綾小路清隆の妹として、全力で支えます 作:ぐれーぷ
黒雨白恋さん、akatsuki41221さん、きゃのぴーさん、好評価ありがとうございます。
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1限目〜私に愛を注いで〜
眼前に広がる大海。頭上に広がる大空。今、私たち1年生は豪華客船に乗って太平洋のど真ん中で夏のバカンスを満喫していた。気持ちいい潮風が吹いており、夏の暑さが和ぐ。きっと多くの生徒が今頃、この豪華客船にある多くの娯楽施設を堪能していることだろう。プール、お風呂、食事、ジム、全ての施設が無料だ。まさにシーパラダイス、最高のサマーバケーションだよ。
「いや、満喫してないだろ。愛歌、お前がやってるのはただの引きこもりだぞ」
「だってお外は日焼けするもん。私は絶対に部屋から出ない!」
「ならせめて自分の部屋に戻ってくれ……」
私は今、清にぃたちの部屋に居た。部屋の中には清にぃしか居なくて、別に男子生徒の部屋に行くことは禁止にされていないので、何の問題もない。
ソファーに座って読書しつつ、窓から見える海の景色を堪能する。注文すれば食べ物も運ばれて来るので、いよいよもって部屋の外に出る
こうして人類の叡智が作り上げた神器、クーラーをガンガンに効かせて、静かに読書してた方が絶対にいい。
「清にぃ、私はここに断言するよ。人類最大の発明はクーラーだ」
「だらけすぎだろ。それでいいのか妹よ」
「夏嫌い。暑すぎて無理。肌焼ける」
「川柳で返事を返すな。ほら行くぞ愛歌」
悲報。清にぃ、お兄ちゃんから鬼ぃちゃんになる。渋々私はソファーから立ち上がった。
外に出ると色んな所から陽気な声が聞こえて来る。生徒が胸を躍らせ楽しんでいるのが伝わって来た。
「なるほど。これはこれで見てて楽しい」
「そうだろ。初日から部屋に閉じ籠もっているなんてもったいないぞ」
「うん本当だね。まるで人がゴm──はぅ」
頭に清にぃの手刀が落とされた。地味に痛い。きっと鈴音ちゃんと一緒に居すぎて感化されてしまったんだ。妹はそんな兄の変化に悲しいよ。
「櫛田たちが待ってる。行くぞ」
「……いや待って、もしやこれは兄から妹への愛の鞭なのでは? ほらよく聞くでしょ? 彼氏が彼女を殴ってるのはお前のためだって……つまり清にぃのこれは愛ゆえの行い……清にぃ!! 私のことをもっといっぱい叩いて! 私に愛を注いで!」
「……愛歌、やっぱり部屋に戻ってくれ」
清にぃが心なしか少し項垂れていた気がした。しかも連れ出しておいてやっぱり戻って欲しいって……あれ、私なんかしちゃいました?
本当に置いて行こうとするから急いで横に並ぶ。向こうで池くんたち*1が手を振っていた。それに私たちも振り返した。櫛田さんの姿は見当たらない。遅れてるのかな?
「綾小路ちゃん何してたんだよ! 部屋に篭ってたらもったいねぇって!」
「寛治の言う通りだぜ綾小路ちゃん」
池くんはいい。普通に私の顔を見ながら話してくれるから。何なら私の中で池くんの評価はそこまで低くない。友達だと思って接してる。
でも山内くんのことは避けてた。ある程度は理解するけれども、毎日こんな劣情しかない目で見られたら不快にもなる。こうやって感情が残ってる辺りが私の欠点なんだろうな。その気になれば精神で抑えつけられると思うけど、性格まで変わりそうだからやめておこ。
「よっ、綾小路。あれか、体調大丈夫か?」
「お疲れ須藤くん。うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「そ、そうか。ならいいんだ」
須藤くんとの会話が終わる。いや、終わらせたと言うべきか。仲直りはしたけれど、こうやって接していれば須藤くんは鈴音ちゃんの方に流れるはずだ。私が須藤くんにやるべきことは終わった。愛里ちゃんとも、もう友達だけの関係でいいだろう。そうなると次は
今後のために何をするべきか考えていると、櫛田さんがやって来た。
「ごめん、皆お待たせ。あ! 綾小路さん! やっと出て来た! 皆心配してたよ?」
(私のこと心配して下さいアピールか? そのまま閉じ籠もってろよ)
「私たちも今来たとこだよ櫛田さん。心配かけてごめんね」
なんか櫛田さんの心の声が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだ。そうに違いない。もしそんなことを思ってたら怖すぎる……いや本当に思ってそう。櫛田さんなら全然あり得る。
展望デッキから見える大海原は本当に綺麗で、船によって跳ねた水飛沫が眩しい太陽に照らされ、宝石のように輝いていた。
池くんなんかは興奮のあまり叫んでいる。皆が退学にならなくて本当によかった。
「あれ、綾小路くん。堀北さんは一緒じゃないの?」
「そう言えば居ないな。それにいつも一緒ってわけじゃないぞ」
「えー? 本当は裏で付き合ってたりして」
「冗談でも堀北の前では言わないでくれ」
鈴音ちゃんに睨みつけられる清にぃが容易に想像できた。鈴音ちゃんいいなあ、私も鈴音ちゃんと一緒に引きこもりたい。麦わら帽子とか置いてないかな。するとアナウンスが流れて来た。
