東方剣神録   作:上田幻

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第六十二章「語り合うは賢者と巫女と玉兎と?」

 

『……コンナ物ダロウ。退治屋、此レデ満足カ?』

「うん、十分過ぎるくらいだよ。ありがとね、狼さん」

 

ポーチから取り出してあった紙の束にすらすらと書き連ねるイオが、そう言っておっとりと笑った。

 そんな彼の様子に若干苛立たしそうにしつつも、狼妖怪は別段何かを言うでもなくのそり、と恐らくは棲みかへと戻ろうと歩き出す。

 暫くその様子を見送っていたイオが、すっと空を見上げ……そのままトンッと飛び上がった。

 瞬く間に消え去った彼の退治屋としてはどうかと思える若者の姿に、名もなくだが強大なる狼妖怪はちらりと流し目で見送るのみ。

『……』

少しばかり歩みを留めていたことを思い出したその存在は、再び前をみやるとそのまま去っていくのであった。

 

――――――

 

「……ふぅん?」

少しばかり興味が出た。

 そう言わんばかりの表情になった霊夢が、くるり、と後ろを振り返ると、

「なんか色々と事情あるみたいだし、こっちに来なさい。ちょっとくらいは持て成してやるわ」

「やれやれ……レイセン?行こうぜ」

「は、はい……」

会話を交わした数こそ少ないが、それなりに性格も把握していたラルロスは苦笑し。

 そんな彼に言われたレイセンは若干ながらも怯えを見せていた。

 恐らくは、彼女の泰然自若とした、人間にしては老成しているとも言える雰囲気の所為であろう。

(……イオが勝てない、と思う訳だ)

嘗て戦った経験があるという親友の言葉に正直疑念が無かった訳ではなかったが、この様子を見るに、真実であると直感、そして実際に勝てる想像がつかなかった。

(恐らく、俺が本気で古代級魔法を連発したとしても、この巫女は易々と避けて見せるだろう)

彼女の能力の本質は、正しく『捉われない』ことにこそあるのだから。

 全く、当たらなければどうということはないとは誰が言った言葉だったか。

 内心苦笑をしつつも、ラルロスは至って何てことのないように辺りを見回した。

 そして、あることに気付く。

「……なぁ。イオに色々と助けて貰ってるんだろ?どうしてこんな……」

正直、その先を言うのが憚られ、ラルロスが口ごもった。

 だが、霊夢はその言葉に怒るでもなく肩を竦め、

「ウチの神社がぼろっちいって言いたいんでしょ。ま、婉曲に包んでくれてるから教えて上げる。――単純に、私がこれ以上手を借りたくないってだけ」

すたすた、と母屋の方に歩いていく彼女のその言葉に、ラルロスは呆れたようにその背中を見て首を振ると、

「……別にいいだろうが。アイツ、かなり過保護なんだぜ?少し位は気にしてやれよ」

「だからよ。この神社で唯一と言っていい参拝客ではあるけど、アイツも別の組織のトップなのよ?」

「あのなぁ……同じ中立の立場だろうが」

「関係ないわ。私の中立とアイツの中立、似てるようで違うし」

ふん、と鼻を鳴らしてみせる霊夢。

「飽くまでも受け取れるのはお賽銭と奉納物だけね。それだったら神様に護ってもらいたいが故の行動として受け取れるけど……立て直しまでされてしまうと、大きな借りになる」

何でも屋としてアイツが来ている以上、私は必要以上に受け取る心算はないわ。

 毅然とした、彼女の物言いにラルロスははぁ……と深く溜息を吐くと、

「言ってもきりねぇな……ま、ホントに助けて貰いたかったらアイツに言ってやるんだぞ。でねえと、アイツは自分自身を責めるからな」

「言われなくても分かってるわ。ほら、さっさと来なさい」

変わらぬ様子でそう言い放ち、霊夢が母屋へと入っていった。

 そんな彼女の様に、ラルロスはやれやれと首を振るとレイセンと共に後を追いかけるのであった。

 

――――――

 

