綾小路清隆の妹として、全力で支えます   作:ぐれーぷ

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5限目〜清にぃはヘタレなんだから!〜

 

 

 

 ──無人島での『特別試験』5日目。

 

 清にぃと鈴音ちゃんは他クラスの偵察に行ってきた。案の定、龍園くんは全てのポイントを使い切っていたみたいで、既にCクラスたちは1人残らず浜辺から消えている。当然Dクラス同様に、BクラスにもCクラスの金田悟くんスパイがとして潜入していた。

 そして無人島での『特別試験』3日目に、清にぃは偵察から帰って来て私へ1つの指示を出した。

 

 ──今回の特別試験、愛歌からは何もするな

 

 勿論これはただじっとしていろって意味ではなく、清にぃの指示に従い動けという意味だ。この試験で勝つために私が動く必要はなくなった。もしかしたら清にぃが私に全て任せるかも知れないから、一応複数作戦を考えていたけれど、私から動く必要はなくなったね。

 ひとまず今はいつも通り食材の調達を任されている。今は魚と貝がメインだ。海の中って本当に楽しくて2回ぐらい溺れかけた。気をつけないと。

 

 さて、今度は私たちDクラスについてだ。今Dクラスはどんな状況かと言うと──

 

「──絶対男子の誰かよ! 軽井沢さんの下着を盗むなんて最低(さいってい)!」

 

「男子全員荷物検査よ! 今! すぐに!」

 

 ご覧の通り。クラスみんなこんな早朝から元気いっぱいだった。

 平田くんが仲裁に入るけど流石にこれは無理だ。今の女子は止まらない。盗まれた軽井沢さんの嗚咽がテントの中から聞こえて来る。女子の団結力、それもカーストトップの子が泣いている状況。その結果、男子の荷物検査が行われることになった。男子の荷物を平田くんがチェックする。

 

「綾小路さん?」

 

「平田くんとは言え男子だけだとね。私も二重でチェックさせて。男子とは言え女子に下着見られたくないだろうから、それは平田くんがチェックした時に取り除いて荷物を確認させて」

 

「そうだね。平田くんと綾小路さん、男子たちの荷物チェックお願い」

 

 平田くんは少し困った様な表情を浮かべていた。

 平田くんは男子が下着を取ったとは思っていない……いや思いたくない。だから信じようとしている。だけどもし仮に男子の荷物から軽井沢さんの下着が出てきてしまったら? 最悪の事態を考えて誤魔化す為にも、平田くんは1人で調べた方が都合が良かった。

 私は平田くんと顔見合わして頷く。大丈夫。見つかったとしても、私も知らないふりをするつもりだから。こうやって女子が一緒に確認するのとしないとでは皆からの信用度が変わる。

 

「助かるよ綾小路さん」

 

「クラスが崩壊するのは私も避けたいからね」

 

「そうだね。こんな事は早めに済ませよう」

 

 私はそれに頷いた。

 平田くんと私で二重チェックを行い素早く済ませる。池くんたちが少し騒いでたけど、全員の荷物チェックが無事終わった。その結果、男子の荷物からは軽井沢さんの下着は出てこなかった。

 平田くんは安堵の息を吐き、その事実を女子たちへ教えた。

 

「……身体検査」

 

「えっ?」

 

「身体検査もしてよ平田くん。下着を盗む変態なんだもん。身に付けてたりポケットの中に隠してるかも知れないでしょ!」

 

「な、なんだよおまえらさっきから! なんで俺たちを疑うんだよ!」

 

「はあ? アンタそれ本気で言ってるの? 女子の下着を盗むなんて男子しかいないでしょ? それとも何、池、アンタが盗んだの?」

 

「は、はあ!? そ、そそんな訳ないだろ! そんなに信じられないなら調べたいなら調べろよ!」

 

「ありがとう、そうさせてもらうから。平田くんお願い」

 

