東方剣神録   作:上田幻

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第六十一章「向き合うは玉兎と巫女」

 

――暖かな日差しの下、兎と青年は歩く。

「いい天気ですね~のびのび出来そう」

「だな……レイセンの怪我も完全に治っているようだしよ、安心したぜ」

「もう、そんな心配しなくたって大丈夫ですよ!人間と体の構造が違うんですから!」

心配性な彼に、レイセンが苦笑して突っ込んだ。

 その言葉に、今まで隣を歩いていた青年――ラルロスがはたと思い付いたような表情になり、

「そういや、そうだったな……あんまりにも人間と同じような体つきしてっから忘れてた」

あっけらかんとして言ってのける彼に、レイセンは再び苦笑して、

「あのー流石に私の妖怪としての特性さえも忘れられたらちょっと困るんですが」

「いいだろ、別に。俺としちゃ、妖怪だろうが何だろうがお前さんはお前さんのままだからよ」

ちょっと照れ臭そうに顔を顰めながら、ラルロスが明後日の方向を見つつそんなことを告げる。

 その言葉に思わずどきりとした表情でラルロスを見やるレイセンだったが、彼はそんな彼女の様子に気づく素振りもなく、のどかな田園風景を見渡していた。

 彼の様子にホッとしたような、何処となく複雑なような面持ちになった彼女。

(……狙って言ってる、のかなぁ?)

いやいやまさか。

荒唐無稽な考えだと思い、首を振ったレイセンは先を行きかけている彼に慌てて後を追い、

「それにしても、どうして私の羽衣がそんな所にあるんでしょう?」

と、隣になるように調整しながら、ラルロスに向かってそう問いを放った。

「……さぁ、どうだろうな。恐らくだが……博麗の巫女にお前さんを会わせて置きたかったのかもしんねえ。イオの所を除けば、唯一の中立組織と言っても過言じゃねえしな。後々の為に、繋ぎを取っとくのも悪くないぜ?」

考えるような素振りを見せながら、彼がそう告げると、

「むぅ……あの、なんというのか、あの凄く怪しい妖怪の言うこと信じられるんですか?」

「……まぁ、半々、てとこだな。どうにも、今回の旅行も併せてあの賢者の策略が廻ってんだろうしよ。その上、イオの奴と謀略で仕合ってるんだぜ?何かしら利用しようとは思ってんじゃねえか?」

「利用出来るものがあるとは到底思えないですけどねぇ」

はて?と首を傾げる玉兎に、ラルロスは苦笑して、

「……そう思うんだったら、そうなんだろうよ。――と、そろそろ太陽が中天に差し掛かって来てるな……飯にするか?」

長らく歩き続け、眩しくなっている恒星を見上げ、ラルロスがそう尋ねるとレイセンはしっかりと頷いて、

「鈴仙姉さんの作ったおべんと、食べないと勿体ないですしね!」

「……いやまぁ、間違っちゃいねえんだろうが」

(何時から姉妹になったんだ……?)

ぐっと両手を胸の前で握りしめている彼女に、ラルロスは静かに苦笑するのであった。

 

――――――

 

――そして、イオの家に戻る。

 

「……さて、と。ルーミアはこれからどうするの?」

「チルノ達と遊んでるから、大丈夫!」

「そっか。じゃあ、ちょっと戸締まりしておかないとね。昼から、ちょっと妖怪退治に出かけることになったからさ」

かちゃかちゃ、と台所の流しで皿を洗いつつ、イオが暖簾の所で立っているルーミアにそう告げた。

そう言われた彼女は、久方ぶりに剣呑な気配を漂わせるその依頼の内容に、眼をぱちくりとさせ、

「……そっかー。気をつけてね?幾らイオが強いって言っても、命は一つなんだから」

「ふふ、そんなに心配しなくても、僕はやられる心算はないよ。大丈夫」

「ん、信じてるからね?」

ぎゅっとイオの背中に抱き付くようにして、告げられたルーミアの言葉に、イオは少し背中の感触に驚きながらも静かに微笑み、

「――必ず、帰るよ。どんなことがあっても、ね」

と告げるのだった。

 

