デート・ア・ヴァルヴレイヴ   作:とりマヨつくね

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投稿、最近蒼穹ファフナーの漫画版を全巻買いました。
最終巻を見たとき、ふうーと息をついた後の空虚さよ……BEYONDと同等レベルだぞ
はい、ちょっとプライベート入れてしまってすいません。
それでは本編へ……どうぞ



狂三キラー
転校生は精霊


 イギリスにあるビル群、その中でも一線を画す高さを誇る建物。デウス・エクス・マキナ・インダストリー、通称DEM社はイギリス……いや世界でも一、二を争うほどの巨大企業だ。

 幅広い事業を展開しているが、中でも顕現装置においてはシェアの大半を占めており、自衛隊を初めとした各国の軍部にも提供している(無論、このことは表向きにはなっていないことであるが)。

 会社のビルの最上階にある社長室にて、一人の男が社長椅子に深々と座っていた。

 その男は漆黒のスーツに身を包み、くすんだアッシュブロンドとナイフの切り込みを入れたように鋭い双眸。歳は三十代前半に見えるが、彼が纏う雰囲気はどこか老練さを感じさせる不思議な男だった。

 彼の名はアイザック・レイ・ペラム・ウェストコット、DEM社の代表取締役である。そんな彼の光のない瞳はプロジェクターに映っていた映像に注視していた。

 モニターの中では金色の輝きを纏い、巨大な同色の刀を振るう極東のサムライ。人では扱えない『呪いの棺桶』───ヴァルヴレイヴ。

 

「ほう……RUNEの光も使用したか。これは間近で目にしたかったものだな……そう思わないかい? エレン」

 

 映像を見たアイザックは口角を三日月状に曲げながら、右斜めに立っている女性に語りかける。

 その女性はアイザックとは異なり、艶のあるノルディックブロンドの長髪が特徴的な女性。

 彼女の名前はエレン・ミラ・メイザース、アイザックの懐刀である第二執行部部長兼秘書である。またの名を『悠久のメイザース』。

 エレンは手元のリモコンで映像を停止させると、アイザックの方へと向いて答えた。

 

「……冗談を言わないでください。それよりも映像はここで途切れていますが、開発部がデータを元に()()()()()()()()の改良を行っています」

「そうか、それでエルエルフの様子はどうだったかな?」

 

 アイザックが言うと、エレンは眉を寄せる。

 

「……アイク、その名を言わないでください。虫唾が走ります」

「あはははは、相変わらず君はエルエルフとは仲が悪いみたいだね。懐かしいな……君とエルエルフが口喧嘩しているとエリオットが────」

「アイク!」

 

 アイザックの言葉を途中で止めるエレン。その表情は怒りで染まっていた。

 少しして、ある程度まで冷静さを取り戻したエレンは話を戻す。

 

「ところでアイク、次の手ですが────」

「ああ、もう聞いているよ。心配することはないよ──彼女なら、ね」

 

 

 唇を舐めると、汗の味がした。

 身体の周囲に展開されたテリトリーは、重力を初めとして、温度や湿度もおもいのままにコントロールする事が出来る。

 ゆえに、わずかとはいえ発汗が認められるということは、そんな外的条件以外の原因が考えられるということだった。

 

「……」

 

 鳶一折紙は呼吸を整えるように唾液を飲み込むと、手にした高出力レイザーブレード〈ノーペイン〉の柄をぐっと握り直した。

 今折紙の華奢な肢体を包むのは、着慣れた高校の制服ではなく、ワイヤリングスーツと顕現装置搭載ユニットだった。

 これを身に纏い、テリトリーを展開させた魔術師は、まさに超人といってもいい。

 だが─────今。超人であるはずの折紙は、完全に追いつめられていた。

 

「────さ、あと一人です。どこからでもかかって来やがってください」

 

 彼女は、足元には倒れたAST隊員を一瞥もせず、そう言ってきた。

 

 ─────祟宮真那。

 

