綾小路清隆の妹として、全力で支えます   作:ぐれーぷ

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4限目〜これが青春ってやつだよ〜

 

 

 体育祭開催までついに2週間を切った。

 私たちDクラスはリーダーに須藤くんを据えた日から今日まで、須藤くんと平田くんの2人を中心に体育祭に向けての練習と指導を重ねてきた。

 龍園くん率いるCクラスによる妨害も警戒したけれど、今のところその気配はない。でも安心するにはまだ早いので警戒はしておく。

 

「愛歌、私と二人三脚出ない?」

 

「あれ、まだ相手決まってなかったんだ」

 

「うん。誰かさんのせいで」

 

 もの言いたげな目で千秋ちゃんがこちらを見る。

 どうやら全員の100m走のタイムを計る時に、速いタイムを出してしまったせいで、他の生徒から遠慮されているみたいだ。

 

「でも鈴音ちゃんに誘われてなかった?」

 

「堀北さんのは断ったよ」

 

「え、なんで? 鈴音ちゃんと千秋ちゃんなら1位を狙えたでしょ」

 

「そうかもね。でもそれよりも確実に1位を狙える……1位になれる相手(ペア)がいるなら、そっちを選ばない?」

 

「私よりも鈴音ちゃんの方が速いかもよ?」

 

「じゃあ普通に体育祭を楽しみたいから組んで。仲のいい子と一緒に同じ競技をやる。普通でしょ?」

 

「確かに。うん。それが理由ならいいよ」

 

 千秋ちゃんは小さく拳を握って「やった」と小さく口にしていた。かわいい。Dクラスは本当にかわいい子と奇麗な子が集まっている。そりゃあ、メイド喫茶も思いつくよね。どう考えても成功するもん。

 むしろこれだけの華をそろえて不人気だったら、この世界は女性が生きるにはつらく厳しい。

 

「愛歌、体育祭で勝つための作戦は思いついたの?」

 

「どうなんだろう。まだ何も聞いてないよ」

 

「もうそう言うの要らないから」

 

 どうやら千秋ちゃんの中では、私が実力者だと言うことを疑っていないようだ。それも現状Dクラスで一ニ(いちに)を争うレベルだと思われている。

 今まで匂わせてきたのもあるけど、そこまでなのかな? 私がやったことなんて『アイドル宣言』ぐらいだけど、千秋ちゃんはそれ以前から私のことを疑っている。それよりも前にやったことと言われても特に思い付かない。当然匂わせたこともない。

 気になった私はこの機会に確認してみることにした。

 

「どうしてそんなに私を実力者だと思うの?」

 

「1週間もしないで学校全体に自分のことを認知させる人間が、普通なわけがないでしょ」

 

「それは私が美人だからだよ。男女共に、端正な人はすぐ認知されるよ」

 

「確かにそうかもね。いろいろ理由はあるけど決め手だったのは、1年生唯一の生徒会メンバーになったことかな。Aクラスの葛城くん、Bクラスの一之瀬さん、この2人が生徒会に入れなかったのに愛歌は入れた。あの生徒会長がただかわいいから、絶世の美女だからって生徒会には入れないと私は思ってる」

 

 一之瀬さんは改めて生徒会メンバーに認められたけど、と千秋ちゃんは付け足した。

 確かにあの堀北生徒会長がただ美人だからって私を生徒会に入れることはないだろう。むしろ南雲先輩に手籠めにされるのを心配したはずだ。

 そっか。千秋ちゃんは私が生徒会に入った時から、疑い始めていたんだ。私の中で生徒会に入ることは決定事項であり、外部との連絡手段を確立させるための手段の一部でしかなかったから、何とも思ってなかった。

 他の人の感覚で言えば、この倍率の高い高度育成高等学校に入学できたぐらいの感覚だ。この学校に受からなかった人に言われて初めて、確かに自分は凄いと知る。

 だから周りから凄いと言われる理由も納得した。確かにAクラスとBクラスの生徒がだめで、Dクラスの生徒が生徒会に入れたら凄いと思う。自分のことを客観的に見られてなかった。

