東方剣神録   作:上田幻

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古の戦いを紡ぎだす、幻想郷最古参が内の一人。
大天狗による、静かな物語が明かされる――。

そして、月面。
……戦いに晒されたが故に、訓練に明け暮れる者達がいた――。


第五十六章「紡がれるは記憶と出会い」

――そうじゃのう……あれは、まだ『鬼』の方々が妖怪の山の頂点として在った頃じゃった。

 当時はの、まだ、幻想郷の枠組みや範囲まで定まっておらず、暗黙の了解とも言える規律がなされておったんじゃ。

 

――それが、『人里に近づくことなく、そして、人間が妖怪の山に入ることを禁ずる』というものじゃ。

 

……そうじゃの。そなたの言うとおりに、棲み分けという言葉がよく合っておる。

 というのもじゃ、当時からそなたも彼の伊吹萃香殿のことでよく分かっておろうが、途轍もなく『鬼』の方々は強大じゃった。

 儂等天狗は、策略を好み強者に阿る……言わば、参謀でも小心者とも言える性格だったが、『鬼』の方々は異なっておる。

――力こそ、正々堂々であることこそが、己が強大さを示す証となり、誇りとされていた。

 じゃが、彼の方々はそれを人間にもさせたのじゃよ……確かに、その昔、人間は強大な彼の方々と戦う際、それはもう凄絶さを通り越して悲惨とも言える覚悟で、臨んでおったそうじゃ。

 稀に、そうして戦って勝ち取った者もおるらしくての……その時のことを気分良く仰られていたよ。

 

――しかし、人間は……というよりも、妖怪も含めてじゃな。

 そうした鬼の方々のことを憎んでおった者も、恐怖しておった者もいた。

 その理由は……余りにも、鬼の皆々様が強大過ぎたこと、そして弱きも強きも関係なく襲い掛かっていくその気性にあったのじゃ。

 自然、天狗以外の他の妖怪はなりを潜めてしまい、人間は何時しか彼の方々にとって『卑怯』であると罵る行為へと走るようになってしまった。

……そうじゃの、そなたの言うとおり、奇襲を始めとする言わば謀略に近い行動じゃ。それは、天狗もよく使うような技術に他ならなかった。

 そして……あの方々は嘗ての人間がいなくなってしまったことを悟ってしまい……地底へ、その姿を御隠れになられたのじゃよ。

……ふむ、本題である月面戦争がどうなったのか、じゃな。話は此処からとなる……そう、それは、鬼の方々が御隠れになることを決意された時よりそれなりに前のことじゃった。

 余りにも強大過ぎた力の所為で、誰とも戦うことなく、戦いを挑まれることもなくなってしまった鬼の方達が、何時ものように酒を飲み交わしておった時じゃ。

――八雲紫が現れた。

……あぁ、そんなに険悪なことにはならなかった。心配せずとも、彼女は上手い具合に鬼の皆さまと存分に渡り合っておられたからの。でなければ、彼の伊吹萃香殿が友であると認めぬ筈がない。

 まぁ、そうして彼女が現れて告げた訳じゃ……『己が武を試せる機会がある』……とな。

 当然、彼の方々はいきり立った。

 本当なのかと、表情を爛々と輝かせてのう……あちこちで歓声が上がったのを今でもよく覚えておる。

 するとな、八雲紫が言うわけじゃ。

『貴方達は……恐れられ、敬われた存在なれど、強大過ぎる力によって人間からも天狗以外の妖怪からも疎まれるようになってしまった。私が理想とすることと余りにもかけ離れてしまっている。責を取り……戦いの場へと誘おう』

 傍らに、西行寺の亡霊と九尾の妖怪を従え、そう告げた彼女は確かに幻想郷の管理者としての貫禄があったのう。

 故に、鬼の皆さま方は益々喜ばれ、彼女達と共に開かれた隙間へと身を躍らせ……戦いが始まった。

――と、言うても流石に直ぐ月人がいる都ではなく、その手前の門のような所じゃったが。

 天狗も、あるいは血気盛んな人喰いの妖怪も全て、戦いに準じたのじゃよ。

 初めの頃はまだ良かった……何しろ、余りにも唐突に現れ戦いを仕掛けたからのお。順調に思えたその戦いが……阿鼻叫喚の地獄へと変わったのは、月人の都から二人の少女が現れた時じゃ。

