東方剣神録   作:上田幻

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この章は、
『もしイオが誰かと結ばれ子供を儲けたら』
というコンセプトで書き上げた物です。
……正直、生み出すのが難しいと思ったのですが……全然そんなことはなかった。
とまぁ、お楽しみいただけたら幸いです。
これからもどうぞ拙作を読んでいただけたら嬉しく思います。


閑章「在りうべからざるは時の先に在りし未来」

 

――桜が、舞っていた。

――風に煽られ、ひらひらと。

――ずっと、待っていた。

――貴方とこうして、傍に在れることを。

 

――――――

 

……透き通るような、晴天の下。

 イオは、縁側に腰かけ、うつらうつらと船を漕いでいた。

 今年の春は、どうやら以前に起きた異変のあった春とは異なり、えらく静かなものであったために、何でも屋として働いているイオも、何だかノンビリ過ごしているようである。

「――イオ~?何処にいるのよ、もう……」

と、そこへ船漕ぎ中のイオを探す誰かの声が響いた。

「……んん?はれ?」

その声に反応してか、ぱちくり、と眼を覚ましたイオ。

 とはいえ、丁度いい感じに眠っていた所為もあってか、まだ寝惚け眼だった。

 金眼が、ぼやーっと辺りを彷徨う間に、どうやらイオを探している人物の方から彼を見つけたようで、

「あ!やっと見つけた!もう……こんな所で寝てると、風邪ひいちゃうわよ?」

と、呆れたようにそう告げる。

 だが、イオはその言葉に何やらうにゃうにゃと呟くと、

「…………スゥ……」

「寝るんじゃない!」

すぱん、と軽快な音を響かせ、声をかけた当人がハリセンを片手に持った。

「なんだよ、もう……もうちょっと寝かせてくれたっていいじゃないか……」

「そこで寝るより、部屋で寝なさい!子供達が真似しちゃったらどうするの!」

「今すぐに起きます」

キリッと表情を凛々しくさせたイオが、しゃきっと身を起こす。

……どうやら、親ばかたる彼は、子供達への影響を瞬時に考えた模様。

 余りの掌返しに、

「……普段から出来るんだから、もうちょっとどうにかならないの?」

「いやでもねぇ……こんな天気だよ?うつらうつらしたくなったって、可笑しくないって」

はぁ……と首を振りながら告げてくる己の伴侶に、イオは空を指し示してぼやいた。

 その言葉に、彼女は指し示された空を見上げると、

「……まぁ、そういう気分にもなるのは確かだけど……」

と、同じ様にぼやく。

「だからって、春とはいってもまだ肌寒いでしょ?もう少し、上に何か着るか何かして欲しいわ、全く」

ぷんぷん、と怒って見せる彼女に、イオはあはは……と苦笑を浮かべ、

「ゴメンゴメン。許して、ね?」

とそっぽを向いている妻に、そっと頬に優しくキスをした。

「……むぅ」

すると、若干頬を赤らめさせながら、じっとりとした眼でイオを見つめてきた彼女。

「……このタラシ」

「酷いなぁ。君が嫌なら止めるよ?」

「…………いい。存分にしなさい」

「もう、どっちなんだよ」

素直じゃない彼女に、イオは苦笑しつつもそっと抱き寄せた。

 と、そこへ突如として乱入者が現れる。

 

「――あー!また父様達いちゃついてる!」

 

