綾小路清隆の妹として、全力で支えます 作:ぐれーぷ
1限目〜肉は好き?〜
9月1日。2学期が始まる今日、私、綾小路愛歌は清々しい朝を迎えた。遂に昨日、アイドルデビューを果たしこの学校の歴史に新たな1ページを刻んだ。でもこれからがスタートだ。学校内で清にぃが失敗するとは思わないけど、万が一の時のために退学に備えてPPを蓄えておく必要がある。それにもしかしたら退学を利用した、強引な手段を取ることだってできるようになる。それこそ邪魔な生徒を再起不能にまで壊し、退学処理されるがそれを2000万PPで取り消してしまうとか……贅沢な使い方だね。
「……6時間も寝たのは久しぶりかも。あ、そうだ。ポイント確認しなきゃ」
毎月1日はポイントが振り込まれる日。まずDクラスのCPが392CPなので、3万9200PPが振り込まれる。あと『優待者』を当てた報酬で50万PP、そして私だけそこにプラスして更にPPが振り込まれるのだが……今日、振り込まれた合計ポイントは──
「82万2500PP……これは凄いや」
所持しているPPが140万PPを超えた。帆波ちゃんを除いて、現状1年生で私が1番ポイントを保有しているんじゃないだろうか。嬉しいことだけど、これじゃあ足りない。せめて年内までには2000万PPを貯めたいと思っている。もちろん必要経費はあるので、使うところはちゃんと使う。意味の無いポイントの消費にだけ気をつけよう。
寝ている間に顔が汚れてしまったようだ。いつも通りシャワーを浴びて、学校へ行く準備を進める。今日のスケジュールは始業式を終えた後、午前はいつも通り授業があって、午後は2時間のホームルーム、その後に生徒会の集まりがあって、早速アイドルとして活動を始める。動画配信だ。それ以外には……ああ、平田くんの誕生日だったね。準備出来なかったから後で買いに行こう。今日の夜に渡せるといいな。
投稿しながら私はニュースや記事を確認する。もちろん私のことについてだ。某SNSアプリのトレンド1位に私の名前が書かれてあった。#綾小路愛歌、と。呟かれていることを流しながら確認しつつ、私のアイドルデビューは無事成功していると安心した。ここだけの話、私の予想よりも振り込まれたPPが少なかったので心配だった。100万PPは超えると思ったけど流石に高望みだったかな。
「綾小路さんおはよう」
背後から声をかけられる。声の主は鈴音ちゃんだ。
「おはよ、鈴音ちゃん。私の晴れ舞台ちゃんと見てくれた?」
「ええ。とても輝いていた。友人として誇らしいわ」
「ふっふ、愛歌様にかかればちょちょの──っと」
私は自分の足と足をぶつけ、少しその場でよろけてしまった。鈴音ちゃんが呆れながら笑みを浮かべて調子には乗るなと注意してくる。気をつけよう。
鈴音ちゃんと2人で登校しDクラスの教室へ入る。ここまで来る道中、すれ違った全ての生徒から注目されていた。人間関係の変化は本当に凄い。前なら挨拶してくれていた子が今日は遠くで手を振るだけだったり、クラスメイト同様に声をかけてくれていた子が、今日は会釈をするだけで挨拶を済ませている。どうやらみんなにとって私は遠い存在になってしまったのかな? それとも昨日の今日だから様子を見ているとか。後者だと有難い。
「綾小路さん、おはよう。昨日は驚かされちゃったよ」
「平田くんおはよう。流石に誰もこれは予想できなかったかな?」
「うん。まさかアイドルになるなんて、誰も思いつかないよ」
「どうもありがとう。でも今日の主役は平田くんだよ? お誕生日おめでとう」
「平田くん誕生日なの? 私からも祝福するわ」
「……! 覚えてくれてたんだね。ありがとう2人とも」
まさか鈴音ちゃんが祝福の言葉を送るとは思わなかった。この調子で日々小さな成長を積み重ねていけば、将来立派なクラスのリーダーとしてみんなを導いていることだろう。
その後、平田くんと少し会話を交えて、他のみんなもそれを見て、変な気遣いをやめてくれて普通に話した。千秋ちゃんはみんなと一緒に近くに来ただけで、話しかけては来なかった。その代わりにメールが届いていたので後で確認しておこう。
始業式まであと15分といったところで漸く清にぃが登校してきた。寝坊したんじゃないか心配だったよ。
「ギリギリよ。もっと早く来なさい」
