東方剣神録   作:上田幻

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この章では、ある原作キャラとの出会いがあります。
 想像できる人は……いる、かなぁ?
 それではどうぞ。


第十七章「飛びゆくは太陽咲き誇る畑」

「――ふぁああ……ったた……」

大きな欠伸を洩らしながら、同時に襲ってきた頭痛に頭を悩ませるイオ。

 間違う事無きその頭痛は、ここ最近突発的に起こっている宴会による二日酔いであった。

(……ああもう、何でここ最近宴会ばっかりあるのやら。そろそろ、本業の方にまで影響しそうなくらいなんだけど)

ずきずき、と痛む頭を抱えつつ、とりあえずイオは朝食を作ろうと台所に行く事にする。

 二階にある自室から、ぎしり、ぎしり、と階段を軋ませながら降りていき、さて、今日も頑張ろうかと思いながら台所をのぞいた時であった。

「……ん?」

頭痛のせいか、はたまた寝ぼけていたためか、そこでようやく誰かが台所に入り込んでいる気配を感じ取り、イオは寝ぼけ眼をぱちくりとさせる。

 不審に思いながらそちらの方へ体を向け近づいてみてみると、

「――何してるの、ルーミア」

「みゃっ!?」

こそこそと、何かを探し求めているかのように動く、宵闇の妖怪がいた。

 ぎぎぎ、と軋むような動きでイオの方へ顔を向けた彼女は、引きつったような笑顔を浮かべて、

「……あ、あはは……お、おはようイオ」

「うん、おはよ。――で、何してるの?」

愛想笑いでごまかそうとしている彼女を、

『逃しゃしねえぞ?』

とばかりに不機嫌そうな面持ちでねめつける。

――実際の所は、単に眠いのと、頭痛に悩まされているだけなのだが。

 彼女の方はそうはとらなかったようであり、ビッシィッ!と何処ぞの軍隊張りにきれいな敬礼の姿勢になると、

「お、お腹が空いてしまったのであります、サー!!」

「いや僕は将軍じゃないし。――はぁ……食事。作るからちょっと待ってて。すぐに用意するからさ」

凄く眠そうに、だがシッカリと彼女のボケには突っ込むと、イオは欠伸を噛み殺しながらもかなりの手つきで料理を手早く作って行った。

 とはいえ、彼の魔法適正の中では火行の適性はほんの少ししかない為、そこら辺はルーミアに手伝ってもらって、妖力で火を形成した後になってしまうが。

「――ほいっ。よっと」

人里で見つけたフライパンや鍋を動かしながら、イオが味噌汁やスクランブルエッグを作っていると、

「……(ダラダラ)」

「……ルーミア。お腹が空いているのはその様子で十分わかったから、お皿用意してくれる?でないと、何時まで経っても食べられないよ?」

イオの振るうフライパンを見てよだれを垂らしまくっている彼女に、イオは苦笑しながらそう告げた。

「うー……だって、美味しそうなんだもん」

「はいはい、嬉しいけど速く、ね?」

くすくすと笑うイオにあっかんべーをしながら、それでもルーミアはイオの言うとおりにお皿を居間のちゃぶ台に並べていく。

 すかさずイオがその後を追って皿の上にスクランブルエッグ等のおかずを順においていった。

 そして、二人して朝食を摂ろうとし始めたその時である。

「あややや、おはようございますイオさん!今日も宴会ですよー!」

「おいこら何処から這入って来たの君」

何時の間にか入り込んで勝手にお茶を飲んでいた射命丸に、イオは思わず突っ込む。

 パタパタ、と黒翼を動かしながらはふぅ……と人の家にありながらかなりリラックスしていた。

「……ていうか、お茶勝手に入れちゃってもう……しかも、一番いいのだし」

