――アルティメシア。
幻想郷の外に広がる地球という世界とは別の、位相も星もそして流れる歴史すら異なる、地球の日本と呼ばれる国と同言語を使用する世界。
そして、何よりも忘れてはならないのが、現在の日本よりも幻想に満ち満ちているという事であろう。
そんなアルティメシアと言う異世界の中、東のジルヴァリア大陸内に存在する三大国のうち、クラム国と言う国が、ジルヴァリア大陸の東側に存在していた。
――別名、『智の国』と号すると言われている。
「――なに?イオの形跡が途絶えた?」
「はっ。『疾風剣神』殿は、かのゴルドーザ大樹海の周辺に点在する街のギルドにて、古代遺跡の探掘を行うという旨の言葉を受付嬢に告げたまま、立ち去られたそうであります。……少なくとも、此処二カ月の間は全く姿を見せていないとか」
「…………あの、馬鹿。油断してどっかの遺跡に取り込まれやがったな。――もう少し、行方を探ってみてくれ。もし、それでも見つからないようなら……俺が、出る」
赤銅色交じりの金髪に、赤き瞳を持つイオと同年代に見える貴族の青年が、自邸の自室にて苛立ち紛れに騎士に向ってそう告げた。
当たり前のようにそう言われた下僕は、彼の言葉に顔を青ざめさせると、
「な……ラルロス様が、お出でになられると……!?」
「あたり前だろう。ずっと学院じゃ一緒に馬鹿やってきた仲なんだ。色々とアイツには借りもある事だしな。……ここで行かなかったら男じゃないぜ?」
向き合っていた机から眼を離し、ラルロスと呼ばれたその青年は騎士に向ってそう告げる。
だが、そうはいかないのが貴族の常であるわけで、
「何を仰っているのです!貴方様は次期、ルーベンス家の当主になられるお方だ!御親友の事はなにとぞ、我らにお任せを……!!」
「それこそ馬鹿言うな。あいつが手間取った遺跡何ぞ、お前らの実力じゃ到底踏破できねえよ。少なくとも、あいつと同じくらいの実力持った奴でないとな」
がりがりと頭を掻きながら、青年――ラルロス=クロム・フォン・ルーベンスは自室より出て、己が真の武器を手にしに動き出した。
「っく!ラルロス様はお優しすぎる!我らの事など、気にかける必要などないのですぞ!」
「――お前。本気でそう言ってやがるのか?」
ぞくり。
本気でブチ切れた様子のラルロスが、足を止めぎらぎらと光るその瞳で騎士をねめつける。
余りに明白なその怒りの色に、しかし騎士はひるむことなく受けて立ち、
「何度でも、申し上げるまでであります!幾つも、我らは若の命に従って参りました!拾って戴いた御恩を返そうと誓ったからであります!」
と、堂々たる意志を以て突きつけた。
その様子に、ラルロスは深くため息をついてから、
「――こんの、大馬鹿野郎が!!」
兜を脱ぎ、全身を金属鎧で固めたその騎士を殴り飛ばす。
絨毯が敷かれたその床に、けたたましく金属音が響き渡るのを聞きながら、ラルロスは怒りのままに騎士を睨みつけた。
「……どうも、俺の騎士たちは気づいていないようだがな。俺は無駄死にを許すつもりはない。それに、言っただろう?」
――お前らでは、完全に足手まといだと。
「――っ!どういう意味でございますか!我ら、日頃より鍛錬は怠らずあり続けてきた自負がございます!それを!」
「阿呆。お前はあいつと同じ位の腕前に至ったと言えるのか?あの、冒険者ランクがSSランクである、『疾風剣神』とよ」
アイツがいなくなるほどの危険さ……お前に分からない筈がないだろうが。
焦燥の色を浮かべたラルロスがそう吐き捨てるように告げ、騎士はその言葉に、かつてこの国で開催され、今なお語り継がれる伝説の闘技大会の事を思い出してしまった。
『――二刀流、龍王炎舞流最終奥義……!!』
『集え、集え。この星に刻まれし最古の記憶。全ての始源よ、集い来たりて彼の者を穿て――!!』
――『紅蓮龍皇炎舞』!!
――『虹之光輝』!!
斬撃の嵐と、全ての属性が込められた魔法の嵐。
イオ、そしてラルロスが決勝戦にて魅せたあの技の数々は、まさしく神話にも挙げられそうなほどであったと、当時同僚に頼んで警備を代わって見に行っていた騎士は思い返した。
その、とんでもなさを見せつけた彼らの内の一人が手こずっているという古代遺跡。
すぅー……と静かに青ざめていく騎士の顔に、ラルロスはやっとわかったかとでも言いたげに頬を掻くと、
「……アイツがこの二カ月で姿も現さないというのは、かなり珍しい部類に入る。完全に俺達と縁を切ったつもりでいなくなったか。誰かによって何処かに飛ばされたかのどちらかだ。そこまで出来る奴がいること自体、あいつよりも強大な力を持っていると推測せざるを得ないんだよ」
おそらく、アイツが油断していたところを見計らって行ったに違いないからな。
『賢人』と呼ばれる異名の通りに、恐ろしいまでに頭の冴えを見せつけたラルロス。
「……くっ。この身が御身の邪魔になってしまおうとは……!」
「落ちつけ。こんなことなんかそうそう起きねえよ。滅多にあいつと打ち合って勝てる奴なんかいないし、そもそも『壁』を超えた奴等しか対応できねえからな」
アイツの義父とかな。
考えるようなそぶりを見せつつ、ラルロスはよし、と呟くと、
「――おい。もしもの事があれば、姉上を次期当主として立てるように父上には言っておけ。おそらく、かなり修羅場になること請け合いだからな」
「!!?何を突然――!!」
あっさりと、通常の公爵家のものとは思えないその言葉に、騎士が驚愕していると、ラルロスはそんな彼をほっぽいて、己が準備をする為に立ち去ったのであった。
――――――全ては、あの穏やかに笑う、若き剣神を助けんがために。
はい、というわけでクラム国でした。
ちょいと短いですが、次へと進みマース。