東方剣神録   作:上田幻

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第二十三章「集まりたるは妖力の霧」

 

「――空に、妖力が集まって来ている?」

「……ああ。どうにも、最近空の様子がおかしいと思っていたんだが……よく空を見つめてみたら、かなり薄くはあったが、妖力が確認できた」

――人里、慧音宅。

 イオと慧音はあれからと言うもの、立ち話もなんだろうと言う事で空を飛び慧音の家にやってきていた。

 そこで、イオに告げられたのは先程の会話の通り、空に妖力が集まり始めている事である。

「……ふむ。気の所為……と言う事はあり得なさそうですね」

「そうだな。この私がここ最近空を眺めていてやっと見つけたんだ。気の所為である筈がないよ」

ずず……と湯呑を傾けつつ、茶を飲みながら告げた慧音に、イオは少し訝しげな表情で、

「ですが、おかしいですね……異変だとしたら、そう言う気配がしそうなものですけど。

『春雪異変』や、『紅霧異変』のような、話に聞いていた異様さは感じられませんよ?」

 以前この幻想郷全体規模で発生した、過去の異変を挙げてイオがそう告げると、慧音も同じように顔を顰めさせて、

「そこなんだよ。どうにも、異変らしいものが感じられないんだ。ただ、な……妖精たちや、力の弱い妖怪たちが、この頃妙に騒いでいるのが気になる」

「む……それもありましたね、たしか」

異変の度に騒ぐ、妖精達と妖怪たち。

 ある種、お祭り騒ぎにもなっているようなものだが、実際の所人里においては死活問題に近かった。

 なにせ、畑で作物を育てていれば、妖怪であれば食べられ、妖精たちならば悪戯で引き抜かれる。その仕返しをしようにも、彼らはなぜか力を増しており、おかしなことになっている。

 こうした危険性もあり、人里ではかなり頭を悩ませている問題なのであった。

「……参りましたね、それだと異変が起きている証になってしまうじゃないですか」

「それなのに、それらしいものが見当たらないとなるとな。……はぁ」

二人して溜息をつき、ふと、お互いの状況に気づいて苦笑する。

 しばらく、茶を飲みながら各々考えていると、ふとしてイオが言葉を紡いだ。

「……とりあえず、今日の所はどうしようもないので、失礼させて頂きます。このまま、考えていてもらちが明かなさそうですしね。慧音先生も、何か分かればご連絡ください」

「ああ、そうさせてもらうよ。……そうだ、この後どうするつもりだ?」

「文に誘われましたからね、とりあえず博麗神社に行って料理でも作ってますよ。色々とあの妖怪の賢者に訊きたい事もあることですし」

おっとりと笑いつつイオはそう告げると、慧音も笑い返し、

「ああ、楽しんでおいで。おそらく、いつもどおりに宴会だろうからな」

(……ん?なんだろ、今……)

妙に、違和感を感じたような……。

(…………気の、所為……か)

一礼しつつイオは玄関に向かいながら首を振り、博麗神社へと向かうのであった。

 

――――――――

 

「……お、気付いたかな?あの何でも屋」

空の中、薄く漂う妖力の霧の中に、響く声一つ。

 はるか上空に今まで霧として漂っていた存在は、ふと自身の体を集めさせ、小さな影を雲海に投げかけた。

 その姿は、一言でいえば角の生えた幼い少女であろうか。

 角は二本あり、どちらもかなり捩れた形をとっており、その上服装は何処となく山賊を思わせるような、茶色で構成されたものであった。

 おそらく、イオの元の世界であればこう表現されたであろう――オーガ、と。

 とはいえ、オーガの名で彼女を表すにはかなり遠い。

 

――なぜならば、彼女はこの幻想郷において、失われし最強の種族……『鬼』であるからだった。

 

 だが、今現在彼女を、そして彼女の一族を知る者はいない。

 その理由は、かつて存在していた彼らが、人間の浅ましさ、そして嘘をつかれたが為に、義侠心を持ち、嘘をつく事をよしとしない真っ直ぐな心を持つ彼らは、今まで人間に抱いていた愛想と言うものを尽かしてしまい、その身を地底と呼ばれる場所へと隠してしまったのだった。

