東方剣神録   作:上田幻

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……とりあえず、皆さんにお詫びです。

――――――長くしてしまって、ごめんなさい!!!(ジャンピング土下座敢行)



第十三章「彼を迎えるは紅魔の一族」

 

「……ん……?――――っは!?」

寝ぼけ眼で覚醒し、直後昨晩の記憶を思い出し、慌てていつの間にか運び込まれていた寝室のベッドの掛け布団をはねのけようとした所で。

 

 全身に、激痛が走った。

 

「あっぎゃっぎゃっぎゃぎゃぎゃ!!??」

昨日訪れた紅魔館の一室と思しき紅い部屋に、傍目からして笑いを誘う様な悲鳴が発生する。

 余りの全身の痛みにただ呻くしかできないイオに、突如声が掛けられた。

「――お目覚めですか。……どうやら、痛みで起きられたようですね」

「おわ!?――っつぅ……」

驚きのあまり、思わず身構えてしまい再び激痛が襲いかかる。

 イオが情けなくも痛みに必死になって耐え、それでも挨拶は忘れずにとようやく笑顔らしい表情を浮かべて、

「ぁ……ぐぅ……お、おはようございます」

それでも未だに痛みに苛まれるのか、若干悲鳴を漏らしつつも、礼儀正しくイオが挨拶をそこにいたメイド長――咲夜に告げると、

「ええ……おはようございます。っと、申し上げたいところなのですが……お嬢様と闘われてから二時間ほどしか経過しておりません。最も、三日間昏睡された後の、という事になりますが」

ちょきちょき、と湿布らしき物を切り分けながらそう告げてきた彼女に、イオは驚く事もなく、

「あー……寧ろ、納得しました。結構、限界まで引き出してましたからねえ」

しみじみと、痛みに耐えながらも答えると、音もなく咲夜が近づいて来て、

「――さて、失礼いたします」

徐にイオの蒲団を剝ぎとった。

「へ?って、ぎゃー!?」

問答無用に今まで着ていた寝間着のような服を剥ぎ取られそうになり、思わずイオが悲鳴を上げて逃げようとする。

 だが、容赦なく無表情(それでも若干頬を赤らめていたが)で剥ぎ取りにかかる咲夜が、淡々として、

「おとなしくされてください。湿布が貼れませんので」

「いやいや何を仰っているん……っぎゃあ!?ちょっ、脱がさないでくださ!?」

イオがそう抗議するのも頓着せず、彼女がてきぱきと彼の下着を除いた服を脱がしにかかって行った。

 幾ら湿布を貼るとはいえ、其れにしたってもう少し何かを言ってくれてもいいんじゃないかとイオは本気で思う。

 心の底から、そう思っていた。

――だが、現実は無常で、非情で、どうしようもなく眼をそむけることすらできない物である。

 結局、ベッドに縛られたイオに逃れるすべはなく、

「――うぅ……もう、お婿に行けないよぅ……」

両手を顔に当て、傍目からすれば完全に御無体な眼にあわされた女性のようなありさまになっていた。

「……人聞きの悪い事を仰らないで下さい。私はお嬢様に仰せつかった通りの事をしたまでの事です。それに、この三日間……いつ死んでも可笑しくなかった所なのですよ?パチュリー様が治さなければ、逝ってしまわれても仕方ない状況でした。さらに付け加えるならば……」

 

――もう、この三日間でイオ様の体は調べつくされていますよ?

 

「…………死にたい…………」

ぼふ、とイオの体がベッドに沈みこむと同時に、絶望に堕ちた声が響き渡る。

 それもそうであろう。咲夜の言葉通りならば、イオの体は全裸にされてその上でパチュリ―と呼ばれている人物――恐らく女性であろう――に、隅から隅まで見られたと言う事になってしまうのだから。

「……全く、お嬢様も驚かれていましたよ。あそこまで命を削りきったような戦いは久しぶりだと」

「…………そぅですねぇ……無理やり魔力を引き出しましたし、全身の気を爆発的に高めたりしましたからねえ。かなり無茶をした自覚はあります。――ああ、それよりもレミリアさんは大丈夫ですか?無茶したなりにかなり攻撃を加えた記憶がありますから、怪我をされていないかちょっと心配なんですよ」

