綾小路清隆の妹として、全力で支えます   作:ぐれーぷ

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私の■■た■を■こに
■■■る■〜綾小路清隆の妹〜


 

 

 

『──高度育成高等学校に在住の方へご連絡です。本日この後、午後4時00分に高度育成高等学校並びに生徒会から重大な発表があります。イベントご参加の生徒の皆様には1万PPをお贈りします。参加ご希望の皆様はメールに指定された場所へお集まりくだい。繰り返します。高度育成高等学校に──』

 

 遂にこの日が来たか。

 夏休み最終日、部屋で読書していると学校からメールが届くと同時にアナウンスが鳴り響いた。愛歌から事前に伝えられているオレは当然この後、生徒会から何が発表されるかは知っている。なのでそれを知りに行く必要もなかったが、参加するだけで1万PPが貰えるなら参加しておくべきだろう。

 昨日、携帯端末に送られてきたメールには注意事項として、参加を希望する者は本人の参加と、そして生徒は制服着用での参加を義務付けると記載されていた。携帯端末だけ渡し誰か代わりに参加して貰いPPを受け取って来て貰うことへの対策なんだろう。

 そして参加する生徒はこの学校のイメージビデオとして撮られる可能性があるため、映りたくない場合は参加をしない事を勧められていた。それでも大半の生徒が参加するだろうな。

 

「あ! 綾小路くんだ! こんにちは〜」

 

 寮の外に出るとBクラスの一之瀬と神崎、そして堀北と平田に軽井沢の姿があった。他の4人とも挨拶を交わす。

 

「前に愛歌ちゃんが言ってたのはこれのことだよね……?」

 

「ええ。きっとそうでしょうね。綾小路くん、何か聞いてないのかしら?」

 

「確かに知ってるな。でもこの後、発表されるんだ。ここでオレにネタバレされるよりも、楽しみにしてた方がいいんじゃないか?」

 

「それもそうだね。折角だし皆で行こっか?」

 

「うん。『特別試験』とかじゃ無さそうだし、いいんじゃないかな」

 

「平田くんがそう言うなら私も賛成〜」

 

「うんうん。それじゃあ行こっか」

 

 皆が歩き出す。オレもそれに続いて歩き出した。

 目的地に近づくに連れて生徒の姿が増えて来る。夏休み最後の今日、外で遊んでいる生徒たちも多い。1万PPが貰える以上、余程の理由がない限り3学年全生徒が参加する筈だ。それも生徒会からの重大な発表、今後の学校生活、クラス競争に関わるかも知れない。1万PPが貰えなくても参加するメリットがあると思うだろう。

 

「参加するのは生徒だけじゃなく、本当にここに在住している住民全員が対象のようね」

 

 堀北に言われ周りを見てみると確かに生徒たちだけでは無く、ここ高度育成高等学校に住んでいると思われる大人たちも足を運んでいた。大人たちにも参加することでポイントか何かを貰えるのか。それとも義務付けられているだけなのか……今まで気にしなかったが、ここに住む大人たちともポイントのやり取りを認められているのか知っておく必要もあるな。

 

「こんばんは。ご参加の前に注意事項を読んで下さい」

 

 注意事項が書かれた紙を渡される。

『──参加ご希望の方へ──

 ・特別試験に関連する発言を禁ずる。

 ・発表開始後、終了まで大声での会話を禁ずる。

 ・一度参加した場合、終了するまで会場からの退出を禁ずる。(緊急の場合は近くの教師に声をかけること)

 ・今回、このイベントの様子を学校のホームページにイメージビデオとしてアップロード、並びに全世界に中継(・・)される為、ご参加の方はお顔が映る可能性があります。

 以上のことを踏まえ、承諾した上でのご参加をお願い致します』

 

 つまりネット上に晒されると言うこと。プライバシーに関して聞かれているのだろう。別にオレがメインで撮られる訳でもないので構わない。みんなもオレと同じでこれらの注意事項を読んだ上で、参加の希望を伝えた。

