デート・ア・ヴァルヴレイヴ   作:とりマヨつくね

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いつも応援ありがとうございます。
あと、今回の内容に合わせて三十二話の内容を少し変えましたので、先にそちらを見た方がいいかもしれません。
それでは本編へ



切り開く光、溶かす心①

「あった……!」

 

 士道はよしのんを見つけると、それを手に取る。

 とりあえず本来の目的は達成した。だが、安堵している暇はない。

 きっと今も四糸乃はASTに殺されそうになり、そうはさせないとハルト達が食い止めてくれているはずだ。

 士道は急いで折紙の自室を出ると、さっきまで小さなノイズしか拾わなかったインカムから琴里の声が聞こえた。

 

『何をやっていたの! このすかぽんたん! ハルト達が血反吐吐きながら必死に働いているのにあなたは……! それに〈ラタトスク〉の機密情報もほいほいーーーー』

「あとで、説教でもペナルティーでもなんでも聞いてやるから、四糸乃がどこにいるかだけ教えてくれ!」

 

 士道が声を上げると、琴里は驚いたように数秒の沈黙のあとーーーー

 

『へえ〜、やっと覚悟が決まったのね?』

「ーーーー」

 

 琴里の問いに、今度は士道が沈黙を通す。

 

『まあ、なんでもいいわ。令音、士道を回収してちょうだい。エルエルフは、ハルト達に士道の降下ポイントまで四糸乃を誘導するように連絡」

『了解(した)』

『それと神無月、あなたは何をしているの……かしら!』

『ああ〜ありがとうございます!!』

 

 ゴスッ! と鋭く鈍い音と共に神無月の恍惚そうな声が聞こえる。

 その後、何事もなかったかのように琴里が言葉を続ける。

 

『……今話した通りだけど、わかったかしら?』

「……お、おう」

 

 本当なら色々聞きたいことがあったが、その気持ちをグッと抑えて曖昧に返答する。

 それと同時に、士道は妙な浮遊感に包まれる。

 転送される合図だ。

 

「みんな……無事出会ってくれよ」

 

 士道は、遥か遠くで聞こえる爆発音の先の場所に目を向け、小さく呟き仲間達の安否を心配した。

   

 

 赤い残光が通り過ぎた瞬間、四糸乃に放たれた無数のマイクロミサイルが全て無力化される。

 続いて、青と黄の残光がお返しと言わんばかりにビームを放つ。

 そのビームはAST隊員が持つミサイルガンのみを貫く。

 折紙もその例には漏れず、すぐに貫かれたミサイルガンを手を放し、距離を取る。

 そして誘爆によって爆風を防御随意領域で、多少の吹き飛ばれる程度まで衝撃を減らす。

 

「くっ……なら……」

 

 折紙は体勢を立て直し、背部のバックパックからガトリングを握る。

 そして照準を残光を放つ存在……ヴァルヴレイヴ、そしてその奥で怯えている<ハーミット>に向ける。

 だがすぐに殺気を感じたのだろうか、ヴァルヴレイヴ<火人>が刀のような武器を手に、接近してきた。

 折紙にはその行動が予測できていたため、すぐにガトリングから近接用の<ノーペイン>に持ち替えて相対する。

 二つの剣がぶつかり合い、折紙と<火人>は目が交差する。

 数秒の鍔迫り合いの後、折紙が問う。

 

「一つ、聞かせてほしい。あなたは時縞ハルトなの」

「……! どうしてそれを」

 

 <火人>……いや、クラスメイトの時縞ハルトは驚いた様子で言う。

 そんなハルトの反応を気にせず、折紙は問いかける。

 

「どうしてあなた達は私たちを邪魔するの。精霊は世界を滅ぼす、それは分かっているはず」

「……」

「あなた達にどのような意図があるかは知らない。だけど、彼を……士道を巻き込むのはーーーーーー」

 

 やめてほしい、そう、ハルトに告げようとした時。

 

「それは違う!」

 

 と、ハルトが否定する。

 

「確かに、最初は巻き込まれただけかもしれない。だけど今の士道は、たった一人の女の子を救うために世界を敵に回す覚悟がある。昔、僕が()()がそうしたように……! だから僕はそんなどうしようなく甘い幻想を持った僕の友達のために戦うんだ」

「……!」

 

