『シン・ウルトラマン』に出てくる放射性物質捕食禍威獣パゴスが可愛かったので書きました。これから30分、あなたの目はあなたの体を離れて、この不思議な時間の中に入ってゆくのです……。

シナリオ協力:博元 裕央、宇宙創作怪獣スパークギラス、eba、大ちゃんネオ(順不同、敬称略)

旧題:地下から『虹の卵』を掘り出した青春カップルがイチャイチャ

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 その花が咲けば“災い”の証。

 つまり、とんでもない悪い大事件が起こると昔から言い伝えられている『サザメ竹』に真っ白な花が咲いた時のお話である。

 

◆      ◆      ◆

 

 『虹の卵』は、古い御伽噺だ。

 死んだママとパパから教えてもらったお話によれば、その美しい『虹の卵』には不思議な力が籠っており、どんな願いも叶えてくれるのだという。

 ……無論、そんなものは存在しない。卵と呼ばれるものでわたしが見たことがあるとすれば鶏や虫の卵くらいなもので、御伽噺に出てくるような虹の卵など見たこともなかった。

 虹の卵、そんなのはただの言い伝え、御伽噺、偽物の作り話だ。当時のわたしは子供心ながらそんな風に思っていた。

 

 今こうして、目の前で『虹の卵』の実物を見るまでは。

 

 両親と死に別れてから天涯孤独の身の上になったわたしは、その後しばらく日雇いや短期の仕事をして糊口をしのいでいた。

 特に『会社』の鉱山でウランを掘る肉体労働は、美味しい儲け話だ。それは暗く狭く蒸し暑い坑道の奥、それも朝早くから夜遅くまで続く重労働だったけれど、わたしはそれほど嫌いじゃなかった。他の仕事と比べて給料は格段に良いし、末端の作業員はひたすら掘る作業に専念してさえいればいいだけ。肉体的にはキツかったものの、あまり深いことを考えずにいられるので心持ちはとても楽なのだ。

 だけど今日、いつものとおり坑道でウランを掘っていたわたしは、その奥深くで奇妙なものを見つけてしまった。

 

「……なんだろ、これ」

 

 ツルハシとシャベルの先に当たった硬い感触。最初は石かなにかかと思って取り除けようと試みたのだが、地中から顔を出しているそれはどうもただの石ころでもないらしい。怪訝に思いつつも好奇心を抑えきれず、わたしはその『塊』を掘り出してみることにした。

 現れたそれは、わたしが当初想像していたよりも小さかった。大きさは20センチくらい、つるりとした表面はツルハシの刃先で傷ひとつつかないほど硬く、そして滑らかだ。ただし大きさのわりには重量があり、両手で抱え上げるようにして持ち上げるとずっしりと両腕にかかる重みを感じた。

 何より目を惹くのは、構造色によるカラフルな輝き。ヘッドライトの光を当ててみるときらりと反射し、七色の輝きとなって跳ね返ってきた。

 

「きれい……」

 

 鮮やかな玉虫色の輝き、まさに『虹の卵』だ。

 なんて美しいのだろう、こんなの今まで見たことない……その華麗さにまだ幼いわたしが思わず見惚れていると、不意に背後から声をかけられた。

 

「よお」

 

 振り返ると、坑道の向こうから複数の人間がこちらを見下ろしていた。

 こいつらはわたしと同じウラン鉱山で働く同僚、少年少女の鉱山労働者たちだ。そのうちのリーダー格がわたしへ問いかける。

 

「何してんだ?」

 

 ……げ。思わず嫌な声が出てしまった。

 少年労働者たちを先頭で率いている筆頭格の少年、わたしの幼馴染であり名前を〈ジャン〉という。

 ジャンとその一味はいつも一緒につるんで行動している。特にリーダー格のジャンはどういうわけかわたしのことが気になって仕方ないらしく、仲間と一緒になっていちいちわたしに喧嘩を吹っ掛けてくる。鬱陶しいのでわたしはいつも無視しているのだけれど、よりにもよってこんなときに。

 しかも運の悪いことに、わたしが露骨に悪し様な態度を見せたせいで不興を買ってしまったようだった。ジャンは不機嫌そうに眉を顰めながら、わたしへと喰って掛かる。

 

「『げ』ってなんだよオイ。おれさまに見られると困るようなことでもあんのか?」

 

 いや、別に。

 そう言って素っ気なく誤魔化そうとするのだが、ジャンは猶も絡もうとしてくるのだった。

 ……まずい。

 ジャンはかなりの守銭奴で、日頃から金目のものに目が無い。『虹の卵』みたいな珍しいものがあるとわかればきっと奪い取られてしまうだろう。そう思い至ったわたしはすぐさま『虹の卵』を地中ヘと隠したのだが、その不自然な仕草をジャンは見逃さなかった。

 

「おい、なんか隠したな? 珍しい石でも掘り出したのか? ほら、見せてみろよ」

「い、いやっ!」

 

 必死に虹の卵を隠そうとするわたしと、それをしつこく暴き立てようとしてくるジャン。いけない、これ以上隠しきれない、きっと取り上げられてしまう。そう思ったときだった。

 

「おいっ! 何してる!?」

 

 坑道から響いてきたのは、別の人間の怒鳴り声。それを受け、ジャンと一味は「やっべ!」と零しながらすぐさま退散してゆく。

 坑道の向こうから現れたのは、大人の男だった。

 

「ったく悪ガキどもめ……」

 

 忌々しげに悪態を吐いたこの男は、ウラン鉱山の作業員がサボってないかを見張る監視員だ。監視員は日替わりのローテーション勤務で、優しい人と厳しい人がいる。作業員たちがその日を楽しく過ごせるかどうかはこの監視員の機嫌次第で変わる。

 そして、今日の監視員は優しい方だった。男はわたしに言った。

 

「おまえ、大丈夫か? 何かされたんじゃないだろうな?」

 

 そう言って男が見遣る視線は気遣わしげで、わたしのことを心配しているようにも見えた。

 

「……いえ、大丈夫です。なんでもありません」

 

 わたしはそう答えながら、監視員の目から死角になるよう咄嗟に『虹の卵』へ土をかぶせた。坑道内の狭い暗がりで影になっているおかげで、わたしの不自然な手つきに監視員の男は気づかない。

 男はわたしの表情をじっと窺っていたが、やがて口を開く。

 

「いじめでもあるのなら早めに言ってくれ。おまえたちの管理もおれたちの仕事なんだからな」

 

 そうして男は、開いたシャツの胸元を手団扇で扇ぎながら、蒸し暑い坑道を引き返していった。

 ……ふう。監視員の男がいなくなり、周りに誰もいなくなったのを確認してから、わたしは溜め息をつく。

 今わたしの手元には、周囲の人たちの目を盗んで手に入れた『虹の卵』があった。

 

 

 

 その夜、わたしは宛がわれた寮の自室へ『虹の卵』を持ち帰ることに成功した。

 大人たちの監視を掻い潜って鉱山から持ち出すのには少々苦労したが、大人たちが注意を払うのはもっぱら掘り出されるウランの方で、それ以外の管理はわりと杜撰だ。ちょっとした工夫と機転さえあれば、この『虹の卵』くらいの物を持ち出すくらいなんてわけのないことなのである。

 家事を片付けたわたしは、表面についた泥や埃を洗い落とした『虹の卵』を改めて見てみることにした。

 

「……綺麗ね」

 

 虹色の輝きを持つ『虹の卵』、その美しさを再認識したわたしはうっとり溜息を溢してしまう。

 ……よし、決めた。

 この『虹の卵』は我が家の家宝にしよう。そして代々子々孫々まで受け継がせるのだ。そう心に決めながら、ふと『虹の卵』の御伽噺の続きを思い出す。

 『虹の卵』には、一生懸命お祈りをすると願いが叶うという言い伝えがある。もし願うとしたら、

 

(『友達』でも願ってみようかしら)

 

 ……まあ、叶うわけがないのだけれど。

 先にも述べた通り、わたしには家族がいない。ついでに言うと友達もいなかった。こんな泥だらけで毎日働いている日雇い労働の女子なんて、きっとボーイフレンドも出来やしないだろう。もしも身上があるとすれば、今日見つけたこの『虹の卵』くらいなものだ。

 だからせいぜい大切にしないとね。今日は一緒に抱いて寝よう。そんなことを考えながら、『虹の卵』をベッドに据えて毛布をかぶせたときである。

 

 ドンドン、ドン!

