東方剣神録   作:上田幻

29 / 77
さて、今回からは永夜抄となります。
人里で行われる前に起こる、この異変においてイオがどのように動くのか……今のところ、作者自身も考えていません(ぉぃ
まぁ、何とかなると思いますのでお待ちください。


第二十七章「動きたるは偽月の夜」

――秋に入り、人里は収穫の時で賑わっていた。

 人間から、先祖に連なる龍人へと種族を変化させた青年によって、強化された秋野菜たちが、米類が、大いに販売される中……イオは、のんびりとルーミアと共に買い物に来ていたのである。

「……」(だらだら)

「ああもう、ルーミア?帰ったらおやつとかあげているでしょ?何でそんなに涎垂らしてるの」

いいにおいがしてくる料亭と思しき家屋を見つめ、よだれを垂らしているルーミアに苦笑しながらイオがその顔を拭ってあげていると、

「うぅ……だって、焼き魚の匂いが……」

「はいはい。また今度ね?今日は別に、お肉とか買いに来たんだから」

「お肉!!?」

きらきらとした眼で見つめてくる彼女に、イオは笑いながらうなずいた。

 とたんに嬉しそうな様子になる彼女に苦笑しながら、イオはざわざわと人の声でごった返ししている通りを、のんびりと彼女と二人歩いて行く。

 

『おい、あれ見ろよ……龍人様だ』

    『おお、ほんとだ。ありがたや、ありがたや』

 

 そんな中聞こえてきたこの会話に、イオは思わずがっくりと肩を落とした。

「……いつまで続くんだよ、これ」

流石に、崇められるとは予想すらしていなかったために、イオは正直疲れ果てていたのである。

 そんな彼に慰めるようにしてぽんぽんとルーミアが叩き、

「しょうがないと思うよー?イオの力って、結構珍しいを通り越して神の御技に近いものだし。こうして食材がいきわたっていくから、みんな嬉しくて感謝するんじゃないかなー」

最近、何処となく知性を感じられる発言をするルーミアに、ちょっぴり違和感を感じたイオであるが、どうなろうとも彼女は彼女であると割り切って、

「そっかー……やっぱり、もう少し考えて動けばよかったなぁ」

と、疲れたような表情でそう呟くのであった。

 

 さて、そんな事はさておき。

 二人が色々な物を買い、両手にそれぞれ荷物を抱えながら帰宅すると、玄関に見覚えのない履物が存在していた。

 何処となく、良家のお嬢様を想起させる華やかな雪駄に、イオは少し考えるようにしてそれとなく当たりをつけながら中に入って行く。

「――あ、御帰りなさい。お待ちしておりました」

案の定、そこには稗田阿求がのんびりと、持参して来たのであろうか、イオのうちにはなかった茶道具をいじりつつ、居間に座っていた。

「およ、阿求さんじゃないですか。本日はどうされたんです?」

「ええ、この秋、人里で祭りを行おうと思いましてですね、勝手ではありますがこうして待たせて戴いておりました」

「……うーん、屋台の話ですか?」

かたり、と特徴的な形の湯呑らしき物を卓袱台におき、イオに勧めてくる彼女に、イオはよっこいせっと、台所に物を運びながら尋ねる。

 ルーミアは阿求の言葉に興味があるのか、わくわくとした表情で卓袱台の前に座っていた。

「まぁ、そう言う事になりますね。何せ、ここ最近は本当に豊作と言う事で、結構な賑わいを見せていますから」

――『龍人様のお陰』だと、人々が皆申しておりますよ。

「……勘弁してほしいなぁもう。此処でもそう言われなきゃいけないわけ?」

阿求の漏らした最後の言葉に、イオは再び頭を抱えながら彼女の近くに座る。

 彼の言葉に阿求は苦笑しながら、

「仕方がございませんよ……イオさんが来られるまでは、どうしても不作の時というものもございましたから。私が転生を繰り返しても、この事だけはどうしようもないことだと、皆があきらめている姿をよく見かけましたしね」

ずず……と、傍目に見てもきれいな作法で茶を飲んでいる阿求に、イオは深いため息をついて、

「……そういう時って、大体あの妖怪の賢者が放っておかなかったはずじゃ?妖怪にとって一番よりどころである人間がいなくなる事なんて、幻想郷を一番に考えてるあの妖怪なら、見逃さないことだと思うし」

