カイドウがウィーネを娘にするのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
これからまだヘルメスやギルドなんかも残っていると考えるとゾッとするね。
あと、土曜には出来ると言いながら日曜日になってすまない。
徹夜で仕上げたんで勘弁な……。
時刻はすでに夕刻となっており、遠征を終えたケルヌンノスファミリアらがダンジョンを出ると、同じようにダンジョンから帰ってくる他の冒険者と鉢合わせになる。
「おい、あれ」
「デケェ……、あれが都市最強の……」
「あのエンブレム、それにあのモンスター級の巨体は間違いねぇ」
「ああ、あれが都市最強派閥のケルヌンノスファミリアか……」
カイドウを先頭にダンジョンから出てくるとその巨体が目立ち周りの冒険者たちが道を開けてざわめき立ち、畏怖を含んだ強者への興味・尊敬・恐怖の声を漏らす。
「ってか、あの肩に乗ってるのって、もしかして竜女?」
「いやまさか? ケルヌンノスファミリアが地上に勝手にモンスターを連れてきたのか?」
「いやでも、あれ絶対に竜女だろ」
最初はその堂々たるカイドウ達の姿にウィーネの存在に気がつかなかったが、1人の冒険者がカイドウの肩に乗っているウィーネに気がつくと、それが波紋して周りの冒険者たちの注目がカイドウたちからウィーネへと移り変わる。
「う~、パパ~」
リヴィラの街よりも大勢の人に注目されたウィーネは居心地が悪そうにカイドウに抱きつく。
「えっ、今の聞き間違いか? モンスターが喋ってなかったか?」
「いやそれよりも、あの竜女、カイドウのことをパパって!?」
ウィーネが喋ったのを聞いた冒険者たちは先程よりも大きな声で仲間や付近の冒険者と共に騒ぎ立てる。
当然だが、娘であるウィーネが助けを求める声を出したのだ、親であるカイドウがどういった行動に出るのか。
それをリヴィラの街である程度理解しているケルヌンノスファミリアの団員たちは即座にカイドウから距離を取る。
「おい!」
「はひっ!?」
周りの冒険者の中で比較的カイドウに一番近い距離にいた男がその頭を掴み上げられ、巨体のカイドウと同じ目線まで持ち上げられ、鬼のような眼光の前に晒される。
「ウチの娘に何か文句があるのか?」
「ひっ、はぁ、あっ、いや……」
今の彼の心境を語るならば、怪物に食われる前の哀れな家畜と言ったところだろう。
目の前の恐怖にまともに口を動かすことも出来ず、呼吸と言葉にならない声を繰り返すだけの木偶となった男に返事を待つ気が失せたカイドウは視線で後ろに控える部下たちにどけ! と伝える。
それに気づき理解した部下達は、無言で軍隊の如く一糸乱れぬ動きで壁際まで移動し真ん中に道を開ける。
「どうやらまだモンスター退治をするだけの余力があるようだ」
「へっ? うわぁぁぁぁぁぁ!!!??」
カイドウに指示され道を開けた部下達の間を通り抜けるように、木偶と化した男はダンジョンに向かって凄まじい速さで放り捨てられる。
その後すぐに飛んでいった男の悲鳴と壁にぶつかる衝突音がここまで響いてきた。
「さて、まだこの中に元気が有り余ってモンスター退治が出来るって奴はいるか?」
その問いかけに今の光景を見ていた者達は全員揃って首を横に振って否定の意思を見せる。
「そうか、だがまだまだ暴れ足りねぇのならいつでも言ってきな、俺がすぐさまダンジョンに送り届けてやる」
それは言外に肩に乗っている竜女に変なちょっかいを掛けるなら俺が相手をしてやるという意味であり、下手すればこの場にいる自分達は口封じに殺されるのでは? と思う者も居たが、これ以上は何かするつもりはないのかカイドウは肩に乗っているウィーネに声をかけてから歩き出す。
「もう問題ないぞウィーネ」
「うぅ……、ねぇパパ。さっきの人、大丈夫なの?」
「ウォロロロォォ! なんだ心配してるのか。冒険者ってのは頑丈なんだ、あの程度でくたばるようなモンじゃねぇ」
そのままバベルの塔から出て行くカイドウの後について行くケルヌンノスファミリアの団員たち。
そして、その最後尾に立つキング、クイーン、ジャックが今この場にいる冒険者達に警告を込めて告げる。
「カイドウさんはあの竜女、ウィーネを本当に娘として育てる気でいる。今この場でお前たちを殺さないでいるのも、まだウィーネに殺しの現場は刺激が強すぎるとの判断の元からだろう」
