東方剣神録   作:上田幻

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微エロ注意報発令。
微エロ注意報発令。

そして、仄かに漂うラブコメ注意報発令。
……作者としていわせてもらおう……イオよ、爆発しろと。


第三十五章「猛るは不老不死の姫たち」

 

「――やれやれ、ようやく近づいてきたか。毎回のことながら、騒がしいったらありゃしねえな」

「全くもって同感だよ。何が楽しくて殺し合いをしているのやら」

しゅたた……と竹林の中を駆け抜けながら、イオとラルロスは近づいてきた爆音に嫌そうな表情になりながらそう言葉を交わし合う。

 既に、彼らは部屋を出ており、三日月の薄らとした光が道中を照らす下を、イオが『照光』の魔法を用いるとともにラルロスと連れだって走っていた。

 次第に近づいている爆音からして、そろそろ着きそうなのは分かっているが、そもそもスペルカードルールが準拠されている筈のこの幻想郷内で、イオが戦うこと以外で人妖達が殺し合いをすることなど稀を通り越して、あり得ないと思っていたのだが……

「――ラルロス?いつから彼女たちはこうしているの?」

もはや怖い気配しか放たなくなっているイオの様子に、ラルロスは溜息をつきながら、

「……俺がこの世界にたどり着く前から、ずっと。いや、もしかすると何百年もやりあってるかもしんねえ」

「…………本気で言ってる?」

幾らなんでもあり得ないとしか言いようのないその言葉に、思わず剣呑な気配を霧散させながらイオが尋ねると、彼は頷いて、

「そもそも姫さん達は『蓬莱人』と呼ばれる不老不死の人間だからな……死ぬ事も老いることさえも無いんだ。なにせ、魂の形が固定されているみたいでよ、その情報に則って再生する仕組みになっているんだと」

「……つくづく、幻想郷はいろんな種族があり過ぎる。元の世界じゃ、幻想は真龍か、龍人くらいしかないのにさ」

愚痴るような言い方でそう呟くと、イオは一段と速度を上げ――

 

「――龍皇炎舞流、陸式……『蒼天、裂槍』……!!」

 

気を溜めつつ刀から気刃を撃ち出した。

 槍の突きを模ったその気刃が、空気を裂くを通り越し――衝撃波となって彼女たちに襲い掛かる。

「ぐぅ!?」

「きゃぁ!?」

悲鳴を上げながら吹き飛ぶ二人に、ラルロスはやや冷や汗を流しながら、

「おいおい、あれ致死傷になってねぇか?」

「大丈夫だよ。単純に空気を撃ち出したのと変わらないし。ま、この世界に来て能力が発現しなかったら、そうなってたのは確かだけどね」

油断なく身構えながらイオがラルロスに向ってそう答えると、

 

「――何処のどいつだ?私達の殺し合いを邪魔する奴は」

 

轟っ!と風が唸る音と共に、鳳凰が顕現した。

「……ラルロス。僕聞いていないよこんなの」

あきれ果てたような眼で、ラルロスを見ながらそう突っ込んだイオだったが、彼は仕方ないだろ、と言って、

「そもそも、俺が最初に止めた時は遠慮なく氷の中に閉じ込めた時だったからな」

「やれやれ……ラルロスも結構大概だよね」

苦笑するようにして呟き、イオは瞑目の後にカッと目を見開くと、

 

――気符『龍皇覺醒』――

 

自身の刀を一旦納刀し、手の中に現れたスペルカードをぐしゃりと力込めて握りしめる。

 ッドン!と気が体からあふれ出そうになる感覚を覚えつつも、イオはぐぐっと体内を循環させるようにして留めた。

「……おい、ラルロス。コイツいったい何なんだ?」

どうやらすでに知己であったらしい、白く長い髪を持ち服中に御札を模した模様が描かれているもんぺと白い服とを着た少女が、ラルロスに向って不機嫌そうな声で誰何する。

 だが、ラルロスは苦笑して、

「まあ……俺の親友だ。また姫さん達が喧嘩してるって分かったもんだからよ、止めに来たんだよ……『蓬莱の人の形』である、藤原妹紅さんよぉ?」

 

「――はぁ、余計なおせっかいねぇ……ラルロス、貴方もう知っている筈でしょうに」

 

