済みません、めっさ本当に済みません!!
……RBに嵌りまくってました。言い訳のしようもございません……。
「……あれ?そういえば、ラルロスはどうしたんです?」
僅かばかり売れ残っていた菓子類を阿求にあげていたイオが、ふと、咲夜達と共に歩いていた筈の親友の姿がないことに気づき、咲夜へ不思議そうに尋ねる。
すると、咲夜は苦笑して、
「彼だったら『何か嫌な予感するから、博麗神社の方にでも行ってくるぜ』なんて言っていたわ。多分、あのスキマがいる事を感知したんでしょうね」
「……あぁ、そういやラルロス紫さんが苦手と言うか、結構敵視してたね……」
「仕方ないでしょうよ、貴方の事なんだから」
ただでさえ、あの胡散臭さには辟易していたようにも見えたしね。
苦笑したままの表情で咲夜がそう告げると、イオはあぁ……と、再び何処か納得しているような声を上げ、
「ま、結構胡散臭く見えるのは僕も同感ですけどねぇ。ああいう態度でもなければ、この幻想郷の管理者として振舞うことなんか出来ないでしょうし」
「――あらあら、私の事を言っているような気配がしたけれど……どうかしたのかしら?」
ずずず。
至近距離で何かが引きずられるような音と共に、イオの顔近くで隙間が開くと中から紫が上半身のみで覗きこんできた。
だが、イオはその様子に驚くことなく苦笑するだけで、
「いや、別に紫さん自身の事を言っていたわけじゃあないですよ。ラルロスの姿がないので探していたら、どうも紫さんの気配を感じ取ってたみたいでと言う様な事を話してたんです」
と、いかにも困ったような口ぶりである。
「……全く、私に対する扱いと言うのがなっていないような気がするわ。もうあの夜の事は、もう済んだとばかり思っていたのに」
やや、不満そうな表情を浮かべながら、紫は何もない空中で頬をつきながらぼやいた。
流石にイオもその言葉に対してはなんのフォローも思いつかなかった為、
「あ、あはは……」
と苦笑するにとどめる。
と、そこへルーミアが人妖レンジャー達との輪から抜け出して来て、
「イオ!片付け終ったんだったら早く行こうよ!博麗神社の方、花火がよく見えるんだって!慧音が言ってた!」
「お、おっとっと……そんなに急がなくても大丈夫でしょ?まだ花火が打ち上がるにはちょっと早いし」
手をひっぱりながら告げる彼女に、イオはちょっとこけかけながらも苦笑してそう言ったが、ルーミアはなおも引っ張りながら、
「だからだよ!こういうのは速度が重要なんだから!一番いいとこ知ってるんだ!」
そのまま空へと飛びあがっていこうとした。
慌てたようにイオがそれに合わせて空を駆けあがり、博麗神社の方へと彼らが飛び去っていく姿が見える。
ルーミアが大人化しているせいもあってか、彼らの様子が何だか恋人のそれのように見え、見送っていた咲夜が思わず微笑ましそうに表情を変化させた。
同じように楽しそうなルーミアを微笑みと共に見つめながら、
「……やれやれ。ルーミアは一直線ねぇ」
と、紫が静かに呟く。
「……見る限りではありますが、彼女はイオの事が好きなのでしょう。彼のような穏やかな気性で人間、妖怪分け隔てなく接してくれる人物と言うのは、とてもじゃないですが見つからないと思われますし」
フッと紫の傍に藍があらわれ、夜空へと消えようとしている二人を眺めながらそう告げた。
咲夜も、そんな彼女たちの言葉に否定するものがないようで、穏やかに微笑みながら黙って彼らを見送っている。
