東方剣神録   作:上田幻

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第三十一章「語り合うは友の言葉」

 イオが戦場に躍り出てまず行った事は――

 

――全てを、壊す事だった。

 

『龍皇炎舞流、最終奥義……!!』

 

幻想郷の彼女たちにとっては聞きなれた、そしてラルロスにとっては本当に久しぶりに会う友人の声に一斉に体を強張らせると同時。

 

『――終焉:龍皇炎舞……!!!』

 

「ちぃ!?アイツ腕あげやがったな!?」

この世界に来る前には聞いたことすらない、彼の新たなる剣技を叫ぶ声に、ラルロスが全力で魔法障壁を張ると同時に悪態をついた。

 

――そして、蹂躙が始まる。

 

――大気を四分割する、巨いなる貳撃。

――幾つもの星が駆け巡る、光速の乱れ突き。

――同時に振り撒かれた、妙なる軌跡を辿りし魔弾。

――彼らを同時に攻撃する、徒手空拳の嵐。

――直後に展開された、斬撃の嵐。

――瞬後、納刀した後の次元を斬り裂く刃。

――そして……天より刀の大群が降り注いだ。

 

「ぐぅ……!!?」

「ちょ、イオ私達まで巻き込んでるぞ!!?」

さしもの紫でさえ、次元にまで干渉する刃を見つけたときには全力で隙間にもぐり、霊夢はちゃっかりとその隙間に潜る事で回避し、魔理沙とアリスは力を合わせながら障壁はる事でよけきった。

 鈴仙は丁度その二人の後にいたおかげで、何一つ食らうことなく障壁の中におり、レミリア達紅魔組はそれぞれ槍やナイフで以て斬撃を受けたり、弾き飛ばしたりする。

 そして、完全に手加減された状態で放った最終奥義で、しばらくの間廊下に使用されていた木材や壁などから埃がもうもうと辺りを舞い上がった。

「……ったく、無茶しやがんなほんと。――よぉ、三ヵ月半ぶりだな」

イオ。

親しげな声と共に、ラルロスは彼と彼女たちの間に降り立つ、生涯の親友と定めた、鱗が見え隠れする青年を見やる。

「……ホント、久しぶりだねラルロス。ごめんね、今まで連絡できなくてさ」

「ああ大丈夫だそんなん。大方、そっちの紫とかいう奴の所為でそうなったのは知ってる。で……何で、今俺達全員を攻撃した?」

つらそうな表情でこちらを見てくるイオに、ラルロスはある一つの予感を抱きつつも、それでも尋ねた。

 その問いにイオはくしゃり、と顔をまたゆがませると、

「そんなの……きまってる。何で、僕の親友と友達が争う事になってるのさ?」

鈴仙さんとかに、今回の偽月騒動がどういうものなのか……教えてもらったんだよ?

 ほぼ、涙を目尻に浮かべるようにして訊ね返してきたイオに、ラルロスは笑って、

「どうにもそいつらがイオを離さないって言ってたもんでな。しようがねぇから、戦ってたまでさ。俺だって此処までやるつもりは毛頭なかったぜ?」

「……ラルロス」

向こうにいた時となんら変わらない親友の言葉に、イオはホッと安堵したような表情になると、

「そうだよね……ラルロスは、いっつも熱い奴だし」

「おめえには負けるけどな」

あはは、と笑い合う男二人に、いつしか周りの者は静かになって行く。

 その状態を感知しつつもイオは、ひどくさびしそうな笑顔を浮かべ、

 

「――でも、ごめんよラルロス。僕……もうそっちに帰る心算はないんだ」

 

