カイドウがウィーネを娘にするのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
え?もう月曜日の4時じゃないかって?
俺は確かに今週中とは言ったが日曜日の0時までとは言ってない!!!
モンスターが逃げ出したという話は一瞬にして広がり混乱が起こったが、その混乱も第一級冒険者たちの登場によりすぐに治まった。
「まったく、折角の祭りの日だってのにモンスターが逃げ出すだなんて。ガネーシャファミリアは一体何してんのよ?」
「だね~、でもモンスターの様子も何かおかしくなかった? こっちを気にしてないっていうか、別の何かを探してるみたいだったような?」
「そうですね。ダンジョンじゃないからってのは違いますよね?」
いつも戦っている時とは様子の違うモンスターの行動に疑問を抱いていると、一陣の風が周囲に巻き起こる。
その暴風は街中にまだ残存していたモンスターを全て灰に変え、陽に反射して輝く金髪を持つ碧眼の美少女が現れた。
「ティオネにティオナにレフィーヤ?」
「アイズさん!」
現場に既にいたティオネ達に何故ここに? という疑問の声を上げるアイズを視界に入れたレフィーヤは満面の笑みで駆け寄っていく。
「あんたもコッチに来てたんだね。今日はロキの付き添いだったんでしょ? そっちはいいの?」
「うん。ちゃんとロキには許可を貰って来たから平気……」
肩の力を抜いて談笑する4人。だが、目に見えるモンスターを殲滅したことで気が緩んでいた4人は足元から迫りくる存在に気が付かなかった。
♦
「おいおい! 全くなんだってんだこの草共は? こんなモンスターはリストどころか俺様の記憶にすら該当しねぇ。これがジャックが言っていた
地面から複数生え出てきたハエトリグサのようなモンスターがこぞってクイーンを狙って飛び出して来た。
食人花の対応できる冒険者のレベルは精々が3かそこいらだ。レベル8のクイーンに挑むだなんて自殺行為にもほどがある。
それでもこうして食人花がクイーンに群がってくるのはクイーンの体内に蓄えられた魔石の魔力に反応しているからだ。
「ありゃりゃ、もしかして俺様エサに思われてんのか? そりゃあちっとばかしナメ過ぎだろ!」
食人花の狙いが自身であることと、敵ではなく魔力を求めてきたことに感づいたクイーンは青筋を立てて食人花に無造作に近づいていく。
それをチャンスと見たか、食人花は一斉に襲い掛かる。
「随分とノロっちい動きだな? それが限界か?」
目前に迫る食人花に一切の動揺を見せることなく、あっという間にそのステイタスに物言わせた速度で全て掴み上げると、侮蔑と嘲笑を込めた言葉を吐く。
ジタバタと必死にクイーンの手の拘束から逃れようと足搔いてみせるが、クイーンの手は固定されたかのように微動だにせず、じりじりと自身を掴む握力が増していってゆく。
「もう少し強けりゃ遊び相手の玩具に出来たんだが、これじゃ時間の無駄だな」
その言葉を最後に、クイーンは掴み上げていた全ての食人花を地面に叩きつけ、ブチブチと音を立てて胴体を力任せに引きちぎってゆく。
高い物理耐性を持つ食人花といえど、クイーンの圧倒的な力のステータスの前ではまるで意味は無く、その場にいた食人花は全てクイーンの手によって魔石を抜かれ灰となった。
「ほぉ~、随分と変わった魔石だな。これも含めてジャックの奴に聞くことが増えたぜ。さぁ~て、実験材料になるモルモットの数はまだあったっけかな?」
食人花から採取した魔石を手に取って観察し、ジャックから聞くことが増えたなと上機嫌で騒ぎがまだ起こっている場所へ向かう。
♦
「ギギャァァァァァ!!!」
唐突に地面から現れた未確認モンスターの出現にアイズ達は面を喰らうも、第一級冒険者としての経験からその隙をすぐさまカバーする。
「ちょっと何よコイツは? こんなものまでガネーシャファミリアは地上に運んできたっていうの?」