「ムハハハハ! 喧嘩ならいつでもウェルカムカモーンだ! 恐れ知らずのバカ野郎ども!!!」
「言っておくが、この件を口外するのは別に構わねぇ。だがな! ウチのファミリアに手を出そうってんなら俺が殺す!! それだけは覚えていろ!!」
今の警告が噓や脅しの類ではなく、本当に実行する凄みが彼らの言動にはあった。
すると言ったら確実にするのがケルヌンノスファミリア、それも
バベルの塔から外に出ると、地平線の彼方に夕陽が沈むありふれて美しい光景が目に飛び込んできた。
「わぁ~、ねぇパパ! あれ何? あの大きな明るいやつ!」
「あぁん、ありゃ太陽……いや、今は夕陽か……」
「太陽? 夕陽?」
「あぁ……、あれは常に移動していてな。太陽が本当の名前だが、ああやって地面に沈んでいく状態のあれは夕陽っていう別の名になるんだ」
「へぇ~、パパ物知り!」
「ウォロロロォォ! あんなものここで生きてりゃ常識になるさ。お前もいつか誰かに同じように教えられるようになる」
「本当! だったらウィーネも早く誰かに教えたい!」
夕焼けをバックに仲睦まじい親子の様子を見せるカイドウとウィーネの姿に後ろで見ているケルヌンノスファミリアは驚いた顔をしていたが、何も知らない一般人含む神や冒険者は驚愕に染まった表情で固まっていた。
あの暴虐無人で知られているカイドウが普通に笑って子供を肩に乗せて歩いている。それだけでも驚くべきことだというのに、肩に乗っている子供がよく見ればモンスターの竜女でしかも喋っている現実に『あれ? これって夢か?』と自問自答しなが己の頬をつねりあげる。
そんな有象無象の衆人たちを押し退けつつ自身のホームへ帰るさなか、不意に監視の視線を感じ取る。
見上げれば真っ白な梟がこちらを……、正確には自身の肩に乗っているウィーネを見つめていた。このまま適当な物でも投げつけて始末するのは容易いが、恐らくあれはただの目の役割を持った使い魔かなにかだろう。
カイドウは警告の意味を込めて敵意を含んだ視線を梟に飛ばすと、動物的本能故か梟はどこぞの空へと消えていった。
「ふん!」
「どうしたのパパ?」
「あぁ……、なんでもねえ。それよかもうすぐ家に着くぞ。先に帰った奴らにお前のことを説明してやらねぇとな」
部隊を分けて最初に帰らせた連中が既にホームで宴会の準備をして待っている頃だろう。ファミリア内にはモンスターに怨みや憎しみを持っている奴もいるが、ウチは完全な弱肉強食の世界で成り立っている。
どんな事情があるにせよ、強者の言い分は絶対だ。ウィーネにおかしな真似をする奴が現れたら即座に雷鳴八卦をぶちかます心情でホームである『鬼ヶ島』に帰還する。
『ケルヌンノスファミリア遠征お疲れ様! &ようこそウィーネちゃん!!!』
そう書かれた横断幕がホームの宴会場に垂れ下がっており、全員がジョッキや酒瓶を片手に今回の遠征や新しくファミリアにやって来たウィーネの歓迎と大盛り上がりの様子をみせている。
その様子を宴会場を一望できる2階からカイドウを始めとする
さて、ここでこの世界での飛び六胞を紹介するとしよう。
黄金に光り輝く髪と宝石の埋め込まれた純金の鎧を着た美の女神に匹敵する美貌を持つアマゾネスの美女。
「いや~ん、この子本当にモンスター? 滅茶苦茶可愛いんですけど♡」
『ケルヌンノスファミリア飛び六胞"黄金郷"エルマ・オルドリッチ』
年老いて色素の抜けた白髪と人生を刻んだような顔つきの極東文化の服装のドワーフの老人。
「ふむ、長年生きてはいたがまさかモンスターが喋るとはな……」
『ケルヌンノスファミリア飛び六胞"剣聖"ビクス・ハクローム』
黒いムキムキマッチョな体格とスキンヘッドで傷の入れ墨が入った半裸の人間の男。
「俺はモンスターが喋るよかカイドウさんが父親になったってのが驚きだがな」
『ケルヌンノスファミリア飛び六胞"マッスラー"ガルランダ』
個性的な面々に囲まれながらこれといって特徴の無い顔をしており、ロキファミリアの超凡夫と並べばまさにモブABと揶揄される程ではあるが、その苛烈な戦い方と普段の服装がコートにグラサンという厨二的なセンスの持ち主の人間の男。
「理性と知性を持ったモンスターとは……非常に興味深い」
『ケルヌンノスファミリア飛び六胞"深淵卿"アビス』
ウィーネを目にした時から口を閉ざし続け、ちびちびと酒を飲む青髪の二枚目顔の猫人の青年。
「…………」