『──皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非とも展望デッキに足をお運びください。間もなく島が見えて参ります。これより島の周りを一周しますが、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
こうして聞くと奇妙すぎるアナウンスだった。
アナウンスされたことで、満喫していた多くの生徒たちが展望デッキへ集まって来る。
こうも生徒たちが一度に押し寄せて来ると、当然ぶつかりそうになる訳で、須藤くんとAクラスが衝突していた。先日の暴力事件が起きた原因の1つとして、自分自身の普段の言動がいけないと自覚を持った須藤くんは、謝ることはしなかったけれど無視してAクラスの生徒へ譲った。そんな須藤くんを見て櫛田さんは笑みを浮かべる。
「須藤くん変わったね」
「だな。暴力事件は須藤にいい薬になったみたいだ」
「うん。これも全部綾小路さんと堀北さんのおかげかな?」
鈴音ちゃんのおかげだよ。って返したかったけれど、何を言っても嫌味になりそうなので笑って誤魔化した。Dクラスの皆も姿を見せ始め、多くの生徒が展望デッキへと集まった。人混みは好きじゃないから、皆と距離を取って島を眺める。
清にぃや櫛田さんも同じみたいで、私の方へとやって来た。そして櫛田さんがくれば当然あの3人も来るわけで……結局、騒がしくなるね。
「何か考えごとか?」
「んー? ちょっとね。佐枝先生の言ってたことで少し考えてる」
「……本当か嘘かまだ断定できない。様子を見るべきだろう」
私と清にぃは佐枝先生に呼ばれて、私たちの父親が佐枝先生に、私たち兄妹を退学にしろと言ってたことを聞かされる。もし退学にされたくなければ、Aクラスに上がるために本気を出せと言われた。
これは佐枝先生の嘘だが、今の清にぃにはまだ分からない。私が教えたところでこの人は信じないだろう。どうして私がそれを知っているのか? 清にぃを納得させるだけの理由が思い浮かばない。幾つかあるにはあるけれど、それだと私のことも今後一切信用しないだろうね。元々無いに等しい信頼関係だけど、0よりは1の方がましだ。
「2人とも何の話をしてるの?」
「この学校が本当に無人島で、ただ夏を満喫させるのかなって」
「今見えてる無人島がもしそうなら、茶柱先生から聞いていたペンションなんて、何処にも見えないからな」
「確かに……さっきのアナウンスも少し変わってたもんね」
話しかけて来た櫛田さんを上手く誤魔化せた。基本的に大勢がいる所で話すのは躊躇われるが、主語を言わずお互いにだけ伝わるように話せて、仮に聞かれていたとしてもこうして完璧に誤魔化せれば問題はない。そもそも聞かれるようなヘマなんて、清にぃも私もしないけどね。
「く、櫛田ちゃん! ちょっといいかな!?」
「いいよ……? い、池くん? どうしたの?」
緊張のせいかやや声が裏返り、櫛田さんに話しかける池くん。挙動不審過ぎる池くん。更には急接近で櫛田さんに近づいた。それでも距離を取らない櫛田さんを、私は本当に尊敬した。そんな挙動を女の子に見せたらまず間違いなく距離を取られる。少なくとも私なら距離を取る。
「いやほら、櫛田ちゃんとも仲良くなって結構経つじゃん? だからそろそろ次のステップに進んでもいいんじゃないかなって」
「え、あ、うん。皆と仲良くなって結構経つね」
「だ、だから……そろそろ下の名前で呼び合ってもいんじゃないかなって!?」
「……へ?」
「いやほら! 友達になってもう4ヶ月ぐらい経つし、ずっと苗字で呼び合うのもおかしいじゃん!? そろそろ下の名前で呼び合う関係になってもいいかなって! 櫛田ちゃんは! ど、どどどどう思う!?」
まくし立てるように喋る池くんは、それはもう必死だった。恥ずかしさと嫌われたらどうしようという緊張感と不安。別に名前ぐらい普通に呼べばいいのに、何でわざわざ許可を取ろうとするんだろ? 初対面なら分かるけれど、友達の関係なら別に下の名前で呼んでもおかしくない。自分のことを下の名前で呼んで欲しい、ってお願いするのは分かるけれどね。
そもそもの話、下の名前で呼んでいい? って聞かれても断りづらい。ダメなんて余程の相手じゃないと言えないし、そんな相手には態度にも出してる筈だから聞かれることもないからなあ。
「うん。いいよ。じゃあ私は寛治くんってこれから呼ぶね?」
「え、まじ? いいの? ……おっしゃぁぁぁあ! 桔梗ちゃんマジ最高ッ!」
大声で叫ばないで欲しい。何事だと色んな生徒たちの視線が私たちに集まる。それに気づかないでずっと叫び続けている池くんから、私と清にぃは静かに離れた。
あれを笑って流せるんだから、櫛田さんは本当に凄いや。適当に私も弱みを作ってそれを櫛田さんに握らさせて、本音で話し合ってみたくなって来た。
「なあ綾小路ちゃん!」
パターンY、山内くんが来やがった。これから山内くんが言おうとしているのは、この話の流れ的にきっとそうだよね?
