東方剣神録   作:上田幻

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第五十章「逃れるは旧き本の中で」

 

「――そろそろ、文の様子が気になってきたので、失礼させて頂いても宜しいですか?」

ひとしきり会話を楽しんでから、イオが椀を置き目の前の二人に向かって尋ねる。

……あれからというもの、大天狗が取り出してきた囲碁台や将棋台等でひとしきり勝負をしていたイオ達は、それなりに談笑し、楽しんでいた。

 先日の勝負の時とは異なり、幾らか場数も踏んできたため、それなりに勝負になったことは、イオにとって幸いではあったが。

「あら、今戻ったら文に怒られない?」

「あはは、多分大丈夫だと思いますよ。一回何でもいうこと聞いて上げれば、文の機嫌が良くなりましたし」

あっけらかんとして笑うイオは、暁の心配を一蹴すると、するりと立ち上がり、

「ま、そういう訳なので。楽しませて頂きまして、有難う御座いました。また、御休みが取れれば、こうして遊びに来て宜しいですか?」

と、襖の前まで移動し、振り返りながらそう尋ねた。

「構わないわよ。貴方の話も楽しかったし、またいらっしゃい。歓迎するわ」

「うむ、余りあの子の機嫌を損ねんようにな」

穏やかな微笑みを浮かべた二人が、それぞれにそう告げると、イオは苦笑しながらも一礼し、その場を立ち去る。

……スパン、と軽やかな閉まる音がしてから数分後、暫くの間茶室では沈黙が漂った。

 先程まで流れていた穏やかな空間は消え去り、そこにあるのは大妖怪としての威厳、そして……ぴりぴりという明らかな緊張感。

「……ふむ、天魔様。今日だけでござったが、あの好青年の性格……掴みとれましたかな?」

再び茶を点てた鞍馬が、静かに瞑目しつつ暁へと茶を差し出しながら問えば、彼女は少しばかり眉根を顰めた状態で、

「まあね……この、暴れん坊が多い幻想郷で、唯一と言っていいほどに温厚であり、戦いを余り好む者ではないというくらいかしら。……まあ、身内に手を出されたら、即座に怒りに転ずるだけの気概は持ち合わせているようだけど、ね」

「そうですのう……概ね、儂も同じ考えでござる。されど、何処から何処までを、身内と捉えておるか……正直、掴みきれませなんだ。――天魔様は、如何ほどに?」

「そうね。……多分、あの青年は別けているのでしょう。『天狗組織内部の幹部と首領』と、『射命丸文の親と上司』ぐらいには、ね」

「……然様でござったか。それはそれ、これはこれという奴ですな」

然もありなんと鞍馬が頷いた。

「その辺り、のんびりとしておるようでかなり厳しい分け方をするものじゃのう。恐らくでござるが……もし、あの子を見初めたとしても、個人として付き合う程度に収める心算ではなかろうかな、と儂は思っておるのですが」

「そうなると……婿入りではなく嫁入りとして、文を送りだすことになりそうね。まあ、親として言うならば、それはそれでいいのだけども」

 

――問題は、他の天狗達かしら。

 

「……まず、間違いなく婿入りをさせに掛かるでしょうな。天狗として言わせてもらうならば、あの青年の力は十分に儂等の中でも幹部を張れる程度には強大なのじゃから」

 

「頭が痛くなってくるわね……はぁ。全く、我が子の結婚相手もままならないのは、困ったものだわ」

フッと雰囲気が和らぎ、娘の将来を慮っている表情で暁がぼやく。

「ほっほっ。あの青年ならば十分に任せられるし、じっくりと長期戦と参りましょうかの」

「……結局、それしかないのね……面倒だわ、本当に」

呑気そうに笑う鞍馬と、何処までも気遣わしげな暁なのだった。

 

――――――

 

「――ただいまー……って、あれ?なんか、出た時より険悪な気が」

「……」

ずーん……という、暗い雰囲気を醸し出している記者室の様子に、イオは入ってからすぐに冷や汗を流した。

 そんなイオに対し、ルーミアとはたては頭を抱え。

 射命丸文はというと、眼の光がハイライトの状態になっており、入ってきたイオを見ても一瞬だけこちらを見るのみに留まり、スラスラと卓上の新聞記事の原稿と思われるそれに向かって、万年筆で書いていた。

「……えっと、ルーミアが何時の間にかまた成長してるのは置いとくとして……何かあったの?」

「……まあ、原因は間接的に貴方が関係してるけどね」

「???」

この場にいて話を聞いていた訳ではないイオが混乱するのも無理はなく。

 しかしそんな彼にルーミアはジト眼を一瞬だけ向けた後、深い溜息を吐いてから、

「で、とにかくイオ?どうしてこっちに戻ってきたの?」

「いや、作業の進捗が気になったからさ。新聞記事の内容には口出す心算はないけど、配達の方で手伝おうかな……なんて」

相変わらず暗い雰囲気を醸し出している射命丸を気にしつつも、イオが頬をかりかりと掻きながら告げた。

 一応、先程の会話からして複雑な心境にあるのは確からしく、ルーミアに向けているようで、実の所その言葉は他の二人にも聞こえるように話している。とはいえ、眼が何処となく泳いでいるように見えるのはけして気の所為ではないだろう。

「……ねぇ、イオ。あの文の様子見ても、まだそんなこと言える?」

挙動不審な彼の態度に、今度こそジト眼になったルーミアが若干低い声でイオに詰問する。

「あれから結構修羅場だったんだよ?」

「……いや、本気で何があったの?文が不機嫌になるだけならまだ分かるけど」

あれ、明らかに眼が死んでるよね?