ラルロスの言葉が放たれると同時に、もう一方からもう一人の声――蓬莱山輝夜の声が響き渡った。

 見れば、やや焦げ付いた跡が散見される状態の彼女がおり、こちらもやや不機嫌そうな表情である。

「わりぃが……眼と鼻の先で殺し合いをされちゃ、捗る筈の研究も捗らねえからよ。前回は一対二でやり合ったが……今回は、ちょいと違うぜ?」

にやりと笑うラルロスに、イオは溜息をつくと、

「そろそろ止めよう、ラルロス。秋祭りが近いのにこんな喧嘩してるバカ達を止めないとさ」

――いつまでも楽しい気分になんか、なりゃしない。

 やや冷ややかなその声に、目の前の蓬莱人たちが一様に青筋を立てた。

「……言うじゃないか、まだまだひよっこにしか見えない青二才が。幾年も生きる蓬莱人の相手を、十分務められる自信はあるんだろうなぁあ?」

完全にやくざにしか聞こえないセリフで、藤原妹紅が獰猛な笑顔を浮かべながらそう言えば、

「あら、二人とも私の獲物なのよ?妹紅、取るのはやや行儀が悪いんじゃないかしら?」

何かの力を秘めていると思しき、宝石のような輝きを放つ枝状の物体を持ちながらそう告げる輝夜。

「本音を言わせてもらえれば。なぜ、不老不死になった後で不毛な戦いを続けているのか大いに興味はあるけれど……貴女達が殺し合いしている様子はルーミア達の教育にも悪いし。申し訳ないけれどとっとと終わらせるよ、ラルロス」

「ああそうだな。前は思い切り力技で封印したけどよ、今回はコンビの妙美を見せつけてやるぜ?」

龍の青年と至高の賢人のクラム国最強のコンビが、蓬莱人に向って牙を剥いた……!

 

――――――

 

――その時、永琳は目を細め。

――その時、ルーミア達は漂い来る波動に、思わず身を震えさせ。

――その時、鈴仙はびりびりと震える大気に警戒を抱いた。

 

……そして、蓬莱人たちは。

 

「――ラルロス。あれやって」

「あいよ」

 

――強大無比な攻撃が生まれようとしている様を、今まさに目の前で見ていた。

「ぉぉおらっ!!」

させじとばかりに妹紅が爆焔を生み出し、彼らにぶつけようと画策するが、イオは後ろで魔法陣を展開しているラルロスの邪魔にならぬように技を繰り出す。

 

――弐式『断空貳撃』――

 

大気、そして竹林をも斬り裂く勢いで斬撃が空を舞い、鳥の形をとりし焔は一気に四つに分かたれた。

 斬撃の衝撃で吹き飛んで行く妹紅をよそに、

「はぁっ!!」

輝夜はスペルカードを手の中に顕現させ、大声量で宣言する。

 

――神宝「ブリリアントドラゴンバレッタ」――

 

古の物語に出てくる『龍の首の珠』を模した、輝く弾幕がイオたちを襲った。

 しかし、イオは慌てることなく静かに自然体に戻ると、

 

――漆式『青嵐華焔』――

 

龍皇炎舞流が漆式であり、極めし斬撃で以て全ての弾幕を斬り裂く。

「っ、しぶといわね……とっとと落ちなさいよ、似非龍神が」

「全くだ……此処まで面倒くさい奴等、初めてだよホント」

口々に罵って来る彼女たちに、イオはただ冷やかに笑うと、

「長く生きるだけ生きておいて、その程度の語彙しか持っていないの?だとしたら長生きするのも考えものだね」

暗に、年よりは黙っていろと言っているかのようなその台詞に、再び彼女たちのこめかみに青筋が立った。

 だが、彼女たちが行動を起こそうとしたその途端。

「――待たせた。いつでもやれる」

「じゃ、合図したらお願い」

強大な力と共にラルロスがイオに向って呟き、イオはそれに頷きながら八双に身構えた。

 明らかに先程の弐式を放つ構えを取っていることに気づき、妹紅が両手に焔を顕現させながら、

「させるかバカたれ!」

 

――不死『火の鳥―鳳翼天翔―』――

 

 鳳凰を模った弾幕が、彼らの元へと襲いかからんと唸りを上げるが、彼らは全く慌てることなく淡々として、

「――今だよ」

「おう。――『集え集え、この星に刻まれし最古の記憶。全ての始原よ、今こそ集いて彼の者を穿て――』」

「――龍皇炎舞流、最終奥義……!!」

 

――『虹之光輝(オーラバースト)』――

 

――『終焉:龍皇炎舞』――

 

「――からの合成!見ろ、これが僕たちの連携技――!」

 

――『虹之煌剣(オーラスラッシュ)』――

 

 五行魔法の全属性が付与された斬撃が今、唸りを上げて彼女たちに襲い掛かる……!!!