 つくづく私と清にぃは真逆(・・)なんだと思った。

 

「もしこれで生徒会長が私利私欲で愛歌を生徒会に入れたんだったら幻滅するなぁ」

 

「その可能性もなきにしもあらず、かもよ?」

 

「ないない。これでも見る目はあるつもり。それに……学校の常識、歴史を塗り替えたんだよ? アイドルにまでなっちゃったんだからもうごまかせないよ。きっと平田くんだって直接的な発言を控えているだけでそう思ってる」

 

 おっしゃる通り。平田くんの場合は私だけじゃなく、清にぃまで疑ってる節があるからね。

 もう千秋ちゃんと平田くんにはごまかしが効かないと判断しよう。

 かと言ってやることは変わらないけどね。千秋ちゃんには少しずつこちらの情報を開示して、平田くんにはタイミングを見てかな。もしかしたら清にぃも平田くんを使って何かしようとしてるかも知れない。もしここで私のせいでやりたいことが出来なくなったら困る。それは避けたいよね。

 

「それで。勝つための作戦は本当にないの? 今までみたいに何か策があるんでしょ?」

 

「……って言われてもねぇ」

 

 私は実際に今までクラスのために何もして来なかった。クラスのために動いているのは清にぃであり、私ではない。

 でも清にぃは今までの功績を表向きは鈴音ちゃんにして、それがうそだったと他者が知った時、本当は私の功績だったという流れにしたいのだろう。

 二重の隠し。偽りの答えの後に出てきた答えを、人は真実だと錯覚してしまう。まさに帆波ちゃんが言っていた通りだ。

 

「今回はAクラスが味方だし、任せてみようかなって」

 

「え……本気で言ってるのそれ?」

 

「うん。あくまでもDクラスは今回の体育祭を楽しむ。かな? 方針は須藤くんと平田くんに任せることにした」

 

「まって、私との約束は? 守ってくれるんだよね?」

 

「100m走の時のこと? あれは約束じゃないよ。言ったよね? 私を信じるかは千秋ちゃんの自由って」

 

「は? なにそれ。それずるくない? 私1人にだけ真剣にやらせといて」

 

「ずるくないずるくない。勝手に千秋ちゃんの中で私が何もしないって決め付けてるだけだよ。まだ体育祭は始まってないでしょ? なら、私に文句を言うなら体育祭が終わってからにしてほしいんだけど」

 

 無言の間が続く。千秋ちゃんは真意を確かめようと私を観察する。当然それになんの反応も示さない。

 ただ私は今まで通り自然体に、クラスのみんなを眺めるだけだ。

 

「私は……愛歌を信じるよ」

 

「ありがとう。何度も言うけど千秋ちゃんの自由だから」

 

「分かったって。何度も訪ねてくるのも悪いから確認だけど、愛歌は今のところ体育祭で特に何か手を打つつもりはない、ってことでいいんだよね?」

 

「うん。その認識であってる」

 

「分かった。もう何も聞かないよ。その代わり、気が変わったりしたら教えてよね」

 

 私はそれに(うなず)いた。

 千秋ちゃんとの会話している最中に、清にぃが私の方を見ていた。こっちに来いって意味なのかな。

 ちょうど千秋ちゃんとの会話も終わりいつものグループに帰って行ったため、私は清にぃの下へ行く。

 私が清にぃのことを好きなのはクラス内では周知の事実であり、兄妹なら2人でいることも不思議ではないので、普通に堂々と隣に並ぶ。

 

「松下と何を話してたんだ?」

 

「体育祭について。勝ちたいんだって」

 

「そうか。それでなんて答えたんだ?」

 

「頑張って勝とうね! って返したよ」

 

「愛歌も勝ちたいんじゃないのか?」

 