不満たっぷりなその声と共に、どすん、とイオの腰に誰かが抱き付いてきた。

「おおっと。……危ないでしょ、アゲハ。どうしたんだい?」

見事な蒼紺色で肩まである髪を振り乱しているイオの娘に、彼は優しく声をかける。

 そんな彼に、彼と同じ金色の眼をしている娘――アゲハはジト眼になると、

「母様ばかりずるい!抱っこしてよ、父様!」

と両腕を伸ばし、イオに強請ってきた。

 そうなれば、親ばかたるイオが聞かない理由が存在するわけがなく……、

「ほぉーれ、高い高―い」

「きゃははっ!あは、もっともっとー!」

「あっはっは!」

「……父さん。もうちょっと落ち着いてよ……」

可愛い娘のオネダリを聞く彼に、そんな呆れたような幼い少年の声が響く。

 その声に反応したイオがおよ?と声のした方へとアゲハを抱き上げながら振り向くと、そこには幼い頃のイオに生き写しの姿をした、小さな背丈の少年がいた。

「なんだ、スバルじゃないか。稽古は終わったんだね?」

「とっくに終らせたよ、父さん。……じゃなくて。余り、アゲハを甘やかさないでくれよ。将来が不安になるんだから」

やれやれ……と首を振りながらジト眼でツッコンで来る息子に、イオはあっはっはと軽やかに笑うと、

「可愛い娘がオネダリしてくるから仕方ないね!」

「胸張ることじゃないでしょ!」

すぱん、と何処からともなく取り出したハリセンで突っ込みつつ、息子――スバルは気炎を上げる。

 全く、とぶつぶつ文句を呟き始める息子の様子に、イオはフッと穏やかな微笑みを浮かべると、

「……大丈夫さ、スバル。将来なんてものはアゲハが決めることだ。親に甘えていられる時間は、意外と短いからね。時はあっと言う間に過ぎていくし、待ってと声をかけることすら出来ないものだよ」

とくしゃり、とスバルの頭を掻き交ぜながら、優しい声でそう告げた。

「そういうものなのかな……」

そんな彼の言葉に、やや不思議そうな声でそう呟く息子へ、彼は笑ってもう一度撫でる。

 そして、さて、と声を一つ洩らすと、

「何処か、ピクニックにでも行こうか?フルナとアルラウネに仕事を回したし、今日は余裕があるからね」

「ホント!?母様!スバルも一緒に行こ!」

「……大丈夫なの?」

アゲハが歓声を上げる横で、スバルがやや不安そうに声をかけるが、

「ん、大丈夫だって。僕が強いのは十分分かっているだろ?」

というわけで、準備しようか。

 イオはそう妻に告げると、アゲハを居間に下ろし台所に向かっていった。

「ほら、スバルも準備しましょ、ね?」

優しく母が声をかけると、スバルはこくん、と深く頷き、

「アゲハ待ってよ~!」

元気一杯に走っていった家族を追いながら、何時しか笑顔になっていくのであった。

 

――――――

 