 

――――――

 

――轟音が遠く永遠亭にまで轟いたその時。

「……やれやれ。まさかとは思うけれど……」

以前にも感じたラルロスの魔力の波動、そして、もう一つ気の波動とも言うべきものを感じ取り、永琳は疲れたような表情になって、深いため息をついた。

「師匠……これって、明らかにあの二人ですよね?」

「でしょうねぇ……全く、ラルロスのお節介には困ったものだわ。姫様たちのは、もはや日常になっているのに……」

「というか、あっちから感じる波動、月にいたときに綿月依姫様がデモンストレーションでやった斬撃と同じくらいの圧力を感じるんですけど」

引き攣ったような表情でラルロス達がいる方向を見ている鈴仙に、永琳は内心、

(まぁそうでしょうね。何せ、ラルロスが言う五行属性全てが込められた魔法を放ったんでしょうし)

と感じられた波動から推測してそう思いながらも、

「……とりあえず、回収してきて。姫様達、もしかすると素っ裸になっているかも知れないし」

「!!いけない、急いで回収してきます!」

いつも輝夜と妹紅の戦いではそうなっている事を今更のように思い出し、鈴仙が慌てて彼らがいる方向へと一目散に駆けていく。

 

 さて、こちらはイオたちがいる現場だが――

――果たして、彼女たちはその言葉通りになっていた。

 

「――!?……!?ちょ、服!服を着てくださいよ!何で裸になっているんです!?」

戦いを終え、回収しようとしてイオが彼女たちに近づいた時に放たれたその言葉。

 ラルロスはその背後であっちゃぁ……と言わんばかりに顔を覆っていた。

「……わりぃ、イオ。いつも戦った後姫さん達はそうなるんだ」

「いやあり得ないでしょ!?服まで再生するんじゃないの!?」

混乱したようにイオがラルロスに向ってそう叫ぶが、彼はフッと笑って首を振ると、

「――あのな。魂の形を復元する形で再生してるとはいうけどよ、服まで魂の範疇に入るのか?」

「なん、だと……!?」

驚愕の表情でラルロスを見やるイオだったが、すぐさま顔をそむけることになる。

 なぜならば、ラルロスがいる方角から、輝夜が近づいてきたからだった。

「……ま、そう言うことね。にしても……貴方、女の裸見て何でそんなに慌てているの?ラルロスから聞いた限りだと、貴方、二十五歳だそうじゃない?その歳だったらもういわゆる懇ろになった子とかいるでしょうに」

輝夜が肌を隠すことなく、むしろイオに見せつけるようにしながら詰め寄ると、イオはその方角へ顔を向けずに喚く。

「悪いですか!女性から抱きつかれたりしたことはありますけど、そもそもそんな関係になった子なんて一人も――!」

「あらあら……これは面白い事を聞いたわ。ねぇ……妹紅?」

「そうだなぁ……あれだけ私達を痛めつけてくれたんだ……ちょっとはお仕置き、しないとなぁ……!」

同じように素っ裸になっている妹紅が、ニヤニヤと笑いながら輝夜とは別の方向からやってきてイオに詰め寄った。

 追い詰められたイオは顔を引き攣らせ、思いきり身を翻すと、

「!!さ、三十六計逃げるにしかずぅーー!!?」

全力、全開でその場から駆け去っていくのであった。

 その様子を頭に手をやりながら呆れているラルロスが、

「……イオ、お前そんな状態だと、本当に好きになった奴と全然触れ合えねぇぞ……?」

とほとほとと疲れたような声でそう呟いた。

――そこへ、

「おいおい……他人事のように言ってるが、お前も当然お仕置きだぞ?しかも……痛い方のなぁ」

「そうそう。私達の裸、ただじゃまからないわよ?なんて言ったって、この世においてかなりきれいな方だと自負しているしねぇ?」

ころころと鈴の鳴るような笑い声をあげる輝夜と、獰猛な笑顔を浮かべている妹紅の二人。

 だが、ラルロスはそちらを見ることなく、

「あー……チェンジで」

「「はぁ!?」」

驚愕の声を上げる二人に、ラルロスは溜息をつくと、

「いや、当たり前だろう?そんな恥ずかしげもなく全部見せつけるようなの……俺は好きじゃないんだよ。それに、もう一個言わせてもらうとだ……『年考えろ、千年以上生きてる婆ども』」

