東方剣神録   作:上田幻

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第二十五章「〆はやはり宴会で」

 

――新生二刀流である、『龍皇炎舞流』において存在している技の数は合計七つである。

 その全てが『超越者』とされるイオの最高の技であるわけなのだが、この技たちが編み出されたのは、実のところレミリアとの戦いの後だった。

 それまでは、旧二刀流であるところの「龍王炎舞流」でどうにか出来てしまうほどにはイオの実力は高かったのであるが、ここ、幻想郷に至り、レミリアという吸血鬼と呼ばれる大妖怪の一角と対峙する事により、自身において進化させるきっかけとなったのである。

 魔眼、気はもとより先達である人妖達がいた為に何とかなったのであるが、肝心の剣技の方はどうなったのか。

――実際の所、イオは悩んでいた。

 この平和となった幻想郷において、唯一危険があるとすれば、レミリアのような大妖怪と(当然のごとく霊夢や魔理沙は除く)万が一戦う羽目になった時である。事実、慧音の依頼の後に風見幽香と戦った事もあり、イオはなおさら技の進化を求めていたのであった。

 故に、依頼の合間合間に考えられ、試行され、そのたびに修正するの三拍子で続けられた技の全ては、その後こうして奥義となりうるまでに成長する事になる。

 

――新生壱式「天剣絶刀」――

――新生弐式「断空貮撃」――

――新生参式「洸輝煌剣」――

――新生肆式「黄金秘弾」――

――新生伍式「煌龍牙刃」――

――新生陸式「蒼天裂槍」――

――新生漆式「青嵐華焔」――

 

 この七つを以てイオの最高となし、彼が完成させた技であった。

 つまるところ、イオが打ち出した最後のラストスペルは、この技たちを組み合わせた最終奥義でもある。

――故に、彼女たちに逃れるすべはない……筈であった。

 

――『夢想天生』――

 

「……うそでしょ」

茫然としてイオがつぶやく先にいたのは、撃墜されるはずであった……霊夢の姿。

 その他の全員が、境内に倒れ伏している姿をイオが眺めつつ、

「なんで、君が立っていられるのさ……?」

力無くそう尋ねると、霊夢ははぁ……と深い息をついてから、

「正直、危なかったわよ……アンタの技はね。何せ、私の能力関係なしにいきなりかすったから。――でもね、こんな事で私が倒れるわけにもいかないし、そもそも剣だけで私を倒そうったって百年早いわ」

だって、単に速いだけの剣なんてあの亡霊剣士で見飽きているし。

 とんでもない事を淡々とつぶやく霊夢に、イオが思わず頭を抱える。

「……一応、今の技には次元を切り裂く技もあったんだけど」

「あら?思ったより強烈な奴だったのね。でも、そんなのこの博麗の巫女の最終奥義たる技の前には無意味よ?」

 

――だって、全てから浮くことが出来るのだから。

 

さらりと告げられたその言葉に、イオは頭を抱えながらも表情がひきつった。

「……まさか、霊夢……物理法則やら何やら、全部から浮いてるの?」

「さあ?それはアンタが気づくべきことであって、私が教えるようなものじゃないわね」

そう言いつつも、彼女はなぜかにやりと黒い笑みを浮かべている。

 その様子にいやな予感がしたイオは、全速力でそこから飛び下がろうとした。

「――逃がさないわよ、イオ」

「ちょお!!?」

瞬く間に距離を詰めてきた彼女に、イオは慌てて手をかざして魔法を打ち出そうとする。

 

――雷神之鎚『ミョルニルハンマー』――

 