「俺たちも友達になって結構経つし、名前で呼び合うのはどうかな!?」
やっぱりほら。絶対こう来ると思った。聞かれた時点で私の負けだ。
「構わないよ。でもごめんね山内くん。私さ、男性を下の名前で呼ぶの、少し恥ずかしくて抵抗あるから、私はこれからも山内くんって呼ばせて」
「お、おおマジか! うん! 全然いいよ愛歌ちゃん! これからもよろしく!!」
下の名前で呼んでる男性は清にぃ以外に居ないから大丈夫でしょう。今のところ下の名前で呼びたいと思える男性はいない。強いて言うなら平田くんや神崎くんとかかな。洋介くん、隆二くん……イケメンは下の名前もイケメンなのか。
須藤くんが清にぃに鈴音ちゃんの名前を、呼ぶ練習をさせて欲しいと頼んでいる。
鈴音ちゃんが姿を見せないのが少し心配になったので、鈴音ちゃんが使っている部屋にやって来た。体調が悪いんだったよね。
「誰……?」
「私だよ鈴音ちゃん。分かる私のこと? ワタシワタシ」
「はぁ、まったく。オレオレ詐欺ならぬ、ワタシワタシ詐欺ね」
部屋の中で人が動く気配がする。ずっと横になってたのかな。鍵が開けられ入ってと言われた。扉を開いて部屋に入ると、覇気のない鈴音ちゃんの姿があった。部屋の中は少し暑い。エアコンはつけられてなかった。
「鈴音ちゃん体調が悪いの?」
「別に普通よ。外がうるさいと思って部屋に居ただけ」
「ならいいんだ。確かにうるさかったね。部屋に篭って正解かも」
部屋に備え付けてあるソファーに座る。窓から外を眺めていると、客船が無人島のすぐ目の前にまで近づいた。浅橋に止まると思われた客船は、そのまま再び島を周り始める。さっきと違って今度は高速旋回だ。
「ここが例の無人島かしら」
「多分ね。ペンションなんか何処にも見当たらないけど」
「展望デッキでも見えなかったの?」
「うん。もしかしたら遠かったから見えなかっただけで、今なら見れるかもね」
「気になるなら行けばいいじゃない。私は部屋で休ませて貰うわ」
「鈴音ちゃんやっぱり体調悪いでしょ」
「はぁ、しつこいわよ綾小路さん。私はいたって──」
鈴音ちゃんのおでこに私のおでこを合わせる。やっぱり少し熱があった。まだ37度半ばと言ったところかな。
突然のことで鈴音ちゃんは目をパチパチさせていた。可愛いなもう。
体温を測れたのでおでこを離し、今度は鈴音ちゃんの横に腰を下ろした。すると横に少し動いて私から距離を取ろうとする。
「ほら、やっぱり熱があった。別に隠す必要なくない?」
「はぁ……迷惑をかけたくないのよ。あなた、私に熱があるって知ったら看病しようとするでしょう?」
「よく分かってるじゃん。そんな訳で鈴音ちゃん服脱いで。身体拭いてあげる」
「結構よ。綾小路さんこのことは皆には言わないでちょうだい」
「分かってるって。それじゃあゆっくり休むんだよ? 何かあったらすぐ電話して」
「ええ。分かったわ」
部屋を出ようとした時、またアナウンスが船全体に流れた。
全生徒はジャージに着替えて、指定された鞄と荷物を準備した後、携帯を忘れずに持ち30分後に展望デッキで集合。それ以外の私物の持ち込みは禁止だった。どうやら遂にこの無人島に上陸するみたい。
「……鈴音ちゃん休まなくて大丈夫?」
「行くわ。この学校がただ無人島でバカンスするだなんて信じられない。きっと何かしらあるはずよ」
「なるほどなるほど。じゃあジャージに着替えないとだね」
「ええ。だからあなた、も……何をしているの綾小路さん?」
何って、そりゃあジャージに着替えるために服を脱ぐわけだから、折角なら身体でも拭いてあげようと思った。濡らしたタオルを持って私は待機する。
「……はぁ。言っても無駄そうね。お願いするわ綾小路さん」
任されました。へへ、合法的に生娘の可愛い
やばい興奮して来た。写真撮ってもいいかな? 家宝にする。毎日朝昼晩でお祈りを捧げてもいい。
服を脱いでベットの上に可愛らしく内股で座る鈴音ちゃん。弱ってる女の子っていいよね。
早速その身体に触れようとした時だ。少しだけ振り返り私を見る。