「っていうか、コイツら硬いんだけど! 殴っても全然効いてないっぽい!」
「そ、そんな!?」
ティオネとティオナの2人がかりの攻撃でもびくともしない食人花に驚くレフィーヤは及び腰になっていた。
「大丈夫、私がなんとかするから……」
この中で唯一武器を帯刀していたアイズが前に出て食人花を相手にする。
「ジャアアァァァァァ!」
だが所詮は食人花の適正レベルは3が精々のところ、アイズの纏う暴風は容易く食人花を粉砕してみせた。
「流石アイズさん!」
「相変わらずね」
「アイズやる~!」
「…………」
先程まで苦戦していた相手を一瞬にして倒して見せたアイズに称賛の声を上げるが、アイズはその声に応えることはなく、未だに周囲を警戒している。
アイズだけは気付いていたのだ、まだ戦いは終わっていないのだと……。
ゴゴゴゴゴォォォ……!!! と地面が揺れたかと思えば、新たに食人花が複数体出現する。
「噓ぉ……!? まだ現れるなんて!!」
「やるしかないわね……」
「やったるぞぉ~!!」
新たに現れた食人花にレフィーヤは驚くが、ヒリュテ姉妹はやる気満々の様子で拳を握りしめる。
そのまま戦闘再開かと思われたその瞬間、突如として食人花が共喰いを始めたのだ。
「え? なんです? 仲間割れ!?」
「いや、これは……」
「うん。あれだね……」
「くる……」
共喰いを終えて最後の一匹となった食人花の体表が毒々しい斑模様へと変化した。
そして変わったのは見た目だけではない。全能力値が全て大幅に上昇している。
だが──
「問題ない……」
確かに強化種は通常よりも遥かに強い個体ではあるが、レベル6のアイズの敵ではなかった。
「はぁぁぁ!!!」
「キギャアアアア!!!」
暴風を纏ったアイズの剣戟は食人花を切り刻んでゆき、着実に弱らせていく。
更に幸運だったのは、食人花は魔力を優先的に狙う傾向があるため、アイズの
「これで、終わり──!!」
「──っ!!?」
アイズの剣が食人花を真っ二つに切り裂くと、灰と魔石だけを残して食人花は消えていった。
「これで終わり……」
「やりましたねアイズさん!」
剣をしまったアイズに飛びかかるようにレフィーヤは抱きつきに行った。
その様子を見ながらヒリュテ姉妹も互いに顔を見合わせてニッコリと微笑んでから、今回の立役者であるアイズを労おうと近づいていく。
そして、そんな一部始終を遠く離れた建物から見下ろしている人物が1人。
「ちっ! あっちもこっちも全部ぶっ殺されてんじゃねぇか……まあ、クイーンの方はまだいい。あれは正真正銘の化け物だからな。だが、ロキファミリアの連中、それもフィンや大幹部連中じゃねえ奴らに圧倒されるたぁ~、情けねぇな~おいコラ!!」
倒されて灰に成り果てた食人花に唾を吐き捨てながら、汚い言葉遣いで貶める。
そして時期尚早ながらに、対ケルヌンノスファミリア用のモンスターを解放することに決めた。
「さあ、暴れやがれ化け物が!! このオラリオ──いや、ケルヌンノスファミリアの連中を始末しろ!!」
手に持った魔石に似た何かを砕き割ると、オラリオの地下に封じ込められたモンスターが目を覚ます。
その異変はすぐに現れた。まず地鳴りが先程出現した食人花の群れ時よりも段違いに激しく、次に地面を突き破って出現したのは9つの頭を融合させた食人花だった。
さしずめ、ヒュドラ食人花とも言える
「また同じモンスター!?」
「ううん、なにか……さっきまでのモンスターとは違う」
再び出現した食人花にウンザリするティオネだが、アイズは直感からか目の前に現れた食人花がさっきまで相手していたのとは次元の違う存在だと察する。
「キギャアアアア!!!」
9つの頭が一斉にアイズへと襲い掛かってくる。その速度は強化種であった個体よりも更に速く、咄嗟に剣でガードしたがあまりのパワーに紙くずのようにアイズは吹き飛ばされてしまう。