「…………理由、訊いていいか?」

何となく、イオがそう言いだすと心のどこかで分かっていたのか、ラルロスは思ったよりも怒りが湧くことなく訊ねる。

 その問いに、さびしそうな笑顔のまま、

「うん、こんな体になったのはいいし、別に向うの人たちにも会って大丈夫ではあるんだけどね……見守っててあげたい、そういう人たちがいるから」

「ふん、てことは不老不死にでもなったか?」

「たぶん。ラルロスにも見せた古文書……あれ、結構古いものだし、信憑性もあるって太鼓判を押されたから、龍人と言う存在が、恐らくは永く生き続けられる種族なんだって分かったから。幾らなんでも長生きし続けるというのは、向こうでも結構煙たがられるような存在だし、どうせだったらこっちの方がかなり落ち着いた生活が出来るしね」

親友だからこそ、分かりあえる存在であるというのか。

 静かながら男二人は完全に世界に入りきっていた。

 そんな中にあって、ラルロスは静かに瞑目すると、

「……カルラ達の事は、如何する心算だ?」

「――ちょっと待ちなさい」

ラルロスの言葉に聞き逃せない物があったのか、紫が扇子を口元にやりながらいきなり話に入りこんだ。

「イオ、貴方……もしかして、故郷に残してきた恋人とかいないでしょうね?」

ズコッ。

 真面目な雰囲気だったイオが、その言葉で思い切りずっこけた。

 ばばっとすぐさま立ち上がり紫に向って、

「い、いきなり何の話してるんですか!!?」

「いや、結構重要だろうに。言っとくがカルラとチェルシーもお前さんの気持ちを狙ってんだぞ?」

「はぁ!?」

ラルロスから告げられた衝撃的な言葉に、驚愕の表情を浮かべてイオが彼を見やる。

 その様子に魔理沙がポンと手を打ち、

「あ、やっぱりそうなんだな?こっちでも大人気だぜイオは」

「あー……イオ、とりあえず言っとく。――爆発しろ」

「何でさ!?」

大いに抗議したいと言わんばかりにイオが叫ぶが、ラルロスはつい、と視線を明後日に向けるばかりで何も言わなかった。

 その様子にくっとイオが声を漏らしてから、

「そ、それより!カルラさん達の事、今初めて聞いたよ!?」

「そりゃあな……今じゃ冒険者ランクSSとはいえ、平民は平民だしよ。いくら戦力としてとんでもなかった所で身分はどうにもできねぇから虎視眈々と待ってるんだよ」

お前が騎士か名誉貴族にでもなって、釣り合うようになるまでな。

「そんなの聞いてないよ……ラルロス、なんで教えてくれなかったのさ?」

がっくりとしたように肩を落としながらイオがラルロスに抗議するが、彼は飄々としたままで、

「んなの決まってんだろうが。――明らかに殺される運命しかないからだよ」

「……カルラさん達バイオレンスじゃなかったと思うんだけど」

「いやいや、古来から言うだろ?『恋の邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ』ってよ」

先程まで浮かべていた怒りの表情はすっかり消え去り、イオをからかう為だけの笑顔になっているラルロスに、イオはとうとう崩れ落ちた。

 だが、更にラルロスは続ける。

 

「――それに、もうこの世界とアルティメシア世界と繋げているしな」

 

「待って。もしかして、世界間の転移魔法陣組上げちゃったの!?」

いきり立つようにして立ち上がりラルロスにそう詰め寄るイオだったが、ラルロスの、

『言わなくても分かるだろう?』

と言わんばかりに輝いている笑顔に、再び崩れ落ちた。

「……勝手な事をしてもらうのは困るのだけど?」

「はっ、イオをこの世界に留める条件としてだ。そうでなかったら問答無用で連れ帰ってない事を感謝するんだな。色々と興味深い世界だし、俺もちょくちょくここに来ようと思ってるくらいだ」

「……魔力、膨大な量が必要になるんじゃないの?それこそ、死んでもおかしくない位」

失意体前屈のまま、イオが顔を上げつつラルロスに問うと、彼は鼻を鳴らし、

「そりゃな。異なる位階、異なる世界に飛ぶなんざ、本当だったらどだい無理な話だ。ただでさえ転移では魔力を食うしよ。だがな、最近俺が働いてる研究所で、新たに技術が生まれたんだよ」

