東方剣神録   作:上田幻

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第二十二章「分かち合うは空を駆ける友」

 

――一夜明けた翌日、イオは依頼を受けて遂行する生活に戻っていた。

「……ふぅ。これで、どうにかなりましたよ。とりあえずですが……この作物を収穫するまでは病気にかかりにくくしておきました」

「あ、ありがとうごぜえますだ、イオさん!正直、おらの畑の作物、どんにも病気にかかりやすぐで。今年も収穫時期に採れないんじゃと思って心配だっただ」

おっとりとした、田舎に共通の訛り言葉でしゃべる目の前の百姓の男に、イオは少し考えてから、

「……おそらく、立地条件と言うものだと思います。農地だって、場所の相性と言うものがあるわけですしね。とはいえ、今回の場合此処はそう悪くはない筈なんですが……」

むしろ、土壌的に見ればかなりいい方だと思われる。

 何時ものように依頼でやってきた、今回の農地を見回しながらイオは口ごもった。

其れなりに広く、赤茶色が広がる畑の周りに、囲むようにして木が生えているその農地。

 先程土を掘り返してみたが、良い土壌であることを示す小動物の類が多数存在している事、加えてそれなりに住んできているのであろう彼の言葉からも、この土地がいかに良い土地なのかをイオは感じていた。

――だからこそ、ちょっとばかり不審に思う訳なのであるが。

「……だめですね。流石に、植物たちの免疫性を高めることはできても、そこまで農業の事に詳しい訳ではないので……申し訳ありません。お力になれなくて」

「いや!謝らなくてもいいですだ。わだしたち、食っていければ大丈夫だがら」

きにしなくていい、とそばかすが頬に浮かぶ、いかにも農場の息子と思わせる彼は、笑って手を振る。

 だが、イオは何でも屋である以上、なるだけアフターサービスも行わなければならない身だ。幸い、その手の事に詳しそうな伝手には心当たりがあるため、その事を言ってみる。

「……もし、良かったら僕の方でつてをたどってみますが」

「……え!?い、いるんだか?そんなひど」

驚いたように彼が叫ぶが、イオはその言葉に苦笑すると、

「まぁ、厳密には人じゃあないですけどね……『風見幽香』さんですよ。一応、人里の守護者慧音さんから依頼として彼女の所に行くことがありまして。その縁で少しばかり土の事を教えてもらったことがありますので」