 

 見た目からして余りにも若いその少女達は……あろうことか、元々が人間の負の感情から生まれた妖怪への天敵である、浄化の焔を操ることが出来たんじゃよ。

 

 それが分かったのは、儂の前にいた先代天魔様が焔に焼かれ一瞬にして消えた時じゃ。

 儂等も驚いたが、其れ以上に彼の八雲紫が、驚愕で眼を見開いておった。

じゃが、直ぐに一番消滅の危険性が高い西行寺の亡霊を連れ出し、避難させていた。

 一瞬一瞬が死への訪れを感じさせる中において、彼女は何とか、組織の上層部にあたる者達をどんどん隙間へ放りこんだのじゃよ。

……そうじゃ。儂はその時の生き残りであり……嘗て、現天魔様である暁様の夫であられた先代の天魔様とは義兄弟であった縁によって、暁様と共に戻ることが出来たんじゃよ。

 今でも……苦痛による悲鳴が思い出されてしまう。

 じゃからな……イオ殿。どうか、忘れないでおくれ。

――彼の月人は、妖怪を確固たる自我を持つ存在としてではなく、文字通りに穢れとして疎んでおることを。

 

――――――

 

「……ふむ。なるほど」

語りが終わり、イオがポツリと呟いた。

 何時の間にか用意されていた湯呑を静かに持ち上げ、鞍馬が傾けた後に、

「ふぅ……久しぶりに、長く語らったの。イオ殿も一杯茶を喫しては如何かな?」

「ええ……頂きますよ」

静かに泡立った抹茶で唇を湿らし、イオは再び口を開く。

「聞く限り……どうやら、幻想郷の面々が侵略した、ということに客観的にはなりそうですね」

「そうじゃな……儂達も含め、皆が若かったんじゃ。戦いばかりの生に身を投じることに、喜びを見出しておったのは間違いない」

「……以前、萃香さんに能力を使用してもらったことがありますが……そんな、反則級の能力と身体能力を持っている鬼の方でさえも、敵わなかったということですか?」

顎に手をやりながら、思考を重ねつつそうイオは問うた。

 すると、鞍馬は首を縦に振り、

「そうじゃ。危険だったのは、その少女の持つ力だけではない。その部下と思われる兵共が持っておった、弩のような物体なのじゃ」

引き金を引くだけで、丈夫である筈の我らの体に穴を開けてみせたからの。

「……」

その言葉に、イオは静かに眼を細める。

 その理由は、話に聞いたその弩のようなものが、嘗て異変を起こした張本人の一人である、永遠亭の鈴仙が使用していたそれと似ているように感じられたからだった。

(これは、詳しくあの人達に訊くことになるかな)

取り敢えず、心のメモ帳にそうチェックを入れると、イオは再び言葉を発した。

「その能力持ちと思われる少女の容貌はどういったものでしたか?」

「…………ふぅむ。何分かなり昔の話じゃからのう……済まぬ、ぼんやりとしか、思い出せんのじゃ」

「いえ、大丈夫です。どちらにしても、また永遠亭に赴くことになりそうですし」

考える素振りを見せながらも、イオは言葉を紡ぐ。

「考えられる可能性として……もしかすると、その人達が幻想郷の面々に対して害意を持っていることも在りうるので。何分、侵略者と関係を持っていそうな面子ですもの。多分、一番ありえそうです」

まぁ、僕の剣術とどれだけ戦り合えるのかによりますが、命の心配もしないといけないかもしれないですしね。

 さらり、と告げられたその一言に、鞍馬もさもありなんと頷き、

「じゃからの、極力、争いは避けるんじゃ。もし手段もあるならば、そなたの言う永遠亭の薬師に手紙を書いてもらうことも考えよ。皆が生き延びる手段は……そうした対話でしか成り立たぬのじゃ」

「……でも、もし幻想郷に手を出すなんて言われたら、僕が切れちゃいそうですけどね」

その時は……全てを擲ってでも。

 覚悟を決めた光を浮かべるイオに、鞍馬は馬鹿者、と怒り、

「何が何でも生き延びよ。そなたの帰りを待ち侘びる者だっておるんじゃぞ!命を投げ捨てることを考えるのではなく、生きて帰ってくるんじゃ!」

がっしりと肩を掴み、イオを懇々と諭した。

(……本当に、この世界は良い所だよ、ラルロス)

