東方剣神録   作:上田幻

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第六章「明かされるは彼の能力」

 

 人里を出た二人は、ふわふわと漂うようにしながら博麗神社へと向かっていた。

これも、まだ飛び始めたばかりであるイオを配慮して、ルーミアが飛んでくれたからである。正直、今まで踏みしめていた地面とは違ったこの感覚は、容易にイオの常識を破壊してくれたが。

 

 時折、妖精と思しき小さな羽根を生やした子供の姿が現れ、

『きゃはは!これでも喰らえー!!』

などと叫びつつ、恐らく慧音が飛ぶ前に言っていた妖力だろう、不可思議な力で構成された弾幕をこちらにぶつけてこようとしたものの、あっさりイオやルーミアに撃墜されていった。

 とはいえ、イオの方はまだ飛び始めという事もあり、初めて行う空の戦いでは役立たずなために、ルーミアに助けてもらってばかりであったが。

 

「……ねえ、訊きたいことがあるんだけどさ」

飛び続けてからしばらくして。

 ふとイオがルーミアがいる前に向かって声をかけた。

「んー?どうしたのー?」

両手を広げながら、のんびりと飛んでいる彼女が問い返すと、

「さっきの妖精たち?だっけ。ルーミアもなんて言うか弾幕をすごく出してたけど、いったい何なの?」

あごに手をやり、考えるようなそぶりで飛び続ける彼に、ルーミアはのんびりと笑うと、

「わはー、あれはね、スペルカードルールって言うんだー。みんなの間じゃ、弾幕ごっこなんて呼ばれてるけどねー」

彼女の言う所によれば、人妖の間で揉め事や紛争を解決する為の手段であるとされ、人間と妖怪が戦う時、そして強大な妖怪同士で争う際に、必要以上の力を出さないようにする為の決闘のルールであるそうだ。

 興味を抱いたイオが、

「へー……ちなみに、どういうのなの?」

と尋ねると、

「んー……私のはこういうのかなあ。――えいっ!」

可愛らしい掛け声とともに、何処か黒く見える粒子が集まり始め、一つのカードが形成された。見れば、目測にして縦は8cm、横6cm程の大きさであり、何処となく金属質の輝きを持っていることから、何らかの力が込められているとわかる。表側には、よく分からない紋様や、夜符『ナイトバード』と記された文字があった。

「ふ~ん……なんか、やたらと黒いねそれ」

何処か面白がるような表情で、イオがそう呟くと、

「それが私の能力だからねー。『闇を操る程度の能力』って言うんだー」

「……は?能力?なにそれ」

唐突に、よく分からない力の事を言われ、キョトンとして訊いてみると、

「んー……言ってみれば、幻想郷の妖怪や人間に備わっている力と言えばいいのかなー」

幻想郷の外にいる人間は使えないってけーねは言ってたけどねー。

 のほほんとした様子で、ふわふわと何所かとらえどころのない飛び方をする彼女はそう告げる。

「もしかりに、そう言う力を持っている人間が外の世界にいたら、保護する意味も含めて、幻想郷に招き入れてるんだってー」

「保護?なんでだい?」

「さぁ……わかんない。紫とか、霊夢――この先の神社の巫女なんだけど――に訊いてみれば―?多分、私が説明するより分かりやすいと思うよー?」

それより、早く行こうよー。

 そんな風にいいながら、とうとうのんびり行く事に堪え切れなくなったのか、飛び始めたばかりのイオを放り、いきなり速度を上げて飛んで行った。

 慌ててその後をイオが、

「わわっ、ちょっと待って……!」

とよたよたと頼りなげに追いかけていく。

 

 その様子はさながら、元気いっぱいの妹をのんびりな兄が追っているようであったという。

 

――――――――

 

 あの後、飛び続けてから三十分は経ったであろうか。

 時折、イオの為に地上に降りて休憩を取りながら、二人が空の旅を楽しんでいるうちに、ようやくにしてけもの道のような小さな細い道を眼下に見つけていた。

 それを見つけたルーミアも同じ事を思ったか、

「あー、そろそろだねー。もうすぐ、博麗神社が見えてくるころだよー?」

ふわふわと先程までのスピードをゆるめ、やっと目的地に着けるとルーミアが笑う。

 そんな彼女と対照的に、

「――飛ぶって、こんなに疲れるんだね」

と、イオはかなり疲れた表情でそう呟いた。

 というのも、実のところ彼は魔力を用いることなく飛んでいたからだ。

(……うーん、魔力、じゃない……別の力?何か、僕の中に新しく力の源みたいなのが溢れているような……何だろこれ?どうも、僕自身の力みたいだけど……)

同時に、今まで使ってきた魔力とは完全に別物の力を体内から感じ取り、イオはやや不安そうな面持ちになった。。

 だが、そんな彼に構わずルーミアが、

「もっと、うまく飛ばないとねー。慣れてないと、自分の力を無駄に使っちゃうし」

にひひ、と悪戯っ子のように笑うと、イオは深いため息をついて、

「飛び始めたばかりの人間に何を期待してるのさ……ま、いいや。早く行こっか」

「ん、そうだねー」

二人して頷きあい、獣道に沿って空を飛んで行く。

 すると、ようやくにして眼下に建物が見えてくるようになった。

 不思議な形をした、紅い色の門のような建造物。

 少しばかり古く見える、桧の様な木材を用いた、鈍色を放つ屋根のある建物。

 奇しくもそれは、この幻想郷という世界に来る前に見た、あの遺跡と酷似しているようにさえ見えた。

(……ふむ?いったいどういう事なんだろう)