かつて魔眼「金眼律法」時に使用されていたこの雷属性の魔法スペルが、その威力も数も大幅に上昇した状態で霊夢を迎え撃った。

――だがしかし。

「…………うそでしょ」

先程と同じ言葉ながらその響きが全く異なる声音で、イオは驚愕した。

 それも、絶望の響きを伴って。

 なぜなら、イオの放つ弾幕の全てを避けようともせずにそれでいて全ての弾幕をすり抜けさせていたのだから。

「……いやいや、いくらなんでもあり得ないでしょ……!!」

全くの無表情で大量の御札を投げつけてくる霊夢に、心底から恐怖を抱いたイオは、ほぼがむしゃらに魔法を撃ちまくる。

火であったり、金であったりと属性弾の多種多様さを見せつけたイオであったが、それでもその全てがすりぬけ、一つとして彼女にあたる様子はなかった。

 何よりも許せないのは……

「おーい……霊夢、流石にそれ反則じゃない……!!?」

「はぁ?知らないわよそんな事」

彼女の放つ弾幕全てが、イオにあたる可能性があると言う事である。

 いくらなんでもこれはすでに弾幕ごっこの範疇を超えているとイオは文句を言うが、彼女はそんなことはどうでもいいとばかりに御札を撃ち続けた。

……そして。

「――ほら、今度こそあんたをぶちのめしてあげる」

「ちょ!?霊夢!!?」

 

――『夢想天生』――

 

色とりどりに輝く陰陽玉が八つ集い、どれもが霊力をふんだんに込められた状態で霊夢が立ち止まると、全てを、解放した――――

……イオが、最後に見たのは、虹色に輝く、霊力の光であったと言う。

 

――――――――

 

「ぅうーん……うぅーん……光、光がぁ……」

「うわぁ……」

境内に墜落し、黒煙を上げながらしきりに魘されているイオの姿に、思わず魔理沙がどん引きした。

 近づいて、しきりにちょんちょんと突く彼女の傍に、霊夢が降り立ってイオに近づき、

「おら、とっとと起きなさいよこのあんぽんたん」

げっしぃっと音たててイオをけり飛ばす。

「……うわぁ」

あんまりといえばあんまりな彼の扱いように、どんどん魔理沙が引いていると、アリスがその近くに降り立って来て、

「……ふぅ。今夜はかなり恐怖を覚えたわね。流石に、あのラストスペルは衝撃的だったわ」

と、安堵の息を漏らしていた。

「おいおい、イオの事ちょっとは心配しないのかよ?」

「いいでしょそんなの。私達を甘く見た結果よそれは。イオがどんな人生を送っていようが、私にとっては今のイオしか知らないもの。ああいう風に悩んでいるなんて思ってもいなかったし、そもそも相談すらしてくれなかったからこういう扱いでいいと思うわ」

ふん、と鼻を鳴らし、じっとりとした眼で今なお黒煙を上げるイオを見やるアリス。

 こちらも、どうもイオに対して怒りを抱いているようだった。

「……災難だなぁイオ。ま、私だって怒っていない訳じゃないんだがな」

だからと言って霊夢みたいに乱暴に扱う気もない魔理沙は、そう言って深く黒の魔女帽子をかぶり直す。

 と、そこへ声が響き渡った。

 

『――おやおや、もう倒れちまったのかい?やれやれ、かなりいいとこまで行ってたのによぅ』

 

「――誰だ!」

薄く広く、それでいてはっきりと分かるその声に、魔理沙がすかさず八卦炉を構えて辺りを見回しながら叫ぶ。

 アリスも、そしてすぐ近くの方に降り立っていたパチュリ―さえも警戒したように辺りを見回していたが、全くもってその姿が見えなかった。

 だが、霊夢はそうではなかったようで、イオをけるのをやめると、辺りの空間に向って、

「……アンタが、イオの依頼人でこの宴会ばかりの異変の主?この妖力の霧みたいなのがアンタの本体かしら?」

『おぉっと、いきなり気づくかい。やれやれ、イオが負けたのも何となく分かる気もするねぇ』

その言葉と共に、彼女たちの前に妖力が終息していく気配と共に、何かが姿を現す。

 いわずもがな、それは伊吹萃香であるわけなのだが、霊夢達がそれを知っている訳もなく、当然問いが発せられた。

「――誰よあんた。立派に二本の角持っちゃって。その姿からするに妖怪みたいだけど、いったい何なの?」

「ふぅむ……おかしいねぇ。私達の事はもう忘れ去られているのかな?『鬼』なんて、これでもこの世界では最強だと自負している種族なんだがね」

ぐびぐびっと腰にある瓢箪から酒を飲みつつ、萃香はそう言って頬が赤い状態でそう告げる。

「はぁ?『鬼』ぃ?知らないわよそんな種族。今まであったことすらないわ」

だが、霊夢はそんな不遜な態度を示し続ける彼女に、眉を顰めながらはっきりと言い返した。

「……やぁっぱり、みんな居なくなっちまってたんだねぇ。はぁ……私がこの異変を起こしたのは、春の桜の宴会が行われなくなっちまった事で三日置きに宴会して、ついでに鬼たちも呼び戻そうかと思ってやったんだけどさ」

やれやれ、これじゃぁ骨折り損じゃないかい?