ようやくにして顔をあげてそう尋ねてきたイオに、咲夜はかちゃかちゃと何かを片付けるような音を出しながらも、

「そのことでしたら、お嬢様から伝言がございます」

 

『――凄く、楽しめたと心から言えるわ。ま、そうはいっても貴方の負けよ?自分でも分かっているでしょうけど』

 

「――以上でございます。簡単な御食事をお持ちいたしますので、どうぞお休みください」

と、片付け終えたのか、居住まいを正して深々と一礼し、直後部屋から消失した。

 あとに残されたイオはというと、なぜかズーンと深く落ち込んでいるようである。

「――――そうだよ、吸血鬼って……不老不死じゃないかもう。身の程知らずにもほどがあるよ……僕が馬鹿だった」

幻想郷においても、アルティメシア世界においても、不変とされる吸血鬼の真祖の不老不死性に、今更ながらイオはベッドの中に崩れ落ちるのであった。

 

―――――――――

 

――彼がレミリアと戦い、怪我の治療の為に紅魔館に逗留してから早十数日。

 イオは、見舞いと新聞の記事のネタを探しに来ていた射命丸に、ルーミアに対して伝言を頼んでいた。

「――という訳で、申し訳ないんだけど頼めませんか?不可抗力とは言え、ルーミアを放っておいてしまったので後が怖いんですよ」

「あやや、それはそれは……また、いいネタになりそうですねえ。題とするなら、『人里の何でも屋、宵闇の妖怪に尻に敷かれる!?』でしょ「止めてください(社会的に)死んでしまいます」えー……詰まらないですねえ」

土下座する勢いでベッドに顔をうずめるイオに、言葉どおりにつまらなさそうに口先をとがらせる射命丸。

 その姿に、やや疲れたような表情になったイオが、

「勘弁して下さい。ただでさえ、僕の自業自得でルーミアに迷惑をかけているのに、更にこんな記事が出たら首をつって死にますからね!?いいですか、振りじゃないですよ振りじゃ!」

と、未だ怪我人の筈なのに、かなり元気にわめいた。

 その声に、ややうるさそうに手を振った射命丸は、

「はいはい、分かっていますよ。ちょいと前のレミリアさんとイオさんの戦いについては充分貴方からも、レミリアさんからも聞いていますからね。かなり、新聞のネタとしては最高に入りますよ」

と、ニヤニヤとした表情でそう告げると、バサリ、と黒翼をはためかせ、

「――って、何処から出ようと……!!??」

「新聞、書きますよヤッホーーーー!!」

閉じられていた窓から、一目散に飛び立っていく。

 しばらく、その後を唖然として眺めるほかなかったイオは、ふと、唐突に背中に悪寒が走ったの感じて、

「…………なぜ、窓が開いているのでしょうか?」

「ひぃ!?さ、咲夜さん!?い、いやこれは僕のせいじゃ……!?」

わたわたと、湿布が複数貼られている腕を振りながら己が潔白を主張するイオだったが、瞳がハイライトになっている咲夜には関係ないことであった。

「――事前に、申し上げたと思うのですが。お嬢様方は、吸血鬼なのですよ……?もし、まかり間違ってこの部屋に入られたらどうされるつもりだったのですか……?」

「ごめんなさい!本当にごめんなさい!ゆ、許して下さい……!!」

必死になって土下座するイオの頭のすぐ横を、鈍い音が響き渡る。

 思わず凍りつき、恐る恐るそちらを見やったところで……イオの顔が恐怖に彩られた。

 

――何故なら、すぐ傍に咲夜が愛用していると思しきナイフたちが、幾つか突き刺さっていたからである。

 

「――次はありません。宜しいですね?」

「――――イエスマムッ!!!」

全力で敬礼し、フッと彼女が消えていくのをイオは見送るのであった。

 

―――――――――

 