すると咲夜に、人妖レンジャーと共に見送っていた魔理沙とアリスが近づいてきた。
「あいつ等も行っちまった事だし、咲夜も一緒に博麗神社行こうぜ?霊夢もそろそろ神社に戻ってる頃合いだろうしな」
「イオに、ゴーレムの事訊けるかしらねぇ……」
「止しなさい。あの二人の邪魔をすれば、馬に蹴られるわよ?」
ニヤニヤと何かを企んでいるような笑みを浮かべている魔理沙と、真剣な眼差しのまま色々と考えている風なアリスに、咲夜が呆れたような表情でそう突っ込んだ。
だが、魔理沙は悪びれもせず、
「いいじゃないか。一遍アイツの気持ちと言うのにもちょっと興味があったんだし。この幻想郷の事も含めて、アイツが本当に好きな奴が誰なのか、賭けてみないか?」
「……イオがブチ切れても私は知らないわよ。イオ、そういう気持ちを大事にするでしょうし。怒りのあまりにきついお仕置き受けても私は無関係を装うからね」
はぁ、とため息をつきながら魔理沙にそう告げた咲夜は、静かに目を閉じるとフッと空へと飛び上がって行く。
すかさず魔理沙が箒を召喚し、飛び乗って後を追いかけると同時、アリスもまた空を飛びあがって行った。
「……やれやれ。今夜は嵐が吹き荒れそうねぇ……」
彼女たちの姿が消えた、月が浮かぶ晴天の夜空を見上げながら、紫はやや疲れたように溜息をつく。
「警戒をしておいた方がよろしいでしょうか?」
「でしょうねぇ。結界、よく見張っておきなさいね?それと、イオの事もそれとなく見ておきなさい。ルーミアがいるとなると、あの鴉天狗も黙っていないかも知れないから」
ちらり、と何処かに視線を向けながら、紫は藍の言葉にそう返すのであった。
―――――――
――博麗神社、境内。
月明かりで薄らと見える石畳に降り立ったイオとルーミアは、ルーミアが案内する先にある神社――の屋根上へと上がっていた。
「……いやまあ、ここならよく確かに良く見えるけどさ。かなりひねりがなさすぎる気がするんだけど」
「むぅ……いいでしょべつに~」
ちょっと呆れたように首を振っているイオに、ルーミアがやや膨れ面になりながら言い返す。
そっと屋根の瓦部分に腰かけながら、二人は会話を続けた。
「……にしても、もう秋か……冬の景色って、どういう風になるんだろうね?」
「う~ん……前に、やたらと寒い思いだけはしたことはあるけどねー」
腕を組みながら、ちょっと考えている風のルーミアに、イオは少し驚いて、
「へぇ?ちなみにどういうのだったの?」
「うん……前に、終らない冬なんて異変があったんだけどね~……」
そのままルーミアが、彼女の視点で感じた異変、即ち以前イオが霊夢から聞いた『春雪異変』の事を説明していく。
「――ふぅん……霊夢からちょっとだけ聞いた事があるけど。すごく寒かったんじゃない?その異変の間は」
「寒いを通り越して痛かった。風が強くてね、吹雪が毎日起こってたくらいだから」
もう二度とああいうのはごめんだなー。
ぶらぶらと足を屋根の淵から出して遊ばせながら、ルーミアがやや沈んだ表情になってそう呟いた。
そんな彼女に、イオが安心させるようにして微笑みを浮かべると、
「ま、今は僕の家があるし。今年の冬はそんなに寒くはないと思うよ?薪だって僕の力でたくさん生み出せるし」
ポゥ……と、右手に能力を用いて生み出した乾いた木の角棒を持ち、ひゅん、ひゅんと風を切りながらイオがそう告げる。
