東方剣神録   作:上田幻

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イオの記憶を巡る騒動は収着し、何時も通りの宴会が始まる。
騒がしい宴の最中、イオは何を思うのか――。


閑章「集い騒ぐは花見の席」

 

……あれから少しして。

 丁度、昼を少し過ぎたくらいには時間が経過していることに気づき、霊夢から、

『――イオ。取り敢えず花見の宴会やっちゃいましょ?去年のは色んな意味でバタバタしてて、落ちついてやれなかったし』

と言われたため、イオ、そして今回の出来事に加わったものを始めとして、宴会をやる事が決められた。

 すぐさま、射命丸によって多くの人妖達に知らせが行き届き、風見幽香を始めとして、メディスン・メランコリーやチルノ等、多くの人妖が博麗神社に集められたのである。

 当然のことながら、料理やら肴などは妖夢を始めとして鈴仙や咲夜等の従者たちに、イオを加えた料理人衆によって、大いに振舞われていた。

 とはいえ、

「……」(ジュー、ジュー)

厨房において、無言で作り続けているイオの姿に恐怖を覚え、誰もがどん引きしている、なんてこともあったが。

 

「――さて、と。みんな、今日の宴会は、やたらめったらに咲き始めた花達を眺める事を目的にしているわ。所謂、お花見よ。……まあ、細かい事は放り投げるとして、行きましょうか――乾杯!!」

 

「「「「かんぱーい!!!」」」」

 

霊夢による音頭から宴会が始まり、大いに騒ぎながら、飲み明かす人妖の面々。

 そんな中で、イオは彼女たちから離れて、一人神社の欄干に腰かけながら飲み明かしていた。

「――やぁ。久しぶりと言えばいいかな?」

「……霖之助、さん……」

恐らくは、この幻想郷内において数少ないであろう男の知人に、イオはややぼんやりとしてそう返す。

 普段のイオからして、もう少し隙がないようなものだが、未だに映姫に言われた事が堪えているのだろうか……殆ど無意識の状態で、酒を口元に運ぶばかりであった。

 いつにない沈んだ彼の様子に霖之助は少しの間迷うと、欄干に寄りかかり、

「……どうしたんだい?おっとりしている君らしくなくない」

「……あ、あはは。ちょいとですね、記憶を知る事が出来そうなとこまで行きつけたのに、今の自分が駄目だからという理由で……教えてもらえなかったんですよ」

ようやく霖之助の言葉に反応し、苦笑めいたものを浮かべたが……それは笑顔には程遠く、無理やり顔を歪めさせているようにしか、霖之助は思えない。

「ふぅん……そうか」

だが、彼は何かしらを言うつもりはないようで、手に持っていた杯を傾けるばかりだった。

「……何も訊かないんですね」

「まぁね……僕が出来る事は、単に誰かの悩みを聞いてあげるだけさ。知っているかい?悩みと言うのは……話している当人が、解決策を持っているものなんだ。確かに、誰かがアドバイスをしてくれる事もあるかもしれないし、一緒になって悩んでくれる事もあるかもしれない」

 

――でも、答えを出すのはいつだって自分だよ?

 

「……」

遥か年上の身であるが故の、的確なアドバイスにイオは黙りこんだまま。

 少し時間がたってから、杯をくるりと手で回しイオはふっと空を見上げた。

「……うん、何かすっきりしました。有難うございます、霖之助さん……多分、何とかやっていけると思います」

「そりゃあ良かった。僕が此処に来た甲斐があったというものだよ」

(……ま、此処にいるのは頼まれてたしね)

霖之助がそう言いながら、とある方向をちらりと見やる。

 その視線の先には……射命丸を始めとして、イオがよく関わる人妖の少女たちがいた。

 霖之助の視線に気づいた一人、射命丸がホッとしたように安堵するのを見ながら、イオに話しかける。

「……さて、と。イオ、どうせだったら他の皆とも一緒に飲んだらどうだい?見た限り、今君は料理を作っていないようだしね。一人で飲むよりは、凄く健全だと思うよ?」

すっと欄干から離れつつ、そう告げた霖之助に、イオは一瞬目を丸くしてから、

「……それもそうですねぇ。文の所にでも行きますか」

ようやく取り戻した笑顔を、満面に浮かべたのであった。

 