「何それ。三ヶ月経ったくらいでもう創ったの!?」

新しい技術と言うのはそんなにぽんぽん出てくるようなものではなかったはずだと、イオが驚愕の表情を浮かべて立つと、ラルロスはニヒルに笑って、

「おうよ。――魔力の、蓄積だ」

「……あ、確かにそれなら、魔法陣にも十分行くよね」

友の言葉に瞬時に対応するイオの様子に、ラルロスは楽しそうに、

「まぁな。魔獣たちから出てくる魔石を使用して、国家間における転移魔法陣を編み出したのが最初のきっかけだったんだけどよ。どうせだったら応用できねぇかと思ってな。イオを探してた三カ月間の間、此処で術式を編みまくってた。ま、ちょくちょく手伝ってもらってた部分はあるけどな」

「なにそれ。ラルロスの魔法技術についていけるような人っていたんだ……僕の生涯で初耳すぎるよ」

「こっちに来てからだったしなぁ……最初の頃、思ったより上手くいかなくてよ、どうしようもなかった時にアドバイスくれたから、かなり助かったぜ」

すっかり話題にのめり込んでいる男たちを眺め、魔理沙とアリスがこっそりと会話を交わす。

「……随分と楽しげね。妬けちゃうくらいよ」

「だなぁ。アイツ、やっぱり同性の友人に憧れてた部分もあったんじゃないか?いっつも私達にやってる会話とはかなり違うぜ」

「そうよねぇ……むぅ。ちょっと納得いかないわね」

普段冷静な性質のアリスが珍しくむっすりとした表情を浮かべている事に気づき、魔理沙がニヤニヤと笑って、

「お?珍しいじゃないかアリス。もしかして、アリスもイオを狙ってる口か?」

「馬鹿言いなさい。そんなわけないじゃないの。……でも、正直ほっとしてる部分はあるかもね」

そう言ってイオ達の笑顔をアリスは眺め、

「イオに帰られちゃったら、ゴーレムの事訊けなくなっちゃうから助かったわ」

「おいおい、そっちの話かよ……」

明らかに色恋事から離れているその言葉に、魔理沙は思わず鼻白んだ。

 そこへ、霊夢が声をかける。

「ねぇ……あいつ等放ってもう行っちゃわない?とっととこの異変終わらせたいんだけど」

「待ちなさいよ霊夢。勝手に行ったら後でイオがすねちゃうわよ?」

「すねるって……アリス、イオの事なんだと思ってんだ?流石にその言葉を言った方がよほどすねると思うんだが」

アリスの余りにもイオに対する扱いが、子供のそれと同じであることに魔理沙は呆れながらそう突っ込むが、霊夢はそんな彼女たちの言葉をスル―し、

「私は私がしたいようにやるだけよ。あいつらとの戦いにでもなったら少なくとも此処にいる半数がやられる事は確実だからね」

そう言って、レミリアと紫を何処となく神々しいまでの輝きを秘めた眼でみやった。

 その様子に紫は苦笑して、

「その言葉はどうにも否定できないわねぇ……あの子たち、私達が知らない血がにじむような努力の果てに手にした力を、躊躇なく振るうと思うわ。先ほどのあの斬撃は、どうにも手加減されたもののようにも感じたしね。恐らく、本当に本気でやっていたならば彼が張っていた結界も、私達が施行した結界そしてスキマでさえも切り捨てる事が出来た筈だから」

「あー……剣だけならば最強だって霊夢も言ってたしなぁ……なんだよ、これじゃかなりの過剰戦力でしかないじゃないか」

どちらかと言えば、イオあっちに味方しそうだしな。

 ちぇー、と言いつつ口をとがらせながら、魔理沙がそう呟くと、

「でも、イオたちは自分の持つ力を充分に把握できているから、今まで放っておかれたんじゃないかしら?ねぇ、紫。そうでしょう?」

「そうね。イオが何でも屋として中立であり続けてくれているから、私としてもあの子の将来の伴侶も決めないとと思えてきたくらいだし。かなり魅力的なのよねぇ……イオの、あの力と実力と言うのは」

