カイドウがウィーネを娘にするのは間違っているだろうか?   作:リーグロード

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待たせたな!受け取れ、最新話だ!!


圧倒×和解

 突然の黒いミノタウロスからの襲撃を受けて一同が衝撃を受けているなか、いち早く正気に戻った異端児達が今までのお返しだと言わんばかりに勢いに乗って押し返して来た。

 

「今がチャンスだ!! ここで奴らを一気に押し返すぞ!!!」

 

 リドの号令の元に異端児達が自身の爪と牙を存分に奮って襲い掛かる。

 っが、いざ敵意をぶつけられるとケルヌンノスファミリアの団員達は意識を戻してすぐ応戦してくる。

 

 場は一気に硬直し、互いに一進一退の攻防を繰り広げていた。

 この均衡を完全に崩すにはどちらかの総大将が決着を付ければいいのだが……

 

「ドウシタ、アステリオス?」

 

「…………手応えが変だった? 今まで硬い敵、柔らかい敵と幾多もの敵を殴ってはいたが、硬いのか柔らかいのか? どちらともつかない妙な感触だ。……構えろ、アレは十中八九無傷で生きている」

 

 吹き飛ばした敵の追撃に出ないアステリオスの様子に疑問を覚えたグロスが訪ねると、アステリオスはクイーンを殴り飛ばした手の感触を確かめながらその疑問に答える。

 

「ナルホド、確カニ奴ハ他ノ冒険者トハ違ウヨウダッタ……」

 

 その言葉に警戒心を強めたグロスは油断することなくクイーンが吹っ飛んで出来た瓦礫の山に目を光らせる。

 

 事実、2人が臨戦態勢に移行して戦う覚悟を見せると、瓦礫の頂上の石コロがガラリと崩れ落ち、それを合図にしたかのようにクイーンが瓦礫の中から勢い良く無傷の状態で飛び出してきた。

 

「ムハハハ! ちょ~っとビックリしちまったぜ!! だが俺様は~~無傷☆」

 

 クイーンの身体は土で多少の汚れが目立つものの、アステリオスに殴られた箇所や壁にぶつかった箇所にも傷どころかアザ1つ出来てはいなかった。

 

「ん~♪ 無駄だぜ無駄! 俺様のこれは脂肪じゃなく筋肉! それも人工強化筋肉だ。俺様の研究によってアダマンタイト級の硬度と衝撃によってゴムのような弾力性を発揮する優れものよ♪」

 

 パン! と自身の腹を叩いてその頑丈さをアピールする。

 

「「ムゥ……!」」

 

 ただそれだけの行為だというのに、アステリオスとグロスにとってぶ厚い障壁が突如として出現したかのように思えた。

 

 だが、それだけで戦意喪失するほど2人はヤワな精神をしておらず、互いに拳を構えてクイーンに相対する。

 

「アステリオスヨ、奴ハオレが少シノ間ダケ引キ付ケル。奥ニ貴様ガ前ニ頼ンデイタ武器ガ置イテアル! 行ケ!!」

 

「……了解した」

 

 一瞬の間、アステリオスは悩みもしたがグロスの言葉を信じてこの場を任せ、奥にあるという自身の武器を取りに急ぐ。

 

「ムハハハ! たった1匹で俺様を足止めか? 勝算があっての行動かもしれねぇが、随分といい度胸じゃねぇか! だが、そういうのは嫌いじゃねえぜ」

 

 奥へと消えていったアステリオスの後を追うことなく、クイーンは目の前で自身の足止めに努めるグロスのみに注意を払う。

 これはグロスを脅威に思ったからではなく、単にそうした方が面白そうだと考えたからだ。

 

「さあ、どうした? かかってこいよ異端児!!」

 

「ムオオォォォ!!!」

 

 両者の力の差は歴然であり、少しでも時を稼ぐ為にグロスが選んだのは突進によるタックルだった。

 

「ん~? 俺様と押し合いで勝負しようってか~?」

 

「ヌウゥゥゥゥ!!!!」

 

 だが、全力のグロスのタックルを受けてもクイーンは微動だにせず、まるで子供と相撲を取るかのように頑張れ頑張れ♪ と応援すら送っていた。

 

「おいおい、それでお前の全力ならもう終わっとくか?」

 

