遅れてしまい、本当に申し訳ない。
卒論の提出が迫りつつあるために、少々ばかり立て込んでおりまして……
来年ごろになればまた戻ると思いますので、どうかご勘弁を。
さてさて、どんどんイオの周囲の状況が変化しようとしているなか。
ラルロスはというと……?
――永遠亭で、魔力が波動する。
「……変ね」
ぽつり、と、医務室で作業をしていた永琳が呟いた。
その眼は何処か、厳しい物となっている。
「何か、不測の事態でも発生したのかしら」
兎も角、此処に来るであろうアルティメシアの『賢人』を迎えに行かなければ。
永琳はそう考え、席を立った。
――同じく変化を捉えた者がいる。
「……むぅ。こうまで短期間に来るのは珍しいな。立ち去ってから二日三日ばかりしか経っていないぞ」
境界の狭間の空間に、幻想郷の主たる妖怪の賢者の式を務める九尾の妖狐が漏らしたその言葉。
その視線の先には、己に与えられた最低限の八雲紫の能力で以て開いた、永遠亭へのスキマが開かれていた。
そこから感じられるのは、異世界間を旅する賢人が発する魔力。
「……これは、もしや」
己が主の管轄に当たるかもしれない。
八雲藍はその金色の獣の眼を細め、静かに後にするのだった。
――そして、人里。
「♪~♪、♪~♪っと……ありゃ、ラルロスかなり早く戻って来たんだ?どうしたんだろ?」
若き龍人は、己が親友の来訪を感じ取り、口ずさんでいた唄を止めて眼を眇めた。
己が父親が、この世界に来るかもしれないとは、予想もつかずに。
――――――
――永遠亭。
「……随分と早かったわね」
「わりい、向こうで不測の事態が発生してな。ちょいとこっちの手伝いをしてやれねえんだ」
胸の下で腕を組んだ永琳の言葉に、ラルロスは魔法陣のある部屋から出て開口一番にしてそう告げた。
「今日、こっちにイオの奴は来たか?」
「……いえ、昼位になると思うわ。彼に関することなの?」
「まぁな。――かなりの面倒事になりそうだ」
「貴方がそういうってことは……なに、あの子の親族でもやってくるのかしら?」
永琳が揶揄するようにくすくすと笑い、ラルロスがその言葉で苦々しい表情となったのを見て直ぐに真剣な顔になると、
「どうやらそうみたいね……何が起きたのかしら?」
「それも含めて話し合いたい。――聞こえているか、妖怪の賢者よ」
ラルロスがつと視線を空中へと漂わせ、静かな声で以て尋ねる。
「不味い事態になった……イオの義父が、この世界に来たいと言いだした」
その言葉に、眼の前にいた永琳からは元より、空間の何処かで動揺が走るのを確かに感じ取った。
「……貴方、約定を破ったわけ?」
「だから、不測の事態だと言っただろう。正直、俺としては生涯を隠し通す心算ではいた。だが――イオの存在が、思いの外世界に認められていたんだ」
ずるり、と空間に腰かけるようにして現れた八雲紫に、ラルロスは真剣な眼差しで以てそう告げる。
「今現在、俺の国は他国からせっつかれているんだよ――『疾風剣神』の身内を人質として、無理やりに引き摺りこんでいるんじゃないかとな」
「……呆れたわ、全く……」
動揺から立ち直ったのか、紫がやれやれと嘆息した。
「それで?対策は?」
「俺とイオの義父……二つ名を持っていてな。『覇王』と『賢人』の連名でギルド及び王国に提出する。次いでに、イオにも書類を書いて貰う考えでいる」
本人からの言葉もあれば、他国もクラム国も納得するだろうからな。
「……映像技術はあるのかしら?」
「あるぞ。遠くの様子を見たい時に勘案された奴だ。録画も出来るようになってる」
「知れば知るほど、貴方達の世界を見たくなってくるわね……まぁ、いいわ。此処で知ったことを他言無用にして貰えれば、此方としては、文句は言わない。元々、私が原因ではあるからね」
扇子を広げ、優雅に寛ぐ紫に、ラルロスはやっと安心したように溜息を漏らす。
「……済まねえ。余計な騒ぎを起こして」
「止めなさいな。どちらにせよ、連絡は取っておくべきだったのよ。あの子が妙に頑固でいるのが悪い」
