え?一時間遅れているって?
何を言っているかがわかr ……
【文章はここで途切れている】
「大丈夫か、シドー……どこか具合でも悪いのか」
「ぜぇ……ぜぇ……いや、大丈夫だ」
十香の心配する声に、士道は乱れた息を整えながら答える。
ちなみに三週目である。もう泣きたい気持ちで一杯だ。
だって単純に一人の女の子とデートすることだって、童貞チキン野郎の士道にはかなりのプレッシャーである。
おまけに三人(それもかなり癖のある少女達)同時かつ、それがバレないようにするというのは罪悪感も合間ってかなりの疲弊が伴う。
「ほら、デートを続けようぜ。えっと確か次は……」
インカムを小突いて琴里に次の指示を貰おうとする。
それと同時。
───────────きゅるるるるるるるる……
と、なんとも可愛らしい音が聞こえてきた。
士道は隣へと目を向けると、案の定十香が顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。
「先に飯にするか。ここチケットの半券あれば再入館できるみたいだし」
「……うむ! それはとてもいいと思うぞ!」
「じゃあ、どうする? 十香は何か食べたいものとかあるか?」
「ん、シドーは何が食べたいのだ?」
「え……俺か? 俺は……」
先ほど折紙と一緒にいた時にレストランの料理を食べたためお腹は空いていなかった。
「いや、俺は……今はいいや、十香が好きなものでいいぞ」
「シドー……ま、まだお腹が痛いのか? やはり琴里に連絡した方が……」
「う……」
再び不安そうな表情をする十香を見た士道は、もう一食食べる覚悟を決めた。
◇
「遅いですね……兄様」
「ま、まあ、士道だって決して遊び人って訳じゃないんだからもう少ししたら戻ってくるだろう」
「どうでしょうね。兄様、ああ見えてかなりの女性をはべらしているらしいですし」
真那とキューマは、ショッピングモール内にあるアイスクリーム屋でアイスを食しながら談話を繰り広げていた。
あまりにも平和的で日常的な光景に、『実はこの二人、少し前に殺し合いをしていたんだよ!』と言っても信じられないだろう。
「お、嫉妬か?」
「そんなんじゃねえです」
キューマが茶化すように言うと、真那は即座にそれを否定した。
「私は確かに兄様の妹でやがりますが、実際はお互いに記憶がなくて事実上初対面みたいなもんだったんです。正直、不安でした。私の中にいる兄様は、全部自分が作り出した幻想ででも少し前に兄様と会って、私の心の中にある優しい兄様のままで嬉しかったんです。だから、私はただ兄様が幸せになって欲しいだけなんです。例え、その幸せの一部に私が居なくても……」
なんだか切なそうにする少女の横顔に、キューマはなんと言えばいいかわからなかった。
二人の間に重い空気が流れた。数秒しか流れていないはずなのに、とても長く感じられるほどに。
「お前はどうしたいんだ」
「え?」
キューマは空になったアイスのカップをテーブルを置くと、話を続けた。
「例え記憶がなくても、お前と士道はちゃんとした血の繋がった兄妹なんだろ? なら、妹が兄と一緒にいたいなんて当たり前なんだから別に無理をする必要はないだろう。人はそばにいても、ふとした時に突然いなくなっちまうんだ。その時にあの時こうしとけばよかった、ああしとけばよかったって後悔している暇があるんだったら今を楽しんだ方がいいだろ」
そう語る彼の瞳はどこか懐かしそうで、同時に哀愁を感じさせるもだった。
「なるほど、そういう考えもあるのでやがりますね……」
キューマの話を聞き終えた真那は、ただ一言だけ言葉を返した。
否定はしない、いや否定ができなかった。
「お、お前のお兄さんが戻ってきたみたいだぞ」
「なんか……凄くやつれてねえですか?」
「き、気のせいだろ。さ、早く行くぞ」
食べ終えたカップをプラスチック専用のゴミ箱に入れると、二人はカップルを追いかけるのであった。
◇
「す、すまん、待たせたな……」
十香との食事を終え、折紙の度の超えたスキンシップを乗り越えた士道は狂三の元に戻る。
「いえ。それより、大丈夫ですの?」
士道の事を心配するように言ってくる狂三の手には、ランジェリーショップの紙袋が握られていた。
「あぁ……なんとか。──て、もしかして、あの下着買ったのか……?」
「えぇ。──士道さんが、似合うと仰ってくれましたので」
「……っ」
士道は気恥ずかしくなって頬をかくと、話題を逸らすようにように辺りを見回す。
「……そ、そういえば、あの三人組は……?」
「士道さんがお手洗いに行ったあと、お帰りになられましたわ」
「そ、そうか……」
その言葉を聞いた士道はほっと息を吐いてすぐ、狂三は何かを思い出したかのように士道に告げる
「そういえば、伝言を言付かっていますわ。えぇと──『五河君、あとで、泣かす』」
「…………」
首の皮一枚つながった思っていた士道だったが、明日もどうやら大変な一日になることが確定したようだ。
