまでに仕上がっている。
既に魔力も気力も全て技を放てるギリギリまで使ってチャージを完了させ、あとは技を放つのみとなった状態だ。
(焦るな、我武者羅に撃ってもきっと有効打にならない。だからこそ、冷静に見極めるんだ!)
体は燃えるように熱いというのに、頭はそれに反比例するようにスゥ~っと冷静になっていく。
(もう無駄な動きに使える体力は残ってない。だったら、もう一番楽な動きを取ろう。何故か、それが正解のような気がする)
謎の確信に突き動かされるまま、ベルは一瞬ドロリと体が溶けたような動きを見せたその
そのスピードは離れた距離から見守っていたヴェルフ達もその姿を一瞬視界から見逃す程に素早く、真っ正面から見ていたカイドウもベルが見せたその走りに驚きの顔を見せたが一瞬で気持ちを切り替える。
「──────ッッッッ!!!」
「ぬぅおっ!!?」
声なき声で叫ぶベルの一撃がカイドウの胸に斜めから撃ち込まれる。
これまでどのような攻撃がこようとも全て冷静に対処してきたカイドウから初めて焦りに似た声が飛び出た。
炎の斬撃がカイドウの胸を僅か……本当に僅か程度ながら焦がし、数センチだけとはいえ地面の土を削って後ろに後退させることに成功する。
これで満足だろう? あのカイドウさんに傷はつけられずとも焼け痕は残せた。それに僅かとはいえカイドウさんを動かせたのだ。これで充分に満足する結果だろ?
頭の中でやり切ったと言わんばかりにもう1人のボクが語りかけてくる。空気が欲しい。渇いたのどを潤す水が飲みたい。疲れた体を休めるベットで横になりたい。
弱いボクの欲はとどまることを知らず、次から次へと僕の脳内にここで終われと囁き続けてくる。
実際に他者の目から見ても充分によくやった方だろう。でも、それでも……!
「まっだっだぁ!!!」
まだナイフには残炎がある! 意識だってまだ残っている!! ならもっと……もっと足搔いてやる!!
足を伸ばし地面を蹴り上げ宙に飛び、もう一撃を喰らわせんと体を翻して斬りかかる。
『
「っ!? 鉄塊!!」
同じ箇所に2度目の斬撃を放つベルの攻撃に危機感を感じたカイドウはここで初めて防御技を使った。
そして、その判断は正しかった。2つの斬撃が重なることで何倍もの威力を生み出し、たまらずカイドウはその足を一歩後ろへ下げてしまい、一度目の斬撃と二度目の斬撃によって生じたXの傷痕からジワリと赤い血が滲んで出ていた。
「ッッッ、ウォロロロォォ!!! まさか本当にやりやがるとはな!!!」
「──―ッッ!!」
攻撃のみに全てを注いだベルは2発目をカイドウに叩き込んだと同時に体力が底を尽き、
そんなベルに高笑いしながらカイドウは懐からポーションとマナポーションを取り出し、気絶したベルにふりかける。
高品質なポーションだったのだろう。みるみるうちにベルの傷は塞がっていき、枯渇した魔力が戻ったのか悪かった顔色が元へと戻っていく。
「ベル!」
「ベル殿!」
「ベル君!!」
倒れたベルに心配して駆け寄ってきたヴェルフ達に抱きかかえられ、ベルはゆっくりと意識を取り戻し瞼を開く。
「うっ、あれ? 僕どうして?」
「気が付いたかベル!」
目を覚ましたばかりで状況が良く分かっていないベルに安心したような顔を見せるヴェルフ達に目をやると、薄っすらと気絶する前の状況を思い出して跳ねるように飛び起きる。
「っは、カイドウさんは?」
「オレならここだ!」
跳ね起きたベルの真後ろで酒を飲んでいるカイドウの姿があった。その胸元には自身がつけたであろう傷が確認でき、胸の中で何やら達成感と共に熱い想いがこみ上げてくるように感じた。
「ウォロロロォォォ! なあ、