ぶちっ。

『はぁ、萎えるわー』

と言わんばかりのラルロスに、二人から糸の切れるような音が響いた。

「い、今なんて言ったのかしらねぇ……ラルロスぅ?」

ぴく、ぴくぴくとこめかみを引き攣らせながら笑顔で、外見上は少女である輝夜がそう尋ね、

「すっげえあり得ない単語が聞こえた気がしたんだがよぉ……?」

こちらはむしろ無表情になっている、同じように外見上は少女である妹紅が、ごごご……と気配を強めながら詰め寄る。

 

――だが、ラルロスは怯むことなく告げた。

「言ってんだろうが……『年考えろ、婆ども』」

「「おし来た戦争じゃワレえぇぇ!!」」

再び、轟音と弾幕が辺りを席巻していく。

 

「――ちょ!?何事!?」

丁度その場にたどり着いた、服を抱えている鈴仙があまりの惨状に思わず叫んだのは蛇足というものであろう。

 

――――――――

 

「――やれやれ。いったい何があったの?」

ラルロスの部屋に入った永琳は、そこでがくがくぶるぶると震えて座っているイオを発見し、呆れたような声でそう尋ねた。

 

――だが、しかし。

「おんなこわいおんなこわいおんなこわいおんなこわい…………」

ぶつぶつと青ざめた表情で何かを呟いているイオには全く以て聞こえていないようであり……

「はぁ……――ってい!」

「ぎゃふん!?」

永琳が深いため息をついた後に強烈な手刀を繰り出し、妙な悲鳴と共にイオが倒れる。

 シュゥ……と煙を上げているのが何となく幻視出来た永琳は、再び溜息をつくと、

「何をそんなに怯えているのか知らないけれど……そろそろ元に戻ってくれないかしら?貴方の連れであるルーミア達の薬が、もう出来上がっているのよね」

「…………あの、幾らなんでも扱いがひどいと思うんですが」

にょきっという音が聞こえそうな動きで、イオが倒れていた状態から身を起こしつつ永琳に抗議した。

 しかし彼女はしれっとして、

「あら、別に起こさないでも良かったのよ?だって、そのまま薬の実験台に使えるわけだし」

「なにそれこあい」

ややマッドが入った薬師の発言に、イオは再び青ざめながらそう呟く。

 そんなイオに頓着することなく永琳は明後日の方を見ると、

「さて、と……ラルロスはどうしたの?まさか、まだやりあっているのかしら?」

「あ。…………置いてきちゃいました」

はっとなった後にずーん……という音が聞こえてきそうなほどに、失意体前屈の状態でイオが呻いた。

「全くもう。ラルロスにも困ったものだわ……姫様たちのは、あれで日常になっているのだから、そんなに介入しなくてもよいと伝えてあるのだけどねぇ」

腕を組みながら永琳がそう困ったようにそう呟くが、イオはその事でちょっとモノ申したいことがある。

「いや、流石に何百年も殺し合いやってるなんて話、聴かされたら十分止めようなんて気持ちになると思うんですが」

ジト眼になり先程の体勢のままイオがそう突っ込みを入れるが、永琳はしれっとして、

「あら、しょうがないじゃない。元々、姫様が起こした厄介事が原因なんだし」

「……はぁ?」

思いもよらないその言葉に、イオの眼が思わず丸くなった。

 だが、永琳はそんなイオに構わず、

「それで、結局何があって貴方はあんなにおびえていたのかしら?傍から見て理解しがたい何かに遭遇したような表情だったけれど」

とやや強引に話題を転換させ、イオに詰め寄る。

「え、ええと……なんというか」

イオはその様子に思わず言葉を詰まらせ、あちこちへと視線を彷徨わせた。

……どうやら、永琳の様子につられたようである。

 内心安堵しつつも、永琳がイオの言葉を待っていると、

「……あの、お宅の姫様がた……露出狂の趣味でもあるんですか?」

「……はぁ?」

思わぬ言葉に、今度は永琳の眼が丸くなった。

 それから呆れ顔を覆うように顔に手をやりながら、

「いったいどうしてそんな言葉が出てきたの?貴方、ラルロスと一緒に姫様達の殺し合いを止めに行ったんでしょう?」

「止めに行った時に大技繰り出しちゃって。で、それで姫様達の服が吹っ飛んじゃったんですけど、その状態のまま、邪魔したお仕置きと称して詰め寄って来ました」

永琳の問いに青ざめた表情で真顔になって告げられたその事実。

「…………本気で言っているのかしら?」

呆気にとられた表情になり、顔から手を下した永琳がそう問い質すと、

「事実です」

「……はぁ。姫様には十分な教育を与えてきたつもりなのだけどねぇ……」

まぁいいわ。後で薬の実験台になってもらいましょう。

恐ろしい言葉をサラッと吐きながら、永琳はひとまず話題を転換させることにしたようだった。

「――とりあえず、フラン・大妖精・チルノ、そしてルーミアの四人に薬を調合して飲ませて置いたわ。貴方達の戦いが続いている間に出来たものだから、ね。此処まで轟いてきたから驚いたわ」