「そんなアイズさん!?」
「ヤバイよこれ! あたしらも助けに行かなきゃ!!」
「っち! 武器さえあればもっとマシな戦いができるってのに!!」
憧れの対象であるアイズがまともに相手することも出来ずに吹き飛ばされた事にショックを受けて固まるレフィーヤ。ヒリュテ姉妹もアイズがやられたことに危機感を覚えてすぐさま助けに向かう。
「クギギャッ!」
9つの頭のうちの1つが後ろから迫りくるヒリュテ姉妹に気が付くと、体の蔓を伸ばして迎撃に当たる。
「───があ!」
「ティオネ!」
「ティオネさん!」
レベル5のティオネでも対処出来ない速度で打ち出される蔓にティオナとレフィーヤが顔を青ざめて叫ぶ。
アイズは剣を盾にすることで直撃を回避したが、ティオネは武器も持たない丸腰の状態だ。
2人は足を止めて血の気を引かせるが、次の瞬間に瓦礫を吹き飛ばして怒りに狂った元の荒々しい性格でティオネが戦場に復帰する。
「クッソガァァァ!!! いつまでも調子に乗るなよクソモンスター!!!」
「クギャギャギャ!!!」
自身のスキルである
「どうりゃぁぁぁぁ!!!」
「ゴギャギャギャ!!!?」
ティオナによって宙へと投げ飛ばされる。フゥーフゥーと獣のように息を荒げるティオネにティオナとレフィーヤは若干引いてはいるが、それ以上に頼もしく思う。
「ほらそこ! なにボサッとしてんの!! まだアイツはこれぽっちも効いちゃいねぇぞ!!!」
「「はっ、はいぃ!!!」」
怒りの矛先がコッチに向けられてビビりながら返事を返す。
「てか、アイズは何してんのよ!? あれぽっちの攻撃でダウンするほどヤワじゃないでしょ!!」
その頃、最初に吹き飛ばされたアイズはというと…………
「どうしよう……?」
あのヒュドラ食人花の攻撃を受け止めた際に借り受けていた剣が根本からへし折られてしまった。
既に食人花や街中で暴れていたモンスターを倒す為に
デスペレートの修復中の代剣のレイピアの値段は4000万ヴァリス、現在の手持ちでは弁償出来ないと落ち込んでいると、吹き飛ばされた場所から大きな音が聞こえた。
音の正体はティオネがヒュドラ食人花を投げ飛ばした時のものだが、そこでようやくアイズもその場に置いていったレフィーヤ達の存在を思い出して
「みんなゴメンナサイ。今戻った……」
「あっ、無事だったんだアイズ!」
「遅いのよあんた! お陰でコッチは団長に見せられない傷を負っちゃったじゃない!!」
「けど、本当に無事でよかったですアイズさん!」
3人とも自分のことを心配していたようで、剣を折ったことに落ち込んで中々戻ってこなかった身としては罪悪感で一杯になるが、ひとまず感謝の言葉を口にしようとすると、ティオネに投げ飛ばされたであろうモンスターが立ち上がる。
「キギャアアアア!!」
自身を投げ飛ばしたティオネを無視して、再びアイズ目掛けて突進を仕掛けてくる。
だが、それを許すティオネではなく、横を通り過ぎようとする食人花を引っ掴み上げると力一杯にヒュドラ食人花の動きを止める。
「今のうちにさっさと始末しなさい!!!」
「分かった!」
「うん!」
ティオナは真っ正面からヒュドラ食人花の胴体に拳によるラッシュを叩き付け、アイズは剣を失ったがそこは第一級冒険者、体術にもそれなりに精通しており、ヒュドラ食人花の頭の真上に飛び上がると、その細い足からは想像のつかない重いかかと落としを決める。
「「はぁぁぁぁぁ!!!」」
重厚な打撃音が街中に響き渡るが、そんなこと知るか! とばかしにヒュドラ食人花は暴れる力を衰えさせずにティオネからの力任せの拘束を振りほどかんと抵抗をみせる。
「も……う……無理!!」
いくらスキルの恩恵を受けてパワーアップしたといっても、ヒュドラ食人花を完全に上回る程のものではなく、その激しい抵抗についに膝を屈して拘束を解いてしまう。
「キギャアアアア!!」
自由になったヒュドラ食人花はまず真っ先に魔法を発動しているアイズに殺到する。