「ぼ、僕が大看板ですか!?」
「ああそうだ! オレはテメェに大いに期待している。こっちに来ればオメェの目指す英雄の地位だって手の届く距離に近づく!」
「……っ、すみません。それでも僕は先程も言った通り、ヘスティアファミリアに居たいんです!」
「ああ、それもさっき聞いた。だがよぉ、オレは別に今後一切ヘスティアファミリアに関わるな、なんて器量の小さな事は言うつもりはねえ。ウチで働き強くなって好きにここに戻って来ればいいだけの話だろ?」
確かに、それならばここを出てヘスティアファミリアからケルヌンノスファミリアに鞍替えした方がよっぽど神様や皆の役に立つ。
でも……、なんだろう? 利益や効率の為だけに皆の傍を離れて出て行くっていうのはちょっと……寂しいように感じる。
そんな風に僕が暗い顔をして下を向いて俯いていると、神様がその小さな身を前に出して、僕とカイドウさんの間に割り込んできた。
「やいやいや~い!! さっきから黙って聞いていればグダグダとぉ!! ボクのベル君を引き抜きなんて絶っ~~体に認めないぞ!」
「っていうか! さっきのバトルを見ていたが、言いたいことが山ほどあるんだ! よっくもボクの可愛いベル君を痛めつけてくれたな! そりゃ、アレを望んだのはベル君の願望だったから途中で口出しはしなかったけども、もう我慢の限界だぁ! これ以上は僕が相手してやるぜ!!」
シュッシュ! とへっぴり腰なシャドウボクシングで威嚇する神様を見て僕は迷いが吹っ切れた。
ああそうだ、この
だから僕はこの
「カイドウさん。やっぱりその件は申し訳ないですがお断りさせて頂きます。僕はこの
「べ……ベル君!」
隣に立って手を繋いでくれたベルに感動したヘスティアはおよよよっと感涙にむせび泣き、ギュッとその手を強く握りしめる。
「はぁ~、っち! よっぽど大事か、このファミリアは?」
「っ、はい! このヘスティアファミリアは僕のもう一つの家族なんです!!」
ため息と舌打ちを鳴らしたカイドウはベルに最後のチャンスとして問い直す。
「オレのファミリアに来れば強くなる指導もしてやるし、ポーションや装備の金の工面に苦労することはねえぞ?」
「確かにそれは魅力的です。でも、僕のファミリアにもリリやヴェルフといった頼もしい仲間がいるので!」
確かな真っ直ぐな目で己の仲間を信じるベルの心に一欠片の迷いや曇りもなく、それはまさしく漫画の主人公然とした態度だった。
これにはさしものカイドウもついに折れ、勧誘するのを一旦諦めることとなった。
「楽な道じゃねぇぞ……」
「覚悟の上です! それが例えどんな険しい道でも、仲間と一緒ならきっと乗り越えられるって信じてますので!」
「ふっ、そりゃそうだろ。なにせ、険しい道の歩き方はついさっき
乱暴に頭を撫でまわし笑いかけるカイドウにベルはふと懐かしい感覚が蘇ってきた。
あの夕焼けの丘で同じように僕に笑いかけながら乱暴に頭を撫でてくるおじいちゃんの姿とカイドウさんの姿が重なる。
「それじゃ、オレはそろそろ帰るとしよう」
「あっ……!」
離れていく手につい声を出してしまったが、幸運なことにそれを気に留める者はおらず、そのままカイドウは去っていく。
「ああそうだ! 忘れるとこだったぜ……」
ふと何かを思い出したカイドウは帰る足を止め、ベルの方に振り向いてニヤリと笑う。
「今回、オラリオを襲撃したモンスターの発生原因を後日、オレ達ケルヌンノスファミリアが討伐すべく都市外へ遠征に出掛けることになった……」
背中に背負っていた金棒をグッと握って装備し、天へと向かって自身の持つ最強技の1つを放つ。
『
ドォゴォォン!!!