そう話すわりには表情はそれ程驚いているようではなく、イオはその表情に先程まであった事を淡々として伝えているだけであると思う。

 イオがそんな思考に入っているとは思いもせず、永琳は傍らにおいていたカルテという患者の事を記したものらしいものを手に取ると、

「結果としては四人とも彼女たちが望んだ通りにはなったけれど……ま、これは見てもらった方が早いかしらね」

「――え?」

最後の言葉がよく聞きとれず、思わず永琳に訊き返した所で、

 

「――イ~オ♪」

 

突如として後ろから誰かに抱きつかれた。

「…………は?」

思わぬ出来事、そして何やら聞き覚えのあるその声にイオは凍りつく。

 恐る恐る、肩越しに後ろを振り返った先には、見た事もない人物がイオに向ってニコニコとしながら抱きついて来ているのがよく見えた。

 肩甲骨の間にまで届くほどに髪が長く、黒のワンピースを着た、現在のイオの背丈と同じ位のその人物は、どうやらイオの知っている人物の様だが……。

 そこまで考えた所で、イオは驚愕の表情を浮かべた。

 

「――まさか。ルーミ、ア……?」

 

想像しているものより、遥かに飛び越えた結果で戻ってきた彼女に、ひたすら呆気にとられるしかない。

「うん、そうだよ~。大人になっちゃった♪」

「ええええ永琳先生!!?」

大声をあげながらイオはルーミアから飛び下がり、永琳に向って混乱しているかのように呼びかけた。

 しかし、至高の薬師はしれっとして、

「あら、何か問題でも?」

「いや、要望は叶ってますけど!大人になってますって!!」

「そうね。丁度、貴方の年と比べると少し……そうね、大体七歳ほど年下になっているわ。肉体的にはね」

「はぁあ!?」

次から次へと明かされる薬がもたらした結果に、イオは心底から驚きの声を上げる。

 だが、薬師はなおも悪びれることなく、

「元々、彼女たちが飲んだ薬は二種類あったのだけどねぇ……ま、副作用という事よ」

「分かっててやったんですか!?」

けして医療機関の人間がやっていいことではない事を平然として言ってのけた永琳に、イオは怒涛の突っ込みを入れた。

「まぁね。副作用とはいっても単純に外見年齢が変化するだけの代物だし、そんなに危険じゃない事は確かね」

「…………ふつう、副作用がないようにするのが常識では?」

「元々別々に作っていたんだもの。鈴仙に投与して実験進めてたら、こういう副作用が初めて分かったのよ?仕方がないわ」

「しれっと人体実験発言するのをやめてくれません……?」

がくり、と脱力したように言うイオであったが、そこで今までイオに飛び下がられてむっすりとしていたルーミアが、

「……イオ、なんで飛び下がるの」

と、彼らの話題に割り込んだ。

 そこで初めてイオはルーミアが不機嫌な状態になっていることに気づき、慌てた表情になると、

「いや、別にルーミアが嫌いになった訳じゃないんだよ?ただ、びっくりしちゃって」

と、何やら傍からして恋人が痴話喧嘩をしているかのような状態へと移行した。

「むぅ……私、結構頑張ったんだよ?」

「そ、それは本当にごめんね?流石に、知ってる子がいきなり大きくなったからさ」

平謝りに謝るその様子に、ふと、永琳が一言。

 

「……貴方達、付き合ってるの?」

 

「ぶふっ!!?」

突然投げ込まれた爆弾に、思わずイオが吹き出し咳きこむ。

「そ、そんなわけないじゃないですか!永琳先生も、この子が大人になる前の姿は当然分かってるでしょう!?」

ルーミアの両肩を掴み、裏返して永琳に見せつけるようにしながらイオがそう抗議すると、

「だって……傍からしてどうもそうとしか思えないんだもの。もうちょっと、周りや自分の言動に気をつけたらどうなの?ルーミアが大人になっている事は私が原因だからまだいいけれど……イオの言葉、へたれな男の言葉にしか聞こえないわよ?」

「…………」

がくり、と失意体前屈の状態へと移行したイオ。

 そこへ冷たくルーミアがジト眼になった状態で、

「……イオ、かっこ悪い」

ぐっさぁ!

 音たてて何かがイオに刺さり、イオはぐったりと倒れこんだのだった。

 

 

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