「ヌゥ!? グワァァァ!!!」

 

 一切の抵抗を許すことなく、ズガァァン! っとグロスはクイーンに上から抑え込まれる形で地面へと叩き潰される。

 

「ムハハハ! 呆気なかったな。だが誇っていいぜ! なんせ、この俺様から5秒も時間を稼げたんだからな」

 

「グゥ……ウゥゥ……」

 

 地面が陥没する程の力で叩きつけられたグロスの肉体はたった一撃でボロボロに成り果て、まともに立ち上がれることすら難しい。

 

(コレガ地上ノ第一級冒険者ノ実力ナノカ……、ダガ、セメテ……)

 

 意識が飛び飛びになるなか、せめてあと数秒だけでもとズタボロの身体で這いずってクイーンの足にしがみつく。

 

「あぁん? まだ動けんのか……。つっても、ほとんど死に掛けみたいなもんだがな」

 

 道端のゴミを蹴飛ばすようにグロスの手を蹴り飛ばすと、クイーンは奥へと消えたアステリオスの後を追わんと歩を進める。

 そんなクイーンの背後に力尽きたように倒れていたグロスが立ち上がる。

 

「マ……テ……」

 

「おいおい! そんな体でまだ立つのかよ!? 無茶すりゃ死ぬぜ?」

 

「…………」

 

「はっ、喋る気力……っというより、内蔵がいくつかペシャンコにされて逝っちまったか? まあ、モンスターに内蔵があるかは知らねぇがよ!」

 

 愉快そうに笑うクイーンの戯言に怒鳴り返す気力も残っていないなか、グロスはよろよろと歩くだけで精一杯ながらも笑い続けるクイーンに掴みかかる。

 

「ムハハハ! 無様だがいい根性してるぜお前さん。だがな、圧倒的に力不足なんだよ!」

 

「ガッ……!」

 

 服に着いた虫でも払うかのように呆気なくグロスを払いのけたクイーンは再びアステリオスの元へ足を運ぶ。

 流石に今度こそ立ち上がるだけの力も残ってはいないようで、グロスは指一本動かすことなくクイーンを睨むことしか出来ないでいた。

 

 そんなグロスの視界の先に希望が現れた。

 

「…………随分と待たせてしまったようだな」

 

 巨大な戦斧を片手に戻ってきたアステリオスの視線が地に倒れ伏せたグロスの姿を捉え、怒りの感情を表に出さないまでも、その声色はクイーンに対しての怒りと殺意で溢れていた。

 

「…………カテ」

 

「了解した」

 

 のどの痛みを無視してグロスはただ一言だけ勝てと口にした。それに対してのアステリオスの返答もまた簡潔なものではあったが、それだけでグロスは何の憂いもなく肉体の限界を迎え意識を落とした。

 

 そして、グロスが意識を失って倒れるのを合図にアステリオスがクイーンに向かって飛び出した。

 

「グモォォォォォ!!!!」

 

「ムハハハ! 来い黒いミノタウロス!! テメェの力がどれだけのモノか俺様が試してやろう!!」

 

 アステリオスの振り回す戦斧とクイーンの拳がぶつかり合う。

 ただそれだけでこの階層一帯を吹き荒れる程の強風が発生する。

 

「「「「ぐっ──わぁぁぁぁ!!!」」」」

 

 ただの真っ正面からの殴り合い、それだけで周りにいた団員や異端児達が吹き飛ばされそうになっていく。

 

「ほう、やるじゃねぇか! この俺様とパワー比べで吹き飛ばされねぇとはな!」

 

「ぐうウゥゥ!!!」

 

 一見すれば互いに互角の競り合いをしているように見えるが、両者の表情からしてクイーンが優勢なのは明らかだろう。

 しばらくアステリオスとクイーンの鍔迫り合いが行われたが、両者が互いに後ろに飛んで仕切り直しとなる。

 

「ほれ、どうしたどうした? もっと本気を出してかかってこい!!」

 

「…………っ!」

 

 素手による単純な殴打ではあるが、深層クラスにすら通用する戦斧が一撃ごとに形を歪められていっている。

 もしこれが自身の拳で撃ち合っていたらとゾッとするが、それでも攻撃の手は緩めない……否、緩めることを許されない。

 

 こっちの全力の攻撃に対して、奴は遊び半分で対処してきている。もしここで一瞬でも攻撃の速度を落とそうものなら、すぐさまクイーンの拳の嵐に押し切られて地面に沈められることとなるだろう。

 

 ……見えない。これまで深層で自身の力量を上げるために無数のモンスターとしのぎを削る日々を過ごしてきたが、こうまで勝利の道筋が見えない敵と相対したのは初めてだ。

 

 今のアステリオスの胸中に浮かぶのは焦燥と不安。同胞の最後の言葉である勝てを守りきることができるだろうか? 