そう言って笑う彼に、だが目の前の青年は、とんでもない名前を聞いた気がして戸惑っていた。

「……あ、あのざイオざん?いま、なんが凄い名前をぎいた気がすんだけど?」

「え?ああ、『風見幽香』さんですね」

至って何てことなさそうに告げる彼であったが、彼にとってはそうではない。

 むしろ、その名前を聞いて落ち着いていられるはずもなかっただろう。

「じ、『四季のフラワーマスター』!!?」

「おぅふ。……いきなり、大声あげないで下さいよ」

「だ、だっで、大妖怪でねぇか!イオざん、なんでそんなに普通にしてるだ!?」

「…………ああ、そっか。普通の人は妖怪と聞いたら警戒するよね」

慌てている彼に、イオはむしろ納得したような声を上げた。その様子からは、大妖怪と対峙したという事など、微塵も感じられない。

 それよりも、友人がそんな大層な妖怪であったことを今更ながらに思い出したかのような……。

 怖くなってきた彼が、恐る恐るながらイオに訊ねてみた。

「あ、あのざイオざん……その、フラワーマスダーとは、友達がなんがで?」

「あっはっは!それだったらどんなに良かったことやら」

思いもかけない言葉に、イオは思わず笑ってしまう。

 あの孤高の大妖怪の友人?むしろ、殺し合いをする関係だろう。

 むろん、そればかりではないとは分かっているが、彼女はそれでも、一人であり続ける妖怪であるのだ。

――気高きプライドと、家族である花たちを守るためだけにかの存在はある。

「……どうにも、この間戦って勝つとはいかないまでも引き分けにしたのが不味かったみたいで。あれから、やたらと勝負をふっかけられるんですよねー」

「ちょ!?それ、ほんどのこどだか!?」

戦って生き残っている事もそうだが、彼が幾度もあの花の大妖怪と対峙している事に、彼は本気で驚いた。

 そんな彼女に、イオは困ったように笑いながらも、

「ま、そういうわけなので彼女に色々と訊いてみますよ。もしかしたら、原因も分かるかもしれませんので」

そう告げると、イオはぐぐっと背を伸ばしてから、

「じゃ、今日の依頼はこれで遂行できたと思っていいですか?」

「え……あ、そうだ!ほんとに、ありがとうごぜえました!すくねえようですが、これが報酬になりますだ」

慌てて彼が懐を探り、小さいながらもしっかりとしたつくりの袋を取り出し、そのまま彼に渡してくる。

――だが、彼はそれを受け取るつもりはなかった。

 優しく袋を受け止め、イオは穏やかにしかししっかりと返しながら、

「いいんです。農家の方々の生活もあると思いますから、金銭での報酬は構いません。その代り、今度人里に来られた時、お野菜などが頂けたらなあと」

その方が、十分生活も出来ると思いますしね。

 おっとりと笑いつつ告げた彼に、彼がかなり申し訳なさそうな表情になると、

「うう……申し訳ねえですだ」

「いえいえ。こういうのは仕方がないと分かっていますから。じゃ、失礼しますね~」

そう言って今度こそイオはふっと飛び上がり、そのまま去っていった。

 残された農家の青年はというと、彼が飛び去って行った方角を見つめながら、

「はぁ~。ほんどに、イオざんはものすげえお人だっただなあ。怪我とか病気とか、しないでほしいだ」

眩しそうに空を見上げつつ、イオの平穏無事を祈るのであった。

 

――――――――

 

――人里。

 時折、眠いのだろうか欠伸を洩らしながらも、イオはおっとりと街を歩いていた。

 八百屋に並ぶ商品達を眺めては、美味しそうな果物やみずみずしい野菜に楽しそうに眼をすがめつつ、呉服店に訪れては、『たまにはおしゃれも考えないとな~』などと考えながら。

 そこへ、空から一陣の風と共に降り立った存在が居た。

「――あやや!イオさんじゃないですか!なにされて――」

「そぉい!」

「あいったーー!!?」

迷惑も顧みず、いきなり突っ込んできた人物に、イオは全力で気を込めた拳骨を繰り出す。

 余りの激痛に、ごろごろと地面を転がりまわる鴉天狗――射命丸はしばらくそのまま転がっていたが、すぐに立ち上がると、

「い、いったい何すんですか!かなり痛かったですよ!!?」

「君、良く周りを見てから言うようにね?土埃とか、商品につくだけでも致命的なんだよ?」

涙目な彼女に、しかしイオはけして容赦することなく淡々と言い切った。

 しかし、この場では彼の方が正論であろう。

 と言うのも、今なお彼は人里の街にいるわけであり、直前まで訪れていたのは呉服店だったとなれば、その言葉にもうなずける話ではあった。

 とはいえ、元々が妖怪である鴉天狗だけに、なかなか人間を見ることが出来ないようではあるのだが。

 イオにとってそんな事は知ったこっちゃねえ話であった。

「うぅ……イオさんに会う度、やたらと鋭い突っ込みされてる気がしますよぅ」

ぷすぷす……と煙が上がっている頭をさすりつつ、射命丸がそう呻くがイオはそれに構うことなく、

「申し訳ありません。彼女、僕の友人なのですが……時たま、人の迷惑も顧みず行動してしまう所があって……ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」

