デート・ア・ヴァルヴレイヴ   作:とりマヨつくね

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はい、投稿。
今話は長くなりそうだったので二話に分けて投稿します。
それでは早速、本編へ……どうぞ


注文の多い鳶一家

「ここ……で、合ってるよな……?」

 

 左手に菓子折りの入った紙袋、右手に地図のかかれたメモ用紙を持った士道は、目の前に聳えるマンションを見上げる。

 しかし、それにしても。

 

「なんでまた、こんな泥棒猫みたいなことしてるんだろうな……」

『仕方ないでしょ。鳶一宅に招き入れられるのなんて、士道くらいしかいないんだし』

 

 ぼやく士道に、右耳に装着したインカムから、琴里の声が聞こえてきた。

 そうーーーー今士道は、鳶一折紙の自宅であるマンションを訪れていた。

 四糸乃が消失した際の映像を解析してみたところーーーーーー基地に帰投する折紙が、パペットを拾い上げ、持ち去ったことが分かった。

 それをどうにか入手する為に、わざわざ折紙に家に行っても良いか聞いて、家に招いてもらうことになったのだ。

 

「……というか、そもそも俺が行く必要無いんじゃないか? パペット一つ取るくらい簡単にーーーーーー」

『……やったわよ、とっくに』

「は?」 

 

 溜息混じりに発せられた言葉に、士道が首を傾げ、それに答えるようにエルエルフが言う。

 

「数日前から三度にわたって侵入を試みたが、その全てが失敗に終わった。ーーーー部屋中に赤外線が張り巡らせ、催涙ガスは噴射されている。さらには要所にセントリー・ガンまで設置されて……優秀な<ラタトスク>の機関員六人が全員病院送り……一体何と戦ってるのだ、彼女は?』

「は、はあ……」

『数に物を言わせて強引に押入れば奪取は可能でしょうけど───向こうからお誘いいただけるなら、それに越したことはないじゃない? それにいざという時には、ヴァルヴレイヴ組を派遣するから安心しなさい』

「「「任せて(ろ)」」」

 

 インカム越しから、ヴァルヴレイヴ組の声が聞こえる。

 ちなみにキューマとライゾウとは昼食を共にして、すぐに打ち解けた。

 

「……了解」

 

 基本的に小心者である士道からすれば、同じクラスの女子に行くと言うのは、大変気が済まない。

 しかし、あの不安そうな四糸乃を顔を見てしまっては、そうも言ってられない。

 それにーーーーーー士道自身、一度折紙と話をしておきたいこともあった。

 と、もう一つ気になることがあって、士道は琴里に問いかけた。

 

「十香の様子はどう?」

『相変わらずよ。部屋に籠もってるわ』

「……そうか」

 

 士道は困ったように頰をかいた。

 先日、十香に四糸乃を家に招いていたことを見られてしまったことで、戻りかけていた機嫌をまた損ねてしまった。

 そしてそれからというもの、学校には来ているが避けられているような状況に陥っているのである。

 本当なら今すぐにでも誤解を解きたいが、今はこちらが先決だ。

 

「ーーーーよし」

 

 士道は覚悟を決めて自動ドアをくぐり、エントランスに設えている機械に、折紙の部屋番号を入力する。 

 と、すぐに折紙の声が聞こえてきた。

 

『だれ』

 

 やけに素っ気ない声だった。

 

「俺だ。五河士道だ」  

『入って』

 

 短く応えた士道に、折紙はすぐにそう言葉を返して、エントランス内側の自動ドアが開く。

 士道は、促されるままにマンションに入ると、そのままエレベーターに乗って六階まで上がり、指定された部屋番号の前に到着する。

 

「なんか……すんなり行けちまったんだが……」

「ええ……何事もなかったわね』

「…………」

 

 士道は琴里にそう言うと、琴里もその事に驚いて困惑する声が聞こえてくる。

 エルエルフは何も言ってこなかったが、心底驚いているのはなんとなくわかった。

 

「じゃあ、サポートをよろしく頼むぜ」

『ええ、任せてちょうだい』

 

 言うと、琴里がそう返してくる。

 そして士道は呼び鈴を鳴らす。

 するとすぐさまーーーー折紙が玄関で待ち構えていたかのようなタイミングで、扉が開けられた。

 

「お、おう鳶一。悪いな、今日は無理を言っちゃっーーーーーー」 

 