誠意が込められた謝罪に、紫がひらひらと手を振って留めた。
「手紙でもなんでも書かせておきなさい。此方の世界にいると、はっきり言っておかなければ……そういう手合いはしつこいままよ?」
「だろうな……今現在はっきりと痛感してるぜ」
カルラを始めとする女性達や、国の面倒な輩を思い出して、ラルロスはげんなりと表情を歪ませる。
「まぁ、急いで連絡が取れて良かった。後は、アイツに親父さんが来るの教えておかねえとな」
その言葉に、あら、と紫が眼をぱちくりとさせ、
「もう呼んだんじゃないの?」
「は?何言って……「おはよー、ラルロス。っとと……御二方まで来てましたか」……あー……うん、まぁ手間が省けたっちゃ省けたな」
おっとりとした表情で笑う、親友の龍人の姿に、ラルロスが若干頭を抱えるようにしてそう呟いたのだった。
――――――
――時と場所は変わり、アルティメシア世界のクラム国。
二カ月が経ち、クリスとラルロスが会話を交わしているそんな頃合いで。
カルラが再び、カリスト宅へとやってきていた。
「……落ち着いたみたいね」
「ええ……『覇王』程の方が動かれたならば、後は待つだけになります。本当に有り難いことですわ……これで、漸く人心地ついた気分です」
言葉の通りに安心している目の前の彼女――カルラに、マリアはやや複雑そうな表情を浮かべていた。
その表情のままに、小さく口を開き、
「――悪かったわね、隠していて」
「……分かっていますわ。私が、余りにも執着が過ぎることは。でも……イオが、余りにも魅力的過ぎるのがいけないのです」
常に泰然とした笑みを浮かべている筈のカルラが、珍しく――そう本当に珍しくも――若干拗ねたように口先を尖らせる。
「考えてもみてください……貴女に、誰一人味方がおらず、そこへ降って湧いたように優しく受け入れてくれる殿方が現れたら」
「いやまぁ、言わんとする所は分からなくもないけど。でも、元気になっていてくれて……良かった」
相変わらずの親友の様子に苦笑しつつも、ふと、軽口を叩けるまでに落ち着いた彼女にマリアがフッと微笑んだ。
「学院に通ってたころだって、あんなに憔悴した姿なんて見せなかったでしょ。私、正直に言って驚いちゃったわ」
優しげな眼に、カルラが堪え切れない様子でそっぽを向いた。
その頬は、気恥ずかしさの為か、赤色に染まっている。
「お恥ずかしい姿見せました……」
本当に恥ずかしそうな彼女に、だが、マリアは首を振り、
「いいわよ別に。――嬉しかったんだから」
「……え?」
本当に嬉しそうな笑顔をしている親友に、カルラがきょとんとして、
「色々と追い詰められて、自棄にならないで……私のとこに頼りに来てくれたのが」
告げられた言葉に、唖然となってしまった。
眼を見開き、硬直している彼女の様子に、マリアが憮然となって、
「何よ、その顔。もしかして、私薄情者みたいに思われてたわけ?」
「い、いえ……そんなことを云われたのが初めてだったもので。けして、貴方のことを薄情だとは」
ふるふる、と首を振りながら否定するカルラ。
その言葉にマリアは苦笑を浮かべ、
「ま、何だかんだで長い付き合いになるからね。ちょっと照れ臭くて言いにくかっただけよ。何よりも、カルラは貴族としては最高位にあるからというのもあって、尚更、ね」
「あ……」
その言葉に、カルラが今更ながらに己と目の前の彼女との身分差を思い知らされた。
それが気にならなくなる程に……自分達の関係は深いものだったのだと。
ぽつり、とマリアが呟いた。
「……正直、学院に通ってた頃が懐かしいわ。毎日のように馬鹿騒ぎがあって、イオをどやしつけたり、チェルシーを叱ったり。カルラの暴走止めようとしたりで、慌ただしかった。――けど」
何よりも、掛け替えのない思い出よ。
「……ええ、本当に」
しみじみとして、カルラはその言葉に同意する。
そして、少し躊躇いがちに顔を伏せてから上げると、
「これからも、私の友達でいてくれますか?」
「当たり前よ。私がいなかったら際限なく止まらなくなっちゃうでしょ。私の眼が黒い内は、親友として、止めさせて貰うわ」
