デート・ア・ヴァルヴレイヴ   作:とりマヨつくね

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この熱狂のまま〜本編へ 


もう一人の妹

 黒板の上に設えられた時計は、もう三時を回っている。

 士道の視界の中では、見慣れた帰りのホームルームが展開されていた。チャイムに入ってきたタマちゃん教諭が教卓に出席簿を開き、連絡事項を伝えている。

 何の変哲もない光景。だが士道の心の中はひじょーーーーーーーうに、穏やかではなかった。

 士道は今からおよそ六時間と二十分ほど前のことを思い出す。

 

 ────わたくし、精霊ですのよ

 

 時崎狂三はそう言った時、無論クラスは文字通り三者三様だった。

 まず一つ目、主に殿町などフルオープンな男子生徒達。これはとてもシンプルでキャラのスパイスとして許容する。 

 二つ目、なんとも言えない気まずさを顔に出す。

 いや、まあ、狂三の美貌とミステリアス雰囲気なら、まだ()()()()()()()()()()()()()()()()で済んでいただろう。

 そして三つ目、士道を含めたその言葉のもう一つの意味を知る者。

 精霊。隣界と呼ばれる異界に存在する特殊災害生命体。

 一般的に空間震と呼ばれる特殊災害の発生させ、辺りに甚大な被害をもたらす存在。また、天使と呼ばれる異能の力を行使することが可能であり、その戦闘能力も強大。

 これを脅威とみなした各国政府は、科学的に魔術を再現させる顕現装置を用いて、これに対抗した。しかし、今でも討伐は叶っていないんだそう。

 しかしこの事実を知るのは一部の者だけで、一般には知られてはいない。

 つまりこれが指す意味は────

 そこまで思考した所で、右斜め前に座る狂三が手を振っていることに気づいた。

 突き刺さる嫉妬の弓矢、その中には十香と折紙のものもあった。

 士道はハルトに救援を求めるが、苦笑するのみだった……ちくしょう!

 さんざん脳内でフルに使った結果、士道は油の切れたロボットのようにギクシャクとした動きで手を振る。

 返事を返された狂三は上品ながら嬉しそうにすると、黒板の方へと視線を戻した。

 ……本当に生きた心地がしない。本当に勘弁してほしいものである。 

 

「連絡事項はこんなところですかね。────あ、それと、最近この近辺で、失踪事件が頻発しているそうです。皆さん、できるだけ複数人で、暗くなる前におうちに帰るようにしてください」

 

 まるで、小学生に言い聞かせるように言うタマちゃん。それと同時に教室内に響くチャイムの音。日直が「きりーつ、きをつけー、れーい」とどう見てもやる気がない挨拶を行うと、ガタガタと席を立って談笑する声が聞こえる。

 下校時刻、いつもなら士道も帰っている頃。けれど今日はほんの少しまだ仕事が残っている。

 士道はポケットからインカムを右耳に装着した後、合図をするように軽く小突く。

 

『そろそろ時間ね。用意はいい? 士道』

 

 幼い、しかし高圧的な高音。司令官モードの琴里だ。

 

『まさか、本当に精霊だったとはね。最初、聞いた時は士道の妄言かと思ったわ』

「おいおい……」

 

 鼻で笑うかのような琴里の言葉に、士道は思わず半眼を作る。

 だがそれも無理な話かもしれない。現に当の本人である士道自身も、未だ信じられないのだ。精霊が転校生として現れるなんて。

 ホームルームが終わった後、すぐに琴里に依頼した狂三の観測結果は、昼休みのうちに士道の携帯に送られた。

 結論から言うと──本当に精霊だったのである。

 

『──まあ、でも好都合よ。ASTも状況は知っているかもしれないけど、警報が鳴ってない状況じゃ、迂闊に手を出すことはできないでしょ。今のうちに好感度あげて、キスしちゃいなさい』

「……ん、そうだな」

『なによ、その腑抜けた返事は。しゃんとしなさい、前回の戦闘でヴァルヴレイヴが修理中で使えないんだから』

「わ、わかっているよ。だけれどな────」

「士道さん?」

「うおぉ!?」

 