 唐突に、部屋のドアを叩く音がした。

 

 いけない、誰か来た。それもこんな夜遅くに来るなんて、大抵碌な人間じゃない。

 危機を察知したわたしは慌てて灯りを消して居留守を使おうとする。けれど間に合わず、ドンドンとドアを叩く音はより一層激しさを増してゆき、さらには怒鳴り声まで加わってきた。

 

「おいっ、中にいるんだろ、開けろっ!」

 

 ……この声、ジャンの奴だ。きっと昼間の一件を根に持って来たに違いない。

 このまま居留守でやり過ごしてしまおうか、脳裏にそんな考えも()ぎる。

 

「バレバレの居留守なんか使いやがって、明日どうなるかわかってんだろうな、おいっ!?」

 

 とはいえ、今はもう夜である。玄関先でギャンギャン大声をがなり立てられては近所迷惑だ。ともするとせっかく手に入れた寮生活、独り暮らしの部屋を追い出されることになりかねない。それにジャンとはまた明日鉱山で顔を合わせるのだ、ジャンの言うとおり後が面倒かもしれない。

 ドアを殴る音と、喚き散らすジャンの怒鳴り声。わたしは根負けした。

 

「……はいはい、わかった、今開けるから怒鳴らないで」

 

 『虹の卵』を眺めていたときとは違う理由で溜息をつきながら、わたしはドアを開けてジャンを出迎えた。

 

「何の用? もう寝るんだけど」

 

 わたしはジャンに『いいからとっとと帰れ』という意思を、あからさまな態度で見せつけてやったつもりだった。

 

「おし、入るぞ」

「あ、ちょ、ちょっと!」

 

 けれどジャンは気にもせず、制止するわたしを尻目にずかずかと部屋へと上がり込んできた。面の皮が厚いというか、図々しいというか、まったく不愉快な奴である。

 

「ふーん、ここがお前の部屋か……」

 

 部屋に入り込んできたジャンはそう呟きながら、わたしの部屋を興味深そうに見回している。

 如何にも育ちの悪いジャンの不躾さが何とも腹立たしかったが、事を荒立てたくないので敢えて触れず、わたしは本題を促した。

 

「で、何の用なの。単に部屋に押し入っただけなら人を呼ぶわよ」

 

 変態扱いしてみせるわたしの態度に対しジャンは機嫌をすこぶる悪くしたようだったが、「ふん、まあいい」と気を取り直してこう言った。

 

「それより、昼間の話の続きを聞かせろよ」

 

 ……は? 何の??

 そう返してみると、ジャンは憤然としてこう言った。

 

「とぼけんじゃねえ! お前、何か隠しただろうが!」

「だから何の話? 何も隠してなんかないけど?」

 

 わたしは白を切ったのだけれど、ジャンはしつこく食い下がってくる。

 

「と・に・か・く、その隠し物を出せって言ってんだよっ!」

「何を勘違いしてんのか知らないけど、そんなの無いってば! これ以上しつこくすると本当に人を呼ぶわよ!」

「うるせえな、あることないこと言いやがって! ちゃあんと見たんだからな、お前が鉱山の仕事中に『何かキラキラしたもの』を見つけて隠そうとしたのを! それともお前は、このおれさまが嘘をついてるとでも言いたいのか!?」

「別にそうじゃあないけどさあ……」

 

 ……ああ、なんて面倒臭い、しつこい奴。なんでわたしがこんな目に遭わないとならないの。心底うんざりした気分にされ、本当に人を呼んでやろうかと思ったときだった。

 

 わたしの背後から、ぱきっ、という音が響いた。

 

 破裂音が鳴ったのはベッドの方、毛布の下。ひょっとして、まさか。反射的に振り返れば、ベッドで拡がった毛布が独りでに波打っているのが見えた。まるで毛布の下で『何か』がもぞもぞと動いているみたいに。

 

「……おい、なんだ、あれ」

 

 もう駄目だ、誤魔化しきれない。観念したわたしは抜き足でベッドに歩み寄り、恐る恐る毛布をめくってみた。すると、そこにいたのは、

 

「……恐竜か、これ?」

 

 呆気にとられたジャンが呟いたとおり、毛布の下から現れたのは『恐竜図鑑に載ってそうな奇妙な生き物』だった。

 頭から尻尾の先までの大きさはおおよそ30センチ、くすんだ茶色のずんぐりした体に体毛はなく、頭には後ろへ向かって伸びた二本角、さらに背中には(ひれ)とも(ひだ)ともつかない独特な形をした黄色い甲羅がある。

 生まれたばかりで目も開いていない様子のその生き物は、短い手足をばたつかせてミイミイ鳴きながら、その場でもぞもぞと蠢いている。

 ……かわいい。素直にそう思った。

 

「昼間見つけたのって、こいつか? いや、でもこんなのじゃなかったような……」

 

 ベッドを這う生き物を見ながら首を傾げているジャンに、わたしは言う。

 

「『虹の卵』よ、きっと孵ったんだわ」

 

 そう言ってわたしが指差した生き物の足元には、砕けた虹色の破片が無数に散らばっていた。わたしが坑道で掘り出して持ち帰った『虹の卵』、それが孵ったのがこの生き物なのだ。

 わたしの説明に、ジャンは酷く驚いていた。

 

「『虹の卵』って……あの御伽噺のか?」

 

 あ、知ってるんだ。ジャンの奴は無教養そうだから『虹の卵』の御伽噺なんて知らないと思ったのに。

 わたしが密かに驚いていると、ジャンはさらにこう尋ねてきた。

 

「……で、どうすんだこいつ。ここ、たしかペット禁止だろ?」

「あっ」

 

 そういえばそうだった。

 この寮はウラン鉱山で働く労働者向けのアパートで、犬や猫などの動物を持ち込むことは禁止になっている。バレたら寮を追い出される、ともすれば規則違反で『会社』の仕事をクビになってしまう。

 しまったな。『虹の卵』を拾ったのはいいけれど、孵ったときのことは考えてなかった。どうしたものか、首を捻って思案していると、そんなわたしを見ていたジャンが呟いた。

 

「……バカなのか、おまえ」

「ば、ばッ……!?」

 

 馬鹿? わたしが?? 予想外の言葉をぶつけられて戸惑うわたしをよそに、ジャンは呆れた様子でこう言ってきた。

 

「こいつの世話、どうすんだよ。育てられねえじゃん」

「……そうね」

「そうね、って……考えてなかったのか?」

 

 だ、だって! わたしは抗弁した。

 