 つまらなさそうに鼻を鳴らす萃香に、びきり、と音たてて霊夢のこめかみに青筋が立つ。

「アンタ、そんな理由でほぼ毎日のように宴会開かせたわけ?傍迷惑もいい所だわ全く」

再びキキキィンと音高く霊力を込めながら御札を構えた霊夢に、萃香は面白がるような表情になって、

「およ?私とやるつもりかい?もっと相手をよく見て言いなよ」

「はん、知ったこっちゃないわ。私にとって異変は解決すべきものだし、いちいち相手の実力何か見てられないわよ」

どうせ、全部撃ち落とせばいいだけの話だしね。

 険しい顔つきのまま、霊夢は勢いよく動きだした。

「くっくっく、此処まで気持ちのいい人間は久しぶりだ、どれ、本気で掛かってあげるよ」

対する萃香も、その瓢箪を腰に括り付け直し、大きく動き出す。

 

――そして、激突した。

 

―――――――――

 

「う、うぅーん…………ん?何処ここ?」

何やら、やたらと周囲が騒がしい気がして、イオはようやく気絶から眼を覚ました。

 寝ぼけ眼を擦りながら、しきりに本殿内と思しき部屋で辺りをきょろきょろとしていると、

「お、ようやく起きたかこの寝坊助」

魔理沙が盃と日本酒と共にこちらに近づいてくる。

 見ればやたらとニコニコとしており、どうやらイオの眼が覚めるのを待っていたようだった。

 イオはその姿に一瞬戸惑いを覚え、

「……あれ、魔理沙?え、ちょっと待って、えーと……あぁぁあ!!?」

と、ようやく飛んでいた記憶が戻って来たのか、大きな声をあげてしまう。

 すると、霧が集まるような気配と共に、

「およ?イオ、目が覚めたんだねぇ……調子はどうだい?」

萃香が自分の瓢箪と共に、イオの寝ている所にやってきた。

 よくよく見てみれば、彼女の服装が何処かすすけているようにも見えて、イオは思わず彼女に問いかける。

「え、もしかして異変、終了しちゃいました?」

「ああ、負けも負けたよ。いやぁ……此処まで気持ち良く負けたのは久しぶりだねぇ」

あっはっは、と本当に楽しそうに笑う彼女に、依頼を受けた当初感じていた空虚感はすでに見当たらなかった。

 その様子に、イオは正直ほっとしながらも、申し訳なさそうに頭をさげて、

「その、すみません。全然大したことできなくて」

「うん?いやいや、何言ってるのさ。鬼の私から見ても、かなりの戦いだったよ。いやぁ、今度はお前さんとも手合わせをしたくなった位だ」

「止めてください、死んでしまいます」

流石のイオも、萃香と戦うのはまっぴらごめんなのか、申し訳なさそうだった表情がすっかり青ざめ、恐怖に震えている。

 その様子につまらなさそうな表情になったものの、すぐに別の用事を思い出したのか、ちょっぴり悪そうな笑顔になって、

「おう、そうだそうだ。イオ、お前さんよく料理を作っていたよな?依頼として出すからちょいと作ってくれねぇかい?なに、またお前さんの龍の因子を濃くしてあげるからよ」

「……えと、そんな毎回やれるもんなんですか?しかも、この一日中で」

正直、霊夢との戦いは別として、その他の人妖達の攻撃に対する耐性をつけたかったイオは、戸惑いながら萃香に向って尋ねた。

 その言葉に、すぐ近くにいた魔理沙が怒ったような顔になって、

「おまえ、そのまま人間やめるつもりなのかよ?」

とかなりきつめの言い方でそう尋ねる。

 その様子にイオは苦笑して、

「いやあ、あれだとまだ全力とまではいかないんだよ。何せ、文献の通りなら、もっと潜在魔力がある筈なんだから」

「……けっ。好きにすればいいや。言っとくが、私は止めたからな。あとでどうなっても知らないぞ」

そう言うとすっかり興が冷めてしまったのだろうか、持ってきた酒と盃をそのままに、イオが横になっていた部屋から出て行ってしまった。

「ありゃりゃ……怒らせちゃったかなぁ」

「ま、決めたのはお前さんだしな。あの子供はそう言う点ではお前さんを支持するつもりなんだろうよ。其れにしちゃ、かなりひねくれた性格をしてるみたいだけどなぁ」

