東方剣神録   作:上田幻

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第七章「手にする仕事は何でも屋」

 

「ねえ……イオ、大丈夫?」

博麗神社を出た後、ようやく追いついたルーミアは不安そうにイオの顔を覗き込んだ。

 だが、彼の表情は既に先程まで放っていた気迫をけしており、のんびりとした雰囲気だけが感じ取れた。

 ニコニコと、イオが笑顔を浮かべながら、

「ん、大丈夫だよ。元々、目的があって旅してたから、どうしたって終点がある事は分かっていたから。流石に、故郷の家を何年も留守にする訳にもいかなかったし。終の棲家を探すのが早まっただけだよ」

 

――まあ、八雲紫に会ったら、全力の一発ぐらいは叩き込んだろうかとは思うけど。

 

 あくまでもニコニコとしたまま、物騒な一言を述べる彼に、ちょっぴりルーミアの表情が引き攣る。

(やっぱりイオ、怒ってるー!?)

先程の殺気めいた気配とはまた違った怖さに、内心ルーミアはガクガクブルブルと震えざるを得なかった。

 

 さて、所時変わり、現在二人は人里の寺子屋の前に降り立っている。

 寺子屋前に広がる広場には、慧音が子供――いや、子供のような姿の妖怪や妖精達が、思い思いに一緒に遊んでいた。

 ふと、彼女達を相手していた慧音が気配を感じ取ったのか、妖精たちに向けていた顔を上げ、イオたちの方を向き――驚きで大きく眼を見開き、固まってしまう。

「あはは……慧音さんただ今ですー」

ひらひらと彼女に向って手を振り、傍目にはのんびりとした様子でイオがあいさつした。

 その彼の横を通り過ぎ、ルーミアが妖精たちに向って、

「みんなー!おっはよー!!」

と突貫していく姿を見ながら、イオはのんびりと慧音に近づいて行く。

「……いったい、どうしたんだイオ?忘れ物でもしたのか?」

若干、驚きが抜けきっていないその表情で慧音が訊ねた。

 すると、イオは困ったように笑い、

「いや、違うんですよそれが」

 

――――――帰れなく、なりましてね。

 

「っ!?」

予想外だったのか、それともその言葉を放って尚いたって普通の様子を見せるイオに驚いたのか、慧音は益々眼を大きく見開く。

 楽しそうに騒いでいるルーミア達を放り、茫然とした様子でこちらを見てくる慧音に、

「――どうも、僕が『能力持ち』だったみたいで。霊夢さんに断られてしまったんです。いやー、本当に参りましたよ」

困ったように笑いながらイオがそう告げると、け音はややぎごちない様子で、

「そ、そうだったのか……そうなると、君は人里に……?」

「住む、という事になるんでしょうね……予想外でしたよ。おかげで、生涯の間で計画してたのが全部大幅に修正する羽目になりましたからね。ま、此処は住むには凄く良いし、終の棲家にするには打ってつけでしたから、そこは不幸中の幸いと言ったところでしょうけど」

あっけらかんとして笑うイオに、ようやく慧音も普段を取り戻せたのか、ぎごちないながらも笑顔を浮かべて、

「……そう、だな。こうなった以上、あまり気にしない方がいいだろう。所で、君の仕事はどうするつもりなのだ?」

恐る恐ると言ったように彼女がそう尋ねてくると、

「ま、外の世界でも結構やり手の冒険者として知られていたみたいですから、一応何でも屋をやろうとは思ってます」

こう見えても、元の世界では最強の一角としても見られてましたから。

 そう、楽しげに笑いながらイオがそう返した。

 すると、真剣な眼差しになった慧音が、考えるようなそぶりを見せつつ、

「そう、だな……頼むことになるだろう。今のところ、人里の方でも空いている職種の方はあまりなかったと思うから。それに、荒事をやっていたという君の腕前も、何となくではあるが……高い事は分かる。――――幸い、空家になっている場所がいくつかあったと思うから、そのどれかを住処にしてもらう形になるだろう。宜しく頼むよイオ」