 士道は軽く挨拶しようとし、思わず右手に持っていた菓子折りを落としてしまった。

 その理由は単純にして、明快。目の前の折紙の格好が明らかに普通のそれとは逸脱していたからだ。

 一言で言えばメイド服。だが、ただのメイド服ではなかった。

 そのメイド服は可愛い系のメイド服よりも更に短い、もはや水着といっても差し支えないほど露出が激しいものだった。

 

「と、と、鳶一!? なんでそんな格好をしてるんだよ!!」

「変?」

「変だよ!」

 

 士道は堪らず叫んでしまう。

 対する折紙は、「そう……」と小さく相槌を打つだけだった。

 

「入って」

「お、おう」

 

 折紙は今の一連の流れをなんらきにするそぶりも見せず、士道を部屋の中へ招き入れた。

 

「お、お邪魔します……」

 

 士道は地面に落としてしまった菓子折りを拾うと、靴を脱いで部屋に上がった。

 そこで右耳のインカムにノイズが聞こえる。

 

『ーーーーーどう……、くっ……まさか、ジャミングーーシド……、お……しs」

 

 ぷつん、とそこで通信が途切れてしまった。

 唯一まともに聞こえたのは、ジャミングの部分。

 つまりは現在、<フラクシナス>のサポートを受けることができないことだけは士道にもわかった。

 

「……? どうしたの」

 

「い、いや……」

 

 士道はさっき以上に強い覚悟を持って、足を進めた。

 

 

「……? なんだ、この匂い?」

 

 部屋に入った士道は、鼻腔をくすぐる匂いに足を止めた。

 食べ物の匂いといった感じではない。どちらかと言えば、香水やそれに近い。

  

「どうしたの?」

 

 再び振り向いた彼女に、士道は言った。

 

「鳶一、お香でも焚いてるのか?」

「そう」

「へ、へぇ……」

 

 勝手なイメージだが、士道の中の折紙はこういった嗜好品はあまり興味ないと思っていたから、少し意外だなと思った。

 それにしても……この匂いを嗅いでいると、頭がぼーっとするのはリラックス効果によるものだろうか。

 

「座って」

「あ、ああ……」

 

 言われて、リビングの中央に置かれていた背の低いテーブルの前に座る。

 

「…………」

 

 そして、士道が座ったのを見届けてから、折紙も腰を降ろした。

 士道の、すぐ隣の椅子に。

 

「……何で隣に座るだ?」

 

 士道は頰をひくつかせながら折紙に言うが、彼女からの返答が返ってくる。

 

「ここは、私の家。だから何処に座ろうと自由」

 

 確かにそうであるが、女子が隣に座っている(ほぼ水着のようなメイド服で)この現状が、思春期男子である士道にとっては大変よろしくないのである。

 とりあえず、何かはさなければいけないだろう。 

 士道は必死に思考してーーーー閃く。

 

「な、なあ、鳶一」

「ダメ」

「あ?」

「夜刀神十香のことは名前で呼んでいるのに、私のことは苗字で呼んでいる。これはとても不平等。直ちに修正を求める」

「は、はあ?」

 

 なんとも回りくどいが、要するは自分も名前で呼んで欲しいということなのだろう。

 少し気恥ずかしいが、まあ……その程度なら問題ないだろう。

 

「じゃ、じゃあ、折紙……」 

「なに」

 

 呼びかけると、折紙は息がかかるほどの距離まで顔を近づけ、思わずドキッとしてしまう。

 士道は心を落ち着かせるためにわざとらしく咳をし、折紙とは反対の方向へ顔を反らしながら口を開く。

 

「なんで折紙はASTに入ろうと思ったんだ?」

 

 士道が聞くと、折紙の目がいつもより真面目なものになった。

 

「あなたは、五年前の天宮市の南甲町の大火災のことを覚えている?」

「え……」

 

 士道は眉をひそめた。士道も昔、そこに住んでいたことがあったためだ。

 確かに五年前の火災で家が燃えてしまい、今住んでいる家に引っ越して来たためだ。

 だが……それと精霊がどう関わってくるのだろうか。

 

「公式には伏せられているけれど、あの火災はーーーー精霊が起こしたもの」

「なっ……!」

 

 士道は驚愕で目を見開いた。

 

「その身に、真っ赤な炎を纏った精霊。私はーーーーその精霊に全てを奪われた。家も、大切にしていたぬいぐるみも、両親すらも。私は、精霊を絶対に許さない。精霊は全て、私が倒す。もう、私と同じ思いをする人は、作らせない」