 会場に着くと大勢の人が居た。千を優に超える人の数。そして人々の先には夏休みの間に作られていたステージがある。今のところ愛歌の姿はどこにも見えないな。堀北は前までなら兄を探していただろうが、今はどんな状況なのか把握しようとしていた。

 

「予想はしてたけど……すごい数だね」

 

「そうだね一之瀬さん。全校生徒は勿論、多くの在住者たちがここに集まってるからね」

 

「うんうん。圧巻だね」

 

「一之瀬、Bクラスの皆を見つけた。俺たちも移動しよう」

 

「あ、ほんと? じゃあ平田くん、堀北さん、それに軽井沢さんと綾小路くんもまたね」

 

 一之瀬は手を振って神崎とBクラスの仲間がいる所へと向かって行った。

 

「ねぇねぇ、平田くん私たちも移動しようか」

 

「そうだね。堀北さんと綾小路くんはどうするの?」

 

「オレは遠慮しておく。ここからでも見えるしな」

 

「私もここでいいわ」

 

「そっか。じゃあ僕たちは行くよ」

 

 平田はそう言い残し軽井沢とDクラスが集まっている場所へ向かった。

 改めて周りを見渡す。葛城、一之瀬、龍園、オレが知っている各クラスの中心人物と言える生徒は全員が参加していた。これから行われることを考えると龍園が居るのは少し面白いな。

 ステージの上に設置されている、巨大なモニターに『30』と数字が映る。どうやらカウントダウンのようで徐々に数字は減っていく。

 

「随分と大掛かりなのね。綾小路さんの発表」

 

「そうだな」

 

「そうだなって……あなたは知っているのでしょう?」

 

「ああ。しかしオレも少しばかり驚いている。まさかここまで規模の大きいイベントになるとは思わなかった」

 

「規模が大きいなんてものじゃないわ。学校全体を巻き込んでいるもの。文字通り高度育成高等学校に住む全員をね。それも10ヵ国以上の全世界同時中継、とんでもないことよ」

 

「そうだな。これからのことを考えるとオレも兄として妹が誇らしい」

 

 カウントが『5』を切った。

 

「あなたは兄としてもっと頑張るべきよ。それにしても本当に凄い人混みね。まるでアイドルのコン、サー、ト……まさか綾小路さんの発表って──」

 

『0』。ステージからは花火が空へ打ち上げられる。そして天幕が上がり、ステージの上に赤と白い衣装を纏った愛歌の姿が現れた。

 

 

『──皆さんごきげんよう。そして世界の皆様初めまして。綾小路愛歌と申します』

 

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

 

 

 ステージの裏からチラッと会場を確認してみる。うん、とんでもない人の数だった。裏方では今、先生たちはもちろん、生徒会役員全員が慌ただしく動いていた。機材のチェック、配信と放映の準備、上への報告、ただ待っている身としては申し訳ない。

 

「緊張しているのか?」

 

「堀北生徒会長、お疲れ様です。そこまでしてないです。寧ろ、やっとスタート出来るのかって喜びを噛み締めてました」

 

「そうか……不要の心配をしたな。あの時おまえが言ったことが、こうして実現しようとしているのを見て、俺も少なからず驚いている。本当に実現するなんて、と」

 

「そうなんですか? てっきり何も思ってないかと」

 

「そんなことはない。ここまでことが大きくなるとは思わなかった」

 

 確かに私もここまで大事にビックイベントになるとは思わなかった。まさか海外にまで中継されるなんて。政治家さんたちはどんだけお金が欲しいのさ。

 あの日、堀北生徒会長と2人で話した時の事を思い出す。

 

『私は──この学校の『象徴』になりたいと思ってます。この学校の歴史に綾小路愛歌という存在を刻み込むために』

 

『ほう、続けてくれ。詳しく話を聞きたい』

 