 とはいえ、残らなかった者もいないではない。……一人だけ、ではあるが。

「くっくっくっ。面白くなってきたかな?」

腰に括りつけた瓢箪を取り出し、ぐぐっと一気に呷りひとり呟いた。

「正直、いきなり私の領域から抜け出せたのには驚いたけどねえ……やれやれ、あいつの能力、意外に馬鹿に出来なかったなぁ」

『木を操る程度の能力』。

 それは木と言う属性を、世界を操ることが出来ると言う代物であったわけだが、同時に自身の肉体を、木そのものに組み替える力でもあったわけであり……。

「あの花妖怪と戦った後、ぐったりしてたのに直ぐに体調が元に戻ったのも、あの何でも屋が言っていた通りに、『調和』を司る特性がすぐに治してたんだろうね」

故に、精神的なものに関わって来る能力に対しては、ある種免疫性を持っているとみていいだろう。

「いやはや……こんな方法で逃げだされるとは思わなかったなあ」

けらけらと笑いつつ、またぐぐっと酒を飲み干しつつ呟く鬼。

 

――『密と疎を操る程度の能力』。

 

 それが、彼女の持つ能力であり、ここ最近の宴会が続いている原因であった。

 とはいえ、今のところ違和感を抱いたイオ以外、気付いている様子は全くないが。

「……ふむ、そうだね……依頼、出してみるかな?」

恐らく、すぐには博麗神社にはいかないだろう。

 なにせ、料理を作ると言うのだから、どうしたって色々と準備があるわけで……。

「あいつの家行って、待ち伏せするのもいいかもねえ」

けらけら、と再び彼女は笑うと、すう……と霧へと身を変化させたのであった。

 

――――――――

 

――人里。イオ=カリスト宅。

「――さて、と。ルーミア……留守番大丈夫かい?」

「うん、だいじょぶだよー?」

こてん、と首を傾げ、イオが作った棒のようなお菓子を食べながらルーミアが返事する。

 その様子に、イオは申し訳なさそうな表情になって、

「……ごめんね。ここ最近落ち着いて家にいなくて」

「いいよー。美味しい料理たくさん作っておいてくれてるから」

居間のちゃぶ台の上に並ぶ、ルーミアの今晩の夕食の数々を見ながら、ルーミアはおっとりと幸せそうに笑った。

 実際、それが彼女の幸せなのだろう。

 だが、イオはそれでも申し訳ない気持ちが大きかった。

「……多分だけど、今日の宴会が終わればしばらくは家にいるからね?色々と、ルーミアに買ってあげたいものもあるし」

「え!?いいの!!?」

「うん。僕の身勝手でルーミアがこの家にいるようなものだからさ」

思った以上に歓びの声を上げる彼女に、イオはそう言って笑った途端。

 

「――おやおや。人間とはいえない位妖怪に優しすぎじゃないかい?」

 

「――だれだ!?」

いきなり、家の中より聞こえてきた若い女の声に、イオは思わずルーミアを抱えあげ、大きく飛び下がって縁側に行くと、ちゃきり、と腰に据え付けた朱煉に手をかけた。

 おおお?と抱えられているルーミアが吃驚しているが、その様子にも構わずただ身構え続ける。

 だが、再びその声が聞こえてきたのは、背後からだった。

「くっくっく……いい動きだねえ。うん、合格だ」

「なん、だって……?」

心底驚愕した表情で、イオは恐る恐る背後を見やる。

 するとそこには、不可思議な衣装を着て、頭から二本の角を持った少女が立っていた。

冷や汗を流しながらも未だに警戒しているイオを見て、一瞬考えるそぶりを見せてから、

「ふむ、ちょいと自己紹介が必要なようだね。……私の名は伊吹萃香。『小さな百鬼夜行』、『技の四天王』と呼ばれた、鬼だよ。ちょいと、お前さんに用事があってきたんだ」

腰に括りつけた瓢箪を取り出し、グイッと呷った後にそう告げたのであった。

 

―――――――

 

