ご迷惑おかけし、本当に申し訳ありませんでした。
というわけで、お詫びになるかは分かりませんが、今回の話はネタ回でありんす。
笑って頂ければ幸いであります。
――夜。
半月照らす下で、紅魔館はゆっくりとその時を動き出そうとしていた。
『――ふぁ……よく寝た~』
ある時は地下室にて。
『……ふぅ。今宵は……まぁ残念な半月だけれど……いい晩になりそうね』
ある時は館主室にて。
『よぉーし、夜になったぞー!』
『……チルノちゃん、流石に大声は出さない方がいいと思うよ?』
『じゃじゃーん!イオの作ってくれた転移魔法陣―!こ・れ・で、イオの作ってくれた夕食を食べまーす!』
『なにぃ!?あの何でも屋の料理だと!ルーミア、ちょっと一口だけ食べさせてよ!絶対私が勝っている筈なんだから……!』
『落ちついてミスティア!何か目がおかしなことになってるから!』
『――はぁ。ま、こんな晩も偶にはいいかもね、こぁ』
『あはは……そうですねぇ』
ある時は大図書館にて。
『…………何か、私忘れられているような……』
ある時は、正門前で。
『ふぅ……さて、そろそろお嬢様達が起きられる時間帯だけど……大丈夫かしら、あの妖怪たちは』
ある時は厨房にて。
ゆっくりとではあるが……彼女たちが邂逅する時間が、すぐそこまで迫っていたのであった。
「――さて、夜になったわけだけど……」
そう言ってパチュリーは自身の座るテーブルの上を見渡し、ぽつりと呟く。
「……見事なまでに遊びまくったわね」
「え、えへへ……」
「笑いごとじゃないわよ」
愛想笑いをしているルーミアに、テーブル上に散乱する遊び道具(イオ謹製のチェス盤やオセロ等)を指し示しながらパチュリーは突っ込んだ。
「全く……いくら貴女がイオのお陰で頭が良くなったからって、大妖精と一緒にボードゲームばかりするのは何故なの?全く、おかげで進行が気になってしょうがなかったじゃない」
「意外に邪魔してた!?」
思わぬ一言でリグルが吃驚したように声を上げるが、パチュリーはふん、と鼻を鳴らすと、
「仕方がないでしょう?普通、妖精と言う存在は自然の存在であるが故に純粋で、かつ何も考えずにあるがままに存在する筈なのだから。チルノや貴女の様に智慧をいくらかなりとも付けている事の方が、かなり珍しいを通り越して不可思議に近いのよ?その事……貴女達は分かっているのかしら?」
「全然!」
スパーン!
考えなしに何故か胸を張って言いきったチルノに、リグルからハリセンを頂戴される。
そのまま再び説教へと移行していった二人を放置し、パチュリーは大妖精に向って再び尋ねた。
「で、貴女は分かっているの?」
「……正直に言って、私はそれ程難しく考えていませんけど……でも、なんて言うか普通じゃない、と言う事は分かります。だって、他の妖精の皆と会っても、怖がられたりすることがほとんどですから」
まぁ、こうしてチルノちゃんとそして他の皆に会えただけでも幸せですけどね。
苦笑しながら大妖精がそう答え、その言葉にパチュリーは瞑目すると、
「なら、大事にしておきなさい。どんなに時が経とうとも、友人と言うのは得難いものであるし。……話がそれたわ。まぁ、そう言う事もあるから、ルーミアもよく考えて行動しなさいね?イオは、気付いていても自分から言わない限りは突っ込みはしないと思うから」
「……うん。分かったよパチュリー」
帰った時の事を考えているのか、やや沈んだような表情でルーミアがそう答える。
その時だった。
『――あれ?パチュリー……その子たち、お客さん?』
「おっと……今晩はかしら、それともお早うかしら、フラン」
ひょこっと飛びだした金髪紅眼の少女に、パチュリーは何処となく面白がるような雰囲気と共にそう尋ねる。
その言葉に、フランは笑うと、
「どちらかって言うと、私はおはようだね!……でも、本当にどうしたのその子たち?」
と、途中から不思議がるような表情でパチュリ―にそう訊くと、
「フフ……貴女の、友達になりに来たそうよ」
静かな微笑みを浮かべながら、パチュリ―がそう答えた。
「……え?」
思わぬ一言でフランドールが眼をぱちくりさせたその時。
ババッ!と目の前にいた五人の少女たちが一斉に構えた。
「冷たく光るは氷の力!『湖上の妖精』チルノ!」
ッドン!と天を指差すポーズになったチルノ。
「…………へ?」
びしっと決めたチルノに、フランが驚きで目を点にした。
だが、彼女たちは止まらない。
「全てを闇で覆い尽くせ!『宵闇の妖怪』ルーミア!」