 あーあ。池くん、余計なことを言うから……。

 男子のボディチェックが始まった。これは女性()が近くで見る訳にはいかないので、離れてことの成り行きを見守った。1人づつ確認を済ませ、清にぃの番がやって来る。そして清にぃのチェックをしている平田くんが一瞬、固まったのを私は見逃さなかった。

 

「うん。綾小路くんも大丈夫だね。次──」

 

 平田くんによる男子全員の身体検査が終わった。その結果、男子たちからは軽井沢さんの下着は見つからなかった。

 

「やっぱり皆、持っていなかったよ」

 

「おかしいな……絶対男子が盗んだはずなのに」

 

「でも平田くんが言うんだから」

 

 篠原さんと佐藤さんはあの平田くんが嘘をついていると思う筈もなく、軽井沢さんの下着が見つからなかったことを不思議に思いつつも折れるしかなかった。当然女子の中では平田くんを信じていない者をいるだろうね。

 

「高円寺、高円寺じゃないのか? 盗ったの! だってアイツなら皆が寝てても盗れるだろ!?」

 

 池くんがそう叫びながら訴えた。女子たちの中から確かにと声が上がる。今クラスの矛先が高円寺くんに向けられるのはダメだ。折角の気まぐれで高円寺くんがクラスに協力しているのに、ここで高円寺くんとの溝が深まったら本当に困る。ここは私がなんとかしよう。

 

「さっき平田くんにお願いされて、佐枝先生に高円寺くんの位置情報を調べて貰ったけど、昨晩からこの辺りには来てないみたいだよ。ね、平田くん?」

 

「あ、うん。腕時計で位置情報が分かるからね。ありがとう綾小路さん」

 

「ううん。クラスのためだからね」

 

「こ、高円寺じゃねぇのかよ。くそぅ

 

 流石は平田くんだ。ちゃんと私のアイコンタクトの意味に気づいた。後で佐枝先生には事情を話して口裏を合わせて貰う。ポイント請求して来たりしないよね? 信じるよ佐枝ちゃん先生。てか池くん、君誰が今持ってるか知ってるよね? なのになんで高円寺くんに罪を擦り付けようとしてるのさ。やめてよね。

 ひとまず女子の要望通り身体と荷物検査を終えたので、男子たちは荷物の片付けを始めた。今後についての話し合いはまず荷物を片付けてからだ。

 私は鈴音ちゃんの様子を見にテントに戻った。

 

「どうやら犯人は男子たちではなかったようね」

 

「うん男子たちは無罪かな。鈴音ちゃんずっとテントの中に居たんじゃないの?」

 

「居たわよ。でもあれだけ騒げば全部聞こえるわ」

 

「確かに騒がしかったもんね。でもね鈴音ちゃん、軽井沢さんの下着は池くんのバックに入ってたよ」

 

「……伊吹さん、しか考えられないわね。男子が本当に無罪ならの話だけれど」

 

「私はそうだと思ってる。それか女子の嫌がらせって線もあるけどね」

 

「あり得ないと言いたい所だけれど、彼女の性格上確かに恨みを持たれていても仕方ない……はぁ、この先が思いやられるわね」

 

 同感だよ。この後のことを考えるとこの場を離れて散策したいと思ってしまう。

 テントの外から平田くんの声が聞こえてきた。どうやら男子の荷物の片づけが終わったようだ。鈴音ちゃんと私も一度外へ出る。

 平田くんの隣には涙で目を腫らし、怒りを露わにした軽井沢さんの姿があった。軽井沢さんは過去に『虐め』を経験している。今思えば下着が盗まれたことは他の女子よりも怖かった筈だ。男子が盗んだにしても女子にやられたとしても最悪なのだから。

 

「皆集まってくれてありがとう。実は皆に──」

 

 皆が集まったことで平田くんが話し始めたが、軽井沢さんの声に遮られてしまう。

 

「この中に私の下着盗んだ人は必ず居る。そんな人と同じ空間で過ごすなんて絶対無理!」

 

「軽井沢さんの気持ちは分かるよ。でも男女で離れて生活するのはちょっと問題じゃないかな。この『特別試験』が始まる時、これから僕たちは『特別試験』の間、クラスで集団行動をしてもらう、と真嶋先生は言った。今ここで男女で別れたら何かしらのペナルティがあるかも知れない」