「どうだろ。正直、楽しければなんでもいいかな。鈴音ちゃんが成長するところは見てて楽しいから、今のところ鈴音ちゃん次第って感じ」

 

 清にぃは「そうか」と(うなず)く。

 無人島の時は、無人島生活なるものをしてみたかったから、ハンモックを作ったり、魚を捕まえて来たり、そのついでにCPをどこまで伸ばせるのか挑戦して楽しんだ。個人的に充実した1週間だったなぁ。

 船上試験の時は、50万PPがほしかったから高円寺くんに奪われる前に早々に終わらした。少しでも多くのPPをためたい。

 基本的に私は楽しければ何でもいい。今のところ私の楽しみは、鈴音ちゃんが成長してDクラスを引っ張って行く姿をみること。感覚的にはゲームで好きなキャラを育成している感じに近い。

 メインが清にぃ。サブが鈴音ちゃんと言ったところだろう。

 

「その堀北が今も頑張ってるぞ」

 

 清にぃにそう言われ鈴音ちゃんの方に視線を向ける。

 鈴音ちゃんは今、小野寺さんと二人三脚の練習をしていた。

 

「ちょっと堀北さん、もう少しこっちのペースに合わせてくんない?」

 

「小野寺さんこれは嫌みとかではなく、ましてやあなたを馬鹿にした発言ではないわ。私のペースに合わせるのがそんなに難しい? タイムを落として妥協するのはできればしたくないの」

 

「馬鹿にしてる様にしか聞こえないけど……そうだよ。私の足じゃ堀北さんのペースには合わせられない。堀北さんが私に合わせないって言うなら──」

 

「──分かったわ。私が小野寺さんのペースに合わせてやってみましょう」

 

「えっ、本当に?」

 

「ええ。合わせてみて、徐々にペースを上げられるか確認すればいいわ。小野寺さん足を出して。(ひも)を結ぶから」

 

「う、うん。それでやってみよ堀北さん」

 

 あの鈴音ちゃんがまさか相手の意見を尊重するなんて。今まで鈴音ちゃんは、私や清にぃ以外の意見には耳を傾けることもなく、傾けたとしても自分の考えと相いれないものは不要だと無視して来た。

 周りに頼ることを覚えて来たとは言え、あくまでもそれは私や清にぃに対して。他人との関わりも増やして来たけど、それも自分のクラスの生徒を分析するため。

 こうしてちゃんと相手の意見を聞き汲み取り主導権を渡している。その場面を目にするのは初めてだった。

 

「……まさか本当に少しずつ学んでいるとはな」

 

「どう言う意味?」

 

「打ち上げ会をやるって言った日があっただろ。あの日、堀北がみんなの気持ちを尊重すると言ってたんだ。そんなすぐ人は変わらないと思ったが、どうやらあいつなりにずっと変わろうと努力して来たみたいだ」

 

 鈴音ちゃんの中で変わりたいという気持ち、クラスのみんなに本当の意味で歩み寄ろうという考えがあったからこその変化。いつか、Aクラス、Bクラス、Cクラスとは違うリーダー性を鈴音ちゃんは見せてくれるだろう。

 

 体育祭に向けた練習も終わり放課後になる。

 部活に行く人、遊びに行く人、寮に帰る人、教室を出て行こうとする人たちを平田くんは呼び止めた。

 

「みんな少しいいかな? 打ち上げのことで話したいんだ」

 

 クラスの打ち上げのことで話をしたい、そう言われればみんなが止まるしかない。むしろ、早く話せと急かす生徒もいるぐらいだ。

 平田くんと鈴音ちゃんが場所を変わる。詳しい内容は鈴音ちゃんから説明されるみたいだ。

 

「クラス全員で打ち上げとなると、店側も大変だと思う。だから平田くんや櫛田さんたちと相談した。キャンプエリアにBBQ施設があると分かったの。そこで今回の打ち上げは、みんなでBBQを行おうと思うのだけれど……どうかしら?」

 