―――――――

 

「……」

むすっとした表情で、射命丸はイオを見つめていた。

「…………えーと、文?」

何故彼女がそんな表情になっているのか分からず、首を傾げながら声をかけると、

「……霊夢達から、聞いたわよ。イオ、貴方……私に黙ってたこと、あるわよね?」

ジト眼になって見つめてくる鴉天狗の少女に、イオは思い当たる節があり過ぎて思わずあちこちに視線を彷徨わせる。

 ダラダラと脂汗を流し始めた彼に、射命丸はなおもジト眼で見つめながら、

「今回の異変めいた出来事はまあ、私も知っていたから良いとしても……貴方の記憶の事、私は知らなかったのだけど?」

ましてや、この幻想郷の閻魔様に訊くなんてね。

「――済みませんでした!!」

明らかに今日の出来事全てを知っていると思しきその態度に、イオは速攻で土下座に移行した。

 ぐり、とその頭に射命丸の脚がのっかり、

「すみませんですんだら、私の気持ちはどうなるのかしらー?というか、いい加減こっちの気持ちも考えてくれると嬉しいんだけどー?」

何時にないサディスティックな表情を浮かべた彼女に、イオは顔が見えないながらもぞくり、と背筋を震わせ、

「……面目もございません」

と平謝り。

 ちなみに彼らの姿を見ている他の人妖はと言うと、あまりの光景にどん引きしていた。

 そんな彼女たちの様子に頓着せず、射命丸はなおもイオの頭をぐりぐりと足でやりながら、

「謝るだけなの?ねぇ、何らかの誠意があってもいいじゃない?」

ハイペースで飲み続けたために、酔いで頬が紅くなった状態で尚もイオを弄る。

 何やら雲行きがおかしくなって来たような気がするが、イオは自分が悪いと分かっているために黙って頭を下げ続けるしかなかった。

「な、なぁ、流石にそこでやめておいたらどうだ?イオだって悪気があってやったわけじゃないんだからよ」

魔理沙が恐る恐るそう声をかけたが、射命丸はギンッ!と彼女を睨みつけると、

「大体、私の知らない所で無茶ばかりしているイオが悪いんです!そう思いませんか!?」

「お、おお……(すまんイオ。私には止められそうにもないぜ)」

思った以上の彼女の迫力に、魔理沙は内心イオに謝りながらも止めざるを得ない。

 

――その時だった。

 

「……文。足をどけてもらってもいいかな?」

とても申し訳なさそうな声で、イオが射命丸の足の下から話しかける。

 一瞬、その言葉に逆らってずっと足を置いたままにしようと思いかけたが、イオの様子がどうやら変化しているように感じられ、素直に足をどけた。

 すぐさま立ち上がったイオは、直前の声の調子と同じように申し訳なさそうな表情になっていて、

「……ごめんね、文。色々と暴走しちゃっててさ」

「…………分かっているわよ。貴方がどれだけ、本当の自分が何なのかって事に執着しているのかなんて」

私達に黙って、本当の種族を見つけて変わっちゃうくらいだもんね。

 酔いで頬が赤い状態のまま、先程とは打って変わって寂しそうな表情を見せる彼女に、イオはうん、と頷くと、

「今日……幻想郷の閻魔様である、四季映姫・ヤマザナドゥと言う人に会ってきたんだ。そこでその人に言われちゃったよ。――『自分の幸せを求める事もしないで、目的に執着する姿は周りを顧みなさすぎる』ってさ」

穏やかな口調になってきた事を悟った他の人妖達が、少しばかり離れて思い思いに騒いでいる姿を見ながら、イオはそう告げる。

 その姿に、射命丸はやや顔を俯けると、

「……私は、そうは思わない。イオはちゃんと、周りを気にかけてる。でなきゃ、この間のように龍に変化した時も、スペルカードルールをちゃんと守っていられないわ。私だって激情に駆られている時、周りの事を気にしていられる自信はないしね」