「――あはは、それは災難でしたねえ」

「全くですよホントにもう……射命丸め、帰ったら覚えてろよ……!!」

愚痴愚痴と文句を言いながら、門番の仕事を妖精メイドに代わった、見舞客の美鈴に射命丸への復讐を誓うイオ。

 そんな彼に、美鈴はけらけらと笑いながら、

「ま、あまり気にしない方がいいと思いますよ?妖怪って、結構自分勝手に生きてる所ありますから」

「――全力でそれを実感してますよ……!!」

ふるふると、射命丸のあの苛々とさせてくれる笑顔を思い出しながら震えるイオに、ふと、声がかかった。

「……イオ~?じゃあ、私の事忘れてたのはどうなの~?」

「――全力で土下座します!!」

ガバッと美鈴の横でふてくされたように見てくるルーミアに、イオはベッドの上でジャンピング土下座を敢行する。

 そんな彼に、ルーミアはなおもジト眼のまま、

「結構大変だったんだよ?イオが帰ってこないから朝食とか慧音に迷惑かけちゃったんだから。慧音も結構怒ってたし、帰ったら覚悟した方がいいと思うよ?」

腰に手を当て、いかにも怒ってますと言いたげなルーミアに、美鈴は苦笑しながらも彼女の頭をなでると、

「仕方ないですよルーミア。イオさん、お嬢様の依頼で如何しても戦わざるを得なかったんですから。そこでもう許してあげてください」

「やー!絶対、許さないもんねー!!」

あっかんべーとイオに向ってすると、今度こそ不貞腐れて美鈴の体にルーミアは抱きついた。

 そんな彼女に、かなり困った表情になったイオが、

「――あの、ルーミア?ホントにごめんよ。帰ったら、好きなだけお菓子を作ってあげるから、それで許してくれる?」

ほとほとと、本当に困ったような口調で何とかそう告げると、ルーミアが顔を埋めていた美鈴の膝から顔を上げ、

「…………ホントに、作ってくれる?」

「うん、誓うよ」

「…………だったら、いいよ。――でも、慧音は自分で何とかしてね?」

「畜生!!それがあった……!!」

この世の終わりとばかりに、イオはルーミアに言われた言葉で頭を抱える。

 そのまま鬱々とした様子に移行するイオに、苦笑しながら眺めていた美鈴が、

「……そうしてると、本当に兄妹に見えてきますねー。数日前にお嬢様とあんなに禍々しい魔力と気がぶつかる戦いをされてたのが嘘の様ですよ」

ひょい、と自らが持ってきた見舞い品である果物の皮を剥きながらそう告げると、

「……そんなに、禍々しかったですか?あれ、妖怪のと比べたらそんなに大したことないように見えますけど」

「いやいやそう思ってたの多分貴方だけですよ?あの晩は本当に上空で魔力やら気やら、荒れ狂っていましたから。――恐らく、幻想郷中の実力者に気づかれていたと思います」

のんびりとそう返し、美鈴はルーミアに剥いた果物を食べさせていた。

 そんな彼女に、イオは何処となく納得したような表情になりつつも、

「あー……死ぬ気で掛かって行ったからでしょうかね。結果としてルーミアや他の皆さんにまで迷惑かけてしまったわけですが」

「まあ、お嬢様があんなに本気になって闘われたのは久しぶりでしたからねえ。相当、イオさんとの戦いを楽しまれたと思いますよ。実際地上からですけど、見ていて久々に誰かと組み手をしたくなった位ですから」

もしかすると、幻想郷中の戦闘狂の人たちが挙って来るかもしれませんねえ。

 しゃくしゃくと、ルーミアと共に切り分けた果物を食べながらの美鈴の言葉に、イオは衝撃を受けたように顔を青ざめさせていき、

「……うそぉ」

「いやー、それがどうにも嘘じゃなくなりそうなんですよね……ここ、平和なのはいいんですがどうしても娯楽というのが少なくてですね、お嬢様も妹様も弾幕ごっこだけやっているのもつまらないみたいで、偶に悪戯を仕掛けたりしては咲夜さんに怒られたりしてますし。人里に買い物に行っている咲夜さんに訊いても、子供達は大体わらべ歌だとか蹴鞠手鞠だけで遊んでいると聞きましたよ。――だから、でしょうねえ」

