デート・ア・ヴァルヴレイヴ   作:とりマヨつくね

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UA2000を突破! 
これはいつも見てくださっている皆様のおかげです。
ありがとうございます。
これからも一生懸命、投稿を頑張っていこうと思います。
あと、これからは二日に一話出す感じになります。


抜き打ちデート

 <フラクシナス>にて、ハルト、エルエルフ、琴里、令音が艦長室に座っていた。

 この四人が集まっている理由は、ハルトとエルエルフ、そしてヴァルヴレイヴのことである。

 

「さて……どこから聞いたものかね……」

 

 令音はタブレットを操作しながら呟く。

 

「そうね……まずハルトとエルエルフが転生者であるってのは間違いないのね?」

「ああ、それで間違いないよ」

「とても信じられない話だわ」

 

 琴里は額に手を当てて、理解に苦しむようにいう。

 

「その気持ちはわかる。だけどーーーー」

「大丈夫よ。信じるしかないもの。現に<ラタトスク>でも一割も解析できなかったヴァルヴレイヴを空気を吸うように操作しちゃうんだもん」

「ありがとう、琴里。確かに

「ん〜、じゃあ次はヴァルヴレイヴのことを教えてちょうだい。なぜ貴方だけが使えるの?」

「それは……」

 

 ハルトが言葉に迷っていると、隣にいたエルエルフが代わりに口を開く。

 

「俺達の世界とはサイズは違うが、本質的な部分は変わらない。元々、人が扱える代物ではない」

「どういうこと?」

「ヴァルヴレイヴに乗れる存在は二つ。一つ、マギウスと呼ばれる人ならず者。そしてーーーー」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

 理解が追いつかなくなったのか、琴里は慌ててエルエルフは話を遮る。

 

「余計にわからないわ。それじゃ、ハルトが人じゃないみたいじゃないの……!」

「何も間違いではない。何故なら時縞ハルトはあちらの世界で人間であることを辞めたのだから」

「っ……!」

 

 エルエルフの言葉に琴里は息を詰まらせる。

 そしてハルトの方へと視線を向けると、恐る恐る聞いた。 

 

「本当……なの?」

「うん……僕はあの日、僕の意思でこの神憑きになったんだ」

「神憑き?」

「ああ、マギウス化した人間を我々は呼んでいた」

「そう……話を戻すけど、つまりその神憑きになれば、誰でもヴァルヴレイヴを装着できるの?」

「ーーダメだ! アレは、アレだけは僕以外の人間に使わせないでくれ。アレは呪いの道具だ」

 

 ハルトはガタリと立ち上がり、琴里に必死に訴える。

 彼はよく知っている、あのヴァルヴレイヴに選ばれ、その力を使用し続けた者の末路を。

 いきなり大きな声を出したためか、耳を塞いでいた琴里はため息をついた後、ハルトに言う。

 

「安心してちょうだい。<ラタトスク>は訳の分からないものに変に首を突っ込まないのよ」

「そう……ならいいんだけど……」

 

 琴里の言葉にハルトは胸をなでおろした。

 そして不意に時計が視界に入った。時刻は七時三十分を過ぎていた。

 

「あ! 僕、そろそろ学校だから行ってくるよ」

「時縞ハルト、今日は学校は休みだぞ」

「え?」

 

 エルエルフからそんなことを伝えられて、ハルトは足を止めた。

 

「スマホを見ろ。学校から連絡が来ている」

「え? そうだったけ?」

「これを見ろ」

 

 するとエルエルフはポケットからスマホを取り出し、ハルトに見せる。

 エルエルフの言う通り、学校から休校のメールが送られていた。

 

「あ、本当だ。でも僕の方には送られていないけど……士道、大丈夫かな」

 

 ◇

 

「そりゃ、そうだよな」

 

 士道が精霊に十香と名付けた次の日、学校に登校して自分のアホさに息を吐いた。

 少し考えればわかるだろうに。

 

 <フラクシナス>に回収された後、十香との会話ビデオを見ながら、反省会を行なったりして、疲れていたのだろう。

 

「仕方がない。買い物をするか」

 

 ため息をひとつこぼし、家の帰路とは違う道に足を向ける。

 確か、卵か牛乳かが切れていたはずだったし、このまま帰ってしまうのも何だった。

 

「ーーっと、通行止めか」

 

 だが数分後、士道は足を止めた。立ち入り禁止の看板が立っていたためだ。

 そして士道は気づく。 

 

「ああーーここは?」

 

 この場所は、初めて十香と会った空間震現場の一角であった。

 そこで再び十香のあの悲しそうな顔がフラッシュバックする。

 

