トガヒミコが××を好きになるまでの物語   作:白虎しゃも

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アンケートご協力ありがとうございます。
執筆の参考にいたします。

※名前有りオリジナルキャラが出てきます。
※性転換・幼児化・動物化有ります。


箸休『トガヒミコ七変化』

 相澤消太は溜息を吐いた。

 

 手元には、除籍通告を叩きつけた生徒二人分の資料が置いてある。朱紅藍と渡我被身子、入学前から何かと話題になっていた二人だ。

 

『ホゥ、この二人、血液に関する“個性”か。ブラドキングの名に恥じぬよう導かなくてはな!』

『よろしく頼むよ! あっでもその二人はA組なのさ!』

『なんですとぉ!? 何故です校長!!』

『長期の“個性”カウンセリング、ですか』

『そう、過去に類を見ない長期間にも関わらず、医療機関から提供された資料は最低限もいいところなんだ』

『それは、“個性”に何か欠陥が?』

『入試では問題なく……いや、ナイフでの自傷も自分から仮想敵に殴られに行ったのもビックリしたけど……扱えていたからね。杞憂ならそれでいいのさ、でも何かあったときには』

『“個性”を消せる自分が適任ですね』

 

 当時の会話を思い出し、頭を掻く。二人とも“個性(超常)”ではない部分の個性が問題児だった。特に社交性、不和真綿がいなければあの二人は二人だけの世界で完結していただろう。

 手がかかりそうな生徒だし、実際に手をかけている。自分が正しいと思える方法で、正しいと思える方向へ、導いていくことが教師の仕事だ。

 とはいえ、ここはヒーロー科。いつだって命懸けな職業(ヒーロー)を目指すタマゴの集まりである。そうであれば、孵化して、成長して、羽ばたいていくまでに、命を落とす者もゼロではない。

 『ヒーロー殺し』との戦闘で二人が生き残れたのは偏に運が良かった。なにか一つでも違っていたら二人は――やめよう、過去を省みるのは大事だが、もしものことを漫然と考えるのは非合理極まりない。

 だから未来に目を向けるべきだ。彼女たちが経験を糧にできるようにすることが、自分の役割だ。無免許の“個性”使用の罰として除籍処分を下したが、その他にも手を尽くしている。

 その一つ、ではないのだが、とある筋から横槍が入ったために現れた特別講師(・・・・)を見やる。

 その人物は廊下の窓から部活動をしている生徒たちを見下ろしたかと思うと、急に高笑いし、ますます窓にへばりついた。

 

「嗚呼、素晴らしき! 素晴らしき『可能性』たちよ! もっと我に見せてくれ、その姿を!! 余すところなく!!」

「…………」

 

 本当に大丈夫か、こいつ?

 いやでも、香山先輩も普段こういうところあるし……相澤消太は溜息を飲み込んだ。

 

 

 

 一方その頃、雄英高校の校門前に二人の少女が佇んでいた。

 

「じゅんじょーあいじょーかじょーにいーじょう♪」

「ご機嫌だねぇ」

「えへへ、今日の講習が終わったら復籍だからねー、またヒミちゃんと登校するの楽しみだなぁ」

「どうでしょう、相澤先生が言ってたのは『復籍を考える』であって復籍確定ではないと思いますよ」

「……やっぱり闇討ちすべきじゃない?」

「逆効果だねぇ」

 

 今日は日曜日であり、校舎も周囲も人影は疎らだった。雄英高校の制服を身に纏った少女たちは校門前で立ち止まったまま、そこから足を進めようとしない。それもそのはず。

 

「イレ先まだかなー」

「あーちゃん、あんまり校門に近づくと……」

「ひゃうわぁ!?」

 

 つい先ほど、ガゴガガガ! と鉄の扉が勢い良く降りてくるという事態に陥り、朱紅はキュウリを目撃した猫のように飛び上がり、渡我を庇うように渡我の前へ滑り込んだ。

 

「アイエエエ! 雄英バリア!? ナンデ雄英バリアー!? ボク学生証持ってるよ!?」

「私たち除籍されてますから」

「あ、そっかー」

「わぁ、急に落ち着くねぇ」

 

 というわけで、二人とも手持ち無沙汰に待っている。先生のことだから時間通りに来るだろう、そう思って雑談しながら待っていたが、事前に通告された時間になっても音沙汰無しだった。二人は顔を見合わせて首を傾げる。そのとき、雄英バリアーがサラサラと崩れていった。

 

「まぁぁぁべらぁぁぁす!! 見つけたぞ! 嗚呼、嗚呼、見つけたとも! 『可能性』の塊を!!」

「はいストップ」

「ぐえっ!?」

「器物損壊は困りますよ」

 

 突如として現れた人物は相澤の捕縛布によって捕らえられる。とっさに身構えた少女二人は、ポカンと口を開けている。

 

「……よし、講習を始めるぞ」

「いやいやいや」

「詳しい説明は追ってする」

 

 相澤は来校者用入校証を渡我と朱紅に手渡し、ビタンビタンと暴れる特別講師をズルズルと引きずって校舎へ戻っていく。その背中は少し、煤けていた。

 