こそこそ、とイオがルーミアに尋ねると、彼女は嘆息して、

「うん、そのことなんだけどねぇ……」

と、何やら言い難そうな様子だった。

「??」

首を傾げてルーミアをそっと窺い見れば、その視線に気づいたルーミアが咳払いをし、

「と、兎に角、イオは何もしない方がいいと思う。下手に突いたら、絶対藪蛇になることだけは保障できるわ」

「……でもなあ……」

「大丈夫よ、イオ。はたてもいるし、私も手伝えるから。取り敢えず、今日の所はもう帰っても何も言われないと思う」

渋っているイオにルーミアがそう言い含めると、チラリとはたての方を見て頷き合う。

 そして、彼を引っ張り、背中をどんどん押しながら記者室から追い出そうと動き始めた。

「ちょ、ちょっと?ルーミア?」

「いいから!早く元凶が居なくならないと、文は何時までもあのままなんだってば!」

「え?あ、ちょっ……」(ばたん)

問答無用に連れて行かれたイオがドアの向こうに消え、ルーミアがほっと一息を吐いた時である。

「……ねぇ、ルーミア。私……イオのこと、好きでいいのかな?」

ぽつり、とルーミアの背中に向かって力無い声が届いた。

 思わずぎょっとしたルーミアが慌てて射命丸の方に顔を向けると、そこには暗く沈んだ表情を浮かべている射命丸の姿が。

「……ねぇ、はたて。私、耳が遠くなったのかなぁ?なんか、今あり得ない言葉が聞こえてきた気がするんだけど」

「残念ながら、気の所為でもなんでもないわ。……文、一体どうしてそんなこと思ったのよ?幾らなんでも誇りあるべき鴉天狗がそんな状態じゃ、存在に関わって来るわよ?」

頭痛を堪えているかのような表情ではたてが射命丸に向かってそう尋ねると、彼女は益々落ちこんだ表情になり、

「だって……私より、ルーミアがいた方が……」

「――あっきれた。だから、あんなにイオのことが好きだって認めなかったのね。全く……あのね、一つ言わせてもらうけど」

 

――別に、イオを好きになったって、文句は言わないわよ?

 

「……でも……」

しょぼん、という擬音が聞こえてきそうな彼女の様子に、ルーミアは深々と溜息をついて、

「でも、も何もないわよ。そりゃあね、私だってイオが好きよ。出会ってからずっと、優しくって、心が温まる料理を作ってくれることも、我儘言っても、何だかんだで聞いてくれるのも、全部、大好き。……でも、だからって文が遠慮する必要性なんてない!」

ふんす、と気合いを入れる様相で腰の辺りで拳を握りしめると、

「恋は戦争!誰が誰を射止めようと、文句は言わないし言わせない!」

メラメラと燃え上がるような気迫で以て、ルーミアは宣言した。

「……ここまで行かないけれど、私も同じ気持ちよ?まぁ、どちらにせよ、決めるのはあの何でも屋のイオだけどさ」

そんな彼女に苦笑しつつも、はたては穏やかな慈愛の瞳を射命丸に向けつつ、事実を告げた。

 その言葉に、ルーミアががくんと体を折り曲げ、

「……そこらへんなんだよねぇ……イオ、どうも私のこと妹にしか見てないみたいでさ、結構引っ付いたり、甘えたりしてるのに……ねぇ、はたてどう思う?」

むすっ、とした表情で行儀悪く床に寝転がりながら、ぐちぐちと文句を告げる。

 そんな彼女に労わりの眼を向けながら、はたては何処か考えるような素振りを見せつつ、

「ん~……何とも言えないわねぇ。――ああ、でも、普段からちっちゃい方で接していたら、妹みたいに思われても仕方ないんじゃない?」

と、先程のルーミアの状態を鑑みてそう推察を告げた。

「初めから今のように成長した姿でずっと暮らしてたらともかく、子供姿でいるのを異性として認識しようも出来ないと思うわよ?」

「……はぁ。やっぱりそれかぁ……失敗したなぁ」

何時の間にやら和気藹々としたコイバナへと変じている話題の中、射命丸はう~だとか、あ~だとか何やら口をモゴモゴとさせている。

(……あぅ……い、いざ、自覚したら……)

――イオを、真っ直ぐに見られないかもしれない。

 艶めいた蒼の前髪の中で煌く、金の眼。

 穏やかな光を湛えているあの美しい眼を思い浮かべた所で……ポン!と顔が熱くなった。

「……」(ニヤニヤ)

「……」(ニヤニヤ)