「綾小路さん。変なことしたら……分かってるわよね?」
……ハイ。ワカッテマス。スイマセンデシタ。
オレはジャージに着替えて忘れ物が無いか確認し、ルームメイトの平田と共にデッキへやって来た。クラスごとに並ばされており、各クラスの担任が生徒たちの荷物チェックを行っていた。これからこの無人島に降りると知って、生徒たちの興奮は最高潮にまで達している。皆、海で泳ぐ気満々だ。
ふと記憶の片隅にあった『あの日』のことを思い出した。こうして海に来るのは2回目だ。去年の夏に、愛歌と一緒に海を初めて見に行った。『あの日』もこうして天気が良く、暑かったのを覚えている。
そう言えばあの時、愛歌と海に行った時に
「ありゃま。Aクラスがもう降り始めてる」
振り返ると愛歌と堀北が一緒に居た。堀北の様子が少しおかしい。
「愛歌か。それに堀北も。今まで何してたんだ?」
「部屋で読書してただけよ。まだ読み終わってないけれど……私物の持ち込みが禁止じゃあ、仕方ないわね。本の一冊や二冊、別にいいじゃない」
「それを認めると、他の生徒もこれはいいのでは? と収集がつかなくなるからな。それに私物を持ち込んでそれを島に捨てて、ビーチが汚されても困るだろ」
「……それもそうね」
どうやら堀北は体調が悪いようだ。愛歌の方を見ると頷いている。熱は……37度ぐらいか。ただ無人島で過ごして終わりだとは思えない。悪化しなければいいんだがな。
船尾にはヘリが一機置かれていた。無人島で何かあった時に、すぐに救助に行くためだろう。最悪の場合は堀北がヘリに乗ることになりそうだ。そんなことは無いと願うばかりだが。
「2人とも妙だとは思わない? 私物の持ち込みはさっき綾小路くんが言った通り、この島に私物が捨てられるのを防ぐため禁止しているのは理解できる。でも端末まで持ち込み禁止だなんて……テストの時ですらしなかったわよ」
「清にぃこれが最近の若者たちだよ。何をするにしてもスマホ。スマホスマホって。現代社会の闇だね」
「そうだな。堀北も早くスマホ離れできるように──痛い。どうしてお前はそうすぐに暴力へ走るんだ」
足を踏まれた。言い出しっぺは愛歌なのに何故かオレだけ踏まれる。解せない。愛歌お前のせいだぞ。兄が足を踏まれたって言うのに笑っていやがる。後でお仕置きだな。
「この1週間……きっとただのバカンスで終わらないわよ」
同感だ。それにAクラスとのCPは依然広いたまま。このままAクラスが逃げ切る、それを学校側が許すはずがない。どこかでCPが変動する何か、愛歌から教えて貰った『特別試験』があるはずだ。恐らくその1回目がこの無人島で行われるとオレは考えている。
全クラスが下船し、砂浜で再びクラスごとに並ばさせられる。点呼を取り荷物の確認を改めて終えると、壇上にAクラスの担任である真嶋先生が上がった。
どうやら1名を除いた全ての生徒が参加しているらしい。
そしてどうやらオレや堀北の予想は見事に的中したようだ。
「──これより、本年度最初の『特別試験』を実施する。テーマは『自由』だ」
ざわつき始める生徒たち。後ろではいつものように池が騒いでいた。
これから1週間、オレたちはこの無人島で8月7日の正午まで生活しなければならない。
学校から、クラス毎にテントを2つ、簡易トイレを1つ、懐中電灯を2つ、マッチが1箱支給される。日焼け止めに関しては数に制限なく、女子には生理用品を無制限に配るそうだ。必要になったら担任に、Dクラスなら茶柱先生に貰うよう指示される。
「清にぃ無人島サバイバルだって。楽しみだね」
「サバイバルにしては随分と優しいな」
「まぁまぁ、イージーモードのサバイバルって考えればいいじゃん。それにこんなに優しくても池くんとか他の生徒たちは不満みたいだよ」
無理も無い。夏休みに、それも夏のバカンスと聞いていた結果がこれだ。不満の1つや2つぐらいあってもおかしくない。だが真嶋先生の続きの説明を聞いて、次第に騒めきが小さくなっていった。