「……ドー」

 

 士道は、もう一度覚悟を決めるように拳を強く握った。

 そうだ、士道は士道のできるやり方で精霊と向き合うと決めたんだ。 

 化け物と呼ばれる存在が、絶対にあんな顔をするはずがない。

 

「……い、……ドー」

 

 だから次こそ、次こそは絶対にてきた彼女を救ってみせる。

 

「おい、シドー。無視をするな」

 

「ーーえ?」

 

 視界の奥、立ち入り禁止エリアの向こう側からそんな声が響いてきて、士道は傾げた。

 凛とした、とても美しい声。今、聞こえるはずのない少女の声。

 

「十香!?」

 

 視線の先にある、瓦礫の山の上に、明らかに街並みに似つかわしくないドレスを纏った少女が立っていた。

 間違いなく、昨日士道が出会った精霊ーーーー十香だった。

 

「ようやく気づいたか、バーカバーカ」

「何でお前がーーーー空間震警報は?」

「ぬ? お前から誘ったのだろう? デートとやらに」

「なっ……」

 

 こともなげに言い放った十香の言葉に、士道は肩を震わせた。

 

「覚えていたのか?」

「ぬ? 私を馬鹿にしているのか?」

「や、そう言うわけじゃないんだが」

「まあ、良い。早く行くぞ。デェトデェトデェトデェト」

「わ、わかった。とりあえず、その姿だと目立つ。着替えてくれ」

「貴様、私にここで脱げと言うのか」

「違う! ええと、あーー例えばだな」

 

 そこで士道はアレの存在を思い出し、胸ポケットを探る。

 士道が取り出したのは折紙の制服姿の写真であり、それを十香に見せた。

 訓練の時にエルエルフにもらった写真が、こんな時に役立つとは思わなかった。

 

「この服でいいのか? それにしてもこんな写真をどこでーー」

「訳は聞くな」

「……わかった」

 

 十香はそう言いながら写真を二つにちぎった。

 それを空に掲げると同時に、写真は光の粒子となり、十香のドレスにも変化が起きる。

 十香は堅牢な鎧のようなドレスが光ったかと思うと、次の瞬間来禅高校の制服を着ていた。

 

「では行くぞ。デェトに」

 

 

 十香と思わぬ再会を果たした士道は、デートをすることになった。

 路地裏を抜け、様々な店が軒を連ねる大通りに出たところで、十香が眉をひそめてキョロキョロとあたりの様子を窺い始める。

 

「……っ、な、なんだこの人間の数は。総力戦か!?」

 

 先ほどまでとは桁違いの人と車の量に驚いたらしい。

十香が全方位に注意を払いながら忌々しげな声を上げる。

 ついでに指先合計十本に小さな光球が出現する。

そんな十香に士道は慌てた顔でいう。

 

「いや、だから違うって! 誰もお前の命を奪おうとしていないから」

「……本当か?」

「本当だ」

 

 士道に説得されて、十香はまだ少し警戒した様子で光球を消した。

 とーー不意に、警戒に染まっていた十香の顔から力が抜けた。

 

「ん? おいシドー。この香りはなんだ?」

「香り?」

 

 目を閉じてあたりの匂いを嗅いでみると、確かに十香の言う通りに近くに香ばしい香りがした。

 

「ああ、多分アレだ」

 

 匂いのあとを辿ると、右手にあったパン屋をさした。

 

「ほほう」

 

 十香は短く言うと、ジッとその方向を見ていた。

 

「……十香?」

「ぬ、なんだ?」

「入るか?」

「…………」

 

 士道が問うと、十香はうずうずとしつつも、口をへの字に曲げた。ついでに絶妙なタイミングで十香のお腹が鳴る。

 

「シドーが入りたいなら、入ってやってもいい」

「入りたい……ちょー入りたい」

「そうか……では行くぞ」

 

 そう言うと、十香はウキウキでパン屋に入った。

 その様子を見ている者がいると知らずに……

 

 

「あ、令音ー。それ要らないならちょーだい」

「ん……構わんよ」

 

 琴里がフォークを伸ばして、令音の皿に乗っていたブルベリーを突き刺して口に運んだ。

 その横では、ハルトはコーヒーを飲んでいた。

 ヴァルヴレイヴの話をした後、特にやることもなかったため現在近くのカフェで一服していた。

 エルエルフは別の仕事があるらしく、一緒には来なかった。

 

「んー、おーいし。なんで令音はこれが苦手なんだろうね」

「だって……酸っぱいじゃないか」

 

 言って、令音は砂糖たっぷり入ったアップルティーを飲む。

 