――場所変わり、博麗神社。

 ここ最近、ほぼ毎日のように行われる宴会は、とある鴉天狗がもたらした一報により、ますます盛り上がろうとしていた。

「ふふふっ、イオさんが来るイオさんが来る~♪」

そんな中にあって、やはりと言うべきなのだろうか、一報をもたらした射命丸はイオの料理が食べられるとあって、かなり浮かれまくっているようである。

 その様子に、普段は思いのままに飲んでいる霊夢がいらっとした様子で、

「ねぇ、さっきからうっさいわよそこの鴉天狗。丸焼きにされたい?」

「……言うに事欠いて丸焼きかよ。そんなん食いたくないぜ」

呆れたように首を振って言うのは、『普通の魔法使い』である魔理沙だった。

 彼女も、大いに酒を飲んでいるのか、それなりの大きさである盃を傾けて、美味しそうにそれでいて大事に飲んでいる。

 だが、そんな彼女たちに構うことなく射命丸は、

「だって、あのイオさんの手料理ですよ!今までも食べてきましたけど、あの人の料理本当に美味しいんですからね!?なんて言うんでしょうか……そう!力が回復するような、そんな感じを味わえるんですよ!」

握り拳を作り、眼を爛々と輝かせながらそう力説した。

 その言葉に、魔理沙も何処か思い当たる部分があったのだろうか、あー、と納得したような声を上げた後に、

「……そういや、あいつの作った料理大抵美味い上に、私も魔力が増えるような感覚を感じたんだよなぁ。ちょっと前まで出てきてた宴会の後、チルノとやったら何か威力が増してた感じがしたし」

「……ちょっと待ちなさい。魔理沙?貴女、本気で言ってるの?」

妖夢や咲夜が作った料理をつつきながら、アリスがそう言って真面目な顔つきで魔理沙に問いかけると、彼女はやや赤味がました顔を上下に振りながら、

「ああ。多分だけどな。と言ってもなあ……宴会の後って大体皆酔っ払ってること多いだろ?気のせいかと思ってな。それに、すぐにその感覚は消えちまうし」

近くにあった大皿から、いくつか肴を取って食べながら魔理沙がそう告げると、アリスは少し考えるようなそぶりを見せてから、

「……普通に考えれば、イオの料理が一時的な魔法薬に近いものになってるってことよね……ねぇ、パチェ?」

「……ふん、そうね。言われてみれば、私もそんな感覚がしたわね。後からすぐにその感覚は消えてしまったけど、でも、私の場合そこまで酔いつぶれていた訳ではないから、すぐに原因を調べたわ。……だけど、体に影響ない範囲で魔力が増幅していただけという事実しか、大して分からなかった。……一回、イオを問い詰めてもいいんじゃないかしら?」

宴会のさなかにありながら、『動かない大図書館』の二つ名のごとく、何時もの通りに魔導書を読み進めるパチュリ―の瞳から、一瞬きらりと光が飛びだした。 

 何が何でも原因を突き止めてやろうという、そう言う意志を感じられて、思わず魔理沙が息をのみこむ。

 普段図書館に侵入しては彼女に怒られている事しかないが、彼女も先達であるという事がよく感じられた。

――とはいえ、自分の先に存在する彼女たちに追いつきたいと思っているのも確かなのだが。

「……んじゃ、イオに訊いてみるってことで。ほい、酒どんどん飲もうぜ~♪」

「貴女ねぇ……普通に考えればあり得ないことなのよ?たとえ一時的にとは言え、通常のやり方と異なる魔力の増幅なんて、滅多にあるものじゃあないわ。貴女の場合、たとえば瘴気が漂う魔法の森でとってきたキノコあるいは植物を使用する事で魔法を行使している。その中には、当然魔力を増幅させるものもあるでしょう?ま、そうはいっても身に余る魔力なんて、大抵魔力酔いにしかならないけれどね」