「本当に孵ると思わなかったんだもの。『虹の卵』の御伽噺でも、まさか本当に孵る卵だなんて聞いてなかったし!」

「卵なんだから孵るのは当たり前だろ」

「ぐ、ぐう、それもそうね……」

 

 ぐうの音も出ない。確かに、ペット禁止のこの寮では飼うことができない。わたしの部屋に置いておくわけにもいかないし、他所に預けるしかないだろう。

 さて、どうしたものかしら……と考えを巡らせていた時である。

 

「うおっほーん!」

 

 やけに大袈裟な咳払いが聞こえたので振り返ると、ジャンの奴がゲホンゲホンとこれまたひどくわざとらしく咳をしていた。……体調でも悪いのだろうか。さっきまではそうは見えなかったけど。

 まあそんなことより『虹の卵』だ。どうしたものか。目の前で咳き込み続けるジャンはさておきこれからの事を考えていると、とうとう痺れを切らしたジャンが口を開いた。

 

「おい! 無視するんじゃあねーよ!」

 

 無視はしていない。相手をする気が無いだけだ。そう思いつつわたしは答えた。

 

「……具合が悪いのなら帰ったら? 明日休むなら『会社』にはわたしから伝えておくけど」

「あ、ありがとよ……って、いや、そうじゃあなくてだな!」

 

 とぼけるわたしに、ジャンはこう言い放つ。

 

「『おれさまを頼る』って選択肢はないのか、って言ってんだ!」

 

 ……はい? 誰が、誰を、頼るって?

 そう聞き返すとジャンは得意気に話を始めた。

 

「おれさまが良い隠し場所を知ってる、そこにコイツを隠して『二人で飼う』のさ。場所(ショバ)代は勘弁しといてやるから、エサ代はそっち持ち、どうだ?」

 

 ジャンの提案に対し、わたしはまたしても思案した。

 ……思ってみなかった話だ。たしかにそれならペット禁止問題は解決するかもしれない。しかもあの守銭奴のジャンが『場所代は勘弁してくれる』、つまり秘密にしてくれるというのだから、渡りに船という奴だろう。

 

 ただ、『ジャンと二人で』というのが問題だ。

 

 正直言って、わたしはこのジャンという男が嫌いである。

 たしかに先述したとおりジャンとわたしは幼馴染であり、そしてお互い他に身寄りの無い孤児仲間だ。付き合いはそれなりに長いし、ここの『会社』がやってる鉱山の仕事を紹介してもらえたのもジャンの縁故なので、本来ならもっと丁重に扱ってやるべき相手なのかもしれない。そう思うからこそ、わたしはこの男のことを上には置かないが下にも置かないよう扱っているつもりである。

 だが、こいつの人間性が気に喰わない。ケチだし、品も素行も良くない。悪い仲間とつるんでいるという噂もある。さらに昼間わたしへ絡んできたときのように、わたし相手だとやたらウエメセの態度で突っ掛かってくるのも癪に障る。

 そんな奴と二人で『動物を育てる』? 嫌だ、勘弁してほしい。第一、話が旨すぎる。ケチで性根の悪いジャンのことだから、何か裏がありそうな気がして信用ならない。

 ……まぁ、かといって。

 

(考えてみても他に良さそうな方法は思い浮かばないのよね)

 

 生き物一匹隠すのに都合の良さそうな場所も思いつかないし、このまま寮で隠して育てるのもいずれバレてしまうだろう。それに、世話をするのだって一人では手が余るかも知れないが、ジャンと二人がかりなら何かと便利だろうとも思う。

 うーん……悩んでいるわたしを尻目に、ジャンは「よし、決まりだな!」と言った。

 

「今夜はとりあえずここに置いとくけど、明日は休みだろ? 隠し場所に案内してやる」

 

 悩むわたしがハイともイイエとも答えないうちに、ジャンは話を進めてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、まだ返事してないでしょ!?」

 

 わたしが慌てて止めようとすると、ジャンは「ふーん、そうか……」と得意気にニヤニヤ笑いを浮かべた。

 

「おれさまは良いんだぜ、お前が呑まなくても。ただその場合、明日の朝に此処へ『会社』の連中が来た時にどう言い訳するか、考える必要があるだろうけどな」

 

 こ、こいつ、大人たちにチクる気かっ……!?

 あまりに卑劣な脅しでわたしは歯噛みするけれど、言っていることはその通りなので何も言い返せない。黙り込むわたしに、ジャンはさらにこう言った。

 

「大丈夫だ、安心しろ。おれさまは口が堅いし寛容だ。今日のことは黙っておいてやるし、日頃の生意気な態度は許してやろう。この取引を呑むなら、の話だがな」

「む、むう……!」

 

 悔しいが、もはや選択の余地はなさそうだ。わたしは降参することにした。

 

「わ、分かった! あんたの言う通りにするから! でも、誰にも言わないでよ?」

「よし、いい心掛けだな!」

 

 日頃逆らってばかりのわたしを言い負かしてやったことでいよいよ機嫌を良くしたのか、ジャンはニンマリと満足げに笑って言った。

 

「ま、おれに任せておけ」

 

 こうしてわたしとジャンは、二人で『虹の卵』から孵った生き物を飼い始めたのだった。

 

◆      ◆      ◆

 

 ジャンに『生き物の隠し場所』として案内されたのは、寮の近くにある廃屋だった。

 屋根と外壁は辛うじて残っているものの、内壁には所々ヒビが入っていて窓もすべて割れている。とても人が棲めそうにない有様だったが、それでも『生き物』を隠しておくだけなら充分過ぎるほどの広さがあるし、雨風もしのげるだろうと思われた。

 ジャンは「ここには前から目を付けてたんだ」と言った。

 

「何年も前からここは空き家になってて誰も使ってない。生き物一匹くらい、隠しておいたってバレやしないだろうさ」

 

 隠れ家が決まってからというもの、わたしとジャンの二人で『虹の卵』から孵った生き物の面倒を見ることになったわけだが、さっそく壁にぶち当たることとなった。

 

「……食べないなあ」

 

 そう、餌を食べないのである。

 この生き物、そもそも何を食べるのかがよくわからない。パンにミルク、野菜にソーセージ、キャットフードも試してみたけれど一向に口をつける気配がない。鋭い歯の形状からすると肉食のようにも見えるのだが、実際にハムやベーコンなどを出してみても見向きもしない。

 

「うーん、肉は嫌いなのかしら……」

 

 かといって餌を食べない生き物なんているわけがない。弱っているようには見えないが、このままにしていてはいずれ飢え死にしてしまうだろう。なんとかしなくては。

 そんなわたしを隣で見ていたジャンがふと「前から思ってたんだけどよ」と口を挟んだ。

 

「こいつ、〈パゴタトータス〉じゃあないか?」

 

 パゴタトータス……ああ、アレか。

 

「ギリシャの哲学者(ソフィスト)のほら……あー違う、電気の要らない扇風機の……あー違う違う、エジプトの人の、ほら……!」

 

 とりあえずうろ覚えで思いつく心当たりを連呼してみたのだけれど、そんなわたしにジャンは呆れた様子で「何言ってやがんだ、原始動物の名前だよ」と言った。

 

「パゴタトータス。大昔の中生代に住んでた地底怪獣の生き残りで、『怪獣黙示録』の最初の頃に北京(ペキン)で見つかった奴だ。たしかウランとか食べて、金色の虹色光線を吐くんだぜ」

「へぇ、ウランをね……」

 

