デート・ア・ヴァルヴレイヴ   作:とりマヨつくね

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短めですが投稿。
多分、あと三話すればヴァルヴレイヴとか出せるので楽しみにしてください。
それでは本編へ。


家へのお誘い

「ーーーーどう? パペットは見つかった?」

「いえ、まだですね。見当たりません」

 

 琴里が問いかけると、艦橋下段からクルーの返答が聞こえてきた。

 時刻は十二時三十分。士道が四糸乃とともに捜索を開始してから、およそ二時間が経過している。この雨の中の作業となれば、身体も冷えてしまっているだろうし、疲労も溜まっているだろう。

 〈ラタトスク〉の機関員を捜索に回してもよいのだがーーーー急に大人数を投入して四糸乃を怖がらせてしまっては元も子もないし、仮に怖がらなかったとしても、士道に向けられるべき感謝や好印象が、多方向に分散してしまう可能性がある。

 

「映像の方は?」

 

 琴里が右手側に目を向けると、コンソールをいじっていたクルーが、視線は寄越さぬまま、声だけを投げてきた。

 

「解像度は粗いですが……なんとか」

「モニターに出してちょうだい」

 

 琴里が言うと、〈フラクシナス〉艦橋のモニターの一部に、昨日、四糸乃とASTが交戦した時の映像が映し出される。

 攻撃の余波に巻き込まれぬよう、カメラも距離を取って撮影していたため、平時に比べて多少画質が悪かった。

 

「精霊が消失する瞬間の映像ではーーーーもう既にパペットをもっていません」

 

 一時停止ののち、画面が拡大されて、落ち行く四糸乃の姿がアップされる。

 

「ーーーー反して、ASTの攻撃が着弾する前の映像では、天使の口元にパペットを確認することができます。この攻撃によって紛失したと考えるのが妥当だと」

「で、肝心のパペットは?」

「煙が非常に濃いため、確実ではありませんが……落下している影が確認できますので、攻撃の際に燃えてしまっているという最悪のパターンにはなっていないと思われます」

「四糸乃が消失したあとの、この近辺の映像は? 残っていないの?」

「それについては既に探索を済ませている。……が、残念ながらパペットを見つけることができなかった。その他のポイントを調べてみたが、確かな情報を手に入られない状態だ。どうする、五河琴里」

「……ふむ」

 

 エルエルフの返答に、琴里はあごに手を当てる。

 そうして暫しの静寂の後、そこでスピーカーから、きゅるるるる、という間の抜けた音が聞こえてきた。

 

「……四糸乃?」

「……!」

 

 パペットの捜索を始めてから、およそ二時間。

 士道は雨に濡れた髪をかき上げながら、隣でパペットを探す四糸乃の方を向いた。

 四糸乃はまたも怯えるように肩を震わせたが───少しは士道の声に慣れたのか、顔を此方へ向けてきた。

 

「……腹減ったのか?」

 

 士道がそう聞くと、四糸乃は顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振った。

 しかし、そのタイミングで、またもお腹の音が鳴る。

 

「…………っ!」

 

 四糸乃はその場にうずくまると、フードを引っ張って顔を完全に隠してしまった。

 精霊といえど、腹は空くようだ。

 精霊は、そういった生命維持に必要な事柄を全て霊力で賄うと聞いたはずだが、そういえば十香も、封印前からかなりの健啖家だったな……。

 

「どうしたもんかね……」

 

 四糸乃がどれくらい前からパペットを探しているかはわからないが、もう昼は過ぎているし、空腹になってもおかしくない。士道も小腹が空きだしたところだ。

 士道は指示を仰ぐように、インカムを数度小突くと、大方の内容を察しているらしい琴里から声を届いてきた。

 

『ーーーーそうね。一度休憩も兼ねて食事してきたらどう? ハルトはこちらで回収しておくから、安心して四糸乃をエスコートしてあげなさい』

「ん……そうだな」

 

 士道は前かがみになっていた姿勢を戻すと、軽く伸びしてから四糸乃に話しかけた。

 

「四糸乃、少し休憩しよう」

 

 士道の言葉に、四糸乃は首を横に振るが、そこでまたもお腹がなる。

 

「……!」

 

「ほら、無理すんなって。四糸乃が倒れたらパペット探せないでしょ?」

 

 四糸乃は少しの間考えを巡らせるように唸ってから、躊躇いがちに首肯した。

 

「よし。じゃあ……」

 

