トガヒミコが××を好きになるまでの物語   作:白虎しゃも

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No.8 ホップ・ステップ・スプリング

 春は出会いと別れの季節です。

 進学や進級によって、新しい学校やクラスへ進み、新しい人々と出会います。それは同時に冬まで一緒だった人々とのお別れを意味するのです。決して、入学初日にクラスメイトが除籍処分によってお別れとなることではないのです。

 個性把握テストで最下位の生徒は除籍処分とする。発破をかけるための言葉かと思えば本気で除籍にしましたからね、担任の相澤先生。

 

「やりやがった!! マジかよあの野郎ッ」

「こんの頭イカレイザーヘッド!」

「頭とヘッドで被ってるぞ」

「くっ……おのれイカレイザーヘッド!」

「そこ気にする?」

 

 なんて、クラスの皆が騒げるようになったのはしばらく経ってからで、それまでのクラスのお通夜っぷりと言ったらもう……はい。

 かくいう私もこれからの学校生活に対する不安半分、燈矢くんに対する煽り半分で、除籍処分乱発する先生がいるのに燈矢くんよく卒業できましたねぇ、みたいなことを言ってみたのです。そのときの燈矢くんの反応がこちらです。

 

「なんだそれ……知らねェ……怖……」

 

 どうやら相澤先生は燈矢くんが卒業してから着任したようです。時代の流れというものでしょうか。燈矢くんがドン引きするような時代の到来です、もう乾いた笑いしか出ないのです。

 とはいえ、除籍処分を受けた子が復籍して、また他の子も除籍からの復籍となっているあたり、なんとなく相澤先生の考えていることが分かるような気がします。謹慎処分とか停学処分とか……ご存知ないので? という気持ちもありますが、そもそも注意感覚で処分を連発しないでください。一ヶ月経たないうちに除籍処分二人ってどういうことですか。

 ともあれ、ともあれ、です。このまま行けば雄英体育祭に1-Aが二十人全員で参加できるわけです。表情から感情の読み取りにくい人ですが、トガは相澤先生がそんなに悪い人ではないと思うのです。

 

「雄英体育祭が来るぞ」

「うおおおおおお!!」

「不甲斐ない結果を残した奴がどうなるのかは、言わなくても分かるな?」

「うおおぉぉぉ……」

 

 悪い人ではない、はずです。たぶん!

 

「見込みなしと判断したやつが、見込めるくらいになったから戻した。馬鹿やったやつも……まぁ、矯正したから戻した」

 

 馬鹿やったやつ、というのは個性把握テストの除籍処分はおかしいって除籍になった子を小脇に抱えて相澤先生を闇討ちしにいった子のことです。その前に一応直談判もしたそうなのですが、えーと、ここってヒーロー科であってますよね?

 

「んで、そろそろ除籍処分になっても復籍できるならと、お前らの気が緩んできているんじゃないかって心配しているんだ」

 

 ニィ、と口元を歪めて相澤先生が続けます。

 

「復籍させない、という選択肢も当然取る。嘘だと思うか?」

(思えない!!)

 

 クラスの心が一つになりました。いえ、どうでしょう。一つ前の席に座っているあーちゃんは何も考えていない気がします。考えていないというか、そうなんだ! へー! のような。

 私はあーちゃんほど無反発でいられません。しかし、だからといってシャカリキになれるほどのやる気もなく。除籍にならないようそれなりに頑張りますかぁ、といったところです。

 

「つーわけで、渡我」

「はい?」

「お前は俺から追加の指導も受けてんだ。予選落ちでもしたら容赦なく除籍するからな」

「はい!?」

 

 そして最後に爆弾を落とされて、帰りのHRが終わりました。

 

 まずは愚痴を吐かせてください。

 相澤先生から受けている追加の指導というのは捕縛布の使い方についてです。体育祭は公平を期すためヒーロー科のサポートアイテムの使用は禁止されています。当然、捕縛布も使えません。ですが、そんなことはお構いなしに予選落ちは除籍とのこと。

 ……実に理不尽です!

