デート・ア・ヴァルヴレイヴ   作:とりマヨつくね

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あ、あの……ハルトくん。
前回の終わらせ方は謝るから、その物騒な光(ハラキリブレード)ああああああ!


撃鉄を起こせ

 次の日の朝、教室に入った士道は、既に席に着いている狂三の姿が目に入った。

 士道の姿を認めると、穏やかな微笑を作った狂三がペコリと頭を下げた。

 昨日の件がまだ頭の隅に媚びりついているためか、わかっているとはいえ少し身構えてしまう。

 

「あら、士道さん。ごきげんよう」

「お、おう……おはよう」

 

 

 ぎこちなく、士道は挨拶を返す。

 一方の狂三は、士道の様子がおかしいのかくすくすと上品に笑う。

 彼女の姿はあの血色のドレスではなく、来禅高校の制服であり、あの特徴的な左目も前髪によって隠されている。

 側から見たら、少しミステリアスな美少女。そんな少女が昨日人を殺したと言っても、誰も信じないだろう。

 

 

「昨日は楽しかったですわね。また是非誘ってくださいまし」

「そう……か。楽しかったな」

「ええ、とても」

  

 狂三は、再びニコリと微笑む。それは士道とのデートの事なのか、路地裏の事なのか、士道には判別がつかない。

 そんな士道の思案に気づいているのかいないのか、可愛いらしい微笑を顔に張り付けたまま言葉を続ける。

 

「でも、少し驚きましたわ」

「な、何がだ?」

 

 

 わざとらしくとぼけてみるが、狂三は一層笑みを深めて。

 

 

「士道さんはてっきり、お休みになると思っておりましたので」

「っ……!」

 

 

 思わず息が詰まるが、すぐに自分自身に喝を入れて狂三に言った。

 

 

「そいつは……悪かったな。来ない方が良かったか?」

「いえ、士道さんがちゃんと登校してきてくれて、とても嬉しいですわ」

 

 屈託のない笑顔でそう言った。

 士道は動悸を抑えるように胸元を軽く叩き、狂三の真ん前に足を進めた。

 

「……狂三」

「なんですの?」

 

 

 きょとんとした表情で狂三は首をかしげる。

 

 

「俺は、お前を、救う事に決めた」

「……?  救う?」

 

 

 士道が言った瞬間。狂三の表情から温度を失ったのがわかった。

 先程までの柔和だった笑顔が、一気に狂気を帯びる。

 

 

「おかしな事を仰いますのね、士道さん」

「もういいだろう、そういうのは。───もうお前に、人を殺させない。もう真那に、お前を殺させない。それが、俺が昨日出した結論だ」

「価値観を押し付けないでいただけます?  わたくし、甘っちょろい理想論は嫌いですの。まだ、真那さんや折紙さんの方が建設的な考えだとわたくしは思いますわよ?」

「ああ、そうだな。そうかもしれない。でも悪いが、もう決めた事だ。お前は、俺が救う。何をしようと、絶対に」

 

 

 士道は己が眼で捉えながら、言った。

 それを聞いた狂三は少し考えるそぶりをしたあと、唇を開く。

 

 

「それではお昼頃、屋上に来てくださいますか? 可能なら、ハルトさんとご一緒に」

 

 

 

 

 一方その頃、琴里はとある廃ビルの前に立っていた。

 別に学校をサボって、廃ビル探索をしに来たわけではない。ほんの少し野暮用があったためである。

 琴里がドアノブを捻ると、錆びついた塗料がはげてボロボロと落ちた。 

 聞こえてくる耳障りな金切り音に舌打ちしながら、その建物屋上へと辿り着いた。

 

 

「───お待ちしておりました、琴里さん」

 

 

 先に屋上で待っていた少女、崇宮真那は琴里に声をかけた。

 そう。今朝琴理が家に戻ると、琴理の部屋の窓に、時刻と場所、そして真那の名前が書かれた手紙が置かれていた。

 

 

「まったく、何なのよここは。私を呼び出そうって言うんなら、美味しいお茶とケーキくらい用してからになさい」

「これは失敬。───ですが、お互いに人の目と耳はねー方が良いと思いやがりまして」

「ふん。それで、一体何の用だって言うの?」

「少し、お話がしたいと思いまして」

 

 と、真那がポケットから取り出したものを琴理に向かって放り投げ、琴理は両手でキャッチした。

 

「これは……」

 

 

 琴里がまじまじと見ると、それは士道が使っているインカムだった。

 士道は昨日のどさくさでなくなってしまったと聞いていたが、真那がこれを持っているということはつまり。

 

 

「───<ラタトスク機関>」

「……っ」

 

 真那の口から出た言葉に、琴理はピクリと眉を動かす。

 

「噂には聞いていました。精霊を武力で殲滅するのではなく、対話によって懐柔する事を目的とした組織。初めて聞いたときは都市伝説かと思っていやがったのですが……」

 

 真那が、キッと琴理を睨み付ける。

 その瞳の奥には、途轍もない怒りの炎が燃え上がっていた。

 

 

「まさか、貴方と兄様が」

 

 琴理はインカムをポケットにしまい、くわえていたチュッパチャップスの棒をピコピコと動かす。

 