「……そうだ、ちょうどいい機会だから聞いておこう」

 

 令音は思い出したかのように口を開いた。

 

「なーに?」

「……初歩的なことですまないが、琴里、なぜ彼が精霊との交渉役に選ばれたんだんだ?」

「あ、それ、僕もずっと気になっていたんだ。ただデレさせるだけなら、エルエルフや僕だって十分務まるはずだろ?」

 

 二杯目のコーヒーを注文し終えたハルトも、令音に続くように聞く。

 

「んー」

 

 令音とハルトの問いに、琴里は眉根を寄せる。

 

「誰にも言わない?」

「もちろん」

「……約束しよう」

 

 ハルトは明るく、令音は低い声のまま返事をする。

 琴里はそれを確認し、首肯し返した。

 令音は口にしたことは守る女である……ハルトはどうかはわからないが。

 

「実は私とおにーちゃんって、血が繋がってないって言う超ギャルゲー設定なの」

「え、そうだったの。てっきり本物の兄妹かと……」

「ほう……」

 

 ハルトは普通に驚き、令音は小さく首を傾げた。

 ただ速やかに琴里の言葉を理解して「それと今の話に何の関連が?」と訪ねてくるかのような調子だった。

 

「だから私は令音のこと好きなんだよねー」

「……?」

 

 令音が、不思議そうな顔を作る。

 

「気にしなーい。……で、続きだけど。何歳の頃って言ったかな、それこそ私がよく覚えてないくらいの時に、おにーちゃん、本当のお母さんに捨てられてうちに引きとられたらしいんだ。私は物心つく前だったからあまり覚えてないけどさ、その時のおにーちゃん、相当参ってたみたいでさ。それこそ自殺でもするんじゃないかってくらいに。まあーー一年ぐらいでその状態は治ったみたいだけど」

「……」

 

 なぜだろうか、令音がピクリと眉を動かした。

 

「どしたの?」

「……いや、続けてくれ」

 

 令音はそう言っているが、無理はないだろう。

 ハルトに至っては、聞いてはいけないことを聞いてしまったと言わんばかりに、完全に顔色を曇らせていた。

 だが、琴里は話を続ける。

 

「んでね、それからなのかなー。おにーちゃん、人の絶望に対して微妙に敏感なんだよね」

「絶望に……?」

 

 そこで顔を伏せていたハルトが反応を示す。

 

「んー。自分の存在が全部否定されるようなーー自分はぜーったい誰からも愛されていないと思っているような。まあ、昔の自分みたいなさ。そう言う人を見ると、まったく知らない人でも絡んじゃうんだよね」

 

 だからと目を伏せる。

 

「もしかしたら……って思ったんだ」

 

 ハルトは「なるほど」と頷く。だが令音は納得していないようだった。

 

「だが……私は聞きたいのはそう言うことではない」

「……」

 

 令音の言葉に、琴里はぴくりと眉を上げた。

 

「って言うと?」

「……とぼけてもらっては困る。君が知らないとは思えない。ーーーー彼は一体"何者"だね」

 

 令音は〈ラタトスク〉最高の解析官である。特注の顕現装置を用い、物質の組成は当然として、体温の分布や脳波を計測して、人の感情の機微さえもおおよそ見取ってしまう。

 

 ーーーーその人間に隠された能力や特性すら。

 琴里はふうと息を吐く。

 

「ま、令音におにーちゃんを預けた時点でこうなるのは大体わかってたけどねー」

「……ああ、悪いが、少し解析させてもらったよ。それで気になる事があったのでね」

「気になること?」

「ああ、それはーー」

「ぶっ!」

 

 令音が何かを言おうとしたところで、ハルトはいきなり咳き込んだ。

 

「なにかあったの?」

「あ……あれ!」

 

 琴里は残っていたブルーベリージュースを吸い込みつつ、ハルトの指差した方向へ視線を向ける。

 とーーーー

 

「ぶフゥゥゥぅーーーー!?」

 

 今店に入ったカップルと思しき男女が視界に入ると、口の中に入っていたジュースを吹いてしまう。

 

「……」

 

 どうやらカップルには気づかれなかったようだが、琴里の目の前にいた令音はその被害をモロに受けていた。

 要はびしょ濡れである。

 

「ごめっ、令音……」

 

 声をひそめて琴里が謝ると、令音は何事もなかったかのように、ポケットから出したハンカチで顔を拭っていた。

 

「……なにかあったのかね。琴里、それにハルト」

「え、ええ、とても非現実的なものを見た気がして」

「令音、あれを見れば納得するよ」

「なんだね……」

 