 そんなものを食べる生き物がいるのか。そういえばパゴタトータスが生まれた『虹の卵』はウラン鉱山の中から見つけたものだ。ウランを食べる怪獣だというのなら、確かに筋は通っている。

 

「それにしてもよく知ってるわね、そんなの」

 

 わたしが素直に感心していると、ジャンは急に照れ臭そうに目線を逸らしながら「ま、まあ怪獣図鑑に載ってたのを見ただけだけどな!」と話を続けた。

 

「それに、もしこいつがパゴタトータスだとしたら大発見だぜ。パゴタトータスは『怪獣黙示録』でも何匹か見つかってるけど、子供のパゴタトータスが見つかった例は無いっていうし」

 

 はぁ、そうなんだ。ジャンの意外な博学さにこっそり驚きつつも、一方でだからどーしたという気も湧いてくる。

 何の生き物なのかわかったはいいが、餌は結局どうしたらいいのだろうか。ウランが主食なのだとして、ウランなんてそう容易く用意できるものじゃない。『職場のウラン鉱山からくすねてくる』という選択肢もあるのだろうが、場所が場所だけにその手の不正には厳しく、餌のために毎回持ち出すのはかなり難しい。誰も見向きもしなかった『虹の卵』を運び出したのとはわけが違う。

 わたしが首を捻る中、そのときジャンがこんなことを言い出した。

 

「土とか喰うんじゃないか?」

 

 土? わたしが聞き返すと、ジャンは事も無げに頷いた。

 

「ウランを喰うなら土も喰うんじゃないかって」

「土、っていくらなんでもそんな……」

 

 そう返した一方、そういえば、とわたしはふと思い至る。

 土といえば、このパゴタトータスの居場所はもっぱら隠れ家の中だけで廃屋の外に出してみたことがない。犬や猫でも屋外の散歩は必要だし、この生き物が餌を食べないのもそれと何か関係があるかも知れない。

 

「土を食べるかはともかく、外に出してみる価値はあるかもしれないわね……」

「よし、やってみようぜ」

 

 というわけで早速、『虹の卵』から孵った生き物を屋外へと連れ出してみることにした。人目を避けながら生き物を廃屋から連れ出し、誰もいない空き地で地に下ろしてみる。

 生き物は地面へ口元を近づけて匂いを嗅いだあと、やがてその鋭い牙と前足を器用に使って土をいじり始めた。

 

「穴掘ってる……」

 

 あるいはモグラみたいに土の中で暮らしてる生き物だから、土の中にいるミミズなどを食べるのだろうか。そう思いつつ観察していると、突然生き物が穴を掘るのを止めた。そしてくるりと鼻先を変えて視線の向いた先は、掘り出した土の山。

 ……まさか。

 

「あ、食べた」

「マジかよ……」

 

 もしゃもしゃもそもそと美味しそうに土を頬張っている生き物を見ながら、わたしの隣でジャンが唖然としていた。土を食べるという仮説を最初に言い出したのはジャンだったが、まさか本当にそうなるとはジャン自身思っていなかったようだった。

 

「でもこれで餌の心配はしなくて済みそうだな」

「そうね」

 

 ジャンの言うとおりだ。ウラン鉱山の仕事は給料がそこそこ良いのだが、かといって生活に余裕があるわけでもない。この生き物が土を食べるというのなら餌代も浮くし、世話をするわたしたちが却って助かるというものだ。

 

「あ、そういえば」

 

 餌問題が片付いたところで、わたしはひとつ思い至ったことがあった。

 

「この仔、名前は何にしようかしら」

「名前?」

 

 聞き返したジャンに、わたしは言う。

 

「そう、名前。そういえばつけてなかったなあと思って。ほら、パゴタトータス、だと呼びにくいでしょう?」

「それもそうだな……」

 

 二人でしばらく考えたあと、ジャンが「なら、」と何か思いついたようだった。

 

「〈パゴス〉なんてどうだ?」

「パゴス?」

 

 鸚鵡返しするわたしへ、ジャンは得意気にこう続けた。

 

「パゴタトータスが呼びづらいなら、それを縮めてパゴス。どうだ、カッコよくて良い名前だと思わないか?」

 

 ……パゴス、パゴスかあ。

 うーん、なんか締まらない名前な気もする。そう率直に答えると、ジャンは不服そうに口を尖らせた。

 

「なんだよ、おれの命名に不満なのか?」

「いや、カッコいいのは良いけれど、メスかもしれないし……」

 

 とはいえ他に代案もないし、仮にメスだったとしてもそれはそれで良いようにも思えた。わたしはしばらく考えた末に結論付けた。

 

「……ま、いいんじゃあない、パゴスで」

「だろ!」

 

 わたしの同意を受けて、ジャンは嬉しげに笑った。

 

 

 それから暫くは、何事も無い毎日が続いた。

 『虹の卵』から孵った生き物──〈パゴス〉の面倒を主に見たのはわたしだけれど、わたしが仕事のときはジャンが代わって世話をしてくれた。ウラン鉱山の仕事は日替わりで勤務日がなるべく重ならないように調整し、休みが一緒の時は二人で世話をすることとなった。

 

 パゴスは大人しい性格で、餌の土さえ食べてくれれば廃屋の中をよちよち歩き回っているだけで基本的に手はかからない。ただやはりというべきか、パゴスは土をモリモリ食べる一方で糞もモリモリした。

 元々土だからか殆ど臭わなかったし、ちゃんとトイレトレーニングも出来たのは幸いだが、これだけ量があるとやはり処分に困る。ある程度量が溜まったら、まとめて袋に詰めて捨てに行った。

 

 さらに加えて、パゴスはわたしたちによく懐いた。餌の土をくれるわたしたちのことを親だと認識しているらしく、わたしたちが近づくと猫のように自分から寄ってきて身体を擦り付けてきたり、まるで仔犬のようにトコトコ近付いてきてわたしたちを見上げたり。

 こんな塩梅で特に問題らしい問題は起こさないパゴスだったが、ひとつ気になることがあった。

 

「これってやっぱり土だけじゃダメなんじゃないのかしら。最初孵った時から大きさが変わらないし」

 

 そう言いながら、わたしは膝の上に乗せたパゴスを撫でる。(ヒダ)の連なる背中、ぷにぷにと軟らかくひんやりとしたお腹、なんとも素晴らしい触り心地だ。パゴス自身も気持ちよいのか暴れたりはしないし、なんだかいつまでも触っていられる気がする。

 しかし、育て始めてからしばらく経つのに大きさが全く変わらないのはどういうわけなのだろう。無論厳密に(はか)ったわけじゃないので目に見えない程度には増減しているのかもしれないが、それにしたって姿形が変わらなすぎる気がする。

 わたしの思いつきにジャンも「そうかもなあ」と同意しつつ、続けて言った。

 

「もしくは成長するスピードが遅い生き物なのかもしれないぜ。カメみたいに」

 

 なるほど、もしそうなら心配することは無いわけだ。それにパゴタトータスという生き物がどれくらい大きくなるのかはわからないが、急激に大きくなったりしたらこの廃屋も手狭になってしまうかもしれない。

 わたしがそんなことを考えていると、膝の上のパゴスがのそのそと動き始めた。時計を見れば餌の時間、お腹が空いたサインだろう。

 その兆候に目敏く気付いたジャンは、先回りして餌の土を皿に盛って床に置いた。

 

「ほら、飯だぞ。お食べ」

 