「ええ……分かりました。ありがとうございます。――と、そうだ。その住居とは別に、もう一つ建ててもらいたいものがあるんですけど……大丈夫ですか?」

「ふむ……?伝手があるから別に構わないが、一体何を建てるつもりなんだ?あまり、変なものを建てられてしまうと困るのだが」

突然のイオの言葉に、やや不思議そうに眉をあげた慧音がそう尋ねると、

「――ある、二つの流派の道場の看板を立ち上げようかな、と」

一刀流と、二刀流二つの流派の……ね。

 にかっとして、ただ楽しそうにイオは笑う。

 

 その様子は、さながら悪戯を仕掛ける子供の様であったという。

 

―――――――――

 

――時は過ぎ、今は盛夏の真っ盛り。

「――さて、今日も頑張るとしますか」

人里に厄介になり始めてから、丁度一ヶ月が経とうとしていた。

 故郷にいる養父や家族、そして親友や友人たちの事は気になるものの、それでもイオは順調にこの何でも屋という職業をこなしている。時折、低度の智慧しか持っていない妖怪の討伐の依頼という、緊急性と命の危機もはらんだものをこなす時もあるが、概ね平和な毎日である。

 とはいえ、日常となると……

「……んぅ。むにゃむにゃ……」

この様に、ルーミアが共に暮らすようになったのであるが。

(……まっさか、ルーミアと一緒に住むことになるとは思わなかったな)

取り敢えず、あのままでは危なかったから背負って行っただけで、そのままあの博麗神社か慧音にでも預けて帰るつもりだった。

 結局、こうして暮らすことになったわけだが、それというのもイオの料理を、大層ルーミアが気に入って強硬に一緒に暮らすんだと主張したためである。

 正直、見た目が幼女にしか見えない彼女と暮らすのは、社会的な視線からしてかなり危ないもののように見えたため、当初は断るつもりだったのだが……。

『――くれぐれも、よろしく頼むぞ?』

あんなふうに、がっしりと肩を掴まれてニッコリ笑顔の慧音に言われればどうしようもない。

 

閑話休題。

 

 さて、そんな彼の何でも屋の依頼の仕組みについて説明しよう。

 まず、彼が住む母屋のすぐ前にある、

『犯罪行為以外の依頼を受け付けます』

という、墨痕あでやかに彩られたやや大きめの郵便受けの中に、依頼人が依頼状を投函し、イオが依頼を遂行していく事によって成り立っていた。

 当然、依頼状が投函されているわけであるから、その報告を投函した人物に直接言う事で報酬がもらえる仕組みになっているのである。

 大抵、此処の依頼というのは、

『どこどこの甘味処の手伝いをしてほしい』

や、イオが『木を操る程度の能力』を持っている事を知った人物が、

『農家の作物をどうにかして強くしてほしい』

などと、能力や彼自身の容姿を利用した依頼が寄せられたり、更には彼の剣術がかなりのものであることを知った武術者や、妖怪の被害に悩まされる人などが、

『仕合をしてほしい』

や、

『妖怪退治をしてほしい』

という様な依頼をしてくることもあった。

 だが、此処人里のルールを慧音から教えられた身としては、あの博麗神社の霊夢に妖怪退治を依頼するのが義理ではないかと思ったりもするのだが。

(だってねえ……霊夢さんみたいに、退魔の力じゃなくて剣だけで倒しているし)

正直なところその依頼をするのは面倒ではあったが、仕方なしに受けて、その報酬を博麗神社に納める事で自身のもやもやを収めていた。

 それに、いくら命の危険があるとはいえ、或いは退魔の力が無いとはいえ、かつてアルティメシア世界で『疾風剣神』と呼ばれていた身としては、対峙する妖怪たちも弱いものばかりだったため、気にする事もないことではある。

 

