蕎麦は健康に良い。
農林水産省もそう言っている。*1
「だから、これから毎日蕎麦を食おう」
「毎日はいいかなー」
「そうか……」
食堂にて、隣り合って座っている轟と朱紅がそんな会話をしていた。蕎麦よりパスタ派な渡我と麺よりパン派な不和は会話へ参加せず、向かい側に座ってそれぞれトマトクリームパスタとBLTサンドを食べている。
轟の前にニシン蕎麦(つめたい)、朱紅の前にホウレンソウ蕎麦(あたたかい)が置かれており、すぐ後ろテーブルに座っている峰田は目の前のぶどうパンには目もくれず「ハーレム野郎が……ハーレム野郎がァ……!!」と血反吐を吐きながら轟を睨みつけていた。
「そういや焦凍、グリーンとピンクの人の調子はどう?」
「……緑谷は学級委員長になってた」
「流石グリーン、頭脳担当だ」
そして続いた朱紅の言葉に不和が首を傾げる。
「グリーンとピンク?」
「あー、なんか燈矢くんから『新入生に骨の有りそうなヤツいたらそいつ中心に体育祭観るから教えてくれ』って言われてて、あーちゃんが『ボクがレッドで、ヒミちゃんがイエロー、燈矢兄ちゃんがブルーでしょ? なら、追加戦士としてまずはグリーンとピンクだよね!』と先日会った後輩たちの二人が気になってるようなのです」
「被身子ちゃん声真似上手やねぇ」
渡我は照れ隠しのため顔を背け、咳払いをした。
「んんっ! ……私は何もしてませんけどね。燈矢くん絶対何か企んでますし」
「燈矢兄ちゃんはヒミちゃんと同じことを考えてるよ」
「うん」
「はいそこの言葉足らずコンビ、詳しく説明してください」
渡我にジト目で見られた朱紅と轟はアイコンタクトで『どっち話す?』『アイ姉に任せる、あとネギ食べないならくれ』『いいよ、七味もあげるよ』『それはいらない』と話し合い、朱紅が口を開いた。
「ヒミちゃんが敵にならざるを得ない人にならなくても大丈夫だよってしたいように、燈矢兄ちゃんもヒーローになりたくてなれない人に大丈夫だよなれるよってしたいんだ」
「焦凍くん」
「ようは、何らかの欠点でヒーロー免許の取得が難しいヒーロー志願者が、そいつの強みを活かしてヒーロー活動ができるような体制づくりだな。例えば似たようなことしてるヒーローだと……インゲニウムか。あそこもサポートとかで実地経験積んでから資格取ったりとかしてるからな」
「……なるほど、じゃあ燈矢くんは――」
渡我は納得がいったと頷いて、顎に手を当ててさらに言葉を続けようとしたとき、食堂に大きなサイレンが響き渡った。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』
四人は食事の手を止め、周囲の状況を確認する。
「セキュリティ3? 校舎内に侵入者と?」
「避難訓練、と考えるには……焦凍くん、一年生はまだ避難訓練したことないですよね?」
「あぁ、セキュリティ云々の説明もまだだ」
「ガイダンスで説明すべきだと思うなー、去年は参加してないけど!」
そうこう言ってる間に、食堂にいた生徒たちは一斉に駆け出し、狭い出口に密集して怪我人がでそうなほど危険な様相へと変化していた。
「一年生だけじゃなくて二年三年もパニック状態やね」
「これじゃ避難誘導するにしても……うーん、後で怒られるかもですけど相澤先生に『変身』を、し……」
「ヒミちゃん? どうしたの?」
「一瞬女子高生の制服を着た相澤先生を想像しただけです脱ぎます」
「待てヒミ姉、あれ見ろ」
四人は一旦人の波に流されないよう机の下に退避し、そのまま自分の制服に手をかけた渡我を轟が制止する。なお、渡我は幼少期こそ服ごと『変身』する他なかったものの、最近は専ら『部分変身』で身体の一部のみ変身しており、例え全身『変身』するしても服は除外することが多かったので自然とそういう想像に至ってしまったのである。むしろ気づかず『変身』しなくてよかったと思うことにした。
轟の指差した先では非常口マークと同じポーズをした男子生徒が大きな声で避難誘導をしている。まもなく、徐々に混乱が収まって、整然と避難し始めた。渡我は脱ぎかけのジャケットを着直した。
「やるなぁ、あの人。って、それよりえっと、避難誘導は既に人が足りてそうだから……」
「フロア内に怪我人がいないか確認しましょう、転倒して歩けなくなっている人がいるかもしれません」
「そうだな」
幸い怪我人はおらず、この日の騒動はこれで終結となる。
そして次の日。
「緑谷が学級委員長辞めた」
「やるなぁグリーン! ロックじゃん!」
USJは原作そのままなので飛ばし、次話は焦凍くんメインの体育祭となります、そこでオマケは一区切りです。