 突然のことに士道は驚き、思わず声を出してしまう。

 

「ごめんなさい、驚かせてしまいましたか?」

 

 そこに立っていた少女───狂三が、申し訳なさそうに言ってくる。

 

「と、時崎……」

「うふふふ、狂三で構いませんわ」

「あ、ああ……じゃあ、狂三」

 

 士道が言うと、狂三は嬉しそうに微笑んでから言葉を続けた。

 

「さ! 早く参りましょう。ふふ、楽しみですわ」

「あ……お、おいっ!」

 

 足取りも軽やかに廊下を歩いて行ってしまう狂三を、士道は早歩きで追いかける。

 

 

 天宮市上空一五〇〇メートル。

 そこには秘密組織<ラタトスク>が誇る技術の粋を集めた空中戦艦・<フラクシナス>が浮遊していた。

 その医務室にて、先に転送装置で回収されていたハルトとキューマが採血が行われていた。

 

「エルエルフ、呑気にこんなことをしていていいのかよ」

「そうだぜ。今、士道は精霊とコンタクトしている最中なんだろ? なにかしらの協力は必要なんじゃないか」

「なら尚更、お前達は邪魔だ。下手に干渉して、時崎狂三の興味が二人のどちらかに向けられても余計な手間が掛かるだけだ。お前達は大人しくここで検査を受けろ」

 

 二人の血のサンプルを検査機に入れながら、エルエルフがキッパリと言い切る。

 

「グッ、だけど──」

「それにこれは今後のためになる」

「え?」

「この世界には顕現装置という俺たちの世界でもなかった機器がある。このスーパーコンピューター何百基分の解析能力があれば、もしかしたらRUNEを生成できるかもしれない」

「っ!? それは本当なのか!」

 

 ガタリッ! と音をたてながら椅子から立ち上がると、エルエルフに問い詰める。

 だが、それも無理もない。だってそれを指す意味は───もう言わずもがなだろう。

 ハルトにとって、これほどまで嬉しいことはない。 

 一方のエルエルフは何かを言いたそうだが、体を揺さぶられて言えない状況だった。

 

「落ち着けよ、ハルト。あくまで可能性の話だろう。まだそうだとは決まったわけじゃないんだから、そんなに興奮することじゃないだろう?」

 

 エルエルフの代わりにキューマが言うと、ハルトも「そ、そうだね」と我に返り、掴んでいた手を離した。

 少ししてから復帰したエルエルフが立ち上がると、気を取り直すように会話を再開する。 

 

「──というわけだ。今後の精霊攻略にも確実にヴァルヴレイヴの力が必要になる。お前達には一分一秒も長く戦ってもらわなければ困る。よって今日はお前達の体を徹底的に検査する。」

「……本当に苦いやつ」

「なんとでも言え。次はレントゲンを撮るから、隣の更衣室で病衣に着替えろ」

「わかった」

「りょーかい」

 

 

「うふふ、楽しかったですわ」

 

 士道と別れて、一人夕日の道を歩きながら、狂三はそんな声を発する。

 声のトーンからして、心の底からのものであることは察せられる。

 と────その瞬間。

 

「……あら?」

 

 狂三は、不意に全身を襲った感覚に、眉をぴくりと動かした。

 全身を無遠慮に撫で回されるかのような感触。この感覚は初めてではなかった。

 現代の魔術師が顕現装置とかいう機械を使って作り出した結界・テリトリー。

 その中でも特別なもの。そう、間違いなく────あの女。

 

「やっと見つけましたよ〈ナイトメア〉」

 

 狂三の思考を裏付けるように、狂三の目の前に、一人の少女が姿を現した。

 髪を一つに括った、中学生くらいの女の子である。

 装いはパステルカラーのパーカーにキュロットスカートというラフなものだったが、その身に纏う空気は、獲物を見つけた猛禽さながらに剣呑だった。

 

「あらあら、あなたは……祟宮真那さん、でしたかしら?」

 