『ケルヌンノスファミリ飛び六胞"月下雷鳴"アグス・ニトラウス』
ケルヌンノスファミリアの幹部であり、自分達とは違うこの世界の純粋な住人である飛び六胞のうちの半数がウィーネに興味を持ち、残りの半数はそれを遠巻きに見守りながらカイドウと酒を酌み交わす。
そして、飛び六胞の中で最も大看板に近いと言われており、ジャックですら状況次第では足をすくわれるとすら言わしめた魔眼と呪われた隻腕の狼人の男がカイドウにウィーネの今後について問う。
『ケルヌンノスファミリ最強の飛び六胞"
「カイドウさんが連れて来たんなら例えゴライアスだろうがそれこそ黒竜だろうが文句はねぇが……。だが、あのロキファミリアの勇者が何て言うか……」
「ウォロロロォォ! まあお前の懸念も理解できる。だからこそ安心しろ。フィンは決して俺たちに対して手を出さない……いや、
宴会場には屋根がなく吹き抜けとなっており、今宵の宴を見守るかのように夜空に満月が浮かんでいる。
それを肴に酒を飲みながら、今頃ウィーネの噂を耳にしたあの勇者がどういった決断を下しているか容易に想像する。
「ウォロロロォォ! あいつが対処できるのは手に負える問題のみだ。逆に言えば手に負える問題ならば勇者らしく万が一にも取りこぼすことはねぇ。だが、道理を蹴り飛ばせる英雄でもないあいつじゃ
「そうか、ならあんたの言葉を信じよう。だが、もし手を出してくのなら一番槍はオレがやる!」
「ウォロロロォォ! そいつは実に頼もしいな!」
盃に注がれたソーマを一気に飲み干すと、同じ月明かりの下にいるであろうフィンに「俺の部下は手強いぞ、精々足搔いてみせろ」と笑ってみせる。
♦
ロキファミリアのホーム『黄昏の館』で団長フィンを始めとする幹部たちに加え、ラウルにレフィーヤまでも参加する会議が行われていた。
「それでフィン。私たちを招集したのは一体どういう訳だ?」
「よもや
「残念ながら
この場に集まった皆を代表してリヴァリアとガレスがフィンに問いかけるが、返ってきた答えは2人の想像以上に厄介な厄ネタ話だった。
「今日の夕方ダンジョンからケルヌンノスファミリアの本隊が遠征から帰還したのは皆が知っているだろう」
「ああ、昼過ぎに第一陣の飛び六胞達が帰って来たからな。本隊が帰還するのは夕刻になるのだろうな……待てフィン。まさか……!?」
「ああ、そのまさかだ。今回のケルヌンノスファミリアによる遠征はパンドラの箱を持って帰ってきた」
「「「「「っ!!!?」」」」」
リヴェリアの考えを読み取ったフィンは先に答えを提示する。
そんなフィンの言葉に動揺が走る。フィンが言うパンドラの箱の正体が何か分かないからこそ声を上げることはなかったが、そのパンドラの箱を持ってきた相手が都市最強派閥のケルヌンノスファミリアだということに一同は不安を隠せないでいた。
「フィンよ、その抽象的な説明では皆が完全には理解出来ん。一体ケルヌンノスファミリアは何を持って帰って来たというのだ?」
いっそ神のような遠回しの答え方にリヴェリアが切り込む。
「…………君はモンスターが喋るという可能性を考えたことはあるかい?」
「なに?」
「本日の夕方にダンジョンから帰ってくる冒険者たちがケルヌンノスファミリアと遭遇、その際にあのカイドウがモンスターを連れて帰ってきたのを目撃した」
「それは
「そのまさかだよリヴェリア。聞いた話ではカイドウが連れ帰ったモンスターは竜女、そして一番の問題なのはその竜女をカイドウが娘にしたと公言したらしい」
「「「「「っっっ!!? はぁ~~~~!!!」」」」」
カイドウがモンスターを娘にした。その言葉を聞いた一同は顎が外れるのではないかと心配になるほどに大口を開けて声を上げる。
「おい待てフィン! 今の話はどういうことだ!」
最初に声を荒げて事態の説明を求めたのはベートだった。
座っていたイスを蹴り飛ばして立ち上がり、フィンが腕を置いている机に怒り任せに拳を叩きつける。
「テメェ! 団長に向かって──」
「黙ってろバカゾネス!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ2人共」
ベートとティオネの一触即発の空気の中をティオナが割って入り込んで諌める。
だが、さもありなん。ただでさえ目の上のタンコブのような存在であるケルヌンノスファミリアが、自身から大切な者を奪ってきたモンスターを家族にしたと聞かされたのだ。