内心、嬉しく思いながらイオは静かに頷いて見せ、

「――大丈夫ですよ。どんな時であろうと、僕は生きて護り抜くだけ……それだけが、信念ですからね」

「……全く、肝を冷やしたのう。とにかく、気をつけるんじゃ。無事に帰る姿を……待っておるぞ」

「有難う御座います……では、これで失礼をば」

「うむ、去らばじゃ。また、会おうぞ」

男二人、静かに笑みを交わし合いながら別れる。

 覚悟を決め、やり通すことを望んだ者と若き命が帰るのを待つ者とに別れた彼等は、これから先がどうなるのか……分かることなく、未来への希望を募っていたのだった。

 

――――――

 

「――そう。そういうことだったのね」

思いがけず、彼女の父であった先代の天魔のことを聞かされ、射命丸は静かにそう呟いた。

 場所は、いつも彼女が使用している記者室である。

 そこには、はたても同じように座って記事を書いているようであり、今は休憩だろうか、イオと射命丸の会話を壁に背中をつけて聞いていた。

「有難う、いきなりだったけれどいい話が聞けたわ。母様は教えてくれなかったものだから……それで、これからの行動をどうする心算?」

しんみりとした雰囲気から一変して、射命丸が真剣な眼差しとなって見据える。

 その言葉に、イオは静かに頷くと、

「そうだね……大天狗さんにも言ったけれど、やっぱり鍵は永遠亭の永琳さんだと思う。つい最近聞いた話だと、昔住んでいた月に、弟子を何人か作ってたって聞いたから。その人達に届けるというのも含めて、手紙を書いてもらう心算だよ」

「……そうね。それが一番確実だと思うわ。ただ……そもそも、手紙を受取って貰えない可能性だって、ある訳でしょう?なにせ」

――八意永琳は、犯罪者として追われてるってイオが言っていたじゃない。

「それなんだよねぇ……正直、どうしようかなと思ってさ。師弟関係だった以上、その御弟子さん達も御師匠さんのことは気になってると思うんだけどね」

苦笑しながら腕を組んでイオが考えこみ始めた。

「いっそ、月の方から接触があればいいんだけどなぁ……」

「いや、幾ら何でも無理でしょ。かなりの天文学的確率よそれ」

「だよねぇ……」

一旦家に戻り、軽く揚げてきた骨煎餅を齧りつつ、イオは尚も考え続ける。

――だが、その天文学的確率の筈の出来事が、今まさに起こっていようとはイオも射命丸も思わなかったであろう。

 

その要因となりうる存在が、幻想郷にやってくるのはそれから十日ばかり経った日のことであった。

 

 深夜に程近いその時刻に……それは、竹林に墜落してきたのである。

 

――――――

 

……時は、それより少し前に遡る。

 舞台は――裏の月と呼ばれる、月面上。

「――そこ!動きが鈍い!もう少し無駄を無くしなさい!」

「「「「は、はぃっ!!」」」」

大凡を白で塗り潰された、それでいて摩天楼のようなそれなりの高さを誇る建築物。

 その中において、室内戦闘を行う兎耳の生えた幾人かの姿が存在した。

 いや、室内戦闘というには余りにも手に持っている武器が殺傷性が低いように見える。

なにせ、ロングソードのような作りになっている剣の癖に、全く以て刃が見当たらないからだった。

そのうえ、それぞれ二人組となって対面しているのだ。

 どちらかと言えば、剣術の訓練であるかのようにさえ、思えてくる程だった。

 

――かつ、かつ、かつ。

 

掛け声やら何やらで騒がしかった内部に、訓練らしき戦闘を見ていた者がその音を聞き付ける。

 不思議に思ったその人物が偶々近くにあったドアらしき入口を見やると、そこから誰かが出てくることに気付いた。

 よくよく見れば、毎日のように顔を見合せている家族の姿であることに考えが至り、

「……?おや、姉上。どうされたのですか?」

と、きょとんとしてそう尋ねる。

「どうされたも何も……もう、何時間も経っているのよ?訓練はもうやめてあげたら?」

問われた方が苦笑してそう告げた。

 金髪で何処となく全体的に青で彩られた服に、大きな紫のリボンが特徴的なフリル付きの帽子を被っているその少女。

 顔立ちはどちらかといえば彫りが深いエキゾチックなものであり、服装と合わせ、女神のようにさえ思われた。

 その少女に対面しているのは、これまた彫りの深い顔立ちの少女であり、髪の色がラベンダー色で、全体的に赤で占められた、それでいて目の前の少女と似通った作りの服をきている。