 いいや、そんな弱い意思では己に希望を託して足止めを引き受けてくれたグロスに申し訳が立たない! 

 

「グモォォォォォ!!!」

 

「おっ! ちょっとは力が上がったか?」

 

 引き継いだ同胞の意思を力に変えて攻撃の手をさらに強めるが、クイーンにとっては獲物を狩る手応えが多少強まった程度にしかならなかった。

 

「おい……アレ……!?」

 

「マジかよ、クイーン様と真っ向勝負で互角の勝負をしてやがる」

 

「あれが地上の冒険者か?」

 

「アステリオスが苦戦してるなんて……!?」

 

 それでも、周りの異端児や団員達からすれば怪物同志の常識を超えた激しい嵐のような攻防戦に、つい自分達が争うのも忘れてその超常レベルの戦闘に目を奪われてしまう。

 

「ムハハハ! どうした異端児? もっと攻め立てこい!」

 

「──ッッッッ!!!」

 

 クイーンの挑発に、アステリオスは再び互いの距離を取るよう為に真後ろへと飛んだ。

 そして、次にとった行動は武器を捨てて2足歩行の態勢から4足歩行の態勢に切り替え、地面を強く踏みしめ、自身の最大の武器たる角が敵に当たるよう前傾姿勢の形になる。

 

「ほぉ、お次はミノタウロスご自慢の突進か? いいぜ、避けねぇでやるから突っ込んできな!!」

 

「ヴオオオォォォォォッ!!!!」

 

 大地を吹き飛ばす程の脚力で標的(クイーン)に向かって最大の武器である角と体格によるフィジカルで吹き飛ばさんと突っ込んでいく。

 

 周りにいた異端児やケルヌンノスファミリアの団員達は、アステリオスの踏み込みで起きた土煙で視界を塞がれてしまい激突の瞬間は目にすることは出来なかった。

 だが、両者がぶつかった際の轟音は否が応にも耳に入り、この対決の勝者がどちらになったのか目にせんと土煙を払って2人の姿を探す。

 

「い、いた! あそこだ!!」

 

 団員の1人がアステリオスの突進した方向のずっと先を指差すと、クイーンが突進した筈のアステリオスをがっしりとキャッチして受け止めていた。

 

「お~イテテ! おいおい、俺様ご自慢の人工筋肉で出来た腹に傷が出来てるじゃねぇか」

 

 どうやらアステリオスの角が突進でぶつかった際にクイーンの腹に穴を空けたようだ。だが、出来た傷はたったそれだけ。

 それ以外はまるでダメージは無く、平然とアステリオスを捕えて拘束している。

 

「流石はあの石コロモンスターが足止めを買って出るだけの実力者ってわけだ。……だが」

 

「っ?!」

 

「その程度の実力者なら俺達のファミリアに腐るほど……は言い過ぎだが、それなりの数はいるんだぜ。勿論、お前以上の実力者も俺様を含めて複数なぁ!!」

 

 驚愕するアステリオスの腰を引っ掴み、そのまま頭が地面の方向になるよう逆さ吊りしたまま一気に落として叩きつける。

 

 次の瞬間、地面が叩き割れるほどの威力のパイルドライバーを決めた。

 

「グオオオオォォォ!!?」

 

 大量の土煙が発生する中心部で、技を完璧に決められたアステリオスは上半身を地面に埋められて戦闘不能の状態に陥っていった。

 

「そんな……アステリオスがいとも容易く!?」

 

「あんな化け物が他にもいるってのかよ! 地上には!!!」

 

 大地に腰までぶっ刺さったアステリオスの姿を見て他の異端児達が茫然自失となってしまった。

 これほどの化け物が地上にはさらに複数体も存在しているという言葉に戦意がぽっきりと折れてしまったのだ。

 

 仮に、今の言葉が噓であったとしても、現状で異端児たちの最高戦力であるアステリオスが傷1つ程度しかつけられない敵を前にどうすればいいというのだろうか? 