今回、無人島で行われる『特別試験』のテーマは『自由』。各クラスに今回の試験でのみ使用できる、300ポイントが支給される。このポイントを使えばこの1週間、無人島でバカンスを堪能できる。配られたマニュアルには、様々な食材や飲料水は勿論、バーベキューセットや釣り竿に浮き輪等、海を満喫する為の道具がリストアップされていた。
「今回この試験でのみ使える300ポイントは1週間好きに使って貰って構わない。しかしこの『特別試験』終了時、各クラスに残っていたポイントが、夏休み明けにCPとして加算され反映される」
つまり『特別試験』が終わった時に100ポイント残っていれば、CPとして100増える訳だ。
理想は1ポイントも使わないことだが、まずそれは無理だ。食べ物や飲み物を初日から全員分を確保するのは至難だ。しかも4クラス、119人の生徒がいる訳で、そうなれば必然的に手に入る食糧も減る。ポイントを使わずに1週間この『特別試験』を乗り切る……それは不可能と断言していいだろう。
次に腕時計が配られた。この試験が終わるまで外すことを認められず、時間の確認はもちろんのこと、生徒のバイタルチェック、非常事態の連絡機能が搭載されている。何らかの理由で腕時計が壊れた場合は直ぐに教師が、新しい腕時計を取り替えに来るそうだ。真嶋先生からの説明が終えると、更に詳細な説明を茶柱先生がしてくれた。この『特別試験』にはルールがあった。
〜・スポット占有するには専用のキーカードが必要である。
・1度の占有につき1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる。
・他クラスが占有しているスポットを許可無く使用した場合50ポイントのペナルティを受ける。
・各クラスリーダーを1人決める。リーダーの名前が刻印されたキーカードが支給される。
・キーカードが使用できるのはリーダーとなった人物に限られる。
・正当な理由なくリーダーの変更は認められない。
・最終日に他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。的中させたクラス1つに付き50ポイントが与えられる。〜
「スポットでポイントを稼ぐのが定石になりそうね」
「そうだね鈴音ちゃん。でもスポットを占有しようとしすぎて、リーダーを他クラスに当てられたら、50ポイントを支払わなければならない」
「更にそれまで貯めたボーナスポイントも失うからな。リーダーには細心の注意が必要だ」
「まあ、問題はそれだけじゃないけどね」
愛歌の視線を追う。その先では男子と女子がポイントでトイレを買うか、買わないかで揉めていた。確かにこの簡易トイレじゃ、女子にとっては最悪だろう。あの堀北でも嫌そうにしていた。
幸村を筆頭に男子はポイントを節約すべきで簡易トイレが1つあればいいと主張し、多くの女子たちはトイレは絶対に買うべきだと反論していた。両方から挟まれる平田が可哀想だ。
ただ軽井沢が簡易トイレでも平気そうにしていたことは意外だった。てっきり1番騒ぐと思ってたんだが。
「このままじゃ埒が明きそうにないね。なんとかしますかぁ」
愛歌はそう言うと揉めている男子たちの方へと近づく。
「私もトイレは欲しいかな……誰かに見られたら恥ずかしい……です」
内股で恥じらいながらそんなことを言った。あざといなあー。あまりにもあざとい。櫛田ですらあそこまでしないだろう。俗に言うぶりっ子だ。
だが美少女の恥ずかしがる姿は効果絶大で、さっきまで頑なに反論していた男子たちが黙る。次に口を開いた時には、衛生面や今後の健康・精神状態を考えて、やっぱりトイレは買おうと賛同していた。
「本当に男子は単純でくだらない生き物ね」
堀北の呟きに周りにいた女子たちは頷いていた。男子は皆向こうにいるので肩身が狭い。
愛歌がコチラにサムズアップしていたが、オレは全力でそれを無視した。
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