ズビシッと鳳凰のポーズになるルーミア。
「う、動かすものは無限大!『清らかなる黄風』大妖精!」
恥ずかしがりながら、大妖精がよく分からないポーズ。
「操るは全ての蟲達!『闇に蠢く光の蟲』リグル=ナイトバグ!」
やや頬を赤らめた状態でマントを翻らせるリグル。
「私の歌を聴け!『夜雀』ミスティア=ローレライ!」
羽ばたきのポーズでビシッと決めたミスティア。
そうして、五人が思い思いのポーズを取ってから、一気に中央に集合すると、
『――幻想郷戦隊、人妖レンジャー!!』
余りに直球な戦隊名と共に、どどーん!と花火が上がる幻影が、フランドールには見えた気がした。
ぽっかーん、と口を開けた状態で固まったフランドールに、チルノがダメ押しとばかりに叫ぶ。
「あたい達、新たにフランを仲間にする為にやってきた、遊びの遊びによる遊びの為の集団だ!宜しく!」
「……え、えと、宜しく?」
思わず挙動不審になりながらフランドールが言葉を返したが、すぐさまパチュリ―に食ってかかった。
「ちょっと、どういうことなのパチュリー!私、こんなの聞いてない!」
「……あら?おかしいわねぇ……レミィから、すでにフランには話が通っていると聞いたのだけれど?」
「お姉さま――!!?」
混乱することしきりなフランドールに、パチュリーは内心にやりと笑う。
(……もちろん、話が通ってるなんてのは言われていないけれどね)
だが、その方が一番面白い気がしたのだから仕方がなかった。
ついでに言うならば、こんな面白いを通り越して爆笑になるようなポーズの考案なども、すべてパチュリーが行った事である。
因みに五人組の方はと言うと……
「……ねぇ。流石にこれはないと思うんだよ僕は」
「……恨むよぅ、チルノちゃん……」
がっくりと失意体前屈になっている常識人タイプに。
「ふふふ、結構楽しかったー♪」
「あのポーズとか結構よさそうじゃないかい!」
面白ければいいという享楽タイプに。
「あたい、頑張った!」
一番の大真面目なのが逆に救われないタイプに分かれていた。
「えと、結局貴女達、どういうつもりで此処に来たの?」
未だに混乱している様子のフランドールに、チルノは胸を張りながら、
「言っただろ!あたい達、フランと友達になりにきたんだ!」
「……何で?」
再びキョトンとしたようにフランドールが尋ねると、キッとチルノが真剣な眼差しになって、
「一緒に遊びたいからだ!」
「っ!?」
思わぬ一言に、フランドールが驚愕で大きく眼を見開く。
そんな彼女に構うことなくチルノは言葉を続けた。
「フランの姉の吸血鬼に、お願いされたのもある!でも、さっき大ちゃんとルーミアから色々と教えてもらって、アンタと仲良くなりたいって思ったんだ!」
眼を見開いたまま、フランドールはチルノの言葉を聞き続ける。
その脳裏には、毎回パチュリ―に呼び出されるたびに図書館の警護にあたっているイオとの会話が、蘇っていた。
『――フラン。友達と言うのは、凄く得難い宝物だよ。何かしらの障害をも撥ね除けて友になりたいと言ってくれるような人は、特にね。だから、絶対逃がしちゃ駄目だよ?』
穏やかな笑顔と共に語ってくれた、あの龍の青年。
彼は、誰かを思い出すようにしながら、彼女にそう言ってくれていた。
その事を思い出しながら、
「……私、狂ってるって、みんなから言われているんだよ?それでも……いいの?」
「別にいい!あたいは今のアンタしか知らないし!どー見ても狂ってるようには見えないし!」
幾ら普通の精神状態へと移行している状態であるとはいえ、フラン自身もまだ自分に対して自信が持てないでいたが故の発言に、だが、チルノはあくまでもきっぱりと純粋なまでの思いで以て対峙する。
「(……ふふ、チルノちゃんカッコいいよ)私達もね、今のフランちゃんが噂と違ってる事はもう知ってる。それに、ルーミアも……色々となんでも屋さんから教えてもらっていたから、貴女の事を誤解する事は絶対にしないよ」
大妖精が、チルノの様子を微笑ましそうに見ながらフランに告げ、
「……正直言って僕は君が怖かったけどさ、でも、チルノたちが心配でもあるし……それに、君の今の様子見てるとどうにも怖くなくなっちゃったしね。友達に、なるよ」
「そうそう!私達が揃えば、結構何でも出来ちゃう気もするしねぇ!」
ややぶっきらぼうにリグルが、陽気な声をあげながらミスティアが、フランを囲むようにして告げ、
「うふふ、フラン。逃げられると思っちゃ駄目だよ?結構、私達しつこい方だしね?」