 

 それはないね。もし何かしらのペナルティがあるなら高円寺くんの単独行動で、私たちは既にペナルティを課せられていてもおかしくない。毎日残りのポイントのチェックはしているけど使った分だけが減っている。

 当然平田くんもそれは承知の上で言っているのだろう。今のDクラスは冷静じゃないからそれに気づくことはない。仮にCクラスの伊吹さんが単独行動でここに居ることを指摘したとしても、既にCクラスにはポイントが残っていないからと説明が出来る。

 流石は平田くんだ。よし、やっとここまで来た。そろそろ私も下準備を始めよう……次はあなたの番。

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

「──それに試験もあと少しで終わる。僕たちは仲間なんだから、こんな時こそ信じ合って協力し合わないと」

 

「こんな時だからこそだよ平田くん。申し訳ないけど私は男女で区画を分けるべきだと思う」

 

「あ、綾小路さん?」

 

 平田は……いや、オレを除いた男子全員が愛歌が異論を立てた事に驚いていた。まさか皆、愛歌が反対の意見を出すとは思わなかったのだろう。

 

「男の子にとって下着は大したものじゃないかも知れないけど、女の子にとって下着って凄く大事な物なんだ」

 

「それは勿論分かってるよ。でも──」

 

「ううん。平田くん分かってないよ。仲間を信じて協力し合わなければいけない……こんな大事な時に下着が盗まれたんだよ? 信じてた仲間に盗まれた可能性があるんだよ? 冷静でいられるわけがないじゃん」

 

 愛歌の意見は正しい。以前愛歌から教えて貰った。男性と違って女性は『同調』を大事にする生き物であり、他人との共有と共感を好む。

 イギリスの発達心理学者はこう言った。男性は『目的脳』であり、女性は『共感脳』であると。

 今Dクラスは軽井沢と櫛田の2つの派閥で分かれている。愛歌は既にその2つの派閥から信頼されているが、愛歌は夏休み最後の日(・・・・)に向けて、ここで更に女性陣からの支持を得るつもりなのだろう。

 

「私は正直怖い。だから男子には申し訳ないけど男子と女子でエリアの線引きをして、男子の立ち入りを禁止にさせたい」

 

 愛歌の提案は女子は頷いていた。一方で男子は愛歌から警戒されている事に落ち込んでいる。愛歌からの提案に渋々男性陣も認め頷くしかなかった。

 

「軽井沢さんごめんね。私が出て色々勝手に言っちゃって」

 

「ううん。いいの。寧ろありがとう」

 

 愛歌が申し訳なさそうに謝るが軽井沢はお礼を言っていた。

 話し合い(と呼べるか怪しいが)の結果、軽井沢の提案が通り男女で生活エリアを分けることとなる。

 男子にテントを動かして向こうに行くよう要求するが、エリアを分けようと提案したのは女子からなので、女子が自分達でテントを移動するように男子は反論した。

 

「ねえ、平田くんは手伝ってくれるよね?」

 

「……うん。勿論だよ。僕でよければ手伝うよ」

 

 そして当然こうなる。平田が断る筈もなくお願いすれば引き受けて貰えると女子は確信していた。

 しかし幾ら平田とは言え1人でやるには流石にきついだろう。せめてもう1人男子で手伝ってやれる奴が居ればなあ。

 

「ちょっと待って」

 

「何、堀北さん。まさかエリアを分ける事に反論する気?」

 

「いいえ。私もそれに関しては賛成よ」

 

「だったら何よ? 文句ないでしょ」

 

「私は平田くんも信用できないわ」

 

「なんでよ!? 平田くんは違うでしょ! だって軽井沢さんの彼氏なんだよ?」

 

「ええ、そうね。だとしても彼も男子の1人よ」

 

「っ!!」

 

 堀北の反論に篠原は黙った。確かに堀北からすれば平田も『下着を盗った男子の誰か』の内に入る。信用しないのは当然のことだった。篠原に代わって軽井沢が反論を始める。

 

