霊夢が見え隠れしている能力と告げていた部分ですね。
まぁ、ここまでお読みになってこられた方々ならば、十分に察せられる内容と思いますので、何もいうことはありません。
『……あの、慧音殿?』
「ん?おお、どうしたんだフルナ?」
――場所は変わり、こちらは寺子屋。
フルナは、あれからというもの慧音の授業(阿求曰く『自分がやった方が面白い』)を受け、その後子供らと共に掃除をしていた。
その中で、実直で真面目なタイプであるフルナが大いに働いていた為に、かなりの時間短縮になっていたのは慧音にとっては思わぬ結果にはなったが。
『掃除も終了したことですし、まだ何かやるべきことはないでしょうか?もし、力仕事があるならばお手伝いいたしますが』
キリッとした雰囲気を念話に混ぜながら、フルナは気をつけの体勢で彼女にそう尋ねる。
すると、慧音は穏やかに笑って、
「大丈夫だよ、フルナ。君がかなり働いてくれたおかげで、今年の年末はかなり楽になったからな」
いや、本当に助かったよ。
ニコニコと嬉しそうな笑顔と共に告げられ、フルナからホッとしたような雰囲気が漏れ出た後、
『それはよかった。マスターからは、失敗してもいいが気を付けて行くようにと言われていたので、少々ばかり緊張していたんです』
ほっっこりとしたような、穏やかな雰囲気を洩らしながら、フルナが嬉しそうに念話でそう語ると、慧音は深く頷いて、
「そうか……まぁ、恐らくイオはお前たちの経験を積ませようと思ってそう言ったんだろうが、こちらとしてはかなり助かったからな。また、こう言う事があればお願いしたい」
『そうですか。では、マスターにはそのようにお伝えしておきます』
きちっとした一礼をしながら、フルナが慧音に向ってそう告げた時であった。
「――あら?授業が終わったと思ってきたのだけれど……何か、取り込み中かしら?」
フルナにとって、或いは、彼のマスターたるイオにとって危険な人物が到来する。
思わず凍りついたフルナに気付くことなく、慧音はニコニコと笑いながら彼女に近づき、会話を開始する。
「いや、大丈夫だ。単に寺子屋の年末の大掃除をしていただけだからな。それも、フルナのお陰でもう終った。――子供達!アリスが来てくれたぞ!」
「えっ!?アリスお姉ちゃんが!?」
「人形劇だ!!」
「みんな、早く来いよ!アリスお姉ちゃんが来てくれたよ!」
ばたばたと、寺子屋内の教室で屯していた子供たちが、口々に騒ぎながら寺子屋の広場へと駆けてきた。
「ふぅ……いつも思うけれど、私の人形劇はそんなに大したものじゃないのよ?」
「いいじゃないか。子供たちの笑顔を見るのは嫌いではないだろう?」
やや、照れくさそうにしているアリスに、にやりと、慧音がらしくない笑みを浮かべながらそう告げる。
むぅ……と、そんな慧音に口をとがらせたアリスが、
「別に、嫌いだという訳ではないけれど……それでも、結構大変なのよ?」
「ほぅ?あんなに鮮やかにやってのけているのにか?」
「うう……慧音、今日は何だか性格が違わないかしら?何で来ただけでこんなにいじられないといけないのよ……ん、そう言えば、あそこにいるのは誰?」
やや頬を赤らめながらアリスが慧音に向って文句を言った後、その後ろ側にいたフルナの存在に気づき首をかしげた。
「ああ、アイツか。イオの創ったゴーレムで、名前をフルナというんだそうだ。彼のお陰で今日の大掃除が終わったと言っても過言ではないな」
『……では、慧音様失礼いたします』
無機質な声音へと変化させたフルナが、そう言って人形のようにぎごちない動きで一礼すると、そのまま空へと飛び立っていく。
「あ、おい!……どうしたんだ、いきなり。まだ報酬も渡せていないのに」
横で訝しげに慧音がそう言うのを上の空で聞きながら、アリスは今しがた飛び去って行ったフルナに小さな違和感を感じていた。
(……あのゴーレム……もしかして)
「――リス。アリス?おい、聞こえているのか?」
「っ。ごめんなさい、少し上の空だったわ。それで……どうしたの?」
慧音に呼びかけられ、一旦アリスは自身の考察を止め、彼女の方へと体を向ける。
すると、慧音が呆れたような表情になり、首を振りながら、
「どうしたもこうしたも……子供たちが待っているぞ?」
「……あ」
きらきらとした眼でこちらを見つめてくる子供たちに、アリスはやや慌てたように人形劇の準備を始めるのであった。