「……ふむふむ、今日は二件だけ……みたいだね。ま、今のところ風邪で休んだお店とかの人手を頼まれたりするだけだからそんなに忙しくなさそうかな。で、これは慧音さんので、ん?これ、は……?」

一枚一枚を広げつつ、最後に広げられたそれに目を向けた。

『――昼。道場にてお待ちします』

「依頼人は……なし。つまり匿名。…………いったい、誰が来るんだか」

見事な毛筆で書かれたその文章に、イオは困ったように居間のテーブル前にて頭をかいたが、すぐに首を振ると、

「――先に、寺子屋の依頼を済ませてから考えよ。幸い、午前中だけだからね、授業の方は」

農家の子供達もいるために、どうしても家の事情もかんがみないといけない為に、こういう午前中のみの仕儀になっているのだとは聞いている。

 まあ、それも仕方ないことではあろう。

 農家という職業はかなりデリケートなものであり、ほぼ天候によって左右されるものだ。出来る限りのことをやるのに、一人二人だけでは到底やっていけないから、子供達の手を借りる事になってしまう。

「……もっと、僕が能力をもっと使えたらよかったんだけどねえ」

幾ら植物が病気にかからないように出来るとはいえ、急激に生長をさせるわけにもいかない。

 それをすることは確かに可能だが、その後がかなり怖いのだ。

 生長させた植物の味が変化するかもしれない。

 栄養素が変質してしまうかもしれない。

 色々とデリケートだからこそ、イオは植物を強化する事はしても、生長をさせる依頼は断った。

 かつて、リュシエール学院というクラム国最高峰の学院で、何となく植物について調べていなかったら、知らずにとんでもないことを仕出かしたかもしれなかったからだ。

「……あの頃、通っててほんとによかったなあ」

と、そんな過去を思い出している場合ではない。

 慌てて準備を済ませると、居間のほうに向って、

「ルーミア―?留守番頼んだよー?」

と声をかけると、寺子屋のある方向に向かってふわりと飛び立ったのであった。

 

――この一ヶ月。

 イオにとっては、自身に顕現した能力を検証する期間であったといえる。

 霊夢に言われた、この、『木を操る程度の能力』という能力。

 その検証を始めてからというもの、イオは大いに驚かされていた。

 樹木と会話することはもとより、先程つらつらと考えていた植物の生命力の強化。そして生長の促進。

 さらにはこんなことまで出来るようになった。

 元々、アルティメシア世界において魔法を、親友の、世界最強に等しい魔法使いと比べて少ないながらも使えていたのだが、高い適性を示した五行属性がうちの一つ、木属性と、そこから派生する三属性、風・吸・雷の魔法の威力を大幅に強化してくれたのである。

 元来、イオはそんなに魔法は得意な方ではなく、長々と詠唱文を唱える事は出来る方ではなかったが、この能力によって長い詠唱文が唱えられるようになるだけでなく、無詠唱の呪文の魔法の威力がかなり引き上げられたのであった。

(でもって、木を生成し思うように形成も出来る。……なんだこれって思ったなあ)

とはいえ、あくまでも自身に存在するその力が続く限り、となってしまうが……それにしたって、かなりの汎用性を誇っている。

 むしろ、イオからすればやりすぎだとしか言いようがなかった。

 一ヶ月経った今でさえこの能力の汎用性はとどまる事を知らず、今こうして空を飛んでいるように、大気中の空気を押し固めて足場にする事も、木は気に連なるという無茶ぶりにまで応えて、体内の気を操るまでに至っている。

(……まだ、使いこなせている自信もないけど、頑張るしかないね)

むしろ、まだ伸び白があるこの能力がおかしいのだ。

 そう思いながらも、イオは誰かを救うためにもこの能力を検証し続けていくのであった。

 

――――――――

 

 さて、場所変わり、寺子屋前広場。

 子供達の授業を終えたばかりの慧音は、ちょっぴり困惑の表情を浮かべていた。

――主に、目の前に広がっている光景について。

「――――いいかい?まず、剣というのはその形の通りに、切る事に、殺す事に特化した道具だ。だからこそ、強くなりたいと思うんだったらこの道具の怖さをよく覚えておかないといけないし、相手に殺される覚悟も持たなければならないんだ」