おどおどとしたようにフランが最後の一人であるルーミアを見れば、ぱちっと片目ウィンクと共に宣告された。
だが、フランはまだ、不安を隠しきれないでいる。
「ど……どうしよう?」
自身がかつて狂気に彩られた生涯であった事は、理性をなくしかけた状態であっても覚えていた。
けたたましい笑い声をあげながら、姉を、魔女を、メイドを、そして門番でさえも傷つけていた、あの時。
恐怖に彩られた姉の眼が、特にはっきりと鮮明に脳裏に描き出された。
「あ、あぅ……」
じわり。
――本当に信じてもいいのか。
――心震えるような言葉を言っておきながら、自分を見捨てるつもりじゃないのか。
そんな事を考えながら、狭い紅魔館の世界しか知らないフランは、自身に友が出来る事をまだ疑っていた。
涙が目尻に浮かぶのを感じながらも、彼女は必死になって親しい誰かに助けを求めようと視線を彷徨わせる。
――だが、フランの背後から、誰かがふわりと両腕で彼女を抱きしめた。
「……フラン。貴女……やっぱり、あの時の事を覚えているのね……」
誰よりも愛しくて、誰よりも怖くてならなかった姉が、ひどく優しい声で彼女に声をかける。
「大丈夫よ、フラン。イオもいる。あの白黒もいる。私達もいる。だから、友達が出来ることに怯えてはダメ。元々、私はもうあの事を気にしてはいないわ……それよりも大きかったのは、貴女をあんなところに閉じ込めたことへの罪悪感よ。ずっと、ずっと閉じ込めてごめんなさいね」
背後のレミリアが、穏やかな声ながらその実泣いていることに気づき、フランは涙目のまま目を大きく見開いた。
「許してもらえるとは到底思ってもいないし、それよりも偽月異変の事もある。私の身勝手で、貴女を再び閉じ込めることになったのは、本当に済まなかったわ」
「っお姉様……」
辛そうな表情になるフランに、しかしレミリアは静かに笑うと、
「――でもね。それでも貴女の事が一番に大好きだから。生まれ出でてきた貴女を、初めは確かに怖がったけれど……それでも、貴女のおねえちゃんだから」
――だから。もう部屋に閉じこもる事は、しなくていいの。
「……今、此処に誓うわ。部屋の外にも……いえ、紅魔館の外にも、私の付き添いなく遊んできてくれて構わない。その代り、ちゃんと門限は守ってね?パチェにも、十分、太陽に対する耐性をつけさせるように、ね?」
ぎゅっと抱きしめられながら、妹に優しい姉は静かに宣言する。
「お姉様……ありがとう」
流す涙を隠しもせず……フランは、静かに彼女に礼を告げると、そっと彼女の手を剝してチルノへと向き直り、
「……こんな私だけど……友達に、なってくれる?」
恐る恐るながらのフランに、チルノたちは笑顔になって頷いた。
すぐさまフランに抱きついて頬ずりするルーミアや、ミスティア。
笑顔でフランに話しかけるチルノや大妖精。
そんな彼女たちを苦笑して眺めつつも、それでもホッとした雰囲気を出すリグル。
思い思いの態度を取る彼女たちの中で、フランは確かに――笑っていた。
―――――――
――さて、翌日の夜。
「――で、そうして君たちは友達になれたんだね」
「うん!」
楽しそうに笑うルーミアに、しかしイオは少し苦笑すると、
「……ま、別に構わないんだけどさ。いつの間にか此処が集合場所みたいになっているのはどうなんだい?」
と、思い思いにくつろいでいる人妖レンジャーの面々に、そう呟いた。
「え?だってイオの所だったら一番安心だってお姉様が言ってたよ?」
「レミリアさん……幾らなんでも、いつも僕が転移するのに使う魔法陣で飛ばして来ても」
まぁ、道中を迷ってしまうかもしれないからなのだろうが……。
キョトンとしたように見つめてくるフランに、しかしイオはまぁ仕方ないかと呟くと、
「でも……本当に良かった。正直なところ、フランが僕と魔理沙が訪れて遊ぶ以外はほとんど一人ぼっちだったからさ。心配していたんだよ」
「……えへへ。お陰さまで、こうして皆と一緒になれたよ」
穏やかに微笑みながら撫でてくるイオに、フランはくすぐったそうにしつつも笑っている。
と、そこへミスティアが、
「……うぅ、ねぇ何でも屋。どうしてアンタ、こんなにおいしい料理作れるのさ……?」
と、目前に広がるイオの作ったカルメ焼きやら、りんご飴やら、とにかく縁日で出されているような御菓子類や食べ物を恨めしげに眺めながら問いかけてきた。
余りにも憎々しげにそれらを見ている彼女に、イオは苦笑しながら、
