「……なるほどな、事情は把握した」
エリカとレオのダブルラリアットで吹っ飛んだ後、即座に復活した俺。屋台が無事なことだけ確認した後、レオにぶっ飛ばされ気絶した女子生徒──────平河千秋が運ばれた保健室にて話を聞くことに。
「とりあえず、状況証拠からして限りなく黒ではあるんだが……悪いな、校則上『非合法な電子機器を持ってる』だけではこちらとしては対応が難しい。例え『どう考えてもほっといたらやべーことやってただろコイツ』ってシチュエーションでも、規則上は現行犯でなければならないわけだ」
だから警察とかもこういうのは基本的に後手に回る。そうならないために『持ってるだけでアウトとする法律』……銃刀法違反だとか凶器準備集合罪などがあるんだが、まあ今回は関係ない。
「まあ今回は相手も隠し武器を使ってたみたいだし、お前たちは魔法を使ってない。総合的には……まあ『気絶させたのはやり過ぎにあたるが、武器持ち相手に武器なしで鎮圧するにはそれくらいする勢いじゃないと厳しかった』ってとこだろう。別に気絶するまで何度もぶん殴ったとかそういうわけでもないだろ?」
「ああ、タックルでぶっ飛ばしたらそのまま気絶した。隠し武器向けられたし、危ねえんで視界から外れたとこからかましちまったけど」
……なら、俺が出す采配としてはこうだな。
「なら、事後処理としては『桐原会頭が不審な素振りを見せる生徒を見つけたので近付いたら隠し武器を振り回されたので、その場に居合わせた千葉エリカと西城レオンハルトが急遽協力。その際に有害なガスや飛び道具など危険物を複数所持していたため、魔法を使わずに制圧するためやむなく気絶させた』……そういう形で報告しておくよ。一応後で教師から確認のために呼ばれるかもしれんが、どうあれ鎮圧した側としてそれに関しては受け入れてくれ」
「悪いな、助かる」
「ありがとねー」
話が早くて助かる、と言わんばかりに笑って手を振ると、二人は保健室から出て行った。……さて。
「俺の検分でも、普通に気絶しただけで身体に異常はないと見受けられますが……実際どうです?
ま、俺の場合は聴覚による分析なので『見受けられる』というよりは『聞き受けられる』なんだが……なんてくだらないことを考えながら、一高の保険医である
「うん、心配要らないわ。骨にも脳にも異常なし、そのうち自然と目を覚ますわよ」
本職がそう言うなら大丈夫だろう。何せ先生は、生体放射を視覚的に捉えて肉体の異常個所を把握することのできる医療系の特化型能力者だ。視るだけでそこらの病院にある精密検査機器より正確な診断を下す能力がある。
「じゃあすみませんが、コイツが目を覚ましたらご連絡お願いします」
「良いわよ。あっ、でも、この子に逃げられても文句は言わないでね? 私は戦闘能力皆無なんだから」
「俺なら超音速ですっ飛んでこれるので、余程のことがない限りは大丈夫かと。連絡する前にボコられて気絶とかされたら別ですけど」
俺はそう言うと、保健室を後にするのだった。
「差し入れでーっす……あれ、どういう状況?」
八幡が屋台を引いて実験が行われている校庭に出ると、何やら刺々しい空気に包まれていた。その場にいた大半から『なんだこいつ……何で屋台引いてんの……?』という視線を向けられながら、八幡は近くにいた鈴音に尋ねた。
「……千葉さんと西城君がこの場をうろついているのが、関本君には気に入らなかったようで。それで千代田さんが仲裁したんですが、その時の空気が後を引いています」
「うーん……一旦後で話は聞きますね。っつーかもう昼時ですよ? 腹空かしてるからすぐイライラするんですよ。風紀委員長からの差し入れでーす、タダでラーメンとチャーシュー丼が食いたい奴は屋台に並べ。あ、でも水はどれだけ必要か概算つかんかったから各自自販機で買うなりしてくれ。そこまで面倒見切れん」
その言葉と共に風向操作の魔法が行使され、美味そうなラーメンの匂いが辺りに漂う。一人の腹がぐう、と鳴ったのを皮切りに、屋台に並び始める人がチラホラと出てきた。
「悪いがおかわりは無理だが、ラーメンだけじゃなくチャーシュー丼もつけられる。あ、受け取ったら他の人の邪魔にならないように屋台から離れてくれな」
魔法を幾つか並行使用し、発泡スチロール製の使い捨て器にスープや具材、麺などをよそって並んでいる生徒に渡す八幡。そうして二十分ほど列の消化に勤しんだ後、作業に集中している達也にも声をかけた。
「一段落したら腹拵えくらいしとけよ、メインのメンバーなお前と市原先輩には特別大盛りで出してやっからよ」
「ああ、ありがとう。これが一区切りついたら向かわせてもらう」