「
それに対して、アイズは体に纏った風を腕に集中させて螺旋のドリルを思わす形にへと変化させ、襲い掛かる頭を全て迎撃してみせる。
「うわ! なにそれスゴォ!!」
アイズが殴り飛ばした頭は暴風のドリルに削り取られて吹っ飛ばされ、それを見たティオナが素直な感心の声を出す。
しかし、集中させるということはそれだけ負荷も集中させるということ、ヒュドラ食人花を迎撃し終えたアイズの腕はナイフで切り刻まれたようにズタボロになっていた。
「っく、やっぱりまだ
「え? ヤバイじゃんその傷! 大丈夫なのアイズ?」
「ポーションがあれば問題無く復帰できるけど……」
アイズの腕の傷を見て心配そうに駆け寄ってくるティオナにポーションさえあれば問題無いと言うが、現状は誰もポーションを持っておらず、つまるところ事実上の戦闘不能というわけだ。
更に最悪なことに、先程アイズが削り取ったヒュドラ食人花の頭がボコボコとビデオの逆再生のように再生し始める。
「ちょっとアイズ! あんた剣はどうしたのよ!?」
「ごめん。さっき吹き飛ばされた時に折れちゃった……」
「はぁぁぁ!!?」
腕が使い物にならなくなったアイズを守るように駆け付けたティオネの疑問に答えるとあんぐりと顎を開いて驚かれた。
しかし、頭を再生し終えたヒュドラ食人花はアイズの方を睨むだけで先ほどのように突進を繰り出すことはなかった。
「どうしたのかしら? アイズを警戒している……訳じゃなさそうね」
まるで興味を失ったかのようにアイズから目を逸らすと全く別の方向を見つめるヒュドラ食人花。その視線の先には魔法を詠唱しているレフィーヤの姿があった。
「マズい! レフィーヤが狙われてる!?」
「ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか──力を貸し与えてほしい」
ずっと見ているだけだった。強者であるアイズさん達に甘えて何もせずにただ指をくわえて見ているだけの自分に嫌気が刺した。
吹き飛ばされたアイズさんを見て絶望した。同じように叩きのめされたティオネさんを見て恐怖した。
その時に自分は何をしていた? ただ失うことに怯えながら自分は彼女達よりも弱いから足手まといになると思い込んで何もしないでいた。
そんな自分は何者なんだって自問自答した結果、答えは
「私だってロキファミリアの冒険者なんだ!」
【エルフ・リング】
そして解き放たれた魔法は何も起きないでいた。不発したのか? 否、これは召喚魔法。
それ単体では効果を成さない魔法なのだ。本命は次に唱えられる詠唱で、レフィーヤの背後に魔法陣が広がる。
だがしかし、そんな暇を与えるべくもなくヒュドラ食人花が無防備状態のレフィーヤに襲い掛かる。
「させるかぁぁぁ!!」
「キギュガァァァ!?」
武器がないなら瓦礫でいいじゃない! とばかしにティオナがヒュドラ食人花の背後から手にした瓦礫を叩きつける。
あまり効いてはいないが注意は十分に引き付けられたようだ。
「おかわりでもう一発!!」
更に追撃でティオネが先程よりも巨大な建物丸々1つ分の瓦礫を持ち上げてヒュドラ食人花の脳天目掛けて叩きのめす。
その隙にレフィーヤが詠唱を完成させる。
「終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け。閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬。間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲な猛火。汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを」
時にレベルの差すら凌駕させる超長文詠唱による魔法は強大で、その威力を知るティオナとティオネは即座にレフィーヤの射程から離脱し安全地帯へと退避する。