「ええ……それでも、何人かが死んでしまう様な事にはなりました」

「――そう言うことか。全く……どうせなら、全員を生き残らせなよあの賢者は」

悲しげな阿求に、イオはがしがしと頭を掻きながらぼやく。

 こんな話題など続けているだけでも不毛なので、イオはとっとと変えることにして、

「……で、話は戻るんだけどさ……具体的に祭り、何処で行うんだい?連絡さえ来てないから僕の方じゃ、把握していないんだけど」

と、阿求に向ってそう尋ねた。

 すると彼女がいきなり不機嫌そうな表情になり、

「ええ……その事に関しては申し訳ないとしか。長老衆がどうしたわけか、人里に関する連絡はするなと言いだしましてね……理由を聞いてみても、絶対に連絡するなとばかり。あの時ばかりは本当に怒髪天を突くかと思いましたよ――慧音先生が」

「君じゃないのかい」

思わず肩をこけさせながらイオがそう突っ込むと、阿求はコロコロと笑って、

「いやですねぇイオさん。私がそんな暴れるようなことすると思いますか?こう見えて、結構病弱な方なのに」

「いやいや……そこまで顔色がいいのに病弱はあり得ないでしょ。……ん?って、まさか」

首を振りながら、途中で何かに気づいたのか真剣な眼差しで彼女を見やると、阿求は穏やかに苦笑して、

「あっと……気づかれましたか。ええ……転生する代償ですよ」

ま、その事は今は置いておきましょうよ。

 かなり気にしていなさそうなその口調に、イオは一瞬気遣わしげな視線を送ったものの、すぐに表情を普通に戻し、

「で?長老衆が人里に関する連絡するなって言ったのかい?……そりゃまぁ、徐々に慣れつつあるとはいえ、数カ月いただけの余所者だしねぇ……そりゃ、長老衆も力もあるような人間の対処には気遣うかもしれないなぁ」

あの時阿求さんにはちょっぴり苛立ったかもだけど、分からない話ではないし。

 疲れたようにぐったりとちゃぶ台に突っ伏しつつ、イオがそう言うと、阿求は苦々しげな表情に変わり、

「人里にとって恩人な貴方を、わざわざ排除するような人たちですよ?もう、何が何だか……正直に言って、切りたい気分です」

「こらこら、不穏な言葉を言わない」

眠くなって来たのか、こっくりこっくりと舟を漕ぎ始めたルーミアを膝枕してあげながら、イオは苦笑しつつ阿求を制する。

「結局、祭りの事から話題がそれちゃっているよ?どうしてほしいんだい?」

「……失礼しました。では、イオさん……屋台を、出していただけますか?」

「ふむ……何となく、予想はついてたけれど……どうしてだい?一応、文とかに僕の料理がもたらす作用を教えたこと、アイツの新聞にも載っていたと思うけど?」

 秋になる前のここ一ヶ月半の間の事を思い返しつつ、あの妖怪の賢者とも話し合った内容を、イオは阿求に告げた。

 その言葉に、阿求は分かっているとばかりに深く頷き、

「――だからこそ、ですよ。通常の人ならば食べる量も異なる事も分かっていますが、それでも人妖の者たちとは大いに量が少ない事を考えて、です。普通の人間が多少強くなった所で、精々雑魚妖怪を追い払える程度か、そんなものだと思っていますから」

「……つまり、妖怪たちにとってはそれ程脅威にはならない?」

「ええ。それに、ついこの間音信不通のままだった八雲さんがいらっしゃいましてね。しきりにイオさんの作る料理がおいしかったことについて話されていたものでしたから。私も食べてみたくなってしまったんですよ」

茶目っ気たっぷりに笑う彼女に、イオは苦笑しながら首を振り、

「やれやれ。正直、この幻想郷内の勢力間のパワーバランスを崩したくないんだけどね。そこまで言われちゃうとねぇ……しょうがない、屋台、やらせてもらうよ」

ととうとう根負けしたと言わんばかりに溜息をつく。

 その言葉を聞いた彼女がどういう反応を返したのか……それを言うのは野暮なので此処では記さないでおくことにする。

 

―――――――――――

 

――その夜の事。

 イオは、昼に買ってきた酒を徳利にいれ、縁側にて十六夜の月を眺めていた。

 この世界に来てからというもの、彼はよくこの金色の月を肴に酒をたしなむことが多くなっており、少々の酔いとともに眠りにつくのがここ最近の日常ともなっている。

 そう言う時に考えるのは、やはり、故郷において来てしまった友人、そして家族の事だったりした。

(……ふむ、今日も良い色しているなぁ)