「いや、そんなに恨めしげな眼で見てもねぇ……旅先で乾いたのばかりしか食べられなかったからとしか言いようがないかな。というか、この質問なんか既視感を覚えるんだけど」
とチルノやリグルが大人しくぱくついている様子を、微笑ましげに見ながらも突っ込む。
だが、ミスティアはその言葉に納得がいかぬようで……
「う~……こうなったら、ヤツメウナギの蒲焼で勝負するしか……!」
「いや、そもそも何で勝負みたいになってるの」
流石にイオもジト眼になってぱしん、とハリセンを取り出して突っ込みを入れた。
「あはは!ミスティア、私の言ったとおりでしょ~?イオの料理には敵わないって」
「……ルーミア、君が原因か。もう、そもそも僕の料理は、食べるだけでも力が湧くような仕組みになっているんだから、ちょっとは考えてほしいよ」
「え?何でも屋の料理、本当にそんな力があったのか!?図書館でもあいたっ!」
リグルが何かを途中で叫びかけたが、すぐさまルーミアに叩かれて何処かに連行されていく。
その様子に苦笑しつつも大妖精は、ちょっと考えるようにしながら、
「でも、イオさん本来『木を操る程度の能力』なんですよね?……何で、料理にそんな効果が付いているんですか?」
「あはは……まさしく、その能力が関係しているんだけどね」
苦笑しながらイオが、以前パチュリーと話し合った結果を報告すると、一律にその場にいた全員が眼を丸くした。
「……あれ?でも今出ているお菓子って」
だが、そこで大妖精は違和感を覚えたらしく、目前に広がる御菓子類を見ながらイオに目を向けると、
「ま、普通は考えないだろうけどねぇ……そもそも、砂糖って何からできていると思う?」
「え?……あ!」
「気づいたみたいだね。そうだよ、『サトウキビ』っていう『植物』から作られているんだ。前に依頼で、本来だったら南国の植物なサトウキビを、どうにかして栽培していきたいなんて言う農家の人がいてね。僕も、ルーミアに作ってあげてるお菓子の為にも、砂糖が結構重要だったりしたから、この時だけは自分のルールを破って、品種改良をしたんだよね」
おかげで、幽香さんに思いきり半死半生の眼にあわされたなぁ。
あっはっはと軽やかに笑うイオに、ルーミアに叱られて戻ってきていたリグルがジト眼になって、
「いや、笑うことじゃないだろ。フラワーマスターと戦ってそれだけで済んでたのが驚きだよ?」
「ま、それだけ僕が頑丈になれたってことなんだろうねぇ。何せほら、『龍人』だし」
自身の体に輝く、蒼紺色の鱗を見せながらイオがそう告げる。
おぉ……と、イオが使用した『照光』の魔法で照らされた鱗の美しさに、人妖レンジャーの面々が感嘆の息を漏らしていると、ふと、チルノがイオに訊ねた。
「――ねぇねぇ。その鱗って剥がれるの?」
「……言うに事欠いていきなり何を言い出すんだ君は」
思わぬ一言に顔を引き攣らせてチルノに突っ込んだイオであったが、
「え?だってどう見ても蛇とか魚の鱗に見えるんだもん。あいつらって確か脱皮するんでしょ?」
「チルノちゃん……幾らなんでも、イオさんに失礼だよ?」
苦笑に染まった表情を向けつつ、大妖精がチルノに向って突っ込む。
イオはと言うと、あまりの言われように完全に頭を抱えてしまっていた。
「……種族変えてから初めて言われたよそんな事。もしかして、君たちもそう思ってたりする?」
リグルやミスティアに目を向けながらイオがそう尋ねると、流石にそれはあり得ないと感じていたのか、苦笑しつつも首を振り、
「いや、幾らなんでも蛇とは間違わないよ。あいつ等、結構独特な匂いを持ってるし、そもそも何でも屋の体からは、それとは別の雰囲気が感じられるから」
「私もそうだねぇ。蛇だったら美味しそうな感覚をアンタに感じる筈だもの」
「うん、鳥らしい意見をどうもありがと。……じゃ、結局大丈夫だね?」
鳥妖怪らしい言葉を告げるミスティアに表情が引き攣ったものの、すぐにイオは安心したような表情になって溜息をつく。
「ねぇねぇ、イオ。ルーミアからも聞いたけどさ、今度の秋祭り、屋台を出すんでしょう?どんなのを出すつもりなの?」
と、そこへフランが目をきらきらと輝かせながら、近日の秋祭りでのイオの動向を問うた。
「……わりと洒落にならない誤解があった気がするけどまぁいいや。――んとね、基本的にこういう御菓子類を中心とした食べ物屋さんかな。阿求からも、是非開いてほしいって頼まれたしね」
「へぇ……やっぱりそうだったんだ。ルーミアからも聞いてたけど、本当においしいし、当日は期待せざるを得ないかな」
