デート・ア・ヴァルヴレイヴ   作:とりマヨつくね

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四乃パペット
新しい日常


 

「シドー! クッキィというのを焼いたぞ」

 

 十香は食い気味に手にした容器を、ずいっと士道に差し出してくる。

 その様子に気圧されるように、士道は身を反らしながら言った。

 

「十香……」

 

「うむ、なんだ!?」

 

「い、いや……なんでもない」

 

 本当は何か言おうとしたが、十香の笑顔によって何も言えなくなってしまった。

 その様子に右斜め前に座るハルトが、今まで見たこともないニヤニヤとした表情で見ていた。

 見ている暇があるなら、手助けしてほしい。 

 

「そんなことよりも、シドー。これを見てくれ!」

 

「これは……」

 

 そこには形が歪であったり、焦げていたりしているものの、クッキーと呼べる代物であった。

 

「うむ、みんなに教えてもらいながら、私がこねたのだ。食べてみてくれ」

 

「…………」

 

 士道は言い知れぬ悪寒が背筋を通った。

 十香のクッキーがどうこうではない。

 ハルトを除いたクラスの男子達の怨嗟の目線が注がれたのである。

 

「? どうしたシドー、食べないのか?」

 

「え、いや、その……」

 

「むう……そうか、シドーの方が料理が上手いからな」

 

「! そういうわけではなくって。いただくよ」

 

 士道は胃を決すると、容器からクッキーの一枚を取った。

 そしてそれを口に運ーー

 

「!?」

 

 廊下から飛んできた銀色の弾丸のようなものが、クッキーを粉々に砕く。

 

「な、なんだ!?」

 

 それに視線を向け正体を確かめると、フォークが壁に突き刺さっていた。

 

「ぬ、誰だ! 危ないではないか」

 

 十香は叫ぶと、廊下に視線を向ける。

 士道もそれにつられるように視線を向けると、右手をまっすぐ伸ばした折紙が立っていた。

 

「と、鳶一?」

 

「ぬ」

 

 士道は額に汗を浮かべ、十香は眉を寄せていた。

 

「夜刀神十香のそれを口に必要はない。食べるならこれを」

 

 そこには、工場のラインで製造されたかのごとく、完璧に規格の統一されたクッキーが綺麗に並んでいた。

 

「え、ええと」

 

「邪魔をするな!シドーは私のクッキィを食べるのだ!」

 

 士道がどう反応すればいいか分からず、十香がぷんすか!といった調子で声を上げた。

 しかし折紙は微塵も怯まず、それどころか表情をぴくりとも動かさず、のどを震わせる。

 

「邪魔なのはあなた。すぐに立ち去るべき」

 

「何を言うか!あとから来ておいて偉そうに!」

 

「順番は関係ない。あなたのクッキーを彼に摂取させるわけにはいかない」

 

「な、なんだと!?」

 

「あなたは手洗いが不十分だった。加えて調理中、舞い上がった小麦粉にむせ、くしゃみを三度もしている。これは非常に不衛生」

 

「な……っ」

 

 虚を突かれたように、十香が目を丸くする。

 士道は二人の争いを止める訳でもなく、周りを見渡すと、先程の折紙の言葉で周囲の男子生徒たちが、騒ぎ始める。

 しかし十香はそんなことに気付く様子もなく、ぐぬぬ・・・と拳を握りしめる。

 

「し、シドーは強いからそれくらい大丈夫なのだ!」

 

「因果関係が不明瞭。───それに、あなたは材料の分量を間違えていた。レシピ通りの仕上がりになっているとは思えない」

 

「……っ!?」

 

 折紙が言うと、十香は眉をひそめ、自分と折紙のクッキーを交互に見た。

 

「う、うるさいっ!貴様のクッキィなぞ、美味いはずがあるかっ!」

 

 十香はそう叫び、目にもとまらぬスピードで、折紙の容器からクッキーを一枚かすめ取ると、自分の口に放り込んだ。

 そしてサクサクと咀嚼しーー

 

 

 

「ふぁ……」

 

 頬を桜色に染め、恍惚とした表情を作った。どうやら、旨かったらしい。

 しかし十香はすぐにハッとした様子で首を横にブンブンと振った。

 

 

「ふ、ふん、大したことはないな! これなら私の方が美味いぞ!」

 

「そんなことはあり得ない。潔く負けを認めるべき」

 

「お、落ち着けよ。二人とも」

 

「そ、そうだよ。どっちもきっと美味しいよ」

 

 不穏な空気を感じてか、ハルトも割って入る。

 だがそんなものを寄せ付けぬかのように、折紙と十香はクッキーの容器を差し出した。

 

「シドー、どっちのクッキィを食べたいのだ?」

 

「え?」

 

 士道は間の抜けた声を出す。

 

「さあ、シドー」

 

「…………」

 

 十香と折紙の刺すような眼光に、士道は顔中にぶわっと汗を滲ませる。

 どうしたものか、頭を悩ませていると。

 

「五河士道」

 

 不意に士道を呼ぶ声が聞こえ、三人は一斉に視線を向ける。

 そこには銀髪の少年が、一枚のプリント手にし立っていた。

 

「よ、よう、エルエルフ。どうかしたか」

 

「なに、このプリントを珠恵先生に渡してきてくれ」

 

 士道は一瞬疑問符を浮かべるが、すぐにエルエルフの意図を察した。

 

「あ、ああ……わかった。というわけだから、二人ともごめん。後でちゃんと食べるから」

 

「むう、わかった。気を付けてな」

 

「……」

 

 二人の反応を見た士道は廊下に出て、珠恵先生がいるだろう職員室に早歩きで向かった。

 

 

 

 

 その様子を見る二人の少年がいた。

 片方は士道より一歳年上ぐらいであり、若干大人びていた。

 そしてもう片方は、オレンジがかった髪と目つきが悪いのが特徴的だった。

 その風貌は今時、珍しいヤンキーを思わせるものであった。

 

「アイツがハルトの()()()()での友達か。いい奴そうだな」

 

「ああ? ただのヒョロガリじゃねえか。本当にあの爺さんが言ったみたいに、アイツが精霊っていう化け物を惚れさせたのか? 信じられねえな」

 

「まあ、いいじゃないか。俺たちは來るときまで待とうぜ。問題行動だけは起こすなよ」

 

「わ、分かってるよ」

 

「そうか……じゃあ、とりあえず購買で何か買って行こうぜ」

 

「おう! 俺、あのドリアンパンってやつが気になってたんだよ!」

 

 そんな談話をしながら、二人もその場を去った。

 

 

 

 

 

 




ああ、ハルト君が普通の日常をしている……涙が出てくる。
でもニヤニヤの表現はダメだったかな。僕のイメージ的には微笑ぐらいなんすけどね。
それとエルエルフ君、ナイスタイミング。
最後に出てきた二人の少年は誰なんだろうか。
とにかく、今回から四乃編です。
ここからヴァルヴレイヴの要素もマシマシにしますよ。
今後に期待を持っててください。

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