皆さん、弾幕ごっこで本気になって遊んでしまうのは。

 見ているこっちが和みそうなほんわかとした表情で物騒な言葉を吐く美鈴に、イオはそんな彼女を放ってガクガクブルブルと震える。

……どうやら、幻想郷中の妖怪達にフルボッコにされる運命が垣間見えたようだった。

 その様子に苦笑しつつも美鈴は、膝に再び飛び乗ってきたルーミアを受け止めて頭を撫でながら、

「あはは、まあ、そんなに気にする事はないと思いますよ。基本的に皆さん遊びたがりなだけですから。遊び相手を殺すなんてことはないでしょう」

「いやいやレミリアさんとかいるじゃないですか。数日前のあの、なんていうか、戦争というか、とにかくアレだったじゃないですか」

未だに顔を青ざめて冷や汗を流しながらイオが反論すると、

「――だったら、一緒に鍛錬しませんか?お嬢様と闘われている間、闘気を使われているのは分かっていたんですけど、どうも、気になっていたことがあって。……何方に、気の事について教わられたんですか?」

と、首を傾げて美鈴が不思議そうな面持ちでそう尋ねる。

 突然のその問いに、イオは先程まで青ざめていた顔色を元に戻し、キョトンとした表情を浮かべると、

「え?いやまあ、基本は元の世界で養父に教えてもらいましたけど、そこからはほぼ独学ですねえ」

なんせ、そうしないと死にかねなかったもんで。

 フフフ……と、暗い笑顔でそう告げる彼に若干ルーミアが引いているのをなだめながら、

「――だからですか。妙にちぐはぐめいた運用をされているんだなあと思ったんですよ。イオさんのやり方、私からすればかなり無駄があり過ぎて、全部を使い切れていないんです。結果的にやたらと体の外に垂れ流しになっちゃってるんですよ」

「……ゑ」

今までのやり方を否定されかなりショックを受けているイオに、美鈴はおっとりしながら、

「とにかく、怪我を治されたら一緒にやっていきましょう。少なくとも、私の能力で多少は改善されると思いますから」

「……まじかー……結構、無駄無く使ってたと思ってたのに。――はあ、仕方ないです。是非、お願いいたします」

そう告げると、イオは深々と美鈴に一礼するのであった。

 

―――――――――

 

――それからまた数日が経過し。

 慧音にルーミアの事をしばらく任せたイオは、ゆっくりと養生をしながら、ようやくベッドから歩けるまでに回復していた。

 ここまで回復出来た事に一際感慨めいた思いも湧くのだが、

(……やたら、正門の方で轟音が聞こえてきたり、美鈴が悲鳴上げてたのも聞こえたけど……あれ、いったい何だったんだろ)

同時に、養生している間の騒音に、ちょっぴり首をかしげてもいたのである。

 寝ている間の、閉じられた窓の方から述べたとおりの出来事が立て続けに起きて眠れなかったり、ルーミアが度々見舞いにやってきては、いつの間にか寝ているイオのベッドに入り込んで一緒に寝ていたりと、ある種イベントが目白押しだったのであった。

 

「……どうかした?」

「ああ、いや、ちょっと緊張してただけ。僕の友達になってくれるのかなってさ」

そう言って、何処も緊張しているようには見えないイオが、苦笑して頭を掻く。

 すると、その言葉に横を歩いていた咲夜が、

「大丈夫よ。お嬢様も含め、皆様本当に優しい方ばかりだから」

と、当初客人に対する硬い態度だったのが抜け、かなり砕けた態度と柔らかい声でそう告げた。

 横を歩くイオに、己が主達を自慢するようなきれいな笑顔を浮かべる彼女に、苦笑の度合いを深めながらも彼は、

「――だと、いいけどねえ」

と、ちょっぴり不安そうにつぶやく。

 

 今、こうしてイオが向っているのは、紅魔館の面々が食事をとる場所である食堂であった。館主であるレミリアが、イオに紹介したい友人や家族がいると言う事で、こうして咲夜の案内でそこに向っていたのである。