 

 

 移動した先はヒーロー関係の授業でよく使っている体育館だ。中にいるのは四人だけなので、いつもよりも一層広く感じる。そのいつもを知らない特別講師が一番はしゃいでいた。

 

「嗚呼、善き哉! 広ければ広いほど! 体育館も『可能性』も!!」

「自己紹介からお願いします」

「おや、これは失礼。相澤教諭、お嬢さん方」

「わぁ、急に落ち着きましたね」

 

 芋虫のような動きをしていた人物が、拘束が解かれ何事もなかったかのように立ち上がる。細いフレームの眼鏡を中指で押し上げ、真っ黒なスーツの上に白衣という格好を簡単に整えた。眼鏡の奥には色違いの瞳が怪しい光を宿しており、黙っていればミステリアス、口を開けばご覧の有様な女性である。

 

「我が名はエイブル。『可能性』を探求する者だ」

「えっと、ヒーローの方ですか?」

「否」

「じゃあヴィラン?」

「おい朱紅」

「フッ、構わない。『可能性』があるのならば追い求めるべきだ。答えは否だがね」

 

 肩をすくめ、懐から取り出した紙切れを二人に手渡す。開いてみれば、ヒーロー科のある高校の名前と合格者数が真っ赤な文字でデカデカと書かれているチラシだった。

 

「我はヒーロー養成塾の講師をしている、現役ヒーロー科のカリキュラムもあるぞ。興味があるのならば是非体験講義に参加するといい」

「はぁ」

「へー」

「実に興味がなさそうだ! いいぞ、貴様らのやる気スイッチを押してみせよう! なればこそ、見せてくれ! 貴様らの『可能性』を!!」

「というわけでエイブル特別講師による講習だ。真面目に受けるように」

「はぁい」

「はーい」

 

 生徒二人のやる気ない声色に、普段なら脅しの一つでも入れるところだが、今回の講師は自分ではなく彼女だ。出しゃばる真似は止めておこう、相澤は自分をそう正当化した。

 

「では早速、刮目せよ! これが貴様の『可能性』だ!」

 

 エイブルは白衣から取り出した伸縮する教鞭を伸ばすと、魔法の杖でも振るうかのように二人へ向けた。瞬間、辺りがピカッと光に満ちる。

 

「いきなり何を……んえ?」

「あれ、制服がズボンに戻ってる?」

 

 渡我が眩しさから閉じた目を開いて声を上げると、いつもより低い自分の声に戸惑いの声が漏れた。そこには、金髪くせっ毛八重歯な少年と赤髪長髪わんこな少年が立っている。

 

「フハハ! 貴様らがもしも男だったら、という『可能性』だな!」

「あ、ホントだ。生えてる」

「あーちゃん、めっ!」

 

 エイブルは愉快そうに笑い、相澤は頭を抱えた。

 

「それでは相澤教諭、リセットを」

「……もう少し細かく指定できませんか」

「危険性のある『可能性』は除いていますよ」

「…………」

 

 指定できないとは言っていない。相澤は胡乱な目をエイブルに向けたが、彼女は気にせず『抹消』で元に戻った二人へ教鞭を振るった。

 

「さぁ次なる『可能性』だ!」

「ちょ、すこしはせつめいを……!」

「ちいさいヒミちゃんだー! なつかしー!」

 

 現れたのはスモック姿の二人。なお、二人が通っていた幼稚園はスモックがなく私服で登園していたため、もしもスモックのある幼稚園に通っていたら、という『可能性』が具現化されている。

 

「か、『可能性』に満ちている……! 素晴らしい……!!」

「はいリセット」

「くっ」

 

 歓喜に震えるエイブルを視界に入れないようにしながら『抹消』した。流石に文句の一つでも言っていいだろうと渡我が口を開こうとしたところ、また辺りがピカッと光る。

 

「わふん! わふん!」

 

 目の前に赤毛のシベリアンハスキーが現れた。頭の中にシベリアイハスキーという単語が浮かぶ。隣を見れば朱紅がトカゲもといトガゲを抱き上げている。性転換や幼児化と違って、二人が変化するのではなく、動物化した二人が新しく具現化されていた。

 

「か、カァイイ……!」

「わーい、ヒミちゃんが増えた!」

「『可能性』の発現方法もまた『可能性』に満ちている!」

 

 これが猫だったら相澤も暫く観察していたかもしれないが、犬と蜥蜴に思い入れもないので、『抹消』しようと動物たちに目を向ける。

 シベリアイハスキーがフンフンとトガゲの匂いを嗅ぎ、ひょいっと咥えあげると、シベリアイハスキーはそのままトガゲをパクっと食べた。

 

「あっ」

「わぁ」

 

 それからどうなったのか、『抹消』で消えてしまったので不明である。

 

「うん、シャリタツとヘイラッシャみたいな関係だったのかもしれない」

「あぁ……仁くんがなんか言ってたねぇ……」

「うんうん、それもまた『可能性』だな!」

 