と、騒ぎを聞きつけたか、中から出てきた呉服屋の主人に謝っている。

 人里で有名になりつつあるイオに謝れられ、慌てている呉服屋の主人は頭を上げさせようとしたが、頑としてイオは譲らなかった。

 そんな彼らを尻目に眺めつつ、射命丸はいつになくすねたような面持である。

「……もうちょっと、私の事気にかけても罰当たらないと思うけどな~」

否、完全にすねた様子であった。

 まあ、それもむべなるかな。

 普段穏やかで通っているイオが、唯一射命丸に対してはかなり辛辣なのである。いつも取材対象にかんして気にかけない彼女であっても、それはかなり堪えた。

 さらに付け加えるならば、彼の作る料理は本当に美味しく、いつも作ってほしいと思ってさえいただけに、彼の態度がかなり辛い。

(逆にいえば、それだけ遠慮がないってことなんだろうけど……さすがにそこまで前向きにはなれないなあ)

あの態度、無茶ばかりする者に対して強制的に元に戻す為の作業にしか見えなかった。

 そうして、思考にふける射命丸に、声がかかる。

「――ほら、文?この人たちに謝らないと」

「……ふぇ?え、ええ……申し訳なかったです」

突然、下の名前で呼ばれ、戸惑いながらも彼女は言葉に従って頭を下げた。

 呉服屋の主人は、その様子に苦笑しながらも、

「いえいえ。イオさんがいつか自分の服を買う為に来ると言う事で手を打ちましたから。天狗様はもう謝らずとも構いませんよ。むしろ、こちらの利益となりかなり嬉しい悲鳴です。なにせ、『あの』イオさんに御厚意になって下さると言うのですから」

「は、はぁ……?」

どういう意味なのか、新聞記者でありながらそこには気づけない射命丸が、困惑したようにイオを見やると、彼は彼女に向って息を吐いてから、

「詰まる所、僕の人里における人気を利用した事になるね。そうだね……外の世界でたとえを挙げるなら、国王が懇意にしている店と言う事になるのかな?流石に、そこまで極端ではないけど、『イオ=カリスト』と言う、『何でも屋であり人里においては最強に近い剣士』である事実を以て、行ってみれば客寄せ、看板娘みたいな感じで利用されるってこと。迷惑かけちゃったし、実の所此処の品ぞろえと模様が結構気に入ったからね。もし出来るようだったら龍の紋様も今度頼もうかなと思ってたくらい」

こういう着流しの背中に、うねるような青龍の紋様とかね。

 やはりこういう所は男であるからか、何処となくきらきらとした眼で楽しそうに語るイオを、呉服屋の主人は嬉しげに見ると、

「ええ、イオ殿の注文にこたえきれるかどうかはともかく……私どもは誠意を見せたく思いますよ。今後とも、よろしくお願い致します」

「こちらこそ。いい服、期待してます」

にっこりと笑い合い、がっしりと握手をし合うその姿は、まさしくひとかどの商人同士の商談を思わせた。

……なお、イオは何でも屋であり剣士ではあるが商人になった覚えはないので念のため。

 

 そうして、呉服屋の主人に謝罪が済んだ所でイオは射命丸に向きなおった。

「……で?文?今日はどうしたのさ?」

「むぅ……イオさん、最近私の扱いひどすぎません?」

「うーん……そんなひどかった?僕、結構普通にしてたつもりだけど」

「むしろあれで普通だったんですか!!?」

あっさりとしたイオの態度に、射命丸はただ驚愕するしかない。

 だが、それよりも彼女には気になることがあった。

「……まあ、それは別に置きましょう。イオさん、今まで私の事名字でしか読んでいなかったのに、今あの店の人と話していて、私の名前、呼びましたよね?」

「……あれ?そうだったっけ……ああそうだ。忘れてた。ずっと射命丸のままで通してたなあ、ごめんね?」

最初訝しげに首をひねっていたイオだったが、すぐに心当たりに至ったのだろう、申し訳なさそうに謝って来る。

 とはいえ、射命丸はその謝罪を求めていた訳ではなかった。

「いえ、その事は別に構わないんですけど……どうして今なんです?」

「へ?別にいいじゃない。友達なんだから」

何を言っているんだと言わんばかりのイオの表情だが、むしろそれを言いたいのはこちらの方である。

「……あのですねぇ。友達だと思ってらっしゃるなら、私に対する今までの行いは?」

「だって、ああでもしないと君絶対止まらないでしょ?友達の事を思ってやってるんだから」

「それであの威力!!?」

絶望した。どうしようもないこの現実に絶望した!