今のベートの心中は煮えたぎる火山のように噴火まじかであり、ティオネもそんな状態のベートが自身が恋する団長に向かって拳を振り下ろす状況にキレかけている。
今の2人の間には嵐が渦巻いていると言っても過言ではない重苦しい空気が出来上がっており、あのままティオナが割って入らなければ本当に拳が飛んでいたかもしれなかったのだ。
「ティオナの言う通りだ、落ち着け2人共。そしてベート、結論を急ぎたくなる気持ちも分かるが僕だって全てを知っている訳ではない」
「ちっ!」
射貫くような瞳で諭されたベートは舌打ちをして大人しく自身が蹴り倒したイスを拾い上げ、再び席に着く。
どうやら一応は激怒しても理性は残っているようで、このまま素直に会議に参加し続けるようだ。
「さて、とはいえボクもただ手をこまねいて噂話だけを鵜吞みにした訳じゃない。ちょうど近くにラウルがいたからね、街に出て調査を頼んでおいた」
「ああ、それでラウルも会議に呼ばれてたんだ! ん、じゃあレフィーヤはなんで?」
「えっと、それは私もよく分からなくて。団長にお願いがあるから会議に参加してくれと言われて来たんですけど……。それよりも、私なんかが来ているのに、何故
フィンの言葉にティオナが幹部でないラウルが何故この場にいるのか納得すると同時に、今度はレフィーヤがここにいる理由を尋ねるが当の本人であるレフィーヤもその理由は分かっておらず、それよりも部屋に来た時からずっと気になっていたアイズ不在の理由をフィンに聞いてみる。
「まあ、アイズが不在なのとレフィーヤをこの場に呼んだ理由は同じだ。だが、その説明に入る前にラウルからの調査結果を聞いてからにしようか」
「うっす! 調査の結果判明したのはカイドウと件の竜女は紛れもなく親子の関係だそうで、既にケルヌンノスファミリアは全員が竜女を受け入れているそうです。更に、その竜女に名前があるそうでウィーネと呼ばれているっす」
「ごくろう。この短時間でよくそこまで調べてくれたね」
「い、いや~、その……この調査結果、実は大半が
「はぁ? どういうことだラウル! 説明しろ!!」
ラウルの情報源が敵の大看板からだと聞いたベートは再びイスを蹴って立ち上がり、ラウルに牙を剝いて問い詰める。
「ひっ! は、はいっす! 実は街中で団長に命じられて調査を始めて5分ぐらいで空から
情報を喋っていったんっす!」
ベートの怒気に怯えながらも簡潔に説明するが、それで納得するベートではなく。
それどころか、火に油を注ぐ勢いで怒りを燃え滾らせる。
「おいフィン! このまま放置する気か? モンスターを地上でのさばらせるなんざありえねぇよな!!」
「「「「…………」」」」
ベートの言葉に賛成する訳ではないが、それでも間違ってはいないと考えている一同は団長であるフィンの判断を待つ。
「…………確かにモンスターがなんの鎖にも繋がれずに街を闊歩する光景は僕ら冒険者からも無辜な民衆たちも看過できないだろう」
「っ! だったら!!」
「だが忘れるなベート! 相手はあのケルヌンノスファミリア、そして件のモンスターを娘にしているのはあの
「っぐ! そ……れは……」
思い出すのはかつての忌まわしい惨劇の記憶。そして、同時に思い出すのはあのカイドウたち4人に与えられた2つ名である
当時の状況を知るベートからすれば、フィンの言葉の意味の重さを十二分に理解できる。だからこそ、先程までの勢いを無くして言葉を詰まらせ立ち尽くす。
「「「…………」」」
「え、ええっと……」
ベートと同じくあの頃を知るリヴェリア、ガレス、ラウルの3人もまた、ベート同様に重苦しい雰囲気を醸し出し、何も知らないレフィーヤが困惑して説明を求めようとするが、今のこの空気の中で突っ込むほどの度胸を持ち合わせていない彼女はあたふたと子供のように慌てている。
そんな空気の中、フィンは今回の件の決断を下す。
「さて、今回の件にロキファミリアは一切関与しないものとする。これは決定事項だ。──そしてレフィーヤ、ここからが君をこの場に呼んだ理由なんだが、ティオナとティオネもよく聞いてほしい」
「は、はい!」
「うんOK!」
「了解です団長!」
フィンからの念押しの言葉にレフィーヤ、ティオナ、ティオネが返事を返す。
「アイズは恐らく僕の決定に反対するだろう。だから君たち3人には、この情報をアイズに決して聞かせないようにして欲しい」