 それは文字通りこの学校を、高度育成高等学校の歴史に私の生きた証を残すという意味だ。その為には過去に誰もできなかったこと、誰も思いつかなかったことをする必要があると。それが何か? と考えた時に私が出した答えが『アイドル』だった。

 実はこの学校に入学する前から生徒会に入るつもりだった。生徒会のメンバーとしてアイドルを兼任しつつ、この学校を国中により広める。私が所謂、この高度育成高等学校の広告モデル、ご当地キャラの様な存在になるということ。

 これによって学校側が、ひいては日本の政府が得をする。

 まず坂柳理事長にも言った通り、国の税金だけでは無くスポンサー企業によって援助金を出して貰う。この学校の敷地内にある商品で政府が購入し仕入れている物もあるだろう。その商品たちを製造する会社類がスポンサーになってくれば、商品提供をして頂き更にお金が浮く。更にAクラスで卒業した時の特典で、選べる進学先と就職先の選択肢が増えている可能性だって大きい。それに外に出れない私目当てや、宣伝の効果もありこの学校に受験をする生徒も増えるだろう。進学率・就職率100%を謳っているだけあって、受験料は国立高校を超える。上手く行けば入学する生徒全員の最初の10万PPを賄えるだろう。この学校の仕組み上、リストに載ってない者は絶対に落ちるため、立派な詐欺だが上手い話にはもちろん裏がある。これが世の中の常だ。なんならこの学校は政府が作り上げたものなのだから。

 ある日、政治家の方々とカメラ越しだが面談し、私と話をする場を設けてもらった。その時は全力で自分の美しさを際立たせた。人間性も彼等が望むものにした。もし私たちの父がまだ政治家だったらこれは実現できなかっただろう。政治では派閥争いというものがあるらしい。色々と面倒くさいのだ。私の所属事務所は高度育成高等学校(日本政府)。私によって生まれる、国からすれば雀の涙程の利益は殆どを日本政府へ譲る契約をした。何より学校のシステム上、どこかに赴いてライブやツアーなど出来ないため、一般的なアイドルよりもお金がかからない。ただ私が学校で生活し、動画配信をし、動画越しで踊ったり歌ったりしてライブをする。驚くほどに政府に負担がない。一度でいい。一度稼働すればあとはどうにでもなる。

 そんな訳で人である以上、お金があって困る事はない。政治家もそれは例外ではない。自分たちのお金の負担が少しでも減って、増える可能性がデメリットが殆ど無いに等しいのであるなら認めてくれる。

 

『会員制をやります。それも動画配信者の様な月払いの会員制です。まだ金額は決めてませんが……そうですね、例えば学校の外にいる方たちは500円、この学校の内側、大人と生徒たちも対象でこちらも毎月500PPを払って貰います。特典は私の写真と翌月のカレンダーとか。それは後で考えればいいです。

 また払って貰ったPPのみ、全て生徒会の予算に回すことも約束します。少なくとも80人は入会するでしょう。毎月4万PP、微々たるものでしょうが生徒会の士気を高めるためにみんなでご飯を食べたりに使えばいいです。この活動は3年間のみ。卒業する時には引退です。退学でも引退ですが、退学になるつもりはありません。ここまで全て成功する前提で話しているのは私にならできると確信しているからです。どうですか……?』

 

『……流石に驚いたぞ。自分に相当な自信を持っているな綾小路妹』

 

 私が失敗する筈がない。何故なら綾小路清隆の妹なのだから。

 私が一度目の誘いは断らないスタンスは、まずこの学校の生徒から人気を得る必要があった。特に男子。今までの活動のおかげで男子全員は無理でも半分は会員になってくれると手応えは感じている。

 なにより──これは私にしかできない。そして私なら必ず実現してまう。何故ならこの世界で私が1番美しいと自負しているからだ。

 これが私の表向き(・・・)のやりたいこと……私が本当にやりたいこと、それは──

 