 

「断固抗議してきました!」

「おかえり、どうやった?」

「駄目だったよ。取り付く島もなかったねー」

 

 放課後になって、相澤先生を追いかけるように職員室へ行って抗議しましたが、あーちゃんの言うように全く相手にされませんでした。おのれイカレイザーヘッド。

 教室で待っていてくれた真綿ちゃんは困ったような、やっぱりそっかーというような風に眉を下げました。真綿ちゃんはクラスメイトかつトガ達と同じ下宿組です。というか、お隣さんです。新生活にあたって色々と相談したりして仲良くなりました。穏やかで優しい彼女に甘えるように、相澤先生への不平を滔々と述べようとしたとき、視界の端に不穏なものが映りました。

 

「あーちゃん、何してるんです?」

「え? 闇討ちの準備!」

「はいステイ、この話はおしまいです。トガは納得しましたからその血液パックは仕舞ってください」

「はーい」

 

 というか緊急時に備えて集めている血液を日常で使おうとしない。あーちゃんの持っている血液パックは医療用ではなくヒーロー用のサポートアイテムです。

 ヒーローは公に“個性”の使用を認められているため、“個性(正義の力)”を生かすノウハウが、ヒーローの卵を育てる雄英には詰まっています。これまで刃物などで自傷して“個性”を発動していたあーちゃんも、ヒーローコスチュームに組み込まれた特別な針と布で、大きな自傷をすることなく自分の血を循環出来るようになりました。毛細管現象がどうとか詳しい仕組みも説明書に書いてありましたが割愛します。見た目だけ言うとなんとなく忍者っぽいです。

 私のヒーローコスチュームは天狗と巫女を足して二で割ったような感じです。狐のお面もついています。ゆったりとしてカァイイもの、あと顔を隠せるお面もつけてください、とリクエストしたらそうなりました。カァイイはもちろん趣味ですが、ゆったりは『変身』しやすさの他に、近接戦闘におけるリーチを相手に把握させにくくする効果も期待しています。

 そうです、戦闘です。ちょっと話題がそれましたが、全ての原因はヒーローに戦闘行為が求められていることにあります。そうでなければ、クラスメイトの闇討ち(白昼堂々)を撃退する相澤先生を見かけて、捕縛布に興味を持って、スマホで動画を探してなかなか出てこない中で見つけた『苦労マン観察日記』という動画において戦闘するイレイザーヘッドの姿に、これなら隠れるか『変身』するかして奇襲する戦闘スタイルになるはずの私と相性いいなぁ、と思って教えを請いに行く、なんてことはなかったのです。

 愚痴のついでに愚痴を重ねるなら、ヒーロー基本三項の一つ、『撃退』にもにょもにょします。『撃退』とは撃ち退けること。前置きとして、これは私の勝手なイメージです。多くはもっとシンプルな二項対立かもしれません。しかしどうにも、外からやってきた敵をヒーローがやっつけて大団円という構図に違和感があります。世界の内側には彼らにとってのヒーローと善良な市民だけがいて、彼らにとってのヒーローと善良な市民以外は排除されて、敵と呼ばれる。彼らが内側に入るための手段は暴力しかない、そんなイメージです。

 なので、敵にならざるをえなかった、排除されてしまった人たちに、居場所はちゃんとある、と手を差し伸べたいのです。いえ、ツッコミどころがたくさんあるのは百も承知しています。イメージです、イメージ。理想ともいいます。

 理想ばっかり語っていても仕方ありません。そもそも理想として成立しているのかをよくよく考えるべきです。ですから、これは一旦しまいましょう、心の奥底に。そして、まずは『普通』のヒーローになれるよう、努力しましょう。

 

 それが正しい、はずです。

 そうすべきだ、と思うのです。

 ……本当に?

 

 自分の考えていること、思っていることを言葉にするというのは難しいです。どうにも遠回りな言い方や仕草で察してほしくなっちゃいます。その結果があーちゃんの右斜め上三回転アクセルというくらい頓珍漢な行動になることが多いので、なるべく素直な言動を取ろうと心掛けてはいるのですけど。

 つまり、なんでしょう、このもにょもにょとした気持ちを素直に言葉にするならば――

 

 私なんか、なりたいものに、なれないよ。

 

 ……そうですねぇ。まぁ、そうなのです。『普通』になりたい、という気持ちは未だに燻っています。だって、内側にいるのなら、『普通』でいなくちゃいけない。けど、本当にそうなのかな? あーちゃんが、仁くんが、マグ姉が、受け入れてくれたから、私は私のままでいられて、だから、必要なのは居場所で。でも、お父さんとお母さんにとって、そして世間一般の多くの人にとって私のままの私が酷く受け入れがたい、というのもまた純然たる事実なのです。いつだって私は、なりたいものになろうともしていないのです。いいえ、違います。私はいつだって、なれもしないものになりたがっているのです。

 

「被身子ちゃん、ばり落ち込んどーね……」

「どうしよう、やっぱりイレ先のこと処す? 処す?」

「やめんしゃい」

 

 真綿ちゃんが軽く、あーちゃんの頭をチョップしました。

 