そのまま短いナイフ状にも、或いは木刀にも自由自在に変化させながらイオが黙ったままでいると、ルーミアはやっと吹っ切れたのか、にっこりとイオの方を向いて笑い、
「うん、そうだね。……えへへ」
少しの間の後に、何処か照れくさそうな笑みに変化させ、彼女はそっとイオの肩に頭を載せた。
「ん?……どうしたの?」
いつもと違う様な雰囲気を漂わせているような気がして、イオは不思議に思いながら彼女にそう問うと、すりすりと頭をすりつけながら、
「うふふ、なんでもなーい♪」
そう言いながら、彼に甘え続けているルーミア。
そっと眼を閉じてそうし続ける彼女は、大人となった所為もあってか、何だかさびしそうにも見え、イオはちょっとだけ目を見張った。
だが、すぐに好きなようにさせようと思ったのか、フッと穏やかな笑みを浮かべてその金色の瞳を空へと向ける。
――そんな彼らを、頭上に輝く月は……優しく穏やかな銀光を投げかけていた。
―――――――
「――ね、ねぇ……もうやめにしない?あの二人の空気に毒されそうなんだけど」
えらいもの聞いたとばかりに、砂糖を吐きそうな表情でアリスがそう声をかける。
だが、彼女が声をかけた当人は、咲夜達と共に人里を出てから興味津々と言った風で屋根上の二人を見続けており、
「いいだろ別にさ。あんなにいい雰囲気出してるの、初めて見たんだし。……にしても、こりゃルーミア一択かぁ~?」
ニヤニヤと笑いながら出歯亀をし続けている魔理沙は、隠し持っていた双眼鏡と呼ばれる遠望する時の道具でジッと眺め続けながら呟いた。
どうして彼女たちがイオ達の会話を聞けているのかと言うと……
『――シャンハーイ』
アリスの作った人形である、『上海人形』が彼女たちの耳となっているためである。
アリスがこの人形に対し、一時的に光学迷彩のようにして周囲の景色に溶け込ませているために、かなりの近距離で魔力による盗聴が可能になっているのであった。
とはいえ、流石に一つの物体に対して二つも付与はかけられない為に、聞くことだけに特化した状態であり、故に魔理沙が双眼鏡を用いているのである。
「こ、これ絶対ばれるから!早く止めましょうよ!?」
「まあまあ、そんなに慌てんなって。よく見てみろよアリス、あいつ等全然気づいている風じゃないぜ?」
尚もニヤニヤしながら魔理沙がそう言った時だった。
「――何やってんだお前らは……」
ぎっくぅ!!
呆れたようなその声に、アリスと魔理沙が揃って肩をすくませる。
恐る恐るといったように後ろを振り返った二人は、そこでイオの親友――ラルロスがやれやれと首を振っているのが見え、一気に顔を青ざめさせた。
「い、いや別に何にもしてないぜ!月の表面どうなってんのか見たかっただけだし!」
慌てたように魔理沙がそう告げるが、ラルロスの表情は呆れたままで、
「……かなり無理がありすぎねぇかそれ。全く……アリス、その盗聴とっとと止めとけ。――とっくにアイツは気づいてるぞ?」
「――嘘ッ!!?」
驚愕の声を思わずアリスが洩らすと同時に、パキャァン……と、何かが割れる気配をアリスは感じ取る。
ぎくり、と再びアリスが肩を竦ませたのを見つけ、魔理沙がどんどん顔を青ざめさせると同時に、ごくりと唾を飲み込んでアリスに問いかけた。
「も、もしかして今の……」
「……上海にかけてた光学迷彩の魔法が、解けた……?」
信じられないという表情で、茫然とアリスがそう声なき声を洩らすと同時。
「――マリサ。アリス。ナニヲ・ヤッテ・イルノカナ……?」