――その後、かなり大胆なことをしたことに気付いたルーミアが赤面したのは御愛嬌というものだろう。

 

――――――

 

「……さて、と。依頼書の内容には此処によく現れると書いてあった、筈……」

何時もこの森の中で獲物を捕まえているという、依頼主である猟師の要請に応え、イオはやってきていた。

 場所としては、この幻想郷東端にある博麗神社の階段を降りた先にある、参道から外れている、それなりの広さを誇る森林。

 魔法の森があった近辺のそことは異なり、丁度よいバランスで植物(樹木も含む)が生育しており、その所為か明るさが異なっていた。

 当然、視界が明瞭であったし、その事実はイオにも、また妖怪ではない普通の獲物に対しても同様の効果を齎すであろう。

 とはいえ、今回の依頼は獣肉を捕ってくるわけではないので、さておくが。

「妖怪の形状は、恐らくは狼か犬の変化。鋭い牙と爪を有している、かぁ……」

犬、好きなんだけどねぇ。

そんなことをぽつり、と呟きながら、イオはポーチに畳んで仕舞いこんであった依頼書を広げつつ、辺りに警戒の視線をめぐらした。

 だが、それらしい気配も、姿さえも今の所は見当たらない。

 木葉が積り、土へと化した地面を全体的にぼんやりと見るように眺めつつ、イオはすぅ……と静かに眼を細めた。

「ふむ……まだ、動く時間帯じゃないだろうけど……妖怪がいるってことは、当然棲みかがあるだろうしね」

木の一本一本に眼を向けつつ、獣の形状をしているのならば痕跡が残っている筈だという推測で以て探していく。

 同時に、辺りでそれなりに育っている木に能力を使用し、過去に大きな傷を受けていないかどうか、確かめていった。

 そして、その瞳の先がとある木に注がれる。

 

(――見つけた)

 

明らかに縄張りを主張するかのように、無惨に傷付けられたその樹木。

 熊が残すような印とは異なり、根本付近に幾らか爪痕が、禍々しき妖力と共に生々しく残されていた。

 よくよくその先を見れば、点々としてその爪痕が残されているのが見える。

「……この先を辿れば、棲みかに辿り着く、かな?」

手探りに近いような感覚でありながらも、イオは歩き出した。

 ざくり、ざくり、と土を踏み締める音が、物静かな森林に響き渡る。

――と、そこでイオは気付いた。

(……静か過ぎる)

やはり、彼の妖怪の所為なのだろうか……棲みついているであろう鳥の声さえも聞こえてこない。

(これ、もしかすると……案外近くに居住を構えているかもしれない)

じゃきり、と刀の鍔を鳴らしながら、イオは油断することなく周りを見廻し――そして、森林の終わりと思しき光の下で、ぽっかりと洞窟が開けているのが薄らと見えた。

「――あの洞窟か」

自然、龍の証たる眼を鋭くさせ、イオは身を屈めるようにして慎重に歩んでいくのであった。

 

――――――

 