 令音の問いにハルトと琴里は令音の後ろを指をさした。

 令音は首を回し、ピタリと動きを止めた。

 そして数秒あと、ゆっくりと首をもとの位置に戻し、アップルティーを口に含んだ。

 それから二人に紅茶を吹き出す。なんとも器用なことである。

 

「……なまらびっくり」

 

 なぜか方言だった。令音なりに動揺しているのかもしれない。

 それはそうだろう。何しろ彼女の後ろから二つ程離れた席には、琴里の兄・五河士道が女の子を連れて座っているのだから。

 しかもこれだけではなかった。

 その女の子は───琴里たち災厄と、精霊と呼ぶ、あの少女だったからだ。

 

「えええ・・・なにこれぇ」

 

 琴里は激しく動揺した声を発する。

 

「こ、琴里。とりあえず<フラクシナス>に移動しよう」

 

 隣のハルトの提案に賛同したのか、黒いリボンを取り出して司令官モードになった。

 

「そうね。そのためにまず、士道達にバレないでお会計を済ませましょうか……」

 

 

「……」

 

 士道は手にした伝票の数字と、財布の中身を交互にふうと息を吐いた。ほとんど残らないが、辛うじて払いきれる金額であった。

 

「ほら、行くぞ十香」

 

「ん、もうか?」

 

 十香は目を丸くしながら言う。士道は急かすように立ち上がった。

 士道がレジを歩いていくと、十香もそれについてきた。

 

「お会計お願いします」

 

 士道はレビに立っている店員をかけーー

 

「ーー!?」

 

 盛大に眉をひそめて、一歩後ずさった。

 なぜならそこに立っていた店員が、

 

「……はい、お預かりします」

 

 見覚えのある、分厚い隈を拵えた、やたら眠そうな女性がだったのだから。

 

「ん? どうかしたのかシドー。敵か!?」

 

「い、いやいや違う」

 

 力なく十香の言葉を否定する。

 

「……こちら、お釣りとレシートです」

 

 士道が驚いている間に、会計を済ませた令音が紙面を、紙面をトントンと叩きながら渡してきた。

 そのレシートの下のほうに、『サポートする。自然にデートを続けたまえ』と言う文字が記載されていた。

 

「い、いや、なんでもない」

 

 士道は十香に言って、レシートをポケットにねじ込んだ。

 すると令音は、レジ下引き出しからカラフルな紙を一枚取り出して、士道に手渡した。

 

「……こちら、商店街の福引券です。店から出て、右手道路沿いに行った場所に福引き所があります。()()()()()()()()()()()()()

 

 場所を詳しく説明した上、後半をやけにはっきり言ってきたので、これは絶対に使えの意思表示だろう。

 とはいえ、そんなに念を押されなくても良かったかもしれない。

 

「ん? シドー、なんだそれは」

 

 なぜなら十香が、福引券に興味を示していたからだ。

 

「行ってみるか?」

 

「シドーは行きたいのか?」

 

「……おう、行きたくてたまらねー」

 

「では、行くか」

 

 十香は大股で店を出て、士道は令音を軽く頭を下げると、十香のあとを追いかけた。

 

 

「ーーご苦労様、令音」

 

 レジの陰に隠れていた琴里は、二人が出たのを確認して立ち上がった。

 

「慣れないね、どうも」

 

 令音が制服の裾を持ち上げ、抑揚のない調子でいう。

 琴里はウンウンと頷くと、キッチンの方へと視線を向ける。

 

「貴方達も出てきていいわよ」

 

 琴里の発した言葉を皮切りに、キッチンの方から二つの人影が現れる。

 ハルトとエルエルフだ。ノロノロと現れてくる様子はまるでゾンビのようであった。

 

「はあ〜、やっと終わった〜。もう当分、皿洗いはしたくない」

 

「今回ばかりは俺も同感だ……あの女、どれだけ食べるんだ」

 

 二人はお互いに体を預け、その場にへたり込んだ。

 十香の食事した量を考えれば、二人の労力は想像を絶するものだろう。

 琴里は、そんな二人の様子に微笑を浮かべると、すぐに携帯電話を開いて電話をかけた。

 

「私よ。ええーー二人が店を出たわ。さっさと準備をしなさい。失敗したら、皮剥ぐわよ」

 

 琴里は最後に脅しを残すと電話を切る。

 

「作戦は第二フェイズに移ったわ、私達も次の準備に取り掛かるわよ」

 

「……わかった」 

 

 そして三人の方へと体を回すと、

 

「さあ、私達の戦争(デート)を始めましょう」

 

 

                ◇ 

 