地獄から響いているのかと思わせるような、おどろおどろしい声が彼女たちに掛けられた。
「あー……うん、まぁお前らの自業自得だなこりゃ」
目の前ではぁ……とため息をつきながら呟いたラルロスが、ガシガシと頭をかいているのを見ながら、魔理沙とアリスはぎ、ぎ、ぎ……と後ろを振り返る。
――そして、後悔した。
「ウフフフフフフフフフフ…………!!」
そこに、修羅が顕現していたからである。
ガシャリ、と刀の鍔を鳴らしながら双刀『朱煉』を両手に持ち、乾いた笑い声をずっと響かせている彼は眼に光が存在していなかった。
その彼の後ろ側にルーミアが、金髪のロングヘアーで、丁度アリスが今着ているような、トリコロールカラーの衣装を着ている人形を両手で抱えながら立っており、どうにも苦笑しているように見える。
「……どうも、変な魔力が漂ってるなぁと思ったらさぁ、近くで違和感を感じて斬り払った結果がこれだよ?ねぇ……何を、あの人形の子にさせてたのかなぁ……!!?」
バシッバシバシッ!と空気が弾けるような音を響かせながら、体の所々で気を暴発させている彼はどうやらかなり頭に来ているようで……
「な、なんでそんなに怒ってるんだ!?私達、そんな悪いことしたか!?」
「…………へえええ、しらばくれるんだ……?――オシオキダネ?」
――参式漆式合成、『絶刀空牙』――
参式『煌輝光顕』と、漆式『青嵐華焔』の二つの技が合わさった居合と斬撃の剣術が、アリスと魔理沙に襲い掛かった。
「ひ、ヒィィィ!!?」
「ま、魔理沙はそこに止まっていなさい!――ハァッ!!」
大慌てでアリスが全力で以てバリアを張ると同時に、ギギギギィン!!と金属音がアリスのほぼ目の前で発生し、幾つもの銀閃が煌いたのをかろうじて視界が拾う。
「ちょ、ちょっと今のは洒落にならないわよ!?」
「知った事じゃないよそんなの。僕たちの会話、盗み聞いて楽しかったかい?」
眼が笑っていない笑顔を浮かべながら、イオが尚も超光速の居合を繰り出した。
「く……ち、力込めすぎよ!!?」
必死になって防ぎながらアリスが抗議するが、イオはその声に耳も貸さずに黙々と居合を繰り出し続ける。
――そして、全力で張った強硬な障壁に罅が入った。
「――!?」
驚愕で眼を見開いたアリスが、慌ててその罅が入った箇所を直そうとしたその時。
「――はあああ!!」
――貳式『断空貳撃』――
八双からの強烈な十文字斬りが、彼女の障壁に襲い掛かり、
――パッキィイイイン!
音高く、驚くほど呆気なく破壊されてしまった。
「あ、あああ……」
「ちょ、ちょっとこれは……!?」
恐怖で身が凍り、がくがくと震えている魔理沙とアリスに、しかしイオは淡々と刀を納めると静かににっこりと笑い。
――能力で以て、彼の脚元より大量の木の蔓を召喚した。
「ちょ、それ……!?」
「い、嫌だぁああああ……!!」
トラウマを刺激されたのか、魔理沙が心底からの恐怖の表情を浮かべ、箒に飛び乗り一目散に逃げ出そうとする。
――だが、それは叶わなかった。
なぜなら、彼女の足に蔦がものすごい勢いで絡みつき、しっかと逃がさなかったからである。
「ひ、嫌だ嫌だ嫌だあああ!!?」
大声で叫び足をばたつかせる魔理沙。
「く、は、離しなさいよ……!?」
魔理沙の様に早く動けなかったがために、あっという間に蔓に絡みつかれたアリス。
そんな二人にイオは彼女たちの目の前に立つと。
「さて、と……魔理沙、アリス」
――カクゴハデキテルヨネ……?