恐る恐る尋ねられた言葉に、マリアは胸を張って告げるのであった。
話が終わり、最近の服飾事情や美味しい食事処などを雑談しているそんな時……クリスが帰ってくる。
「――ただいま。帰ったぞ」
「あら、父さんお帰りなさい。――それで、どうだったの?」
「まぁ、ちょっと待て。……カルラ嬢にはご機嫌麗しく」
「ええ、こんにちは。居ても立ってもいられなくて伺わせて頂きました」
深々と、貴族に対する礼儀をなすクリスに、カルラはニコニコと微笑みながらそう告げた。
その言葉に頷き、クリスが静かに息を整えると、
「――結果からして、ラルロス殿はイオの居場所そしてそこへと辿り着く手段を有しているとのこと」
一息で以て、言い切る。
「ああ……良かっ「但し」……何か、あったのですか?」
言葉を遮ったクリスに、即座に不安そうな表情へと移行したカルラが恐る恐る尋ねた。
すると、クリスはまたも静かに頷き、
「その場所は閉鎖的な集落であり……尚且つ、イオが余り故郷の者と会うことを快く思わないだろう……それをはっきりと言われたのです」
「……そん、な」
がたり、と椅子を倒れさせるほどに勢いよく立ち上がり、青ざめた表情を見せるカルラ。
「何とか、俺が行かせて貰うことに関しては話を付けられたのだが……カルラ嬢には申し訳ないが留まっていただくことになるかもしれない」
「……父さん、それはもう決定事項なの?」
「ああ……ラルロス殿が言うには、イオが彼の地にて安寧しているとのことだった。得難き人物とも出会えたのだとも、言っていたな」
「何よ、それ……カルラに一言も告げないで――!」
心底から激怒したマリアが憤然として腕を組んだ。
「あったまきた……父さん。何が何でもカルラを同行させて。私もついていくから」
「……恐らく、そうなるだろうことを見越して、『例外』を作りたくないと言っておられたのだろう。このような事態になるとは予想していなかったと聞く。生涯、隠し通す心算でもあったようだからな」
予想通りの娘の行動に、クリスが疲れたように眼を揉みながら告げる。
「兎も角、『覇王』と呼ばれていた俺が同行し、イオの所在を確認した上で書類並びに映像などを撮らせる予定だ。別途、カルラ嬢やチェルシー嬢宛ての手紙も渡してくれるよう要請すれば……通ると考えている」
「……」
口元を覆い、硬直しているカルラの背中を撫でながら、マリアが鋭い眼差しとなって、
「……どうしても、ついていくのは無理なの?」
「俺としても、何とかしたかったが……どうやら、イオが今住んでいる土地の管理者は、余所者が行き来出来る状況を好ましく思っていないようなのだ。ラルロス殿はラルロス殿で、どうやらカルラ嬢のことを警戒しているようでもあってな……あの様子からするに、どうやらイオが懸想を抱きかけている人物がいる、可能性がある」
「……アイツに、好きな人が出来た?」
「恐らく、な」
残酷だが在りうる可能性。
その言葉にカルラが眼を固く瞑った。
「……イオ……」
酷く悲痛さを伴って、カリスト宅の居間に響き渡る。
――――――
――そして、永遠亭。
「……父さんが、来る?」
「もしかするとそれだけに留まらねえかもしれねえ。かなり、カルラの奴は追い詰められてるみたいだからな」
どうしても一目会いたいと言われれば……押し切られるかもしれん。
心底からやりきれなさそうに告げるラルロスに、イオは眼を伏せながら、
「……ねえ、ラルロス。僕がもう会わないって、会えないって言って欲しいこと……伝えてくれなかったの?」
「言えるわけもねえだろうが。そんなことを言った所で、俺が嘘を吐いていることかもしれねえと思われるのは当たり前だろ」
「それも、そうだね。はぁ……困ったな。紫さん達は、出来るなら来て貰いたくないのが心情ですよね?」
イオががりがり、と頭を掻きながら問うた。
だが、紫は静かに眼を瞑ると、
「――全く。人間の恋愛は拗れると後々に響くのに。とっとと清算しようともしてなかった貴方が悪いわ」
「う、うぐぅ……」