 笑顔で頷くエイブルだが、ここまで三回ほど発動した“個性”は全て失敗である。事前に今回の講習内容について説明を受けていた相澤はそろそろ我慢の限界を迎えていた。

 

「エイブル特別講師、巻きで」

「こればっかりは“個性”がランダムなのでどうしようもありませんなぁ!! と、言いたいところなのですが……渡我くんの『可能性』に深入りすると不味そうな気配が……こう、何かしらが混線して来そうでな。もう少し条件を厳しくするか」

「最初からやれよ」

「相澤教諭!? これは苦肉の策でありますよ!? 条件が増えれば増えるほど『可能性』が狭まるというのに……!!」

 

 つい本音が漏れたが、謝罪する気は起きなかった。膝をついて拳を握りしめるエイブルを絶対零度の視線で突き刺す。

 

「ですが、嗚呼、我も塾講師。初回講義で講義を延長して次回から生徒が出席しなくなるリスクを考えれば、ここで一区切りとして次回またじっくり『可能性』を検証すべきだということも理解しておりますとも」

 

 次は無いぞ、相澤は二つの意味でそう思った。

 

「我の“個性”は『可能性』。一時的に対象の『可能性』を具現化することが出来る。いいかね、貴様らは『可能性』に満ちている。何者にだってなれる。そう、それは、例えばヴィランにだってなれるとも」

 

 エイブルの口元は弧を描き、振るった教鞭から光が放たれる。

 

「あれー? 被身子ちゃんが二人いる!」

「あは、藍ちゃんもだねぇ。それで、そっちの藍ちゃんと私はどうして雄英の制服なんて着てるのです?」

「ゆーえー? セーラー服じゃないから知らなーい」

 

 どこかの高校のセーラー服を着込んだ朱紅が、お揃いのセーラー服と首元や腰にヴィランじみた装備を身に着けた渡我に話しかける。セーラー服の渡我は目を細めて雄英の制服を着ている二人を眺めた。

 

「あれ、ゆーえー、雄英? 知ってる知ってる! え、制服着てるってことはあっちのボクたち雄英に通ってるのかな?」

「そうだねぇ、私たちがあっちのトガたちの『可能性』だから、逆に考えるとトガたちは、もしかするとヒーローを目指していたかもしれないってことになるかなぁ」

 

 ニコニコとどこか作られた笑顔で笑い合い、渡我は唐突にすんっと真顔になる。

 

「ヤだなぁ、吐き気がします。ねェそっちの私、死んでくれますか?」

「おっけい、殺そっか!」

 

 ナイフを取り出し飛びかかる渡我と、何処からともなく文房具を取り出して後を追う朱紅。

 

「……気持ちはわかりますけど」

「おっけくないなー!」

 

 対して、徒手空拳で構える渡我と朱紅。もちろんそのまま戦闘に入るのではなく、渡我が“個性”を発動しようとした瞬間、幻のようにセーラー服姿の二人が消えた。

 

「ありがとうございます、相澤教諭」

「いえ」

 

 『抹消』を発動した相澤は“個性”を解除すると目薬を差した。簡素な返答には副音声に『こちとらドライアイなんだから最初からこれをやってくれ』が含まれている。

 

「さて、前置きはここまで。嗚呼、本来であればここで、『彼女たちはどうしてヴィランになったか』から話を進めていくのだが、貴様たちの反応が『そうなることもあるよね』みたいなものだったので講義時間も押していることだし飛ばそうか」

 

 そこ飛ばすなら、この前置きは全部必要のない、ただの茶番になるのでは? あまりにも非合理的すぎる発見にSAN値チェックの気配を感じたため、相澤は考えるのをやめた。

 

「それでは、『ヒーローとヴィランの違い』から話を始めよう」

 

 なお、ここからの講義はエイブルの言い回しが回りくどく内容も退屈極まりないため割愛する。彼女の“個性”実習講座は人気があるが、座学系の講座は非常に不人気である。

 さぁ、渡我と朱紅による睡魔との戦いが今、始まった――! なお、相澤は秒で眠っていた。

 

 

 

 特別講義が終わり、相澤から復籍手続を進める旨を伝えられ、嬉しそうに手を繋いで帰っていく二人の姿を眺める人影が一つ。

 

「もしもし? この通信が盗聴されている『可能性』はゼロだ。よって、端的に伝える」

 

 彼女は、やっぱり座学の反応は良くないなぁ……と少し落ち込んでいる表情をしていた。

 

「渡我被身子および朱紅藍が過去AFOとの接触があった『可能性』は存在しなかった。これでいいかね? 嗚呼、なに構わんよ、むしろ感謝したいくらいさ。素晴らしき『可能性』と出会えたのだからね」

 

 うんうんと大袈裟に頷きながら伝えると、通話相手から思わぬ質問が来たのか、思わずニヤリと笑みを浮かべる。

 

「将来ヴィランになる『可能性』? おいおい言ったろう? 過去現在ならともかく、未来に関して言えばどのような『可能性』も存在する」

 

 それで話は終わりだ。通話を切る直前、彼女はキメ顔で言葉を投げかけた。

 

「『可能性』は無限大なのだよ、ホークスくん」




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