達也のその言葉に頷くと、具材も麺も増やした大盛りのラーメンとチャーシュー丼を一つ用意。それに保温のための熱エネルギーの遮断魔法をかけると、周りへと再び大声で呼びかけた。
「見学してる奴らも食っていいぞー、食材余る方が勿体ねぇから。っつーか食ってくださいお願いします、これで数十人前分残ったら俺向こう半月毎日ラーメン食わなきゃいけなくなる」
その言葉に『食べたいけど見てるだけの自分が食べるのもなぁ』という罪悪感も薄れたのか、見学している生徒らも並び始めた。そうして食べたい奴らに一通り行き渡った後、作業も区切りがついたのだろう。達也、そして共に居た深雪にも定食を渡した八幡は、二人分の定食を持って口論を繰り返す鈴音と関本のところに向かった。
「先輩方も、一旦そこで止めにしましょうよ。ほら、一旦飯食いましょ。仲裁じゃないっすけど、食い終わったら話くらい聞きますから」
さすがに後輩──────しかも昼食まで用意してくれた──────にそう言われてはバツが悪いのか、渋々と矛を収める二人。そして暫し麺をすする音、カトラリーが器と擦れる音が響き……昼食を腹に納め終わった三人が、話を再開する。
「んで? 何の言い争いしてたんです。これでも音楽家として一足先に社会に出てる身です、何かしらの回答が出せるかもしれません」
そうして八幡が二人から聞き出したのは、何処までもシンプルな『スタンスの違い』。基礎重視の関本と応用重視の鈴音、その思想の差異が対立の原因となっていた。
「比企谷、お前はどう思う。基礎と応用、どちらが重要とされるべきか」
「んー……まず、俺の回答としては
その言葉に顔を顰める関本。それを見て、八幡は言葉を続ける。
「ああ、勘違いせんでください。俺は何も基礎をおろそかにする訳じゃない。音楽家として基礎練の積み上げの先に今の俺があることは重々理解してますし、基礎を固める価値はこの上なく自覚してます。ただ、これはどちらかっつーと人間の心理の問題なんですよね」
「……心理?」
八幡の言葉に首を傾げる関本。それに頷くと、説明を始める。
「人間ってのは、
覚えがあったのか、二人揃って頷く。
「だから人間に必要なのって、『努力する習慣そのもの』じゃなくて『とりあえずここまで到達すれば一段落という目標到達点』なんですよ。関本先輩の基礎重視は良いものですが、人間の精神構造や心理を考慮すると『応用の技術を一つ定めて、それを可能とするために基礎を固める』って感じにするのが一番良いんです」
小さな目標を一つ一つ達成して、最終的な大目標に到達する。何事もそれの繰り返しである。
「だから俺の意見としては『基礎も大事だが、闇雲に基礎を積み重ねて効率を下げるくらいならまず意欲や方向性を明確に定めるために
「はい。私たちも、何も相手のものを蔑ろにしたいわけではないので。……関本君も、いいですね?」
「……分かったよ」
そう言って、口論を続ける気をなくした二人。それに頷くと、八幡は丁度連絡の入った保健室へと向かうのだった。
保健室に向かった俺。そこで見たものは……平河千秋を押さえつける先生だった。
「……あの、先生」
「なあに?」
「戦闘力皆無なのでは……?」
「やあねぇ、これは
「……」
「……とりあえず、一旦離してやってください。拘束した状態での尋問はほぼほぼ拷問ですから。俺拷問は数えるくらいしかやったことないんすよ」
適当に手頃な椅子をかっぱらいそれに座ると、平河千秋もまた傍にあった椅子に座る。
「……とりあえず、現段階ではお前を罰することはない。面倒な話だが、
まどろっこしい話だがな。
「んでもって、俺も説教する気はさらさらない。何せ今説教したところで所詮対症療法だ、お前がこんな蛮行に走った理由を知らずに頭ごなしに叱りつけたところで意味ないだろう。だから質問させてもらう、『何の目的で』『何をしようとしたのか』をな」
「……答えなかったら?」
「お前の意思に反して吐かせる方法なんて、一つ一つ指折り数えても一高全生徒の両手足じゃ足りないくらいあるんだよ」
精神干渉とかな。
「……データを盗み出すことが目的じゃない。あたしの目的は、プレゼン用の魔法装置作動プログラムを書き換えて使えなくすること。パスワードブレーカーは、その為に借りたの」
「……となると、望んだ成果は『プレゼンの失敗』ってとこか?」
馬鹿馬鹿しい話だ。こんなことに振り回されているこちらの身にもなって欲しい……そうため息をつきかけたところで、平河千秋が叫んだ。
「違う! 失敗すれば良いなんて、そんなことは考えてない!」
しかしその反応は、俺の予想と少し違うものだった。思い掛けないことを言われた、という彼女の態度に噓は見られない。……となると。