「準備できたっスよ堀北先輩。愛歌もそろそろ準備に入れ」

 

 南雲先輩に呼ばれた。いよいよか。私は椅子から立ち上がり衣装を確認する。この衣装は高度育成高等学校の女子の制服をモデルに作っていて、上は赤で下が白の衣装となっている。どこかのアイドルグループが大勢で着ていそうだ。靴も今回の専用のもので厚底になっている。私の身長は160cm。この靴を履いて165㎝ぐらいかな。めっちゃ高い。

 軍服みたいなかっこいい衣装だが、コスプレ感があるのは気のせいだろうか? 少し恥ずかしい。

 

「そんな事ないですよ。頑張ってください愛歌さん」

 

「いつものおまえでいい。自信を持ってやれば大丈夫だ」

 

 茜先輩と桐山先輩が慰めてくれた。よし今度こそ行きますか。外からカウントダウンが聞こえてくる。

 いつも通りじゃダメだ……今日の私は綾小路愛歌として行かなければならない。いつもの子供みたいな可愛さじゃなく、大人の美しさで行こう。

 

『──皆さんごきげんよう。そして世界の皆様初めまして。綾小路愛歌と申します』

 

 生徒たちから熱い声援が上がった。皆盛り上がっている。

 

『今画面の下に現在視聴している国での適正字幕が流れている筈です。またこの後、一曲歌わせて頂きますが、日本を除いた8ヶ国分、その国の言語で歌ったものを事前に撮ってあります。私が歌い始めると同時に該当の国では歌の音声のみ、そちらを流す予定です。ライブのものではありませんが、ご理解のほどよろしくお願いします。それでは歌わせて頂きます──カーストルーム』

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

『──カーストルーム』

 

「「「おおおおお!!」」」

 

 音楽が流れ始めると同時に、愛歌がリズムに乗る。会場全体から声援が上がった。

 

「──綾小路さんがやりたかったことってアイドル活動なの?」

 

「ちょっと違うな」

 

「どういう意味かしら?」

 

「やりたかったことは別で、それを叶えるための手段がアイドルって意味だ」

 

「じゃあ綾小路さんのやりたいことってなに……?」

 

 愛歌のやりたいこと、それは大きく分けて2つ。

 1つは莫大なPPを手に入れることだ。

 愛歌には既に、幾つかのスポンサー企業から支援されている。オレが知っているだけでもアパレル、コスメ、コンビニ、スポーツ、アクセサリー、まだ何個か支援して貰えているのだろう。

 基本的な契約内容は全企業共通して、毎月お金による支援、商品の提供、学校の敷地内に店舗設置、と言ったところ。毎月振り込まれる支援金の1割をPPに変換して愛歌は貰う事にした。残りの9割は全て学校側の取り分だ。1つの企業から支援金を毎月10万貰えるなら、1万PP。それが複数の会社から貰うとなると大金となる。しかも中には30万もの支援金を毎月払ってくれる企業も契約出来たと言っていた。

 

「……場合によってはDクラスがマネーゲームに参加できるということかしら?」

 

「おまえはオレの妹のPPを奪ってクラスのために使う気なのか?」

 

「そ、それは……失言だったわ。綾小路さんならもしかしてと思ってしまったのよ」

 

「冗談だ。全額では無いが愛歌もそのつもりみたいだったぞ」

 

 堀北が驚いた表情を見せる。さっきまで自分で口にしていたが、愛歌がそのつもりだったと言うことに驚いたのだろう。

 

「それで……もう1つのやりたいことは?」

 

「そちらに関しては愛歌から他言無用と言われている。悪いが答えられない」

 

「そう……なら仕方ないわね」

 

 実際はこの2つ目の理由が1番なのだろう。この2つ目の理由のためだけに、周りを全て欺き実現させた。オレは別に望んでいなかったが……愛歌がそうしたいならすればいい。

 