 その時、折紙は不思議な感覚に覚えた。

 いつもなら否定から入るはずなのに、今のハルトの言葉を聞いた途端、なにも言い返せなくなってしまった。

 折紙は珍しく動揺していると、周囲の冷気が増したことに気づいた。

 それにはハルトも気づいたようで、二人は冷気の根源へと視線を向ける。

 その視線の先には<ハーミット>の天使である、巨大なパペットが姿を現していた。

 折紙は先ほどまで感じていた迷いを振り払い、その場を立ち上がった。

 そして本来の目的である<ハーミット>を突撃しようとしたところで、<ハーミット>の天使に異変が起きる。

 

「これは……!」

 

 折紙は、完全に冷気が天使を覆う前にガトリングを連射するが、それは<火打羽>が両肩の盾で防がれる。

 そして<ハーミット>を乗せた天使が、凄まじいスピードで氷の上を逃げてしまった。

 

「くっ……追いかけるわよ!」

 

「「「「了解」」」」

 

 折紙達は脳内に指令を発すると、背中のスラスターユニットを稼働させた。

 その後を三つの光が追跡するのだった。

 

 

「……ッ!?」

 

 五河家二階奥の部屋で眠っていた十香は、不意に鳴り響いた爆発音にハッと顔を上げた。

 

「なーーーーーなんだっ……!?」

 

 急なことに驚いて身を起こし、ガラガラッ、と音を立てて窓を開ける。

 そこで、十香は思わず身を震わせた。

 何かに途方もない恐怖を感じたというよりは、窓から入り込んできた風の、予想外の冷たさに身体が震えたのである。

 異常なほどに、気温が下がっている。十香は怪訝そうに眉をひそめながら外を見渡した。

 

「こ、これは……」

 

 視界一面に雨が降り注ぎ、しかも、地面に触れた雨粒が、一瞬のうちに凍りついている。

 

「一体、何が起こっているというのだ……」

 

 と、そこで、ふと先程のことを思い出す。

 昼寝をしていた際、何やら警報のような音が鳴っていた気がする。

 夢か何かかと思っていたが、あれは……

 

「警報……というやつだったのか……!? ならばこれが……空間震?」

 

 タマちゃん教諭に聞いていた爆発云々とは随分イメージが異なっていたが、見るからに異常な事態である。早くシェルターとやらに避難せねばなるまい。

 とーーーーー十香が部屋から出ようとしたその時。

 

「……っ!?」

 

 窓の外を奇妙なモノが凄まじいスピードで通り過ぎていった。

 ずんぐりしたフォルムの、全長三メートルはあろうかという人形である。しかもその背に、緑色のコートを着た少女を乗せていた。

 

「あれは……あのときの」

 

 そう、あれは、士道と会っていた少女だった。

 それを認識すると同時、十香は、心臓がどくんと震えるのを感じた。何の根拠もない。だけれど、なぜだろうかーーーあの少女のもとに、士道がいる気がしてならなかった。

 

「……っ」

 

 十香は唇を噛むと、部屋の外に飛び出していった。

 

◇ 

 

「なんだ……こりゃ……!?」

 

 <フラクシナス>から再転送された士道は、外は五月とは思えない一面の銀世界となっていた。

 それも雪が積もったと言うわけでなく、ただ単純に凍りついているのである。

 

「士道!」

 

 声が聞こえて振り向くと、ヴァルヴレイヴを身に纏ったハルトが降下していた。

 

「ハルト、無事だったのか!」

「問題はないよ。でも状況は見ての通り、あまりいいとは言えない。今、四糸乃が暴走して辺り一帯を凍らせてる。このままじゃ、本来なら排水されるべき雨水まで取り込んで凍結しているから、このままの状態が続けば、地盤や地下シェルターの方にも深刻な影響が出る可能性がある。あまり悠長にしてられない」

『ーー四糸乃を止められるのはあなたと、そのパペットだけよ。行ってくれるかしら?』

「さっきも言っただろう。四糸乃も、街も、あのままにしておくわけにはいかない」

『シン、私の方からも、一ついいかな?』

 

 と、インカムから令音の眠たげな声が聞こえた。

 

『……色々と調べてみたんだがーーどうやら、君の疑問があながち間違っていなかったようだよ』

 

 疑問ーーというと、先日四糸乃が家に来た時、士道が言ったことだろうか。

 そう言えば琴里が、令音に調べてもらうと言っていた気がする。

 