「「……?」」
「そういう……」
察しの悪い2人はフィンの言葉に首をかしげるが、ティオネはフィンが想像する最悪の未来を思い描きため息を吐く。
そんなレフィーヤとティオナにも分かるようにリヴェリアが補足説明する。
「アイズの両親はモンスターによって命を失っている。それは知っているな?」
「それは、まあ……」
「うん、知ってるよ」
「なら、アイズがカイドウに一時期教えを乞うていたことは?」
「「ええぇぇぇ!?」」
リヴェリアからの衝撃発言にレフィーヤとティオナは目を丸くする。
「あれはまだアイズが幼かった頃か、ランクアップに伸び悩みどこぞの神から入れ知恵されてダンジョンに潜ったアイツはカイドウに教えを乞うていた。無論、アイツが馬鹿正直に他のファミリアの後進育成に手を貸すことなどなかったが、後を付け狙うアイズに根負けしたのか1週間もの間ダンジョンの27階層で一睡もせずに人とモンスターの殺し方を教えていたそうだ」
「へぇ~、だからアイズってあんなに強いんだ。ん、でもその話とアイズの反対に何の関係があるの?」
確かに、今の話とフィンが危惧するアイズの暴走は結びつかない。
「そうだな。それだけ聞くとただの師と弟子の関係だ。しかし、いつかの酒の席でアイズの奴がポロッと零したのだが、アイツのことを頼れる父のように感じたと言ったことがあった」
「そ、そんな! あのアイズさんがあの暴虐の化身とすら言われたあの男を父親と呼ぶだなんて!」
それはアイズを慕うレフィーヤにとっては到底受け入れられない事実で、自身が敬うべき存在であるリヴェリアからの言葉とはいえ信じられないでいた。
「信じられんのも無理はない。私だってその時は自身の耳にした言葉が信じられずにいたからな。だが考えてもみろ、モンスターによって家族を失ったアイツが、家族と思えるような男がモンスターを娘にしたと聞いたらどうなるか? それが想像できんほどアイツとの付き合いも短くはあるまい」
そこまで説明されて2人はようやくアイズが暴走してケルヌンノスファミリアにいるであろう件の竜女を襲う未来を想像する。
そうなればどうなるか、ロキファミリアとケルヌンノスファミリアの大戦争が勃発するだろう。
「で、でも、相手はモンスターなんですよ。もし仮にアイズさんがその竜女を討伐したとしても都市最強がそんなに簡単に動くでしょうか? それにケルヌンノスファミリアほどではないですが、ロキファミリアはオラリオでも大手のファミリアですし、なによりモンスターを庇うことをオラリオが──いいえ、世界が許す筈がありません!!」
普通に考えればレフィーヤの言い分は正しい。たった1つのファミリアがオラリオどころか世界そのものに喧嘩を売るような真似をするとはとても考えられない。
しかし、レフィーヤはまだ知らないのだ。都市最強と呼ばれるカイドウとその仲間たちの真の強さとイカれた狂気の度合いというのを。
「普通に考えればレフィーヤの言い分は正しい。喋るモンスターの存在はオラリオにとっても世界にとっても『毒』にしかならない。今まで殺し合いを続けてきた存在が対等に話せる存在であったと聞けば苦悩する者や戦闘に迷いの生じる者も出るだろう」
「ああ……」
「だな……」
フィンの考える予想に、長年共に歩んできたリヴェリアとガレスが同意の声を上げる。
「それに、単純な話ではあるがボク達はモンスターを嫌悪している。大切な家族、友人、恋人、仲間、様々な人がモンスターどもに奪われてきた。このロキファミリアにもアイズと同じくモンスターに憎悪を燃やす者もいるだろう」
「あたりめぇだ……」
「そうっすね」
世界の人々の心を代弁するフィンに同じくモンスターを憎むベートとあの大抗争によって先達が犠牲になったのを見たラウルが同意する。
「なら、アイズさんがもし先走ってしまったとしても……」
「それは絶対にダメなんだ!」
「「「「「っ!!?」」」」」
ダン! と普段は感情を誰よりもコントロールすることが出来るフィンが珍しく怒気と共に机を叩く。
そんな普段の団長とは違う姿にリヴェリアとガレスを除く全員が息を吞む。
(まったく、下手な芝居をしおって)
(じゃが、奴らの脅威を理解させるのは有効な手段じゃな)
2人から呆れた目線を飛ばされているのを感じながらそれについて言及することなく無視し、先程の芝居で固まってしまっているレフィーヤにふぅ~と怒りを抑え込んだ仕草で安心させてから話題を切り込む。