 言ってから、あることに思い出した。

 一応財布を持っているが、こんなびしょ濡れでは店に迷惑をかけてしまうだろう。

 士道はあごに手を当ててから、インカムを小突いた。

 

「……なあ、琴里。休憩する場所なんだが、うちでも大丈夫か?」

『……ま、他に場所はないでしょうしね。いいわ、特別に許可するわ』

「おう」

 

 短く返答すると、士道は四糸乃に話しかけた。

 

「じゃあ……いくか」

 

 四糸乃は無言のまま、小さく頷いた。

 

 

「えっと……卵と、鶏肉があるのか。飯もまだ残ってるし……あ、玉ねぎもあるな。よし、親子丼にでもするか」

 

 冷蔵庫の中を見回してすぐにメニューを決め、必要な材料を取り出すと、キッチンへと並べる。

 そしてフライパンをコンロに置き、火をつけた後、リビングの方をちらりと視線を向ける。

 そこには、ソファに座りながら、物珍しそうに辺りを見回す四糸乃の姿があった。

 士道は、家に帰ってからすぐに私服に着替えたのだが、四糸乃の装いは先ほどと同じウサギのコートだった。

 琴里に聞いた通り、あれだけ雨を浴びていたにもかかわらず、少しも濡れていない。十香の光のドレスと同じように、霊装というやつの影響なのだろうか。

 

「ちょっと待ってくれ。すぐに出来るから」

「……?」

 

 士道が皮を剥いた玉ねぎを刻みながら言うと、四糸乃は不思議そうに首を傾げた。

 

「よし……やるか!」

 

 士道は軽く息を吐くと、調理を開始する。

 水で割っためんつゆを熱し、そこに切り終えた玉ねぎと鶏肉を投入。火がある程度通った頃で溶き卵を流し入れる。

 そしてご飯を盛ったどんぶりにそれを流し入れ、最後にみつばを散らして、完成。

 もう慣れた作業である。十分もかからずに調理を終える。

 

「ほい、できた。しっかり腹ごしらえして、早いとこよしのんをみつけような」

 

 言いながら、両手にどんぶりを持ってリビングへ。

 四糸乃の目の前に一つ、その向かいの席に自分のものを置き、再度台所に足を運び、箸と、念のためにスプーンを持ってリビングに戻る。

 

「さて……んじゃ、いただきます」

 

 士道が手を合わせて言うと、四糸乃もその仕草を真似るようにペコリと頭を下げた。

 そしてスプーンを手に取り、親子丼を一口、口に運ぶ。

 

「……!」

 

 すると四糸乃は目をカッと見開いて、テーブルをペシペシと叩いた。

 

「ははは、そんなに美味しかったか」

 

 士道がそう言うと、四糸乃はこくこくと首を縦に振る。

 どうやら気に入ってもらえたようだった。

 よほど腹が減っていたのだろう。四糸乃は小さな口を目一杯開けて、食べ始める。

 そして数分ほど経ち、四糸乃の食事が終わるのを見計らうようにして、エルエルフが喋りかけてくる。

 

『五河士道、まだ休憩するのだろう? 出来るだけ情報が欲しい。ちょうどいい機会だから、いくつかターゲットに質問をしてくれないか』

「質問?」

 

 士道が小さな声音で問いかえすと、コンソールを操作する音ともにエルエルフが質問事項を提示してきた。

 それを全て目を通し、「なるほど……」と小さく言った。

 そして士道は、どんぶりを空にして満足そうに腹をさすっている四糸乃に目を向けた。

 

「なあ……四糸乃。ちょっと聞きたいことがあるんだがーーいいか?」

 

 四糸乃が、不思議そうに小首をかしげる。

 

「その……随分大事にしているみたいだけど、あのパペットって、どんな存在なんだ」

 

 士道がそう聞くと、四糸乃は恐る恐るといった調子で、たどたどしく唇を開く。

 

「よしのん、は……友だち……です。そして……ヒーロー、です」

「ヒーロー?」

 

 士道は聞き返すと、四糸乃は頷く。

 

「よしのんは……わたしの、理想……憧れの、自分……です。わたし、みたいに……弱くなくて、わたし……みたいに、うじうじしない……強くて、格好いい……」

「理想の自分……ねぇ」

 

 士道は頰をかいて、デパートの中で四糸乃と会った時のことを思い出す。

 確かにパペット越しで話していた四糸乃と、今の四糸乃では、口調から態度までまるで別人だ。でもーーーーーー

 