 ついには武器を落とし、観念したように地面に座り込む者まで出始めた。

 

「おい! みんな!?」

 

 次々に戦意喪失していく同胞の姿にリドは奮起の声を上げようとするが、一体どんな言葉を投げかければよいのだろうか? 

 いや、アステリオスが敗れた時点で降伏するのは間違った判断ではないのだろう。

 

 例えこの先にどんな未来が待っていようとも、殺されるよりかは……。

 

 そうリドが絶望しかけたその時だった。

 

「ま……だだ……!」

 

「あん?」

 

 地面に埋まっていたアステリオスが自力で這いずり出し、怪我による出血はあるものの、その肉体と眼から伝わる気迫からまだまだ戦闘は出来ると言っているようだ。

 

「ヌゥゥ──」

 

 敵は遥かに強大、勝ち筋がまるで見えてこない。

 このまま戦っても勝機は1欠片も無いだろう。……なら諦めるのか? 

 

 否! 

 

 自身の中に生まれついて存在している飢えの正体である夢……あるいは憧憬か。その存在は自身よりも非力であったものの、恐怖に体を震わしながら己に立ち向かってきた。

 そんな朧気な記憶が今の自分の背中を押してくれる。

 

 そして吠えろと魂が叫ぶ! 今こそ強者の喉笛に弱者の咆哮と共に牙を突き立てろと!!! 

 

「勝つんじゃない! 勝ちたいのだ!!」

 

 目の前の敵に、そして夢に見続けるあの(ベル)の存在に負けない為に戦う。

 その思いが叫び声として自然に口から飛び出した。

 

「ムハハハ! なんだそりゃ? だが悪くねぇ思いだな! ますますお前ら異端児が気に入ったぜ!!」

 

「ウオオオオオオオッ!!」

 

 クイーンの言葉を遮るように放たれたアステリオスの咆哮(ハウル)は、もはや物理的な破壊力すら持ち合わせたそれは地面をめくりあげ、衝撃波がクイーンを襲う。

 

「ぐおぉぉぉ!! み、耳が……」

 

「ヌゥアアアァァァ!!!」

 

「ふべぇ──っ!!?」

 

 その強烈な咆哮(ハウル)を真っ正面から受けたクイーンは肉体にこそダメージは無かったが、鼓膜がイカレたのか耳を押さえている隙を突かれて再びアステリオスからの一撃を喰らってしまう。

 

「諦めるな同胞たちよ! 武器を拾え、希望はまだある。絶望の未来は己が手で切り開け!」

 

「──ッ! ウォォォ!!!」

 

 アステリオスの奮起の声にいち早く反応したのはリドだった。

 

「そうだ! オレっち達はまだ負けてねぇ!! ここで勝って仲間を! 同胞達を助け出すんだ!!!」

 

 その言葉に地面に落とした武器を拾い上げる者が続々と出てきた。

 そして、異端児達のその目には再び抗う意思が炎のように燃え上がっている。

 

「ぐっ、こいつら……」

 

 また再び戦闘かと武器を構えて戦おうとする団員達の耳に突如として後ろから何者かの声が届いた。

 

「お前ら逃げろ! 巻き込まれるぞ!!」

 

「「「「────っ!!?」」」」

 

 その言葉に即座に反応して対応したのはケルヌンノスファミリアの団員達だった。逃走という本来ならば屈辱的な行為を強者であるはずのケルヌンノスファミリアの団員達が迷いもなく動いたのには1つの理由がある。

 

 それは単純にして明白な理由。文字通り巻き込まれてしまうからだ、同じファミリアに所属する強者の圧倒的な攻撃に──。

 

黄金の絡めとる縄(ゴールデン・アレストロープ)

 

 ダンジョンの奥から金色に輝く縄がまだ捕まっていない異端児達を次々に捕縛していった。それは武装した者も、空を飛ぶ者も、逃げ足の素早い者も、例外なく全ての者をだ。

 

 もし仮に動くのが遅れて未だ異端児達と対峙していようものならば、あの黄金の縄が敵味方関係なく拘束していただろう。いつもの日常のように……。

 

