東方剣神録   作:上田幻

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一方その頃……


第十二章「知らしめるは何でも屋の実力」

 

――所変わり、人里は寺子屋。

 満月に照らされる中、寺子屋に隣接している家が存在した。――言わずと知れた、人里の守護者にして寺子屋の教師である慧音の家である。

 その家のとある一室にて、慧音が静かに机に向って住みを硯で磨り上げていた。

 だが、今の姿は日中のそれではない。普段の青みがかった銀髪の頭部が、こめかみから頭頂に向って反り上がった日本の角が生え、髪の色も緑がかった銀髪へと変貌し、その上服までも緑色のワンピースに変化している。

 

――なぜ、彼女が此処まで変貌を遂げているのか。

 

 その理由は、彼女が人外と人間のハーフだったことに起因していた。

 白沢と呼ばれる、イオとは別の外の世界の大陸に存在する聖獣と人間の混血児である彼女は、普段は人間であるものの、満月の時は白沢の血が色濃く出る体質であり、持ち合わせている能力も、満月時とそれ以外で変化していると言う、珍しい体質なのである。

 

 そのハーフ白沢であるところの彼女は今、厳粛な面持ちで何かを紙に書き綴るようにして筆を動かしていた。

――そこへ、紅魔館のある方角から、あの禍々しくも何処か感じ覚えのある魔力が胎動し、波動が駆け巡る。

 ビクン、とその波動に身を震わせた慧音が、思わずその方角へ驚愕で見開かれた眼を向けると、

「――っ!これは、イオ、なのか……!!?いや、これは……あまりにも、禍々しすぎる……!!」

突然のその出来事に、慧音は慌てて立ち上がると、人里の門の方へ走り去っていくのであった。

 

――人里の皆に隠していた、慧音の白沢時の姿がばれるまで、あと少し。

 

――――――――

 

――博麗神社。

 既に、自室にて眠りに就こうとしていた『楽園の素敵な巫女』とあだ名される彼女――博麗霊夢は、恐らくは幻想郷中に胎動したであろう、あの魔力を感じ取り、思わず眼が覚めると同時に、深々と布団の中で溜息をついた。

「……あー、もう。めんどくさい事になってんじゃないでしょうね……全く、眼がさめちゃったじゃない」

愚痴愚痴と文句を漏らしながら、物憂げに体を起こし、部屋の障子を開いて紅魔館のある方角に目を向ける。

「……片方、レミリアに……これは、あの外来人かしら?変ね……あいつ、あんな魔力何か持ってなさそうだったけど……」

恐らく、何らかの手段を用いたのだろうと、あっさりその疑問を霊夢は放棄した。

 そして、金色の満月によって彩られている幻想郷の空を見上げながら、幻想郷を守る二つの大結界の一つである、博麗大結界がどうなっているのかを確認する。

「……ん、この様子だと大丈夫ね。レミリア、かなり対策練ってやっているみたいだし、心配ないでしょ」

そう、自身の最も拠り所とする『勘』で以て、博麗大結界にも、妖怪の賢者たる八雲紫が張った境界の結界にも影響はないと判断した。

 少し、その事で安心する素振りを見せたものの、霊夢は直ぐに別の言葉を発する。

「――紫。そこにいるんでしょ」

縁側に立ち、何処を見るでもなく呟いた声に、応えが返ってきた。

「――はーい、ここにおりますわ」

形容しがたい音と共に、霊夢のすぐ隣の空間がぱっくりと裂け、見れば狂死しそうな空間の中から、幻想郷を創設せし境界の大妖怪、八雲紫が出現する。

 腰まで伸びた金髪に傾国の美貌も併せ持つ彼女は、幻想郷において妖怪の賢者と呼称されており、その美貌を何処か胡散臭さを感じさせる笑顔に変え、霊夢に話しかけてきた。

「心配せずとも、あの魔力は結界には影響する事はないわ。あの吸血鬼、事前にしっかり対策を取っていたようだしね」

「……あのさ、んなこと分かってるし、そもそもそんな事を聞きたいがために呼び出したわけじゃないわよ。――紫、教えなさい。何で……あの外来人を幻想郷に引っ張り込んだのよ?」