「友達すらろくに居ない堀北さんには分からないかもだけど、平田くんは他の人とは違う。ましてや私の彼氏、常識的に考えてありえないの」

 

「私は彼が犯人だと断定した訳じゃない。かと言って犯人じゃないと言い切れないのも事実よ。だからテントを運ぶのに男子をもう1人増やすべきだわ」

 

「は、はぁ!? 何言ってんのあんた?」

 

「そんなに可笑しいかしら? 男手も2倍になるし、男同士互いに見張らせることで効果もある……理にかなっていると思うけれど。平田くんはどうかしら?」

 

 このまま軽井沢と口論を続ければ激しくなりどうなるか目に見えている。そこで軽井沢だけではなく、女子が今最も信頼する平田に判断を委ねさせた。平田も他に誰か手伝ってくれた方が助かるのも事実、それにこれ以上クラス内での分裂を避けたい筈だ。よって平田が断ることはない。流石だな堀北。

 

「そうだね堀北さん。僕としてももう1人男子が居てくれた方が助かるよ。軽井沢さん、ダメかな?」

 

「それは……でも平田くん以外で信用できる人なんて」

 

 池と須藤に山内が挙手をしていたが……コイツらまじか。ある面でのメンタルの強さはプロだな。

 幸村なんか辺りが無難だと思うが……恐らく選ばれたとしても断りそうだ。となると三宅かそれこそ高円寺ぐらいしかいないな。

 

「どうすんの堀北さん。本当にこの変態3人でいいわけ?」

 

「なっ!? へん」「たい!?」「だと!? ごらぁ!」

 

 お前たち仲良いな。息ぴったりだ。

 

「論外よ。この3人の日頃の行いを考えると信用できる筈ないわ」

 

 堀北のストレートな答えに須藤は膝から崩れ落ちた。これから徐々に変えていくしか無いな。

 

「じゃあ誰がいるわけ?」

 

「私が選定するのは……綾小路くん、あなたよ」

 

 ……。は? え、オレ? 聞き間違えたのか? いや周りの視線がオレに集まっている。どうやら本当にオレみたいだ。すると軽井沢が笑い出した。

 

「あははは! 笑わせないで。綾小路くん? あんな影の薄いむっつりスケ──」

 

 ──ドン!! 

 

 地響きが森の中を駆けた。突然のことにクラスが静まり返る。音の発生源にクラスの視線が集まった……視線の先には愛歌が立っていた。そして足元に破裂し水が溢れているペットボトル。さっきの地響きは間違いなく愛歌がペットボトルを地面に叩きつけ破裂した音なのだろう。

 

「ごめん手が滑った。軽井沢さん続けていいよ。清にぃが何?」

 

「っ……え、えっと……」

 

 明らかに場の空気が変わった。クラス全員が初めて見る愛歌の怒った姿。オレは過去に1度だけ愛歌が怒った所を見たことがある……あれは演技だな。愛歌が設定したキャラ像を考えれば、確かにこの場面は怒ってもおかしくない。

 オレと違ってキャラ設定を確立している。このままだとオレは何も変わらなさそうだな。

 

「あ、ごめん軽井沢さん。私ちゃんと聞こえなかったから最初から話して。軽井沢さんが何故か笑った所から」

 

「そ、その……あ、あははは。そ、そうだよね! 堀北さんの言う通りやっぱりこの中だと綾小路くんしかいないかな? うん。平田くんはどうも思う!?」

 

「う、うん。僕も綾小路くんならいいと思うよ」

 

「だってさ鈴音ちゃん」

 

「え、ええそうね。それじゃあ綾小路くんと平田くんお願いできるかしら?」

 

「ああ、オレでよければな」

 

「清にぃなら大丈夫だよ。ね、軽井沢さん?」

 

「も、もちろん! 綾小路くんなら問題ないかな。あははは」

 

 軽井沢が引き攣った笑みを浮かべていた。流石に今回ばかりは同情するぞ。

 