「「い、いやあぁぁ……………………!!??」」
夜空に、少女たちの悲鳴が高く響き渡るのであった。
――合掌。
―――――――
「……えげつねぇぞ、流石に」
「静かに過ごしたかったのに邪魔したのは彼女たちだよ?僕は悪くない」
開き直るようにしてそう言い放ったイオに、ラルロスは頭を抱える。
そんな彼らの前の石畳の上では、ルーミアがつんつんと何かをつつきながら、
「……大丈夫?凄く擽られてたけど……」
と、ぴくぴくと痙攣を続ける罪人たちにそう尋ねた。
「こ、これが大丈夫に見えたらそいつは絶対医者にかかるべきだぜ……」
何とか這いあがれる程度にまで回復したのか、罪人の一人――魔理沙がプルプルと震えながら体を支えるようにして両手を突っ張りつつそう告げる。
その顔は先程の青ざめたものからそんなに変わっておらず、いかに彼女がイオに対してトラウマを植え付けられているのかが察せられた。
その横に倒れ伏したままにある、もう一人の罪人であるアリスはというと……
『しゃ、シャンハーイ……?』
彼女の作った人形である上海が、人形にしてはそれなりに表れている戸惑いの表情で、アリスを揺り起こしているのが見える。
だが、どうやらアリスはイオの報復である地獄の擽りタイムからの生還が成されておらぬようで、上海人形がだんだん戸惑い→困惑→慌てるの三拍子で表情が変化していくと共に、どんどん揺り起こす動きが激しくなっているようだった。
『シャシャシャンハーイ!!?』
必死になって上海人形が呼びかけている姿を、イオは意図的に無視してルーミアに向き直ると、
「さて、と……時間が来そうだし、屋根上に登ろっか?」
「うん!」
声をかけると同時に、ふわり、と空へと飛び上がって行く。
その姿を見送ったラルロスは、しっかりと彼らが屋根上へと姿を消したのを確認すると、
「やれやれ……行ったぞ二人とも」
と、呆れたように首を振りながら声をかけた。
――ガバリ、とほぼ同時に二人が立ち上がり、ぜぇ、ぜぇ、と何かを我慢していたかのように荒い息をつきながら、
「や、やっと解放されたんだぜ……も、もう二度と、あの擽りは食らいたくない……!」
「ど、同感よ……あんなに凶悪だったなんて思いもしなかったわ。あれじゃ、拷問そのものじゃないの……!」
恐怖によって彩られている二人の表情に、ラルロスは深いため息をつくと、
「お前らアホだろ。あいつは単純に家族と一緒に静かに過ごしたかっただけだろうに」
「……あれ、家族に対する態度なのか?なんか、恋人みたいになってた気がするんだけど?」
やや、息が乱れているのを整えながら、魔理沙がジト眼でイオ達が消えた方向を見てそう尋ねるが、ラルロスはそれに同意するように少し頷き、
「基本的に、アイツは身内に対してはかなり甘くなる傾向にあるからな。傍からすれば恋人に見えたとしても、アイツにとっては妹を甘やかしてる兄のつもりでいると思うぞ」
「なんだそりゃ。あの態度でかよ……聞いてたこっちは砂糖を吐きそうになったぜ」
やれやれ……と、やっと調子が戻って来たのか呆れたような表情で魔理沙が首を振りながらぼやく。
そんな彼女にラルロスがジト眼になって、
「さっきまでニヤニヤしていた奴が何言ってんだ」
と、突っ込んでから深いため息をついた後に、首を数度横に振って、
「ったく、ホントにアイツはからかわれやすいことばっかりしてんなぁ。何時か刺されそうで怖えよ」
女難の相が浮かんでいるとしか思えないイオの女性関係に、呆れたようにそう呟いたのであった。
―――――――
……息を吹き返した罪人たちが、イオを怒らせるのはもうやめにしようと内心で誓いあっていた頃、ルーミアとイオは再び屋根上へ戻っていた
「……やれやれ。変なのに邪魔されたけど、これでやっと落ち着いて花火を見れるね」
「うん、そうだね~、すっごく楽しみ!」
えへへっと輝くような笑顔を浮かべているルーミアに、イオもほっこりとして笑い、そのまま視線をやや弱い光を投げかけている月へと向ける。