 ジャンから餌を差し出されたパゴスは転がるようにわたしの膝から降り、餌皿のところまで這うとムシャムシャ土を食べ始めた。

 そんなパゴスをジャンは「よしよし」と撫でている。

 

「……ねえ」

「あん、なんだよ?」

 

 振り返ったジャンにわたしは告げる。

 

「アンタって案外面倒見がいいのね」

 

 これは意外な発見だったのだが、ジャンは日頃の素行からは想像もできないほどパゴスの面倒をよく見て、さらに可愛がっていた。わたしより鉱山の仕事のシフトが多くてパゴスと触れ合う時間は短いはずなのだが、ジャンはパゴスの味の好みのようなものまで見抜いた――土は土でも、砂利が多かったりすると嫌がるらしい――し、わたしでさえ当初難色を示したパゴスの糞の世話も進んでしてくれた。

 わたしが感心していると、ジャンは目線を逸らしつつ照れ臭そうに頬を掻いていた。

 

「ま、まーな。動物は好きだし」

「へえ、そうなんだ」

 

 思えばジャンの奴は、子分の悪童たちにもよくよく慕われていた。当初のわたしは単に類は友を呼ぶというか、素行の悪さゆえに屯しているだけなのかと思っていたのだけれど、実はわたしの知らないところで立派な兄貴分として振舞っているのかもしれない。

 

「そういえばパゴスのことも知ってたよね。なんか勉強でもしてるの?」

 

 わたしの質問にジャンが「ああ」と頷く。

 

「いつか〈モナーク〉に入ろうと思ってるんだ」

 

 へえ、凄いじゃん。

 モナーク。たしか国連の偉い専門機関で、怪獣の研究をしていると聞いたことがある。ジャンはそこを目指しているということなのだろうか。

 

「その前に、まずは学校でちゃんと勉強しないとな。そしてそのための学費を貯めるのが今の目標」

 

 なるほど。日頃のジャンは単にケチなのではなく、夢や目標のために貯金していたのだ。そのことを知らないまま偏見の眼差しを向けてしまっていた自分自身を思い出し、わたしは内心で反省した。

 

「そうね、向いてるんじゃない?」

「そ、そうか……?」

「アンタってなんだかんだいって結構優しいところあるしね」

「なっ……!?」

 

 ふふっ。

 途端に顔を真っ赤にして狼惑するジャンに、わたしは思わず吹き出してしまう。そんなわたしを前に照れ隠しなのか、ジャンは乱暴に頭を掻きながら言った。

 

「ち、違うぜ! 別に優しくはないさ、おれはただ……」

 

 ただ? そう聞き返そうとしたのだが、それを遮るようにジャンが「あ、そうだ!」と声を張り上げた。

 

「そういや今日は良いもん拾ったんだ!」

「『良いもん』?」

 

 ちょっと待ってろ、そう言ってジャンが懐から差し出したのは、

 

「竹の花、って……ヤダこれ、不吉な奴じゃん! えんがちょ、えんがちょ!」

 

 竹の花、それもサザメ竹の白い花だ。縁起が悪いものとして知られている。

 わたしが突っ返そうとすると、ジャンは「ちがう、ちがう!」と慌てて首を振った。

 

「ほら『虹の卵』の御伽噺にもあるだろ、『サザメ竹の花と虹の卵を併せてお祈りすれば願いが叶う』って。パゴスと一緒にしたら縁起が良いと思って、摘んできたんだ!」

 

 あー、そういうことか。わたしはようやく納得した。

 見つけた者の願いを叶えてくれるという『虹の卵』だが、実はサザメ竹の白い花と併せるとなおのこと良いと言われているのだ。竹の花だけでは不吉かもしれない、しかし『虹の卵』と併せれば縁起物なのである。

 ……ふふっ。

 

「な、なんだよう。なんか可笑しいか?」

 

 またしても吹き出してしまったわたしを、ジャンは怪訝な顔で睨み返してくる。わたしは答えた。

 

「いやあ、あんたでもそういうことは考えるんだなあ、と思っちゃって。ありがとね……」

 

 そのとき、わたしはふと止まった。

 

「どうした?」

「……!」

 

 突然会話を打ち切ったわたしに不審げなジャンへ、わたしは答えた。

 

「人が来る」

 

 廃屋の外から人が近づいてくる気配がする。小走りの慌ただしい足音、廃屋の玄関まで近づいてきて、そしてわたしたちが応対する間もなくドアが乱暴に開かれた。

 

「ジャンの兄貴ッ!」

 

 現れたのはジャンの子分たちだった。人数は三人、歳の頃はわたしたちより年下で、ウラン鉱山で一緒に働いている子だ。息を切らして駆け込んできた子分たちに対し、ジャンは怒鳴り返す。

 

「ば、ばかやろっ、ここには来るなって言ったろうが!」

「す、すいやせん兄貴!」「お楽しみなのは知ってたんすけどどうしても耳に入れたく」「なにしろ緊急事態なもんで……」

 

 ……ジャンの奴、やけに慌ててるな。子分たちの様子からするとパゴスのことは説明してあるようだが、何か後ろ暗いことでもあったのだろうか。

 そんなわたしの不審を尻目に、ジャンと子分たちは話を続けた。

 

「まあいい、で、緊急事態ってのは?」

「そうそう、大変なんです兄貴!」「『会社』の連中に此処がバレやした!」「じきにここに来ます!」

 

 会社の連中? なんで?? わけもわからないままわたしが動転している中、ジャンは子分に訊ねた。

 

「なんでだ、どうしてここがわかったんだ!?」

 

 ジャンの疑問に子分の一人が答える。

 

「なんでもこの近所で『ホーシャノー』とかいうのが出たらしくて!」

 

 ホーシャノー、放射能のことだろうか。でもなんでそんなものが。

 わたしがわけもわからず首を傾げる一方で、ジャンは何かに気づいたようだった。

 

「放射能、放射能ってまさか、パゴスの『糞』が……!?」

「パゴスの糞……あっ!」

 

 ジャンの指摘でわたしもようやく思い至った。

 わたしたちのパゴスは土を食べているが、本来のパゴタトータスは放射性物質のウランを食べる怪獣だ。糞の処理は袋に詰めて生ゴミとしてゴミ捨て場に出していたが、もしかしてその糞の中に放射能を帯びた物質が混じっていたのかもしれない。

 子分たちの報告はさらに続く。

 

「それで『会社』の連中、ここら辺を一斉にガサ入れしてるらしいっす!」「今はまだ家を一軒一軒虱潰ししてるみたいっすけど、ここに来るのも時間の問題っすよ!」「早く逃げないと!」

「まずいな……」

 

 ……まずい、本当にまずい。

 放射能の糞をする怪獣パゴス、そんなものが見つかったりしたら大騒ぎになる。それを隠して飼っていたわたしたちは『どこでパゴスを手に入れたのか』聞かれるだろうし、そんなことになったら仕事もクビ、あるいは警察沙汰になってしまうかもしれない。

 そして何よりパゴスを取り上げられてしまう。パゴタトータスなんて珍しい生き物、きっと研究材料として解剖されたりしてしまうに違いない。

 

「どうしよう、ジャン……!?」

 

 わたしは、縋るような気持ちでジャンを見た。そんなわたしを見ながらジャンは逡巡し、決断する。

 

「……仕方ねえ、裏口から逃げよう。こんなときのための良い隠れ場所がある」

「わかった!」

 

 ジャンの提案で、パゴスを連れて廃屋から逃げることになったわたしたち。ジャンの子分たち三人は、『会社』の連中が追い付けないように時間稼ぎをしてくれるという。

 