 友人(イオの認識)の筈なのに、この扱いには大いに抗議をしたい射命丸だったが、よくよく考えて、自分の書いてきた新聞やイオに対するちょっかいの事を思い出してみると、

「……あるぇ?な、なんか私が悪いような……?」

「うーん……悪いと言うより……行きすぎ、だね、この場合は。だからああしているんだけど。なかなか君が僕に向って突進してくるのが止まらなくてさ、困ってたんだよね」

女の子なんだから、もう少し慎み持ってほしい。

 共に歩きながら告げられたその言葉に、射命丸が撃沈した。

 まさか、自分の行いのせいで女の子として慎み持てと言われるとは思っていなかったため、射命丸は歩きながらずーん……と暗い空気になっている。

 だが、そんな彼女に構わずイオはなおも続けて、

「ま、そう言う所を除けば僕は君の事、結構好きだよ?」

「…………うえぇ!!?」

余りにもさらりと出されたその言葉に、数秒たってようやく射命丸が反応した。

 頬を赤くさせながらワタワタとして慌てつつ、

「す、好きって……!!?」

「へ?友達として好きだっていう意味だけど?」

何をそんなに慌てているのか分からず、イオはいたって普通にそう返す。

 そこには何の羞恥も、感情も、邪推出来るような部分はなかった。どうやら、完全に友人としての気持ちだけの様である。

「…………ねえ、イオさん。貴方、人から女の敵とか言われた覚えないですか?」

「……うーん……なんか、やたらとため息つかれた覚えだったらあるね」

はて、あれはいったいなんだったんだろう。

 そう言いたげに首をかしげている彼に、射命丸は深くため息つくと、

「……もう少し、自分の容姿と言葉について、気をつけた方がいいですよ?ただでさえ、色々とイオさんは規格外なんですから」

ようやく落ち着いてきた胸を抑えつつ、ジト眼になって彼に向って文句を告げた。

 その言葉にイオは納得がいかなさそうな表情になりつつも、

「むぅ……善処する、としか言いようがないね。多分、僕自覚がないんだと思うから」

と、小さくぼやくのみ。

 

……と、それはともかく。

「――そういえば、文って今日はどうしたの?なんか、訊く前に色々あったからすっかり忘れてたけど」

今更ながらに今日射命丸がイオに突っ込んできた理由について問いかけたが、当の本人は先程の事をまだ引きずっているのか、すねたように頬を膨らませながら、

「……(ツーン)」

と、そっぽを向くばかりだった。

 その様子に、流石にやり過ぎたと反省したのか、イオが困ったような表情になると、

「もう、何度も謝っただろ?何をそんなにすねてるの」

「……イオさんにはわからないですよーっだ」

あっかんべー、とイオに向って舌を突き出し再びそっぽを向く射命丸。

 いつにない彼女の様子にイオはほとほとと困ってしまい、頭を掻きながら。

「はぁ……また宴会の事?それだったら今日は余裕があるし、いけるよ?」

「ほんとですか!?……って、あ。……ふ、ふん!そんなこと言っても許してあげる気はさらさらありませんよ!?」

「今揺らいだよね文?」

何となく、故郷にいる義父とは別の、もう一人の家族であるとある少女の事を思い出しながら、今度はジト眼になって射命丸を問い詰める。

 だが、そんなイオに彼女はふしゃーっと猫のような声を上げた。……どうやら、今に至ってもなお許すつもりは全然無いようである。

(むぅ……困ったな……場所聞き出さないと、手伝いにも行けないし)

一体何をそんなに怒っているのだろうか?

(さっきの友達として好きって発言かな?でも、本当に友達としてしか感じないんだけど)

何せ、元の世界では文のような、外面は美しいがとんでもなく個性的な女性の友人に恵まれていたために、そうそう勘違いを起こすようなタイプではなかったのだ。

 やたらとひっついてきては頬ずりしてくるような女性までいたのだから、イオの女性観と言うものが変質してしまうのは仕方ないことだった。

(……まぁ、そう言う意味だと、ラルロスのお姉さんには感謝かな?)