「弁当作るのに遅れたんだよ。愛歌今日の昼食の弁当だ。生姜焼きに挑戦してみた」
おお。清にぃが弁当が入った包みを渡される。これは昼が楽しみになって来た。今日は清にぃと鈴音ちゃん3人で仲良く昼食を食べよう。
朝のホームルームが終わるとこの後すぐに始業式を行うそうなので、整列して体育館へと向かう。
全校生徒の前で校長の準備して来たであろうセリフの朗読を聞き流しつつ、今後の学校生活を思い浮かべる。午後のホームルームでは体育祭についての説明だろう。清にぃはこの体育祭で鈴音ちゃんが1度心が折れることを願っている。清にぃがそう願っている以上、私も何もしないべきなのだろうけど、勿体無い気もする。最近鈴音ちゃんと接してて思うのは、やっぱり成長している、変わろうとしているということ。それもとても順調で、今ここでその流れを絶つのは勿体無い。ただ早い段階で1度挫折した方がいい経験になるのも事実なので、清にぃに言われた通り静観してみよう。そもそも私に選択権なんて無いしね。
「──続きまして、表彰式が行われます。名前を呼ばれた生徒は壇上に御登りください」
呼ばれる生徒の中には知り合いの生徒が多く、殆どが運動部の生徒たちだった。みんな頑張ってるね。そう一般的な感想を心の中で呟きながら眺めていると、私の名前が呼ばれた。もしかしたら呼ばれるかなとは思って身構えてたけど、こういうのは事前に生徒に教えておくべきなんじゃ無いの? 身構えていたとは言えいきなり呼ばれてびっくりした。
「──改めておめでとう綾小路さん」
「ありがとうございます」
ここで話すことは無いので、一言感謝を述べ私は列へと戻った。
こうして始業式も無事に終わり、午前の授業を経て昼食の時間を迎える。時間が経つのは本当に早い。清にぃ特製の生姜焼きを手にいつもの3人で学食へとやって来た。
「綾小路くん、あなたおかずしか持って来なかったの?」
「今更だろ。それがどうかしたか?」
「今更? 炭水化物を摂らないようにしているということ?」
2人の会話が絶妙に合ってない。言われてみれば鈴音ちゃんにこのちょっとした小技を教えるのは初めてかも。
「無料の山菜定食を頼むの。そしたら野菜とご飯とお味噌汁は貰えるから、後は自分の食べたい惣菜を持ってくるだけ。そしたらポイントが浮くでしょ?」
「考えたわね。たかが数百PP、でもそれも積み重なれば大きなポイントになる。次から私もやらせて貰おうかしら」
「ぜひぜひ。因みにこれは帆波ちゃんが教えてくれたんだよ。流石はBクラスって感じだよね」
他にもポイントの節約術を色々と教えて貰っている。1学期の時に龍園くんとBクラスで揉めた時の仲介役になってくれたお礼だそうだ。大したことじゃないのにね。
食事をする時、基本私たちの間で会話は行われない。ご飯を食べている時は静かに食べる。これが私たち3人の食事中の暗黙の了解だ。私と鈴音ちゃんがほぼ同時に食べ終わって、清にぃもあと少しで食べ終わりそう。男性だから量がある分、どうしても食べ終わるのに時間がかかる。黙々と1人食べ続ける清にぃを鈴音ちゃんが見つめていた。
「どうしたの? 清にぃに惚れちゃった?」
「……はぁ。綺麗だと思っただけよ。食事中の姿勢といい、箸の持ち方、1つ1つの所作が丁寧で綺麗だと思っただけ。綾小路さんもね」
「ご馳走様。堀北にそう素直に褒められると何か企んでいそうで怖いな」
「そんなことを言うから鈴音ちゃんにいつも睨まれるんだよ。清にぃ」
「綾小路さんの言う通りよ。思ったことを直ぐに口にするなんて……口の軽い男は嫌われるわよ。覚えときなさい」
「いや、でもこの間、愛歌から女性に思ったことは直ぐに言ってあげた方がいいって教わったぞ」
「それは褒め言葉だけね。それ以外のことは言わなくていいの」
その内、清にぃが女性に対して、太ったな、とか口にしそうで怖い。妹として兄がそんな失態を犯さないように注意をしなければ。
「あ、そうだ鈴音ちゃん、ちょっと提案したいことがあるんだけどいい?」
「ええ。クラスのことでしょう? 聞かせてちょうだい」
「そうそう。いいこと思いついてさ──」
こうして雑談をしながら残った休みの時間を過ごす。ありきたりな学校生活。清にぃが望む普通そのものだ。こんな時間がずっと続けばいいのにって思う。私はこの3人でこうして過ごす時間がとても好きだ。