「ありがとね、皆!」

 

 出発の準備を整えながらわたしが礼を言うと、3人の子分はニヤニヤと笑った。

 

「どういたしやして、(あね)さん!」「兄貴のナオ助のためならえんやこらでさ!」「ジャンの兄貴を頼むぜ、姐御!」

「姐さん、ナオ助、姐御……?」

「ばかっ、おめーら余計なこと言うんじゃねえやっ!」

 

 わたしは、子分たちの言った意味がよくわからなかった。それにジャンが顔を真っ赤にしているのも気にはなる。

 だが今ここで詳しく聞き返している余裕は無い、とりあえずこの急場をしのぐのが先決だ。

 かくしてわたしはパゴスをリュックに詰め、ジャンと一緒に隠れ家の廃屋を飛び出した。

 

◆      ◆      ◆

 

 ジャンが案内してくれた隠れ場所は、古い廃坑だった。

 場所はわたしたちが毎日掘っているウラン鉱山の近く、ただしウランは既に掘り尽くされていて今は殆ど人が寄り着かないのだという。

 

「ここは分かれ道も多いし、反対側の出口もある。行方を晦ますにはもってこいだぜ」

 

 そう説明を受けながらやってきたのだが……

 

「でも鍵が掛かってるよ!?」

 

 廃坑の出入り口には頑丈な鉄柵が張り巡らされていた。さらに網戸には、これまた頑丈そうな南京錠が掛かっている。

 

「どうしよう、このままじゃ入れない……」

「いいから慌てなさんな……おい、その頭の髪留めを貸せ。2つともだ」

「髪留め?」

「いいから早く!」

 

 わたしは言われたとおり、髪を止めていた髪留め2つを外してジャンへ渡した。ジャンはその髪留めの針の部分をグネグネと伸ばし、尖った先端を南京錠の鍵穴へ差し込んで弄繰り回す。

 

「……よし、開いた! こっちだ、来い!」

 

 ガチャン、という音と共に南京錠が外れ、ひらいた網戸の奥へわたしたちはその身を滑り込ませる。

 廃坑の中は電気が切られているのか、灯りは点かず真っ暗だった。だけど身を隠すのなら却って好都合だ、リュックにパゴスをおぶったわたしはジャンに手を引かれながら、洞窟の奥へ奥へと進んでゆく。

 しばらく歩くうちに坑道が開け、わたしたちは小さな広場のような空間へ出た。天井も壁もゴツゴツとした石が剥き出しになっているが、どこかに隙間があるのか風が吹き込んでくる。

 

「ここまで来ればまあ、一安心だろ」

 

 そう言って、ジャンは額の汗を拭った。わたしもパゴスをリュックで背負っているうえにずっと走りっぱなし、正直言ってちょっと疲れてしまった。少しだけ休みたい。

 

「そうね、一息入れましょ」

 

 わたしは背負っていたリュックを下ろし、中からパゴスと水筒を取り出した。移動中大人しくしてくれていたパゴスだけど、窮屈なリュックに詰められていたのはやはり嫌だったのか、地面に降ろすと心成しか嬉しそうに身震いしてから土を弄っている。

 水筒から水を注ぎジャンの方へと渡そうとした時、ジャンは何故かわたしのことをじっと見つめていた。

 

「どうしたの?」

 

 わたしが訝しげに訊ねてみても、ジャンは何も答えない。

 

「ちょ、ちょっと、何か言いなさいよ……?」

「…………」

 

 わたしにせっつかれてもジャンは何か迷っているようだったが、やがて意を決したような表情でジャンは「あ、あのさ!」と口を開いた。

 

「こ、こんなときに言うことでもないかもしれないんだけどよ……」

 

 ……ちょっと、まさか。わたしの心臓がドクンと跳ね上がる。

 ジャンの顔が熱いくらい赤くなってるのがはっきりと伝わってくる、暗闇の中でもわかるほどに。

 ……先ほどの子分たちの反応、今にして思えば親切でもあった日頃のジャンの振る舞い。すべてがようやく繋がってゆくうちに、わたしも全身がぽかぽかと熱くなってきた。きっと今鏡を見たら、わたしの顔もジャンと同じく真っ赤になっているに違いない。

 まさか、まさか、ひょっとして。

 

「おれ、おまえのことが……っ!」

 

 だけどその続きを聞くことは叶わなかった。

 

「ジャン、誰か来るよ!?」

 

 不意に差し込んできた懐中電灯の光と足音。光に目が眩みそうになりながら振り返ると、廃坑の入口の方から大人の人影が見えた。人数は一人、間違いない、『会社』の連中だ。

 

「まずいっ……!」

 

 ジャンは舌打ちしながら、パゴスを抱いたわたしの手を引いて坑道のより奥、反対側の出口へ向かって駆け出した。だが、反対側の出口まで距離はまだまだある。

 しかもわたしたちが移動し始めたとき物音を立ててしまったのか、追手側にも感づかれてしまった。

 

「おいっ、待てっ!」

 

 坑道を逃げるわたしたちと、それを追う『会社』の男。必死の逃亡劇だったが、数分程度の追い駆けっこにしかならなかった。

 

「ちきしょう、行き止まりだっ、道を間違えたっ!」

「そ、そんな……!」

 

 ジャンの言う通り、わたしたちの目の前では岩肌がむき出しになった岩壁が無慈悲に立ちはだかっていた。

 そして近づいてくる足音。わたしが後ろへ振り返ると、『会社』の追手がすぐそこまで迫ってきていた。『会社』の男は、わたしたちを懐中電灯のライトで照らしている。

 万事休す、もはや何も出来ないわたしが怯えて縮こまったときである。

 ジャンが急にわたしの前へと飛び出し、『会社』の男へと掴みかかった。

 

「こんにゃろおおお!!」

「な、何をするんだこのガキ!」

 

 突然のことに『会社』の男は虚を突かれたようだった。ジャンはその隙を逃さず『会社』の男へ体当たりを食らわせながら、わたしへ言った。

 

「おい、今のうちに逃げろッ!」

 

 で、でもそれだとジャンが……。

 咄嗟のことで尻込みするわたしに、ジャンはさらに怒鳴る。

 

「いいからさっさと行け! 捕まっちまうぞ、早く!!」

 

 ジャンにそう言われて、わたしはようやく我に返った。

 ……そうだ、ジャンの言うとおりだ。このままここに居ても意味はない。それに、パゴスを守らなきゃ。

 ジャンと『会社』の男が取っ組み合いを繰り広げている隙間をくぐり、わたしは元来た坑道を逆方向へ駆け出した。

 

「こ、こいつ!」

「おっと、おまえの相手はこのおれさまだぜ!」

「このっ、クソガキがッ……!」

 

 背後からはジャンが『会社』の男へ応戦する声が聞こえてくる。だけど振り向かず、ただひたすら前だけを見て走り続けた。

 そしてあと少しで出入り口、というところまで来た時点で、わたしはまたしても立ち止まってしまった。

 そ、そんな……。

 

「やあ、お嬢さん」

 

 そこには『会社』の追手たちが待ち構えていた。人数は十人。その中で高級スーツをまとった男たちが、わたしの腕の中にいるパゴスを見ながら何かを話し込んでいる。

 

「これが熱核エネルギー変換生体器官の……」

「ああそうとも。土塊からもエネルギーを取り出せる熱核エネルギー変換生体器官、それを持つパゴタトータスを解析できれば、開発中の新産業都市のエネルギー問題も解決だ」

「これで我が社も安泰ですね、部長!」

 

 『会社』の連中が話している内容をわたしはよく理解できなかったけれど、とにかくはっきりわかることが一つ。

 ……こいつらはパゴスを狙っている。渡しちゃダメだ。

 パゴスをぎゅっと抱き締めたわたしに、『会社』の連中は気色悪い猫撫声で語りかけてくる。

 

「さあお嬢さん、その生き物をおじさんたちに渡してもらおうか」

「その生き物はねえ、とても危険な生き物、怪獣なんだ。ちゃんとしたところできちんと管理しなくてはいけない。お嬢さんもわかるよね、おじさんたちの言っていることが」

「そうとも、だから、ね?」

 

 い、いやっ!