そして、当然のことながらそれを見ている人外二人。

 頬を真赤に染め上げている射命丸へ、見ていて腹立たしい笑顔を向けてくる彼女達に、射命丸はキッと睨みつけ、

「言いたいことがあるならはっきり言いなさい。二人してニヤニヤして何なのよ」

「あら?言っていいの?遠慮なく言っちゃうわよ?」

「そうそう!ね~?」

すっかり姦しくなった記者室の外、イオはというと……。

「……どうしよ」

追い出され、ドアを閉め切られてしまった為に、中の様子を伺うことも出来ずただ困惑していた。

「参ったなぁ……むぅ。お手伝いが早々に無くなっちゃったし……ああ、そうだ。パチュリーさんのとこ行けばいいか。魔法についても色々訊きたいこともあることだし」

頭を掻きながらそう呟いた彼は、内部の様子をけして知ることなく、ぎし、ぎし、と木造の廊下を軋ませながら、天狗の屋敷を後にするのだった。

――中から聞こえていた言葉の意味について、意図的に考えようとしないままに。

 

――――――

 

「――で、私の所に来た、と……馬鹿なの?」

「ちょ、いきなり罵倒ですか!?」

これ以上にないくらいの冷酷な眼つきで罵倒され、イオは戦慄する。

「ハッ。馬鹿以外に何を言えと?あのブンヤを放っておいているのは事実なのだし」

淡々とした口調と無表情の彼女――パチュリーはそう言って、ぺらり、と自身が読んでいる本の頁を捲る。

「まぁまぁ、落ちつけって。こっちにしてみれば私の魔法のバリエーションが増えるだけでも歓迎してるんだからさ」

そんな彼女に、長椅子の背に顎を載せるようにして座っている魔理沙が、ニヤニヤと嬉しそうな悪戯っ子のような笑顔を浮かべて告げた。

「貴方が喜んでどうするのよ……と、兎も角。イオ?貴方、私の魔法実験の手伝いをしにきたと言ったけれど……そうね。じゃあ、御言葉に甘えるとしましょうか。丁度、色々と実験してみたいことがあったのよねぇ――貴方を使って」

「……おぅふ。ちょ、ちょっと待って下さい。実験の手伝いって言っても、材料の準備とかを集める作業の方ですよ?」

「黙りなさい。そんなのは魔理沙やアリスに頼んでいるからいらないわ。私が今、欲しいと思っているのは、『若い男でかつ亜人』という素体がどういう風に変化するのかを知るための人材よ」

「――即刻帰らせて頂き「おぉっと、それはさせないぜ?」ちぃっ!?」

言葉の途中で踵を返したイオが、ビュオッという風切り音と共に魔理沙に阻まれ、思わず舌打ちをする。

 ミニ八卦炉を持って此方に向けて構えている彼女に、イオが即座に動いて対処しようとしたその瞬間だった。

 

「――日光よ、汝が敵を縛りつけよ」

 

朗々たる詠唱と共に、六芒星の魔法陣がイオの足元に出現。

 属性を示すかのように黄色の輝きを放つそれに、イオはぎょっと驚き、慌てて天井の方へと飛び立とうとした。

 しかし、七曜の魔女たるパチュリーがそれを逃す筈もないわけであり……。

「――集え集え。火よ、水よ、木よ、金よ。須らく捕らえよ」

淡々として紡がれる詠唱の声と共に、赤や蒼、白に黒の光を放つ魔法陣も現れ、熱気が、冷気が、生命が、無機質が牙を剥く。

「ひっ!?ちょ、パチュリーさん本気出し過ぎぃ!!?」

「当たり前でしょう。すばしっこい貴方を捉えるのに、これくらい必要なのだから。――魔理沙、天井は頼んだわよ」

「あいよー!」

楽しそうな声と共に空中を駆ける魔理沙に、イオは再びぎょっとしつつも、ぐっと何かを握りしめるようにして拳を固めると、ばっと手を開いて魔理沙に向け、

「――『木槍(ウッドスピア)』×10!!」

眼前に小さな五芒星の魔法陣を多く組み上げ、発射した。

タイミングをずらして発出される木の槍型の弾幕に、

「おおっと!その手は食わないぜ!」

しかし魔理沙は慌てることなく避けたり、ミニ八卦炉から幾つか射出して打ち消したりしていく。

「くっ……ああもう、面倒な!」

スペル放つのもどうかと思ったけど、本気で行くよ!

 その言葉と共にイオは追い縋ってくるパチュリーの魔縄を避けながら、詠唱を放った。

 

『集え集え、太古より生き永らえし旧き者達よ。今こそその芽を出だすべき時なり』

 

「――さぁ、これが新バージョンだ!」

 

――樹符『顕現するイグドラシエル』ver.X(イクス)――

 

スペルカード宣言と共に、イオは突如空中で身を屈めると、大きく虚空を蹴り出し、魔理沙に向って吶喊する。

「うぉっ!?危ないだろ!?」

慌てた魔理沙がそう叫んでいるのを聞きながら、イオはその身体に魔力を纏わせ彼女を中心として虚空に蒼色の五芒星を描き出した。

「!!イオを止めなさい魔理沙!」

その意味する所を悟ったのか、パチュリーが魔理沙に向かってそう叫ぶが、

「無茶言うな!イオの速度半端ないんだぞ!?」

あっという間に形作られていく魔法陣を見ながら、魔理沙が叫び返す。

 そうしていく内に、イオがとある空中で足を止めた。

 その顔には何時になく自信が込められたような表情を浮かべており、その表情を見やった魔女二人が嫌な予感を感じた所で。

 