秋に入ったためなのか、やや肌寒くなりつつある空気に一つ息を吐き、イオがルーミアを流し眼でみやりながら、
「ルーミア、寒くないかい?寒かったらちょっと裏技で温めるけど」
「ううん、大丈夫。秋らしくていいよね~」
「……そう、だね」
相変わらず、月を見るたびに故郷を思い返すイオは、彼女の言葉に再び月へと目を向けてやや上の空で言葉を返す。
そんな彼に、ルーミアは静かに微笑を浮かべ……
「……ねぇ、イオ。今更になっちゃうけどさ」
――私を、イオの家に住まわせてくれて、有難う。
「……どうしたんだよいきなり」
一瞬驚いたようにルーミアを見やった後、イオはやや苦笑めいた微笑を浮かべてそう尋ねた。
「んーん。何となく、今しか言えないような気がしたから」
ちょっぴり寂しそうに微笑みを曇らせ、ルーミアがそう呟くようにして告げる。
「なに言ってるんだよ。お礼なんかいらないって。……僕の、料理を美味しそうに食べてくれるのが一番嬉しかったから。それに、情が湧いてきた事もあるし」
瞑目しながら、イオが屋根の淵から出している足をぶらぶらとさせつつそう言うが、ルーミアは首を振って、
「イオ、普通の人にも、人里の人間にも、私のように人を喰う妖怪は恐れこそしても、こうして暖かく迎えてくれるような人なんていなかったよ?」
イオがこの世界に来て、ルーミアと出会って、そうして穏やかに暖かく過ごせる一時を得られた事は、僥倖を通り越して奇跡に近かった。
そもそも、人里は妖怪の脅威を正しく伝え、妖怪を恐れることによって妖怪たちを存続させんがためにあったわけであるが、此処にイオという異分子が混ざることにより、ある種の変化が発生したのである。
それまでにもやや人間と妖怪との遭遇と言うのは、人里の外では恐怖でしかなく、人里の中にあっても、幾ら襲わぬように言われているとはいえ、その異形の姿、そして人と異なる身体能力によって畏怖の対象でしかなかったのが、イオと言う緩衝材が間に入ったことによって、幾らかそれが薄らいできたのであった。
そしてそれは、ルーミアにも言えることであり……
「――温かいご飯なんて私には想像できなかったし、そもそも人間しか、それもそんなに多くもない数しか食べなかった私に、あんなに多く食べさせてくれた。何でもないように私に接してくれる事が、私には、本当に嬉しかった」
そっと、イオの体に身を寄せながら、ルーミアは述懐する。
「夜に、何だか眠れなかった私が、こっそり寝床に入り込んでも腕枕してくれた事も。毎日のように、レパートリーが豊富な料理もたくさん食べさせてくれた事も。――何より、私が妖怪であっても、私と言う自我を見ていてくれた事も」
凄く、嬉しかったんだよ?
頭を肩に預けるようにしながら、ルーミアは微笑みを浮かべたままそう告げた。
その言葉に、イオは黙したまま瞑目するのみ。
だが、ルーミアはその様子に頓着せず、ある言葉を告げた。
「――あのね。私……イオのお陰で、元の力を取り戻せたみたい」
「……そう。紅魔館に向った時から、どうにもルーミアの様子が可笑しかったからさ……何らかの隠し事があるんだろうなとは思ってたけど」
とうとう自分の抱えていた秘密を打ち明けた彼女に、イオはしかし、別段驚くそぶりもなく静かにそう告げる。
その様子にルーミアは苦笑して、
「うん……やっぱり、ばれてたんだね。――あのね。私、もともと封印されていた存在なんだ……って言ったら、イオは信じられる?」
「――封印……?どういうこと?」
流石のイオも、思わぬ言葉を聞かされ、ぎょっとしたようにルーミアを見るが、彼女はそんな彼に微笑みを浮かべるばかりで何も告げなかった。
その様子を見て、思い当たることがあったのか、イオがはっと表情を変化させ、
「もしかして……元々ルーミアは子供の状態ではなかった……そう言うことなの?」
普段の幼い少女の姿を思い返しつつ、勢い込んで尋ねる。
すると、彼女は静かにうなずき、