「……なるほど、昨日のあの通信は貴女の仕業だったわけね」

 

 士道がインカムを紛失したと判明する前に、〈フラクシナス〉は妙な通信を受け取った。確かに士道の声ではあったが、琴理の名前や現在状況などを幾つか確認すると、急に回線が閉じ、それっきり何も聞こえなくなった。

 琴理は真那に聞こえないが、油断していた自分自身に対して大きく舌打ちした。多分その時の返答で、真那は〈ラタトスク〉の実在を確信したのだ。

 

「随意結界を利用すれば、声を変えることは造作もなねーですから」

「そ。それで、何が目的? わざわざ私を呼び出したって事は、何か狙いがあるんでしょう?」

 

 

 髪をかき上げて、不敵に目を細める琴理に、真那は視線を動かさないまま、唇を開く。

 

「───私は、この件を上に報告するつもりはねーです」

「……ふうん?」

「その代わり。兄様を今すぐに、〈ラタトスク〉から解放しやがってください」

 

 真那の言葉に、琴理は眉をひそめた。

 

「どういうこと?」

「どういうことも何もねーです。琴理さん、なぜ貴女は、兄様にあんな危険な真似をさせていやがるのですか。顕現装置はおろか、通常武器1つも持たせずに精霊と相対させやがるだなんて、とても正気の沙汰とは思えねーです」

「これから口説き落とそうって相手に、銃や剣を突きつけながら喋れって言うの?  それじゃあ強姦魔と何も変わらないじゃない。もしかして貴女マゾヒストか何かかしら?」

 

 琴理がそう言うと、真那は目つきをさらに鋭くし、語気を強めた。

 

「ふざけねーでください。貴女は兄様を何だと思っていやがるのですか。あの時私がいなかったら、今頃兄様は〈ナイトメア〉に殺されていやがりましたよ」

「……」

「琴理さん。───いえ、五河琴理。とても残念です。貴女は兄様の妹失格です。貴女のような人に、兄様は任せられねーです」

「……っ」

 

 琴理は頬をピクリと動かすと、チュッパチャップスの棒をピンと立てた。

 

「へえ、それで、私が妹失格だったらどうするって言うの?」

「私が兄様の身柄を引き受ける事も考えなければなりません」

 

 そう言うと真那の体は淡く光り、彼女は専用のCRーユニット<ムラクモ>を纏うと、琴里は眉を顰めた。

 

 

「冗談じゃないわ。DEMみたいな悪徳企業に士道を預けろって言うの?」

「……っ、なぜそれを」

「優秀な友人がいてね。情報を握っているのはお互い様ってこと」

 

 琴理が不敵に言うと、真那はふうと息を吐いた。

 

「まあ、割れているのなら隠す必要もねーですね。そう、私は元々自衛官だった訳ではねーです。DEMインダストリー社から出向してくるに当たって、必要だったから適当な階級を得たに過ぎねーです。しかし、DEMが悪徳企業と言うのは聞き捨てならねーですね。記憶喪失の私を受け入れてくれて、存在理由と力を与えてくれやがりました。感謝してもしきれねーです」

「正気じゃないわね。あなたの身体をあんな風にして、ヴァルヴレイヴなんていうあんな呪われたものを作り上げているのに?」

「は? 私の身体がなんでやがりますか? それにヴァルヴレイヴが呪われている……?」

 

 

 真那は、琴里が本当に何を言っているのかがわからないような表情を浮かべる。

 琴理は戦慄に唾液を飲み込む。

 わかっていたはずだ、エルエルフにもあらかじめ伝えられていたはずだ。

 琴理は渋面を作って、真那に近づきその肩を掴んだ。

 

「な、何をしやがるのですか?」

「悪い事は言わないわ。貴女こそDEMを抜けなさい。〈ラタトスク〉が面倒を見たっていいわ。だから───」

「はあ……いきなり何を───」

 

 

 と、真那が眉をひそめて言いかけた瞬間、二人の会話を中断する声が上がる。

 

 

「その話、待った」

 

 

「エルエルフ……!?」

「エルエルフ? あなたが<ナイトメア>が言っていた……」

 

 

 琴里は驚愕し、真那は不審げにエルエルフを見る。

 

 

「そこから先は俺が説明する──と言いたいことだが、琴里司令、崇宮真那。来禅高校に凄まじい霊波反応が感知された」

「何ですって……?」

 

 チラッと真那を見ると、表情から真那も、同じ報告を受けているようだった。が、真那はすぐに廃ビルの上空を見上げた。

 

 

「──琴理さん。すぐにこの場を離れた方が良いでやがりますよ」

「っ!」

 

 

 琴理も上空を見上げると、真那はすでにはるか上空にいた。

 そしてそのまま士道たちがいる来禅高校がある方向へと、ジェット機ほどの速度で飛んでいった。

 

 

「琴里司令、俺も<ヴァナルガンド>で行く。……時崎狂三が本気なら誰も勝てない」

「あなたがそこまで言うなら仕方がないわね。エルエルフ、士道たちを任せたわ」

「……了解」

 

 

 その数瞬後、もう一つの飛行機雲が生まれた。

 




狂「あの……わたくし、無事でいられるのでしょうか?」
作「……シラネ」
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