 切り替えていきます。

 トガは物心ついたときからずっと自己嫌悪を抱えているので、付き合い方は心得ています。ずばり、考えないことです。考えないといけない問題は目を背けて先送り。手を動かせばいいことだけに集中するのです。それが前は受験勉強で、今はヒーローになるための訓練というだけです。いかがでしょうか、この方法。これで十年以上自己嫌悪を抱えたままなので参考にしないほうがいいと思います。

 はてさて、雄英体育祭当日。選手入場は目立たないように隠れつつ、選手宣誓は適当に聞き流して、ステージ上で司会進行をしている13号先生を見上げます。

 

「では早速、第一種目にいきましょう。第一種目はこちら!」

 

 スクリーンの中央に『玉入れ』という文字が大きく表示されます。小学校で行われる個性禁止の運動会でやったことがあります。棒の先についた籠へお手玉みたいな玉を投げ入れる競技。しかし、そんな玉入れのイメージはボウリング玉くらいのボールを配られた時点で壊されました。

 

「皆さん、ボールは行き渡りましたか? 配られたボールが籠に入った人からクリアとなります。なお、誰が入れたかではなく誰のボールが入ったかによって判定されますから、気をつけてくださいね」

 

 球体のロボットのようなボールには液晶部分があり、クラスと出席番号に名前がピコピコ表示されています。ただ、見た目よりも軽いので動き回るにしても負担にはならないでしょう。普通に取り回しで邪魔ではありますが。

 

「そして、籠は一定の数存在しますが、ボールが入った時点でその籠は使用できなくなります。使用できる籠が無くなった時点で競技終了です」

 

 スクリーンが切り替わり、大きな木にまるで果実のようにぶら下げられた籠が映ります。木をよくよく見てみると登りやすいように段差などがつけられていました。これなら個性がなくとも登っていけそうです。

 

「でっけー……木? なんで木?」

「13号先生の趣味じゃね、屋久杉に似てるし」

「スクリーンの右下に『私が作りました』ってシンリンカムイの顔写真が出てるのウケる」

「枝葉が邪魔で籠の全体数が分かんねぇな……」

「ルール説明は以上です。各自、スタート地点まで移動してください!」

 

 案内されたスタート地点に立ち、周囲を見回します。スタジアムの中心に大木、それをグルリと取り囲むようにスタートラインが引かれていました。

 

「それでは、よーい……スタート!!」

 

 合図とともに一斉に駆け出します。当然のような選手同士の妨害を潜り抜け、大木に辿り着くと大抵がそのまま登り始めました。私も階段状の幹を踏んで登っていきます。すると、下から大きな声が聞こえました。

 

「フハハハハ! これは玉入れである! 玉入れと言ったら玉を投げ入れると決まっておろう!!」

 

 不遜な態度で笑みを浮かべた彼は、ボールを籠へ向けて構えます。

 

「うぉりゃあああああ!!」

 

 叫び声とともにボールが飛びました。彼の両手とともに。えっと、“個性”『ロケットパンチ』といったところでしょうか、投げ入れる……投げ入れるとは一体(哲学)

 あと、飛行型ロボットがぺしっとボールを叩き落としました。

 

「くそぉぉぉおおお!!」

「ロボの妨害もあるのか!」

「ホームランされなかっただけ温情だな」

 

 走ってボールと両手を回収しに行く彼の背中を見送ります。そのまま地上に残って“個性”でボールを遠隔操作する人もいれば、木登りに切り替える人もいました。

 

「はぁ!? おい、誰か落ちたぞ!?」

「いや、飛び降りたみたいだ。何か策があってのことだろう」

 

 そして、木から飛び降りる人もいます。飛行型ロボットに向かってジャンプして、ボールみたいにぺしっと叩き落されました。

 

「顔面から地面に落ちたぞォ!?」

「何か策が……あるんだよな……?」

 

 グシャ、ゴロゴロと地面に落ちて転がっている人がいます。というか、あーちゃんです。打撲と擦り傷で全身血みどろになってカァイイにはカァイイんですけど、選手も観客も困惑しています。あーちゃんの“個性”を知っている人はやりたいことを察しながらも引いています。

 

「これでヨシ!」

「いいのか!? なァいいのか!?」

「フッ、やはり策士か……」

 

 手っ取り早く血みどろになるために殴られてきた! というのが策であるならあーちゃんは策士なのでしょう。ちなみに入試のときの台詞です。

 そうこうしているうちに、先頭集団は頂上近くまで辿り着いていました。闇討ちくんが元気よく籠へダンクシュートを決めています。

 

「一着もらったぁ!!」

 