「まずは結論から言おう。君の予想は概ね合っていたよ。四糸乃はーー」

 

 令音が、簡潔に事態を説明してくる。

 それを聞くと同時に、心臓がぎゅうと締め付けられる感覚が、士道の身体を通り抜けた。

 だがーー不思議と驚きはない。

 あるのは、ああ、四糸乃ならば、という納得とーーやはり彼女を救わなければいけないという、確信だった。

 

「琴里……」

『ーーよろしい。それじゃあハルト、士道のタクシーよろしくね』

「あぁ、任せて」

 

 ハルトは言葉を返すと、士道の事を担ぐ。

 

「うおぉ……!」 

「士道、舌を噛まないようにね」

「あ、ちょ、ちょっと待て、まだ気持ちがあああああああああ!」

 

 士道の絶叫のと共に、四糸乃の進行方向に飛び上がった。

 

 

 

 四糸乃の進行方向に先回りしたハルトは、とりあえず士道の事を置いて一度離れる。

 

『ーーー来るわよ』

 

 琴里の言葉から程なく、遠くに、巨大なシルエットが見えてくる。無機質なフォルム、そして頭部にはウサギのような長い耳。間違いなく四糸乃の氷結傀儡だ。それを確認した士道は、喉を潰さんばかりに声を張り上げる。

 

「ーー四糸乃ぉぉぉぉぉッ!」

「……!」

 

 士道の声を聞いた四糸乃が、ピクリと反応を示す。存在に気づいたらしい氷結傀儡は士道の前で停止する。

 

「お、おう、四糸乃。久しぶりだな」

「……士道さ、ん……!」

 

 氷結傀儡に張り付いていた四糸乃は身をおこし、うんうんと首を縦に振る。

 

「四糸乃、おまえに渡したいものがあるんだ」

「……?」

 

 四糸乃の顔はぐしゃぐしゃになっていたが涙を袖で拭い、問うよう首を傾げる。

 

「あぁ、これをーー」

『「士道!」』

 

 パペットを取り出そうとした士道の耳に、琴里とハルトの声が聞こえてくる。

 その直後、士道の後方から四糸乃めがけて、光線のようなものが放たれる。

 ハルトは硬質残光によって防ごうとするが、それは四糸乃の肩口とほほのあたりをかすめ、後ろへ抜けていく。

 

「な……っ」

 

 士道が振り向くと、そこには仰々しい装備に身を包み、巨大な砲門を掲げながら浮遊している折紙がいた。

 

「おーー折紙……ッ」

『ーーそこの少年。危険です。その少女から離れなさい』

「AST、余計な事をっ!」

 

 四糸乃の視界に入らないよう待機していたハルトは、急いで邪魔なASTを排除しようとする。

 

「ぅーーぁ、ぁ、ぁ、ぁ……ッ」

 

 しかし、士道の目の前にいる四糸乃の様子が可笑しいことにも気づいてすぐ、凄まじい冷気をまき散らしながら氷結傀儡は後方へと滑っていった。

 

「エルエルフ! どうする!」

『時縞ハルトは、犬塚キューマと山田ライゾウと一緒に四糸乃を追跡、護衛を続行だ』

「わかっーーいや、待ってくれ」

 

 辺りの冷気を氷結傀儡が吸収しているのに気づいたハルトは、次に行われる攻撃が不味いものだと薄々察し、士道の元に行こうとした瞬間。氷結傀儡が凄まじい冷気の奔流を放ってきた。

 

「なーー」

 

 放たれた奔流は士道のに直撃する思ったが、奔流と士道の間に現れた巨大な玉座が、壁になっていた。

 

「さ、鏖殺公……?」

 

 士道は小さくその名を呼んだ。

 それは十香の天使であり、力を封印した今ではここにあるはずのないものだった。

 

「な、なんでこれがーーー」

『ーー簡単よ』

「琴里……? どういうことだ? 十香の力は、封印されてるんじゃなかったのか?」

『言ったでしょ。十香の精神状態が不安定になれば、士道から十香に、封印されているはずの力が逆流する可能性があるって。ーーフルパワーには程遠いけれど、まさか天使まで顕現させちゃうなんてね。……愛されてるじゃない、士道』

『そのようだな、現に五河士道の体内の霊力反応が弱まっている』

「だ、だからなんで十香の……って、そうだ。俺達も四糸乃を追わねぇとーー」

「シドー!」

 