 しばらく、談笑しながらも廊下や階段をいくつか歩いて行くうちに、ばたり、と横にいた咲夜が唐突に立ち止まった。

 見れば、彼女のすぐ横に大きな観音開きのドアが鎮座しており、どうやらそこが目的地である食堂の様である。

 一歩足を踏み込み、昨夜がドアに向ってノックをしてからしばらくして。

『――お入りなさい。みんな、ここにきているわ』

「かしこまりました。――じゃ、イオ?中に入ってくれるかしら?私、紅茶を準備しないといけないからね」

「ん、わかった」

彼女にそう返すと、イオはフッと彼女の気配が消えたのを感じながらも、

「何でも屋イオ=カリスト、中に入ります」

と、声をかけたのであった。

 

――入ってから目前に、貴族の食堂らしい長大なテーブルが視界に入る。

 白の此処だけは外界のものに合わせているのか、白のテーブルクロスが掛けられていた。

 そんな長大なテーブルの正面、館主のレミリアが、こちらを何処となく悪戯っぽく見つめているのが、頭上に照らされる魔力が感じられる照明によって分かる。

 そんな彼女の向って右側に、レミリアとよく似た、しかし金髪のショートに七色の宝石のようなものを吊下げた、一見して骨のような翼を持っている少女が、きらきらとした瞳で身を乗り出しながらイオを見つめていた。……どうにも、年経た存在の割に純粋さをかなり感じ取れて、気まり悪く感じもしたが。

 そして、向って左側に座るは、紫色の髪と星の飾りがついたナイトキャップのような帽子をかぶる、少々野暮ったいと感じられるナイトガウンのような衣装を着た少女。

 彼女の場合、館主であるレミリアや、恐らくその妹であろう金髪の少女とは異なり、無表情無感情でこちらを見つめるばかりで、一向に読み取れなかった。

(……レミリアさんが戦いの時に言ってた、ご友人の魔法使いの人かな?なんか……ラルロスとは結構違う感じがするなあ)

元の世界にいた、普段ぶっきらぼうなくせにいざとなるとかなりの熱血漢だった青年を思い出しながら、その紫色で構成された少女の横に立つ、明らかに人外を思わせる人物に目を向ける。

 紅のロングヘアーに、スーツであろうか、何処となくピッチリとした衣裳を想起させる黒い服に、その背中から何らかの羽が見え隠れしていた。何となく、精神年齢的にはイオと同じような感じがするが、その眼は先程の金髪の少女と同じように、好奇心の光で満ち溢れているのが分かった。

 と、そこまで眺めた所で、イオはすぐ近くにかすかな気配を感じ取り、斜め後ろをこっそりと見やると、紅茶のポットが載せられた移動式の棚を連れた咲夜と、静かに自然体で立っている美鈴を発見する。

 イオが気づいた事に気づいた二人が一礼する様を見つつも、

(……見事なまでに男がいないし)

あ―元の世界が懐かしいなー、などと現実逃避をしながらも、それでもイオはレミリアのほうに向きなおって、

「お初にお目にかかる方もいらっしゃいますので、簡潔に自己紹介をば。――人里に手何でも屋にして元の世界では『疾風剣神』と呼ばれておりました、『蒼龍炎舞流』『龍皇炎舞流』が開祖にして当主、イオ=カリストともうします。以後よしなに」

長々と口上を述べ上げると、イオはにっこりと笑って一礼した。

 すると、向って左側に座っている紫色の少女が、

「……思ってたより、普通の人間なのね。かなり特徴的だけど。――ああ、パチュリー=ノーレッジと言うわ。一応、レミィの親友をさせてもらってるわ「おい一応とは何だ一応とは」……それで、体の方はどうなの?出来る限りの事はさせてもらったけど」