 また、髪は大きな黄色のリボンでポニーテールに纏められており、随分と活動的な格好をしていた。

 

――彼女達は、この月面の都市においてかなりの地位につく姉妹。

その名を……綿月姉妹と、呼ばれていた。

 

「依姫ちゃん、あんまり根を詰め過ぎると倒れちゃうわよ?幾ら、訓練が必要だと言っても、休みもちゃあんと取らなきゃ」

未だ苦笑したままの帽子の少女が、目の前のポニーテールの少女――依姫に向かってそう苦言を呈する。

 その言葉に、何時の間にか静かになっていたその場で戦っていた者達がうっかりと頷き掛けて、慌てて直立不動の態勢へと変わった。

……まあ、目敏く見つけられ、依姫に思いっきり睨みつけられればそうもなるだろう。

「なりませんよ、豊姫姉上。以前、此処に侵攻された際、余りにも動きが不味すぎて、結局私だけで追い払ったようなもの。幾ら、元々の性質が臆病である玉兎とはいえ、戦場では恐怖を抱いた者が先に死んでいくのですから」

この程度の戦いだけで、怯えていたら何にもなりません。

 ふん、とやや苛立たしげな様子で腰に手を当て、依姫はそう告げる。

 その言葉に今まで訓練をしていた者――玉兎と呼ばれた少女達が一斉に落ちこんだ表情へと変わった。

 中でもその一人が、青ざめた表情にさえなっているのがよくわかる。

「う~ん……早々、あんなことになんて起こらないと思うわよ?かなり昔のことだし、あの時の侵入者だってもう諦めているでしょ」

生真面目で頑なな妹に、豊姫が諦念が浮かんだ苦笑でそう突っ込むが、

「甘い、甘いですよ姉上。こういうものは常日頃の訓練が実を結びます。警報が鳴っていざ動けるようにするのが一番でしょう!」

めらめら、と眼の中に焔を燃やし、依姫は気炎を上げた。

 まるで熱血教官のような彼女の様相に、あー……と豊姫は何とも言い難そうな声を上げると、

(……御免ね、皆。流石にこれ以上何を言っても無駄みたい)

と、片手で謝り、申し訳なさそうな表情へと変わる。

 一気に愕然とした表情へと変わる玉兎達と、未だに気炎を上げ続ける依姫。

 対照的なその様子に、豊姫はやれやれと首を振るのであった。

 

閑話休題。

 

「……所で、結局姉上は此処に何をしに来られたのですか?此方には、只訓練しているばかりの部隊だけしかおりませんよ?」

「う~ん……それがねぇ。ちょーっと訊きたいことがあって来たのよ」

「??何でしょう?」

小首を傾げて見せる依姫に、豊姫は内心可愛い妹に悶えつつも、

「……何だかね。最近、政庁で色々と仕事をしていたら……一隻だけ、月から船が無くなっている形跡が残っていたのよ。かなり、分かり難いようにはされていたんだけどね」

「…………もしや、玉兎兵の脱走?」

思いついたことを、依姫が豊姫に近づいて小声で告げると、彼女も疑わしそうな表情で、

「少なくとも、その可能性がありそうなのよねぇ……でも、そうは言っても先生が出ていった時はかなり前だったし。他の部隊でも訊いてみたけれど、やっぱり心当たりも何もないって言うのよ。それでね……此処で最後になったんだけど、どうかしら?」

「……」

彼女に問われ、依姫が何時も持つようにしている部隊の出席簿を確認する。

隅々まで読み進めていると、とある一点に彼女の視線が止まった。

「――スメラギ。この……女子隊員はどうした?」

垂れ気味のウサミミとショートヘアーが特徴的な、可愛らしい少女の玉兎の写真と共に記されていた『急な体調不良により欠席』の文字に、依姫が眉根を顰め、その場に立っていた部隊の隊長に向かってそう尋ねる。