次から次へと現れるハニートラップのような女性に対応する術を得たのだから。

 とはいえ、今現在彼女に対していう事ではないことは確かだったが。

(なんて言ってあげればいいんだろ……ってあ、この手があった)

故郷で学院に通っていた頃、こう言えば大抵、なぜか許された覚えがあったある発言を思い出し、イオは意を決して射命丸に話しかけた。

「――えと、何でも言う事ひとつ聞きますから、許してくれません?」

「――――なんですって?」

ぴくり、と肩が跳ね上がりこちらを見つめてきた瞳には驚愕の色しか浮かんでいない。

(ありゃ、だめだったかな?)

予想外の反応に、イオは逆に驚きながらも、

「うん、何を怒ってるのか分からないから、ちょっと最終手段に出てみた」

「アホですか!!」

すぱーん!

 何処からともなく取り出してきたハリセンで思い切りはたかれ、イオは思わずおお?と驚きの声をあげた。

「おお?じゃ、ありませんよ!言いましたよね!もっと自分の容姿とか行動に気を付けてって!」

がみがみ、と腰に手を当てつつどなり声を上げる射命丸に、イオは困惑したように首を傾げながら、

「いやだってさ、文っていつまでも怒ってるんだもの。何言ってもつーんとしか返さないし。どうしようもなくなったからこうしたんだけど……?」

「まさかのブーメラン!!?」

周りの人々がぎょっとして彼らを見るのもかまわず、驚愕の声を上げる彼女に、イオはますます困ったようにして、

「そう言う訳だから、文にそう言ったんだけど……不味かった?」

「……はぁ。ほんとに、アホですか貴方は。もう、いいですよ許します。その代り、美味しい料理、たくさん作ってもらいますからね?――後、今日も博麗神社で宴会やるみたいです。宜しくお願いしますよ」

「……うん、分かった」

ようやく許された安堵でほっこりと笑うイオに一瞬射命丸は見とれかけ、慌ててぶんぶんと首を振りながら、

(イオは友達、イオは友達……ええ、誰がどういっても友達ですはい!)

と、自身に暗示をかけつつ、

「とりあえず、イオさんが来ること霊夢さんとかに言わないといけませんから、一旦此処で失礼しますね」

「うん、ありがとね。今日は頑張って腕振るうから」

おっとり笑うイオと別れたのであった。

 

――――――――

 

「――さて、と……何やってるんですか慧音先生?」

手を振りながら別れた射命丸を見送り、イオはずっと視線を感じていた方へ眼を向け、呆れたようにそう尋ねた。

 彼の眼の先にいた慧音は、その声に身を潜めていた影から慌てて身を離すと、

「や、やぁこんな所で奇遇だなイオははは」

「完全棒読みですよ?こっちをこっそり見て、いったいどうしたんです?」

ジト眼になって慧音を見つめつつ、イオはなおも言い募る。

 それもそうだろう、恐らく、イオに対して用事があったのだろうが、だからと言って射命丸と会話している所を追跡し、多分ではあるがあまつさえ会話内容まで盗み聞きしているのだ。普段、真面目だと思っていた人物がこの事をしただけに正直驚きが禁じえなかったが。

「いや、あのだな……妙に睦まじげに話し合っていたものでな、入ろうにも入れなくて……遠慮していたんだよ」

「はぁ?普通に話しかければいいじゃないですか。言っておきますけど、文とはただの友達ですよ?」

完全に呆れかえったと言わんばかりのイオに、慧音は羞恥で顔を赤らめつつ、

「し、仕方がないだろう!?……と、それはともかく、だ。イオ?少し、君に話があってきたんだよ」

こほん、と咳を一つして、慧音はきりっと真面目な顔になるとこちらに向ってそう告げたのであった。

 




次章から、本格的に三日おきに行われる、あの異変が始まります。
――まぁ、その雰囲気は作中においても結構感じられたと思いますが、イオがなぜ影響を受けていないのかは追々。
 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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