「愛歌から堀北には細かい契約内容を話していいと言われてるが、聞くか?」

 

「今更だとは思うけれど、ここで? 流石に不味いと思うのだけれど」

 

「音楽と騒音で聞こえないと思うが……向こうで話すか」

 

 オレは堀北と少し開けた場所へ移動した。周りに生徒はなく、少し離れた場所にいる。

 

「ここなら大丈夫そうね。聞かせて貰えるかしら?」

 

「ああ。愛歌は──」

 

 まず会員制によるファンクラブを作った。それも動画配信サイトの様な月払いのものだ。

 プランは2つ。500円プランと1000円プランだ。

 500円のプランは毎月1日に愛歌の写真とその月のカレンダーが送られる。カレンダーには背景に一緒に送られた愛歌の写真が写っているそうだ。

 1000円のプランは500円で受けれるプランに加え、毎月抽選で愛歌のサイングッズが当たる。そのグッズは企業から頂いた物にサインして贈るそうだ。1度抽選に当たった者は、次は当たらないようになっているらしい。

 そして毎週、月・水・金・日の4日間、1時間の動画配信を行うとのこと。日曜だけプラスで会員限定でもう1時間配信するそうだ。尚、『特別試験』1週間前からは休む事になっている。

 またこれは高度育成高等学校に在住の者も登録することができ、500PPと1000PPに分かれている。

 500PPの内容は一緒だが、1000PPだけ内容が違う。サイングッズの代わりに、愛歌との会食が毎月10人抽選で当たる。ファンに知られたら暴動が起きそうだが、幸いこの学校は外への連絡手段も情報を流出させる方法も厳しくチェックされているため、問題なかった。

 

「学校外のファンから得た資金の1%を愛歌が貰い、学校内で得たポイントと動画配信によって頂いた支援金、所謂投げ銭ってやつは全て生徒会の予算に回すそうだ」

 

「500円の会員が10万人も登録したとして5000万……そしてその1%は」

 

「毎月50万PPだ。そこに更に企業からの支援金が毎月合計100万だったとする。10%で10万、合計60万PPになる。恐ろしいな」

 

「……」

 

 しかもそれだけじゃ無い。コラボ商品が売れた際はその毎月の売り上げの7:3で学校側が3割貰う事になっており、さらにその3割を9:1で分け1割が愛歌のPPとして入る。企業の広告モデルもやるらしく更にそこからもPPが手に入る。しかもモデル活動やCM出演もする予定で、学校の敷地内で全て撮影等も行われるそうだ。雑誌の宣伝、CM出演による出演料、これらは全て1%の取り分だがそれでも破格の収入源、膨大なPPを愛歌は手に入れることとなる。

 

「下手したら毎月100万以上のPPが愛歌に振り込まれることになるな。クラス移動と退学取り消しに必要な2000万PPが、200万なら10ヶ月で、500万なら4ヶ月で貯まることになる」

 

 月400万PPを愛歌が受け取り、それをクラス40人に配ったとする。その場合1人頭10万PPだ。これはCPに換算して1000CPになり入学当初のCPと同じになる。もしそうなった場合、愛歌は1人で1クラス分のPPを毎月手に入れることになるな。その時は1年愛歌クラスとでも呼ぶべきか? 

 

「学校側はこれを認めたの? これは……どう見てもバランスの崩壊よ。平等じゃ無いわ。場合によっては『特別試験』だって成り立たなくなるわ」

 

「いや平等(・・)だ。もし不満があるならその生徒は愛歌みたいにやればいい。この学校は特定の生徒だけ特別扱いなんてしない。愛歌みたいに自分もアイドルやります、或いは別の方法でやらせてくださいと言えばいい」

 

「簡単に言わないで。こんなことは、綾小路さんぐらいにしか出来ないわよ。彼女、とんでもない美貌と才覚の持ち主よ?」

 