能力で作りだしたと思しき木剣を、広場に適当に散らばった子供達に構えさせながらその前でイオが飄々と立って教えていた。

 そんな彼に、困惑から立ち直った慧音が音も立てずに近づき、

「――イオ?いったい何を教えているんだ?」

と、妙にニコニコとした笑顔で話しかける。

 その声に、目の前の青空道場に集中していたイオはびくりとなって振り返り、

「へ?って、ありゃ、慧音先生じゃないですか。今ですね、丁度剣をみんなに教えていたところだったんですよ」

「……ふむ。所で、頼んでいた所はどうしたのかな?」

あくまでもニコニコとしてそう告げてくる彼女に、イオは若干違和感を感じながらも笑って、

「ああ、それでしたら終わりました。だから、こうしてみんなに教えているんですよ」

「そうかそうか……本当に終わったんだな?具体的に……何処まで終わらせたのかな?」

ギュッピーン、という音が聞こえてきそうな彼女の目つきに、イオは終始気づくことなく、がさごそといつも腰に吊下げるようにしている、ベルトに着けるタイプのバッグを漁り、取りだした教科書を広げて見せながら、

「それでしたら、大体此処まで位ですかねえー。いや、みんなほんと凄かったですよ」

「――イオ?言っておいたはずだろうに……『出来る所までどんどん進めてもらっても構わない』――とね」

「…………あ」

「っふん!!」

ゴッスン。

 そう形容するしかない、とても鈍い音がイオの頭から響き渡る。

「……!!」(じたばた)

余りの痛みでのたうち回っているイオを見る事もなく、慧音は戦々恐々として彼らを見つめる子供達に向って、

「さ、みんな中に入るんだ。でないと……こうなってしまうぞ?」

「「「「っはい!!」」」」

大慌てで教室に向かう子供達に、慧音は凄く満足そうな笑顔を浮かべて頷いた後、イオの倒れている方に向き直り、

「さて……イオ?最後に遺したい言葉はなんだ?」

「……あ、あはは……ま、マジで頭突きは勘弁し「はあっ!」ギャ――――!?」

ずりずりと座り込んだまま後じさりした彼に、再度の頭突きがくらわされ、地面に沈んで行った。

「――天誅」

慧音はそんなイオを見ることなく、かっこよく呟き寺子屋へと向かっていくのであった。

 

 とまあ、こんなおふざけのような事件はさておき。

 こういう風にして、イオは慧音から時折子供達の教育を任されていた。

 幸いにして、イオは元々アルティメシア世界の中でも最高峰とされる、『智の国』クラム国のリュシエール学院に在籍した過去があり、しかもかなり優等生としても振舞っていた為に、こうして子供達に教える作業はさほど苦痛ではなかったのである。

 だが、偶に先程のように茶目っ気を出して、変な授業を行ったりする時があるために、慧音から必殺技『ZU☆TU☆KI』を何度も食らわされていた。

 そんな、真面目なのかそうでないのか分からないイオに、当初子供達は戸惑うことしきりであったものの、イオの生来ののんびりとした性格の事、分かりやすく楽しい授業を受けているうちに、次第に距離が縮まって行ったという。

 まして、『木を操る程度の能力』持ちである彼にかかれば、子供達の遊び道具まで創り出してしまえるのだから、自然そうなるのも分かるというものだった。

 結果として、イオはこういう風に少しずつしかし確実に、人里での人間関係を構築していったのである。

 

 




正直、いろいろと詰め込み過ぎた感じがしないでもない。
だが、あえて言おう。
『イオは強者足りえるが、最強ではない』
一応のコンセプトとしてはその通りにやっていくつもりです。
ただ、こうしていろいろと詰め込んでいるのも、イオが幻想郷でなるだけ戦える人物であることを示すためである事も否定しません
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