紅魔館の門番のような、何処となくエキゾチックな衣裳を風ではためかせながら、わざとらしい言動をする紫に、霊夢は苛立ったように声をあげる。

 すると、霊夢の言葉に紫は一瞬間を空けると、尚もわざとらしい笑顔のまま、

「……そう、ねえ……気に入ったから、かしら」

「嘘をつくな」

苛烈な言葉で以て、そう霊夢が切り捨てると、

「あらあらひどい。私、泣いてしまいそうですわ……シクシク」

「ふざけないでくれる?私は真面目に訊いてるの。――アイツ、私達が外の世界と呼ぶ所とは別の場所から来たんでしょう?血の匂いもしたし、明らかに荒事に慣れてる空気があった。……ああいう手合いは、今まで紫が消してきたんじゃないの?」

すっかり冴えてしまった眼を細めつつ、目尻を吊り上げた霊夢は叩きつけるようにして詰問した。

 すると、紫は泣き真似を止め、真剣な眼差しになって姿勢を正すと、

「――まあ、いいでしょう。そろそろ、貴女にも言っておかないといけないと思っていたのよ。――彼の、本当の素性について、ね」

その言葉を聞き、霊夢はあの外来人に抱いていた勘が、正しかったことを確信する。

「……アンタ、いったい何を隠しているの?射命丸が強引に持ってきた何時もの新聞からだと、こっちでも元の世界でも珍しい髪と眼の色をしてると言う事だったし。実際、アイツが此処に来た時はちょっと吃驚したわよ。あんな、何かを見透かすような金色の眼……正直、同じ人間なのか疑ったりもしたわね」

何より今までと違うのは……アイツが、本来この世界と関係がないことかしら。

 勘に従って動くが故に、いつでも過程を無視して答えに直結する霊夢の言葉に、紫は真剣な眼差しのまま僅かに憐憫の色を混ぜると、

「――だからこそ……引き摺りこんだのよ」

と、何故か万感の思いが込められた答えを返したのであった。

 

―――――――――

 

――魔法の森。

 イオが最初に落ちてきた場所であり、ルーミアと邂逅した場所でもあるこの森は、人里において、また、妖怪たちにおいても、特異な特徴を持っている事で知れ渡っていた。

 何しろ、一度吸ってしまえば永遠に幻覚に惑わされる胞子を飛ばす茸や、方位磁針を持っていたとしても地磁気の乱れによって効果を発揮させなくされたり、切り払っても切り払っても元の通りに、いや、それ以上に生えてくる不気味な樹木もあるとあって、まさしく魔境であるとされている。

 そんな森の中であっても住むことが出来る……いや、正確には理由があって住んでいるのだが……そんな奇特な人物たちがいた。

「――凄い波動ね。久々に、興味が持てそうな魔力よこれは」

「……んー……むにゃむにゃ」

「って、聞いているの魔理沙!?」

不気味な森の中、ひときわ異彩を放つこじんまりとした洋館。

 その中のとある一室にて、二人の少女が今もなお胎動する魔力について話していた。

「そう言われてもなー……戦ってる相手、どーもレミリアみたいだし。そこまで気にするかフツー?」

部屋の中のソファの上で、ごろりと行儀悪く足をバタつかせて寝転がりながら告げた、癖っ毛のある長い金髪に、モノトーン調のエプロンドレスのような衣装を着た少女。

 名を霧雨魔理沙と言い、異名を『普通の魔法使い』と号する、『霧雨魔法店』を経営している、此処幻想郷において人間でありながら魔法を行使できる少女であった。

 その魔理沙の言葉に、ちっちっともう一人の少女は指を振ると、

「分かっていないわね。今までに感じたことないこの魔力……恐らく、最近人里に住み始めた外来人のものでしょう。見た目がかなり変わってるから直ぐに分かると思うわ。――だけどね……正直、人里での彼を見ていると、魔法を使っている所見たことがなかったのよ」