 問われた当人はビシッと再び直立不動になり、

「はっ、姿が見えなかったので直接彼女の寮部屋に赴いた所、急性の腹痛に見舞われたということであり、大事を取るよう言いつけました!」

「……その時の女子隊員の声はどのような感じだったのか、分かるか?」

「はっ……そのぅ、下の話になりまして申し訳ないのですが……余りにも我慢がならない様子でありましたことは確かであります!」

「…………妙だな……スメラギ、もう一度行って見て欲しい。耐えられない時はかなり長い時間を取られてしまうとはいえ、そろそろ通常の訓練時間を過ぎる頃だ。中座したのならともかく……最初から欠席しているのは、少し珍しい」

「はっ!只今参ります!」

ビシッと敬礼をし、スメラギと呼ばれた部隊長がたたた……と、駆け去っていった。

「……見つけたの?」

「分かりません……そんなことにならなければ良いのですが」

……だが、彼女達のその不安は当たってしまう。

 

「――よ、依姫様!女子隊員の姿が何処にも見当たりません!!」

 

――息急き切って現れた部隊長の姿と共に。

 

――――――

 

――そして、数日が経過した幻想郷。

 迷いの竹林において、辺りが爆散している場所があった。

 多くの破片などが散乱している中、少し離れた場所で倒れている一人の少女。

……その姿は、依姫が確認した、あのショートヘアーに垂れ気味のウサミミの玉兎であった。

「う……うぅ……こ、此処、は……?」

爆発によって煤け、幾らか火傷を負った状態で彼女は呻く。

 見れば、割と洒落にならない程に怪我が酷い状態であった。

 しかも、状況からして、怪我をしていない状態であったとしても、妖怪に喰われる可能性さえある。

 

「――ん?何だこれ。私達がやった奴とは違う奴だなこれ」

 

そんな時だった。

 普段、永遠亭へ案内している藤原妹紅が、辺りを通りかかったのは。

「って、あれは……おい!!お前大丈夫か!?」

直ぐに、彼女は怪我をしている月兎が倒れていることに気付いたようであり、慌てて駆け寄った。

 だが、その時にはもう月兎の様相はかなり衰弱しかけており、一刻も猶予がならない状態へと移行し始めている頃合いになりつつある。

 のっぴきならない事態になっていると直感すると、

「くそっ!死ぬんじゃあないよ!」

罵声を一つ漏らし、妹紅は抱え上げて走り出したのであった。

 

――――――

 

「……一体何処で拾ってきたんだ、妹紅」

「そんなことよりさっさとこいつを治してあげなよ!正直酷過ぎて見ていられないんだ!」

「はいはい、落ち着きなさい。少なくとも峠は越えたわ……後は、しっかり休眠を取ればいいだけの話よ」

ラルロスが呆れ、妹紅がいきり立つのを宥め、永琳がふぅ……と一息吐いてからそう告げる。

 妹紅が彼の兎を運びこんでから、既に幾らか時間が経過していた。

 時間さえあれば、プロセッショナルである永琳が治すのにそう大したことにはならない。

 故に、妹紅の心配も、言い方は悪くなるが無駄な心配ということになるのであった。

「……私達が何時も戦っていた場所からかなり離れた所で、変な風に爆発した後があってさ。色々と金属みたいなのがあちこちに散らばってたんだよ。……ソイツが倒れていたのはそこから少し離れた場所でね、あちこちに大火傷を負ってたんだ」

「……ふむ、なるほど……恐らく、星間飛行船で此方にやってきたのね。何らかの衝撃を受けて船が大破したのかもしれない。まぁ……大気圏においてはどうしたって摩擦熱で大体が燃え上がるものだけれど」

よっぽど、運が良かったのかしら。

 静かな眼差しで腕を組みながら、永琳がそんな考察を述べる。

「……永琳達を追ってきた可能性は?」

ラルロスが鋭い眼差しで問えば、

「それだったらもっと大勢の兵士達が送り込まれて来そうなものだけれど……詳しい話は、あの子から直接訊くことになりそうね」

ふぅ……と懸念が多分に含まれた溜息と共に、会議は終了するのであった。

 

 




さて、意外な所で射命丸の父親が誰であるかを知ったイオ。
一応、伏線は張っておきました――何故、射命丸の母親である暁が天狗の首領たる『天魔』を名乗っているのか、その理由がこれとなります。
と言っても、文章量が半端ないので、隠れてしまっていたかもしれないです。本気で申し訳ないっす。
……何方か、文章量削れる方っておられないですかねぇ……?
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