真面目な顔つきのまま、アリスはそう言って続けた。

「とにかく、しばらくの間はイオの料理はやめておきなさい?食べすぎで魔力酔いになるなんて醜態、見ることになるなんて嫌だからね?」

「げっ……マジかよぉ。あいつの料理、ほんとに美味いのにさあ。いっそのこと、永久に就職してもらいたい気分になるくらいなんだぜ?」

そう言って魔理沙が料理を掻きこんでから顔を上げると、何時の間にか、この場所だけ沈黙が漂っている事に気づく。

「……?何だよ、皆どうしたんだ?私、おかしいこと言ったか?」

不機嫌な霊夢。

何故か無表情の中に楽しげな光を浮かべているパチュリー。

困ったような表情のアリス。

――そして凍りつき、愕然とした様子の、射命丸。

「お、おい……射命丸?お前、どうしたんだよその顔。すっげえひどい顔になってるぞ?」

余りに変貌した射命丸の表情に、魔理沙が仰天してそう問いかけると、彼女はすぐに我に返って、

「い、いやだなぁ魔理沙さん。そんなわけないじゃないですか。ええ、気の所為ですよ気の所為」

かたかたと、どう見ても動揺しているような動きで盃を手に取り、ごくごく……と、人間どころか妖怪までどん引きになるくらいに一気飲みした彼女は、そこでにっこりとひきつったような笑顔を浮かべると、

「ほ、ほら、大丈夫でしょう?はいはい、皆さんどんどんお召し上がりになってて下さいよ。ちょっと私、出掛ける所があるので」

いわゆるこの一杯を以て抜け出す口実にしようとでもいうのだろうか、動揺が抜けきらないまま、彼女はそのまま飛び立っていった。

「……どうしたんだよあいつ。いっつもへらへらとして記事のネタ探してるくせにさ」

いくらなんでも、あの様子はおかしいと魔理沙は呟く。

 その言葉に、アリスは一瞬考えるそぶりをしてから、

「……多分、貴女が思っている以上に爆弾だったと思うわよ?あの、『永久に就職してもらいたい』って発言は」

「…………それかぁ?どちらかと言うと、その発言で勘違いして、で私の様子見て間違ってたことに気づいた顔のようだったけどな」

胡坐に肘をつき、頬杖のようにして魔理沙がそうボヤくと、

「……はぁ。あのさ、魔理沙?言っておくけど……イオをやるつもりはないわよ?――いろんな意味で、ね」

突如、今まで不機嫌だった霊夢が宣言した。

 その発言に、慌てて魔理沙が霊夢を見やれば、彼女は今まで発生した異変の中で見せた、とらえどころのないような、まるでこの世から浮かんでしまっているかのような表情を浮かべており、細くなりつつある月下の光によって、神々しさまでともなっている。

「……おいおい、いきなりどうしたよ霊夢。何物にも捕らわれない筈のお前が、どうしてそんな事を言い出すんだ?」

一瞬その気配に気圧されたものの、すぐに気を取り直して魔理沙がそう尋ねると、彼女は深いため息をついてから、

「……あいつが、この博麗神社と同じく、『中立』の立場として存在しているからよ」

これはあのスキマの受け売りみたいなもんだけどね。

 彼女はそう前置きをすると、

「あいつが、この世界に来てからどれだけ妖怪たちと戦ってきたか知ってる?恐らく私達が思ってる以上に危険な戦いを、何度やって来たのかをよ」

と、逆にその場にいた人妖達に訊ねてきた。

 その言葉に、魔理沙やアリスは指折り数え始めたりしていたが、霊夢がすぐにその答えを言った事により、その動きを止めることとなる。

「――――大妖怪と戦った回数はこれまでに把握している中では二回以上。人里に下りて小妖怪や雑魚妖怪の退治をしたのはもう十数以上に上っていると言うわ。で、さ……そこの紫もやし。あんた、あいつに依頼だしてるみたいね?」

「……否定はしないわ。そこの魔理沙が、どうしても普通に借りてくれないんだもの。仕方がないから、イオに頼んで自宅と図書館にパスをつないで直ぐに来てもらえるようにしたのだけどね。そのおかげで、かなり助かっているわ」

満足げにうなずくパチュリ―とは対照的に、魔理沙が少々蒼い顔になっているのをアリスが見咎めて、

「……何されたの?」

「…………ほぼ、死ぬかと思うくらい蔦とかの植物使ってのくすぐり。……しかも、耐久二時間ぐらいでかつ死なないように手加減された上でだぜ?」

頭の魔女帽子を深くかぶりこみ、ぼそぼそと告げてきた彼女に思わずアリスが表情を引き攣らせるのを見ながら、霊夢は静かにうなずいて、

「ま、その他にも人里の守護者の慧音とか言ったっけ?あいつからも依頼は受けてたらしいし、そもそもの大妖怪との戦いだって、あいつに依頼してから戦ってた。……んで、こうして並べて言ってみたけど……あんたたち、気づいた?」