――――――
『……危なかった。あのままでは確実にばれていたでしょう』
ホッと一安心しながら、フルナが小さくそう呟く。
いや、もうばれてしまっているかも知れない。
『そうなると……マスターに、警告が必要かもしれませんね。また呼び出されるまで私達を隠しておけば問題ないと思われますが』
いつしか曇り始めてきた空を見上げながら、フルナはそうひとりごちた。
さて、依頼の事は終わった事であるし、これからどうしようかとフルナは考える。
『……一応、渡された依頼はこれで最後のようですし、アルラウネの所にでも行きましょうか』
ぽつり、と呟くようにして念話を発すると、フルナはその言葉のとおりに紅魔館へと足を延ばすのであった。
―――――――
「「――種族としての、能力?」」
『ええ……私の推測によるものでしかないため、何ともいいにくいのですが』
考えるようにして告げながら、アルラウネは小悪魔を呼び、少しばかり大きめの紙を用いて説明を始めた。
パチュリーとフランが揃って覗きこむようにしながら見ているのを確認しつつも、アルラウネは筆談のようにして、イオの変化した姿と言うものをまとめていく。
『……こんな所でしょうか。とりあえず、最近マスターが下さった知識の中に、こう言うものが含まれていました』
そう言って示された紙の中には、とんでもない物があった。
「なによ、これ……でたらめじゃない」
魔法を追求し続ける者たちの中でも、この幻想郷内ではトップにあるパチュリ―がそう言えてしまうほどの代物。
それは、ある意味一つの到達点ともいえた。
『・変化『転変龍神(チェンジ・ドラグーン)』
詳細……別格の存在足る龍人そのもの、或いはその因子が濃く出ている者のみ発顕できる固有能力。人の身から龍を模した人型や龍そのものへと変化出来る大技。先述の通りに、二つの形態が存在する』
紙の中に記されていたその言葉に、パチュリーは小さくため息をつくと、
「……イオ、もしかしなくてもこの事を隠していたわね?」
『恐らくは。とはいえ、最近発見したことかも知れませんし、確証は得られませんが』
アルラウネがそう告げるのを聞きながら、フランは少し首をかしげると。
「……ねぇ、パチェ。これだけだとよく分からないよ?」
「まぁ、それだけならば、ね。フラン、考えてみなさい。あのイオが変化する姿よ?以前、あの子と鬼が起こした異変の事、話したと思うのだけど……その時、あの子はとんでもないことをやってのけたわ――全属性の魔法を、しかも適性のないものまで扱える魔眼を、使用したという、ね」
「…………ああ、そう言えば。……そうなると、兄様の事だしオーバースペックのものが出てきそうだねぇ」
『ただでさえ、剣術その他諸々でかなりの反則気味なのに、これ以上を出されたらほぼ敵わないと思いますよ?恐らくは制限もあるんでしょうが』
その魔眼にしたって、言っていないだけで制約がありそうですし。
アルラウネが考えるそぶりを見せながらそう告げると、パチュリーはやや不機嫌そうな表情へと移行し、
「あり得ないと言えない所が恐ろしいわね。全く、イオは何処に向って進んでいるつもりなのかしら?あまつさえ、今更だけどアルラウネの作り、もはや単純なゴーレムとはいえない位だしね?」
『そのことに関しては黙秘をお願いします』
御口チャック、と言わんばかりの動作をする彼女に、フランが苦笑している。
「あはは……まぁ、アリスが怒りそうだしねぇ。私黙っているよ?兄様が此処に来られなくなるのは寂しすぎるし」
『私としても、あの危険な人形遣いにはあまり会いたくないですしねぇ』
「…………どれだけ怖がられているのよ、アリス」
はぁ……とため息をつきながら、パチュリーはとことこと歩きだした。
『おや?パチュリ―様どちらへ?』
「気にしないで。ちょっと用事が出来ただけよ……具体的には、レミリアに会うことだけど」
「ふぅん……?」
そのまま立ち去って行ったもう一人の魔法の師匠に、フランもやや首をかしげる。
それにつられたか、アルラウネも首を傾げ、すぐに何かを思い出したようにポンと手を打つと、
『……あ、フラン様。マスターがブチ切れた時のことなんですが……』