リグルがまじまじと目の前にあるカルメ焼きを見ながらそう呟くと、
「う~ん……気を付けなよ?幾ら妖怪が入っても危険でないなら大丈夫だとはいえ、流石に警戒もされるだろうし」
特に、フランはね。
行きたそうな眼になっていたフランが、その言葉でキョトンと眼をぱちくりさせる。
「え?どうしてなの?」
「……まぁ、フランが吸血鬼であることと、やっぱり噂になっている事が問題なんだと思うよ。もし、それとばれないようにしたかったら、やっぱり妖怪の力である妖力やその羽を無くして人間の様にすることも、後は外見年齢を高くすることもありだね。そこまですれば、誰もフランだとは気付かないだろうし」
考えるようにしながらイオがそう告げると、フランも考える表情になって、
「……お姉様、許してくれるかなぁ……外に出させてくれるようになったけど、やっぱり『人間には気をつけなさい』って口を酸っぱくさせて言ってくるし」
やや不安そうなその表情に、イオはちょっとむぅ……と顔をしかめて、
「流石に、僕も外見を変化させられるような魔法には縁がないしねぇ……ま、光の屈折を利用した幻程度だったら、水を薄く張って作る事は出来るんだけど。パチュリーさんのだって、よく魔法を勉強しないとそこまでの領域には至らないだろうし。何より儀式を用いた物が多いから、そうそう簡単にお手ごろで変身できるようなのは……ん?」
最後の辺りで何かに引っ掛かったのか、妙にしかめっ面になって、
「そういや、どっかで噂聞いたような……何だったかなぁ……」
とん、とん、と頭を指で叩くようにして自身の記憶を探っていると、リグルが少し思いついたような表情になって、
「もしかしたら、あそこだったら出来るかも知れない。――『永遠亭』」
「え?それって偽月異変を起こしたところなんだよね?」
いつも届けられる『文々。新聞』の中にあったその単語に、フランが吃驚したようにリグルを見やる。
姉であるレミリアが、あの晩、
『フラン、ごめんね……今日の月、どうもおかしくてならないの。貴女が覗きこんだら、狂気が再発してしまうかもしれない……』
とても悲痛な表情になって言っていたのをよく覚えてもいた。
フランの問いにリグルが頷きながら、
「うん、まあそうなんだけど。確か、あそこは今じゃ、人里に薬を卸しているらしいよ?もしかすると、あそこでフランの希望に沿う様な薬、作ってもらえるかも」
「……ああ、思い出した。うん、確かにリグルの言う通りだね。ここ最近、通っている八百屋さんのとこで聞いたけど、何でも兎の耳をつけた女性が薬を卸しに来てるってさ。それがかなりの薬効を持ってるって評判の噂だよ」
まあ、月の技術を用いているらしいからね。
指を立てながら告げたイオに、それまで黙っていたフランが頷くと、
「……ん、行ってみたい。流石に、人里で変に噂になりたくないし」
決意を秘めた表情でフランがそう宣告すると、チルノがすくっと立ち上がって、
「じゃ、あたいも一緒に行く!フランの事だし、なによりも何か楽しそう!」
「……ま、僕も行こうかな。ちょいと、気になる事もあるし」
ラルロスの事を思い出しながらも、イオがそう呟いた。
「??気になることって?」
ルーミアが不思議そうにそう尋ねると、イオは少し笑って、
「まあね。――僕の親友が、今そこで帰りの為の準備をしているんだ」
僅かなさびしさを感じつつも、そう告げるのであった。
―――――――
――『迷いの竹林』。
偽月異変から後、あの凶悪なまでの竹などを使用した罠は消え去り、てゐが鈴仙に悪戯するだけに作った落とし穴ばかりがぽこぽこと開いている状態であった。
無論、その落とし穴さえもイラッとはさせられるが命には別段異常もない為に、大抵の人は汚れるのも覚悟して竹林内に存在する『永遠亭』へと足を運ぶこともある。
そんな竹林に、イオと、フランを始めとする人妖レンジャーの面々は、相談をした次の日の夜に訪れていた。
「……結構、竹って特徴的な匂い持っているんだね」
すんすん、とフランが興味深そうにしながら、闇の中にある竹達の匂いをかぐ。
「色々と役に立つものも作れるんだよ。僕だと、『竹光』という竹を削って作った木刀のような物も出来るし、水筒にも遊び道具にもなるし。筍もとれるから」
さく、さく、と地面を踏み締めながらイオがフランに向ってそう解説すると、
「へぇ……そうなんだ」
とやや興味津々といったような表情で、フランが呟いた。
既に、秋祭りはあと三日後と近づいてきてはいるが、それでも薬が作られるのにはまだ余裕もあるため、一行もどこかピクニックのような様相になっている。