 

 静かな、しかし強固な意志を思わせる声でそう言い、折紙は拳を握る。

 

「そして、無論それはーーーー夜刀神十香も例外ではない」

「なっ……」

 

 不意に十香の名前を出され、士道は目を丸くした。

 

「彼女は今、精霊とは認められていない。だけど私は彼女の存在を容認できない」

「……っ、で、でも、今の十香は天使の力もなければ、空間震だって起こせない。ただの普通の女の子じゃないか。折紙、この一ヶ月でそれは十分理解できるだろう」

 

 士道がそういうと、折紙は首を傾げた。

 

「なぜ、あなたにそんなことがわかるの?」

「そ、それは」

 

 余計なことを言いすぎた。士道はお茶を濁す言葉を考えて目を泳がす。

 しかしそれは折紙にはお見通しのようで、間髪入れずに抑揚のない声で続ける。

 

「ちょうどいい機会。私もあなたに訊きたいことがある」

「な、なんだ……?」

「四月二一日。私は作戦遂行中に、あなたがヴァルヴレイヴと一緒にいたのを見た」

「……っ!? その名前を一体、どこで」

 

 その日付と単語に士道は背を凍らせ、折紙の言葉を遮って言った。

 なぜならその日は、十香がこちらの世界に静粛現界してデートした日……そして十香の精霊の力を封印した日である。

 

「あなたは、一体何者?」

 

 静かな瞳でジッと士道を見据えながら、折紙が言う。

 

「や、その……それは」

 

 <ラタトスク>のことを漏らす訳にはいかない。士道はしどろもどろになりーーーー

 

「……」

 

 士道は、下唇を噛んで心を落ち着かせる。

 ここまで来たら、恐らく折紙に隠し事はできないだろう。

 ならば……。

 

「折紙……信じてもらえないかもしれないけどーーーー少し、俺の話を聞いてくれないか」

 折紙は、微塵の逡巡もなく首を前に倒した。

「ん……その、だな。自分でもよくわからないだけど……どうやら俺には精霊の力を封印する力があるらしいんだ。それで、ヴァルヴレイヴの正体はハルトだ」

「精霊の力を……それに時縞ハルトが……」

 

 折紙は顔の表情を変えていなかったが、心底驚いているのは分かった。

 当たり前といば、当たり前だろう。だが士道は気にせず、言葉を続ける。

 

「それで封印をするために、俺とハルトはある所の協力してもらっているんだ」

「非常に危険。やめるべき」

 

 折紙は表情を変えてないが、抑揚のない声で注意してくるが、士道は、首を横に振った。

 

「ーーー鳶一。お前は、一度でも四糸乃と話したことがあるか……?

「四糸乃?」

「ああーーー〈ハーミット〉って呼ばれている精霊の事だ」

「ない」

「ーーーだろうな。名前だって知らなかったんだから」

 

 身体ごと折紙に向き直り、続ける。

 

「頼む。少しだけ、少しだけでいい。今度四糸乃が現界したら、アイツと、話をしてやってくれ。ーーーお前が言うように、悪い精霊だっているのかもしれない。でも、十香や四糸乃はーーー、何て言えば良いのかよく分かんねえけど……、すげえ、良い奴なんだよ……! 人間にだってそうはいないくらい、滅茶苦茶、優しく奴らなんだよ……っ!」

「……」

 

 折紙は何も言わずに、至極落ち着いた様子で士道を見つめてくるだけ。静かに、しかし不思議と冷たさは感じない、不思議な色の眼差し。

 

「そうかーー俺……」 

 

 士道は、改めて折紙に目を向けた。

 

「俺は……四糸乃をどうにかして助けてやりたいし、十香の事を認めてやって欲しいとも思っている。でも、それと同じくらい。鳶一、お前にーーーそう、お前に、あんな良い奴らを、殺して欲しくないんだ……っ!」

「……」

 

 折紙は沈黙を貫く。

 

「お前だって、すげえ良い奴なんだ・・・・! 俺のように、偶然や運の良さで力を得たんじゃない。目の前の人で手一杯の半端者でもない。まだ高校生だってのに、世界を守るために戦っているんだぜ? そうそうできる事じゃねえよ。マジで尊敬する」

 