 狂三が小さく首を傾げながら言うと、真那はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「私の名を覚えてやがったことは褒めてやりますが、気安く呼ばれるのは反吐が出やがります」

「あら、これは失礼しましたわ」

 

 狂三はペコリと頭を下げ、素直に謝った。

 

「でも、“お名前”は大事でしてよ。わたくしも〈ナイトメア〉なんて呼ばれるのは悲しいですわ。時崎狂三と呼んでくださいませんこと?」

 

 狂三が言うと、真那は一層気分悪そうに眉を歪めた。

 

「大事だから、貴様には呼んで欲しくねーんです。大事だから、貴様は呼んでやんねーんです」

「難しいお方」

「黙れよ、精霊」

 

 真那が視線を鋭くすると、臨戦態勢に入る。

 もうなにを言おうとも意味はない、と察した狂三は小さく嘆息する。

 

「仕方ありませんわね。こうなっては実力行使ですわ」

 

 狂三がそういうと、足元の影が彼女を這うように覆い始め────

 

「カハッ────」

 

 吐血した。腹部から赤い染みが広がっていき、糸が切れた操り人形のように力なく倒れた。

 

「安心するです。今、楽にしてやりますから」

 

 真那は冷たい声で言うと、肩部のユニット下部のパーツを腕部に接続する。

 接続されたパーツの先が展開、そこから<ノーペイン>同様の青白いレーザーブレイドを形成する。

 そして狂三の首元に光刃を────

 

 

 

 狂三と別れたあと、士道は十香と一緒に、近所のスーパーに夕食の材料を買いにいっていた。

 ずしりと重いビニール袋を右手に引っ提げ、もうだいぶ暗くなってしまった道を歩く。

 

「いやー、今日は良いタイミングで入れたな」

 

 思わず自然な笑みを零してしまう。

 やはり精霊とのコンタクトは神経を集中させるのもあるが、さらに今回の<フラクシナス>副司令の暴走も相まって余計に精神に負荷をかけてしまう。

 おのれ神無月恭平、今日のことは絶対に許さん。

 

 

「シドー! 今日の夕飯はなんだ? ハンバーグか?」

 

 と、十香が今日の夕飯について聞いてくる。

 十香もここ数週間で、材料からメニューを推し量るのに慣れたらしい。興奮気味に口を開いてくる。

 

「あ、私もそれに一票」

 

 と、隣で琴里もそう言ってくる。

 

「あー、どうすっかなー、蓮根のはさみ揚げに三色そぼろ丼ってもあるけど───ん?

 

 前方から、ざっ、と、スニーカーの底でアスファルトの道を擦るような音が聞こえてきて、士道はふと顔をそちらに向ける。

 そこには、ポニーテールに泣き黒子が特徴的な、琴里と同年代くらいの女の子が、驚愕に目を見開きながら立っていた。

 パーカーにキュロットスカートというラフな格好。いて間もないと思われる赤い汚れが目立っていた。まるで血痕のような────

 

「……?」

 

 見知らぬ顔……の筈だが、士道は小さく首を傾げる。 

 なぜだろうか、妙に“今の自分“と姿が似ている気がする。

 そこで、少女が士道達のいる方向をジッと見つめて驚いているのに気づく。

 士道は後ろを振り向くが、何か少女のことを驚かせるようなものはない。

 士道は訝しんでいると、少女は彼の前まで歩み寄ってきた。 

 

「に」

 

 少女が、震える唇を動かす。

 

『「「に?」」』

 

 士道、十香、琴里が首を傾げるような声を発する。

 少女はバッとその場から駆け出すと、士道の胸に飛び込んできた。

 

「は?」

『なっ!?』

 

 士道と琴里は少女のその行動にそう呟いて、自分に向けて飛び込んできた少女に視線を向ける。

 自分の身体に手を回し、感極まったようにぎゅうぅ、と抱きついてくる。

 まだ頭が整理しようとしない時、少女が士道の胸に顔を埋めながら、言った。

 

「────兄様……!!」

「は? はあっ!?」

 

 訳が分からないと言わんばかりの驚愕の叫びが路上に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回・『真実はいつも影の中』
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