「「「BBQ!! やりたい!!」」」

 

 クラスのみんなはBBQがしたいと盛り上がった。

 高度育成高等学校がまさかそんなレジャー施設まで準備してあるなんて……もうなんでもありそう。その内、夢の国とかできそうだよね。

 打ち上げの開催日は体育祭の1週間前。最高の士気で体育祭に挑もうということになった。

 

「……」

 

 クラスが盛り上がる中、佐枝先生が静かに教室から出て行こうとする。私はそれを止めた。

 

「ちょっとちょっと! 佐枝先生どこ行くの? 先生も打ち上げ一緒にしないと!」

 

「私もか? プライベートで生徒と関わるつもりはないのだが」

 

「そんな冷たいこと言わないでくださいよ。みんなで食べましょ? それとも佐枝先生は私たちとBBQするのは嫌ですか?」

 

 佐枝先生がクラスを見渡す。生徒たちも佐枝先生に一緒に打ち上げをしましょうって誘っていた。

 確かに佐枝先生はまだDクラスに冷たいかも知れない。だからと言って佐枝先生と仲良くしたくない、と考えるほど私たちは子供じゃない。

 

「……大人とは忙しいものだ。生徒とご飯を食べる時間が惜しまれるほどにな」

 

 先生の返事にクラスは少し落ち込んだ。残念だなと思った時、佐枝先生が言葉を付け足した。

 

「体育祭の1週間前だったな。時間を決めて早めに連絡しろ。空けておく」

 

「っ……! まじかよ!? 先生も参加してくれんのか!?」

 

「うぉぉぉ! やったぜ!」

 

 池くんと山内くんがとても喜んでいる。他の男子生徒ももちろん、女子生徒の中にも喜んでいる生徒は多くいた。

 

「これで安心だな」

 

「だね。清にぃ」

 

 佐枝先生を誘った理由は他にある。

 もう私たちDクラスが打ち上げすることは、他クラスにも伝わっているだろう。きっとクラスの誰かが他のクラスの生徒に話したはずだからね。

 体育祭の1週間前に龍園くんがちょっかいを出して来て、何か問題にでもされたら面倒くさい。そこで佐枝先生、教師が同伴していれば、流石の龍園くんも手を出してこないだろうと判断した。

 打ち上げの参加費は1人2000PP。施設の使用料は私が払うことにした。

 8万PPもあれば贅沢にBBQを楽しめる。

 

「清にぃ、これが青春ってやつだよ」

 

「そうだな。正直楽しみだ」

 

 ならよかった。

 BBQの開催は体育祭1週間前の午後6時に決まった。佐枝先生は当日、遅れるかも知れないけどちゃんと参加してくれると約束してくれた。

 打ち上げ会を鈴音ちゃんに提案したのはクラスのため……じゃない。清にぃに当たり前の学校生活、普通の高校生が経験することを知ってもらうため。

 ここに(私が)いる間、清にぃには沢山のことを体験させてあげたい。あの白い部屋では経験できないことを。

 

「……? 愛歌どうした?」

 

「ううん。幸せだなって」

 

 そう。私は幸せだ。

 

 

 

 

❀❀❀❀❀

 

 

 

 

「──少し寒いな」

 

 空には太陽の代わりに綺麗な月が顔を出していた。ここで見る星空も綺麗だが、あの客船で見た星空を思い出すと物足りなく感じる。

 オレは前から気になっていた映画を観に来ていた。その映画は、主人公の女子高生がある日、扉を探している青年と出会うところから始まる。

 扉は日本各地に存在しその扉が開くと災害が日本を襲う。その災害を阻止すべく女子高生と青年が扉が開くのを阻止すべく、旅に出ると言う物語だ。

 本当は愛歌も誘いたがったが、残念ながら今日は動画配信日だ。

 現在の時刻は午後8時を回ったところ。流石にもう帰っているだろう。

 特に理由は無いが愛歌の様子が気になったオレは、愛歌の部屋に足を運んだ。

 部屋のチャイムを鳴らすが反応は無い。電話をするも出ない。

 