――突如として、巨木が出現した。

 

「おわっ!!?」

「……っ!!」

それぞれに驚愕の色を浮かべながら退避した二人の間隙を縫って、巨木が大図書館に顕現する。

ずず……ん、と重厚処ではない響きを齎しながら、その巨木が燦然として輝き出した。

「――さぁ踊れ。生命が齎す煌きの中で……!!」

イオのその言葉が宣言となり、直後、巨木が大きく身を震わせる。

 黄緑と蒼、緑に輝く木葉型の弾幕が、振り乱れる巨木から広範囲に、同心円状に、降り注がれた。――しかも、交互に回転と逆回転をするという流れさえ伴って。

「――くっ!相変わらず厭らしすぎる弾幕だぜ!」

「……ああもう。こんなに手間が掛かるから、直ぐにでも捕らえたかったのに……全く、魔理沙の所為よ?」

「私の所為かよ!!?」

大声で文句を返しながら魔理沙がイオを探すと、彼は巨木の頂上の枝と思しき茂みの上で立っているのを発見する。

 未だに身を震えさせている巨木に立つことなど、通常は出来る筈もないが、恐らく何らかの力を用いたのであろう。

 無表情でありながら、その瞳に怜悧な光を宿らせ推察を続けるパチュリー。無論、そんなことをしていながらも、時折魔導書を用いてはイオに反撃を加えていた。

――そして、スペルブレイクが発生する。

「……全くもう。二人とも落ち着いて下さいよ。何でこうなるんですか……」

疲労が感じられる声音でイオが文句を言うが、パチュリーはしれっとして、

「あら、逃げるのがいけないんじゃない。それに、私は別に人体解剖なんてする心算はないから安心しなさいな。――ちょっとだけ、魔法薬を飲んでもらうだけよ、ええ」

若干キラキラとした眼で告げる彼女に、イオは益々がくっと肩を落とし、

「それ、逆に生命の危機を感じるんですけど、気の所為ですか?」

「安心しろ、安全DAZE☆」

「信用できない」

ジト眼で魔理沙を睨みつけ、イオは即座にそう告げた。

「大体、魔理沙は僕に魔法を教わりたいんじゃなかったの?何でそっち側についてるのさ?」

そして、放たれる至極当然の言葉。

 ぅぐっと呻いた魔理沙が、若干引き攣った表情で無理やりに笑顔を浮かべつつ、

「いやだってよ……パチェにも負債抱えてるんだぜ?仕方ないだろ?」

「……あぁ、そういやそっか。てか、だったら普段から本を普通に借りればいいのに」

今更ながらな彼女の言葉に、イオは再びがっくりと肩を落としつつ、呆れた表情を浮かべて首を振った。

「もう、図書館での強奪行為はしなくなったんでしょう?」

パチュリーに向かって疲れたようにそう尋ねると、彼女はまぁね、と頷き、

「貴方のお陰で、今に至るまで大人しくしてくれているわ。偶に、こぁに言って本の整理も手伝ってくれているようだしね」

「……小悪魔のバカヤロー……あんだけ言うなって言ったのにぃ……」

さらりと吐かれたその言葉に、羞恥で頬を赤らめ魔理沙が悶える。

「何を恥ずかしがってるの。別に悪いことした訳じゃないのにさ」

そんな彼女にイオは呆れた表情を浮かべて突っ込みを入れると、パチュリーが何処か訳知り顔のような光を眼に湛え、

「普段がさつだから、こんな時に褒められるのに慣れていないんでしょう。……それより、結局私の実験に立ち会ってくれないのかしら?」

と、以前イオに魔法のことで根掘り葉掘り訊いてきた時と同じ、危険な輝きを秘めた眼でイオをじっと見つめてきた。

「あ、あはは……こんなのどうしろと」

絶望感溢れる表情で、イオがぽつりと呟く。

 そんな彼に、魔理沙はうん、と一つ頷くと、

「諦めた方が早いんだぜ☆」

「……うざ」

きらりん☆とぶりっ子そのものなポージングをしてみせる彼女に、イオは思わず眉を顰めて告げた。

 険悪になっていく図書館内の様相に、傍らで作業をしていた小悪魔は若干ぷるぷると震えつつも、頑張って作業を進めていく。

 何時まで経っても自身の思い通りに行かないこの現状に、パチュリーは仕方なしに溜息をつくと、

「……しょうがないわね……魔法薬は止めとくわ。その代り、貴方の血を使って実験しても構わないかしら?」

「……それ、もっと早くに言ってくれてたら、こんなことにはならなかったと思うんですが」

本当にしょうがなさそうにしている彼女に、さしものイオも若干眉をぴくぴくとさせ、眼が笑っていない笑顔でそう突っ込んだ。

「あら?いいでしょう別に。私の手伝いをしてくれるというから、私のしてほしいことを素直に言っただけよ?」

「……相変わらず、妖怪は自由な人が多いなー……」

遠い眼になりながらも、イオは深く溜息をつくと、

「……まあ、暇だと言っているのはこちらの方ですしね。仕方ないです。取り敢えず、どれだけ血を使う心算でいます?」

と、漸くにして観念したのか、諦めが多分に含まれたジト眼でパチュリーに問うた。

 すると、パチュリーは考える素振りを見せてから、

「……そうね。今の所はこの試験管の三分の一くらい出してもらおうかしら。――ああそれと、これも出してもらえる?」