剣だけ持って動きまわっている姿しか、見てないのよね

 人形のような美しさを持つその顔を、それなりに真面目な顔つきになってそう告げる。

見たところ、魔理沙と同じような金髪であるが、彼女のそれとは異なり、ショートボブカットであり、滑らか天井に輝く『照光』の魔法の光や、窓から入って来る満月の光で輝いていた。

 何処となく、丸く見える眼の形や、青色を基調とした可愛らしいドレスの衣装も、彼女をますます人形めいたものにさせている。

――彼女の名は、アリス=マーガトロイド。異名を『七色の人形遣い』と号する、万能に魔法を操る技術を持ちながら、人形を操る技術に特化した、妖怪としての種族、魔法使いであった。

 そんなアリスが告げた明らかにおかしいと感じられる発言に、魔理沙は寝転がった状態から一気に跳ね起きると、

「はあ?じゃ、何で今魔力を感じられるんだよ?剣だけだって思ってたのなら、魔力を感じ取れなかったってことなんだろ?」

「…………この、禍々しい蒼色の魔力。無理やり、体の中から引き出しているのよ。普段、魔法を使わない剣士のはずなのに。……恐らく、かなりの代償を払う事で潜在魔力を全て引き出せているんでしょうね。――正直、魔理沙にやってほしくないやり方よ。絶対、真似をしないでね魔理沙」

何処か、考えながらも苦味が漏れ出ている彼女の言葉に、逆に魔理沙は楽しそうに笑うと、大きくソファに座りこみながら、

「だったら、一回会ってみたいな。そこまでしても妖怪に勝ちたいなんて思ってるような奴みたいだし」

「実際、かなり負けず嫌いな性格はしてると思うわよ。何せ、彼が何でも屋として寺子屋の教師の依頼を終えてから子供達と遊んでる姿を見るんだけどね……一切手を抜かないのよ。その所為で子供達からもブーイングの嵐だし、慧音からはもっと手加減しろって頭突きをくらってる姿、よく見るわ。――そのたびに、へらへら笑ってるけどね」

「……何か、ますます気が合いそうな奴だな。会ってみたくなってきた」

『七色の人形遣い』と、『普通の魔法使い』。

 彼女たちはただ笑ってその時を待っていた。

 

――――すぐ傍にまで迫った、邂逅の時を。

 

――――――――――

 

……場所は戻って、紅魔館上空の雲海。

「…………さて、参りましょうか」

蒼色の五芒星が輝く金色の眼から血を流しつつ、イオはいよいよ動き出した。

 

――木符『木人形=巨人戦士形態(ウッドゴーレム=モード・ティタンウォーリア)』――

 

スペル宣言と共に、先程消えていったヴァルキュリーとは異なった、真に巨人としかいいようのないウッドゴーレムが、レミリアの目前に出現する。

 10m強の巨大な戦士姿のそのゴーレムは、木製であるが故に、かなりの重厚さを感じ取れる鎧を着用し、そのゴーレムの身の丈以上もあるハルバードを手にしていた。

「…………もはや、何でもありなのね貴方のそれ」

驚きを通り越し呆れている様子のレミリアが、『木を操る程度の能力』で生み出されたそのゴーレムを見ての感想に、イオは逆に楽しそうに笑いながら、

「――だって、元の世界よりもずっと楽しいものがあるんですよ!?遊びがいがあっていいじゃないですか!」

 

――さあ行け!巨人戦士……!!