 話し合いもなんとか無事終わり、早速オレと平田は早速行動を開始した。女子たちに運んで来てもらったテントのペグを地面へと打ち込み固定させる。それがオレの役目だった。去年愛歌とキャンプした時の経験があるため、苦戦することなくこなしていく。慣れれば意外と簡単だ。

 

「綾小路くんごめんね。君にまで大変な思いをさせてしまって」

 

「……イケメンだ」

 

「え……?」

 

「あーいや、気にするな。平田がこれを1人でやると考えたら居た堪れなくなる。オレなんかでよければ幾らでも手伝うさ」

 

「そう言ってくれるだけで嬉しいよ。綾小路くん、一緒に頑張ろう」

 

 やはりイケメンだ。愛歌が絶賛するだけのことはある。この爽やかな笑顔はもちろん、汗を拭う姿すらも絵になる。イケメンの所作が身についていた。

 

「クラスの中心人物、引っ張って行く者は大変だな」

 

「そうだね……でもそれで皆が笑ってくれるならなんて事でも無いよ」

 

「すごいな平田は。どうしてそんなに頑張るんだ?」

 

「あはは、頑張ってるつもりはないよ。しなきゃいけないことをしているだけ。僕はこの『特別試験』がクラスが1つになれるチャンスだと思ってるんだ」

 

 平田はそう1度区切るとクラス全体を見渡す。男子は食料を調達しに、女子は荷物の運搬や片付けなど、各々が自分の役目をこなしていた。

 

「だからそのために必要なことなら辛い作業も喜んでするよ」

 

「……本当にすごいな平田は」

 

「そ、そうかな? ありがとう綾小路くん」

 

 こんなにも善意に溢れた人間は一年で一之瀬と平田しかいないだろう。見返りを求めず下心もなく、ただクラスのために貢献する存在。自分を犠牲にするその姿には感服する。オレには到底できないことだ。

 残り半分になりもうすぐ終わりそうだと思った時、軽井沢たち女子グループがやって来て平田を連れて行こうとした。困っている平田をオレは面倒臭いと思いつつも行かせた。

 ここはオレに任せて行け、場面によっては最高に燃えるシーンだが、残念ながらペグを打つことに燃える人なんて早々いない。女子によく思われたいと少しだけ下心があったが、勿論女子はオレのことなんてほっとき、平田を連れて森の中へと消えていった。あれは直ぐには帰って来れないな。

 

「流石に炎天下で1人はしんどいな」

 

「お疲れ様綾小路くん」

 

「清にぃ私と千秋ちゃんも手伝うよ。はいお水」

 

「おお、助かる」

 

 愛歌から水を受け取り喉を潤す。キンキンに冷えた水がとても美味しかった。更に愛歌から川で冷やしたタオルを受け取り汗を拭く。気持ちよかった。

 

「背中拭いてあげようか?」

 

「いや、もう大丈夫だ。ありがとう。それはそうと松下いいのか? 手伝って貰って」

 

「うんいいよ。愛歌は私の親友、そんな親友の兄が困ってるんだから助けないと」

 

「悪いな。早く終わらせるか」

 

 2人の協力もありスムーズに終わった。

 時刻は10時前。これからどうするか悩む。松下は他のグループに呼ばれた為、そちらに合流した。

 

「愛歌、お前はいいのか」

 

「やることはやったよ。ただ皆今朝の私を見たせいで何も言わないんだよね」

 

「まさか怒るとは思わなかったんだろうな」

 

 軽井沢は間違いなくスクールカーストでも上位に入る。しかしあくまでもクラスで見たらだ。学年で見れば上位の下、下手をすれば中位の上かもしれない。だが愛歌は1学年では無く、全学年で見てスクールカースト上位に入っている上に、1年生で唯一の生徒会だ。夏休み前の2年生と3年生からの誘いの多さにクラス全員が驚いた。毎日誰かしらが男女問わずクラスに訪ねて来て居たからな。