そう言うと、イオに向かってちょいちょいと手招きしてみせる。

 そこはかとなく嫌な予感も感じながら、

「……何ですか一体」

と、恐る恐る近づいていくと、パチュリーが耳元まで顔を近づけ、

「――――は用意できるかしら」

「…………」

「……パ、パチェ、今何て言ったんだぜ?」

とんでもない一言にイオは硬直し、偶々聞こえてしまった魔理沙も顔を真赤に染め上げ、パチュリーに向かってワナワナとミニ八卦炉を構えた。

 だが、そんな状況を齎した張本人はしれっとして、

「あら、貴方も聞こえてたの。だったら分かるでしょう?――精液よ、せ・い・え・き」

「しれっと言うことじゃないでしょうが!!」

すぱーん!!と音高くハリセンが唸りを上げ、イオは顔を羞恥で真赤にしつつも吠える。

 むきゅん!?と悲鳴を上げたパチュリーが、

「……痛いわね。こんな強く叩かなくともいいじゃない」

「だったらそんなこと言うんじゃありません!ああもう!通りでなんか嫌な予感がすると思ったんだよ!」

摩り摩りと頭を撫でている彼女に、イオは尚も気炎を上げた。

 だが、パチュリーは深い溜息をついてみせると、

「あのねぇ……私達の魔法は生命に関わるものが多いのよ?貴方の様子からするにまだ童貞なんでしょうけど、そうした若い男性の体液ほど、魔力が多く含まれているの」

同じような理由で、処女の血もそうね。

と、永らく生きているが故の淡々とした物言いでそう講義し始める。

 余りのフリーダム振りに、イオは、魔理沙はパクパクと口を開閉せざるを得なかった。

 だが、魔女の講義は尚も続く。

「人間はね、一度でも異性と交わればその性質が変わるのよ。その前の人間というのは、言わば純粋な個人とでも称すればいいかもね。混じりっ気が一つもないが故に、レミィのように、吸血鬼はよく異性と交わる前のものを好むわ。これはこうした理由からなの」

ピン!と指を一本立て、パチュリーが何処か楽しそうに説明する姿に、イオはとうとう頭を抱えて、

「……あのですね。だからって何の相談も無しにそれはないでしょう?」

と、ほとほとと疲れた様な声でそう突っ込んだ。

 続けざまに、腰に手を当ててジトッとした眼でパチュリーを見ると、

「兎も角、一応理由があるのは分かりましたけど、絶対にそれは上げませんし、させる心算もありません。血だけで我慢してください」

と宣告する。

 だが、諦めきれないパチュリーは尚もその眼に不満を湛えると、

「……むぅ。ちょっとだけでも「まだ言います?これ以上言うなら、僕も神眼『黄金律眼』発動させますよ?」……しょうがないわね」

完全に不機嫌な表情になったイオの表情を見て、ようやく渋々諦めたのだった。

 

――――――

 

「……それで、今回どんな実験するんですか?」

いつも腰に据え付けてあるポーチから、親友のラルロスが著述した『現代魔法概論』と題された小さめで厚い本を取り出しながら、七曜の魔女へと問いかける。

 すぐ傍で長椅子に座っている魔理沙が、興味津々と言った体で覗きこんでいるのを横目で見ながら、彼女の言葉を待っていると、

「そうねぇ……取り敢えず、貴方の血を使った実験であることは確かね。一括りに実験とはいっても、千差万別あるわけだから」

グツグツと煮え滾るフラスコの内部にある魔法薬を見ながら、パチュリーがようやくにして答えを返してきた。

「まずは、この血が魔法薬の材料としてどのように効果を発揮するかを調べましょうか。内在している魔力量からして、結構応用できそうな気がするからね」

濃い緑色をしている魔法薬に、少ししてから別の材料を加える。

 すると、ぽん、という軽い空気音と共に、色鮮やかな青色へと変貌した。

 すかさず、イオから採取した血液を一滴だけ垂らす。――直後、再び空気音と共に色が変化した。

 今度の色は――眼が覚めるような金色。

「……あの、今何を作っているんです?」

「そうねぇ……正直何が出てくるか予想がしにくいのよ。普通の人間であったなら兎も角、今の貴方の種族である龍人の血なんて、未知数に溢れているから」

普通の人間の血だったら、これで麻痺や喀血を防ぐ解毒薬になるのだけど……。

そう言いながら、パチュリーはゆっくりとフラスコの管の部分を、大きめの試験管挟みで挟みこみ、上下に揺らして中の溶液を混ぜ合わせた。

 直ぐにその効果が現れ、今度はイオの髪のような蒼紺色に変わり、ゆったりと甘い匂いが漂ってくる。

 そして、マジマジとパチュリーが魔法薬を見つめた後、何処からともなくビーカーを取り出して、静かに注ぎ始めた。

――そこまでの作業をしている様子を、イオは視界に納めながらも、

「……つまり、この魔法陣における内円にある五芒星の頂点というのは、そのまま上から順々に生成されていく様子を顕したもので……逆に、五芒星が形成される順番というのはその属性に対する相克の属性を顕したものであるということだね」