 反射的に後ずさるわたしに、『会社』の大人たちはなおも迫ってくる。

 

「ほら、わがまま言わないで。大人を困らせちゃあいけないよ」

「大丈夫、怖くはないからね? でないと痛いこともしなくちゃあいけないよ……」

 

 わたしは慌てて引き返そうとしたが、ちょうどそのとき坑道の奥から銃声が響いた。わたしが振り返ると、坑道の向こう側からも大人の人影がこちらに向かってきているのが見える。

 ……まさか。

 

「ちっ、クソガキめ、噛みついてきやがった……!」

 

 奥から現れたのは、先ほどジャンと掴み合いを演じていた『会社』の男だ。だけどジャンはどうなったのだろう。

 

「ジャンは、どうしたの……?」

 

 恐る恐る訊ねると、男はこともなげに応えた。

 

「ああ? 『始末』したよ。まったく手間をかけさせてくれるぜ」

 

 なん、ですって。わたしはその場に崩れ落ちそうになった。ジャンを、どうしたって。

 呆然自失のわたしだったけれど、『会社』の連中はそんなことなど気にもかけていないようだった。『会社』の中で一番偉そうな老齢の男が、部下に言った。

 

「おいおいキミ、むやみやたらに『発砲』するんじゃあないよ。警察を買収しているとはいえ、限度があるんだからな」

「すみません部長、しかしケモノみたいに掛かってきたもんで……」

 

 男の言い訳にもなっていない言い訳を聞きつつ、『部長』の男は呆れ気味に溜息をつく。

 

「まあ、どうせ戸籍もないようなスラムの浮浪児だしな。そういうことなら正当防衛も認められるだろう」

 

 そして『部長』はわたしの方へと向き直って言った。

 

「お嬢さんが素直にその生き物を渡してくれれば、こんな面倒なことにはならずに済んだのになぁ。さあ、その生き物を渡してもらおうか」

 

 さらに『部長』はこう続ける。

 

「さあ、善い子だから早く渡したまえ。さもなくば……」

 

 そう言って『部長』が懐から取り出したのは拳銃だ。突き付けられた凶器を前にわたしは竦み上がり、その反応を見て『部長』は満足げに笑った。

 

「よしよし、善い子だ。最初からそう素直だったら、ボーイフレンドも死なずに済んだろうにねぇ……」

 

 ニタニタと笑いながら、わたしへ迫ってくる『会社』の大人たち。

 

「さあ、おじさんたちにその生き物を渡すんだよ。さあ!」

 

 もうだめ、ここまでだ……。観念して目を瞑ろうとしたときである。

 わたしに抱きかかえられていたパゴスが、わたしの腕の中で暴れ出した。ジャンの死、絶体絶命のピンチ、その最中に突如起こった出来事でわたしは腕を振り解かれてしまう。

 

「ちょ、ちょっと、パゴス……!?」

 

 そして地面へ降り立ったパゴスは、日頃の鈍重さとは比べ物にならないような、目にも留まらぬ俊敏な動きで坑道の奥へと走り去ってゆく。

 

「なっ……!?」

 

 突然の出来事でわたしは勿論、『会社』の連中も、ジャンを殺して戻ってきた男も反応できなかった。

 パゴスは地を滑るように這いながら男たちの足元を潜り抜け、廃坑の暗闇へと姿を消してゆく。

 

「逃げたぞ! 捕まえろ!」

「は、はっ!」

 

 『会社』の連中は『部長』の怒鳴り声で我に返り、慌てて坑道の奥へと戻ってゆく。

 

「ちっ、怪獣め! こうなったらお前だけでも連れて帰るぞ! 来い!」

 

 『部長』は苛立たしげに叫びながら銃を構え直し、わたしの襟首を掴もうとする。パゴスを逃がしたものの、わたしのことを見逃してくれるつもりはないようだった。

 

「い、いやっ! はなしてっ!!」

「うるさい、大人しくしろっ!……ぐっ、このガキ、なんて力だ……」

 

 わたしも必死に抵抗するけれど、大柄な大人の力に敵うはずがない。それでもわたしが渾身の力で藻掻いた、まさにそのときだった。

 

 

 ぎゃおーん、ぐおーん……!

 

 

 聴こえてきたのは、この世のものと思えない凄まじい雄叫び。

 

『な、なんだ……ぎゃあ!』

『こいついきなりデカくなって……うわッ!』

『よせ、やめろ、はなせ……うぎゃあああああ!』

 

 それに続いて響いたのは銃声、そして男たちの悲鳴。いずれも坑道の奥からだ。

 

「なんだ、いったい……?」

 

 奥で何が起こっているのだろう。入口にいるわたしたちは廃坑の中、その暗闇の奥深くを見通そうと目を凝らした。

 

 

 ぎゃおーん、ぐおーん……!

 

 

 再び轟く咆哮。しかも今度はより近く、さらに加えてドシンドシンと大地を揺らす足音まで伴っている。

 奥でいったい、何が? わたしたちが固唾を呑んで見守るなか、坑道の闇の中から姿を現したのは……

 

「ぱ、パゴタトータス……!?」

 

 『部長』が呟いた通り、それはパゴタトータス、つまりパゴスだった。

 ただし大きさが圧倒的に違う。先ほどまではわたしでも抱きかかえられる大きさだったというのに、今は顔だけでも数メートルはある。まさに怪獣サイズだ。

 

「まさか、ウランを……!?」

 

 『部長』が呆然と呟いたとおり、あるいは鉱山の奥に残っていたウラン鉱を食べてパワーアップしたのかもしれない。

 とにかく桁違いに巨大化したパゴスは、坑道を突き崩しながら明るい出口、すなわちわたしたちの方へと這い進んできた。

 

「ひ、ひえぇっ!?」

 

 先ほどはわたしを脅しつけた『会社』の『部長』だけれど、今度は『部長』が脅かされる番だった。

 その怯んだ隙を突き、わたしは掴まれた腕を振り解く。わたしから突き飛ばされた拍子に、『部長』はその場で引っ繰り返ってしまった。

 

「ま、待って、待ってくれ……!」

 

 周りの部下たちは先ほどパゴスの雄叫びが聞こえた時点で逃げ出してしまい、今や『部長』は一人きりだ。腰を抜かして動けない様子の『部長』、その頭上から超巨大化したパゴスの前足が踏み込まれる。

 

「よ、よせ、やめ……ぎゃあっ!!」

 

 ぐちゃ、という音と共に『部長』は踏み潰されてしまった。

 わたしもだ、早く逃げないと潰されてしまう。背後に迫るパゴスに追われながら、わたしは明るい出口を目指して懸命に走った。

 しかし間に合わない。

 

「ぐっ!?」

 