「焼きつくせ、スルトの剣──我が名はアールヴ」
すぅ~っと息を整えると目の前に迫りくるヒュドラ食人花を視界に入れる。
そして──
【レア・ラーヴァテイン】
膨大な魔力によって作り出された獄炎がヒュドラ食人花を飲み込んでゆく。
その威力は絶大で、レフィーヤの目の前にあったモンスターも建物もそれら一切が消し飛ばされていた。
「やった……?」
呆然としながらペタっと地面にへたり込むレフィーヤを後ろから抱きしめるようにティオナが飛びかかる。
「やったよレフィーヤ! あんな凄い魔法リヴェリアみたい!!」
「よくやったよレフィーヤ。正直言って助かった。あんたの魔法が無けりゃどうなってたか……」
「ティオナさん、ティオネさん……」
はしゃぐティオナと落ち着いた様子に戻ったティオネから褒められたレフィーヤは、まるで夢でも見ているかのようにぼんやりとした思考で言葉を返す。
「よく頑張ったねレフィーヤ。さっきの魔法凄かったよ……」
「アイズさん……」
憧れの人からの褒め言葉に、ついに涙腺が崩壊して「うわぁん! ありがとうございます!!」と涙ながらに感謝の言葉を口にする。
そのまま泣きじゃくるレフィーヤをティオナが宥めながら、アイズは自分が何かやらかしたのかとオロオロしてティオネに「大丈夫だから落ち着きなさいよ」と頭をはたかれている。
そんな全てが終わって弛緩しきった雰囲気をぶち壊すかのように、レフィーヤが破壊した跡地の地面が揺れ動く。
「この振動って、まさか……!?」
ティオネの予想通り先程倒したと思われたヒュドラ食人花が地面の中から飛び出して来た。
見れば、9つの首のうち7つは炎によって焼けただれており、残った2つの首は無傷だった。
恐らく、レフィーヤの魔法の威力を瞬時に悟ったヒュドラ食人花が首7つを犠牲に盾として身を守り、咄嗟の判断で地面に潜り込むことで消滅を避けたのだろう。
しかも、厄介なことにその再生能力は些かも衰えておらず、地面から飛び出して数秒で焼けただれた首が元の状態へと戻ってゆく。
「そ、そんな……」
最早レフィーヤの魔力はほぼ無い状態で、今にもマインドダウンを起こしそうな体で立っているのもやっとの状態だ。
だが、希望は突如として歌となって現れる。
「ズムズムズム♪ 瘦せちまったらモテ過ぎるから、敢えて瘦せないタイプのファンク!」
「ジャアアァァァ?」
「あれは……」
「もしかして……」
「「…………??」」
あまりにも現状の雰囲気とマッチしない陽気な歌を口ずさみながら近づいてくる丸い物体にヒュドラ食人花を含めたアイズとティオナが首を傾げ、そのバカみたいな歌詞に聞き覚えのあったティオネとレフィーヤが微妙な顔つきでやって来る男の正体に気がつく。
「お~や~? なにやら派手な爆音が聞こえたと思えば、ロキファミリアの連中じゃねぇか!? 相変わらず美形揃いだな。おい、ウチに来ねえかお前ら!」
「嫌!」
「無理です!」
「う~ん、ちょっと無いかな?」
「えっと、ごめんなさい」
「わぉ、やっぱし全滅!! てか、丁寧に断られる方が傷つくぜ!!」
上からティオネ、レフィーヤ、ティオナ、アイズの順となっており、ズガビーン! と効果音を出して心臓を押さえるリアクションを取るクイーンに、呆れた目線を送る女性4人。
そんなふざけたノリをいたたまれなさそうにヒュドラ食人花が見つめてくる。
「まあ、冗談はさておき……。コイツはまた手強そうな相手じゃねぇか!」
「キシャアアァァァ!!!」
ようやくコッチに目を向けたクイーンに威嚇するような声を上げるヒュドラ食人花。
「ちょっ!? いくらあんたでも無茶よ! ソイツは素手でどうこう出来る類のモンスターじゃないわよ!!」
そう、いくらレベル8の冒険者といえど、見たところ武器も装備しておらず、対する敵は物理攻撃に高い耐性に加えて再生能力を持つタイプ。