不思議に思うイオであったが、こんな所で考えるようなことでもない為、此処にいるであろう巫女?に訊けば分かる事であろう。

 そう思って、イオはルーミアと共に紅い門の下に降り立った。

「れーむー?どこー?」

すぐさまルーミアが、きょろきょろとしながら目的の人物を探していると、

「――何よー……って、ルーミアじゃない。そっちにいる奴……誰よいったい」

すると、境内の奥の方から、不思議な格好をした十代半ばに見える少女がやってきて、じろりとイオの事をねめつける。

 紅白を基調として、脇と肩を露出させて腕の部分を固定した上着。緩やかに広がるスカートも、これまた紅白を基調としていた。

 何処となく、猫を思わせるようでそれでいて整った顔立ちの少女は、ファサリ、と紅白のカチェ―シャがついた漆のようにつややかな髪を揺らす。

 若干、予想していた人物像と異なった事に戸惑いつつも、

「えー……と、初めまして。イオ=カリストと言います。今回、なんか幻想郷に迷い込んでしまったみたいで、慧音さんからここを紹介されました」

と、此処に来た時の旅装姿で恭しく一礼をした。

 すると、面倒くさそうな表情になって、

「……博麗霊夢よ。何か知んないけど、他の妖怪とかからは『楽園の巫女』なんて呼ばれてる。――で、此処に来たのは帰りたいからかしら?」

「ええ、そうなんです。外来人だ何だと説明を受けまして、帰るんだったら此処が良いと言われたものですから。お願いできま「駄目ね」……は?」

にこやかに告げていた言葉を遮られ、呆気にとられた表情でイオは眼を見開いたが、

「だから、だめだって言ってんの」

話は終わりよ。

 そう言って、彼女――霊夢は居た所へ戻っていこうとする。

 その姿に、イオと同じように呆気に取られていたルーミアが慌てて、

「れ、れーむ?どういう事?何でイオの事を帰してあげないの?」

「……ちょっと考えればすぐ分かる事よ。――そいつ、『能力持ち』よ。それも、世界の根幹にかかわるような、ね」

歩きながらそう返してきた霊夢に、イオは愕然とした表情になった。

「……ま、待って。それ……本気で言ってる?一応、こっちは今まで普通に生きてきたんだけど」

半ば憔悴したような声で、イオは顔を覆いながら尋ねる。

 心配になったルーミアが顔を覗き込むと、よほどショックだったのか、彼の顔が青ざめているのが分かった。

 そんなイオに構うことなく霊夢はさっさと歩きながら、

「そうよ。――ああ、あんたの能力言っておくわ。……多分、『木を操る程度の能力』ね。何か、あんたを見るたびに『大きな木』が何となく見えるから。それと……もう一つ、見え隠れしてるのがあるみたいだけど……ま、それは自分で考えなさい」

とにかく、帰らせるつもりはないから。

 そこまで言ったところで、霊夢はふと振り返り、

「言っておくけど……あんたがどう思おうが、その力を持っている以上、この世界から出す訳にはいかない」

泰然自若として彼女は言い切り、今度こそ奥の方へ引っ込んでいこうとする。

 直後、

 

「――――八雲紫という名に、聞き覚えは?」

 

突如として、いまだに顔を覆ったままのイオが、かなり低い声で問いを発した。

 その名前に聞き覚えのあったのか、イオの様子が変化した事に反応してか、ぴたり、と霊夢が動きを止めると、

「――紫?……あー、なるほどね。あんた、あのスキマに連れて来られたの?だとしたら、御愁傷さまとしか言いようがないわね。あいつ、いっつも外来人を引っ張り込んでくるから、こっちも迷惑してるのよ。あんたの様子からして、碌に説明もないまま連れてきたんでしょうし」

「……何処にいるか、知っています?」

振り返って告げた彼女に、イオはなおも低い声のまま問い続ける。

 その表情は手に遮られて見えにくいが、その事が逆に彼の怒りを表しているようでもあった。

「……さすがに、今のあんたに教えるつもりはないわ。――知る知らざるに関わり無く、あいつの存在はこの幻想郷に必要だしね」

そっけなく、しかし自然体の表情のまま、霊夢はイオを見つめながらそう告げる。

 だが、そんな霊夢にイオは頓着せず、

「――そうですか……じゃあ、別に構いません」

 

――――――自分で、探しますので。

 

 一瞬、殺気めいた気配がその場を覆い尽くした。

 ただならぬ彼の様子に、すぐ近くにいたルーミアは思わず身構え掛け、だが霊夢は先程の表情のまま、静かに彼を見つめるのみ。

 少し間を置いてから、霊夢がイオに向って、

「……慧音だったっけ?あの人里の守護者。あいつに訊いて人里で仕事を探してもらいなさい。少なくとも、あいつは歓迎してくれるでしょ」

「……お気遣い、感謝します。――――では」

ットン。

 軽やかに地面を踏む音と共に、イオが空高く舞い上がった。

 一瞬のうちに見えなくなった彼の姿に、やっと我に返ったルーミアが、

「わ、わわっ、待ってよイオー!?」

と、慌ててその後を追いかけていく。

 あとに残された霊夢は、その姿を見送ってから溜息をつくと、

「……あーあ、知ーっらない。紫、あんた眠れる『龍』を突いちゃったみたいねー……ま、自業自得だし、いっか」

などと呟きながら、神社の中へ入って行くのであった。

 

 

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