はぁ……と、食べながらイオは射命丸のこの傍若無人振りに、深いため息をつく。

 だが、そんな彼に射命丸はからからと笑って、

「いやー、頂いてます♪」

「開き直るな。……で?どうしたの今日は。なんか、また宴会なんて言葉が聞こえたように思うんだけど」

「ええ!まさしくその通り!今夜満月ですからね、また皆さんで集まって飲もうと言う事になったみたいですよ?」

「……またぁ?いい加減、二日酔いばっかりで結構きついんだけど」

「いやいや、そんなに顔色蒼くさせていないのに何を仰いますか。知ってるんですよ?イオさん、ご自身の能力で、自分だけお酒の酒気から逃げ切ってるって♪」

「……あのねぇ……言っておくけど、万能じゃないんだよこれ」

そう、イオは疲れたようにそう告げた。

 それもそのはず、もともとイオはこうした使い方を想起していなかったのである。

 たとえここ最近、空中の大気を押し固めて飛んだりすることはあれど、流石に自身の体調に対する策など、浮かばなかったのであった。

「……全く、これが使えるなんてわかったのほんのちょっと前なんだよ?なのに、また宴会あるなんて……これはあれかい?僕に酒の飲み過ぎで身を滅ぼせとか言うつもりかい?」

むしゃむしゃと、サラダを頬張り噛んで飲み込んでからそうイオが文句を言うと、

「えー……だって、料理食べたいのにー(チラッチラッ)」

ちらちらとこちらを見ながら言った彼女に、イオはいらっとしながらも、

「――へぇ、そうかい。じゃあ依頼になるね?言っとくけど、もうまけるつもりはないよ?」

とイイ笑顔でささっと金額が書かれた紙を出しながらそうのたまうと、

「えー!?そんなに金とるんですか!?」

と、射命丸はその金額に驚愕し、卓袱台に手を叩きつけながら叫んだ。

「あたり前でしょ?たまにする宴会だけだったらまだ話は分かるけどさ。ここんとこほぼ三日おきで宴会起きてるよね?言っておくけどさ、僕はなんでも屋ではあるけど、流石に人里の皆を差し置いて、宴会料理ばかり作っていくつもりは毛頭ないよ?」

「うー……そこをなんとかお願いできません?実のところ、皆さんに安請け合いしてしまったんですよう……イオさんをなんとか宴会に引っ張り出してくるって」

「自業自得だよねそれ。とにかく、今日は休ませてもらうよ。慧音先生にかなり睨まれてて、結構肩身が狭いんだからさ」

話は仕舞いだ。

 そう言いたげに打ち切ると、今度こそイオは朝食を全て食べ始めた。

 

 にべもないイオの様子に、うう……と、涙目になって顔をうつむいている射命丸の服の裾を、ちょんちょんと誰かが引っ張る。

 言わずもがなルーミアなのだが、彼女は不機嫌そうなイオとは対照的に、キョトンとしたように射命丸を見つめていた。

「……ねぇねぇ、文。どうしてイオにばかり頼むの?そんなにイオの料理っておいしい?」

「――そりゃそうですよ!あの紅魔館のメイドである咲夜さんや、いつも大量の料理を作り慣れてる妖夢さんとかが絶賛するほどの料理なんですよ!?」

そりゃ、毎回宴会で食べたくもなるじゃないですか!

 こぶしを握り、ガッツポーズをするように告げる射命丸に、食べ終わったイオは、

「……本気で言ってるの君たち?いくらなんでも僕の料理だけがうまい訳じゃないでしょ?」

「それは確かにそうなんですけれど……評判が、はっきり言って高いです。妖怪は普段人肉、そして人間の感情を糧にしている者が多いのですが……あのイオさんの料理を食べた後全員が全員絶賛して、むしろ、御持ち帰りしたいくらいだとか仰っている人もいました」