と、魔理沙に向かって講義している。

「なぁなぁ、この真ん中の五芒星ってさ、一番上にあるのが起点になってるのか?」

「うん、そうだね。まあ同時に終点も兼ねてるんだけどさ、星の頂点がそれぞれに正五角形を形成できるような位置じゃないと、魔法が発動されない仕組みになってるんだ。だから、僕が学院に通っていたころは、特に魔法陣の形成能力を鍛えられたね。だって、まともに描かないとうんともすんとも言ってくれないし、下手すれば暴発する可能性もあるからさ」

流れるように言葉を紡ぎ、イオは当時のラルロスから叩きこまれた魔法の神髄を思い返していた。

――通学当時、イオは剣術・体術についての心得は十分に持ち合わせていたものの、魔法に関するものは得意な方ではない。

 しかしながら、身体能力に関わってくる補助魔法にはそれなりに造詣は深い方だった。何故なら、普段のクリスとの実戦も含めた訓練には欠かせないものだったからである。

 何せ、素の身体能力でも大幅に差があるうえ、クリス自身も補助魔法を使用しているために、ただの模擬戦が簡単に地獄へと変わった。

 幾らでも致命傷を負いかねないが故に、イオはどうにかして何とか脱却しようと画策していく内に、攻撃魔法を程々に鍛えることにしたのである。

 そうして出会ったのが、ラルロスと共に創り上げた魔眼『金眼律法(ソロモン=アイ)』だった。

 無詠唱で四属性の古代級魔法を扱える上に、威力も増大させるその魔眼は、何とか養父クリスと互角にまで持っていくことが出来るようになったのである。

(……もうほんと、父さんのあれは一体どうなってるのかなんて思ったのは一度だけじゃないよねぇ)

若干遠い眼になりつつも、イオはパチュリーの様子を窺いながらも魔理沙の世話をしていくのであった。

 

――――――

 

「――出来たわ」

そんな声が聞こえて来たのは、イオが実践として魔法陣を組み上げ、魔理沙に見せている時のことだった。

「およ?……こりゃまた、飲みたくなくなる色合いの薬ですねぇ……」

一拍遅れて反応したイオがパチュリーのいる方へと顔を向け、すぐにげんなりとした表情でそうぼやく。

「仕方ないでしょう?そもそも、色と味なんて度外視しているものが殆どよ、魔法薬は」

その手に持つビーカーをマジマジと見つめながら、パチュリーがそう言葉を返した。

……とはいえ、イオの言うことも分からないではない。

 何しろ、彼女が持っているビーカーの中でグツグツと未だに煮え滾っているその薬品は、蒼と赤が斑に入り混じったかのような色合いをしていたのだから。

「……どういう効果があるんだ、パチェ?」

今までイオの講義を聞いていた魔理沙が、興味深そうにひょっこりとパチュリーの右肩側から顔を覗かせ、そう尋ねてきた。

 そんな彼女の様子に、パチュリーは溜息をつくと、

「それを今から調べるのよ。そうね……じゃあ、まず最初に貴方に飲んでもらおうかしら」

と、若干好奇心でキラキラとした眼で、魔理沙に向かって薬を突きつける。

「はぁ!?ちょっと待て、何で私が飲まなきゃいけないんだ!?」

「普通の人間にどう作用するか調べるため、よ。イオは亜人だし、どうしたって効果が異なるのは分かりきっているわ。その他で飲ませる人間なんてそういないんだから、我慢しなさい」