ハルト……タスケテ。
そんなことを考えていた士道の顔を覗き込むようにしながら、狂三は口を開く。
「ところで、士道さん」
「ん‥……? なんだ?」
「そろそろ、お腹が空きませんこと?」
五河士道、戦線離脱。
これ以上はダメだ。腹が張り裂けてしまう。
考えただけで吐いてしまう。
よし決めた。これまでのストレスと共にトイレに流してしまおう。
「ふぅ……士道さんたら。せっかくのデートですのに、今日は随分と忙しないですわね」
公園のベンチに腰掛けながら、狂三は小さく息を吐きだした
「──まぁ、でも、いいですわ」
デートを始めてから五時間ほど経っているのに、士道といた時間は三分の一ほど、それが少し釈然としなかった狂三だが、手の平にあごを置いて、微笑む
「どうせ最後は──わたくしのものになるんですもの」
目を閉じ、士道の事を顔を浮かべながら、自分の抱いている感情が、もしかしたら人間でいう所の恋なのではないかと夢想する
「──ふふ」
狂三はさらに笑みを濃くすると、その場方立ち上がると、小さく伸びをする。頭の中で妄想をしていると、身体が熱くなってしまった狂三は、自動販売機に向かうために公園を横切る
「……?」
しかしその途中、不快な声と音を拾った狂三は、不愉快そうに眉を顰めると、無言のまま足を動かして森の奥に向かっていく
「……あらあら。何をしておりますの?」
狂三が声をかけた先にいたのは、四人の男。その男たちはいずれもモデルガンを手にし、一か所に向けていた
その場所にいたのは足を引きずりながら弱々しく鳴いている子猫、そして持っていたモデルガンの意味を考えると、この男たちが何をしていたのかは想像に容易い
「あー……悪いんだが、ちょっとここは使用中だ。向こういってくれるかな」
「あらあら、そんなことおっしゃらないでくださいまし。これでも銃の扱いには一家言ありますのよ? わたくしもお仲間に入れてくださいな」
そう言った狂三の瞳には、どす黒い感情が渦巻いていた。
◇
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」
一方で、全身を蝕む疲労感の中、どうにか狂三と別れた公園のベンチに戻ってきた士道は小さく眉をひそめた。
「あ、れ……?」
『どうしたの、士道』
「や……狂三がいないんだが」
『え? ちょっとカメラ班、狂三の動きはどうなってるの?』
『え、映像が途絶えています。カメラに何かあったのかと……』
『──なんですって?』
琴里がそう言った瞬間、インカムの向こうから別のクルーと思わしき男性の声が聞こえてくる。
『指令! 微弱ですが、付近に霊波反応が……!』
『どこ?』
『公園東出口付近の森の中です! この反応は──間違いありません、時崎狂三です!』
「……っ!?」
その言葉を聞いた士道は肩を揺らして、公園の東出口の方を見る。
『……士道、急いで狂三の場所に向かって』
『あ、あぁ……!』
不穏な何かを感じた士道はフラクシナスの誘導に従って、東出口付近の森の中を進んでいく。
「──は?」
そして、目的の場所に広がっていた光景を見て、士道は呆然と立ち尽くした。
視界を埋め尽くす赤色、周りにある筈の木々はすべて暗褐色に染まり、所々には歪な形をした肉の塊が転がっていた。目の前に広がる光景を士道は理解できなかった。
一瞬、数瞬、そして数秒を超え、推測が固まったとしても、その光景がどういったものなのか、理解することを士道の脳が拒否する。
いつもと変わらない風景、変わらない日常、その中で──人が、死んでいるだなんて。
「う──わぁぁぁぁッ!?」
「士道ッ!?」
『士道! 落ち着きなさい、士道!』
辺りに漂う血生臭い匂いが、士道に途方もない王都間を覚えさせる。今まで食べたものすべてが胃からせり上がってくる感覚に、どうにか抗う為士道は手で口元を覆う。
「……っ、う……っ、うォえ……っ」
士道は耐えることができず、腹の奥に残っていたものを全てぶちまけてしまった。
「──あら?」
時崎狂三は、視線を上げる。赤い海の中心で、赤と黒の霊装を纏った少女が、士道の方を振り返る。
とても妖艶な笑みを浮かべながら。
「士道さん。もう来てしまいましたの?」
細緻な装飾の施された古式の短銃を持った狂三の奥に、別の誰かがいることに士道は気付く。その男の腹部には血で的当ての的のような模様が書かれている
「だ……ッ、助け……く、れ……ッ! なん……、こいつ……、化物……ッ!」
「あらあら」
狂三は男の方に顔を戻し、手に握っていた銃を向ける。
「狂三……っ、おま、何を──」
呆然としていた士道が何とか声を発すると、狂三はくすくすと笑う。しかしその声はいつものようなものではなく、聞いているだけで背筋が凍り付くほどに不気味な声だった。
「何かを殺そうというのに、自分は殺される覚悟がないだなんて、おかしいと思いませんこと? 命に銃口を向けるというのは、こういう事ですのよ?」