――昼下がり、ラルロス一行。

 安全の為、人里を通り抜けた彼等は、一応は整えられた、博麗神社まで続いている道を歩いていた。

 とはいえ、人が通れるように木を伐採し道具などで固められたものにすぎないわけだが。

「……空、蒼いですねぇ」

「ああ……そうだな」

ぼんやりと空を見上げているレイセンと、油断なく周りを見張りながらもそう返すラルロスに、彼女はくすっと笑みをこぼすと、

「あ、そうだ。ラルロスさんに聞きたいこと、あったんです!」

と、歩きながらぽんと両手を打ち鳴らし、楽しそうな笑顔でそう発言した。

 その言葉に、偶々道の傍の森林を見張っていたラルロスが振り返り、

「ん?何だ?」

と声をかける。

 すると、彼女はニコニコとしながら、

「あの、蒼い髪をした、ご友人についてなんですけど……あの人のこと訊きたいなって」

「あぁ?なんでまた……」

と、一瞬ラルロスが言い掛け、直ぐにニヤリと悪戯っぽい表情になると、

「もしかして惚れたのか?」

思わぬその言葉に彼女は大きく眼を見開き、

「なんでそうなるんですかぁ!?」

「何だよ……違ったのか。面白くねえ」

けっと今にも言いそうな彼の様子に、レイセンが頬を膨らませ、

「ひ、人の感情を面白いだのと……失礼過ぎますよ!」

「バカ。こういうのは傍から見てる方がいいんだろ。女子だって、大体恋愛関連についちゃ、眼を輝かせるのが殆どじゃねえか」

「うぐっ……ではなくてですね!私が訊きたいのはそうじゃないんですよぅ!」

ぽかぽか、と可愛らしくラルロスの肩を叩きながら、レイセンは抗議した。

「イオさんが、ラルロスさんと出会った時とか、そういう思い出話が聞きたいんですぅ!」

むぅ~っと拗ねた表情になっている彼女に、ラルロスはからからと笑い、

「分かってら。別にいちいち目くじら立てるようなもんでもねえだろ。んーそうだなぁ……」

空を見上げ、ラルロスは何から話してみようかと考える。

(……よし、あの話にしてやっか)

ピンと思い付いた表情を浮かべ、彼等の思い出を語り出すのであった。

 

――――――

 

――アイツと出会った時から話してやるか。

 そうだなぁ……俺が十三の時だったか。当時通ってた教育機関があってよ、途中編入生という形で、アイツ……イオ=カリストとその家族であるマリア=カリストが入ってきたのは。

 まぁ、そうはいっても、当時はまだ会いすらしてねえから、ふぅんとしか思わなかったんだがな。

――ん?いつ会ったかだって?

 あー何時だったか……確か、学年の前半期が始まって直ぐだったと思うが。

 何時も通りに登校してた俺の耳にな、編入生がいるっていう噂が聞こえてきたんだよ。そんときはまぁ、さっきも言った通りにそんなに興味は持ってなかったんだがな、新しく学年が始まったこともあってよ、周りにいる貴族達が五月蠅いのなんのって……しょうがねえから避けてた。

 姿が見える度に隠れなきゃいけねえし、めんどくさかったぜ、ほんと。

 

――アイツと出会ったのは、逃げ回っていたそんな時だったんだ。

 

 出会い頭に思いっきりぶつかっちまってよ、滅茶苦茶痛かったもんだからちょいと文句言おうと思って、顔を上げたら噂の当人だって気づいた。

 腹立つことにな、アイツ、ぶつかっただけで少しよろめいた位で全然動じてなかったんだよ。

『すみません……怪我、してませんか?』

それが第一声だったな。

 手を差し出してきたもんだからよ、ま、大人しく素直に立ちあがったさ。

 そしたら、アイツの後ろ側で女子達が幾つか固まってんのが見えてよ、思わず、

『……苦労してんのな』

とか言っちまったんだよ。

『あー……まぁ、その。触れないでくれると助かります』

気配に気づいてたんだろうが、そう言ってどんよりした空気纏い始めたのには笑っちまったな。

 そっから二人してこっそり逃げたりしてよ、何時の間にかこうして腐れ縁になる位の付き合いになった。

 そういうわけだからよ、アイツの為にも俺自身の為にもアイツにゃ幸せになってもらわんと困るわけだ。

 

――まぁ、こんなもんか。どうだ?楽しめたか?

 

そう言って、ラルロスはにやり、と悪戯っぽく笑うのだった。

 

――――――

 

「……そんなことが、あったんですねぇ」

想像しているのだろう、何処か遠くを見るようにして呟くレイセンに、ラルロスはくつくつと笑い、

「色々と長いこと付き合ってきたがよ、アイツ程のんびりした奴も、争い事が嫌いな奴はそういねえだろうな。その癖、本気出したら誰も追い付かない位の速さを見せつけてくるんだぜ?瞬く間にアイツが学院内で二つ名を持つようになったのも分かるってもんだ」

と、楽しそうに笑う。

「俺達が十八になった時だった。四年毎に開かれる武闘大会があってよ、俺とアイツは個人戦でぶつかった。それも、決勝戦っていう、最高の晴れ舞台でな」

 