ぐびり、と再び酒を飲みつつそう告げた萃香に、イオは苦笑すると、

「まぁ、文の事もありますから。なるべく、友人との別れをさせたくないんですよ。結構、アイツの事は好きですからねぇ」

「お?なんだいなんだい。結局そう言うことなのかい、あの天狗の事は?だったらもっと早く言ってくれたらやってあげたのによぅ」

「いやいや、色恋事じゃないですよ。少なくとも僕はそう言う感情を文には持ってません。ま、単に色々と話したりするうちに友情がわいちゃってですね」

恐らく、霧になった状態で眺めていたのだろうことを察しつつ、それでもイオは笑って首を振る。

「そもそも、文に僕が釣り合う様な気もしませんし」

「――それはどうかねぇ?」

「……へ?」

ぽつりと呟いたイオの言葉にそう返され、彼は思わず萃香を見やった。

 その視線の先にいた彼女の顔が、どうにも真剣な眼差しになっている事に気づき、内心ぎょっとしてしまう。

 そんな彼に構わず萃香は相変わらず酒を飲みながらも、真剣な眼差しのままで、

「おそらく、あの鴉天狗の方はそうはおもっていないはずだぜぃ?ほぼ毎日のようにお前さんの家に行っては料理をたかったり、ふざけてお前さんにちょっかい掛けたりしてる姿……楽しそうだったんじゃないかい?」

「……止めてくれます?その話」

どうにか、笑みらしき物を浮かべながら、何とかそう告げたイオに、しかし彼女は容赦しなかった。

「――いいや、止めないさ。何せお前さん……『嘘』ついているからねぇ」

「……は、ははは……貴方の前で嘘をつく?冗談も程々にして下さいよ。僕は……普通に、文の事を友人としか見ていないんですから」

「ふぅん?……だそうだぜ、そこの鴉天狗」

「――は?」

突如として萃香が障子のある方向へ声をかけ、イオはその言葉に凍りつく。

「…………お久しぶりです、萃香様。地上に戻っていらっしゃったのですね」

そして、見たくない現実が、そこにはあった。

 どうしようもなく凍りついた、無表情の射命丸の顔。

 それは、彼女に黙って龍人へと変化したイオへの怒りと、先程の言葉に対する怒りもあるように感じられた。

「あ、あはは、文……怖い顔だよ?いっつも笑ってる姿はどうしたの?」

どうにか、そう言うしかないイオだったが、射命丸はその言葉には何も返さず、萃香に向って正座をすると、深々と一礼して、

「この度、イオに依頼をされたそうで……何か、不都合な事は御座いませんでした?」

「いやいや、予想以上にやってくれたよこの何でも屋は。正直、また依頼をしたくなったし、料理を作ってもほしくなった」

くっくっくと笑いを洩らしながらそう告げた鬼に、鴉天狗はなお無表情のまま、

「――そうですか、それは御結構な事で。……ところで、萃香様」

 

――イオが、様々な人たちに黙って、種族を変えたと言うのは本当でしょうか?

 

ぎくり、とその言葉にイオは身をこわばらせ、萃香はその言葉ににやり、と笑いながら、

「おぅ、イオの報酬とやらがそれだったからねぇ。ま、初めてやることではあったが、今こうしてイオを見れば、それが成功だったか分かるだろう?」

「ええ、そうでございますね……憎たらしいほどに」

ぎろり。

 その瞬間、イオは心底恐怖する。

 背筋に氷水を叩きこまれたかのようなその迫力は、なるほど千年もの時経た鴉天狗ならではの迫力であった。

 直ぐに彼女がその視線を外したことにより、イオは息をつくことが出来たが、もしあのままであった場合、彼は気絶していたかも知れない。

 あの迫力は、かつて本気で養父と戦った時の事を否応なく思い出させた。

「……ふぅ。――萃香様。今一度、イオを連れて行きたいのですが、宜しいでしょうか?」

「おぅ。存分に持ってけ持ってけ。どうせ私の力でもう治してあるんだ、怪我なんざもう一つも残っちゃいないよ」

くすくすと、何やら楽しげな鬼の少女だったが、イオにとっては笑いごとではない。

(まず確実に殺られる……!!)