士道の傍らでいつでも斬撃を放てるようにしていたファルシオンは、その言葉を聞いた瞬間僅かに動きを鈍らせる。
斬撃の飛ぶ音と銃声、二つが音が流れてすぐ。的の模様が描かれていた男の腹に風穴が空き、そのままピクリとも動かなくなる。
「百点、ですわね」
短く息を吐いた狂三が手に持っていた銃を手から落とすと、影の中に消えていく。
「お待たせしましたわ、士道さん。恥ずかしいところを見られてしまいましたわね。でも、もう隠す必要もありませんわね」
狂三が恍惚とした表情を浮かべると、影から這い出た腕に足首を掴まれていた。
「ふふ、捕まえましたわ」
「……っ」
士道に覆いかぶさるよう身を寄せた時崎狂三に対して、士道は初めて精霊に対する恐怖を覚えていた。
「──あぁ、あぁ、失敗しましたわ。失敗しましたわ。もっと早くに片付けておくべきでしたわ。──もう少し、士道さんとのデートを楽しみたかったのですけれど」
「……っ、……」
逃げようとする士道に対して、時崎狂三がゆっくりと顔を近づけてくる。しかしそれはキスではなく、首筋に噛みつこうとしているようだった。二人の距離があと少しと言ったところで、彼女の身体は軽々と後方へ吹き飛んだ。
「な──」
「──無事ですか、兄様」
「真、那……?」
絞り出すような声と共に顔を上げた士道の目に映ったのは、機械的な鎧──ワイヤリングスーツを身に纏った少女、祟宮真那。
「はい、間一髪でした。大事はねーですか?」
「あ、あぁ……」
「あらあら、余所見はいけませんわよ」
『食事』の邪魔された狂三は影から再び古式短銃を手に取り、真那に向けて引き金を引いた。
しかしその弾丸は、割って入ってきた蒼の盾によって防がれる。
「ボーッとするな!」
ヴァルヴレイヴ五号機<火打羽>を纏ったキューマが、狂三に警戒しながら真那に忠告する。
「騙していた、あなたには言われたくないですよ」
「そんなことを言っている場合か! 絶対に士道から目を離すなよ!!」
キューマと話していた真那だが、士道の方を見ると少し気まずそうに後頭部をかいた。
「あぁ……そりゃ驚きやがりますよね。なんというか、ちょっとワケありでして……まぁ、話しはあとです」
「あらあら……わたくしと士道さんの逢瀬を邪魔するだなんて、エルエルフさんといいマナーがなってない人が多いですわね」
「うるせーです。エルエルフが誰かは知りませんが、人の兄様を狙いやがるなんて、どんな了見ですか」
真那の言葉を聞いた、狂三は驚いたように目を見開く。
「真那さんと士道さんはご兄弟でいらっしゃいますの?」
「……ふん、貴様には関係ねーです。また共闘です、力を貸しやがってください、ヴァルヴレイヴ」
「わかった、タイミングはそっちに任せる」
真那はそう言うと、小さく首を回す。その動作に合わせて肩に装備されていたパーツが可変し、先端部が手のように五つにわかれろ。そして左右合計十の先端部から、青白い光が現れる。
「ま、待ってくれよ。俺たちは狂三と────────」
「士道、悪いがこれはエルエルフの指示なんだ。どんなに平和的に解決しようとしても、時には戦わないといけないんだ」
キューマは両腕のボルド・ファランクスを展開し、狂三に向ける。
「あぁ……怖いですわ恐ろしいですわ。そうですわね、そこの青い方には助けてもらった恩もありますし……この方を
狂三は広げた影に手を入れ、士道達の前に何かを投げた。
「「「ッ!?」」」
それを見た三人は心臓が止まりそうになる程の衝撃に身を震わせた。
そこにいたのは全身を血で染めたハルトだった。
「ハルト……ハルト!!」
考えるよりも先に士道は、彼の元へ駆け寄り何度も名を呼んだ。
反応はない。だが微弱ながら呼吸があった。
「良かった……」
生きている事に安堵の息を漏らす。
「きひひ、それではこれで失礼しますわ。士道さん、また明日」
「待て、狂三!」
士道の制止を待たず、狂三は影に沈んでいた。
「ふぅ……」
真那が軽く右手を振るうと、手に装着されていたパーツは肩に戻っていく
「なん……で」
士道から焦燥の声が漏れる。
「知った顔に裏切られるのは少しショックかもしれませんが、あまり気落ちしないでください」
「……」
「悪いことは言わねーですから、今日のことは悪い夢でも見たと思って、早めに忘れやがってください」
真那の言葉を聞いた士道は、思わず拳を握る。
そんな士道の心を知ってか、知らずか、隣にいたキューマに頼みを告げる。
「もうじき増援が来ます。あなた個人の人柄を見込んで頼みます。後始末は私がしますから兄様とハルトさんをお願いします」
「……わかった」
真那の頼みを聞き入れたキューマは、無理矢理士道とハルトを抱えると円球状の光に包まれた。
「また、会いましょう。今度は、もっと時間に余裕を持って」
「……! 待──」
その言葉を最後に、士道、キューマ、ハルトの姿はその場から消え、あたりは思い出したかのように鬱陶しく鳴くセミ達の声が聞こえるばかりであった。
次回『揺らぎ、それを乗り越えた先』