「やれやれ、大看板ともあろう人が何をこんな所で手間取ってんの?」

 

 眩いばかりの黄金の塊を周りに浮かばせたケルヌンノスファミリアの飛び六胞が1人、黄金郷のエルマ・オルドリッチが姿を現した。

 

「ぬぅ! くそぉ! なんだこの縄は!?」

 

 縄に拘束されたリドが引きちぎろうと全力で力を籠めるが、縄はビクともせずその拘束を緩めることは無かった。

 

「無駄よ。それは文字通り黄金で出来た私専用の荒縄。そんじょそこらの輩に引きちぎれるほどやわな作りはしちゃいないわよ」

 

「ムハハハ! 流石はエルマちゃんだぜ♪ 仕事が早いな!」

 

 アステリオスに殴られて倒れてた筈のクイーンがケロッとした様子で増援にやって来たエルマに軽いステップで近づいてきた。

 

「あんたが遅いのよデブダルマ!」

 

「だ・か・ら! これは筋肉! おっれっは~♪ 瘦せちまったらモテ過ぎるんだって~♪」

 

 一応は大看板と飛び六胞という上下関係はあるものの、ケルヌンノスファミリア内において団員同士の上下関係なんてあって無いようなものだ。

 こういう気軽いスキンシップは常日頃からで、それはダンジョンの中でも変わらないものだった。

 

「グモォォォ!!!」

 

 そんな2人の会話をぶった切るようにアステリオスが黄金の拘束を引き千切り、投げ捨てた筈の戦斧を片手に突っ込んできた。

 

「噓!? 私の黄金の絡めとる縄(ゴールデン・アレストロープ)から自力で抜け出したっていうの?」

 

「おっと、言い忘れてたが、ソイツのパワーは俺様程じゃねぇがジャックくらいなら苦戦する程度の強さを持ってるぜ」

 

「それを先に言いなさいよ!!」

 

 今のアステリオスの標的はクイーンではなく、同胞を縛り上げたであろうエルマへと移っていた。

 自身を標的に突っ込んでくるアステリオスを鬱陶しく思いながらも、闘牛士のように軽やかな身のこなしで避けていくエルマは捕らえた異端児達が他の団員達によって回収されたのを横目で確認し終えると、自身の周りに浮かんでいる黄金に少し触れてその形を変えていく。

 

「私の触れた黄金は私の意のままに操ることが出来る。ほら、ご自慢のパワーでこれが壊せるかしら?」

 

黄金の盾(ゴールデン・シールド)

 

「グォッ!!? ──ッ! ヌウァァァァ!!!!」

 

 ぶ厚い大盾へと変化した黄金が迫りくるアステリオスの目の前に立ち塞がり、ガァァァン!! と凄まじい衝突音を立てて大盾にヒビが入る。

 普通ならそれほどの速度と威力で頭からぶつかれば意識を消失してもおかしくないのだが、パワー以上の耐久力でギリギリ意識を踏み止まらせたアステリオス。

 目の前に現れた大盾を砕かんと、さらに力を込めて角によるすくい上げの一撃で黄金の大盾を粉砕した。

 

「まさか!? アレは深層のモンスターの攻撃にも耐えるレベルだってのに!!」

 

 自慢の大盾を、破壊されて驚愕と苛立ちに支配された顔つきとなったエルマ。

 

「くひぃっ♪」

 

 しかし、その顔はやがて段々と喜色の笑みへと変わっていき、面倒臭さそうだったその表情は獲物を狙う狩人のものへと変貌した。

 

「クカカカ……! ナルホドねぇ、これはクライがいがある獲物だぁ!!!」

 

 中層でのつまらん狩りかと思えば深層のモンスターよりも喰いごたえのありそうな獲物を目に、アマゾネスの女王の血が湧き上がってくる。

 強者との飽くなき戦闘への渇きと飢えが今のこの身体を支配しており、このようなご馳走を目の前に我慢など出来ようものだろうか? 