「ちょ、ちょっとま――ぎゃあああ!!?」

逃げようとした魔理沙が、あっという間に植物の蔓に捕らえられ、薬がゆっくりと恐怖を煽るようにして近づけられていった。

「や、やだ!パチェ,やめろったら!!やめ……(ごく、り)」

しかし、哀れなるかな……好奇心でノリに乗った魔女に勝てる筈もなく、魔理沙は無理やりに薬を飲まされる。

 吐きだすことも出来ないが故に飲みこまれたその喉が鳴った直後、戦々恐々と魔理沙が恐怖に打ち震え、効果が出てくるのを待った。

……しかし、何時まで経っても恐れていた事態が起こる様子もないため、魔理沙が恐る恐る何時のまにか閉じていた眼をゆっくりと開いてみる。

「……あれ?パチェ?何も起こっていないんじゃないか?」

あれだけ怖がっていたのが嘘のような静けさに、魔理沙がパチュリーに向かってそう尋ねると、

「可笑しいわね……何かしらの効果が見込めると思ったんだけど」

魔理沙の体の表面に斑が出来てもおらず、むしろ瑞々しいままの綺麗な肌色をしている彼女を見ながら、パチュリーは首を傾げた。

「魔力は?表面じゃなくて内面の方が変わったのかもしれませんよ?」

真剣な眼差しを向けながら、イオがそう提言する。

「肉体に何ら反応が無かったのなら、多分変化が起きているのはそっちにあるかもですし」

「……そうね。魔理沙、一回何か魔法を行使してみなさい。その結果で判断してみるわ」

「お、おう……むぅ……だったら、さっきイオに教えてもらったばかりのアレで行くか」

少しばかり緊張に満ち満ちた表情で、魔理沙がミニ八卦炉を取り出す。

「??ねえ、魔理沙?別に媒介を使わなくても、魔法は使えるよ?でなきゃ、ラルロスも僕も、魔法なんて使えないし」

不思議に思ったイオが、きょとんと首を傾げながらそう言葉をかけると、

「あのな……お前がそうでもこっちはずっとこれを使ってきてんだよ」

ややジト眼になった魔理沙が、イオを見て不機嫌そうにそう言い返した。

――直後、ミニ八卦炉に魔力が充填され、煌々と輝きを放ち始める。

 魔力の輝きが宿ったその媒介を、魔理沙はイオに習った通りに五芒星の形を描き、内円を描き、外円も描き……そして、中央に大きく『光』の文字を描いた。

 

「――貫け!『光刃(レーザー)』!!」

 

高らかに唱えられたその詠唱の直後、地面に対して垂直に描かれた魔法陣から、チュィン!!と特徴的な音と共に光速で何かが射出され、パチュリーが構築した結界へと勢い良く突き刺さる。

 ジュワア……!!と、何かが溶けるかのような音が響いた後、イオとパチュリー、そして魔理沙の眼が揃って大きく見開かれた。

「……おいおい。なぁ、イオ。今の魔法って、確か一番低い威力なんだよな?」

「…………見た感じ、詠唱も構成も簡単な奴だったのは確かだね。幾らなんでも、こんな威力なんてある筈ない。大体、あの光属性の魔法の威力は、本当だったら小さい穴が開くだけなんだから」

冷や汗をじっとりと掻きながら、イオは目の前で『マグマの様に』融解している結界を見て、そう告げて見せる。

「となると……実質的に、この薬は魔力を大幅に引き上げる効能ということになりますね、パチュリーさん」

「そういうことね。まぁ、大した副作用もないようだし、良かったわね魔理沙」

「……なんだろ、妙に喜べないんだぜ」

むぅ……という、若干顔を顰めた状態で、魔理沙が渋々といった体でぼやいた。

「あら?常日頃、あの巫女に勝ちたそうにしているのに、どうしてそんな顔をしているの?」

「まず、この薬の効果が発揮する時間がどれくらいになるのか分からないってのと、後は……単純にイオとパチェの手を借りなきゃ出来ないってことかな。どうせだったら、自分の力で何とか増幅させたいんだよ」

やや不満そうな表情を浮かべつつも、魔理沙は何処か、決意が秘められた眼つきとなる。

「今まで、イオの料理を食べりゃちょっとずつでも力は増えてきたけど、でも、それだって考えてみればイオの力に頼ってることだしよ、余りやりたくなくなったしな」

あ、でも旨い飯は大歓迎だぜ?

にやりと笑った魔理沙が、イオに向かってそう言い放った。

「……そっか。頑張れ、魔理沙。ああ、でも無理はしないようにね?生活がカツカツだったら、食べに来てもいいからさ」

「大丈夫だって。こーりんのやつもいるし、もし困ったにしてもそっちに駆け込むから安心しろ」

「うーん……いや、流石に幾ら年の差があるにしたって、男女二人が同棲するのはどうなのさ……?」

呆れた表情で首を振りながら、イオはやや疲れたようにそう突っ込む。

 そういうふうにして、紅魔館の中の図書館は和気藹々とした空間で主に構成されていたのだった。

 

――――――

 

「……」(ぺラリ)

打って変って静かな空間に変化した大図書館の内部。

 イオは、パチュリーやアリスが用いると思われる魔導書をじっくりと読み耽っていた。

とはいえ、彼が今読んでいるのは通常の人間が読んでも何ら差し支えのない、言わば参考書のようなものであり、魔女が用いる、読んだだけで精神に異常を齎すような危険なものではない。

 パチュリーがそうさせなかったというのもあるし、何よりもイオ自身がそんな危険な魔導書を読みたくないと思ったからだった。

「……」(ひょこり)