 幾ら平田が付いているとは言え、そんな愛歌を敵に回せば先輩達も敵にすることになる。生徒会長の堀北学、副会長の南雲雅、この2人もクラスに訪ねて来たぐらいだ。

 

(最初はアイツ(堀北学)が生徒1人に肩入れする所は想像できなかったんだがな……)

 

「ん? どうしたの伊吹さん」

 

「いや、綾小路? だったけ? 大変そうだなって。Dクラスも一枚岩じゃないっつーか」

 

「そうだね。Cクラスも大変そうじゃない? あんな暴君が仕切ってて」

 

「龍園か。ポイントを全て使うとは思わなかったな」

 

「アイツの話はやめて。イライラしてくるから」

 

 伊吹の目つきが険しいものへと変わった。どうやらイライラしている事に関しては本当の様だ。

 

「あのさ、今ちょっといい?」

 

「いいよ。どうかしたの?」

 

 女子の会話か。ならオレは離れるとしよう。

 その場から立ちあがろうとしたら伊吹に止められた。

 

「いや、2人に聞きたいことがあって」

 

「オレにもか?」

 

「ん。今朝の下着泥棒の件、他人事かも知れないけど大変そうだなって。私も女子である以上、女の下着を盗むなんて許せない」

 

 そりゃあそうだ。でもどうしてそれをオレたち兄妹に話す? 伊吹を保護しようと最初に行ったのは山内で、今伊吹の面倒を見ているのは櫛田のグループだったはず……ただ雑談をするならオレ達にする必要はない筈だ。まさかオレを疑っているのか? 

 

「あー、念のため聞くがオレを疑ってるのか?」

 

「は? あんたが犯人なの? もしそうなら蹴り飛ばすよ」  

 

「いやいや! 違うからな」

 

「そうだそうだ! 清にぃにそんな度胸なんてないんだからね!」

 

「おい、フォローになってないぞ」

 

「……清にぃはヘタレなんだから!!」

 

「余計に酷くなってるからな?」

 

「……ぷっ、なにそれ」

 

 伊吹に笑われた。まさかだとは思うが信じてないよな? もしそうなら訂正する必要がある。オレはヘタレなんかじゃない。

 

「伊吹さんは誰が犯人だと思う?」

 

「……やっぱり私は男子が犯人だと思ってる。アンタたちは?」

 

「オレは極力男子を疑いたくはない」

 

「私もクラスの人がやったとは思いたくないかな」

 

「じゃあよそ者の私が犯人ってことになるな。さっきも須藤? だったけ? アイツに言われたんだよね。Cクラスのスパイだろって。この騒ぎを起こしたのも私だってね」

 

 伊吹は自嘲気味に笑みを浮かべそう答えた。

 確かにこの状況で冷静に考えれば伊吹が犯人の可能性は高い。他クラスである以上、完全な信頼を築くのは無理だ。

 

「少なくともオレは伊吹のことを信用している。お前が犯人だとは思えない」

 

「私もだよ。伊吹さん」

 

 オレ達兄妹の答えに伊吹は少し驚き真っ直ぐ見つめてくる。本心から言ってるのかどうか確認しているようだった。

 

「……ありがと。そんな風に言ってくれるとは思わなかった」

 

「ううん。だってもしこれが伊吹さんだったら間抜けすぎるもの」

 

「……は?」

 

「だってこんな状況でやるなんてあからさま過ぎるよ。正直言ってバカだよね。もうやり口が幼稚って言うか、こんなのしか思いつかなかったって思うと可愛いなって」

 

 おいおい、まじか妹よ。伊吹、お前もポーカーフェイスを貫け。手が震えているぞ。目つきも険しいものになっている。

 

「でもまぁ、伊吹さんじゃないよ。伊吹さんは凄い人ってひよりちゃんから聞いてるからね」

 

「……あっそ。時間を取らせて悪かった」

 

 伊吹はそう言い残して櫛田のグループへと合流した。

 まさかとは思うが、伊吹はここまでされて自分がまだ信用されていると思っているのだろうか? もう今のは明らかに犯人だとバレてる上で煽ったものだ。いや、もしかしたら本当に伊吹が犯人じゃない可能性も──