「まぁだ、そんなこと考えてたわけ?私は嫌よ?アイツと結婚するなんて」

面倒くさそうな表情で霊夢がそう言うと、紫は再び苦笑して、

「少なくとも、今どうこうする心算は毛頭ないから安心しなさい」

そもそも、今はまだそこまでの事は起きていないしね。

 薄らと微笑みを浮かべながら紫がそう呟くのに、レミリアはフッと笑うと、

「あら、だったらイオを婿に取るという事も出来そうよねぇ、咲夜?」

「……お嬢様……流石に、弟のようなイオと結婚するというのは……」

流石の咲夜も、レミリアの無茶ぶりには呆れてしまったか、苦笑しながらそう苦言を呈するが、彼女の主は気にすらせず、

「いいじゃない。結構お似合いだと思うし」

貴方の性格、もともと優しい方だしね。

 暗にイオのおっとりとした、まるで大樹の様に包み込む性質と合うだろうと言っている。

 流石の瀟洒なメイド長であってもこの話題は少々きついのか、薄らと赤面しつつも黙るだけであった。

 

――そして、そんな話題が聞こえていないとも限らない訳で。

 

「……いいのかイオ。あいつ等勝手なこと言ってるぜ?」

「…………何も聞いてない何も聞いてない何も聞いてない……」

「あ、だめだこりゃ現実逃避してやがる」

彼女たちのいる方向を絶対に見ないようにしつつ、ぶつぶつと暗い顔で呟くイオに、ラルロスは仕方なさそうに溜息をつく。

 と、意を決したようにラルロスが紫達に向って、

「……とりあえず、俺の雇い主の所へ案内するぜ。さっきそこの紫とかいう奴からまだ話も聞いていねえし、道中それを聞かせてもらいたいんだが……いいだろう?」

すっかり落ちついた様子になっているラルロスに、紫は内心驚きを感じたものの、すぐに扇子で以て口元を覆い、

「そう、ね……案内してもらおうかしら。元々貴方達と戦うつもりでやってきたわけではないしね」

「はいよ、じゃちょっと連絡取るから待っててくれ」

紫の言葉にそう返しながら、ラルロスが何やら集中し始めたのであった。

 

――――――

 

『――永琳。ちょいとイレギュラーな事態が発生した。ひとまずそちらにお客さんを連れて行くから迎撃は勘弁してくれ』

 

突如として届いた、ラルロスからの念話による一報。

 その内容に永琳はやや不審そうに眉をひそめたものの、すぐに教えてもらった念話の方法で言葉を返した。

 

『いいけれど……いったい何があったわけ?こちらにも貴方が戦っている音がかなり聞こえて正直ハラハラしていたのよ?』

『わりぃわりぃ。俺の親友が見つかったもんでな。そいつを返してもらおうとして戦ってたんだ。ま、肝心の本人からはこっちに永住する心算だと聞いたし、あっちの世界とこっちの世界もつなげ終わったしよ。目的は果たせたぜ』

『そう……ところで、イレギュラーな事態とは?賢人が想定していなかった事態と言うのが私にも想像がつかないのだけど?』

『まぁ、その件についちゃそっちについた時にでも追々話すよ。多分だがよ……俺達、そんなに心配せずとも平穏な時間は守られていたみたいだぜ?』

 

「……どういう意味?」

ぷつり、と糸が切れるような感覚と共にうち切られた念話に、永琳は思わずそう呟く。

 と、そこへ彼女の主たる姫――蓬莱山輝夜が声をかけてきた。

「永琳……モニターを確認してみたけれど、月の追手らしきものは何一つとして見当たらないわ?どういうことなの?」

「……やれやれ。もしかしなくともラルロスの言ったとおりになりそうだわね……」

苦笑する永琳の傍ら、輝夜は眼を白黒とさせていたのであった。

 

 

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