「……そうだねぇ。まぁ、大丈夫なんじゃないかな?いざとなればあのスキマ妖怪もいるし、霊夢もいる。それに、鬼もいるし、もしかするとお姉様も参戦するかもだし。過剰戦力だったら、十分イオを止められると思うよ?」
授業が終わった事によるのか、フランはすっかり普通の口調になってそう話した。
『……そういえば、マスターもそうですけれど、この世界は強者が多かったんでしたね。はてさて、私が心配性なだけでしょうか?』
「……うーん、何とも言えないなぁ。そもそも、皆本気で戦った事なんてないと思うよ?そう言うの嫌がってこっちに移り住んできただろうし。それに、実力を隠して生きているのもいるだろうし、ね?」
まぁ、それでもにじみ出てくるものはあるんだけどさ。
机の上で頬をつきながら、フランが呟くようにしてそう告げる。
ぷらぷらと足を振りながら、ふと、フランはある事を思い出した。
「と、そうだ。アルラウネさん。結局、兄様の変化する姿は『龍を模した人型』と、『龍そのものになる』と言う事でいいの?」
『……私の知識にはそうありましたね。もしかするとまだマスターが隠してる事があるかもしれないですが』
「ふーん……そうなると、『全身鎧』か、『生体鎧』と言うことになるのかなぁ……むぅ。ちょっと考えるだけで、かなり面倒なんだけど」
ちょっぴり冷や汗を流しながら、フランがそう呟くのを聞き、
『?なぜです?』
「え、だってさ……一般的に、『龍は幻想の最上種』なんだよ?私も、暇な時に色々とここの本を読んだけどさ……一筋縄じゃ行かないことは結構知られてることなんだよね」
単なるドラゴン――竜にしたって、多くの犠牲を伴って退治されているしさ。
かつて読んだ伝説を思い返しながら、フランは一つ一つ指折り数えながら、龍の強大さを述べていく。
曰く、龍鱗の硬度はとてつもなく高く、通常の攻撃では通るどころか跳ね返ること。
曰く、加えて身体能力が高いこと。
曰く、さらに言うならば、属性に左右されるが、殆どの龍は魔力を有する上に、強大な魔法も放つ事が出来ること。
「ざっと挙げてみたけど……これに加えて、兄様の判断力やら、剣術やらが混じるともう駄目だね。多分、兄様がその姿になるというだけで、十分強くなっちゃう。多分、元々の兄様の剣術も、『どんな武器を使っていても技を使う事が出来る』というのをコンセプトにしているだろうから、龍になっても技を使えちゃうと思うよ?」
『……あー、その。頼まない方が良かったですかねぇ……?』
じっとりと冷や汗を流しているかのような雰囲気を放ちながら、アルラウネが恐る恐るといった風で訊ねてきた。
その様子に、フランはジトっとした眼を向けながら、
「何をいまさら。いいんじゃないの別に。私としては良い暇つぶしが出来たと思ってるし。多分、お姉様もそう思うんじゃないかな?」
『……え?』
あっさりと言ってのけたことに、そして、なぜレミリアの名前が此処で出てくるのかと不思議そうなアルラウネに、フランは少し溜息をつくと、
「さっきパチェがお姉様のとこに行ったでしょ?あれ、多分不測の事態に備えてもらおうとしたんだと思う。まぁ、兄様の普段が普段だし、そうそう怒るようなことってないと思うけどね」
アルラウネが言ってたような事が起こりでもしない限りは。
フランはそう言ってまた足をぶらぶらとさせるのであった。
――その後、フルナが大図書館へと来訪し、交流を交わしていくのである。
――――――
「――ふぅ。さて、お二人とも……何か言い訳は?」
呆れたように首を振りながらイオが眼の前に向ってそう尋ねるが、
「…………う、うぐぅ……」
「……(ツーン)」
阿求はやや冷や汗を流しながら目をそらし、紫に至っては扇子で口元を覆いながらそっぽを向いている始末だった。
「全く……争いが低級すぎるにもほどがありますよ?もうちょっと、淑女としてのたしなみはないんですか?」
完全にジト眼になったイオが、がみがみと正座をしている二人に向って説教をする。
――あれからというもの、二人の食欲は留まることを知らず(お菓子は別腹などと言うことなのだろうか)、あっという間にサンプルとして提出していた料理を、尽く食べつくしてしまったのである。
イオとしては、稗田邸の料理人たちに見せる心算で作っただけに、二人の暴挙にはあきれ果てるしかないというのが心情だった。
「……やっぱり、料理は封印した方がいいんでしょうかねぇ」
「えええ!!?」