「レフィーヤ、ケルヌンノスファミリアの団長と大看板の2つ名は知っているだろ」
「はい。団長カイドウが
「うん、そうだね。だけどそれらは神々が名付けたものだ。彼らの力や偉業を知る人々は
突然の2つ名の話に今までの話とどう繋がるのかよく分かっていないレフィーヤは首をかしげてしまう。
「まあ、突然こんな話をされても理解できないだろうね。問題は最後の2つ名の
「えっと、闇派閥を昔の暗黒期に沢山討伐したからついたものでは……?」
普通に考えればスレイヤーの称号を受けるには特定の対象を殺すことに特化せねばならず、ましてや闇派閥などどの時代であろうと悪の代名詞のようなものだ。
それを議題に上げるということはよほど惨い殺し方をしたのか、はたまた周囲の被害も考えないとてつもない破壊を行ったのかと予想したが、現実はもっと酷く残酷なものだった。
「いいや違う。かつてのオラリオは闇派閥のせいでどこもかしこも余裕がなかった。追い詰められた民衆は行き場のない怒りの矛先を冒険者に向けたのさ。そしてそれは、当時まだ都市最強と謳われるようになる前のカイドウたちへも同じだった。彼らが闇派閥を討伐し終えたとき、彼らに罵倒と共に石を投げつける者がいた」
「そんな……」
民衆を救おうとした者が救われた者から感謝ではなく怒りと不満をぶつける。人の善性を信じて戦うレフィーヤにとってそれは口を覆い隠して目を背けてしまいたくなる事実であった。
だがフィンはそれよりも更に残酷な出来事を語る──
「そして、そんな彼らに対してカイドウ達がとった行動は正義を免罪符にした殴殺だった」
「へぇ……?」
正義が報われない。そんな世界の真実でさえ純粋なレフィーヤはショックを受けているというのに、正義を盾とした殺戮にレフィーヤは言葉を失った。
「民衆の失望という名の怒りと罵倒に対してカイドウたちはその手に持った武器を振るいこう言った『やれやれ、こんなところにも闇派閥がいやがったか』っと」
あの頃、誰も彼もが闇派閥によって疲弊していた。弱者は嘆き、強者は悲鳴に心を痛めていた。
民衆は大切な者を失った嘆きと苦痛を怒りに変えて守れなかった者に
真実、アストレアファミリアはそれに沈黙という回答で受け入れてしまった。
だからこそ、民衆の間で守れなかった無能には何をしてもいいという風潮が静かに広まってしまったのだ。
そして、それは不幸にも民衆の為ではなく
彼らが闇派閥を討伐し終えた頃には数百もの人が死に絶え、その亡骸を抱えて泣き喚く者達がその場に何人もいた。
そんな彼らの胸中は冒険者への失望であり怒りであった。
『なぜ救ってくれなかったのか』
『なぜあの子を死なせたんだ!』
『なにが冒険者だ! この役立たずども!!』
罵倒と共に石を投げた者達に返ってきたのは謝罪でもなければ沈黙でもなかった。
それは圧倒的な暴力という返答だった。
「へぇ?」
つい先ほどまで一緒になって目の前の冒険者に石を投げつけていた者が爆ぜた。
よく見ると目の前に新たな返り血で濡れている冒険者が立っており、その顔は怒りに染まっていた。
「やれやれ、こんなところにも闇派閥がいやがったか」
「困ったものだな。
「ムハハハ! 安心しな。今すぐお仲間の元に送ってやるぜ」
「言っておくが逃がさんぞ。特にそこのお前、今カイドウさんに石を投げつけたのは貴様だろう。八つ裂きにしてなぶり殺しにしてくれる」
次の瞬間、罵倒と石を投げた者は悲鳴と共に散り散りになって逃げ出した。
だが、闇派閥からですら逃げられなかった民衆がそれ以上の存在であるカイドウたちから逃げることなど不可能で、フィン達が現場に辿り着いた頃には周囲は血に染まっていた。
「…………っぐ、どうしてこんなことを!?」
「どうしてだと? ウォロロロォォ! それはコイツらが殺されるような大罪を侵す馬鹿共だからだよ。それとも何か? テメェは命を狙ってくる敵をわざわざ見逃すってのか? そいつは随分と高潔な精神の持ち主だな」
思わず目を背けてしまいそうになる惨状を作り出しておいて、当の本人はどこ吹く風とばかしに皮肉を込めた軽口を叩く。
事実、後から話を聞けば先に手を出したのは死んだ彼らだという。
だとしても
「それは仕方があるまい。敵の闇派閥は自爆すら厭わないイカれた連中だ。殺らなければこちらの身も危うい現状だ。背を向ければいつ刺されても可笑しくないこの現状で怪しい行動を取った者を殺した。それの何がいけない勇者よ?」