 そう。折紙は間違っているだなんて、士道には言う資格がない。

 五年前に精霊によって両親を亡くしーーーもう、自分と同じ人間は作りたくないと、人を守るために武器を取った気高い少女。

 その決意は、精霊を救いたいと思っている士道と同じ、安く薄っぺらな言葉で汚していい筈がない。

 でも、それでもーーー

 

「なんで……なんでこんなことになっちまってるんだろうな……。誰も、誰も悪い奴なんていねえんだ。十香も、四糸乃も、鳶一、お前だって、皆、優しい奴らなのに」

「それはーーー」

 

 言いかけて、折紙は喉を小さくコクンと鳴らしてから続けた。

 

「それは、仕方ないこと」

「……っ」

「仮に、貴方の言う事が本当で、〈ハーミット〉がこちらとの闘争を望んでいないとする。ーーーしかし、彼女が精霊である以上、空間震発生の危険性は、必ず残る。彼女達の為に、何人もの、何十人もの人間の命を危険に晒すことは、私達にはできない」

 

 あまりにも、そして残酷なほど現実的で、合理的かつ理論的な至極当然とした主張。琴理やエルエルフも、同じような事を言っていた。

 きっと、いや恐らく、間違っているとしたら士道の方なのだろう。

 士道は額についていた手を目元に滑らせ、表情を隠すようにしながら奥歯をギリと噛み締めた。

 頭では、折紙の言っている事が理解できる。だがどうしても、納得できなかった。

 

「ーーー最後に1つ、確認させてくれ」

 

 折紙は、不思議そうに首を傾げた。

 

「十香みたいに、精霊の力が確認できなくなったらーーーもうその精霊に、攻撃することはないんだな?」

「……」

 

 折紙は、しばしの間黙ってから返してきた。

 

「私としては本意ではない。反応が消えてからと言って、精霊を放置するのは危険過ぎる」

「……っ、そんなーーー」

「ーーーしかし。上層部の方針として、精霊の反応が確認できない限り、それは人間と認めざるを得ない。私の独断で攻撃をすることはできない」

「つ、つまり?」

「その質問には、肯定を示す」

 

折紙が、落ち着き払った様子のまま言い、士道は無意識のうちに、唾液を飲み込み、拳をぐっと握っていた。

 

「ーーーありがとうよ。今は、それが聞ければ十分だ」

「そうーーー今日うち来たいと言ったのは、それが目的?」

 

 折紙は短く言って、少しだけ、ほんの少しだけ瞼を落とし、そんな事を言ってきた。

 抑揚のない声に変わりないのに、なぜかそこはかとなく不機嫌そうな雰囲気だった。

 

「っ、や……そ、そんな事はないぞ。今日来たのは、鳶一と話をするためで……」

 

 さすがによしのんの事は言えないが、嘘は吐いていない。

 

「…………」

 

 折紙は、士道の言葉を聞くなり、少し刺々しくなっていた雰囲気を一瞬で霧散させた。

 そして、再度士道ににじり寄ろうとするが、そこで。

 

ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーー

 

 と、外から空間震警報が鳴り響いた。

 

「く、空間震警報・・・・?」

「…………」

 

 折紙は数瞬の間黙りこくると、小さく息を吐いてその場を立ち上がった。

 

「折紙……?」

「ーーー出動。貴方は早くシェルターへ。それとーーーー」

「?」

「今日のことは私の心の内にしまっておく。これは私がASTに所属していることを黙っていてくれる礼だと思ってほしい。だからーーー」

 

 そこまで言ったところで言葉を遮り、折紙は廊下を出ていった。

 

「そうだ、よしのんを……!」

 

 残された士道は、折紙が家を出ていった事を確認すると、本来の目的であるよしのんを探し始めた。

 

 

  

  

 

 

 




今回は少し長めのあとがきを。
いや〜、折紙さん久しぶりに登場回と言うわけで、楽しんでいただけたでしょうか?
……原作でも変態じみてた折紙はさらなるΩカルマを貯めてやがる……。
本当に本当にあと二話ぐらいでハルトをまともな登場ができるので、少々お待ちを。
それはそうと、う〜ん、今回の話は賛否でそうだなと感じましたがどうでしょうか?
改善点をやさ〜しく教えてくれると嬉しいです。
あと、補足というか今回に合わせて、二十二話を修正させました。
またチャラチャラ〜と呼んでくれると嬉しいです。 
それでは次回『氷塊をも溶かす光』で会いましょう

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