「シャワーでも浴びてるのか……仕方ない。合鍵使うぞ」

 

 いつも愛歌と一緒に部屋に上がったり、チャイムを鳴らすと扉を開けてくれたので、合鍵を使うのはこれが初めてだ。

 鍵回し扉を開けて中に入る。電気は点いていた。部屋に入ると愛歌は床に倒れていた。どうやら寝ているみたいだ。

 

「おい愛歌、起きろ」

 

「……っ。あれ、きよにぃ?」

 

 どうやら寝ぼけているらしい。

 このまま妹が床で寝ているのは居た堪れないため、ベッドの上に運んで寝かせる。

 

「床が気持ちよかったのに」

 

「それは悪いことをしたな。おろすか?」

 

「冗談よ。それでどうしたの? 何か用事?」

 

「なんとなく訪ねただけだ。眠そうだから帰るぞ」

 

 立ち去ろうとすると裾を掴まれた。

 

「……一緒に寝たい」

 

「いいのか? 堀北に気づかれそうになっただろ」

 

「一緒に居たいの。だめ?」

 

 布団で口元を隠し寂しそうな目でオレを見つめる。気のせいか少し潤んでいる気もした。

 

「風邪を移されるのはやだな」

 

「熱はないよ」

 

「確かに熱はないな」

 

 オレは机の上に目を向けた。机の上には薬剤が置かれている。

 

「それは低用量ピルだよ。生理中落ち着くから」

 

 目を逸らした。女性のそういった物を見るのは気が引ける。興味がないとは言えば嘘になるが、妹とは言え失礼だろう。傷つくかも知れない。

 

「今更私のこと大事にするの?」

 

「今までも十分大事に扱ってきたつもりだぞ」

 

「じゃあ今日は一緒に寝てくれる?」

 

「……はぁ。部屋から着替え取って「クローゼットの中の、1番上の棚の中に清にぃの部屋着あるから」……そうか。風呂場借りるぞ」

 

「うん。下着もあるから持って行って」

 

 愛歌の言う通り、部屋着と下着が何セットか入っていた。いつから揃えていたんだ? もしかしたら入学して直ぐに揃えていた可能性もある。いつも愛歌が泊まりにオレの部屋に来ていた。愛歌の部屋で泊まるのは初めてだ。

 シャワー浴びて用意して貰った服に着替えて出ると、机の上にあった薬剤は片付けられていた。やっぱり恥ずかしかったか。

 また夜ご飯の準備もしてくれていて、今日はすき焼きのようだ。

 

「片付けはオレがしよう。鍋なら楽だからな」

 

「そう? ありがとう」

 

「配信はどうだった? 上手くいってるのか?」

 

「うん。生徒会の予算が30万ポイントを超えたよ。私の来月貰えるPPも200万超えたからかなり順調。頑張れば年内までに1000万PP貯まるかも。クリスマスイベントと今度テレビ収録もあるみたいだし」

 

「じゃあテレビで放送されるってことか? 凄いな。いつなんだ?」

 

「収録は10月中旬予定だって。体育祭終わって直ぐだよ。放送日はまだ詳しく聞いてない」

 

 二学期の中間テスト期間中の可能性もあるのか。もしかしたらもう終わったあとかも知れないが。

 ただこれは有難い。上手くいけば愛歌の邪魔(・・)が入ることなく事を運べそうだ。

 

「本当に凄いな。兄として誇らしいぞ。何かオレにできることがあったら言ってくれ」

 

「いいの?」

 

「ああ。普通、妹を労うのも兄の役目だろ」

 

「んー、じゃあトムヤムクン。至高のトムヤムクン作って」

 

「……トムヤムクンってあのトムヤムクンか?」

 

「そう。あのタイ料理のトムヤムクン」

 

 女性の間で人気のあれか。

 そう言えばコンビニに激辛トムヤムクンというカップ麺があったな。今度買ってみるか。

 