そんな彼の後ろ。

 誰かが彼の様子を伺うようにして、見上げるような高さを誇る本棚の陰から覗きこんでいた。

 とはいえ、完全に姿が隠れきっておらず、シャラシャラ……と、涼やかな音と共に翼に垂れ下がっている宝石が揺れ動いている。

「――そこにいるの、フランかい?」

未だ、じっくりと本を読み進めながら、イオが彼女に向かって声をかけた。

「わ!?……まさかばれてるなんて思いませんでした」

「いや、ばれるも何も……それだけ翼が音立ててたら誰だって気づくと思うよ?」

「……それもそうですね」

ぽん、と手を打ち合わせる彼女に、イオは静かに笑いを洩らす。

 それに気づいた彼女――フランドールはむっとした表情になると、

「笑わなくたっていいではないですか」

「いや、御免ね。本当に淑女のようになったとはいえ、まだまだ可愛らしいのは残ってると思ったらさ。……それで、一体どうしたの?」

むぅぅ……と可愛らしい唸り声を響かせている彼女に、イオはゆっくりと振り向き、穏やかな笑顔でそう尋ねた。

 そんな彼に、何とも言い難い表情をしたフランドールは、一旦文句を胸の内に仕舞うと、

「……何か、あったのですかお兄様」

と、彼を見かけてから感じていた違和感を思い出しつつ、そっと静かに問う。

 その言葉に、イオは若干きょとんとしてから、

「んー……フランが何を言いたいのか、ちょっと分かんないな。僕の様子見て、何を感じたんだい?」

と、やや困ったように苦笑しながら問い返した。

 その問いに、フランドールは複雑そうな表情を浮かべると、

「上手く、言いにくいのですけれど……何だか、お兄様が何処か、ぼんやりされているように見えて」

と、恐る恐るといったように言葉を告げる。

果たして、イオは眼を見開き、天を仰ぐようにして顔を上げると、

「……参ったなぁ。普通にしてるつもりだったのに」

と、ぽつり、何かを堪えるかのような言葉を漏らした。

「……何が、あったのですか?」

心配そうにイオを見るフランが、間を開けながらそう尋ねると、

「んー……まぁね。大丈夫、危険なことなんてないから」

と、安心させるような笑顔になったイオが、ポンポンと優しく頭を撫でつける。

「ちょっとね、どんな関係を目指せばいいのか、不安になっただけ」

「……」

何かしらを抱えているようにしか見えない彼の様子に、しかし、フランドールは何も言えないままでいた。

 

――彼の言う『関係』に、思い当たる節が、ない訳ではなかったから。

 

 だが、彼女が言える筈もなかった。

「……そう、でしたか」

ぽつりとして言葉を告げると、一瞬俯いてから。

「……抱えたままになさらないでくださいね?」

と、色々な思いを含んだ忠告を、彼に向かって伝えた。

 心から心配している彼女の言葉に、しかし、イオは何も返さず、ただ困ったように笑うだけであった。

 

――――――

 

「――ねぇ、文」

パタパタ、と空中で翼を動かしながら、はたては傍らを飛ぶ親友に向かって声をかける。

「ん、何?」

ガサガサと新聞が詰まった鞄を探る射命丸が、尚も何かを探しながら声を返した。

 そんな彼女に、ふぅ……と溜息を漏らしたはたては、

「結局、文が自覚したのはいいけど……いつ告白するつもりなの?」

彼女が未だに逸らしているであろう現実を、改めて突きつける。

 ガサガサッ!!と、明らかに動揺した射命丸に、同じように飛んでいたルーミアがにやにやと笑いながら、

「そうだよー文。自分の心に気づいたのなら、アタックかけなきゃ!イオ、普通に女の子に対して鈍感だし、朴念仁だしね!」

「なななな何を言ってるのよ!!?」

顔を真赤に染め上げ、わなわなと震えながら射命丸が吠えた。

 そんな彼女に構うことなくはたてがにやりと嗤うと、

「ルーミアの言うとおりよ、文。聞けば、イオって女性が群がるみたいじゃない?誰かに搔っ攫われても、文句は言えないわよ~?」

「うっ!!?」

思い当たる節が多分にあり過ぎる彼の女性関係に、射命丸はやや表情を強張らせて呻く。

 なんせ、只でさえあの若き龍人はマスクが甘い。

 そのうえ、普通に接していれば十分に人格者としても魅力的である為に、人里でも、各組織においても見逃せない逸材だった。

 身内に嫁がせるだけでもその力を継承させられるうえ、彼自身が編み出した剣の技法も合わせて継承されるであろうことを考えれば、十分すぎるほどに魅力的なのである。

 しかも、どのような人物に対しても、如才なくかつ丁寧に接しているために、外交として動いても問題がない。

――故に、各組織の上層部が特に狙う人材でもあることは疑いなかった。

「……ホントにどうしよ」

完全に衝撃を受けた表情になった射命丸が、茫然としたように呟く。

 そんな彼女の様子に、二人は呆れたように眼を交わし、

「そんなことにならないように、さっさと捕まえるんでしょ」

「私はライバルだし、あんまり手伝えないけど……応援はしてあげるから」

まぁ、捕るのはこっちだけどね☆

 ニヤリ、と不敵な笑顔を浮かべるルーミアに、射命丸は大きく眼を丸くさせ、

「……全くもう」

と、呆れたように、だが、薄らと笑みを浮かべてそう呟くのであった。

 

 




少しずつ変わろうとしている周囲の環境に、イオは一人静かに悩む。
そんな彼がいようとは思わず、少女達は思う存分に乙女として輝いていた。
果たして、彼が答えを出した時……傍にいるのは、一体誰なのか?

次章、「駆け巡るは幾つもの思惑」

穏やかな龍人の周囲とは裏腹に、幻想郷の各有力者達の間では剣呑な雰囲気に包まれていた。
其々が思う、龍人への思惑とは……?
乞うご期待!!


……書いてみて思った。これ何処のアニメや!
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