 夕日に染まった高台の公園には今、士道と十香が以外誰もいなかった。

 時折、自動車の走行音やカラスの鳴き声が聞こえる程度の、静かな空間だった。

 

「おお、絶景だな!」

 

 十香は先ほどから、落下防止用の柵を身を乗り出しながら、黄昏色の天宮市を眺めている。

 

「シドー、あれはどう変形するのだ!?」

「残念ながら電車は変形しない」

「なに、合体タイプか」

「まあ、連結くらいはするか」

「おお」

 

 十香ら妙に納得した調子でうなずくと、くるりと身体を回転させ、手すりに体重を預けながら士道に向き直った。

 夕焼けを背景に佇む十香は、それは綺麗でまるで一枚の絵みたいだった。

 

「───それにしても」

 

 十香が話題を変えるように、んー、と伸びをした。

 そして屈託のない笑みを浮かべてくる。

 

「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」

 

「っーーーー」

 

 不意を突かれた。自分の顔は見えないが、きっとトマトのように真っ赤になっているだろう。

 

「どうしたーーーー顔が赤いぞ」

「い、いや、なんでもない」

 

 士道は額に滲んだ汗を袖で拭いながら、チラッと十香の顔を一瞥した。

 十日前、そして昨日、十香の顔に浮かんでいた鬱々とした表情は、随分と薄れていた。

 

「ーーどうだ? お前を殺す奴なんて誰もいないだろ?」

「……ん、皆優しかった。正直にいえば、まだ信じられないくらい」

「あ……?」

 

 士道が首を捻ると、十香は自嘲気味に言った。

 

「あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。世界がこんなに優しいだなんて、こんなに楽しいだなんて、こんなに綺麗だなんて.......思いもしなかった。メカメカ団......ええとなんといったか。エイ......?」

「ASTのことか?」

「そう、それだ。ASTとやらの考えも分かったしな。だから奴らが私を狙う理由も分かった。私はこの世界に現れる度にこんな美しいものを壊していた」

 

 そう言う十香の表情はとても悲痛なものに戻っていた。

 その表情を見た士道は、呼吸が上手くできなくて胸が締め付けられる。

 

「シドー、やはり私はいない方がいいなーー」

 

 言ってーー十香が笑う。

 まるで死期を悟った病人のような、そうでなければ解脱者のような穏やかな笑顔だった。

 だが士道はそんなことを認めない、認められるはずがない。

 

「そんな……こと……ない」

 

 だから士道は叫ぶ。

 

「だって……今日は空間震が起きなかったじゃないか! きっといつもと何か違いがあるはずだろ!」

 

 しかし十香は首を横に振った。

 

「例え、その方法が分かっても、不定期に存在がこちらに固着するのは止められない。限界の回数は減らないだろう」

「なら……戻らなきゃいいだろう!」

 

 士道が叫ぶと十香は目を見開いた。

 

「そんなことーーーー可能のはず……」

「試したのか!? 一度でも!」

「で、でもあれだぞ。私は知らないことが多いぞ」

「そんなもん、俺が教えてやる。それだけじゃない。ハルトみたいな奴だってたくさんいるんだ」

「寝床や食べるものだって必要になる」

「それも……どうにかする!」

「予想外のこともあるかもしれない」

「そんなもん、起きた時に考えろ!」

 

 十香はしばらく黙り込むと、小さく唇を開いた。

 

「……本当に、私は生きていいのか?」

「ああ、もちろんだーー!」

 

 叫んで、十香に向かってバッと手を伸ばす。十香の肩が小さく震える。

 

「ーーーー握れ! 今はそれだけでいい……!」

 

 十香は顔を俯かせ、数瞬の間思案するように沈黙したあと、ゆっくりと顔を上げ、そろそろと手を伸ばしてきた。

 

「シドー……!」

 

 と士道と十香の手と手が触れ合おうとした瞬間。

 

「ーーーー」

 

 士道は、ピクリと指先を動かした。突然とてつもない寒気を感じた。ざらざらの舌で全身を舐められるような、嫌な感触。

 

「十香!」

 

 無意識のうちに十香の名を呼び、咄嗟に突き飛ばした。

 

「あーーーー」

 

 士道の胸と腹の間に凄まじい衝撃が襲ってきた。

 

「な、何をする」

 

 十香の非難の声をあげるが、士道の耳には届かなかった。

 

          

 

 




うへぇ、疲れた。
前書きにも書きましたが、体調の都合でこれからは二日に一話投稿になると思います。
せっかく皆様に楽しんでもらっているのに、こんな自分で申し訳ない。
話はここまでです。
それでは次回、また会いましょう
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