そんな相手に無策で突っ込もうとするクイーンに待ったをかけるティオネだが、そんな静止の声を無視してクイーンはヒュドラ食人花に近づいていく。
「ジャアアァァァ!!!」
無防備に近づいてくるクイーンを仕留めようと、9つの頭が一斉にクイーンに迫りくる。
そして案の定、クイーンは防御すら出来ずにまともにヒュドラ食人花の攻撃を受けてしまう。
だが、その結果は多少たたらを踏む程度で、ダメージはほぼノーダメのカスみたいなものだった。
「…………ほぉ、中々の攻撃力だ。深層クラスのモンスターにも匹敵するなこりゃ~」
「キイジャァァ?」
「けどな……、俺様を相手するには少々気合いが足りねぇぞ!!」
クイーンはヒュドラ食人花の攻撃を涼しい顔で受け止めきり、グッと腰に力を込めて自身に突っ込んできた9つの頭を抱きかかえる。
そしてそれを、どうするのかというと──
「ほぉれ、高い高ぁいだぁ!!!」
クイーンによるただの力技による投げ飛ばしで、巨体を誇るヒュドラ食人花は遥か上空へ放り捨てられる。
だがそれだけでは終わらない。上空へ放り投げられたヒュドラ食人花は重力に引き寄せられ、地上へと真っ逆さまに落ちてくる。
その着地地点といえば? そう、放り投げたクイーンの元だ。
「とりあえず、どこまで耐えられるのかの実験だな」
拳を握り締めて、空から落ちてくるヒュドラ食人花にひたすらにラッシュを叩き込む。
「ドララララララララララララララ!!!」
どこぞの奇妙な冒険の4部目の主人公を思わせる凄まじい拳の連打に、ヒュドラ食人花は原型を見失いそうなほどクイーンの拳で肉体を凹まされていく。
「キギャアアアア!!!」
「おっと……」
ついに断末魔とも思える声で叫ぶヒュドラ食人花はクイーンのラッシュから抜け出し、クイーンも圧し潰されて下敷きにならぬように軽快なステップで回避する。
「グッ──ギャ……」
高い物理耐性を持つヒュドラ食人花は血反吐を吐きながらも、その高い再生能力で元の肉体へと戻っていく。が、それでもダメージは深いようで中々元の姿へは戻れずにいた。
「ほぉ、俺様の連撃を喰らってもまだ倒れねぇか……」
それは圧倒的強者だからこその台詞だった。
あれ程までに厄介だったヒュドラ食人花が実験動物のような扱いで倒されている光景に、アイズ達は言葉も出なかった。
「ケルヌンノスファミリア大看板が1人であるクイーン。強いのは知っていたけど、まさかここまでだなんて……」
「あれが、ケルヌンノスファミリアの力……」
「やっぱしレベル8なだけあってティオネよりもパワーがあるんだね」
「…………」
クイーンの強さに驚嘆の声を上げるティオネ、レフィーヤ、ティオナ。ただアイズだけはクイーンのその強さに驚嘆ではなく嫉妬に近い感情を抱いていた。
「さて、休憩ももう充分に取ったろう。パワーも耐久性もある程度は把握した。後は何か特殊能力でもあれば面白れぇが……」
「クギャッ!?」
再生を終えかけているヒュドラ食人花に再び近づいていくクイーン。
そんなクイーンに怯えたような声を漏らすヒュドラ食人花は、9つの頭をクイーンに向けると、一斉に口を開かせてみせる。
「ん?」
「──────ッッッッ!!!!」
まるでドラゴンのブレスのように光線のような攻撃が放たれる。
間抜けにも観察に夢中になっていたクイーンは真っ正面からその攻撃を喰らってしまった。
「ちょっと、今のは流石にマズいわよ!?」
「た、助けなきゃ!!?」
流石に今の攻撃はシャレになっておらず、いくらレベル8といえどあんなものを無防備に喰らえば無事では済まないだろう。
即座にティオネとティオナが飛び出してヒュドラ食人花に攻撃を仕掛ける。
だが──
「ぐぅ、やっぱしコイツ素手じゃ全然ダメージを与えらんないよ!!」
「こんなのを拳だけでボコボコにしたなんて、目の前で見てなきゃ信じられないわよ!?」
やはりティオナとティオネの攻撃ではダメージを与えることが出来ずにいた。