「…………」
キングの完璧な正論にフィンは目の前の虐殺に目を瞑るしかなかった。
それに何より、こんなところで無駄に消耗していては闇派閥を喜ばす結果にしかならないと理解しているフィンは注意だけしてその場の後始末を請け負った。
以来、この事件をきっかけにカイドウたち4人に
今ではレフィーヤと同じ様に、文字通り闇派閥を殺した者という認識を持つ者が少なからずいるが、その裏に隠された本当の意味が
「噓……そんな、そんな酷いことが許されるんですか!?」
カイドウたちが過去に行った非道の行為をレフィーヤは憤慨して怒鳴り散らす。
「仕方あるまい。あの当時は闇派閥だけで手一杯だったのだ。当時の奴らがまだレベル4かそこいらの時代だったとはいえ、相手にする戦力などなかった。それに悔しいことにそれをきっかけに民衆の暴動のリスクが多少なりとも減り、奴らも闇派閥を大量に討伐してきた。あの行為を正当化する訳ではないが、原因を作った側にも問題がある」
怒れるレフィーヤを宥めるようにリヴェリアは当時の状況を語る。いや、あるいはレフィーヤの怒りの声を聞いて自身らが見逃した悪への醜い言い訳なのかもしれない。
どちらにせよ、それは既に過去の話だ。あの頃はあれで正解だっただろう、だから今は未来についての話に戻そう。
「これで理解してもらえたかな? 奴らは例えどんな障害が立ち塞がろうとも自身の我を通す。仮にアイズがカイドウの娘となった竜女を襲うなんてことになれば即座に報復に出るだろうね」
そうなればきっと都市オラリオを巻き込んだ戦争に発展する。これは間違いない。
十中八九、レベル9に加えてレベル8が2人にレベル7が1人、そして飛び六胞という最悪のレベル6の6人が都市の破壊も気にせずこちらに向かって襲い掛かって来る。
彼らに善性はなく悪性もまた存在しない。あるのは強者への恭順と強さへの渇望、そして神々に匹敵するやもしれん未知への探求心と好奇心だけだ。
そんな彼らだからこそ喋るモンスターという厄ネタさえも面白がって拾い込んでしまうのだろう。
「さて、事情を理解してくれただろうか? これはロキファミリアだけでなくオラリオ全土を守るためのものだ。だからこそ、アイズに親しいレフィーヤたちに今回の件がアイズの耳に入らぬように努力して欲しい。なに、君たちだけに負担は掛けないさ。いざとなれば
「おい待てフィン! 今貴様何と言ったか。私のことをママと呼ぶなといつも言っているだろう」
「ガッハッハッハ! まあよいではないかリヴェリアよ。今回の件だけではなく、普段からフィンにはファミリアのことや闇派閥のことで頭を抱えさせておるのじゃ、今のもあやつなりの軽いジョークじゃろうて」
最後のフィンの軽口に固くなっていた空気が和らぎ、いつもの空気が戻ってきたことで皆それぞれが知らずに胸に溜まっていた息を吐き出して笑う。
♦
夜が更けてもなおケルヌンノスファミリアの宴会は続いており、誰も彼もが酒を飲んでは歌って踊り、酒瓶を抱えたまま眠る者もチラホラ居る。
既にウィーネは団員全員と挨拶を終えてジャックを護衛に布団の中で眠りについている。
そしてカイドウは下で行われている宴会を見下ろしながら、1人屋根の上で酒盛りに興じ、盃に入ったソーマをグビっと飲み干し酔いどれる。
「ケッケッケ、こんな所で1人酒盛りとは陰気と呼ぶべきか風情があると評するべきか……」
「…………ウィック、何しに来やがったケルヌンノス。つまらねぇ話で折角の酒を不味くするつもりじゃあるめぇな?」
「ケッケッケ、まさか……。それよりも、今回の遠征は大成功って話だな。未到達階層の到達に加えてあのモンスター、いや今はお前の娘か……」
カイドウの隣に遠慮なく座ると、下から持ってきた盃にソーマを並々と注ぎ入れて飲み干していく。
「くぅ~、やはりソーマは格別だな」
「ちっ、それで何の話がしてぇんだテメェはよ!」
「そうキレるな。何もお前が連れ帰ったあのウィーネってモンスターについてとやかく言うつもりはない。逆に俺は面白いとすら思ってんだぜ、喋るモンスターなんざ俺達神が追い求める下界の可能性の1つじゃねぇか! これを受け入れずしてどうする!!」
空になった盃をこちらに向けながら上機嫌に語るケルヌンノスに、だろうなと返答を返す。この神は面白い事ならば善でも悪でもどちらでも構わない寛容さを持ち合わせている。