 

「――イオが依頼の貴賎を選ばず、犯罪行為以外で妖怪、人間両方から、依頼を受けているってことね?」

 

引き攣らせていた表情を元に戻し、アリスがそう言って頬に指を添えた。

「そうよ。そう言う訳で、イオがこの博麗神社と同じく中立の立場であろうとしているのが何となく、ね……分かったのよ」

ま、多分だけど当人はそうとは自覚してないかもね。

 面倒くさそうに付け加えられたその一言に、今までうつむいていた魔理沙ががばっと顔を上げると、

「ちょ、ちょっと待ってくれ。だとすると、逆に危なくないかそれ?だって、下手すれば異変の片棒を継がされる羽目にもなるってことだろ?」

「……それなのよねえ。どうしたってその危険が絶対にある。ましてや、あいつ自身能力も使わない状態でさえ、剣だけだと最強だし。正直、武術であいつと戦いたくないわね。下手すれば瞬殺よ瞬殺」

ひらひらと手を振りながら、困ったような表情で告げる霊夢に、その場にいた人妖達は心底恐怖せざるを得なかった。

 あの博麗霊夢が、困ると言う感情さえ出してしまうほどの、イオのイレギュラーさに。

 

――だが、彼女たちは知らなかった。

 今、まさにその異変の片棒をつがさせられそうになっているなどと……!!

 

――――――――

 

「――なるほど……要するにだ、貴女はこの異変の主であり、今まで彼女たちを宴会に引っ張り出してきた当の原因である……ってことなんだね?」

「ああそうさ。私の能力である、『密と疎を操る程度の能力』。この力で、みんなの気持ちを楽しくさせるように萃めたんだよ。まあ、お前の場合は多分肉体の特性によってこの力からのがれることが出来たんだろうねえ」

「……いつの間にか力使われてた事に恐怖しか感じない」

何せ自分の感覚にさえ引っかからなかったのだ、普通の人間そして妖怪たちは容易に引っかかってしまうのもむべなるかなであった。

 カリスト宅の居間にて、二人盃を交わし合うイオと萃香。

 イオが元々持っていたそれなりにきつい日本酒と呼ばれる種の酒を酌み交わし、穏やかに話を進めた。

「で、だ……お前さん。何でも屋だろう?さっきも言ったとおり、ちょいと手伝ってもらいたいんだよ」

「はぁ……何をするつもりで?一応、依頼として受け付けますけど」

酒を飲みつつも、イオはキョトンとしたように彼女にそう尋ねる。

 すると彼女はにやり、と悪い笑顔になり、

「なぁに、簡単な事さ。私が異変起こしているのを、手伝ってもらいたいだけさ。何せ、『春雪異変』から以降、ろくに桜を見る宴会なんか開かれないんだもの。どうしようもないから、ついでに私以外の鬼たちも呼び寄せようと思ってさ、今回宴会ばかりの異変を起こしたんだよ。いやぁ、酒は集まるし、霊夢と言ったかなあの巫女は。時折人間の女の子と派手にやらかして夜空に花を咲かしてくれたりよう。いやはや儲かったねえ」

心底楽しそうに、今までの宴会の事を口にする。

 その様子に、イオも触発されたのか、ちょっぴり悪戯っけたっぷりに笑い、

「……ふむ、聞く限りには結構楽しげだね。だったら、依頼を受け付けるよ。報酬としてはそうだね……『僕の血の中に眠る、龍の因子を萃める』ってのはどうだい?」

それでも、これはあくまでも『異変の片棒を継がせる』という依頼であることを強調し、自身が楽しいなんてことがないかのように告げた。

 その言葉に、ますます萃香がニヤニヤとして、

「おいおい、鬼の前で嘘をつく気かい?そうだったらぶっ飛ばすぜぃ?」

「そんなわけがないじゃないか。これはあくまでも、『方便』ってやつだよ」

くっくっくっと、かなり悪そうな笑い声を洩らしつつ、イオは萃香が差し出してきた手をしっかりと握ったのであった。

 