ぽつり、呟いたイオの言葉に、思いきり阿求が食いつく。
「ちょ、殺生な!私の、私の心のオアシスが!!」
涙目でイオに詰め寄りながらそう叫ぶ彼女に、イオははぁ……とため息をつくと、
「仕方がないでしょう?たかだか一個人の料理でそんなに騒ぐんだったら、いっそのこと失くしてしまった方がいいと思いますし。……幻想郷を管理する上からも、パワーバランスを保つ事の方が重要でしょう?」
ジト眼で阿求を見ながら告げ、最後の言葉を紫に向ってそう問いかけるようにして告げた。
「ふふふ……こちらの事情を先読みしてくれているようでなによりね。ま、別にそこまできつく言うつもりはないわ。この幻想郷は、たかだか少しばかり力をつけた程度じゃあ、壊れないし壊させないしね」
私もそうだけど、妖怪の山の天魔や吸血鬼、果ては博麗の巫女が黙っていないから。
ふふん♪と楽しそうな笑みをこぼしながら、紫は扇子でイオを指しながらそう告げる。
「……成程、幻想郷の平穏を望んでいるのは紫さんだけではないということですか」
「あたり前でしょう?皆、望んでこの幻想郷に来ているのだから、最低限のルールはちゃんと遵守するわよ。でなければ、此処は今みたいにこうして妖怪と人間が笑い合える事なんて、けしてなかったでしょうからね」
自信たっぷりにそう言い放つ紫は、確かに幻想郷の管理者として最高の人妖であるのだろう。
楽しそうな彼女に仕方なしに嘆息すると、
「ああもう……色々と僕の周りが何だか面倒なことになってる気がしますよ?唯でさえ、厄介な能力持ってるのに」
と、酒を飲んですらいないのに半眼になって二人に絡み始めた。
「あ、あら?」
「ちょ、イオさん……?」
いつもの彼の様子から想像も出来ない今の様子に、思わず紫と阿求は戸惑う。
だが、イオは止まらなかった。
「大体、いつもいつも僕ばっかりが巻き込まれるのはどうなんだよ。カルラさんにしたって、チェルシーさんにしたって、僕は何もしてないのに……」
ずーん……という、暗く澱んだ雰囲気を醸し出しているイオに、阿求がおろおろと紫とイオとを見比べながら困惑している。
「最近だって、僕と戦いたいなんて言う輩まで出てきてるし……いっぺん、吹き飛ばさないと分からないかあいつ等」
かなり物騒な言葉まで発していることに、阿求が混乱した様子で紫を見るが、彼女は何処か冷や汗を流しながら明後日の方を見ていた。
――どうやら、今のイオの様子には手を出したくないようである。
(ちょ、紫さん!どうにかしてあげてくださいよ!)
(流石に無理よこれは!こんなに沈んだ様子になってる彼なんて初めて見たもの!)
まぁ、それも無理ないだろう。
普段、紺色に近い髪はうっすらと日に照らされるとやや煌くのだが、それさえ起らず、更にはその金眼までもが、どんよりとした、それでいて虚ろな雰囲気を醸し出していた。
そんな様子でぶつぶつ愚痴愚痴とされていれば、かなりのホラーである事は明らかである。
だんだん危険な色合いを見せ始めているイオの金眼に、二人して慌てていると、
「――阿求様。お客様がいらしております」
「ふぇ?って、はいわかりました!直ぐにそちらに参ります!……もう、イオさんがこうなっている時に、いったい誰が来たのよぅ……」
部屋の障子の外から声をかけられ、一瞬ビクリと身をすくませたものの、すぐにそちらへ向かわんとして仕方なしに歩き始めた。
「こっちはやっておくから、さっさと行ってらっしゃい。すぐに元に戻しておくから」
「お願いします。いつまでもこんなイオさん見たくないですし」
扇子を口元に持って行きながら告げた紫に、阿求は振り返りながらやや苦笑しつつもそう返す。
そうして、彼女がパタパタと慌てたように駆け去った後だった。
ふぅ、と少し溜息をついた紫が、イオに向って話しかける。
「――で?阿求を追いだしてまで、何を聞きたかったのかしら?」
静かなその言葉に、淀んだ空気を出したままの筈のイオが、答えた。
「いやぁ、ちょっと、阿求さんには聞かれたくなかったものですから」
先程までの空気は何処へやら、ニコニコと明るい笑顔を浮かべながらイオがそう返す。
「もうちょっとどうにかならなかったの?私からすれば、大根役者以外の何物でもなかったわ」