――其処からだったか……アイツが『疾風剣神』なんぞと呼ばれるようになったのは。

 

ラルロスは懐かしそうな表情でそう呟いた。

「お互い、持てる力を全力で出し切ったもんだからよ、気力魔力体力さえも尽き果てて、同時に倒れちまった。起きた時、二人してなんか可笑しくて笑い転げてたぜ。後から思いきりどやされたけどな」

『二人して無茶をして!死んだら元も子も無いのよ!!?』

イオの家族であるマリアが、殆ど涙目でそう叫んでいたことを思い出しながら、ラルロスは青空を見上げて黙りこむ。

「ま、そういう訳だ……イオの奴とは、全力をぶつけあって認めあえた親友でもあり、同時に戦友でもある訳だ。これで満足か?」

そう言ってラルロスはにっと殊更に笑みを浮かべてレイセンを見た。

「……ええ、凄く楽しめました。丁度、博麗神社と思しき建物も見えてきたみたいですし」

「ん?……お、そうみてえだな。しっかし、相変わらずぼろっちいなぁ、おい。もうちょい、どうにかなんねえのかよ、あれは」

あれじゃあ、近い内に倒壊すんぞ。

 見た目からしてぼろっとしている彼の神社に、ラルロスは呆れたように首を振って見せる。

 その言葉に、レイセンは苦笑するばかりであった。

 

――――――

 

――直ぐ近くで親友がのんびりと歩いていることなど知りもせず。

 イオは、先程見つけた洞窟の前に、油断することなく眼を配りながら立っていた。

 すん、と小さく鼻で息を吸い、獣の匂いを感じ取ろうとして蠢かす。

(……アタリ、か)

そして、饐えたような匂いを感じ取れた所で、

 

「――っ!」

 

暗闇から襲い掛かってきたその気配に反応し、飛び下がって斬撃を放った。

 だが、その気配は即座に反応し返し、僅かに首を傾けるだけで避けきってしまう。

「……随分とまぁ、理性的な」

若干、イオが面倒そうな表情で溜息をついた。

 そんな彼の前に聳えるのは、通常の狼のサイズとは天と地程に異なる、巨大な灰色の狼妖怪。

 妖怪化した所為で紅く染まった瞳を剣呑に尖らせながら、此方へと低い唸り声を発していた。

「……ぐるぅるる」

現在進行形で唸り続ける彼の妖怪に、イオもまた戦闘体勢に緩やかに移行し、朱煉を静かに構える。

「ふむ……どうやら、それなりに永い年月を過ごしたみたいだね。だったら、少しは話を聞いて貰えるかな?」

だが、研ぎ澄まされた剣気とも言える気配を放ちつつも、イオが何処か穏やかな表情でそう尋ねた。

 すると、驚くべき反応が返ってくる。

『……ドウイウ心算ダ、退治屋』

「理性のない獣だったら兎も角、それなりに知性を持っている相手には敬意を払うだけって話だよ。どうやら、通じそうだと思ったからね」

『フン……何ガ望ミダ。サッサト我ヲ滅セバ、ソレデ済ムダロウ』

未だにぐるる……と唸り声を発しつつも、念話を用いてくる狼の妖怪に、イオはフッと微笑んで、

「幻想郷のバランスを崩さないようにしているだけだよ。今回、依頼でこっちに来たのはいいけれど、依頼人に話を詳しく聞かせて貰おうとしたら、そんなに怪我をしている様子には見えなかったんだよね。だから、単に追い払われたんだろうと思ってさ」