「……でだ、お前さんよう?『龍の因子』ってそりゃどういうこったい?確かに、お前さんの体からは人間とはちょいと違った匂いが感じられるけどよぅ」

ひとしきり悪い笑みを交わしあった後、萃香が訝しげな表情になってイオに訊ねる。

 すると、彼は同じように顔をしかめさせるようにすると、

「それなんだけどね、僕の記憶が十三歳から以前がないもんだから大したことは言えないんだけど……色々と資料を探したりあさったりしたり、あと、此処に来てからは霊夢にも教えてもらったりしたんだ。……で、そこでどうも僕が元の世界の幻の亜人種にあたる、『龍人』らしいって推測が立ってさ。そう言う訳だから、いっそのこともし出来るのなら『龍人』になっちゃおうなんて思ってね。…………けど、そうか……やっぱ、普通の人間とは違ってたか」

目の前の彼女によって、自身の体が普通ではない事をようやく実感できたのか、しみじみとしているイオに、萃香はふぅむ……と考えるような顔つきになると、

「……お前さん、それでいいのかい?それやるつもりなら……間違いなく、以前の生活には戻れないかもしれないんだぜぃ?」

「――覚悟の上でそう言ってるよ。どうせ、この閉じられた世界に閉じ込められた以上、終の棲家として生きていくつもりだったし、何より、霊夢達の事見守っててあげたいからね」

ニコニコとして笑い、イオは穏やかにそう告げた。

 その言葉に嘘がないという事が分かったのか、萃香はしょうがないなと言う顔になると、

「後悔したって遅いぜぃ。……ほいじゃ、前払いってことで萃めてやるよ」

「――え、ちょはや――――」

直後、イオの家から閃光が迸り出た。

 真夜中に入っているこの時刻において、突如として発光したイオの家は、すぐにその光をだんだんと収めていき、そして、静寂に包まれるのであった。

 

――――――――

 

「「「――――――!!?」」」

同時刻。

 霊夢は、魔理沙は、アリスは、パチュリーは、人里の方から白に輝く発光現象を見た。「ちょ、いったい何があったんだぜ!?」

がたり、と箒を手に取りつつ身構え叫んだ魔理沙に、しかし霊夢は動じない。

――動じていないが、心底から、怒りを抱いていた。

「――あの、馬鹿。……人間を、やめたわね……!?」

「――はぁ!!?」

唐突にしか感じられないが、霊夢のその言葉が先程まで話題の上がっていたある人物を指していると気づき、魔理沙は大いに驚かされる。

「ちょっと待て!?それ、イオの事――」

 

「――やぁ、みんなこんばんわ。今宵も、いい月夜だねえ」

 

「「「――っ!」」」

おっとりとした、穏やかな日だまりのような、そんな声。

 余りにも聞き覚えのあるその声に、魔理沙は、アリスは、霊夢は思わず空を見上げた。

 ざざっ、と石畳の上に舞い降りたその人影は、初めこそ夜の境内の樹蔭に覆われて見えなかったものの、すぐに月光の元へとその身をさらけ出す。

「……おい、もしかして……お前、イオ、なのか――?」

そして同時に、魔理沙は困惑せざるを得なかった。

 

――その腕が、顔の一部分が、鱗に覆われた彼の姿に。

 

「――うん、そうだよ。……さて、此処で皆に提案だ」

――ちょいと、お祭り騒ぎをしない……?

 

 変わり果てたその姿からもたらされたその言葉に、七色の人形遣いと普通の魔法使いは身を強張らせた。

 唯一、自然体のままであり続けている博麗の巫女は、その眼を険悪にとがらせながらイオに叫ぶ。

「――馬鹿なこと、言ってんじゃないわよ――イオ!!」

――その叫び声は、あたかも身近にいた人物が遠くに行ってしまった事を嘆いているかのような、そんな声だったという。

 

 




こんな展開になりました♪
いろいろといいたい人もいるでしょうが、あえてこれを言います。

――面白ければ、よかろうなのだぁぁあ!!

……まあ、現実的に言えば、僕の身勝手かつ想像の世界なんですけどねははは。
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