(ここはやっぱり私の魔法で──、でも今の私の魔力じゃ……)
この現状を打開するためにはもう一度自分が魔法を使わなければ。しかし、もう既に魔力は底を尽きており、先程のような強力な魔法を撃つことはできない。
どうしたものかと悩んでいると、ふと隣に立つアイズがなにやらブツブツと唱えていた。
「やっぱり……モンスターは全て敵……全て私が殺さなきゃ……」
いつもとは雰囲気が違っており、例えるなら黒い悪意を纏っているような、そんな不気味さすら感じる様相であった。
アイズが覚悟を決めて一歩を踏み出そうとしたその時だった…………
「ムッハァ~! 随分とドギツイ攻撃をかましてくれんじゃねぇか!!」
全身から火傷の痕を見せるクイーンだが、その動きや言動からまだまだ戦えるようだ。
そうして、先程のヒュドラ食人花からの一撃でようやく本気を出すようになったクイーン。
「ムハハハ! そういやさっき素手じゃどうこう出来ないって言ってたな
「あんた生きてたの? ……ええ、そうよ。で、こんな状況で何よ急に? さっきの自分の攻撃が効いたって言いたい訳?」
「ムハハハ! 違う違う。あんな殺せねぇようなパンチじゃ自慢にもなりゃしねぜ。まあ、俺様が言いたいのはよ、武器ってのは何も剣や槍だけじゃねぇってのを言いてのよ」
論より証拠とばかしに改造した自身の肉体を変形させていく。
ガシャガシャと人体から決して聞くことの無い音がクイーンの体の中から聞こえたと思えば、肌の色がメタリックな色へと変化していき、やがては全身がメタルボディに変貌してみせた。
「ムハハハ! どうだ驚いたか? これが俺様の原作を超えた最高傑作の1つメタル
ただ肌の色がメタリックになっただけではなく、指はドリル、足はドラム缶のような分厚い鉄柱を思わせるサイズに変化させ、腹には何に使用するのか不明な穴が開いており、この場に男子がいれば目を輝かせて涙を流しているだろう。
「それにしても、さっきはよくもやってくれたじゃねぇかクソ草野郎!! こっちもお返ししてやるぜ!!」
プワーンとエネルギーが集まる音がクイーンの腹辺りから聞こえてくる。見れば光の粒子がクイーンの腹の穴に集まりだし、そして一瞬腹の穴が煌めいたかと思うとレーザービームが飛び出した。
「デストロイバスター!!」
「シギャアアアア!!!」
太い光の軌跡がヒュドラ食人花の胴部を通過すると、レーザービームの着弾地点であるポイントが大爆発を起こす。
「ムハハハ! 貫通能力は抜群だが、貫通し過ぎて着弾による爆発攻撃が敵にヒットしねぇのが今後の改良点だな」
目の前の結果に満足そうな声を出しながらも、今後の改造予定を頭の中で組み立てるクイーン。
そんなクイーンを完全に恐れたヒュドラ食人花はあろうことか逃亡を選択した。
「キギギャアアアァァァァ……」
自身の肉体に空いた穴などお構いなしに一刻も早くクイーンから逃げまいと地面を掘り進める食人花の姿はすぐにその場から消え失せ、残ったのはヒュドラ食人花が残した大穴のみだった。
「ちょっと! なに逃がしてんのよ!?」
「余裕見せ過ぎだよクイーン!!」
「ちょっ、ティオネさん、ティオナさん!?」
むざむざとモンスターを逃したクイーンに詰め寄るティオネとティオナだったが、先程の戦闘を見てすっかり及び腰になったレフィーヤは突っかかる2人を止めまいとワタワタと手を握って引っ張る。
「ムハハハ! 安心しな。あのモンスターの始末ならもう既に済んでいる」
「「「???」」」
♦
クイーンから逃れ元いた地下空間に逃げ延びたヒュドラ食人花は、胴部に空いた穴を塞ごうと再生を始めようとするが、空いた穴は一向に治ろうとはしなかった。
それどころか、体中に謎の痛みが走り出し、地面をのたうち回りながら血反吐を吐き散らかす。
「クギャァァァ!!?」
ジタバタと暴れるも痛みや傷痕は一向に治おる気配も無く、痛みは益々酷くなるばかりだった。