午前の授業が終わって愛歌や堀北と食事を終えた後、残りの時間をオレたちは談話に使った。これが学生の青春ってやつなんだろうか。もしそうだとしたらオレもなんだかんだ、ここに来て学生の身分ってやつを楽しめているのだろう。
午後の2時間は全てホームルームに使われる。そしてオレたちは担任の茶柱先生から、10月にある体育祭に向けて体育を中心とした新しい授業の時間割表と、体育祭に関して書かれた資料を渡された。
資料に目を通すとこの体育祭が『特別試験』と明記されてはいないが、体育祭での結果次第でCPの変動があることが書かれていた。
「そして本校の体育祭は、毎年全学年を赤と白の2つの組に分けて競い合って貰う方針だ。今回、AクラスとDクラスが赤組、BクラスとCクラスが白組に選ばれた。この体育祭の期間中はAクラスとDクラスは仲間ということになる」
つまり一之瀬と龍園が敵で、こちらは葛城が味方ということか。上級生で言えば南雲と堀北学が味方となる。生徒会長と副会長が同じ組とは恐ろしく頼もしいな。堀北がアイツに成長を見て貰える絶好の機会でもある。そんなこともあり今回のこのチーム分けは中々に面白い組み分けだった。
今回この体育祭は今までの『特別試験』とは違い、クラス別の戦いではなく完全なチーム戦。それも学年を超えてのチーム戦。どんなにオレたちDクラスが好成績を残したとしても、他のクラスが惨敗だったら負けになるということだ。当然その逆も然り。
黒板の前で茶柱先生が説明を続ける。
「──体育祭では全員参加と推薦参加の2つの競技が存在する」
『〜全員参加競技の種目・9種目〜
・100m走・ハードル走・棒倒し・玉入れ・男女別綱引き・障害物競走・二人三脚・騎馬戦・200m走』
『〜推薦参加競技の種目・4種目〜
・借り物競争・四方綱引き・男女混合二人三脚・3学年合同1200mリレー』
誰もが知っている競技が書かれていた。競技は100m走から書かれている順番に行われ、最後に3学年合同1200mリレーが行われる。それにしても全員参加の種目が9個もあるのか。これを全て1日で終わらせるとなると大変だな。
全員参加競技の点数配分は、1位15点、2位12点、3位10点、4位8点、5位以降は1点ずつ下がっていく仕組みだ。団体戦のみ勝利した組に500点が入る。
一方推薦参加競技の点数配分は、1位50点、2位30点、3位15点、4位10点、5位以降は2点ずつ下がっていく仕組み。最終競技の1200mリレーは3倍の点数が与えられる。1位なら150点、全員参加競技の1位10回分に値する。
CPについてだが全学年の総合点で負けた組は全学年等しく−100ポイント。
各学年の総合点で1位を取ったクラスには50CPが与えられる。2位は変動なし。3位は−50。4位は−100。4位だけは避けたいとどのクラスも思うだろう。これだけ見ると見返りが何も無いに様に感じるが、ちゃんと報酬はあるようだ。
個人競技で1位を取った生徒は5000PP、もしくは筆記試験で3点に相当する点数を貰える。2位が3000PPもしくは2点、3位が1000PPもしくは1点の報酬だ。
「って、個人競技報酬にも結局、マイナスあるじゃん」
クラスの誰かがそう呟いた。読み進めていくと確かにマイナスのことが書かれている。
各個人競技で最下位を取った生徒に−1000PP。もし手持ちが足りなかった場合は筆記試験で−1点をペナルティとして科されるとのこと。
「おお! 最優秀生徒は10万PPも貰えんのかよ!?」
須藤が嬉しそうに立ち上がる。直ぐに堀北に注意され座ったが……須藤の読んでいた部分はここか。
全競技でもっとも高得点を得た生徒に10万PPの贈与。須藤の様に運動神経がいい生徒からすればモチベーションにつながるだろう。
他にも学年別最優秀生徒報酬もあり、全競技でもっとも高得点を得た学年別生徒3名に各1万PPの贈与、逆に下位10名にペナルティが学年毎に存在し。ペナルティの内容も学年毎に変わってくる様だ。1年生の場合は筆記試験での10点の減点。どのように減点されるかは筆記試験が近づいた時に改めて説明してくれるそうだ。