しばらくそんな状態で歩き、ようやく永遠亭が見えたそんな頃に、声が掛けられた。
「――あら、誰かと思えば……トンデモ剣士じゃない。やたらと集まっているようだけど、何か用かしら?」
永琳が何処かから帰って来たばかりなのか、玄関先で鈴仙と会話している状態から、イオたちが来ることに気づいたらしくそう言葉をかけてくる。
そんな彼女たちにイオは一礼した後、
「ええ、ちょいと僕はラルロスへ。貴女に用があるのはこの子たちなんですよ。多分、噂で聞かれたと思うんですけど、近く人里で秋祭りをすることになってましてね……」
「――イオ、待って。こういうのは自分からちゃんと言わないといけないと思うの」
ちょいちょいとイオの服の袖をひっぱりながら、フランが真剣な眼差しでそう遮った。
およ?とイオは少し眼をぱちくりとさせたものの、すぐににっこりと笑って、
「……どうやら、自分で説明したいみたいなので。ラルロス、まだ此処で魔法陣をいじっていますよね?」
「ええ……鈴仙に案内させるわ。こちらは任してもらっても構わないわよ?」
ふふ、と永琳が何かに気づいているかのような素振りで笑いながらそう告げると、イオは彼女に一礼し、一人だけ鈴仙とともに中に入って行く。
あとに残された彼女たち人妖レンジャーに、永琳は改めて向き直ると、
「お初にお目にかかるわね……この永遠亭の薬師、八意永琳よ。イオが先程言いかけていたようだけど……貴女達、確固たる目的があるようね?」
「うん……永琳先生に、私がお願いしたい事があってきたんだ。私の名前はフランドール=スカーレット。紅魔館館主、レミリア=スカーレットの妹です。よろしくね?」
しっかりとした意志持つ眼で以て永琳を見つめ、フランがそう頷くと、月の最高峰たる調合師はにっこりと微笑み、
「ま、玄関先で立ち話もなんだし、お友達と一緒に中に入りましょう?」
と、永遠亭の中へといざなうのであった。
―――――――
「――へぇ。あの子が異変の時に来ていた吸血鬼の妹なのね」
「ああ。昔はどうだったのかは知らないけれど……今のあの子は、心やさしい子だよ。レミリアさんが大事に思うのもよく分かるね」
とっ、とっ、と足音を木造の廊下に響かせながら、鈴仙とイオは会話を交わしていた。
既に両者は異変の事は引きずっておらず、こうして会話を交わせる程度には知り合いの関係へと発展しているのである。
「でも、そうだったらあの姉が一緒に来ていないのが不思議ね?」
「まぁね……二日前ぐらいに、ルーミアとさっきの人妖の子たちが紅魔館に行った時に、紆余曲折あって友達になれたんだけどね、その時にレミリアさんから許可をもらったそうだよ。『自分の同伴がなくとも、幻想郷を回る事が出来る』ようにね。そう言う事もあって、今回フランが此処に来たのはある薬を作ってもらう為なんだ」
「……あの見た目だしねぇ。ま、うちの師匠だったら問題ないと思うけど。何せ、『薬を調合する程度の能力』を持ってるし」
「…………聞くからに、ものすごい能力持っているよね永琳先生。僕のいた世界の医者が聞いたら、かなり渇望する位の代物だよ?」
魔法、そして学問が進み進化してきた医療技術だが、それでも完治できない病気もまた存在した。
人類の医療技術は、切り傷や刺し傷などの単純なものから始まり、現在では内臓の調子を測定する技術も生まれている。
とはいえ、完全に細胞レベルにまで干渉出来るような薬など有るわけもない訳で……
「薬を調合するって単純な言い方ではあるけれど、でも、どんな薬でも作ることが出来ると言う事だけはわかる。そうなると、姿を変えさせる薬も妖力を抑える薬も当然作れるという事でもあるわけだ」
「そうねぇ……実際、医療向きの能力である事は確かよね。……毎回実験台は勘弁してほしいけど」
ぼそ、と呟かれた最後の一言に、イオはちょっぴり表情が引き攣ったものの、聴かなかったことにして、
「ま、フランが自分で言うって僕に言ったわけだし、頑張る姿見守らせてもらおうかな」
そうと決まればさっさとラルロスに会いに行かなきゃ。
やや、楽しげな様子でイオがそう呟くと、鈴仙も笑って、
「仲がいいのね貴方達って。ちょっとうらやましくもあるわ……ほら、こっちよ」
「ありがと。さぁて、今日はどんな夜になりそうかな」
如何なる技術によってか上部が輝いている廊下を歩きながら、イオは一直線に親友の元へと歩いて行くのであった。
「――ふむ。一時的に人になれる薬と、そのきれいな翼を消すための薬を、ねぇ」