余りにも正論であるその言葉に、イオは呻くことしか出来ない。
「しょうがないから、今回だけカルラって娘も連れて来させなさい」
「ええっ!?」
「――何か?」
「なんでもありません!マム!!」
ぎらり、と鋭く睨み据えられ、イオは直立不動になって敬礼した。
まぁ、女性陣に味方などいるはずもないと分かっていないイオの自業自得である。
はてさて、どのようなことになるのか……それは、龍神のみぞ知ることであろう。
――――――
「……へぇ、そんなことが」
「ええ、そうなのよ。全く、恋愛事情なんか一番に拗れる案件なのに。どうにも会いたがらないから許可したわ。そういう訳だから、この一週間の内にやってくると思うわよ」
「やれやれ、面倒なことね。まぁ、私としては此方に被害が来なきゃいいわ」
憤然としている紫に、イオは何をしているやらと呆れる霊夢。
あれからというもの……二時間が経ち、遅い昼時となっていた。
縁側で食後の緑茶を嗜んでいた霊夢が、振って湧いたように出現する紫の愚痴に付き合い、のんびりと過ごしている。
「そのカルラって奴、どういう性格なの?」
「そうねぇ……伝聞でしか分からないけれど。少なくとも、権力を笠に来て振り上げるという性質ではないのは確かよ。多分、あの子が影響しているのが大きいと思う。けれど……その代わり、イオに対する執着心はかなり強いわね」
あの鴉天狗とかちあったらどうなるのやら。
若干楽しげな様子で呟く紫に、霊夢がジト眼となって、
「止めなさいよ、縁起でもない……何だかんだ言って、あの天狗だって十分イオを気に掛けてるんだから、激突するのが眼に見えてるわ」
「まあ、そうでしょうね。兎に角、一番肝に銘じなければならないのは、イオね。あの子がカルラという子に断固とした態度を取れなければ……射命丸文も、イオも、不幸なことになる」
「……ますます、面倒なこと。まぁ、残るって言うんなら味方しなくもないけどね」
面倒そうでいて、若干苛立たしげに見えたその言葉に、あら、と紫が眼を丸くして、
「珍しいわ、そんなことを言うなんて」
「言っておくけれど、そんな色事めいたもんじゃないわ。――単純に、今までの生活が送れないとなったら一大事だと思っただけよ」
「……そんなことだろうとは思ったけど」
フン、とそっぽを向く娘のように思える霊夢の言葉に、紫はやれやれと思いながらも、静かに微笑ましそうに眺めた。
「あやや、おはようございます、御二人さん!」
――そこに、渦中にあるであろう鴉天狗の声が掛かる。
ばさばさ、と強く翼を羽ばたかせながら降り立った彼女の姿に、縁側に座っていた二人が揃って眼を丸くさせた。
「……噂をすれば、影かしらね」
「幾らなんでもタイミングが良すぎよ。流石に驚いたわ」
「??何の御話です?」
出来上がったばかりの新聞を片手に、射命丸がきょとんと首を傾げる。
その様子に、紫は若干躊躇ったが……一瞬瞑目してから告げた。
「――丁度良かったわ。貴方に伝えておかなければならないことがあったのよ」
詳しく聞かされたその内容に、射命丸は当初驚きを以て紫を見つめていたが、話が進むに連れてどんどん表情が険しくなっていき……。
「貴重な情報、有難うございます!」
その言葉と共に、持っていた新聞を縁側に放って飛び立っていく。
あっという間に消え去った鴉天狗の少女を見送ってから、霊夢がジト眼を紫に向けた。
「……おいこら。わざと油に火種を突っ込んでんじゃないわよ」
「いいじゃない。そろそろ、あの子も自分の思い位決めておかなければならない時だと思うし」
「イオが死に掛けてる未来がありありと浮かぶんだけど」
「……な、ナルヨウニシカナラナイデショウ」
「片言って自信がないのを暴露してるじゃない!!」
ぎゃーぎゃー、と穏やかな晴天の下、騒ぐ2人。
――苦労を背負いこむことになった対象は、そんな楽しげな2人とは裏腹に、正しく現在進行形で厄介に見舞われていた。
――鴉天狗の少女という形で。
――――――
さて、災厄が身に降りかかってくるとは思いもしていないイオが今、何処にいるのかというと。