「あはは……それは申し訳なかったんですけど。ここに来てからやたらと決闘を吹っ掛けられることにストレスを感じてたのは事実なので。阿求さんには済みませんでしたけど、その欝憤も晴らしてました」
「酷いことするわねぇ」
呆れたように首を振りながら、扇子を口元に持って行く紫は、それでも何やら楽しげであった。
「……で?結局何を聞きたかったのかしら?私、まだそれを聞いていないと思うのだけど?」
「ええ、お聞きしたい事が少しばかり、あったんですよ」
そう言ってイオは穏やかに笑うのであった。
―――――――
「――ふぅ。さて、と……聞きたい事も聞けたし、後は何をしようかな……?」
厚手の着物の両側の袂に手を突っ込み、イオはぽつり、とそう呟く。
時折、冬の冷たい風が着物の内側に舞いこんでくるのに身震いしながらも、イオは稗田邸に来た頃は青空だった曇り空を見上げた。
「雪が降りそうだなぁ……向うの雪とおんなじかな?どうなんだろ?」
思考にふける彼は、そんな事を呟きながらとてとてと人里の路上を歩く。
と、そこへ声を掛けられた。
「――考えにふけっている所悪いけど、ちょっといいかしら?」
『七色の人形遣い』が、やや剣呑な目つきと共に彼の目の前に現れる。
「うん?どうしたのさアリス。何か用?もうゴーレムの事は全部教えたと思ったけど?」
彼女にとっては白々しい態度で、当人にとっては純粋に疑問に思って、イオは首を傾げながらそう尋ねた。
「ふん、全部じゃないでしょうが。答えなさい……ゴーレムたちの心は、何処から盗ってきたの?」
「……はぁ?」
イオは、ただただ困惑する。
なぜなら、彼はそんな事をしていないからだ。
そもそも、彼が創り出すゴーレムは能力からもたらされた恩恵であり、アリスのように魔術、或いは魔法を用いたものでは決してない。
故に、コアはどうして自我を持ち得たのかという疑問に当然ながら行き着くわけだが……。
――彼ら自身が、コアなのである。
……この言い方では、ゴーレムという本体自体に意志が宿っているかのようになってしまうが、そうではない。
……元々、イオの持つ『木を操る程度の能力』というのは、単純に木製の物を生み出す、形状を変化させる、風といった空気を操るだけに留まらず、ある能力も付随していた。
――すなわち、『植物との会話』である。
それは、かのフラワーマスターの有する花畑、『太陽の畑』における花たちとの会話からしても察せられるであろう。
であれば、論理は帰結する。
――そう、『意志の宿る木を媒介に、コアを創り出す』のである。
当然、簡単に言えるようなものでは決してないことは言えよう。そもそも、意志が宿る木など、相当の樹齢を誇っていなければ不可能であるし、而も、能力の主であるイオと会話が出来るほどまで老獪なものはさらに稀だ。その上、切りだしたものにしっかりと自我が根付くことさえ、判断しようがないのである。
だが、イオは見出した。
――他ならぬ、紫自身の手によって。
「あのさ、勘違いしているようだから言っておくけど、元々僕はアリスのように生涯かけて自律人形を作ろうと思ってやったわけじゃないからね?僕のなんでも屋稼業が忙しくなって来ちゃったから、仕方なしに紫さんに頼んで僕のゴーレムのコアになるような部分を抜き出してもらっただけだよ?」
「……そう。成程ねぇ……つまり、イオは私の怒りにふれたってことよね」
「いや、なんでそうなるの!?」
わたわたと、イオが目前にたたずむ怒りの形相を浮かべるアリスに抗議した。
だが、アリスはジト眼でイオを見やると、
「当然じゃない。私の目の前に私の生涯の目標を簡単に成し遂げた人間、それも魔理沙のように魔法使いとしてではない、亜人種だけど普通の人間で、よ?これで喧嘩売ってないなんてことはない筈よね?」
ごごご……と、怒りによってか魔力が漏れ出ているアリスに、イオはややたじたじとなって、
「その……ごめんなさい?」
「っ!いっぺんぶっ飛びなさいこの大馬鹿――!!」
突発的に、人里の中で弾幕ごっこが始まる。
――奇しくもそれは、人里の中に舞い降りた雪の中で行われた。……まるで、全ての音さえも吸い込むかのように。
さて、とうとうというべきか、イオのゴーレム技術がそのままアリスの怒りに触れる結果となってしまいました。
まぁ、その片鱗はちらちらと見えかけていたので、どうしようもなく避けられない事態だったのですが、はてさてどうなることやら……?