「うん、秋祭りに行きたかったけど、私妖怪だし、人間に怖がられちゃうかもしれない。流石に、それだとお祭りを台無しにしてしまうから。因みに、此処にいる他の子たちもおんなじような理由で来たの」
真剣な表情でそう語るフランに、噂で聞いていたような狂気は見当たらなく、永琳はその事にやや感心の想いも抱きながら、薬師としての言葉を告げる。
「……確かに。私の能力であればその効果をもたらす薬も作る事は可能よ?実際、貴女の言葉を聞いて知識の中から探してみれば、そういう薬があるのも分かったしね。ただ、そうなると……一種類の薬を飲むか、もしくは二種類の薬を飲むかに分かれることになるわ」
「と言う事は、十分大丈夫ということなんだよね?」
チルノがやや、不安と期待とが入り混じった声を発した。
その言葉にうなずきながら、永琳は尚も言葉をつづけて、
「ええ、そうよ。――まず、一つ目の一種類だけの薬と言うのは、端的に言ってしまえば、人里にいる人間の誰かに変身する薬。これは、貴女の要望にもある一時的な人間化と羽根を消してくれる薬ではあるんだけど、そもそも同じ人間が二人いたらかなり混乱を引き起こしてしまうから、危険な手段ね。それに、もしイオと一緒に回るつもりであるならば、その変身した人物が誤解を受けられる可能性もあるし」
「……実質的に一つになっちゃうね、それだと」
やや苦笑めいた表情を浮かべた大妖精に、フランはそれでもしっかりと頷いて、
「永琳先生。もう一つの方法でお願い。混乱を引き起こすのは不味いもの」
「ええ、分かっているわ。――最後の方法は、まあ、直球で言ってしまうとやはり人間化の為の薬と、翼を消し去る薬。だけどね……胃の中で混ざった時にどんな効果が発生するか、ちょっと判断がつきづらいのよ。狙ったとおりに行くか、もしくは別のものになってしまうか。正直、不安材料が大きすぎるわ。無論、薬の効果が絶対に残らないように制限時間のある薬を調薬しているけどね」
「……具体的に、混ざった時に起こる効果って何?」
「そうねぇ……とりあえず、普通に人間化して翼も消える場合と、人間化及び翼も消えるけれど、外見年齢が変化してしまう場合に大別できるかしら。鈴仙に使用した時の実験結果ではあるんだけどね」
さらりと人体実験を行っていた旨の発言をする永琳に、その場にいた一同は(よく分かっていないチルノはさておき)一様に表情を引き攣らせる。
慌ててリグルが、
「(ねぇ、ホントに大丈夫なのこの人。聞くからに怪しい薬作っているようにしか聞こえないんだけど)」
「(私に言われても困るよ!ていうか、リグルが元々言いだしっぺだろうに!?)」
「(そりゃそうだけどさ!こんなことになるなら、あの動かない大図書館に言った方がまだましだった気がするんだよ!)」
小声で云い争うリグルとミスティアに、近くで聞いていた大妖精はますます表情を引き攣らせたものの、
「ふ、フランちゃん。どうするの?私、ちょっと怖いんだけど」
と、恐る恐るながらも声をかけた。
その言葉に、フランは随分と悩んだ表情を浮かべていたが……
「――先生。お願いしていいかな?」
「……という事は、飲むつもりなのね?」
「うん。一応、命の危険もないようだし、その副作用の効果さえ気を付けていれば大丈夫だと思うから」
にっこりと、何処か覚悟を決めたような表情でそう宣言するフラン。
「そう……じゃ、今から作るからそこで待っていなさい。それで、他の人たちは?」
「あたい、飲む!」
「チルノちゃん!?」
手をはっきりと挙げ宣言するチルノに、大妖精が驚きの声を出した。
だが、チルノはけしてその声にひるむことなく、
「あたい、いつも体が冷たいまんまだから、皆に触れるようになりたいんだ!」
「……チルノ」
結構真剣な理由で飲むことを決めた彼女に、リグルはやや複雑そうな表情で呟く。
「はい、じゃあ二人目ね。他はどうするつもり?」
「そ、それじゃ……私も」
大妖精が恐る恐る手を挙げ、
「ん~……私もそうしよっかな」
ルーミアが両手を広げながらそう告げ、
「……僕は、いいよ。幸い、いつも蟲の知らせサービスで人里には姿を知られてるし」
リグルはやや迷った末にそう答え、
「リグルに同じ。私、今回の秋祭りで屋台をやる心算だし、姿が変わってたらお客さん吃驚しちゃうから」
やや苦笑しながらミスティアが永琳に向かって告げた。
「ふむふむ……じゃ、結局フランの他には三人が薬を飲むことにした訳ね。了解したわ……ちょっと時間もかかるし、イオの所にでも行っていてくれるかしら?」