「――羽衣?」

「ええ……私がこの世界に墜落してきた時、船が空中分解してしまったんですけれど……その時に、船から落してしまったみたいで」

軽く自己紹介をした後に、レイセンが告げたその内容。

 霊夢はむぅ……と首を傾げながら眉根を顰め、聞いた内容に頭を悩ませ始めた。

「……あ、もしかするとあれかもしれないわ。ちょっと待ってなさい」

そして、表情を閃いたとばかりに明るくさせると、とことこと居間を出ていく。

 その後を見送りながら、ラルロスはふぅ……とお茶を飲んでまったりとしていた。

「なかなかに旨いな、このお茶。いい葉っぱ使ってるみたいだしよ」

「……あの、こんなにまったり出来ていいんでしょうか?」

そんなラルロスとは対照的に、レイセンは何だか落ち着かないご様子。

「何そんなに身構えてんだ?」

「いや、その……なんというか、凄く落ち着かなくて」

「安心しとけ。見た所罠もなにもねえし、普通に返して貰えるだろうよ」

ずずず……と湯呑を傾けながら、ラルロスは平然としてそう言ってのけた。

 見れば、傍らに魔杖を置いている辺り、それなりに警戒はしていると言った所か。

 レイセンは冷静な彼の様子に安心をしたようだった。

 ほっ、と胸に手を当て安堵していることからしても、相当落ち着かなかったらしいことが伺える。

 と、そこへ霊夢が雑多に束ねられた状態の薄い布を片手に戻ってきた。

「ほら、アンタ達の探してるのってこれじゃない?」

「あ……こ、これです!有難う御座います!」

土下座せんばかりに深く頭を下げるレイセン。

 そんな彼女に手を振り振りとしながら、

「いいわよ、別に。そりゃあ、拾った時はいい布だから嬉しかったけど。流石に人のだと分かったら返すわ。じゃないと、イオが怒るのよ」

結構長い間正座させられるから、きっついのよねぇ……。

遠い眼になりながらそう告げる霊夢に、ラルロスは苦笑しつつも、

「ま、人間として当たり前の行動だし、アイツはそういう部分はきっちりしてるぜ?」

「身に染みてるわよ、そんなの。魔理沙だって、アイツにお仕置きされたから紅魔館に吶喊しなくなったしね」

あの紫もやしは助かったでしょうよ。

ずず……と湯呑を傾けながら、霊夢がそう述懐した。

「アイツ、そんなことまでしてんのか……さぞかし、きつかっただろうな」

「能力が能力だし、木の蔦で攻撃されたみたいでね、かなり蒼くなってたわ」

「ははっ、アイツはえげつねえからなぁ」

くっくっく、と喉の奥で笑いつつ、ラルロスは再び湯呑を傾ける。

 そして、口を再び開いた。

「所で聞いた話なんだがな、今度アイツと何人かで月に行くみたいだな?」

「ええ、あのスキマに言われてね。正直、今回のはあんまり気が乗らなかったんだけど……イオが、ね」

くすり、と此処で初めて苦笑とも取れる笑みを浮かべると、

「『何が何でも戦いを回避する』って言ってきたのよ。普段のんびりしてる癖に、その時だけは凄く黒い笑顔だったわ」

「あー……」

ラルロスが遠い眼になって明後日の方角を見る。

「……学院でもそうだったなあ……アイツ、本当に本気になると、かなりヤバいんだよ。殊に、アイツの身内に手を出されるとな。あの手この手で、情け容赦なく心を折りにかかってくるから酷えんだよ。アイツ自身にトラウマ持っちまった奴さえいるしよ」

「あー……なんというか、想像出来るのが凄いわね」

にこにことおっとりとした笑顔を浮かべながら、とことんまで追い詰めていく……そんな若き龍人の姿を幻視し、霊夢もラルロスと同じように遠い眼になった。

 そんな二人の様子にレイセンが慌て、

「そ、そんなに酷いんですか?」

「……そっか。お前さんは付き合いが短いからな……」

考えてみれば、この玉兎とイオは余り話を交わしていない。

 レイセン自身が若干苦手意識を持っていることもそうだが、イオが余り関わろうともしていないのだ。

「ま、お前さんがいた所で格段に悪戯好きで腹黒い奴がいるとしてだ。そいつが本気で誰かを排除しにかかったと考えれば想像がつくんじゃねえか?」

ラルロスがにやにやとしつつレイセンに向かってそう告げると、彼女は言葉通りに想像し……そして、顔を蒼くさせぶるぶると震え始めた。

(と、豊姫様はヤバい……!!)

レイセンがそう考えていたその時。

 

「――何だ、霊夢此処にいたんだね。ラルロスまでいるみたいだし、どうしたのさ?」

 

そんな声と共に、イオがその場に現れたのだった。

 

――――――

 

「お、イオじゃねえか。丁度お前の話してたとこだ」

居間から見える縁側の方からやってきたイオに、ラルロスがそう告げると、

「……なんか、穏やかじゃないなぁ」

と苦笑しながら、よいしょ、と鞄を縁側に下ろし、中から纏められた金銭と、塩を振り保存が利く状態になった干し肉やら何やらを取り出し始めた。

「ほら、これが今日受けた妖怪退治の依頼の報償金。こっちは何時も通りの奴だよ」

「……ま、感謝するわ」

にこにことしたイオとは対照的にむっすりとした表情の霊夢。

 だが、イオはそんな彼女に頓着することなく、

「うん、顔色もいいみたいだし、ちゃんと食べてるみたいだね。安心した」

下から覗きこむようにして、霊夢の健康状態を確認していた。

(……相も変わらず、過保護なこって)