「俺は……今の四糸乃の方が好きだけどなぁ……」

 

 十香が現れたときのパペットがのたまった冗談の数々を思い出し、苦笑する。

 あの時の四糸乃は陽気で話しやすかったが、もうアレは自勘弁だった。

 だが士道がそう言った瞬間、四糸乃は顔をボンっ! と真っ赤に染めてフードを引っ張って顔を隠す。

 

「四糸乃……? どうしたか……?」

 

 士道が顔を覗き込むようにしながら声をかけると、四糸乃がフードを握っていた手を離し、ゆっくりと顔を上げる。 

 

「……そ、んなこと、言われた……初め……った、から……」

「そうなのか?」

 

 四糸乃が、深く首肯する。

 

『士道、今の……計算?』 

 

 琴里が心底感心しているように、士道に問う。

 

「は? 計算? 何を言ってんだ……?」

『……いえ、違うなら大丈夫だわ』

「は、はあ……?」

 

 よくわからない妹である、自分はただ思ったことを言葉にしただけなのに。

 

『気にしないで。それよりも四糸乃の好感度も順調に上がってるわ。あと一歩よ、頑張りなさい』

「なあ、四糸乃ーー」

 

 と、士道が四糸乃に声をかけた時。

 

「シドー……! すまなかった、私はーーーー」

 

 突然扉が開かれたかと思うと、朝方家を出たはずの十香が、肩で息をしながら、リビングに入ってくる。

 そして、向かい合う士道と四糸乃の姿を見るなり、ぴき、と身体を固まらせた。

 

「あ」

 

 一瞬。それで士道は理解した。

 

「……ひ…………っ」

 

 四糸乃も異常を感じたのだろう、後ろを振り返り、小さな声を漏らす。

 しかし、それも仕方ない事だろう。四糸乃にとって十香は、パペットを取り上げた怖い相手であるはずだしーーーーそして何より、リビングの入り口に佇む十香からは、士道に向けて凄まじいプレッシャーが向けられていたのだから。

 

「……」

 

 十香は無言のまま、いやに穏やかぁーな笑みを作ると、そのままゆっくりとした足取りでリビングに入ってくる。

 ビクッ、という感触が手に伝わる。どうやら四糸乃が身を震わせたらしかった。

 

「と、十香。ち、ちちち違うんだ。これには訳が」

 

 なんだか浮気現場に踏み込まれた男のような心境になって、士道があたふたと手を動かした。

 しかし十香は、そんな二人に十香は二人の脇を通り過ぎると、リビングを抜けてキッチンに向かい、冷蔵庫や棚からありったけの食料と飲み物を持ち出し、そのまま廊下へ出ていってしまった。

 扉の先から、ダダダダダダっ、という足音が聞こえーーーーそれが二階に到達したかと思うと、今度はバァン! と、乱雑に扉を閉めたような音が聞こえてくる。

 どうやら、また部屋に閉じこもってしまったようだ。

 今度は、十分に食料を蓄えての籠城だ。

 

『……厄介なことになったわね』

 

 右耳に、若干ため息交じりの声が聞こえる。

 

「ど、どうすればいいんだ?」

 

 士道は困惑気味に言うと、エルエルフが冷静に答える。

 

『とりあえず、今は放って置くしかないだろう。今、五河士道が声をかけても、多分逆効果にしかならない』

「そ、そうか……ってあれ?」

 

 四糸乃の姿もどこにもない。

 

『どうやら、十香がよっぽどトラウマになっているようで、ロストしてしまったらしい』

「な、なるほど」

 

 ふぅ、と息を吐き、士道はある違和感に気づき、眉をひそめた。

 士道は口元に手を当て、少しの間考える。

 そして唇を動かした。

 

「なあ、琴里。一つ気になる事があるから調べてもらっていいか?」

『何?』

 

 士道は簡潔に、頭に浮かんだ疑問を伝える。

 

『……ふーん。分かったわ。令音が戻ってきたら調べてもらいましょ』

「じゃ、よろしく」

 

 士道が言うと、琴里が何かを思い出したかのように話を続けてきた。

 

『……ああ、そうそう。十香の乱入で言いそびれたけど、一つ朗報があるわ』

「あ?」

『映像を洗ってみたところ、パペットの所在が判明したの』

「本当か!? それはいったいどこに!」

『それはねーーーーーー』

 

 琴里が発した言葉に、士道は頰を痙攣させた。

 

 

 

 

    




次回『注文の多い鳶一家』
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