「どうかな……周りの人の気持ちもちゃんと量れていないし、それの所為で、家族と喧嘩別れになっちゃったから」

映姫さんに、その事でも怒られちゃったんだよね。

 あはは……と力なく笑う彼は、やはりというべきか、後悔が見え隠れしていた。

 流石に霖之助と話してからすぐには気持ちが戻るわけではないようで、射命丸が見る限りではどうやら空元気で話しているように見える。

 その様子を見ながら、イオに座るように勧めつつ射命丸は口を開いた。

「――仕方がないと思うわ。貴方がそれだけ本気だってこと、分かっていなかったんだと思う」

「……多分、そうなんだろうね。でも、それでも、僕はもっと話し合うべきだったって思ってる。正直、さ……それだけが心残りなんだよね。――マリアと、仲直りしたい、なぁ……」

はぁ~……と、イオが辛気臭いため息をついていると、

「イオ~!」

ととと、と駆け足で誰かが近づいてくる。

 ん?と不思議に思ったイオが俯けていた頭を挙げた直後だった。

 

――ドスッ!

 

「ごふっ……!!?」

何かがものすごい勢いでイオの脇腹に突き刺さり、思わずイオはむせかえる。

 けほけほとせき込む彼に、慌てて射命丸が、

「だ、大丈夫?」

「あ、うん。ちょっと衝撃が強かっただけだから。……えーと…………あれ?ルーミア?それに……メディスンまで?」

金髪コンビとも言える付喪神の人形の少女と宵闇の少女が、二人してイオの脇腹に抱きついているこの状況にイオは困惑して声をかけた。

 その声に反応し、二人が脇腹付近につけていた顔を上げ、そして何故かジト眼でイオをじっと見つめてくる。

「……どうしたんだよ、いきなり。何があったの?」

困惑したままのイオが、そう二人に尋ねると、

「……イオ、私達を構ってくれてない」

「(コクコク)」

むすっとした表情でそうのたまったルーミアに、同意するようにして頷いているメディスン。

 何と言えばいいのか、どうやら彼女たちはある意味兄であるイオが誰かに取られている(ルーミア・メディスン視点)と思いこんでいるようだった。

 だが、イオの受難はこれだけに留まらない。

「…………ねぇ、増えてない?」

射命丸が今更ながらに、イオの周囲に集う幼女、もしくは少女の数が増えたことに言及してきた。見れば、若干ながらこめかみ部分が引き攣っているようである。

 笑顔でありながら妙な迫力を醸し出して来ている彼女に、イオは慌てて、

「文?勘違いしてるみたいだけど、僕は単に保護しているだけだよ?というか、普通この位の年頃の女の子が、外でふらついている姿見たら誰だってそう思うって」

と弁解した。

 だが、そんな事は射命丸にとっても百も承知している部分である。

「で?それがどうかしたというのかしら。あのね……貴方こそ勘違いしているようだけど、私はそんな事が言いたいんじゃないわ。――また、女の子を増やしてるってことなのよ?」