 年の頃は十四、五といったところだろう。左目下の泣き黒子に飾られた利発そうな顔には、まだどこかあどけなさが見て取れる。

 だがその小さな体躯を包むのは、少女にはまるで似つかわしくない機械の鎧────CRーユニットだった。

 ここからは見えないが、周囲に広がった障害物の影には、無力化された八人のAST隊員が倒れているはずである。

 あまりに、圧倒的。まるで精霊を相手取って戦っているかのようですらあった。

 ───彼女がこの天宮駐屯地に配属されてきたのは、先月末のこと。

 曰く、陸自のトップエースである。

 曰く、顕現装置の扱いは世界でも五指に入る。

 曰く─────精霊を、単独で“殺した“ことがある。

 確かに話だけを聞けば、規格外の怪物だ。

 だが、出会いざまに「この中に一人でも、私に勝てる人がいるのか」だなんて言われたなら、精鋭を自負するAST隊員達が黙っていられるはずもなかった。

 ゆえに、真那の力を確かめるという名目で、一対十の特別演習が行われたのだ。

 折紙としては、正直あまり興味なかったのだが……

 

「……」

 

 無言で。折紙は、先日真那と交わした会話を思い起こした。

 真那がこの天宮駐屯地に配属になった日、ちょうど折紙たちは先日と、〈プリンセス〉の戦闘映像を見ていたところだった。

 そして真那が、映像に映っていた少年────五河士道を見て、言ったのだ。

 ───『兄様』、と。

 士道にこんな妹がいるだなんて聞いたことがない。のちに折紙がそのことを問うと、真那は驚いたような仕草を見せてから口を開いた。

 

(! 鳶一一曹は兄様とお知り合いなのですか!? ふむ・・・ええ、いいですよ、詳しく話しても。───ただし、今度の演習、あなたも参加しやがってください。それが条件です)

 

 そう言われては、選択の余地がなかった。

 結局、折紙も演習に参加することになったのだが───結果は、見ての通りである。

 九名が既に無力化され、折紙もまた、近接用レイザーブレード以外の装備を失っていた。

 反して真那は、未だ傷一つ負っていない。

 

「……さあ、このままでは時間切れになってしまいやがりますよ?」

 

 真那がふうと息を吐きながら、敬語になりきっていない敬語で言ってくる。

 このまま隠れていても仕方がない。折紙は身体を浮遊させ、真那の前に姿を現した。

 

「────お。ようやく腹が決まりやがりましたか?」

「……」

 

 折紙は脳内で司令を発し、背中のスラスターを駆動させる。

 もとより折紙の手に残った武器は〈ノーペイン〉一つのみである。接近戦を仕掛ける以外に道は残されていない。身体を前傾させ、凄まじいスピードで空を駆ける。

 

「潔し。嫌いじゃねーです、そういうの」

 

 真那は唇の端を上げて、折紙を迎撃した。

 ─────勝負は一瞬にして決まった。

 

 

「あ・ん・た・ら、ねぇ・・・・・」

 

 ピクピクと額に浮き出た血管を蠢かせながら、ビッ! と演習場から回収された鉄塊───真っ二つに断ち分かたれたスラスターユニットを指さす。

 

「模擬戦って言ったでしょうが! 何貴重な装備潰してくれてんの!」

 

 二人はしばしの間、燎子の指の先を眺めてから口を開く。

 

「生半可な方法では、祟宮三尉に隙を作ることは出来なかった」

「やはり模擬戦とはいえ本気でやらねーと、正確なデータはとれねーと判断し───」

 

 そこで、二人の頭が叩かれる。

 

「ご高説は、顕現装置搭載したユニットのお値段をちゃんと調べてから吐きなさい。ウチだって、予算が無尽蔵にあるわけじゃないのよ」

「了解」

「善処するです」

「ったく……」

 

 彼女は「以後気を付けるように」と残し、肩をいからせながら歩いていった。

 その背中が見えなくなってから、真那が不満げにぶー、と唇を突きだす。

 

「まったく、隊長殿にも困ったものですね。そんなみみっちいことだから、精霊にいいようにされちまいやがるんですよ」

「同感」

 

 折紙がうなずくと、真那は嬉しそうに唇の端を上げた。

 

「あなたとは気が合いそうです、鳶一一曹。こちとら、精霊なんて化け物を相手取ってるんです。金に糸目なんて付けやがったら、勝てるものも勝てなくなっちまいやがります」

 

 言って、大仰に肩をすくめた。

 折紙は無言で、真那の顔を改めて見直した。

 やはり……目鼻立ちというか、容姿が士道に似ている。

 だが、士道に妹は一人しかいなかったはずだ。

 会話を交わしたことはなかったが、何度か見たことがある。五河琴里。言わずもがな、真那とは別人である。

 だが────折紙データベースによると、確かに士道は養子だったはずだ。彼女が本当に士道の妹である可能性も、完全に否定出来なかった。

 