その予感を、ひしひしと感じていた為であった。

「こんな所には居られるか!僕は帰らせてもらいます……!!」

「――誰が逃がすと思うの?」

全速力で以て彼女から逃げだそうとしたイオに、冷たい声がかかった。

「っ!くぅっ!!」

その声にますます恐怖を抱いたイオは、気と龍人の力で以て大きく飛び上がり、空へと逃げようとする。

 其のあとを、射命丸は完全に表情が抜け落ちた顔で追いかけ始めた。

「……あーあ、やっぱりああなったか。骨は拾っといてやるぜ」

なむなむ、と手を合わせ彼らの追いかけっこを眺めるは霧雨魔理沙。

「どう見てもあれは自業自得にしか思えないけれどねぇ。だってイオ、あの鴉天狗に黙って種族を変えてしまったんでしょう?それは流石に怒ると思うわよ。まして、普段から楽しそうにイオと話している姿とか見れば特に、ね」

グラスを傾け、呆れかえったような表情で空を見上げながらアリスがそうボヤくと、近くにいた妖夢がちょっぴり複雑そうな表情で、

「……でも、何となくではありますが、イオさんの気持ちも分かる気がするんですよ。何せ、人の身は寿命があり、どうしたって死からは逃れられない訳ですから。ああする事で、少なくとも関わりのある人たちを悲しませたくないと思うのは、あると思いますよ?」

「だからって、躊躇なく種族変えるかしらね?少なくとも、一言くらいはほしかったんだと思うわよ、あの鴉天狗は」

逃げるんじゃないわよ!、嫌だっ!絶対捕まってたまるか!などと騒いでいる頭上に流し眼をくれながら、アリスがそう言ってまたグラスを傾けた。

 今なお空を見上げながら、彼らの様子に苦笑した魔理沙が、

「……正直、痴話喧嘩してるようにしか見えないんだがな」

 

『『誰が痴話喧嘩か!!』』

 

「ぅお!?」

空を飛んでいた筈の二人がいきなり魔理沙の目の前に現れ、思わず盃を取りこぼしそうになったが、すんでの所で耐えきる。

「訂正を要求する!僕は、死にたくないから逃げてるだけだ!」

「はぁ!?ふざけんじゃないわよ、今の私の何処にイオを殺そうなんて要素があるわけ!?」

「今の君の様子をよくよく考えてから言いなよ!」

がみがみ、ぎゃーぎゃー。

 うるさいを通り越し最早騒音にしかなっていないイオと射命丸の喧騒に、とうとうとある少女が動き出した。

 

――神霊『夢想妙珠』――

 