「おい無視かパチェ」

文句を言うレミリアを黙殺し、パチュリ―というその少女はじっとこちらを見てくる。

「あー……貴女が、やって下さったんですか。いやー、本当にありがとうございます。おかげ様で、幻想郷に来る前よりも調子が上向いている気がしますよ」

おっとりとして本当にうれしそうに笑うイオに、パチュリ―はいつの間にか用意されていたティーカップを手に取ると、

「別に、レミィに言われてたことだし、ちょっと貴方の体についても興味があったからね。ま、お互いに良いことづくめだったという事よ」

と、何処となくそっけない様子で、ずず……と、湯気立ち上る紅茶を飲んでいた。

 そんな彼女に、イオはあくまでも笑顔そのままで、

「――それでも、御麗は言わせて下さい。これでも、死んでしまうと困らせてしまう人がいるものですから」

「はいはい、分かったから良いわよもう。――っと、そろそろ妹様が堪え切れない様子ね?」

「へ?」

「っどーん!」

擬音らしき声を発しながら、突然イオの腰辺りにかなりの衝撃が走る。

 それなりに痛かった突進に、イオは一瞬バランスを崩しかけながらも体勢を整え、ぶつかってきた人物を見ようとすると、そこには気配を隠して近づいたのであろう、あの興味心身にこちらを見ていた金髪の少女がいた。

 上目遣いで見てくる彼女は、吸血鬼特有の紅い瞳を向けながら腰に一層抱きつくと、

「貴方が、お姉さまと戦った人間ね!?私、フランドール。フランって、呼んでね!」

永い時を経てなる吸血鬼とは思えないほどの無邪気な笑顔に、イオは少々、いや、かなり面喰らう。

 その姿を見て止めなければならないと思ったのか、レミリアがあきれたような苦笑を浮かべつつ、

「こら、フラン?はしたないわ。もう少し、レディとしての自覚を持ちなさい」

「えー……やだ、めんどくさい」

姉からの苦言に即座にフランドールがそう返すと、

「……むぅ……はぁ、仕方ないか、イオ。そちらのほうにちょっと座ってくれる?ちょっと、お話してみたいことがあるの」

「え、ええ……それは別に構わないのですが……」

レミリアに着席を促されたものの、イオは困惑したようにフランドールを見やる。

 レミリアも、未だにフランドールが腰にしがみついている事を分かっているのか、小さくため息をつくと、

「……申し訳ないけれど、膝の上にでも座らせてあげてくれる?どうも、今まで男という存在がいる事すら知らなかったせいで、すっかり興味を持っちゃったみたい」

「……は、はぁ……」

ちょっぴり顔を引き攣らせながらも、イオは仕方なしに席に座ると同時に、フランドールを抱えあげた。

 抱えあげられた方のフランドールはと言うと、

「わー高くなった―♪」

などと言いながら、すっかりイオの胸板に背中を預けているようである。

 無意識にそんな彼女の頭を撫でてあげながらも、

「……えーと、とりあえず、パチュリ―さんの隣にいらっしゃる方の御名前を知りたいんですけど」

「あ、申し遅れました。どうもパチュリ―様の召使をしています、小悪魔と申します。こぁと呼んでいただけたら嬉しいです」

ビシッと手を挙げのんきにそう自己紹介をするこぁに、一礼しつつ、

「あ、どうもよろしくお願いします。――所で、今回お話と言うのは……?」

至極あっさりと小悪魔と会話を交わした事に、微妙にレミリアは何か言いたげだったものの、

「……ま、いいわ。そうそう、話と言うのは他でもないの。貴方に、数日前の依頼に対する報酬と、もし出来れば別の依頼を受けてほしいということで、貴方を呼んだのよ」

と、すぐに気にしない方向で行く事にしたらしく、イオに向って真面目な顔つきでそう告げた。

「え、と……別件の依頼と言う事ですか。構いませんが……」

(また、誰かと死ぬ気で戦えなんて依頼じゃないよね?)