 

「否、イナ、いなァァァ!! 喰ろうてやるぞぉぉ!」

 

 過度な興奮により、この世界の共通語とアマゾネスの言語が入り混じった聞き取りにくい言葉で叫ぶエルマ。

 

「あっちゃ~、完全にスイッチが入っちまったぜ。おいお~い、分かってんのかエルマちゃん。今回の標的はDEAD OR ALIVE(生死問わず)じゃなく、ONLY ALIVE(生け捕りのみ)だってのは理解してるよな?」

 

「五月蠅い! 私に命令スルナ!!」

 

 完全に目がイッており、口は獣じみたように大きく開き、ジュルリと涎が垂れている。

 

「クッソォ! 男ならぶん殴って言うこと聞かせるのに、流石の俺様もエルマちゃんは殴れねぇ~ぜ!」

 

 困ったように身をクネらすクイーンと凶暴化し暴走しかけているエルマ、そしてその2人に敵対するアステリオス。

 

 場は完全にカオスと化しており、どのように事態の収めるか分からなくなっていたその時、3人を分断するように燃え滾る炎の壁が発生する。

 

「「っっっ──!?」」

 

「あ~、あのカス野郎が来やがったか……」

 

 突如として現れたと炎の壁を見て、ポリポリと不機嫌そうにクイーンは葉巻に火を点けて煙を吸う。

 

「アイツが来たってことはカイドウさんももうすぐ来るだろうし、エルマちゃんのことは……って、アイツどこ行った!?」

 

 少し目を放した際に先程までいた場所からエルマの姿が消えていた。

 

「ダラァッシャァァァ!!!」

 

 燃え盛る獄炎の壁をその身1つで突破し、火傷した体の痛みを無視して、その先にいるアステリオスに向かって黄金で龍の手に武装した右腕を振るう。

 

爛輝の龍腕(マム・クロウ・タロト)

 

「な、なんだ!?」

 

 それはまさに黄金で出来た巨龍の腕、その凶暴さはまさに龍と相異ないが、あんなものが細身の女性の右腕から生えているのだから、驚愕するなと言う方が難しいだろう。

 

 とはいえ、その程度の驚きでアステリオスが動きを止める筈はなく、すぐさま回避運動を行うがそれを見逃してくれるほど相手も優しくはない。

 回避した先の場所を予測したエルマは右腕を振るい追撃を仕掛ける。

 

「まズは一撃ぃ!」

 

 だがそれは1人の男の乱入によって阻まれる。

 

「いい加減にしろ! このバカゾネスが!!」

 

「ぬぅ?!」

 

「ちっ!」

 

 急に2人の間に割り込んできた大男、キングの登場にアステリオスは自身を庇ったことへの疑念の声をエルマは不快げに舌打ちを鳴らす。

 

「俺達の目的を忘れたか?」

 

「うるサイ! 私はソイツを喰らう!! どケ! キング!!!」

 

「ちっ! これだからアマゾネスという種族は嫌いなんだ」

 

 グルルルッ! と野獣のような敵意を見せるエルマにキングは不愉快そうな顔を隠すことなく腕組をした状態のままエルマの前に立ち塞がる。

 流石のエルマもクイーンはともかく、キングを相手に出し抜けるとは考えておらず、歯を剥き出しにしたまま唸り声を上げて睨むことしか出来なかった。

 

 そんなある種の硬直状態のなか、不意にダンジョンに特徴的な笑い声が響き渡った。

 

「ウォロロロォォ! どうやら無事に異端児達を発見することが出来たようだな?」

 

「キャン♡ カイドウさん。どうしよう? はしたない姿を見せちゃった♡♡」

 

 カイドウがその姿を現した瞬間、先程までの野獣のような風貌を一瞬の間に消して、大学のサークルにでも居そうな女のあざとい口調で恥ずかしそうに頬を赤らめる。

 

「こ、この女……」

 

「なによ……?」

 

 そんなエルマの変貌ぶりっというよりぶりっ子アピールに、キングは頭の血管がブチ切れそうになっていた。

 

「ウォロロロォォ! 別に恥ずべき行為じゃねぇさ。お前のああいう姿が気に入ったからこそエル・ドラードから連れてきたんだからな」

 

「キャー! 私の戦う姿に見惚れたから花嫁として連れて来ただなんて///」

 

「…………アホくせぇ」

 

 都合のいい耳でカイドウの言葉を捏造するバカと、それに呆れて溜息を吐くキング。

 そんな2人の後ろでアステリオスは新たに現れたカイドウを見て本能で格の差を理解した。

 