「愛歌はこれを自分の持つ力を全て駆使して、自分の実力で実現させた。まさにこの学校の掲げる実力至上主義そのものだ。他クラスにとって唯一の救いは、愛歌のPPの取り分を明確に知らないということだな」

 

「……確かにそうね。もし卒業する時にポイントが余ってたどうするのかしら?」

 

「全て学校側に返す契約だそうだ」

 

 愛歌のこの活動は約3年間のみ。もちろんこれは公表しないそうだ。方針としては3年間ここで活動しつつ、卒業後どこかの事務所に所属できれば続ける、と言うことになっている。

 高度育成高等学校を卒業する頃には引退。退学になっても引退……と思われたが退学した場合は、全ての収入を学校側が貰い、退学した後も必要な時は呼び、用が済んだら帰って貰うという、中々ブラックな契約をしていた。利益の殆ど全てを学校側、政府側へ譲ると言ってるのだから。愛歌の手元に残る利益はごく僅かだ。その代わり税を払わずに済む利点もあるが。

 視線を愛歌の方へ移すと丁度歌い終わったところだった。今は今後の活動方針とファンクラブについて説明が行われている。

 

 愛歌が本当にやりたいこと、それはオレを守ること。

 膨大なPPを求める理由は、オレが退学になった時にそれを取り消すために必要だとアイツは言った。だから基本的にPPは使わず溜め続けると。

 オレ自身、退学にするつもりもさせられるつもりもない。だが安全マージンが手に入ると言うなら、当然拒む理由もない。オレを退学にしたい生徒が居るとしたら絶望的だな。

 

「まさかとは思うけど……あなたも似た様なこと、しないわよね?」

 

「するって言ったらどうするんだ?」

 

「Dクラス全員をAクラスへ押し上げる戦略を立てることになるわ」

 

「とんでもない夢物語だな。安心しろ。オレにもあんなことはできない」

 

「そうよね。少し期待した私の間違いだったわ。皮肉では無く本当に。綾小路さんのせいで少し常識がおかしくなってるの」

 

「安心しろ。オレも同じだ」

 

 クラスメイト全員をAクラスへ移動か……それには8億PPもの膨大なPPが必要となる。30ヶ月でそれを貯めるとして、約毎月2700万PP必要となるわけだ。オレが仮に愛歌みたいにやって成功した場合でも2人で毎月1350万PP。これは無理だな。流石にクラスメイト全員をAクラスへ上げるのは不可能だろう。

 

「もう前みたいに綾小路さんと接する時間は減りそうね」

 

「ああ。アイツはこれから忙しくなるぞ」

 

 ステージ上で今もまだ話を続けている愛歌。オレは改めて優秀な妹ができたのだと認識した。

 

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

 

「──疲れた」

 

 無事に全て終わり、今私は生徒会室に備えられているソファーに倒れ込んでいた。

 部屋には堀北生徒会長と坂柳理事長と私の3人だけだ。南雲先輩が現場に残って指示を出してくれている。今度お礼をしよう。

 

「坂柳理事長、改めて今回はありがとうございました。何のデメリットも提示しないで、小学生みたいなプレゼンでしたが」

 

「そんなに卑下するものじゃないよ。成功したからいいじゃないか。君は成し遂げたんだ綾小路さん。理事長としても僕個人としても祝福するよ」

 

 素直に称賛されるのは嬉しかった。この人は、坂柳理事長はどこまで行っても善人。それが今日まで関わって来て出た答えだ。

 そろそろ会員登録してくれたファンもいるのではないだろうか? 今何人ぐらいいるのか私は堀北生徒会長に聞いてみた。細かいと計算しにくいので、学校外は3桁から下の数を全て0にして貰おう。

 

「国内そして海外含めて……500円会員が4千人、1000円会員が2万3千人、計2万7千人が現状会員登録を済ませたことになる。そして学校敷地内の会員が500PPが76人、1000PPが20人の計96人だ。96人中、生徒の24人が登録している」