イオの金色の眼と同じ今宵の満月を見上げ、イオは約体もなくそんな事を思う。

(あれから、何カ月も経っているけど……やっと生活には慣れたかなぁ)

向うでも同じような生活はしていたため、そんなに生活リズムが崩れない事は結構有り難かった。

 何せ、ただでさえ異世界にいるのである。技術面からして異なっていたりすることもありうるわけだった。

「♪~♪」

ちょっぴり、機嫌がよさそうな雰囲気をかもしながら、イオはまた徳利から静かに酒を呷り、また暗き夜空を見上げる。

――と、そこでイオはある異変に気づいた。

「……なんだ、ありゃ。妙に端っこ部分が欠けているような……飲み過ぎたかなぁ?」

ごしごしと眼を擦りながら、よくよくじっくりと月を眺めれば、常人では分からぬほどに、月の端の部分がまるで陶器の端が欠けるかのようになっている。

「……何事だろ?あんなの初めて見た。この世界特有の現象かなぁ?」

きょとん、と首を傾げながらも、とりあえずイオは酒を飲もうと御猪口を傾けた、その時であった。

「――ごきげんよう、何でも屋さん」

「ごふっ!!?」

突如として空中から八雲紫が現れ、あまりの唐突さにイオは思わずむせてしまう。

 ごほごほとせき込んでいる彼に、しかし紫はそれに頓着することなく言葉を紡いだ。

「イオ……この夜は――異変よ」

「……あの、ちょっと待ってくれません?いくらなんでも唐突すぎますって」

ようやく落ち着いたのか、少々涙目になってはいるものの、イオが紫に向ってそう声を返した。

 だが、彼女はその言葉を聞くことなく、尚も言葉を紡ぎ続ける。

「――今宵の月は、真実の月に非ず。偽りの月故に、この世界の妖共は狂うやも。故に私は貴方へと依頼をしなければならない」

――この偽月の異変を、解決する手助けを。

「……あの月が偽物?――まさか、一種の幻術ですか?」

普段、胡散臭そうな雰囲気が消え、あまりにも真剣な彼女の様子に、ようやくにしてイオの何でも屋としての嗅覚が動き出した。

 彼が紡いだその言葉に、紫は深くうなずいた後に扇子を取り出して口を覆うと、

「ええ。つい先ほど、昼と夜の境界を弄ったわ。しばらくの間、この偽物の月が浮かび続けることになるけれど……あの月のまま、日々を過ごせば……狂う妖怪は必ず出現する。

なんとしてでも、月を偽らせている者を止めなければならないわ」

「……やれやれ。確かに、あの月のままというのは僕としても違和感があり過ぎますからねぇ……しょうがないですが、お手伝いいたしましょう。――ちなみに、場所はどちらで?」

用意するべく立ち上がったイオが、自室に戻る前に振りむき訊ねたその言葉に、紫は静かに眼を閉じると、

「――竹林。『迷いの竹林』と呼ばれる、不自然の自然の迷宮よ」

そう、答えを返したのであった。

――『疾風剣神』、『妖怪の賢者』、『楽園の巫女』……参戦。

 

―――――――

 

――魔法の森、マーガトロイド邸。

「――ん、これで準備は終わったぜ。アリス、そっちはどうだ?」

「ええ、こちらも丁度終えた所よ。……にしても、本当に面倒な事態になってきたわね」

はぁ……と深いため息をつくのは、『七色の人形遣い』こと、アリス=マーガトロイドだった。

 その言葉に、彼女に言われて魔道具である八卦炉の手入れをしていた『普通の魔法使い』こと霧雨魔理沙は、少し訝しげな表情で彼女に体を向けると、

「そんなに大したことなのか?『月が偽物』っていうのは」

「大いに大したことよ、魔理沙。魔法使いにとって、月が異常であることはそれに関する儀式も行えなくなると言う事になるわ。私の生涯の目標が、『自律した人形を作成する事』である以上、どんな方法でも模索していかないといけない身にとって、この事態は止めなくてはいけない事なの。魔理沙にも、関係のある事なのよ?」

「……うーん、そう言われてもな~……私としては、いつの間にか終らなくなってるこの夜を終わらせたいだけだしな。どう考えても、あのスキマがやらかしてるに違いないから、ぶっ倒して止めるつもりだぜ?」

あっけらかんとして笑う彼女に、アリスは頭痛を感じているのかこめかみに指をやりながら再びの深いため息をつくのであった。

 