――妖怪の山、頂上。

 大きく聳え立つ桜の大樹の根元で、小さなピクニックは始まっていた。

「――えへへ、美味しー!」

重箱に容れられていた俵型の御握りを頬張り、アゲハが嬉しそうにそう騒いでいるのを慈しみの笑顔を浮かべながらイオは聞いている。

 その手には小さな杯があり、春の麗らかな陽射しにキラキラと注がれた酒が煌いていた。

「……もう、こんなに時が経ったのね」

「……そうだね。君と出会って、笑って、怒ったりすることもあったけど。今も昔も、ずっと楽しいままだ」

しんみりとした口調で妻が告げる言葉に、イオは瞑目してそう返す。

「改めて思うよ……この幻想郷に来て、本当に良かったってね。子供達も授かったし、今こうしていられるのが、凄く、夢みたいだよ」

「現実よ、幸せなことにね。ふふ……本当、貴方に出会ってから此処まで。色んなこと……あったわねぇ……」

穏やかな陽射しの元、二人してくすくす、と笑い合った。

 そこへ、新たな声が響き渡る。

「――あらあら。こんなところでピクニックしてるとはね。相伴に与らせてもらっても構わないかしら?」

ずわり、という何とも言い難い音と共に、スキマから妖怪の賢者が出現する。

 何時になく穏やかなその表情に、イオはやや苦笑すると、

「しょうがないですね……構いませんよ。身内の行楽ですし、ね」

「ふふ、有難う。それと……今日は、スバル君にアゲハちゃん。元気でいたかしら?」

「あ!紫お姉さん!お久しぶりです!」

「……今日は」

にこやかに紫がイオの子供達に言葉をかけ、挨拶を交わしている姿を見て、驚きで固まっていた妻が、ようやく一息つくと、

「貴方ねぇ……毎回突拍子もない現れ方するの、本当に止めてくれる?」

とジト眼になって紫に突っ込んだ。

「まぁまぁ、落ち着いて。紫さんがいきなり現われるのは何時ものことじゃないか」

「分かっちゃいるけどね……やっぱり文句を言いたくなるわよ」

「あら?妖怪は畏れられてなんぼのものよ。貴方だって、それは重々承知のことでしょう?」

くすくす、と笑いつつ、紫が扇子を広げて口元を覆いながら告げるのに、イオの伴侶はキッと睨みつけるばかりで、何も言わない。

 急速に不機嫌になっていく妻に、イオは苦笑しながらもナデナデと彼女の頭を撫で、

「ほら、そんなに不機嫌にならないで、ね?紫さんも、余り挑発しないでやってください。家族水入らずだったはずなのに邪魔されて、少々ばかり気がたっているんですから」

「ちょ、別にそんなこと言ってないでしょ!?」

ぼすぼす、とイオの腕を叩きながら妻が頬を赤らめて怒るが、イオはあっはっはと笑うばかりで意にも介しなかった。

「全く……惚気ちゃって。あーあ、私にも来ないかしらねぇ……」

そんな新婚夫婦ばりの惚気具合に、紫も流石に当てられたようで、暑い暑いとばかりに扇子で仰ぐ。

 やや、騒がしくもなったが、こうして小さな宴会は続くのであった。

 

――――――

 

「あー食べた食べた♪スバル、美味しかったねー?」

「うん、相変わらず父さんの料理の腕どうなってるのとか思わないでもないけど」

ややこましゃくれた言葉を言いつつも、スバルもアゲハも十分満足したようであり、イオは嬉しそうな表情を浮かべ、なでなで、と子供達を撫でていた。

「うふふ……料理の腕に衰えなしねぇ。流石だわ、人里の最高の料理人さん?」

「もう……勘弁してくださいよ。僕の能力込みなんですから、そう呼ばれたくないんですって」

楽しげな紫に、イオは苦笑しながら手を振って否定する。

「ふふ、その謙虚さも相変わらずだわね。御馳走様、美味しかったわ」

「ええ、御粗末です。お体にお気をつけて」

「ふふふっ、妖怪は風邪なんか早々ひかないと分かっているでしょうに。……まぁ、言葉は受け取っておくわ。貴方も、子供達もきをつけて……ね?」

すらり、と立ち上がった紫が、流し目でイオに告げるとそのままずわり、とスキマを開き、中へと入っていこうとした瞬間だった。

 

「――またね!紫お姉さん!」

 

ぶんぶん、と大きく手を振りながら、アゲハが声を上げる。

 紫が後ろを見やれば、こっそりとスバルも手を振っているのが見えた。

 愛らしいその姿に、紫は目尻を柔らかくさせると、片手をひらひらと振り……直後、その姿がスキマに飲まれる。

「えへへ、父様有難う!美味しかったです!」

「御馳走様、父さん」

嬉しそうなアゲハと、御礼を言うのが照れくさそうな、少しばかり頬を赤らめたスバル。

 そして、重箱を包み終わり、一緒に立ち上がったイオの妻である彼女を見て、イオは一瞬切ないような気分に襲われ顔を歪ませかけたものの、すぐに立ち直って、

 

「――ああ、御粗末様。じゃあ、帰ろうか――僕たちの家へ」

 

静かに瞑目しつつ告げると、子供達を抱え上げ、一気に空へと飛び立ったのだった。

 

――――――

 

――そんな、幸せな夢。

――ずっとずっと、求めていた幸せな未来。

――そんな、淡い夢。

――いつまでも、見ていたいと思うありえそうな未来。

 

 

……ふと、自室で眼を覚ました。

 ぱちぱち、と眼を瞬かせ、何処かを彷徨っていた焦点が合わさると、イオは自分が涙を流していたことに気づく。

 今しがた見ていた光景を思い返し、

「……夢、だったのか」

体を起こして、ポツリと呟いた。

「あんな……何処までも優しい夢なんて、随分と久しぶりに見た気がする。でも……誰だったんだろう、彼女は。それに、子供達の貌もよく見えなかった」

伴侶の顔が、子供達の顔が妙にぼやけていた夢の内容に、イオは首を傾げると、静かに滴を払ってから立ち上がり、窓の障子を大きく開け放った。

 

「――っ。ん、眩しい……」

 

直後、視界に広がった晴天と太陽の光に眼を眇め、イオは大きく背伸びをする。

 そして、んっと声を上げてから止めると、

「さて、と……今日も頑張りますか」

壱日の始まりを感じながら呟くのであった。

 

 




ありきたりな夢落ち。
そして、今までよりもかなり短い章となりました。
理由として、下手に登場人物を増やすと誰がイオと結ばれるのか簡単に想像がついてしまえる為に、このような仕儀と相成りました。
まぁ、一応のヒントとして、とりあえず今まで出てきた東方プロジェクトの作品全部の人物達が候補に挙がってることだけは言っておきましょう。

――更に言うなら、書籍版の奴も含めてですなぁ。
色々と想像を膨らませてお考え下さいませ☆
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