「――何だって?ねえ、ちょっと。僕の聞き違いかな?『御持ち帰りしたい』って言った?――――『何』をだい?」

聞き捨てならない言葉に、イオはジト眼になって射命丸を見やる。

 もし、その言葉が『物』であるのか『人』であるのかで、彼女、そして今後宴会に出てくる人外に対する扱いを決めるつもりだったからだった。

 イオの言葉に、射命丸は一瞬しまった、という顔になると、

「いやー……馬鹿な事を言わないで下さいよう。もちろん、『料理』の方ですよって」

「――ねぇ、射命丸?あのさ……隠し事は、だめだと思うんだ♪」

「あっきゃああああ!!?」

一瞬にして射命丸の背後に回ったイオが、全力でアイアンクローを彼女の頭に見舞ったために、激痛で射命丸が悲鳴を上げる。

 そのままギリギリ……と締めあげながら、イイ笑顔で、

「ほら、さっさと吐かないと、脳漿ぶしゃーだよ?」

「ひぃ!?言います言いますから!その手を止めてぇええ!!?」

何時にない自身の頭の危機に、必死になって射命丸が止めたのであった。

 

――――――――

 

「……はぁ。死ぬかと思いました」

「冗談。そんな簡単に君たち妖怪は死なないでしょ。精神によって形作られているものなら特に、ね」

ぐてー、と卓袱台上で体を伏せている射命丸に、イオは片付け終えた後の仕事にしている、服の繕いをしながらそう告げた。

「……全く、まさか『僕』の方を御持ち帰りしたいなんて言ってたやつが居たとはね……これは一回、彼女たちとの関係を見直した方がいいかな」

幾ら問い詰めても、射命丸はその事を云った人物の名前を出さないし。

などと、ジト眼で彼女を見ながら文句を言うと、

「勘弁して下さいよぅ……言ったら私が死にますって。ていうか、いいですかイオさん?貴方、思っている以上に皆さんに人気なんです。」

人里にも、人妖の人たちにも、ね。

そう言うと、ぐったりとしたまま、射命丸はイオの評判をつらつらと述べていく。

 

いわく、神秘的な輝きを放つ金色の眼と、幻想郷にはない海のような色の髪。

いわく、だれにでも穏やかに、それでいてたまにはっちゃけて笑わせる。

いわく、何でも屋としてはかなり良心的な価格の依頼報酬の事。

いわく――――二十五歳という、童顔めいた見た目からしてかなりの好物件。

 