 

裂帛の号令と共に、ウッドゴーレムは片手に持つハルバードを振り回し始める。

 見かけによらず、高速で振り払われるその斧槍に、しかしレミリアはすれすれではあるものの避けていた。……どうやら、速さこそあれ、振るわれる剣戟の隙が大きすぎるために、この現象が起きたようである。

 その様子にイオは戦慄しながらも、

「っ、まだまだ……!!」

 

――雷遁『雷帝之鎚(ミョルニルハンマー)』――

 

 巨人の最後の攻撃に合わせ、速度性、攻撃力共に優秀な雷属性の魔法による弾幕が、レミリアに襲い掛かって行った。

 ストリーマと呼ばれる、雷が発生する直前に起きる現象もなく、唐突に現れては彼女をうちぬこうとするその雷撃に、

「っく!?ああもう、面倒くさいわね……!!」

 

――天罰「スターオブダビテ」――

 

ダビテの紋章と呼ばれる、六芒星の魔法陣を模った弾幕が、イオのスペルを打ち消さんと猛威を振るう。

「あああぁぁぁああああ…………!!!」

しかし、イオも負けじと新たにスペルを宣言した。

 

――風遁『青竜之激怒』――

 

突如として幾つもの竜巻が発生し、レミリアの弾幕が雷属性のスペルを打ち消そうとした所を、的確に妨害をして逆に消していく。

「――ホント、性質が悪いわね……!!」

戦いの醍醐味とさえ言える、敵の動きに反応して封じていくそのやり方は、もはや卓越した軍師を思わせた。

 

――やはり、『疾風剣神』の異名は伊達ではなかったのだと。

 レミリアはただただ、

「だけど、それ以上に楽しいわ―――!!」

心の底から、大笑の衝動が沸き起こるのみ。

 

――ラストスペル『紅色の幻想郷』――

 

爆発。

 それ以外に形容しようのない、紅き魔力の弾幕がイオに襲い掛かってきた。

 折悪く、今までのスペル連続宣言に加え、魔力の過剰使用による精神疲労、そして気を爆発的に増加させた反動が近づいてきており、眼痛、全身から激痛が訴えてくる。

(……だけ、ど……絶対、負けられない――――!!)

負けず嫌いの性分が思いきり出ている事を自覚しながらも、イオは最後の一撃とばかりに、自身が出せる最高の攻撃で以て終わらせることを決め。

 

――ただ、叫んだ――

 

――ラストスペル『紅蓮龍皇炎舞』――

 

本来、彼の二刀流の最終奥義として編み出されたその技。

 視界に映る全てに対し、全方位全角度から隙間なく無数の斬撃を与えると言うその技は、その強力さを反比例するかのように厳しい制約が課されていた。

――即ち、気を爆発的に高め、対象に対し何らかの強い感情を持っていなければ放つ事は絶対に不可能という、その制約。

 

……しかし今。

 

 その条件を満たし、更には強制魔力増幅と、古今東西の、木属性に加え派生三属性の詠唱文破棄を行う魔眼が付け加えられ、彼自身の『木を操る程度の能力』がそこに入れば。

 斬撃の威力向上と共に、その性質が風の鎌鼬を帯びた事により、イオが今出せる技の中において最高の技となった。

 

 その事実の通りに、視界に映る全ての紅き弾幕が彼の斬撃によってかき消され、それでもなお残ったイオの斬撃の弾幕が、レミリアに襲い掛かる。

 

――巻き上げられた雲の中から、悲鳴は、聞こえなかった。

 

故に、自身が勝てたのだと思うしかなく、フッと気を緩めた、その瞬間だった。

 

――ドスッ……!!

 

「ぐ、がは……!?」

ほぼ土手っ腹に、強大な紅きグングニルが突き刺さり、驚愕の表情を浮かべたイオは、喀血をしつつ激痛と共に意識が途絶えていくのを感じ取る。

 

――視界が霞む中、最後に見えたのは紫色のナイトガウンのような服の端だった。

 

 




主人公……死亡か!?
それとも、生き残るのか!?

――――次回に乞うご期待!

ここまでの読了に、心からの感謝を……!
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