身内と定めた相手に対して、本当にまめまめしい彼にラルロスは苦笑する。

 だが、霊夢の方は笑える気分ではなかったようで……

「そんなに気にしなくたって、大丈夫よ。前からそうだけど、アンタは過保護過ぎる」

「あのねえ……こんな状態の家屋に住み続けてるのが可笑しいんだからね?本当だったら、全部立て直して上げたい位なのに」

直ぐ傍のぼろっとしている柱を指しながら告げるイオ。

 その表情に呆れが多分に含まれているのを察しながらも、霊夢は依然むっすりとしたままで、

「別にいいわよ。そんなことをしてる時間なんてあったら、私はのんびりと縁側で飲んでるわ」

「……もう」

むぅ、とイオが唸り、暫く考える素振りを見せていたが……これ以上は霊夢の気が変わらないと察し諦めることにしたらしい。

 座っていた縁側から立ちあがると、

「それじゃ、そこの兎さんもラルロスもまたね。霊夢、ちゃんと食べるんだよ?」

と言いながら、タンと音高く飛び去っていった。

「……ねぇ、ラルロス。アイツ、あの過保護っぷりをどうにかしてくれない?」

霊夢が若干不機嫌そうな表情でそう訊ねる。

 腰に手を当て、憤然としているその様にラルロスは苦笑して、

「諦めな。あそこまで過保護なのは、お前さんにも原因があるぞ?」

「くっ……役立たず」

自覚している部分もあるのか、苦々しい表情で言い捨てる霊夢に、ラルロスは再び苦笑した。

「まぁ、そう言うな。アイツがああまで心配してるのはかなり珍しい方だぞ。存分に甘えておきな」

「嫌よ、そんなの」

ふん、とそっぽを向き、霊夢が無言で居間に戻ると、どっかと胡坐で座り机の中央に置いた煎餅をやけ食いし始める。

 そんな彼女の様子に、最初に見た時と雰囲気が異なった為か、レイセンが唖然としていた。

 と、そこへラルロスが立ちあがりながら、

「取り敢えず、目的は果たしたからな……これで失礼させて貰うぜ」

と言うと、レイセンに向かって目くばせする。

 その様子に慌ててレイセンも立ち上がりつつ、

「あの、その……有難う御座いました!」

「いいわよ、礼なんて。何か忙しそうだしさっさと行った方がいいと思うわよ?」

「あ、そうでした!」

ハッと表情を変え、急ぎ縁側に下りたレイセンは、先程渡された羽衣を手に持つと、そのまま体へと巻きつけ始めた。

「……何やってるんだ?」

「へ?……見ての通りですよ?」

きょとん、としたように首を傾げる彼女に、ラルロスが難しい表情になる。

「…………もしかして、飛べるのかそれで」

かなり長い間を空けて紡がれたその問いに、レイセンは頷いて、

「ええ!これ、もしもの時の為のフライトスーツなんですよ!良かった~これが無いと、地球と月の間を飛び抜けられないですからね!」

にこにことした様子で胸を張ってみせる彼女に、ラルロスは若干遠い眼になりながらも、

「……そうか。そりゃ良かったな」

としか言い様がなかったのだった。

 

――――――

 

――ラルロス達が紆余曲折の後に立ち去ってから数十分。

 霊夢は、先程と変わらぬ様で居間に座り、煎餅をもぐもぐと食べている所だった。

「……全く。アイツったら……人がいる所であんな風に過保護にならなくたっていいじゃないのよ」

とはいえ、若干不機嫌な様子であるのも変わらないようであったが。

 

「あらあら、そんなに照れなくてもいいんじゃない?」

 

突如、響いた女性の声。

 その声に聞き覚えがあった霊夢が、今度は完全に不機嫌になった表情で、

「盗み聞きとはいい度胸じゃない。とっとと出てこい、滅してやるわ」

「もう、そこまで怒らなくともいいでしょう?幾ら図星を突かれたからって」

呆れた表情で何時の間にか出現している八雲紫に、霊夢が躊躇なく大幣を振るった。

 直ぐにスキマで脱出し、ひらりと避けてみせる。

「……(怒)」

「やぁね。そんな状態で振るわれたら怖いからそうしただけよ?全く、もう少しお淑やかになってほしいわ」

「アンタ、ねぇ……!!」

ぎりぎり、と歯を剥く霊夢に、紫はひらひらと手を振って見せる。

「はいはい、そこまでにしてね?今日はちょっと連絡があって来たのよ」

「…………なに」

変わらず怒った表情のまま、霊夢が訊き返すと、

「ええ、今度の秋ぐらいになるかしら……神様が二柱、人間が一人入ってくる予定なのよ」

「……もしかして、存在を確立出来なくなったから?」

すっと怒りの表情を消し、真剣な眼差しでそう尋ねる霊夢に、紫は静かに頷くと扇子で口元を覆い、

「元々、歴史もある神様ではあったんだけれどねぇ……やっぱり、外の世界が幻想を否定するものに変わってきてるから、どうしようもなく、ね。色々と事情もあって、今回は秋にやってくるそうだから、忘れないように」

「……一応、どんな世界かは説明してあるのよね?」

「勿論よ。しっかり説明しておいたわ」

「……だと、いいけど」

霊夢がそこはかとなく不安そうな表情になって、そう呟いた。

 

――何故だか、途徹もなく嫌な予感が、霊夢を苛むのであった。

 




おおう……なんというか、かなり低クォリティです、本当に申し訳ありません。
――卒論が、卒論がぁ……orz
暫くの間、この状態かもしれんのでご了承くだしあ
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