明日も投稿するつもりです。
狂三とデートを取り付けてから少し経った週末、士道は胸に鉛の塊が入っているかのように重たい気持ちで待ち合わせ場所に立っていた。
いや、狂三とデートすることには多少の緊張はあれど、十香、四糸乃の時ほどではない。
……そう、デート相手が狂三だけならば。
昨日帰宅した後、十香に直接、折紙に電話でデートに誘われた。そしてそれを断ることができず、トリプルキングデートを強行するはめになってしまったのだ。
本来なら狂三に専念すべきなのだろうが、十香の精神状態を乱すわけにもいかず、乱入のことも考えて折紙も無視できない。
ちなみにスケジュールであるが、午前十時に狂三と落ち合う。その後、何かしらの理由をつけて離脱、<フラクシナス>を経由して午前十時三十分に十香との待ち合わせ場所に移動。十一時には広間に戻って折紙と合流。あとはなるべく間隔を狭めづつ、不信感を与えないように順繰りに回していく。
……ヤバイ。考えるだけで吐きそう。
大体いくら自業自得とはいえ、この過密スケジュールを馬鹿正直に敢行しようとしていること自体間違っている。
まあ、こんなこと言ったてなにも変わりはしないのだが。
「はあー……」
思わずため息を吐くと、右耳につけたインカムから琴里の声が聞こえてくる。
『ちょっと士道、しゃんとしなさいよ。ハルトが心配なのはわかるけど、全てはあなたに掛かっているんだから」
「……分かってる」
士道は、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべながら答える。
琴里の言った通り、狂三とデートを取り付けた日を皮切りにハルトと連絡が取れなくなってしまったのだ。
現在、エルエルフやキューマ、山田(どこからかサンダーだ! と聞こえた気がしたが気にしない)らが協力して捜索しているらしいが、未だ足取りすら掴められていないらしい。
心配する方が無理だと言うものだろう。
「────なあ、琴里。俺、なんだか凄く嫌な ……」
士道は何かを言いかけようとした時、改札口から私服姿の狂三を目視で確認して口を噤んだ。
狂三の方もこちらの存在に気づいたようで、少し早足気味にこっちへと来た。
「遅れてすいません。お待たせしまったでしょうか?」
「いや、俺も今来たところだから大丈夫だ」
そんな何番煎じかもわからないテンプレを言うと、そこで会話は途切れてしまい、少し気まずい雰囲気になってしまった。
何かを話さなければいけないのに、まったく思い浮かばない。
士道が必死に考えていると、狂三が口を開いた。
「今日はお誘いいただきありがとうございます。とても嬉しいですわ。──それで、まずはどちらに行かれますの?」
「ん……そうだな」
『待ちなさい』
士道の言葉は琴里からストップが入り、フラクシナスに選択肢が表示される
①ショッピングモールでラブラブデート
②二人で甘い恋愛映画を
③ランジェリーショップで彼女の試着を鑑賞
なんとも碌でもない選択肢が入っているようだが……まあ、そこは<フラクシナス>クオリティ。その碌でもない選択肢である三番が選ばれてしまった。
『士道、③よ。駅ビルのランジェリーショップに向かいなさい』
「おう、了解……はあ!?」
過去一精神的負荷が大きそうな命令に、思わず声を漏らしてしまう。
同時に本当にデートが成功するのか、心底不安になってしまった。
◇
「ああ、わかった。また連絡する」
そう言ってキューマは電話を切って、街中を歩き出した。
目的は決まっている、行方不明になったハルトの捜索だ。と言っても、満足に足取りすら掴めていない始末なのだが。
SNSなども活用しても、目撃情報などが一向に上がってこないのだ。
アキラがこの場にいないことが、こんなにも歯痒いものなのか。
「すぐに見つけてやるからな、ハルト」
犬塚キューマが『あの世界』のことを思い出したのは、今から四ヶ月前……二月に入ってからすぐのことだった。
最初は変な夢を見た程度で済ませていたが、日を増していく度にそれは気がかりに変わり、そしてそれが確信に変わったのは四月に空間震が発生した時。
こっそりシェルターを抜け出したキューマは、信じられない光景を目にした。
妙な格好で重火器を操る女性達、バケモノのような力を振るう少女────────そして赤い光の軌跡を伴って戦う武者の姿を。
その姿を見た時、途端に封じ込まれていたた記憶が呼び起こされた。
それと同時にある確信を得た。
あのヴァルヴレイヴを操っているのは、ハルトだと。自分同様、何らかの理由でこの世界に転生したのだろう。確証はなかった、だがなんとなくそんな気がした。
それからしばらくしてから、ある老人にある誘いを受けた。
──────────君はハルト君と共に戦いかね?
それから様々なことを聞いた。ASTのこと、精霊のこと、空間震の真実、そんな精霊のことを助けようとする少年のこと、その少年をハルトが手助けしていることを。
老人から話を終える頃には、彼の中で激しい自己嫌悪に苛まれた。
かつての仲間が世界の命運を賭けて戦っているのに、そんなことも知らず自分はのうのうと日常を送っていたことに怒りさえ覚える。
だから
「とにかく、手当たり次第に探すしか────ん?」
気を取り直し聞き取り調査をしようとして、ある人物が視界に入った。
若干青みがかった黒髪を一本に結び、涙ボクロが特徴的な少女が電柱の陰に隠れていた。
キューマはその少女に見覚えがあった。先日の戦闘の時に見た少女だ。
(名前は確か……崇宮真那だったか。一体何をして──────!?)
彼女が視線の先、デート中の士道と狂三がいることにキューマは思わず息を詰まらせてしまう。
作戦の都合上、彼女が一人になった所を狙われた不味い。
しかし自分はエルエルフのように軍人ではない。
とてもではないが、彼女に気づかれないように尾行することなど到底できない。
しばらく考えて、考えて、考えて……思いつかなかった。
「だあー! クソッ! やるしかないか」
こういう時に回らない堅い自分の頭を恨むように悪態をついた後、ズカズカと向かって少女に声を掛けた。
「すいません」
いきなりのことで驚いたのか、キューマの声に反応して少し体をビクッ肩を震わせるとゆっくりとこちらに振り向いた。
「あの、なんでやがりますか。ナンパなら結構ですけど」
「あ、ああ、悪い。俺、こういう奴なんだ」
不信感を払拭するため、キューマは胸ポケットにしまっていた生徒手帳を見せる。
「兄様と同じ学校……」
「そ、俺は友人に頼まれてな。あそこにいる君のお兄さんのデートを手助けすることを言われているんだよ」
「は、はあ……」
真那はなんとも言えない表情を浮かべるが、とりあえず警戒心は解いてくれたようだ。
咄嗟に出た言葉だが、案外うまくいって自分でも驚いている。
「で、一体何の用でやがりますか。私、こう見えても忙しいんですけど」
「いや、側から見たらすごい不審者に見えたからさ。絶対に職質されるぞ」
「ぐっ……それは確かに」
キューマの発言に、真那は思わず言葉を詰まらせてしまう。
「そこで提案なんだが、一緒に尾行するのなんてどうだ」
「……はい?」
いきなりの提案に、真那は頭に特大の疑問符を浮かべる。
「いやなに。目的はどうであれ、俺たちがやろうとしていることは変わりないんだ。あとは……説明しなくてもいいだろ?」
目を閉じてしばし考え、決心した真那はゆっくりと目を開いて答えた。
「わかりやがりました。その提案、乗りました」
「交渉成立だな」
こうして世にも奇妙な協力関係が誕生したのだった。
次回『悪夢の真実』