――紅魔館にいた。
「……詰まり、魔石を使用すると元々が魔力の凝縮した物質だから、内在している魔力を、自分の魔力の代わりに使用することで、自分の使用魔力量を削減することが出来るんだ」
こつこつ、と用意して貰った黒板に向かい、長机の前の椅子に坐る二人の生徒へと教えていく。
そこへ、2人の内の一人――霧雨魔理沙が手を挙げ、
「なぁ、それって魔石の魔力が無くなるってことだろ?どうやって補充するんだ?」
「うん、それはね……アルティメシア世界の空気中には、実の所魔力が常時漂っている状態でね。普通であれば、僕達はその魔力に干渉することは叶わないんだけど、魔石は文字通り魂と言えるような物だからさ、空気中の魔力を吸収することが出来る仕組みを有しているんだ」
かかかっと素晴らしい速度で書き上げながら、イオはにこにこしつつすらすらと理論を述べていった。
「僕達が魔法を使用するに当って魔力を使用するのは当たり前のことなんだけど……それに至るまでの素地が出来上がったのは、このことが原因と思われるんだって。一日、魔力を使いきったとしても、一晩休めば回復しているのも同じ理由なんだそうだよ」
「ってことは、お前の体の中に魔石が入ってるのか?」
「魔石、自体は体に入ってはいないと思うよ。どちらかと言えば、体液に染みこんでるって言われた方が正しいかな。空気と共に魔力を摂取しているわけだから」
だからこそ、パチュリーさんは僕の体液を求めたんだろうしね。
付随する出来事があったことを思い出した所為か、ややどんよりとした雰囲気を纏い始めたイオ。
その様子に、一瞬何のことかと思った魔理沙の頬が瞬時に紅に染まった。
――あの時のことを思い出した所為であろう。
「あー……まぁ、うん。御愁傷様としか言えないな」
「??何の話?」
きょとん、として小首を傾げるフランドール。
その無垢なる表情に、イオと魔理沙は揃って首を振り、
「「いや、なんでもない(ぜ)」」
とこれまた揃って口を閉ざした。
――鴉天狗の少女がやってきたのは、そんな時である。
ッバタン!!
途轍もなく響き渡った開閉音に、三人は元より、作業をしていた子悪魔もパチュリーもぴくり、と肩を竦めた。
「誰だよ、もう――って、文?」
迷惑そうに眉を顰め、丁度死角になっていた所から顔を覗かせたイオが、きょとんと首を傾げる。
その声に、きょろきょろと誰かを探しているようであった射命丸がぎらり、と眦をつり上げ、
「……どういうことか、説明して貰うわよイオ」
――近々、貴方の父親とカルラが来るそうじゃない?
「あっれー……?僕、何でこんなに殺気ぶつけられてるんだろ?」
余りの気迫が籠められたその眼差しに、イオは冷や汗を流しながら現実逃避するかのように天井を仰いだ。
その様子にきりきりと更に眼差しが鋭くなった射命丸が、
「惚けないで頂戴」
「い、いや、惚けるも何も……というか、それ機密事項だった筈だけど」
「その機密を扱う最高管理者からの情報よ」
「……機密って一体何だったんだろ」
ますます遠い眼になったイオがぽつりとそう呟いた。
正直、ばれたくない相手にばれたような物であり、逃げだしたい気持ちで一杯だったのである。
だが、目の前の少女からは逃れられなかった。
――寧ろ、背後にいる二人の少女さえもきらり、と眼を輝かせている。
「ねぇねぇ、イオ兄様?カルラというのは、どういう人間の方なのです?」
「ああ、フラン。それは私が教えてやるよ。――イオのことが好き過ぎて、世界越えて追っかけてきたんだろ?」
(……やばい。逃げ場失くした)
コイバナの匂いに釣られ、三人の少女という獣達に囲まれたことを悟ったイオが思わずきょろきょろと辺りを見回した。
「何を逃げようとしているのかしら?」
だが、逃げられない。
がっしり、と強く強く肩を掴まれ、イオはどんどん顔を青ざめさせていった。
「きりきり吐いて貰うわよ――?」
「……どうしてこうなったし」
何が何でも逃しはしないという言葉が聞こえてきそうな三人組に、イオはそう呟くしか無かったのだった。