「ホワイトルームでまず出てこないじゃん? 食べてみたいんだよね。めちゃくちゃ美味しいトムヤムクン」

 

「店に行って食べるのじゃダメなのか?」

 

「ダメ。清にぃが作って。もう、得意料理はトムヤムクンです。トムヤムクンなら誰にも負けません。って言えるぐらいに」

 

 無茶苦茶だ。

 どうやら妹はオレがトムヤムクン料理の世界チャンピオンになることをご所望らしい。

 他には無いのか聞くと断られてしまった。

 仕方ない。こちらが労うと言った以上、やろうじゃないか。それにいつも愛歌に何かとして貰ってばかりだ。たまにはオレだって頑張ってみるのもいいだろう。目指すはトムヤムクンマスター。トムヤムクン王にオレはなる。

 

「あ、追加でデザートにりんごもお願いね」

 

「……まさかりんご農園から始めろと?」

 

「あはは! 普通に市販のりんごを剥いてくれればいいよ」

 

「わかった。楽しみにしててくれ」

 

 もうこの際、デザートにりんごを剥くのでは無く、アップルパイでも準備してサプライズするか。早速明日から練習を始めよう。

 

「そうだ。他クラスの偵察に行ってきた話、詳しく聞かせてよ。鈴音ちゃんと櫛田さんの3人で行ったんでしょ?」

 

「ああ、構わないぞ」

 

 オレは偵察に行った時の話を愛歌に聞かせる。

 まず堀北にオレは櫛田が船上試験の時に龍園に『優待者』の情報を流した事実を教えた。その事で堀北が櫛田を問い詰めるが、答えは得られなかった。その理由は堀北が櫛田に答えなくていいと言ったからだ。仮に答えていたとしても、櫛田は否定していただろう。

 それと堀北と櫛田、2人の仲が悪い原因はどちらかにあるのか櫛田に質問した。櫛田の返答は自分が悪い、だった。

 

「じゃあ櫛田さんは高校に来る前に鈴音ちゃんと何かあった……ってこと?」

 

「ああ。有力なのは櫛田のあの裏の顔を、堀北が忘れているだけで見たことがある、或いは知っている可能性があることだな。それか堀北の兄貴、堀北学に何かされ兄妹を恨んでいる……この2つなら櫛田の言う通り、原因は櫛田自身にある」

 

「なるほどね。でも堀北生徒会長に何もしない辺り前者かなぁ」

 

「まだ分からないな。堀北学には敵わないと判断して、代わりに堀北を恨んでいるかも知れない」

 

 どちらにしても堀北からすればいい迷惑だ。

 

「他には特になかったの?」

 

「後はサッカー部を見学している時に、南雲雅と会ったことぐらいか」

 

「なんかされた? それか言われたとか」

 

「何もなかったぞ。うちで南雲と喋ったのは櫛田だけだったからな。それも挨拶程度だ」

 

「そう。何か嫌なことされたら言ってね。首をもぎ取りに行くから」

 

 愛歌ならやりかねないな。

 その後、オレは堀北と櫛田の2人に偵察を任せたので何も知らない。これでオレが偵察に行った話はおしまいだ。

 今度は愛歌の近況報告を聞きながら食事を続けた。

 体育祭開催まで残り2週間を切っている。今回、この体育祭で堀北がどのような結末を迎えるのかはまだ分からない……だがそれが堀北にとってつらい結果であることを願う。

 そしてそれを乗り越えた時、堀北の器はDクラスのリーダーとして相応しいレベルに成長するはずだ。

 

 ──最悪の場合……タイミングを見て堀北を降ろし、愛歌をこのクラスのリーダーにする展開もありか

 

 オレは目の前で楽しそうにしている愛歌を見ながら、心の中でそう呟いた。

 





???「作ってもらう料理は──トムヤムクンです!」

清隆「任せろ。得意料理だ」
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