「うん。今みたいに、成長した姿の状態になるまでには時間がかなりかかったけれど……それでも、こうしてイオと話している今の姿で、それなりに長い間過ごしてたんだー。たま―にお腹がすけば、食べ物持ってる旅人襲って、飢えを満たしてね」
で、そうこうしていくうちに、幻想郷にたどり着いたの~。
おっとりとした雰囲気でルーミアがそう告げると、その言葉の中に聞き捨てならないものを聞き取ったイオが慌てた様子でルーミアに、
「ちょ、ちょっと待って……幻想郷って、どれくらいの歴史があるわけ?」
見た目が少女であるとはいえ、妖怪である以上は見た目と違って年経ている事は分かっていたものの、彼女の言葉を聞いていると、彼女が思いもよらぬほどの歴史を積み重ねているとは到底思えなかった。
「んー……多分、一千五百年くらい前……だったかなぁ?少なくとも、覚えている限りだと、その位結構昔に紫が創ったと思うよ?」
「……はぁ。なんてこった」
割と予想外だったこの事実に、イオはやや疲れたように頭を掻く。
「そうなると、ルーミアも同じ位ってことだよねぇ……はぁ……身近な人が古い歴史持ってるなんて到底思わないって」
「慣れるしかないと思うよ~?……それでだけど、私が幻想郷にやってきたときにね、初代の博麗の巫女に、目をつけられちゃったんだー」
「……あっ」
つい先日、イオが萃香と共謀して起こした宴会続きの異変、あの時の霊夢の数倍怖いのが襲いかかってきたと推定すれば、呆気なく死ぬ運命しか見えないことに、イオはやや冷や汗を流した。
「もう、本当に容赦なかったからねぇあの巫女。リボンにした御札で封印の蓋を模られて、完全に力と経験を封じられちゃったんだよー……お陰で、起きた時はもうイオに会う前の、いかにも子どもとしか思えないような状態にまで成り下がっちゃったんだ」
「……それで、僕が拾った後に料理を食べさせていたおかげで力と経験がどんどん戻ってきたんだね……」
彼の料理を食べ続けていた所為で、出会った当初は子供らしかったルーミアが、不自然なまでに知識を持ち始めた事によって、イオは彼女の異変に気付けたが、そうでなければいつまでもルーミアを子供の妖怪として接し続けていただろう。
そう考えてみると、それなりに数奇な運命をルーミアは辿っているようであった。
考えにふけるそんなイオが、ふとして、とある問いを投げかける。
「今更すぎるようだけどさ……どうして、ルーミアは自分の正体を明かしてくれたんだい?君が元々強い妖怪だったなんて言われた所で、大したことじゃないようにも思えたしさ」
紅魔館に赴く前の、ルーミアとチルノの掛け合いで、危うく自分の正体を明かしそうになって慌てていた事を知っているだけに、イオはかなり不思議に思っていた。
その言葉に、ルーミアはやや苦みが強い苦笑を浮かべて、
「イオの、私を見る目が……変わっちゃうのが怖かった。結局のところ、それがすべてだったんだと思う。イオの優しさが、私の正体を知った所為で消えたなんて、考えたくもないことだったから」
「……はぁ。ルーミア、君、馬鹿すぎるよ。僕がいちいちそんな事を気にするような奴だと思ってるんだったら、大いに間違ってる。あの時言っただろ?どんな事だろうと、僕はルーミアをちゃんと受け入れるってさ」
呆れたように溜息をつき、イオは彼女の頭を撫でながら微笑みを浮かべてそう告げる。
その表情、そして言葉に、なんら嘘のかけらさえない事は明白だった。
その事実に、
「……えへへ。うん、だから、こうして打ち明けようなんて、思えるようになったの」
照れくさそうに、そして目端に光る物を浮かばせながら、ルーミアは大人しくなでられるがままに甘える。
――そして、ヒュルヒュルと何かが空に向って打ち上げられた。
「ィォ。――――」
特徴的な爆発音と共に、夜空に大きく花が開く。
イオは色鮮やかに光放った花火達を眺めながら、ルーミアに向って、
「ねぇ、ルーミア。今、何か言わなかった?」
と尋ねたが、彼女は笑って何も言うことなく空を見上げたままだった。