 そこまで言ったところで上空から十香が下りてきたのだが……彼女の服は制服と霊装が合体したような奇妙なものに変化していた

 

「十香、それは……?」

「ぬ?」

 

 士道に言われて十香も初めて自分の変化に気づいたらしく、驚きの声を上げる

 

「おぉ!? なんだこれは! 霊装か!?」

 

 指摘されて、十香は初めて自分の様子に気づいたらしい。十香は驚きの声を上げる。

 しばしの間、ペタペタと霊装部分を触った後、士道の方に視線を戻した。

 

「そんなことよりーーシドー、無事か? 怪我はないか?」

「あ……あぁ。おかげさまで」

 

 士道は目の前に聳える玉座をを見上げながら答えると、十香はバツが悪そうに目を泳がせ、少し震えた声で言葉を続けた。

 

「その……なんだ、わ、悪かった……いろいろと」

「え……?」

「だから……! 私が、よくわからないことで苛ついてしまって……その、シドーに礼も言えず……迷惑をかけた、からーーずっと、謝りたかったのだ……」

「や……あれは、俺が悪いんだし」

 

 本当は丁寧に否定をしたかった士道だが、今は時間はない。

 

「ーー十香、頼みがある」

「ぬ……? なんだ、改まって」

 

 不思議そうに首をひねっている十香に対して、士道はためらうことなく深々と頭を下げた。

 

「し、シドー?」

「ーー頼む、俺に力を貸してくれ。こんなこと、おまえに頼むのは筋違いだってのはわかってる。でも、俺はーーあいつを、四糸乃を救ってやらなきゃならないんだ……っ!」

 

 士道の言葉をきいた十香は、少しの沈黙の後、小さな声で言葉を紡ぐ。

 

「四糸乃というのはーーあの娘のことか?」

「あぁ」

「……っ」

 

 一瞬息を詰まらせてから、十香は少し悲しそうな顔で言葉を続ける。

 

「……そうか。やはり、あの娘が大事なのだな。ーー私、より」

「……っ、誰がそんなこと言ったよ」

「え……?」

 

 士道は顔を上げて十香の事を真っすぐ見た。

 

「違ぇよ、そういうことじゃーーねぇんだ」

『士道。危険よ。十香に余計なーー』

『いや、今はアイツのやりたいようにやらしてやった方が良い』

 

 エルエルフが琴里の言葉を遮るが、士道はそれを無視して話を続ける。

 

「あいつはーー十香、おまえと同じなんだ」

「同じ……?」

「あぁ、四糸乃は、お前と同じーー精霊なんだ」

「……っ!? あの娘が?」

 

 士道の言葉を聞いた十香は、怪訝そうな声を発した。

 

「ーーそれだけじゃない。あいつも、おまえと同じように、自分の意思じゃどうにもならねぇ力を持っちまってるばかりに、ずっと苦しい思いをしてきたんだ……!」

「…………」

「俺はーーあいつを救ってやりたいんだ。あの、どうしようもなく優しいあの子を。でも、俺だけの力じゃ、あいつを追う事すらできない……ッ」

 

 そして士道は深々と頭を下げる。

 

「頼む、十香。力を……貸してくれッ!」

 

 少しだけ沈黙が流れるが、すぐに深呼吸のような音が聞こえてきた。

 

「……っ、はは……あぁ、そうか。そうだったな。なぜ忘れていたんだろう。──私を救ってくれたのは、こういう男だった」

「十香……?」

「ーーあの娘を、追えばいいのだな?」

 

 雨のせいで十香が何て言ったのか聞き取れなかった士道だが、十香は何も答えず。バッと身を翻した。

 

「……ッ、十香!」

「それ以上は言うな。時間が惜しい」

 

 十香は数歩移動してから、鏖殺公をガンッ! と蹴った。

 蹴られた玉座は前方に倒れながら、その形を微妙に変化させていった。

 

「こ、これはーー」

「乗れ。急ぐのだろう?」

「あ、あぁ……」

 

 士道は戸惑いながらも倒れた鏖殺公に乗った。

 その言葉と同時に、鏖殺公はすさまじい加速で凍った地面を滑り始めようとした時、

 

「待って!」

 

 と、ハルトが制止の言葉をかける。

 

「どうしたのだ、ハルト」

「今、エルエルフから連絡があったんだけど……厄介なことになった」

 




次回『切り開く光、溶かす心②』
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