貰える特典も多いがやはり全体的に厳しい印象は拭えない。そして今までと違い、クラスにというより生徒個人に対しての報酬が多い試験となりそうだ。試験と呼ぶべきか分からないが。
また競技の参加表を自分たちで制作し、体育祭の1週間前から前日の午後5時00分までの間に提出する必要があるそうだ。しかもその参加表は当日に行われる競技に何組目に誰が参加するのか、細部に至るまで全部を生徒たちで作る必要がある。手間がかかる作業になるのは明らかだった。
「──次の時間は第1体育館に移動し、各クラス他学年との顔合わせをする。まだ20分ほど残っているな……残りの時間は自由に使うといい。雑談するも、体育祭について話し合うも、気になったことを私に質問するも、自由だ」
茶柱先生はクラス前方の右片隅に移動し、壁に寄りかかり後のことはオレたちに任せると言った。
クラスが一気に騒がしくなるが、突然愛歌と堀北が立ち上がり黒板の前へと移動した。
「──みんな、少しいいかしら。体育祭について、話し合いをこれから始める……と言いたいのだけれどそれは明日からにしましょう」
そう口にした堀北を見てクラス大半の生徒が驚いた。あの堀北が試験とも呼べるこの体育祭を後回しにするなんてと。
「確かに体育祭について話したいのは私も同じだわ。だけどたまには息抜きが必要なのも事実よ。思い出して、私たちDクラスは無人島での結果は1位、船上試験では2位の結果だった。過程はどうあれ1学年の4クラス中、今のところ1番CPを増やしているわ。Aクラスよりもね。これは誇るべきことよ」
「た、確かに言われてみればそうだ」
「うちら意外と凄かったりする?」
その事実に皆、ざわつき、ソワソワしながらも嬉しそうな表情を浮かべていた。生徒たちを1度見渡して堀北は自分に意識を向けて貰うために手を叩く。それだけでクラスは静かになり堀北へと視線が集まった。いい感じに統率されているな。
「私たちは落ちこぼれなんかじゃない。他クラスを相手に互角以上に渡り合えている。あなたたちは優秀よ。自分に自信を持って。そしてそんな優秀で頑張ったあなたたちにはご褒美が必要よ。よって私は決めた。ここに第1回、Dクラスの打ち上げ会を開催することを宣言するわ」
シーン、と静かになるクラス。堀北が何を言っているのか理解が追いついていないらしい。そして遅れながら内容を理解して、嬉しそうな声が上がった。
そのタイミングを逃さずにすかさず愛歌が堀北と場所を変わって身を乗り出す。
「みんなー! 肉は好き?」
『大好きぃぃ!』
「みんなー! 肉が食べたいー!?」
『食べたぁぁぁい!』
「なら!打ち上げ会をやりたいかーー!?」
『やりたあぁぁぁい!』
「みんなの気持ちが伝わったわ。開催しましょう。クラスみんなで美味しい肉を食べて、体育祭に備えましょう。体育祭でDクラスが目指すのは当然1位よ。私たちならできるわ」
今日1番の雄叫びがDクラスから放たれた。茶柱先生が残りの20分、自由にしろと言っていたのでCPが減ることはないと思うが……少し心配になるな。
昼休みの時に愛歌と堀北が相談して決めた、打ち上げを行いDクラスの士気を上げるという目論見は見事に達成した。みんな先ほどまで体育祭でのペナルティの多さに気持ちが沈んでいたが、今は楽しそうにしている。黒板の前から堀北が帰って来た。
「上手くいったな」
「……本当は今からでも直ぐに体育祭について話し合いたいのよ」
「でも愛歌と相談して決めたことなんだろ?」
「体育祭が控えていると知っていたら、それが終わってから打ち上げにしたわよ。でも、あれだけやる気を出してくれるなら悪くないかも知れないわね」
「統率者、リーダーとしてクラスの士気を高める術は必須のスキルだ。今のうちに学んでおけ」
「上から目線なのが気に食わないわね。分かっているわよそんなことぐらい……少しずつ、私も学んでいるつもり。みんなの気持ちは尊重するわよ」
なら何よりだ。
Dクラスは残りの時間、何処で打ち上げするかの話し合いになり、特に体育祭について話し合うことはなかった。ただ堀北はリーダーとして何度も資料を読み返し、茶柱先生の下へ行き質問などをして、明日から本格的に体育祭への準備に臨む為に下準備を進めていた。
「──時間だ。体育館に移動するぞ」
オレたちは雑談を切り上げ、第1体育館へと向かった。