 

「いやぁ、何もできない相手を一方的に煽るって楽しいね。あ、そう言えば清にぃ。私夜中起きてたけど下着泥棒の犯人伊吹さんだよ」

 

 ──やっぱりそうか。

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

 静まり返った真夜中。僕は今日は寝れそうにないや。

 今朝の軽井沢さんの下着が紛失した事で今後のクラスを考えると寝付けなくなってしまった。

 昨日まではいい感じだった。クラスが1つになって行くのを感じ、この特別試験を乗り越えた時、Dクラスの絆は硬く結ばれると僕は思った。なのに……どうしてこんな事になるんだ。

 テントの中は少し蒸していて気分転換に僕は外に出る。Dクラスが占有している川に近づくと先客が居た。綾小路さんだ。

 

「ん? 平田くんか。おいで、川が綺麗だよ」

 

 綾小路さんが微笑みを浮かべながら手招きをしている。月明かりに照らされた彼女の姿はとても綺麗だった。

 お言葉に甘えて僕は綾小路さんの隣に、1人分の隙間を空けて腰を下ろす。綾小路さんは視線を川へと戻した。僕も視線を川へと向ける。

 

「ほら綺麗でしょ」

 

「……本当だね。とても綺麗だよ」

 

 川には夜空に浮かぶ星と月が映されておりとても綺麗な光景だった。無人島での星空は本当に綺麗で、空気が澄んでいる事もあり、夜空を見上げているだけで感動した。

 

「平田くん今日は災難だったね」

 

「そんな事ないよ。僕よりも軽井沢さんの方が大変で……深く傷ついていると思う。それにきっと男子の皆も犯人じゃないよ」

 

「なるほどなるほど」

 

 軽井沢さん()過去に虐めの被害に遭っていた。それも9年間の間も。今回の一件で過去のトラウマを思い出したかも知れない。彼女の心に更に傷が刻まれた事実に僕は居た堪れなかった。そして何もできない自分に怒りすら覚える。

 

「じゃあ犯人は伊吹さんかな」

 

「消去法で行くと、ね……もし仮に犯人が伊吹さんだとして、でもきっとそれには事情が──」

 

「──フフッ。平田くんは悪い子だね」

 

「えっ、綾小路さん?」

 

 突然の言われように僕は驚いた。

 綾小路さんへと視線を戻すと彼女の纏う雰囲気が変わり形容し難い笑みを浮かべていた。冷笑しているように見え、慈しみの笑みにも見える。そんな彼女の笑みに惹きつけられる。

 いつの間にか隙間は詰められ、綾小路さんの手が僕の頭に触れていた。僕の頭が綾小路さんの膝の上に置かれる。

 

「あ、綾小路さん?」

 

「平田くんは弱音ぐらい吐いていいんだよ?」

 

 頭を優しく撫でられた。こんな所誰かに見られたら不味い。分かっているのに……なのに僕は抵抗せずそれを受け入れていた。

 

「弱音なんて。僕は別に──」

 

「──平田くん、今は難しいかも知れない。でももっと他人を頼っていいんだよ」

 

「……十分頼ってるよ。綾小路さんは勿論、堀北さんや櫛田さんにも。当然綾小路くんにもね」

 

「そっか。ならいいんだ」

 

 綾小路さんは相変わらず笑みを浮かべている。まるでその青い目で心が見透かれているようだ。

 でもそうだなぁ……いつか耐えきれなくなった時、綾小路さんになら……。

 

 気がつけば僕はいつの間にか眠ってしまい、綾小路さんに起こされた。すると綺麗だったら星空は姿を隠し、空は心を不安にさせるどんよりとした灰色の曇り空が広がっていた。最終日、無事乗り切れることを祈ろう。

 





龍園さん小説よりも酷い顔になってた…清隆カッコいい。惚れる。
遅くなりました。最後まで読んでくださりありがとうございます。

0巻が早く読みたい私です。

駆け足で無人島編終わらしていきます!
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