「ちょ!?――ぐはっ」

「きゃあ!!?」

瞬く間に駆逐され二人が揃って吹っ飛ばされたあと、霊夢はふん、と鼻を鳴らしてから、

どっかと魔理沙達の近くに座り、ぐびっと勢いよく酒を飲みだす。

 余りに不機嫌そうなその様子に、魔理沙が苦笑して、

「おいおいどうしたんだ?やたらと不機嫌そうじゃないか霊夢」

「……不機嫌にもなるわよ。あいつ、いまだにあの姿のまんまなんだから。全く、あのままだと……ブツブツ」

「はぁ……すっかりやさぐれてんなおい。ま、私には関係ないことだけどな」

そう言って、闇のようなオーラを背負った霊夢を放り、魔理沙が盃を傾けていると、

「――ねぇ、二人とも。流石に放置は求めてないんだけど?」

イオがぼろぼろの状態になりながら、霊夢達の傍にやってきた。

 傍らには射命丸の姿もあり、こちらも少し不貞腐れたような表情でイオの後を付いて来ている。

「うっさい。大体、あんた何でまだその姿のまんまなのよ。人里で見られたら絶対怖がられるわよ」

「およ?もしかして心配してくれてる「はっ」ですよねー……」

思いきり鼻で笑われ、嬉しそうな顔だったのが一転して、思いきり落ち込んだような影を背負うイオだった。

 淀んだオーラがイオの周囲に集っているのをあえて無視しながら、霊夢はなおも言葉をつづける。

「で、結局その姿のままで生きるわけね?射命丸や、他の人妖達との別れをそうそうしないように」

「……霊夢達の最期まで見届けるとは言ったけど、そこまで言っていなかったと思う」

にょきっと音がしそうな勢いでイオが失意体前屈から体を戻しながら尋ねたが、

「あん?そんなの勘よ勘。アンタが言ってたこと、他の人妖にも当てはまりそうな気がしただけ」

霊夢はそう言って振り振りと手を振りながら、そう返した。

「ま、私はどうなろうが知ったこっちゃないけど……アンタ、どっかに所属するつもり、ある?」

博麗神社の主としての言葉なのか、そう訊いてきた彼女にイオは首を傾げながら、

「うーん……まあ所属するったって結婚したいかとかそんなのでしょ?今の所はする気もないし、そもそもどっかに所属するっていう感覚がねぇ……基本的に僕はのんびりマイペースな方だし」

「…………マイペースの中でも、かなり特殊な方だと思いますけどね」

「ん?文?なんか言ったー?」

ぼそっと、妙な方向へ顔を向けながら何かを言った射命丸に、イオはキョトンとしながらそう尋ねるが、彼女は首を振るばかりで何も言わない。

 そんな彼女に違和感も抱いたものの、とりあえず霊夢に言うべきなのは、

「ま、あえて言うなら中立だねぇ。霊夢の事と比べると、依頼に限定して、という事になるけどさ」

もちろん、気に食わないことがあったらそう言う奴とは敵対するつもりだよ。

 おっとりと笑いつつそう返したイオに、霊夢はふぅ……とため息をつくと、

「そ。それ聞いて安心したわ。もし、何処かに所属するなんて言っていたら」

 

――私があんたを殺さなきゃいけなくなる所だった。

 

「……あー、結構、ヤバいところだったりする?僕の扱い」

「さぁ?紫も何も言わないし、私も人里の事は伝えでしか聞いた覚えがないから分からないけど、いずれにしてもアンタの力は見逃せないと思うわよ?それこそ、一つの勢力としてみてしまえるくらいには、ね」

いちいちめんどくさいから考えたことすらなかったけどね。

 ぐいっと盃をあおりつつ、霊夢がそう言ってイオをじろりとねめつけた。

「全く、本当にめんどくさい奴だわね。言っておくけど、そんな顔しても納めるもんは納めてもらうわよ!」

衝撃を受けたような顔のイオに、霊夢がそう言うと、ようやく我に返った彼が、

「あ、ああ……そう、だね……異変、起こした分、また後で詫びを持ってくるよ」

「ええ、存分にしなさい。今回、かなり派手に動いた気分だから」

ふん、と鼻を鳴らし、霊夢はそう言ってまた盃を傾ける。

 と、そこへ、宴会と聞きやってきて今の今まで黙っていた紅魔館の主たるレミリア=スカーレットが、

「やれやれ、イオもとうとう幻想郷の実力者に数えられるようになったのか……私達もうかうかしていられないわね」

と、傍らにたたずむ咲夜に向ってそう言い放った。

 対する彼女はその言葉に一礼しながらも、

「ええ……正直、なぜ一言も話してくれなかったのかという思いはありますが……」

と、ジト眼でイオを見やりながらそう呟くようにして言う。

 その言葉に、たまたま近くにいたイオは顔を引き攣らせて、

「いや、あの……そんなに怒ることですか?」

「……はぁ。では、お嬢様?少しばかりここの台所へ行こうと思いますが……よろしいでしょうか?」

「あれぇ!?まさかのスルー!!?」

溜息をつかれた後のまさかの行動に、イオが驚愕して叫ぶが、紅魔館の主従はそれに頓着せず、

「ええ、いくつか作って頂戴。此処にいる皆の分もね」

「かしこまりました」

と会話を交わすと、すぐに咲夜の姿が消え去った。

 あんまりといえばあまりの扱われように、再びイオが失意体前屈の状態へ移行する。

 だが、そんな彼をよそに、宴会はなおも続くのであった。

 

 

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