「……ねぇ、世迷い事を言うのこの口?ねえ、この口?」

「ひたいひたい、いほさんひたいですよぅ」

ぐにぐにと、今度は射命丸の頬を両手でひっぱりあげながら、イイ笑顔でイオが言うのに、引っ張っている手を叩きながら射命丸が抗議した。

 既に涙目になっている彼女が、引っ張られたままそれでも言おうと、

「ひゃって、いほさん。こっひきてかあおんだけめでっあとおほっえるんえすか!?」

「ごめん、言っている言葉がよく分からない」

なんとなく、言っているであろう内容には推測がつくが。

「うー……あったらはなしてくだひゃいよぅ」

「はいはい……で、どんだけ目立ったと思ってるんですか、だったっけ?」

「そうです。……もう、すごく痛かった」

慰謝料を請求せざるを得ない、などと世迷い事をまたもや口にしている彼女に、イオはにっこりと笑いながら、

「いやー、ゴーレムの事だったら申し訳なかったね。あれ、楽しくてさ」

「……むぅ、イオって、かなり子供っぽいね」

と、楽しげなイオに対し、射命丸と同じように卓袱台に突っ伏していた、見た目が子供なルーミアがそう言うと、イオは苦笑して、

「それ言われちゃうとねえ……否定できないけど。でも、わかんないかなー?今まで殺伐とした世界にいたせいか、こういう楽しいことがどうにもねえ」

結果として、あんなに人間そのものなウッドゴーレムを創り出してしまったのだと、イオは笑いながらそう告げる。

 その様子に、ようやく元の様子に戻った射命丸が頬を抑えながら、

「それ、何か分かる気もしますけど……なんで、私が頬を引っ張られなきゃいけないんです?」

涙目のままジト眼になるという器用なことをやってのけながら、射命丸はぶつぶつと文句を呟いた。

「だって、聞きたくもないような言葉を言われたんだもの。それに、この間、僕への迷惑も顧みずに紅魔館の窓から飛び出していった分も含めてね」

「あれ!?わりと自業自得だった!?」

今更ながら叫ぶ射命丸に、イオは深いため息をついてから、

「……さて、と。まあいろいろと事情が重なってるから、今日の宴会は出れないと言っておいてくれる?」

「うー……やっぱり無理ですか?霊夢さんとか、魔理沙さんとか、アリスさんとかに怒られちゃうんですけど」

「――待った。なんでその三人だけピックアップした?」

再びジト眼になったイオは、そう言って射命丸にずいっと詰め寄る。

「えぅ!?い、いやだなあイオさん別に何でもないじゃないですかあははは」

「……はぁ。ま、いいけどさ。よいしょっと……じゃ、ルーミア留守番お願いね?今日、なんか慧音先生から授業とは別に依頼があるらしくてさ」

そんな事を言いながら立ち上がると、かちゃ、と流しの桶に皿を漬けてから、普段から使うようになった二振りの刀『朱煉』を腰に括りつけると、からからから……と玄関の戸を開き出て行った。

 あとに残された二人はと言うと。

「……どうしよ、ホントに」

「…………まあ、なるようにしかならないんじゃない―?」

打ちひしがれている射命丸と、おっとりのんびりとしたルーミアと言う対照的な図が生み出されたのであった。

 

―――――――

 

「――つまり、『太陽の畑』という所に行って、花の種を分けてもらってきてほしい……という依頼ですか?」

「あぁ。『四季のフラワーマスター』と呼ばれている風見幽香という女性なんだが、この幻想郷においてもトップクラスの古参の大妖怪でね。とはいえ、以前からちょくちょく人里に来ては花屋に寄ったりしているんだ。かく言う私も、出会った当初はちょっと険悪だったんだが、幾度も話をして行くうちに花の話題で盛り上がるようになった。それはもう、色々な花の話題を、な」

そう言う訳でね、今度子供達に花の育て方を教示したいものだから、行ってきてほしい。

 何時ものように生真面目な顔つきで、慧音が深々と頭を下げると、イオはにっこりと笑って、

「ええ、構いません。正直、ここ最近の宴会続きにはもう辟易していたものですから。こういう依頼でもない限り、かなりの割合で料理を作らされてたと思います」

いや、どちらかというと苦笑に近い笑みを浮かべてイオはそう言った。

 そんな彼の言葉に、頭を上げた慧音は少し顰め面になって、

「むぅ……確かに、そうだろうな。私も君の料理を食べさせてもらったが、あのおいしさは結構病みつきになると思うぞ?」

「……そうですか。射命丸の奴、嘘を言ってるわけじゃなかったんだ」

正直、いつもの新聞ネタの様に誇張しているものと思っていたイオは、かなり意外そうな面持ちになってそう呟く。

 その言葉に、慧音は苦笑すると、

「まぁ、あの鴉天狗も普段はふざけているがな……記事に対する思いは純粋だと私は思っているよ。とはいえ、誇張に誇張を重ねたものは流石にだめだが。……ま、とりあえずだ。風見幽香に対する注意をすこしばかり言っておくよ」

 

――絶対に、失礼な態度は出すんじゃないぞ。

 

「いやだなあ……それなりに気心の知れた人ならともかく、初対面で失礼なことしませんよ僕は」

至極真面目な顔つきになった慧音に言われ、それでもイオはおっとりと笑った。

 その様子に、慧音は呆れたように首を振ると、

「あたり前だろう。どうにも君から子供のような気配をかなり感じるからな。普段寺子屋の授業でやっているのと同じ態度で彼女をからかうんじゃないぞ?いいか、これは振りじゃないからな?彼女は、古参の大妖怪であるだけあって、かなりプライドが高い。しかも、彼女自身が花の妖怪であるせいか、彼女の目に入る範囲で花に何かしてみろ。すぐに消し墨にされるからな?」

ただでさえ、レミリアとの戦いで人里まで魔力の波動を飛ばしたのだから当然だろう?