その一撃は暴風と雷鳴を携えて天へと登り、今のオラリオを象徴しているかのように立ち込めていた暗雲を全て吹き飛ばしてみせた。
その後に見えるのは煌めく星々の輝きであり、オラリオに美しい夜空を生み出した。
「もしテメェがオレと同じ
「……っ! は、はい!!」
ニヤリと笑って去っていくカイドウの背中を見送ったベル達は、その姿が見えなくなってようやく息を吐いた。
「「「「はぁ~~~~、緊張したぁぁぁ」」」」
溶けたスライムのようにグダグダになった状態で地面に座り込む。
その後、皆が思い思いにカイドウの印象やベルの成長っぷりを話し始めた。
「それにしてもスゲーよな。金棒の一撃で雲を吹っ飛ばしちまうんだからよ……」
「だねぇ~、っていうかアレもしかして天界に直撃しちゃったんじゃないかい?」
「だとしても、あの御仁の技であれば驚きはしませんね。技量でいえばタケミカヅチ様と比べられる程に高いとお見受けしましたし……」
「あっ、技量といえば、ベル! お前いつの間にあんな凄い技作ってたんだよ!」
「ええっと、実はアレって土壇場の思いつきで、ヴェルフの魔剣みたいな力があればな~って考えて出来たものなんだ……」
「ふむ、ということはまだ技名もないということですね。なら、拙者にいい案があります! 『烈火炎熱剣』なんてのはどうでしょうか?」
「いやいや、俺ならこう名付けるぜ! 『ファイアストラッシュ』これでどうだ!」
「うわぁ! どっちも凄くカッコイイよぉ!! って、アレ? どうしたんですか神様?」
頭やら胸やらを掻き毟りながらイタイイタイと転がり回るヘスティアにどこか体の具合でも悪いのかと訊ねる。
「い……いや、大丈夫だ。少々精神的にくるものがあって致命傷なだけだ……」
「致命傷は重傷ですよ神様!?」
グフッと吐血したような声を上げながらヘスティアもベルの必殺技名に口をはさむ。
「まあ、それはさておき、アレはボクのナイフとベル君のスキルあっての技だろ? だったら、アルゴノゥトとボクのもう1つの名ウェスタの名を連ねて
自身の大きな胸を揺らしながら自信たっぷりに提案する神様の名前にベル達はそれだ! とばかしに指差して同意の声を上げる。
「それじゃベルの技の名前も決まったことだし、そろそろ屋敷に戻ろうぜ? 気絶したリリ助や春姫もベットに運ばなければ風邪をひくだろうしな」
「「「「あっ!」」」」
そういえばすっかり気絶した2人のことを忘れていた。僕が2人を屋敷に運ぼうとしたのだが、ヴェルフと命さんにお前は疲れているだろうからこれくらいは自分達がすると言って引き受けてくれた。
「それじゃあ神様。僕達も屋敷に帰りましょうか」
「そうだね、ベル君。と・こ・ろ・で~、さっきあのカイドウって男に頭を撫でられて随分と嬉しそうだったじゃないか? おまけに、手を離したら「あっ……!」なんて声も出しちゃったりして」
「えっ、神様聞こえてたんですか!?」
「ムッフフフ、実は聞こえちゃってたんだよねぇ。さあ吐け! 吐くんだベル君!」
いじわるそうな顔を近づけて自白させようとしてくる神様に僕はしどろもどろになりながらも、結局答えを返すことにした。
「えっと、その、カイドウさんって、
「なるほどね~、確かにあの時のベル君とカイドウ君は師弟関係に見えたからね~……って、ちっが~う!! ベルく~ん、神に下界の子の噓が通じると思ったのかい?」
うんうんと頷いていた筈の神様はノリツッコミ的な勢いでベルの頬っぺたを掴んで引っ張り伸ばし、正直に白状しろっとウリウリ♪ とつねりあげる。
「ごっ……ごめんひゃい、神様! っぷは! 実はその……昔僕が子供の頃、おじいちゃんに頭を撫でて貰った時のことを思い出して、それでカイドウさんのことをおっ……お父さんのように感じちゃって。変ですよね? ただ頭を撫でられただけだっていうのに、お父さんみたいだなんて……」
「そっか……」
照れた顔で恥ずかしそうに白状したベルの頭を、ヘスティアは優しく自身の胸元に抱き寄せてよしよ~しと撫でてあげる。
「んなっ!? か、神様!!? む、胸が当たって……?!!」
「別にそう恥ずかしがらなくていいだよベル君! なんならベル君は特別に……って、そうじゃなくて!! こうして誰かに優しくされたら人は甘えたがるモンなんだよ。例え血のつながりが無かろうとも、家族になれない訳じゃない。あのウィーネって子とカイドウ君だって血のつながりは無い筈なのに家族になっているだろ? だから、君が彼を父親のように感じたのも間違いなんかじゃないんだよ……」
優しく染み込んでくるような神様の言葉に変な気恥ずかしさは消えて無くなり、抵抗を止めてヘスティアの胸の中で大人しくする。
「……神様。ありがとうございます……」
ヘスティアの慈愛に絆されたベルはゆっくりと瞼を閉じて、頭に感じるヘスティアの優しい手つきに身を任せて眠りに入る。
「お休みベル君。今日はよく頑張ったね」
満点の夜空の下、神と眷属は今日という日を終えるのだった。
今回は今までで一番長い話になりました。もうこれ、ちょっとした短編小説ですよ。
特に難産だったのはベルに対して手加減するカイドウの描写ですよ!
下手に弱くし過ぎるのもダメだし、無双しまくりはハンデにならないしで手こずりましたよ本当に……。
次回はもっと早く投稿できるといいな……。
あと、感想送ってくれたRhdsgさんいつもありがとうございます。
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