すらすらと、メモ帳らしき物に何かを書きつけながら、永琳が彼女たちに向ってそう告げると、何やらそれを覗き込みながら、
「……先生、いったい何を書いているの?何か、文字とは思えないんだけど」
一見して落書きにしか見えないその文字に、ルーミアがちょっと不思議そうな表情になりながらそう尋ねると、永琳はフッと笑って、
「そりゃあ、月で使われている文字なんだから分からないのは当たり前でしょう。患者の事もあるし、そうそう読まれたらたまらないわ。さ、イオの所にお行きなさい?」
「わかった~、イオの魔力、一応感知できるしそっちの方へ行ってみるー」
ぴょこん、と覗き込むのに使っていた患者用の椅子を飛び降り、ルーミアは他の人妖達と共に診察室を出て行くのであった。
あとに残された永琳は、書きつけていたメモ帳を見ながら、
「さて、と……本格的な臨床はちょっと初めてになるけれど……まあ、何とかなるでしょう。鈴仙だと、外見がただ年をとったような感じだったのに対して、あの子たちの場合を想定しておかないとね……イオが怒り狂ったらたまったものではないし」
――幾ら死なないからだになっていると言っても……ね。
ぽつり、と呟くようにして誰もいない空間に、その声は響き渡る。
あたかも、その様子はひっそりと誰にも知られる事がないようにという思惑でもあるかのようだった。
――――――――
「――やっほ、ラルロス。遊びに来たよ」
一方その頃。
イオは鈴仙に連れられながら、彼の親友の所にまで辿り着いていた。
ごちゃごちゃと魔法関連の書物が溢れる、現時点での彼の拠点には何やら魔力を感じさせる魔法陣やら棒状の物体などが散乱しており、どうやら近日に帰ることになったとはいえ、まだ調べつくしていない事があることを伺わせる。
「お?何だ、イオかよ。俺に用か?」
ガサガサと卓上で何かを漁りながら、ラルロスが見もせずにイオに向ってそう言い放った。
なんら変わる所のない親友の様子にやや苦笑めいたものが浮かぶのを感じながらも、イオは首を振って、
「いや、今回はある妖怪の子たちの連れそいだよ。近く行われる祭りに遊びに行きたいって、ことでね。一時的に人間になれるような薬を求めてきたんだ」
積み上げられた普通の書物に腰かけつつそう告げると、やっとそこでラルロスが興味を掻きたてられたのだろうか、イオのいる方へと体ごと向けながら、
「へぇ……かなり珍しいんじゃねえか?妖怪が人間に迷惑かけないようにって動くなんざ」
「まぁ、ね。噂が噂だから。ほら、聞いたことない?レミリアさんの妹の事」
今日連れて来たのは、その子とあとは友達になった他の人妖達の子でね。
ニコニコと笑いながらイオがそう告げると、何かを考えるような表情になった後、ああ、と声を上げて、
「こないだ来てたレミリアか。ま、あの後レミリアから宴会で会話はちょっとしたけどよ、そん時は妹らしい姿なんざ見なかったが」
「自分の力の危険度を自覚しているせいもあってね……最近まで、自室に閉じこもってたんだけど、さ。つい三日くらい前かなぁ……ルーミア達――さっき言った人妖の子たちね――が、紅魔館に突貫してほぼ強引に友達になっちゃったんだよ。いやぁ、最初聞いた時は眼が丸くなったよホント」
「成程な。……そうなると、今この部屋に近づいて来ているのはその子たちか」
ちらり、とルーミア達が近づいて来ている気配を感じているのか、その方角へと目を向けるラルロスに、イオは瞑目しながら微笑み、
「うん、そうだろね。多分、永琳先生から待つようにって言われたんだと思うよ。それよりも気になるのがね……」
ぞくり。
一瞬にして剣呑な気配を放ち始めたイオに、ラルロスは苦笑を浮かべ、、
「……もしかして、分かっちまったか?姫さん達の大げんかに」
「分からない方がどうかしてる。やたら殺気が入り混じっていると思ったら……この気配、本当に殺し合いしている奴だよ。全く、ちょっと止めに行ってくる」
「……ホントは止めなくとも大丈夫なんだがな。ま、付き合うさ」
ばさり、と最高峰のローブと己が家の家宝である『ロードオブヴァ―ミリオン』と呼ばれる至高の魔法杖を手に持ちながらラルロスがそう告げると、イオも呼応するようにして二振りの刀たる双刀『朱煉』を改めて腰に据え付けながら、
「だね。ルーミア達には悪いけれど……ちょいと、本気で止めに行かなきゃ」
真剣な眼差しを、蓬莱山輝夜ともう一人の気配がする方向へと向けながら、イオは静かにそう呟くのであった。