「祟宮三尉」

 

 折紙は、自然と口を開いていた。

 

「約束。あなたと士道の関係を教えて」

「士道・・・・? 誰ですか、それは」

 

 真那が首を傾げる。・・・おかしい。折紙は訝しげに続けた。

 

「先日見ていた〈ハーミット〉戦の映像、〈プリンセス〉戦の時に出てきた少年の名前。貴方が、兄様と呼んだ人。演習に参加したら、教えてくれるという約束」

「……っ、兄───様……?」

 

 と、真那が小さく眉をひそめた。

 

「どうしたの」

「いえ、少し、頭痛が・・・」

 

 言って、側頭部を手で押さえる。

 折紙はそんな真那の様子に見覚えがあった。───先月、映像で士道を見たときと同じだ。

 

「……っ、失敬失敬。もう大丈夫です。ええと、兄様のことでしたね」

 

 真那は、頭痛を放逐するように軽く頭を振ってから、ワイヤリングスーツの胸元をまさぐると、銀色の小さなロケットを取り出した。

 そして、それを開いてみせる。中には、小さな男の子と女の子の写真が入っていた。

 

「────士道」

 

 小さく呟く。そう、それは間違いなく、幼い頃の五河士道である。そして隣に写っている、泣き黒子が特徴的な女の子は───どう見ても、真那だった。

 

「これは?」

「昔の写真です。────生き別れた兄様の、唯一の手がかりです」

「詳しく、教えて」

 

 折紙が言うと、真那は困ったように頭をかく。

 

「すまねーのですが、あんまり覚えてねーのです」

「……? どういうこと?」

「いえ……実は私、昔の記憶がねーのですよ」

「……もしかして、記憶喪失?」

「平たく言えばそうなりやがります。───でも、あの映像を見た瞬間、思い出したのです。私は、あの方を兄様と呼んでいたことかある、と」

「ならばなぜ、あんな条件を」

 

 折紙が怪訝そうに問うと、真那はすまなそうに頭を下げた。

 

「いやー……鳶一一曹の実力を見ておきたかったのです。この部隊の中で一番やりそうなのがあなただったもので。────実際、期待以上でした」

 

「……」

 

 折紙は無言で真那の顔を見つめ返す。あそこまで圧倒的な差を見せつけられてから『期待以上』だなんて言われても、少し複雑である。

 と、真那が、上目遣いになりながら言葉を続けてきた。

 

「それで……鳶一一曹。ごめんなさいついでにもう一つお願いがあるのですが」

「なに」

「虫の良い話だと思うのですが、その……兄様のこと、知っていやがるのですよね?わかる範囲でいいので、教えてくれねーですか?」

「……」

 

 なんだか立場があべこべになっている気がするが……折紙は少しの間思案を巡らせてから、小さく首肯した。

 

「────名前は、五河士道。年齢十六歳」

「はい」

「家族構成は父、母、妹。現在両親は海外出張で家を開けている。家事全般が得意。趣味はトレーニングや野菜などの栽培」

「ふむ……」

「血液型はAO型のRh+。身長百七十センチ」

「……はい?」

「体重五十八・五キロ。座高九十・ニセンチ。視力は右ニ・○、左一・八」

「す、ストップストップ!そこまで聞いてねーです!」

「そう」

 

 焦るように叫ぶ真那に、折紙は小さくうなずき返した。

 

「ていうか、え、なんですかその詳細なデータ。冗談ですか?」

「冗談ではない。全て正確な数値」

「…………」

 

 折紙が真顔で返すと、真那は頬に汗を浮かべて顔を引き攣らせた。

 

「……失礼、鳶一一曹と兄様は一体、どのようなご関係でいやがるのでしょうか?」

 

 真那の問いに、折紙は間髪入れず、何の迷いも躊躇いも逡巡もなく唇を開いた。

 

「恋人」

 

 

 

「ふわ〜、ねみぃ」

 

 六月五日、月曜日。

 気温が暖かいから暑いに変わる境目の初夏、士道は大きな欠伸をかきながらそんなことをぼやく。

 

「……まったく、昨日にUMA特集なんて見るからだよ」

「なんだよ、文句があるかよ。ワクワクするだろ、チュパカプラとか雪男とかいたら」

「やっぱりお前もそう思うか!」

 

 士道とハルトが会話をしていると、キューマが明るい口調で割って入ってくる。

 