「それ僕の責任じゃないじゃんか!!?」

未だに腰部に二人をくっつけたままの状態で、イオは焦りまくった。

 射命丸が一体何を言いたいのかさっぱり分からず、どんどん目の前にいる彼女が不穏な雰囲気へと変わっていく姿に脂汗を流しながら、

「大体、この幻想郷に住んでいる妖怪の殆どが女性ばかりじゃないか!そうしたら当然関わる人も女性ばかりになるのは明らかだよね!!?」

と必死になって弁明する。

 傍からして『浮気を見つかった夫』にしか見えないイオに、辺りからニヤニヤと面白がるかのような空気が漂い始めた。

 射命丸はそれに気づいているのかいないのか、判断しづらい笑顔(但し井桁マーク付き)を浮かべながら、

「あら、だったらもう少し人里で男衆と関わっていけばいいじゃない。最近の貴方を見るに、大抵女の子と関わっている事が殆どよね?」

じりじりとイオに詰め寄っていきながら、少しずつイオの頬に向って手を伸ばしてくる。

 恐怖しか誘わないその迫力に、腰部にひっついている二人はすでに涙目で震えているし、イオも内心泣きたいくらいだった。

 そんなイオに、射命丸はいきなり表情をむすっとしたものに変えると、

「――馬鹿」

小さく彼を罵り。

 明らかに気分を害したと感じられる乱暴な歩き方で立ち去っていった。

「え、ちょ、文……?」

いきなりの豹変に、イオは何が何やらといったように混乱していると、

「何やってんだイオ。そこは追いかけてやるところだろ?」

頭に両手をやりながら、魔理沙がニヤニヤと楽しそうに笑いながらそう告げる。

「は?どういう意味だよそれ」

「……はぁ~あ、どうも本気で言ってるみたいだぜ皆。――どう思う?」

 

「「「「「有罪」」」」」

 

首をかしげたイオの言葉に魔理沙が首を振って人妖達に尋ねたところ、返ってきたのはただの宣告だった。

「ちょ!?何をいきなり!?」

次から次へと突発的に起こる出来事に、イオは混乱しながらも無意識に身構えたが、

「あら、女の子の気持ちを量る事は大事なことよ?」

「!!?」

八雲紫がスキマを用いて上半身だけを覗かせながら、突然イオのすぐ傍にまで現れてそう告げたために、思わずびくり、と体が震える。

「び、びっくりした……脅かさないで下さいよ、紫さん」

胸を押さえながら、イオがやや息をついて紫に抗議した。

「それは今言うことじゃないでしょう?全く、妙な所で頓珍漢なんだから」

呆れたような彼女の言葉に、イオは何故か寒気を感じ、

「い、いや、あの。何で僕罵られてるんです?」

「…………はぁ」

良く分かっていない様子のイオに、しかし紫は何処となく彼が怯えているような気がして、思わずため息をつく。

(もう……今までもそうだったけど、イオ、本当に誰かから好かれる事を恐れているのね。もう少し……前を向いてほしいわ)

「わぷっ!!?」

突如として紫がイオを抱きしめたことにより、思わず驚愕の声を上げたイオ。

 そんな彼に構わず、撫で撫でと何故か頭を撫でてくる紫。見れば、彼女もいい具合に酔っ払っているのか、妙に頬が赤く酒臭い状態であった。

「あー!!?」

思わぬ出来事に、腰部にひっついたままだったルーミアから、抗議の声が上がる。

 焦った様子でイオを引張りながら、

「イ、イオから離れてよー!!?」

「ぐえっ!?ちょ、ルーミアも紫さんも、首!首極まってる!!?」

意外に強かった彼女の膂力と、何故か母性溢れる笑顔を浮かべた紫の膂力が拮抗しあい、間にいるイオは当然のことながら、悲鳴を上げた。

 図らずもイオを取り合う女性達の図になってしまった訳で……そうなれば、至極当然のことながら、怒る人物もいるわけである。

 

――突風『猿田彦の先導』――

 

突如として、横方向に渦巻く突風が発生し、思いきりイオだけをカチ上げた。

「ちょ!?ま、ギャーーーーー!!?」

本当に突然の出来事だったために、呆気なくイオは吹き飛ばされて博麗神社の本殿を遥かに超えて、山中にまで吹っ飛んで行く。

「……ふんだ」

完全に不機嫌そうな表情になった、先程放たれたばかりのスペルカードの主たる射命丸が、すねたようにそう呟いたのであった。

……ちなみに、ルーミアと紫はと言うと。

 ちゃっかり紫がイオの腰にくっついていたルーミアを回収することで、射命丸のスペルカードから逃れていた事は余談と言うものであろう。

 

 




ちょいと短いですが、これにて東方花映塚は終了と相成ります。
次話からは、少しばかり日常へと華を咲かせることでありましょう。

……というより、こっから先の展開を思いついていないなんて言えない(おぃ
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