「……悔しいけど、あの男はその程度のことなんてきっとリカバリーしてしまう。アイツはそれだけの腕を持ってる。でも本番直前にプログラムがダメになったら、少しくらい慌てるに違いないって思った。何日も徹夜してダウンしちゃえばいい気味だって思った。あたしはただ、アイツの困った顔が見たかったの!」
「嫌がらせで、ねぇ。大事にはなってねぇが、下手したら退学沙汰だぞ? ただでさえ有害ガス撒いて桐原先輩沈めてんだからよ」
「それでも構わない! アイツに一泡吹かせられるんなら! だって、アイツばっかりいい目を見るなんて許せないんだもの……!」
千秋はベッドの上で嗚咽を漏らし始めた。……いよいよ面倒だな。
「平河千秋……平河ね。平河小春ってのはお前の姉貴か?」
この凶行に走るだけの関係性となれば、それくらいだろう。俺がそう考えて呟けば、嗚咽に震える平河千秋の肩が跳ねた。
「……なるほどな、動機は報復か。お前の姉貴、確か小早川先輩の九校戦の担当エンジニアだったか。それで事故のことを気に病んでるんだったな。それが達也のせいだと?」
逆恨みもいいとこだろう。足を組んで天を仰ぐと、平河千秋は低い声で呪詛を吐いた。
「……だって、そうでしょ。アイツには小早川先輩の事故を防げたのに、そうしなかった。アイツは小早川先輩を見殺しにして、その所為で姉さんは責任を感じて……」
……CADに関しては、運営委員に潜入してた『
「姉さんにも分からなかったんだ、他の先輩方だって分かるはずない。アイツだからあの仕掛けに気づくことができたんだ、
「……『あの人』?」
俺の呟きを無視し、平河千秋は言葉を続ける。
「あんなに何でもできるクセに自分からは何もしようとしない……きっとそうして、無能な他人を嗤ってるんだわ。本当は魔法だって自由に使えるクセに、わざと手を抜いて二科生になって、一科生も二科生も手当たり次第に他人のプライドを踏み躙ってほくそ笑んでるに違いないのよ、あの男は!」
「そこまでにしとけよ」
うんざりしながら放った俺の言葉が、平河千秋を縛り付けた。……あやっべ、つい音使いの精神干渉が乗っちまった。
「お前の言い分は事実無根、証拠がない。仮にこれを達也自身が聞いて、名誉毀損で訴えるようなことがあれば絶対に負ける言いがかりでしかない」
俺がそう言うと、彼女は一瞬怯んだように黙り込む。そして「でも」と言いかけたところで、それを遮って言葉を続けた。
「なぁ、どうにかしてやろうか?」
「……なんですって?」
俺の言葉に、平河千秋の表情が変わる。
「これでも人間心理、精神についてはエキスパートでね。お前の姉貴をカウンセリングして、立ち直らせてやってもいい。
「何が目的よ、そんなの……!」
「平河先輩に罪はねぇからな、気に病むくれーに思い詰めてるんならどうにかしてやりたいって人情が一つ」
まあこれは真っ赤な嘘だが。俺先輩のこと全然知らんし。
「一つは、今回の一件に関わってる奴を突き止めておきたい。お前の持ってたパスワードブレーカーは、凡そマトモなルートじゃ手に入るもんじゃねぇ。ならそれを手に入れるだけの違法なルートがあり、そこにはマトモじゃねえ奴らが関わってる。それは見過ごせねぇからな、関わったお前から聞き出すのが一番早い」
「……取引のつもり?」
「そ。お前から情報を得る代わりに、お前の姉貴を助けてやる。悪い話じゃあねぇだろ?」
「……っ、甘く見ないで!」
俺が話を持ちかければ、激昂したように立ち上がった。
「貴方たちの手なんか借りずとも、あたしは──────」
「ははは、思い上がるなよクソガキ」
もう面倒だな、捻り潰してやろうかこいつ。
「何か勘違いしてねえか? お前から聞き出すのは確定事項なんだよ。言ったよな、『お前の意思に反して吐かせる方法なんて幾らでもある』って。別にお前の姉貴を救わず一方的にテメェから聞き出したっていいんだ、俺にとっちゃお前もお前の姉貴もどうでもいいし。お前は『情報をゲロって姉を助けてもらうか情報を吐かない代わりに姉もそのままか』の二択だと思ってるみたいだが、こっちが提示してる二択は『何も得られず情報だけぶっこ抜かれるかせめて姉を助けて情報ぶっこ抜かれるか』なんだよ」
初めから選択肢なんてお前には用意されてない、それくらい理解しておけよ。レオやエリカは
「さあ、どうする? 全て徒労に終わるか、せめて最後に得るもの得て終わるか──────」
「……──────」
その言葉を聞いて、
比企谷八幡
風紀委員長になったのに早速の大仕事でこれなのでストレスが超マッハ。
面白いと思っていただけたなら、感想・評価付与・お気に入り登録してくださると励みになります。