若干、数日前のレミリアと戦った夜の事を思い出しながらもそう返したところ、パチュリ―がいつの間にか取り出していた本を読みながら、

「――たぶん、貴方が考えているような事にはならないから安心しなさい。というのも、この依頼は恒久的に受けてもらいたいものだからよ」

と、時折紅茶を飲む行為を挟みながら告げる。

「……依頼期間を恒久的にというと、かなりの厄介事の様に伺いますが」

「おおむね、その認識で合っているわ。――此処、紅魔館には幻想郷で唯一と言っていいほどの巨大な図書館が地下に存在しているの。私はその管理をレミィから任されているのだけどね、前にある事を私達が起こしてから、ほぼ毎日のようにある人物が突貫してきて、図書館の蔵書、それも、魔導書の類を沢山持っていかれているわ。ただ、借りて返してくれるだけならば、まだましな方なのだけど、彼女、その魔導書を持って行ったまま返してくれないものだから、結構困っているのよね」

はぁ……と、深いため息を漏らしているパチュリ―に、イオはその話を聞いて納得したのか、ぽんと両手を打ち合わせると、

「――つまり、その、彼女を迎撃もしくは蔵書の奪還を、この幻想郷にいる間は恒久的にやってほしいという事になるんですか?」

「ええ、ぜひともお願いしたいわ。貴方の、レミィとほぼ互角に戦えるような実力であれば、魔理沙――その彼女の事なのだけど――を捕まえる事は出来るでしょう。……正直、彼女は同じ魔法使いとしてはそれなりに努力している事は分かっているのだけど、それでも蔵書を盗られ続けるわけにはいかないから。咲夜も忙しいし、こぁはこぁでそんなに弾幕ごっこで実力があるわけでもないしね」

「……あのぅ、パチュリ―様。私は……?」

名前が挙げられなかった美鈴が、自分を指しながらそう尋ねるが、パチュリーは彼女にとって至極まっとうな現実を告げる。

「――論外よ」

「ひどい!!?」

ぐさぁっ!と何かが突き刺さるような音が聞こえた気がして、ちょっぴりイオは泣き崩れている美鈴に同情してしまった。

 とはいえ、先程の言葉に気になる言葉があったため、

「――そういえば、その方……魔法使いなんですか?」

「ええ。――もっとも、私やもう一人の魔法使いとは違って、人間として魔法使いになった子なんだけどね」

と、何処となく柔らかくなった表情でパチュリーがイオの問いにそう返す。

(んん?人間として魔法使いになったってどういう事だろ?…………ま、いいか。この人の様子だと、そんなに気にする事でもないみたいだし)

まるで、頑張っている孫を影ながらに応援しているようなイメージを彼女から感じたイオは、得心がいった、と言う様な表情になると、

「はーなるほどなるほど。――わかりました。ただ、そうなると家を引き払って此処に住む形になるんでしょうか?それだとかなり困るんですけど」

「そんな無理は言わないわよ。こちらの方で、貴方の家と地下図書館を魔法陣を使って繋げておくから、こぁか私がその魔法陣で呼んだら、すぐに来てほしいの。そうすれば、すぐに対応できるでしょう?――ただ、ね……美鈴、今日はまだ来ていなかったわよね?」

と、突然、泣き崩れたままの美鈴にそう声をかけて訊ねた。

 問われた方の彼女は、目尻の涙を拭きとった後何処か明後日の方に視線を向けながら、

「ですねー。今日は皆さん早くお集まりになっていましたし、私も門の所を開けたままにしていますから。多分――すぐに来ると思いま――」

ドォオン!!

 彼女が言い終わるか終らないかの内に、突如として轟音が鳴り響く。

 まるで、壁を強引にでも破壊したかのようなその音に、深々と溜息をついたパチュリ―が、

「…………やれやれ。どうやら本人がきたみたいね。――イオ?さっそくで悪いんだけど、お願いできるかしら……?」

呆れたように呟き、そう告げてきた彼女に、イオは今朝あてがわれた部屋で、腰に括りつけておいた双刀『朱煉』をチャキリ、と刀を鳴らすと、

「――ええ、何でも屋……出動させてもらいます」

静かに微笑み、イオはその金色の眼を輝かせるのであった。

 

 




最近、どんどん文字数が増えてきている……むう、少なくするべきか?
それとも、もう少し区切りよく……難しいですねえ……

とりあえず、ここまで読んでいただいた方に感謝を。
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