 超巨大化したパゴスによる落盤、その落石に巻き込まれ、わたしは頭をしたたかに打ち、さらに岩と岩の隙間へと転げ落ちた。

 頭からの出血で視界が赤く染まり、手足に力が入らず立ち上がれない。わたしはその場へ倒れ込んでしまった。

 

「パゴ、ス……!」

 

 ぎゃおーん、ぐおーん。

 意識が薄れゆく中でわたしが最後に耳にしたもの。それは、獰猛な本能に目覚めた地底怪獣パゴスの雄叫びであった。

 

◆      ◆      ◆

 

 その後の話。

 全長100メートルにまで巨大化したパゴスは数日にわたって暴れ続け、国防軍はおろか国連対怪獣特務機関モナーク、さらにはその直属の実働部隊まで出撃する騒ぎになったらしい。取り込んだウラン鉱のエネルギーによる影響か、かつてわたしが面倒を見ていた頃からは想像もつかないほどに凶暴化したパゴスは、『会社』で建設中だった新産業都市のネオウランプラズマエネルギー発電所を踏み潰し、ついには国中を大停電にしてしまったそうである。

 だけど、そんなパゴスにいつまでも好き放題させておくほど、この国の大人たちは間抜けでも御人好しでもなかった。モナークを交えた協議の末、大人たちは対パゴス撃退作戦を実施。パゴスのような放射性物質を食べる怪獣用に開発された新兵器:ネオニュートロン凍結ミサイルを撃ち込み、見事パゴスを討伐することに成功した。

 

 ……という顛末を、わたしは後になって聞かされた。

 パゴスが巨大化したあとのこと、ひいてはパゴスが倒された場面をわたしは直接見ていない。なぜならわたしは、パゴスが破壊したウラン鉱山の落盤に巻き込まれて生き埋めにされた上に、助け出されたあともずっと病院で意識不明のまま寝込んでいたからである。

 意識を取り戻したあとパゴスの末路を知らされたわたしは、引き留める大人たちを振り切り病院を抜け出して、大地に横たわるパゴスの前へと辿り着いた。

 そしてパゴスの成れの果てを見たとき、わたしはその場で立ち尽くしてしまった。

 

「そ、そんな……」

 

 瓦礫の山の中心で身を横たえている、全長100メートルの巨大怪獣。

 わたしがかつて可愛がっていた、軟らかいぷにぷにの身体をした小さな生き物:パゴスはもういない。ここにあるのは、彫刻のなり損ないみたいに石化して崩れ落ちた地底怪獣:パゴスの亡骸だ。

 

「パゴス……」

 

 かつてのようにわたしは名前を呼んでみたけれど、パゴスからの返事はなかった。当然だ。だってもうパゴスは死んでいるのだから。

 

「……ごめんね、パゴス。あなたのこと守ってあげられなかった」

 

 いまさら謝ったところで最早どうにもならない。そんなことはわたしだってわかっている。

 けれど、それでもわたしは謝罪を口にせずにはいられなかった。わたしがもっとしっかりしていれば、パゴスやジャンと一緒に逃げ切れてこんな結末にはならなかったのかもしれない。あるいはそもそも虹の卵なんて掘り出さず、地下深くの奥でそっと眠らせておいてあげた方がパゴスにとっては幸せだったかも。パゴスの最期に立ち会えなかったこと、そしてこんな結末になってしまったことに対する罪悪感と無力感が、わたしの中で渦巻いていた。

 そこへ、わたしを制止しようとしていた大人たちがようやく追いついてきた。

 

「ちょっと、そこのあなた!」

 

 大人たちのうちのオレンジの制服を着たお姉さん――あとで知ったのだが、彼女はモナーク配下の特殊部隊である科学特捜隊、いわゆる〈科特隊〉の人だったらしい――は、駆け寄りながらわたしに言った。

 

「ダメよ、こんな近くにいたら! この怪獣は放射能があるから、傍にいたら危ないわ!」

 

 そうやってお姉さんはわたしをこの場から引き離そうと肩を掴んできたけれど、わたしはその場から離れようとはしなかった。放射能、危険、そんなのわたしの知ったことじゃない。とにかく今はそっとしておいてほしい。

 石化して死んだパゴスと、そんなパゴスをじっと見つめたまま動こうともしないわたし。その両者を見比べていたお姉さんは、次第にその顔つきが変わっていった。

 

「まさか、怪獣の第一発見者の少女って……?」

 

 お姉さんの質問に対しわたしは答えなかったのだけれど、そんな反応でもお姉さんはある程度事情を察してくれたようだった。

 お姉さんは膝を屈めてわたしと目線を合わせると、わたしのおでこを優しく撫でながら言った。

 

「……大丈夫、悪い大人たちはもういない。裏で糸を引いていた人たちもきっと罰が下ることになるでしょう。わたしたちがきっと仇を獲ってみせるから、あなたの友達のことも、そして〈この仔〉のことも」

 

 目に見えて落ち込んでいるわたしを、そうやって元気付けようとしてくれるお姉さん。この人は『会社』の連中とは違う、きっと善い人だ。そのことはわたしでもすぐにわかった。

 だけどそんなの、関係ない。

 わたしは友達を、ジャンを、そしてパゴスを殺されてしまった。せっかく仲良くなれたジャンも、そんな彼との縁を取り繋いでくれたパゴスも、もうこの世にはいない。せっかく『友達が欲しい』と虹の卵に願ったのに、またしてもわたしは独りぼっちになってしまった。

 そのことを思うと、なんだかわたしは胸がいっぱいになってきて、遂にはぽろぽろと目から熱いものがこぼれてきた。止め処なく溢れる涙、止めたくても自分では止められない。

 

「ぐすっ、ひぐっ、うっ……!」

 

 堪え切れない嗚咽を漏らしながら、わたしは泣いた。声を上げて泣き喚くのではない、ただ静かに涙を流し続けた。悲しみに押し潰されそうになる自分を必死に抑え込むので精いっぱいだ。

 そんなわたしを見た科特隊の人たちはもはや何も言わず、ただ黙って隣で見守ってくれていた。

 

 

 

 それからわたしは紆余曲折を経て孤児院へ入所、そこからさらに奨学金を貰って学校に行った。

 なりたいと決めた目標は、お世話になった科特隊のお姉さんたち、そしてかつてジャンが目指したような『モナークの職員』だ。怪獣のことをもっと知りたい、学びたい。もう二度とパゴスのような可哀想な怪獣を出さないために。

 そして猛勉強を重ねたわたしは念願通りモナークへ就職。さらにちょっぴり勢い余ってパゴスおよびその近縁にあたる地底怪獣たち*1に関する研究の第一人者として名を馳せることになるのだけれど、それはまだまだずっと遠い未来の話である。

*1
のちに発見されたゴロモス、ネロンガ、マグラー、ガボラ、ゲロンガなどのこと。また系統の分析から、これらの原種となる未知の地底怪獣(バラゴン)の存在も示唆されており、今後の研究が()たれている。




ウラン鉱山の描写が合ってるのかって?知らん!!!!!!!!!!!!!

次はどの怪獣の話が読みたい?

  • カネゴン
  • ケムール人
  • バルタン星人
  • ジャミラ
  • メトロン星人
  • チタノザウルス
  • バトラ
  • オルガ
  • モスラ
  • メカゴジラ=シティ
  • ミャクミャク(いのちの輝き)
  • 大魔神
  • ゼノモーフ
  • プレデター
  • モグワイ

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