 

 結構登録してくれたね。計算してみよう。

 まず500×4000で200万。1000×2万3千で2300万。合計2500万そこから1%が私の取り分だから──

 

「明日の9月1日、私は少なくとも25万PPが振り込まれるということですね」

 

「……これからどんどん増えていくだろうね。まだ会員入会サイトを公開して10分程でここまで増えたんだから……っ、危ない!」

 

「おい! 大丈夫か綾小路妹? 立ちあがろうとせず、そのまま座って休め」

 

「すみません。目眩がしてしまって」

 

 危なかった。最近増えてきたな……ちゃんと休まないと。

 それはそうと35ヶ国での全世界同時中継を考えればこれぐらいは普通なのかな。それとも少ない? 十数分で約3万人は多いと願いたい。

 次は学校内の会員登録したファンの計算だ。500×76で3万8千PP、1000×20で2万PP。計5万8千PPが生徒会への予算として回される。

 みんなで高い焼肉でも食べに行こう。誕生日がある生徒はそれで祝っちゃおう。完璧だね。

 

「あ、そうだ。学校外へ電話(・・)していいですか?」

 

 このアイドル活動する為には、私が学校外の人たちと関わる必要がある。高度育成高等学校から出ることは許されてないので、手段で取れるのは電話だ。

 そして特例を除き外部との連絡を禁止しているこの学校。この場合は特例だろうけど、外部と電話する際に3つの条件が付け加えられた。

 

『・外部との連絡を取る際、理事長・校長・クラス担任・生徒会長・副会長の内、3人の許可を得て初めて外部との連絡を認める。

 ・外部との連絡を取る際、学校側が準備した携帯端末で行うものとする。

 ・外部との連絡を取る際、理事長・校長・クラス担任・生徒会長・副会長の内、1人をそばに置き連絡を取らなければならない』

 

 許可を得るために電話で確認しても構わないらしい。ただ外部に連絡するには学校側が用意したもの、そして5人の内、1人が隣にいる必要がある。学校の規則を破らないための監視という訳だ。

 

「電話をしたい相手はどこなんだい?」

 

「こちらの企業です。今回この衣装を用意してくださったのでお礼をと思いまして」

 

「そうだね。僕は許可をしよう。堀北くんはどうする?」

 

「もちろん許可します」

 

 後もう1人から許可を貰えればいい。私は佐枝先生に電話して事情を話し許可を取り付けた。あとは電話をするだけでいいんだけど……うん、もう大丈夫かな。ここまで接してきて私はこの人を信用してもいいと思い始めてる。電話をする前に、理事長と2人っきりで話をしたいと言った。堀北生徒会長は一瞬、私の方を見たけど、気を利かせてくれて部屋から出て行ってくれる。

 

「それで僕に話したいことってなんだい?」

 

「今から私の電話で話す内容を聞けば分かります」

 

 私は携帯端末を操作して電話をかけた。すぐに繋がる。

 

「綾小路愛歌。そう伝えてください」

 

 これだけで全てが伝わる……そうなる様に1年前(・・・)から準備してきた。電話を出た人から私の望む人物へと相手が替わる。向こうから話し始めるのを私は待った。

 

『愛歌さん? ですか?』

 

「そう。久しぶりね。生きてて安心した。上手くことを運べたみたいで何よりよ」

 

『はい。おかげさまでなんとか……ライブ見ましたよ。流石ですね、本当に外部(・・)との連絡手段(・・・・)確立(・・)させるなんて』

 

「なんだって……綾小路さん君はいったい。いや、それにこの声は」

 

『お久しぶりです、坂柳理事長。お元気でしたか?』

 

 どうやら理事長は電話の相手が誰だか分かった様だ。今色々と私に聞きたいことがあるのは分かる。でもそれを答えるのはあと。それに聡明な坂柳理事長のことだから、終わる頃に察しているからも知れない。