そんなヒュドラ食人花の様子をジッと見ている者が1人。
「おいおい、何やってやがんだチクショウが!! 俺はテメェをケルヌンノスファミリアに勝てるように改造したんだぜ? なのになんだあのザマはよぉ?」
ついには痛みで動くことさえ出来ずにもがくように身をくねらせるヒュドラ食人花に近づいて蹴りを入れてくる。
「せめて大看板の腕の1本でももぎ取ればまだテメェの存在価値があったってのによ……この失敗作のクズモンスターが!!」
やがてピクピクとしか動かなくなったヒュドラ食人花を充分に蹴り回した男はクイーンによって空けられた穴をジッと観察する。
「こりゃ毒か? 光による毒…………放射線か? だとしたらなおの事厄介だな。クイーンの奴め、どれだけの実験を繰り返したんだ!?」
ギリッと歯を食いしばって未だ地上にいるクイーンを怨讐の目で睨み付けながら、男はその場から去っていった。
♦
あれからロキファミリアの連中をホームへと帰したクイーンは、この現場を覗き見していたマナーの悪い男の元へと向かっていた。
「けっ! なんだテメェかよオッタル。なら正解はもう一つの視線の方かよ……」
「…………どうやら、俺の手助けは必要無かったようだなクイーン」
あの時、クイーンは2つの視線を感じていた。どちらかがあのヒュドラ食人花を差し向けた黒幕であると当たりをつけたクイーンは、適当に現場に近い視線の元へと駆けつけた。
まあ、そこにいたのはオッタルだったわけだが、クイーンはそのオッタルの言葉にピクリと反応する。
「…………おい、俺様の聞き間違いか? 手助けだぁ~、言っとくが俺やあのバカキングと同じレベル8とはいえ、その実力の差は天と地程に離れてんだぜ? 勿論、天が俺様で地がお前だ!」
「どうとでも言えばいい。俺はただフレイヤ様に相応しい剣となるだけだ。そして、いずれはお前らの団長から最強の座は返してもらう」
オッタルの挑戦的な言葉にバキリとクイーンが立っている地面が威圧感だけでひび割れる。
いつ開戦が起こっても不思議ではないその状況で、オッタルは一切の警戒や敵意をクイーンには見せないでいた。
「おい、テメェ如きがカイドウさんから最強の座を奪い返すだ? おこぼれで貰った座がそんなに惜しいかオッタル? 言っとくがな、お前さんも分かってる通り、さっきの戦闘で見せたのは俺様の実力のほんの一部でしかねえ! 俺様はあともう2段階上の変身を残してる。その意味が分かるよな?」
「承知の上だ。その上で俺はお前たちに勝つと宣言した……」
「そうか……」
オッタルの揺るぎのない宣言に威圧感を霧散させたクイーンは不機嫌ながらに一言だけ返してその場から去ろうとする。
「じゃあな
「…………」
去りゆくクイーンの背を見つめながら、オッタルは今の自身の2つ名に静かに激昂して背に背負う剣に手を伸ばす。
オリキャラとかクイーンの圧倒的パワーとかちゃんと伝わった?
ちなみにオッタルの今の2つ名はこのままでOK?
次回の過去編はどれがいい?
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リヴィラの街
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ソーマファミリア
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ヘファイストス&ゴブニュ
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飛び六胞の誰か?
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港町メレン
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テルスキュラ