「あれぇ!?僕、どれだけ信用ないんですか!?」

ひどいと言えばあまりにひどい彼への評価に、イオは眼をむきながら叫ぶ。

 どうやら自覚がないらしい、そう思った慧音は深くため息をつくと、

「……まあ、とりあえず行って来なさい。気を付けてな」

「――くっ、帰ったら絶対その評価覆してやりますからね!覚悟してて下さい!!」

傍から聞けば負け犬の遠吠えにしか聞こえないセリフを言い放った後、イオはずんずんと大股で寺子屋に隣接する慧音の家から出て行った。

 其のあとを見送りながら、慧音は不安が胸のうちにどんどん湧いてくるのを止められない。

(……本当に大丈夫だろうか……)

明らかに頭に血が上っていると思しき彼の後ろ姿に、深く彼女は溜息をつくのであった。

 

――――――――

 

「……えーと、太陽の畑は、と……あっちか」

出がけに慧音から渡されていた地図を見ながら、イオは空気を押し固めて足場にしつつ飛んでいた。

 眼下には森林が、山脈が、夏の真っ盛りの象徴である深緑色を見せて、風に揺れている。

「……此処まで、心が落ち着く自然は見たことないなあ」

ぽつり、呟きながらイオは尚も空を駆けた。

 時刻は午前九時ごろ。

 既に暑くなりつつあるこの好天に、イオは夏の季節に着る旅装、そして腰に『朱煉』を括りつけて飛んでいたのであった。

 空を飛んでいるとはいえ、それでも飛べる妖怪や妖精等が、襲い掛かってくるためである。

「……くらえ」

 

――風遁『颱風の通り道』――

 

「きゃぁああ!?」

少し強烈な弾幕を浴びせ、難なく妖精を倒していきながら飛んで行くうちに、

「やい!そこの奴あたしと戦え!」

突如、これまでの妖精達とは格の違う妖精が現れた。

 背中に氷のような三対の羽根を持ち、蒼天にあって溶け込みそうなくらいに蒼色のワンピースを着た、ウエーブが入ったセミショートヘアの彼女。

「……いや誰よ君」

唐突に現れたとしか思えない彼女に、イオは若干呆れたようにそう呟くと、地獄耳なのか耳聡くその声を拾った彼女は、

「あたい?あたいの名前はチルノ!『湖上の妖精』チルノだよ!!」

胸を張り、堂々として自身を誇示した。

「おや、御叮嚀に。僕はイオ。みんなの間じゃ、『疾風剣神』なんて異名で呼ばれてる」

油断なくそれでいて自然体のままイオがそう返すと、彼女はその勝気そうな顔を怒らせて、

「イオ……それが、お前の名前か!やいやい、よくも皆を倒したな!?」

「いや、倒さないと死ぬのはこっちだし」

もしかして、この子あほの子なのだろうか。

 攻撃に対して迎撃するなとはこれいかにと考えるイオは、そう言って呆れたように首を振る。

「五月蠅い!馬鹿にするんじゃないぞ、あたいはさいきょーなんだ!これでもくらえ!」

 

――氷符『アイシクルフォール』――

 

「おわ!いきなりかい!?」

唐突なスペルカード宣言に、慌ててイオは身構え、呪文を練り上げた。

 

『砕けろ刃、滅せよ命。其は全てを破壊する雷神の象徴なり……!』

 

――雷遁『雷神之鎚=収束型(ミョルニルスパーク=レーザー)』――

 

ばりばりばり、と雷の轟音と共に、イオのスペルカードから極太の雷のレーザーが発射される。

「!?な、魔理沙のと同じレーザー!?」

自身の氷の弾幕が彼に襲い掛かる前に出たそのスペルに、チルノは驚愕しながらも撃つ手を止める事はない。

 

――だが、その判断が誤りだった。

 

「っ!?けされ――――」

その言葉と同時に、彼女はレーザーに撃ち抜かれて墜落していく。

 何処からともなくぴちゅーんと幻聴が聞こえてきたように感じたがそれはそれとして、イオは首を振りながら空に立っていた。

「……全く、油断も隙もありゃしない。妖精まで襲い掛かってくるなんてさ」

文句を口にしながらも、それでもイオは辺りを見回し警戒を怠らない。

 一度油断したせいで魔物に切りかかられた覚えが、旅をし始めたころにあったためだった。

「――大丈夫、だね。さて……と、行くか」

っとん、と軽やかに踏みしめ、イオは空中を駆けて行く。

 