 

「時間がないわ。例の暗号パターンを記録した紙は持っているわね? 今後は私の動画配信を見て、そこで報告を聞くから。その時の指示に従って動いてちょうだい。出来るわよね、松雄(・・)

 

『はい。分かりました。あの、清隆くんは元気にしてますか?』

 

「ええ。もちろん。私たちが無事に卒業したと同時に、ホワイトルームから『綾小路清隆』を奪うわよ。話は以上、期待してるわ」

 

 私は執事だった松雄からの返事を聞いたあと、電話を切った。念の為に電話履歴を消しておく。万が一にこの学校にホワイトルーム生が送られて来て、この電話記録を見られて不審がられたら詰みだ。私は坂柳理事長と向き合う。

 

「君はまさか最初からそれが目的でこの学校に来たのかい」

 

 信じられないとばかりに驚いた表情を浮かべている。今からでも話すのをやめた方がいいかな……ううん、ここまで来たらもう引き返せない。私の本来の目的、何が成したいのか話す時が来た。

 

「──ホワイトルームから『最高傑作』を奪い、綾小路清隆を自由にする。それが私の目的です」

 

「い、いやそんな……無茶だ。あまりにも危険だよ? もちろん気持ちは分かる……だけど君はいいのかい? 綾小路先生を敵に回す。最悪の場合、命の危険がともなうことになる……本当にいいのかい?」

 

「構いません。坂柳理事長、私の味方をして欲しいとは言いません。ですが、敵対することもないと約束して欲しいです。できませんか?」

 

「綾小路さん確かに君がこの学校に来た本当の理由を知って僕は驚いている。でも理由や経緯はどうあれ生徒である以上、僕は君たちの味方だ。もちろん卒業した後も敵対することはないと約束するとも。それともう1つだけ教えて欲しい。もし綾小路くんがホワイトルームに戻りたいと望んだら君はどうする?」

 

「その時は勿論、清にぃの意思を尊重します。邪魔はしません。あくまで私は清にぃが卒業した時に、ホワイトルームに戻るか、自由になってやりたいように生きるか、選択肢を増やしてあげたいんです。言ったじゃないですか、生徒の選択肢が増えるかも知れないって」

 

「……とても15歳の少女とは思えない。君はこれからどうするんだい?」

 

「そんなの決まってます──

 ──綾小路清隆の妹として、全力で支えます。ただそれだけです」

 

 私は私に与えられた全能力を駆使して、綾小路清隆を全力で支える。それがこの世界に産まれた私の成すべきことだ。

 

 





『高度育成高等学校学生データベース  8/31時点
・氏名 綾小路愛歌 あやのこうじ まなか
・クラス 1年D組 
・学籍番号 S01T00〜消された跡がある〜
・部活動 入部届提出中(済)
・誕生日 3月14日
ーー評価ーー
・学力『C』・知性『B』・判断力『B+』・身体能力『C+』・協調性『A』
ーー担任からのコメントーー
人当たりも良く、他人との交流を好んでおり、とても社交的な生徒です。今後の成長に期待です』



最後まで読んでくださりありがとうございました。

綾小路愛歌のしたいこと、それは綾小路清隆を支えることです。
清隆の退学を阻止するべく莫大なPPを集めつつ、卒業後のことを考え外部とのパイプを繋ぐ、その為にはどうするか、考えた結果がこれでした。転生から始まった愛歌の物語は、転生者としではなく、この世界に産まれた者として生きていく。そんな気持ちを込めて書きました。コイツは何を言っているんだって多分思われてますよね笑。恐らく■これらが判明した時に分かってくれると思います。ハードルが高かったらどうしようとビクビクしながらこちらを書き進めました。

長々とすみませんでした。皆様、次回もよろしくお願いします。

感想、評価、お気に入り、お待ちしております


人生題名(タイトル)革新——

〜綾小路清隆の妹として、全力で支えます〜

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