「──っ!!」

 

 あのキングという男も自身を超える強者であるが、カイドウという男はその遥か上の絶対者。

 体が恐怖で震え、本能で敗北を確信してしまう。

 

「なるほど、テメェがアステリオスって奴か」

 

「っ!? 何故オレの名前を……?」

 

「そんなことはどうでもいい! 聞け!! この場にいる異端児共よ!! 今からテメェらは俺のファミリアの傘下に入ってもらう。勿論、テメェらの選択肢はイエスかはいの実質1つしか存在しねぇ!!」

 

 その脅迫とカイドウの覇気に当てられた異端児達は絶望に沈む。

 もはや希望は残されていない。そう諦めたその時だった。

 

「みんな、彼らは怖い人達だけど悪い人達ではないわ!」

 

 絶望に下を向く彼らの耳にこの場にはいない筈の消えた同胞達の声が聞こえた。

 顔を上げて見れば、カイドウの後ろから消えて居なくなった筈のかつての同胞達が一切の拘束をされずに立っていた。

 

 彼らは別の階層を探索中だったキングが偶然発見したイケロスファミリアの連中が捕えていた異端児達で、解放したキングがそのままここへ連れてきたのだ。

 

「彼らは私たちを悪い奴らから助けてくれた。それに、地上に連れていってくれるって言ってるわ!」

 

「馬鹿な……この連中がそんな約束を……」

 

「ウォロロロォォ! 噓じゃねぇさ。俺達は別に奴隷が欲しい訳でも、テメェらを家畜として見てる訳でもねぇ。ただまあ、この現状を見ればそう考えてしまうのも無理からぬことだろう」

 

 この空間にはおびただしい血の匂いと争いの跡が残っている。こんな状況でそんな言葉を言われたところで信じられる訳は普通はないだろう。

 

「しかしだ、今この瞬間、勝者と敗者は決定している。俺達だってお前ら異端児のことを完全に信用しているわけでもない。故に、圧倒的な力の恐怖という鎖をつけさせてもらった」

 

「「「…………」」」

 

 それは政治家の演説のような知的さを思わせる声色で、信用の前に理解をさせようという意思が込められていた。

 そう、これはいわば両者との格付け。逆らえばどうなるかのデモンストレーション。あの戦闘はそういう目的があったものなのだと異端児達の中でも知恵のある連中の何人かが気付いたようだ。

 

 それ以外の者たちは不安と困惑の表情で固まっているが、ひとまず暴れる様子は無いようだ。

 

「さて、ここまで聞いてまだ納得出来てねぇのなら、別の言い方に変えるとしよう。お前らが地上の景色を! 太陽の輝きを!! 魂に焼け付いた憧憬を目にしたいと望むならば!!! 俺達の仲間になれ!!!!」

 

 その言葉にいったい何人の異端児が心を揺さぶられただろうか? いつも夢見る地上への進出が目の前にある。

 騙されてるのかもしれない。裏切られるかもしれない。だがそれでも、この胸を焼くような衝動が付いて行きたいとそう叫ぶのだ。

 

「わ、私! 地上に出たい!」

 

「オレも……太陽を目にしてみてぇ……」

 

「あの夢で見た景色を、今度はこの目で……」

 

 誰かの声を皮切りに、次々と地上進出の願いを口にする異端児達が現れる。

 その流れはもはや止めることは出来ず、次第に半数以上の異端児達が傘下に入る決意表明を明らかにする。

 

「そうか、なら歓迎するぞお前たち! ようこそ、俺達ケルヌンノスファミリアへ!!!」

 

 笑顔で異端児達を迎え入れるカイドウ、これは人間とモンスターの融和の物語ではない。だが、ダンジョンという地下に囚われた異端児の救済の物語ではあるのだろう。

 

 




メッチャ長くなった。なんかエルマのキャラ書いてたら楽しくなったし、戦闘シーンを盛り上げようとしたら難しくなるしで大変だったぜ!

あと、いつも長文感想送ってくれるRhdsgさん。執筆意欲が上がるのでサンキューです♪

次回の過去編はどれがいい?

  • リヴィラの街
  • ソーマファミリア
  • ヘファイストス&ゴブニュ
  • 飛び六胞の誰か?
  • 港町メレン
  • テルスキュラ
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