 しばらくして空を飛び続けていくうちに、ふと、眼下に金色が舞い踊った。

「……うわ、こりゃ予想外だ……花、なのかなこれ?」

すとん、とすぐ近くに降り立ち、イオはまじまじと花を見つめる。

――直後、声ならぬ声が聞こえた。

 

『――誰?』

『知らない、空飛んできたみたい』

『何か、妖怪の匂いする』

『それに、私達と同じ気配する?』

『幽香ー、お客さーん』

 

「なん、だ……この、声」

突如として脳裏に響いてきたその声に、イオは言葉が詰まってしまうほどに驚愕する。

 何故かと云えば、そもそも、彼の能力である『木を操る程度の能力』は、樹木と会話することが出来る代物なのだが、樹木の中においてはっきりとした自我を持っている固体がなく、あってもぽつりぽつりとしか意志を伝えるものしかなかった為だった。

 それが此処にきて、しっかりとした自我を持っている植物に出会えたのであるから驚きもかなりのものである。

 

『わぁ……大きい力ー』

『んー、木?風?雷?』

『とにかく、大きいねえ』

 

「……えーと、君たち?ちょーっと、人探しをしているのだけど」

意を決し、イオは少しばかり緊張しつつも彼女?達に向って話しかけた。

 すると、脳裏に感じる彼女たちの気配が驚いているような気がした後、

『聞かれた?』

『私達の声、聞かれた?』

『幽香ー?このひと、やっぱり私達と同じ気配ー』

 

誰かを呼んでいるのか、しきりに騒がしくなってきた声にちょっと眉をひそめつつ、この花たちの事をよく観察してみると、

「……やっぱり、か。此処の花たち、かなり妖力もっているみたいだ」

通常の花にしては不思議だと思っていたが、まさか妖怪化しかけている花だとは、イオは思いもよらなかったのである。

 しかも、この気配からするに、かなりの大妖怪がバックに付いていると思われた。

(多分、幽香と言う人がそうなんだろうけど……ん?幽香?)

慧音から聞いた、『四季のフラワーマスター』と同名であることに、ようやくイオが気づいた所で。

「――はいはい、今行くわよ。……って、貴方……そこで何をしているのかしら?」

唐突に、背後から威厳たっぷりな若い女性の声が聞こえ、思わずイオは凍りついた。

 声を駆けてきた当人は、その様子に気づいておらぬようで、

「しかも、何だか妙に魔力を感じるし……貴方、いったい何者?この『太陽の畑』になにか御用?」

若干、冷酷さが増した声が彼を叩く。

 冷や汗を流しながらもイオは振り返り、深々と一礼して、

「あ、あははどうも今日は。人里の何でも屋、イオ=カリストと申します。本日は、上白沢慧音さんから依頼を受けまして、貴方に花の種を頂きに参りました」

顔と声が引き攣るのを感じながら、それでも笑顔を浮かべてそう告げると、

「慧音?……ああ、貴方あの半獣の教師の御使いで来たのね。――そう、分かったわ。こちらに付いて来なさい」

「わ、わかりましたが……貴女が、『風見幽香』さんでよろしかったですか?何分、詳しい容姿の事には触れられなかったものですから」

恐る恐る、目の前に立っている襟元に黄色のリボンをつけた白のブラウスの上に赤のチェック柄のベスト、そしてスカートを穿いた緑色の髪に紅い眼を持つ女性に向ってそう尋ねた。

 すると、彼女はにこり、と何処か凄みのある笑顔を浮かべて、

「えぇ、そうよ……改めて、自己紹介しようかしら。『四季のフラワーマスター』……風見幽香よ。宜しくね……人里の、『疾風剣神』さん?」

その瞬間を、けしてイオは忘れないであろう。

――冷酷な笑顔と共に放たれたその妖気は、あの隙間の大妖である八雲紫と、同等の気配を放っていたのであるから。

 ただただ、戦慄するばかりであるイオに、風見幽香は嘲笑うだけであった。

 

 

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