『……ハッ。馬鹿馬鹿シイ。何故、人間ノ事ヲ気遣ッテヤラントナラン』

「気遣うだろうさ――此処が幻想郷であることを鑑みれば、ね」

取り敢えず、猟師さんにはもっと安全な場所教えて上げないといけないし。

 そう言いながら、イオはちゃきり、と朱煉を鞘へと戻した。

 余りにも警戒が薄いと言えるそんな人間の様子に、狼は幾らか戸惑いを感じていたのだろう……唸り声が消え、辺りは若干妖力が漂う以外に静寂が訪れる。

『……我ヲ、ドウスル心算ダ』

「別に?住居も含めた君の縄張りの範囲を教えてくれないかなと思ったまでさ。大人しくしていてくれるのなら、僕は特に何も言わないよ。それなりに永い経験を積んでいる上に、妖力もかなりのものを持ってるとなると、かなり面倒だし」

よっこらせ、と言いつつ、イオが洞窟の入口付近の壁に寄り掛かり、腰周りに取り付けたポーチから水筒をとり出して飲み始めた。

 その様子に、完全に敵意が削がれた狼妖怪がストン、とお座りの体勢へと移行すると、

『……変ワッテイルナ、オマエ』

「あっはっは、幻想郷で変わってない人なんていないさ。少なくとも、僕だってこんな体だしね。にしても……そこまで大きいのにさ、人化は出来ないんだね」

『必要トモ思ッテナイカラナ。――フン、案内シテヤロウ……我ノ縄張リノ範囲ヲ。後ハシッカリト教エテ置ケ。サモナクバ――ソイツガ死ヌダケダ』

むくり、と体を起こし、その狼妖怪は念話でそう告げながらも足を動かしていく。

「……ま、これで猟師さんも少しは安心出来るかな」

本当であれば、退治するのが好ましい所なのだが……余り妖怪を狩り過ぎてもパワーバランスを崩しかねない為、事前に長老達にも、また、猟師達にも警告の意味合いもこめて退治すべき妖怪の数を操作していることを告げていた。

 そうすることにより、イオは完全なる中立として見られることになるからである。

 この世界が存在している理由が、人と妖怪との共生を図るものであるのだから、当然の話ではあった。

 とはいえ、同じように当然な話として、ルールを破るもの(妖怪・人間問わず)に対しては、制裁を加えることも忘れてはいけないことだ。

 兎角、理性のない低級の妖怪は殺戮することで、弱き妖怪を甚振ろうと考える人間がいれば、相応の罰は受けて貰った。

 こうした仕事のしかたから、妖怪の賢者は元より、人里の長老衆も、はたまたどの勢力の首脳部であったとしても、どんな思惑があろうが一応はイオ=カリストが有する勢力を認めているという、そういう仕組みなのである。

――八雲紫が呟いた、『賢しげな』という表現は、強ち間違ってもいなかった、そういうことなのであろう。

 そんなある意味離れ業にも近い所業を成し遂げた彼は、彼の狼妖怪の後を追い、警戒すべき縄張りの範囲を頭に叩きこむ為に、歩いていくのであった。

 

――――――

 

「――着いた、か」

「……割と洒落にならないくらい、物凄い階段でしたね」

若干肩で息をしながら、レイセンが絶え絶えにそう告げる。

 対するラルロスも、その言葉に深く頷き、

「だな……俺も、王城のパーティーで延々と歩かされてなかったら、割と詰んでた」

と、此方はレイセンとは異なって汗こそかいているものの、息は通常通りであった。

「……息、切らしてないですよね?」

そんな彼に、レイセンが未だ収まらぬ呼吸を整えながらもジト眼で睨みつけるが、彼はあん?と言うと、

「そりゃあな。あのイオとずっと親友やってきてんだぜ?多少なりとも体鍛えてねえと追いつかないのは当たり前だろ」

「あー……そうでしたね……」

若干遠い眼になりながらも、ようやく息が整った彼女がよいしょっと声を上げて姿勢を正す。

 その時だった。

 

「――そこにいるの、ラルロスとか言ったっけ?ウチに何の用?」

 

紅白で服を彩った、艶々とした黒髪を靡かせ、博麗の巫女が登場する。

 用心の為か、とんとん、と肩を大幣で叩きながら現れた彼女に、ラルロスはにやっと笑うと、

「よう、元気にしてるか、巫女さん。ちょいと訊きたいことがあってな……取り敢えず、中に入れて貰っても構わねえか?」

と尋ねるのであった。

 

 

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