「キューマ先輩!?」

 

 いつの間に後ろにいたのだろうか、ハルトは少し驚いた様子でその名を呼んだ。

 

「おう、少し遅れそうになったから、<フラクシナス>で転送させてもらった。いや〜、本当に便利だな。あれさえあれば一儲けできそうじゃないか」

「……昔から思ってましたけど、先輩ってそういうことに関しては一級ですよね」

「あったりまえだろ。俺の将来の夢、忘れたわけじゃないだろ」

「それはそうですけど……ところで山田は?」

「ああ、アイツなら今日は学校をサボって海辺の町までバイクでツーリングとか────」

 

 ハルトとキューマの姿を見て、士道はなんとも言えない表情を浮かべるのであった。

 

 

 歩いて数分後、キューマと別れた士道は教室に入るとすぐにクラスの異変に気付いた。

 全体的にクラスがざわついているのだ。これに似た空気を二ヶ月ほど前にも感じたことがある。

 確か……ああ、そうだ。十香が転校してきた時に似ているのだ。

 士道がそんなことを思っていると、先に登校していた十香が小走りで歩み寄ってきた。

 

「シドー、聞いてくれ! どうやら今日、うちのクラスにテンコーセイというのが来るらしいぞ!」

「転校生?」

 

 士道が疑問形で返すと、十香がうんうんと興奮した様子で首を縦に振る。

 

「珍しいね、この時期に転校生なんて」

 

 全くもってハルトの言う通りで、十香はともかくとして二年生の、それも一学期ももう少しで終わりそうなこの時期に転入なんてことまずない。

 だから何かしら特殊な事情があるのだろう。

 まあ、事情がどうであれ、やはり転校生が来るというのは学生にとっては一大イベントであることは変わりないだろう。 

 少し耳をすませば、あちこちでその話題で持ちきりだった。

 しかしその盛り上がりは、ホームルームを知らせるチャイムの音で一瞬でガタガタと席に着く音にすり替わる。

 士道も座ろうとすると、隣の席に本を読んでいた折紙がぺこりと無言で挨拶する。

 少し戸惑いながら同じように返すと、折紙は本の方へと視線を戻した。

 ほどなくして、教室の扉が開き、眼鏡をかけた癖毛の小柄な女性が入ってきた。

 どうみても生徒にしか見えないが、これでも歴とした社会科教師・岡峰珠恵(通称・タマちゃん)である。

 ……それとあまり大きな声で言えないが、今年で二十九歳───ん? 今凄い殺気を感じた気がしたが……まあ、気のせいだろう。

 タマちゃんは「はい、みなさんおはよぉございます!」といつもの調子で挨拶を終えると、出席簿を開こうとし──その手を止めた。

 

「あ、いけない。今日はみなさんに嬉しい知らせがあるんでした」

 

 タマちゃんがそういうと、再びざわつくクラス。タマちゃんは「み、みなさん、静かにしてください。話が進みません!」と慌てた様子で皆を鎮める。

 気を取り直すようにこほん、と咳を一回挟むと話を続ける。

 

「ふふ、なんとですねぇ……このクラスに転校生が来るのです! 早速、お呼びしたいと思います。入ってきてー」 

 

 タマちゃんが扉に向けてどことなく間延びした声で呼びかけると、ガラガラと音を立てて転校生が入ってきた。

 その瞬間、まだ少しだけ残っていたざわめき声すらも風に消えてなくなった。

 入ってきたのは少女だった。この暑い中、冬服のブレザーをきっちり着込み、足には黒タイツを履いている。

 影のような、という表現がぴったりの漆黒の長髪。長い前髪は顔の左半分を覆い隠しており、右目しか見とることはできない。

 だが、それでも、その少女は十香に───人外の美貌を持つ精霊に──勝るとも劣らない妖しい魅力を持っていることは容易に見て取れた。

 

「さ、じゃあ、自己紹介お願いしますね」

「ええ」

 

 タマちゃんに促され、少女は優美な仕草でうなずいて、チョークを手に取った。

 そして黒板に、美しい字で『時崎狂三』と書いた。書き終わった狂三はみんなの方へと振り向く。

 

「時崎狂三ですわ」

 

 そして、そのよく響く声で、少女──狂三がこう続けた。

 

「わたくし、精霊ですのよ」

「!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、士道の頭上に雷が落ちたような衝撃が降り注いだ。

 

 

 

 




次回『妹とは』
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