 そういえば闇討ちくんの本名、なんでしたっけ。

 

「はっはー、どうだ!!」

『B組の換替が一位突破だ! よくやった!!』

「誰そいつぅ!?」

 

 実況解説かつB組担任ブラドキング先生による偏向報道、というわけではなさそうです。膝をつく闇討ちくんにボールを手渡している子がいました。

 

「あんさん、ボールはきちんと確認しとき〜」

「あっれぇ!? 俺のボール!?」

 

 ボールをすり替えていたようです。“個性”って色んなことができますねぇ。

 真綿ちゃんが『ふわふわ』を足場にして、ボールを籠に入れているのを眺めつつ、周りの人の視線、表情、それから周囲の物音で大体の籠の数を推測します。うーん、何もしなくとも大丈夫そうですね。目立たないことを優先しましょう。

 実際、そこまで打つ手があるわけでもないのです。あーちゃんになって自傷して身体能力をあげるにしても『変身』を解くと怪我だけが残ります。リカバリーガールがいるとはいえ体力は残しておきたいです。マグ姉や仁くんの“個性”を使うのも消費が激しすぎるので奥の手としてとっておきたいですし、燈矢くんや焦凍くんの“個性”はそもそも使えません。燈矢くんはともかく、焦凍くんはなんででしょう。弟みたいでカァイイと思っているのですが。んー、不思議です。

 首を傾げながら、枝葉に隠れて人目につかない場所に吊るされていた籠へボールを入れました。そして、枝の先に吊るされている籠へボールを入れた勢いで落ちていったあーちゃんを真綿ちゃんが『ふわふわ』で助けていました。

 

 第一種目が終わり、何はともあれあーちゃんを救護室に連れていきます。学年ごとにスタジアムが分かれていますが、リカバリーガールのいる救護室はスタジアム同士の中心にあります。

 

「元気いっぱいなのにねー」

「競技開始前に“個性”発動してたらダメですからね、念入りに止血するみたいですよ」

「あ、だからヒミちゃんの左腕戻してたんだ」

「えぇ」

 

 雑談をしながら歩いていると、廊下の先から話し声が聞こえてきました。

 

「ギリギリちんちん見えないように努めたけど、見えちゃったかな!? 全国中継されちゃったかなー!?」

「それも重大な事案だが……頭を打ったんだ、安静にしたほうがいい」

「アハハ! まぁ顔面ぶつけたよね! でも鼻血くらいだし、それも止まったし、そんなに心配しなくてもダイジョーブ!!」

「また鼻血出てるぞ」

「あらら、油断してたよね!」

 

 会話していた人たちと、ちょうど曲がり角で顔を合わせます。よそ見をしていたあーちゃんが、そのまま金髪の男子生徒とぶつかりました。

 

「わっ」

「おっと、ごめ」

 

 瞬間、あーちゃんが床へ沈み込んでいきました。え、と思う間もなく、沈み込んだあーちゃんが弾かれるように跳ね、金髪の男子生徒の顎あたりに盛大な頭突きを食らわせました。

 

「わぁー!?」

「ワァー!?」

 

 バタリ、と倒れこむ二人に駆け寄ります。

 

「あーちゃん!?」

「ミリオ!?」

 

 黒髪の男子生徒もこちらへやってきます。咄嗟に体操着の上着を脱いで投げつけました。何故か服が脱げ落ちてあーちゃんが全裸になっていたからです。いや、なんでですか!

 

「そこの人! 後ろを向いてリカバリーガールを呼びに行ってください。こちらを見たら刺します」

「な、何を……いや分かった。呼んでくる」

 

 くるりと振り返って走り去っていく後ろ姿を見送り、あーちゃんを抱き起こして手早く体操着を着せていきます。金髪の人もあーちゃんも目を回していました。周囲に人影がないのは不幸中の幸いです。

 

「それにしても、さっきのは……」

 

 金髪の人、どこかで見たことがあると思ったら、去年の雄英体育祭で全裸になっていた人です。いえ、より正確に言うと、服が身体をすり抜けていた人です。さっきの会話からして今年もやらかしたのでしょうか……?

 となると、私の『変身』と同じく、あーちゃんも『被血』で他の人の“個性”を使える? いえ使うというより強制発動のように見えました。

 

「……不安です」

 

 “個性”ってどうしてこうも難儀なんでしょう?




THE・補足
 現時点の朱紅が緑谷くんやオールマイトの血を浴びたら爆発四散します。あとミリオ先輩の血をもっと大量に浴びると息が出来なくて死にます。ついでに燈矢兄ちゃんの血だと焼死します。
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