(……おかしいなぁ。確かに、ルーミアが何かを言ったような気がしたんだけど)
この分だと、気のせいなのだろう。
そう思い、イオは気にしないことにした。
――だから、気付く事が出来なかったのだと言えよう。
(……言えない、もう一回『大好き』だなんて言うの。照れちゃうし)
仄かな思いを、イオに撫でられ照れくさそうに笑う少女が胸中に抱いているなどとは。
……どうやら、イオをめぐる女性関係は、それなりに複雑になりつつあるようであった。
――――――
「……むぅ」
彼らの様子を見て、かなり複雑そうな表情を浮かべている者が一人、空にあった。
「ん?どうしたってんだい鴉天狗。…………お?ありゃ、何でも屋じゃないか。横にいるのは……何かおっきくなってるけど、宵闇の小さいのかい?……ははぁ、成程なぁ」
ふわふわと空中に浮かびながら酒をかっくらい、ニヤニヤと同行者である鴉天狗――射命丸文に向って、意地悪そうに呟く。
その様子に、ややたじろいだ射命丸が、
「な、何ですかいったい。私、何も言っていませんよね?」
自身の心を悟られまいとしてか、剣呑な目つきになって同行者――伊吹萃香に向ってそう言い放った。
そんな彼女に、萃香は尚もニヤニヤしながら顔を射命丸に近づけ、
「いやいや、普通の天狗だったら、それなりに強いだけの人間程度に友情も恋情も持たないからねぇ。アイツの何処を気に入ったのか、今更ながら気になり始めてきたんだよ」
「れ、恋情は持ってませんよ!?何を言い出すんですか萃香様!?」
イオはただの友達です!!と叫んでいる文に、萃香はほほぉ?と言いながら、
「おや、そうなのかい?だったら、なんであいつの横に可愛らしい子がいるだけで、そんなに不機嫌そうな表情になってるんだろうなぁ?」
けっけっけ、と笑いながら絡みまくる。……傍からすれば、酒飲みの絡み酒でしかない。
――その上、彼女は今の射命丸にとってとんでもない爆弾を放ってきた。
「それに、だがよぉ……あの宵闇の、どうやらイオに懸想を抱いているみたいだしなぁ」
「……え……?」
目を丸くし、まじまじと萃香を見つめる射命丸。
やや、月下の光で青ざめたようにも見える彼女に、萃香は気づいているのかそうでないのか、眼を閉じてクックックと笑いながら、
「何ともいじましいじゃないか。ま、あの何でも屋が誰に対しても分け隔てなく接してくれるからだろうが。霊夢と同じような感じがするねぇ……変な所で、まるで兄妹みたいに性格が似てるんだものなぁ」
面白いねぇ、と再び酒を飲みながらそう萃香が呟くと、
「……仮に、あの宵闇の妖怪がイオの事を好きだとして……それが、一体私に何の関係があると思ってらっしゃるんですか?先程から申し上げていると思うんですが……イオは、私にとって大切な友人。それ以上の何者でもありませんよ?」
表情が抜け落ちたかのような真顔で、射命丸がそう言い放った。
およ?と萃香がそこでやっと射命丸の方に顔を向け、直後驚いたように目を見張った後、やれやれ、と言わんばかりに深いため息をついて、
「全く……からかったのは謝るよ。そんなに警戒せんでも私は別にお前さんの気持ちなんざ言いふらす気は毛頭ないさ。これは鬼の血に誓って言えるね。ただなぁ……お前さん、本当にあの何でも屋の事はそれで押し通すつもりかい?」
それだと……いつか、壊れてしまうぜぇ?
射命丸よりも長くそれなりに生きし故の萃香の言葉に、射命丸はそっと顔を俯けると、
「……だから、イオとは別に何でもないと、申し上げているじゃないですか……」
力無い声で、そう言い返す。
月光の影に遮られた彼女の表情は、萃香のいる方からは見えないが、どうにも泣いているようにさえ見え。
そんな彼女を嘲笑うかのように、ドドーン、ドドーン、と相も変わらず色鮮やかに花火が打ち上がり続けていたのであった。
さてさて、イオの女性関係にまつわるお話でした、と。
これからまとめて連続投下しますので、よろしければお読みくださいませ。