――『七色の人形遣い』、『普通の魔法使い』、参戦。

 

―――――――

 

――霧の湖にたたずむ、吸血鬼の館たる紅魔館。

「……全く、無粋にも程があるわね……ねぇ、咲夜?」

「ええ、そう思いますわ」

『永遠に紅き幼い月』レミリア=スカーレットに言われ、『完全で瀟洒な従者』十六夜咲夜はともにいたベランダにて、言葉を交わした。

 何時ものようなメイド服に身を包んだ咲夜は、その実、大量のナイフを体に忍ばせていて、いつどこでも襲撃があった際、迎撃者として動く。

 『時を操る程度の能力』持ちである彼女が、時を止めてしまえば侵入者はいやおうなしにその身を凍らせ、直後にナイフで剣山のごとくハリネズミにされてしまうのが常だった。

――故に、けして吸血鬼の足手まといになることすら、心配は無用なのである。

「……行きましょうか。今宵の月を取り戻しに」

 

「――仰せ(イエス・)の(ユア・)まま(ハイネス)に」

 

メイド長が一礼するとともに、彼女たちの姿は消え去った。

 

――『永遠に紅き幼い月』、『完全で瀟洒な従者』、参戦。

 

――――――

 

――幽玄なる世界……冥界。

 今宵もまた魂魄が漂う、かの死者の世界において動く影があった。

「……妖夢、出掛けるわよ」

「どちらへ……いえ、お供いたします」

静かな視線に言葉を遮られ、何時にない緊張を感じ取った妖夢は幽々子の言葉に、そう言って跪く。

「本当は、誰かに任せるつもりでいたけれどね……あまりにも、この月は肴にする者たちにとっては無粋に過ぎるわ」

――だから、私達が止めなければ。

「……かしこまりました」

静かなる死の世界において、霊魂司る者たちの姿が消え去る。

 

――『幽冥楼閣の亡霊少女』、『半人半霊の庭師』、参戦。

 

――――――

 

「――さて、と。優曇華?そちらの準備はどうかしら?」

「ええばっちりですよ、師匠。絶対、月の奴等は追い返して見せますからね!」

――迷いの竹林の中。

 かくも暗きこの不自然なる自然の迷宮の中において、周囲と同化するかのように人里でも見かけないほど広大な敷地を持つ家屋が存在した。

 静かなるこの時の中において、過ぎゆく年月とともにあったこの家屋は、とある一軒を経て幻想郷にその姿をさらそうとしている。

――もっとも、此処に住む住人達はそんな事を考えてもいないのだが。

「……永琳。本当に……動くつもりなのね?」

彼女達の様子を眺めていた、この家屋の主人たる人物は物憂げにそう尋ねた。

 すると、優曇華と呼んだ人物にまた幾つか指示を与えていた彼女が、主の方へ顔を向けると、

「大丈夫でございますよ、姫様。やっと手に入れた平穏なのです……やすやすと奪わせませんよ。――いえ、もっと言うならば、奪われたくない、でしょうか」

と、安心させるような穏やかな笑顔で、そう告げる。

「まぁ、そう簡単にはいかなさそうだけどね~」

「こら、てゐ!余計な事を言わないの!!」

両手を頭の上で組みながら、この竹林にてとある動物たちの王として動く妖怪に、優曇華と呼ばれている人物が、腰に手を当てながら注意を促した。

「事実だろ?姫様達の昔話を聞くに、相手の方はどうやらとんでもないみたいじゃないか。私だって負けるつもりはないけれどね、もしものことを考えないとどうしようもないとも感じているんだから」

真面目な顔つきでそう言うてゐと呼ばれた人物に、優曇華は表情を引き攣らせて言葉に詰まってしまう。

 だが、永琳と呼ばれた人物は自信たっぷりに笑った。

「――大丈夫よ、てゐ。貴方の張ってくれた、命の危険がたっぷりの罠もある。優曇華の類稀なる銃術もある。私の作る、毒薬もある。そのうえ……あの偽月の術も編み出したのよ?これだけそろっていれば、どんな敵であったとしても、命の危険を冒してまでやって来る事はそうそうないと考えているから」

てゐや優曇華の事を最も信頼しているのだと、その笑顔で言い切ったのである。

 その言葉に、てゐは元より、彼女の弟子たる優曇華もやる気に満ちた顔つきになり、決意が籠った笑顔で以て頷いたのであった。

 

――全ては、彼女たちの平和を、護らんとするがために。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。