だからこそ、今回のウィーネを連れ帰った件はケルヌンノス的には大盛り上がり、酒を吞む手を休めずに次々とソーマを口にする。
「それで、ウォーロンから聞いたぞ。ロキんところの勇者はウィーネに対して手を出さないってな。何故そう言い切れる。あいつは人工の英雄だ。誰も彼もが求める英雄像を目指してひたすら走り抜ける男だ。今回のウィーネの件を快く思わない連中はきっと勇者にこう泣きつくぞ『お願いします勇者様。醜悪なモンスターを倒して都市に平和を!!』ってな。そうなってもアレは動かねぇって言い切れるのか?」
「ああ、言い切れるな。奴は確かに人工の英雄だ。だからこそ、民衆に石を……失望を投げつけられることを何よりも嫌がる。ウォロロロォォ!! かつての大抗争を思い出せ! 暴喰のザルド、静寂のアルフィアの両者に敗れた頃のオラリオを! あの地獄の光景の中で民衆共は何をした? そうさ、大敗を喫した冒険者に無遠慮に怒りを! 失望を! 果てには石を投げつけた!」
感極まったカイドウは立ち上がり、腰につけた瓢箪の中に入ったソーマをラッパ飲みで口から零しながら飲み干してゆく。
「っぷはぁ~、そうさ、今頃フィンの奴は御託を並べてウチとの戦争を回避しようと必死になってるだろうよ。だが、奴は恐れているのさ、
「なるほど、確かにあの光景は今でもトラウマになっている冒険者もいるだろう。事実、あれを見た冒険者の何名かが武器を捨てたと記憶している」
「そうさ、だからロキのところなんざ怖くもなんともねぇ! それより今見るべきはウィーネの奴だ!!」
「ほぉ……」
ロキファミリアを路頭の石のように扱う一方で、今回連れ帰ったウィーネに注目を向ける。
どういうことだと視線で問うと、カイドウは少年が夢を語るように続ける。
「あれが前代未聞であるのはほぼ間違いない。だが、前例は作り上げられた。続く第二第三の喋るモンスターが現れるだろう! 他のファミリアはそれを醜悪と吐き捨て敵として見るだろう。だが、俺達は違う! 考えてみろ、理性と知性を持つモンスターに恩恵が刻めればどうなる? 最初から生まれ持った強者の体に新たな力が宿る。そして完成する人とモンスターのドリームチーム!」
その語りはケルヌンノスの心を動かすのに十分すぎるほどの魅力を持っていた。ドリームチーム、何とも胸躍るワードではないか。
そしてカイドウは断言してみせる。
「かつてのゼウスもヘラも成し得なかったダンジョンの完全攻略と最後の三大クエストである隻眼の黒竜の討伐の完遂。どうだ、ワクワクするじゃねぇか!」
手に持った瓢箪を思わず握り潰してしまうほどに、カイドウの頭の中には輝かしい未来を思い描けているのだろう。
「ウォロロロォォ!! よく見ておけよケルヌンノス。かつては脆弱で舞台の端にしか立てなかった俺達だったが、今は違う! 都市最強の力を手に入れた俺達が新時代の中心だ!」
月に向かって吠えるカイドウに、ケルヌンノスも同調して立ち上がり酒を吞む。
この月下の語いがどこまで現実になるのか、あるいは全て泡沫の夢のように消えていくのか、どちらに転ぶにしても面白いと思いながらケルヌンノスは酒を吞む。
ロキファミリアのフィンを書くのしんどかった。
頭いいキャラって伏線とか言い回しとかメッチャ気を付けて書かへんとあかんから見直しと修正が半端なかった。
もしここが変だとか、フィンはこんなの言わへんなんてものがあったら遠慮なく感想に書いて送ってな。
次回の過去編はどれがいい?
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リヴィラの街
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ソーマファミリア
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ヘファイストス&ゴブニュ
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飛び六胞の誰か?
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港町メレン
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テルスキュラ